新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1823、2018/05/14 09:44 http://www.shinginza.com/saikaihatsu.htm

【民事、都市再開発、東京高等裁判所平成27年11月19日判決、東京地方裁判所平成27年6月26日判決】

再開発における借家権の転出補償(借家権の取得を希望しない旨の申出、91条補償)


質問:
駅前のビルに店舗を借りて喫茶店を営んでいます。このたび駅前再開発の話が持ち上がり準備組合が設立され、勉強会や説明会などの案内が来るようになりました。再開発に際して、地区外転出(退出)と、権利変換による再入居の2種類の対処法があると聞きました。地区外転出の場合は、現在の借家権を相当価額に評価して、その補償が受けられると聞きました。建て替え期間は約4年間ですので、再入居の場合は4年間仮店舗で営業して4年後に再度引っ越ししてくる必要があり、2回転居する必要があります。地区外転出の場合は1度の転居で済みますので、地区外転出も良いかなと考え始めています。退出補償金を受けることができるのであれば、新店舗の内装費用に充てることができるので良い選択かもしれないと考えました。準備組合の担当者より「借家権の取得を希望しない旨の申出」の申請用紙も貰いました。大家さんも、退去を勧めてきます。これを提出することにより、不利益を受けることはあるのでしょうか。



回答:
1、 都市再開発手続における借家権者の地区外退出は、都市再開発法71条3項による「借家権の取得を希望しない旨の申し出」によって規定されています。

2、 都市再開発法における権利変換手続では、ビル(マンション)の所有者は、新しい建物の区分所有権を取得することができますし、借家権は、従来の大家さんが取得する区分所有権の建物に関して借家権を取得することができる仕組みになっています。借家権者が、法71条3項の借家権の取得を希望しない旨の申し出を行いますと、法91条1項で、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」の補償を受けることができます。

3、 この「相当の価額」は、当該区域の借家権の流通価格相場によって「ゼロ円」となる可能性もあります。地区外退出の申し出を行ったからといって必ず借家権価格の補償を受けることができるわけではありませんので注意が必要です。

4、 他方、再入居を選択し、都市再開発法97条の損失補償を受けつつ仮店舗に移転し、4年後の再入居を目指す態度で臨んでいる場合に、大家側との任意の交渉により、借家権の合意解除により、事実上「借家権の買い取り」をしてもらうことができる場合もあります。大家側の都合もありますが弁護士に交渉を依頼しても良いでしょう。

5、都市再開発関連事例集1803番1798番1768番1756番1733番1720番1705番1702番1701番1684番1678番1649番1513番1512番1490番1455番1448番参照。


解説:

1、 都市再開発法

 都市再開発手続は、「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的」として、都市再開発法に定められた地域一帯の建て替え手続です(都市再開発法1条)。都市機能の更新を図って公共の福祉に寄与するとは、不燃化建物率の増加や、避難経路・避難場所・防災備蓄倉庫などの確保により都市の防災機能を高め、保育園、学校、高齢者施設、病院、図書館、役所など、従来不足していた公共施設を誘致することにより、市民全般の利益を図るということです。

 例えば、駅前の細分化された木造家屋などをまとめて不燃建物に建て替えることにより、駅前ロータリーを整備したり、公共駐車場を整備したり、災害時の避難経路を確保したりすることを企図して再開発が計画されますが、個別の権利者の同意や承諾を必要とするといつまで経っても整備が進まない不都合があることから、都市再開発法では、「権利変換期日による権利の一括消滅」という手続を用いることにより、ある程度強制的に、建物の建て替えを進めることができる手続です。勿論憲法では私有財産制が認められ、私的所有権は保護されていますが、同時に、駅前の土地建物には、公共的な利便性(公共の福祉)に寄与すべきという公益的な側面もあり、都市再開発法では、土地収用法の手続を援用しつつ、建て替えが進められていくことになります。

 従来、借家人の立ち退きには、民法の賃貸借の規定(民法601条)と、借地借家法の更新拒絶における正当事由の有無(借地借家法28条)が問題となってきましたが、都市再開発法87条2項の権利変換手続を用いることにより、一旦全ての権利を消滅させることができますので、個別の借家関係の存続の有無を議論することなく、手続をすすめることができます。

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)
第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。


2、 借家権の権利変換と、地区外転出

(1)権利変換

 民間の再開発手続(第一種市街地再開発事業)の場合は、地権者の3分の2の同意により市街地再開発組合が設立され、再開発の事業計画案を市区町村役所に提出し、認可を受けることにより、権利変換計画案を策定することできます。

 前記の通り(都市再開発法87条2項)、権利変換計画が認可され、権利変換期日を迎えると、施工区域内の建物に関する借家権は全て消滅することになりますが、建て替え後の建物に、新たに借家権を与えられるべきことが、権利変換計画に記載されることになります(都市再開発法73条1項12号、同13号)。借家権は、従来の大家さん(家主、貸し主)が取得する区分所有権に関して設定されることになりますが、大家さんが地区外転出を選択した場合は、再開発組合がその区分所有権を取得しますので、再開発組合が取得する区分所有権に関して借家権を取得することになります(都市再開発法77条5項)。再開発組合は、精算のために区分所有権を処分(売却)することになりますが、その場合は、借家権付きの区分所有権建物(いわゆるオーナーチェンジ物件)として売却されることになります。


都市再開発法73条1項(抜粋)
十二号 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)で、当該権利に対応して、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
十三号 前号に掲げる者に借家権が与えられることとなる施設建築物の一部

都市再開発法77条第5項 権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が同条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。

 新しい建物が竣工して、借家権者が再入居のために戻ってくる場合の借家条件については、家主と借家人の協議により(都市再開発法102条1項)、賃料や敷金など、新しい契約条件を定めることができますが、協議が整わない場合は、再開発組合の裁定を受けることができますし(都市再開発法102条2項)、この裁定にも不服がある場合は、裁定があった日から60日以内に条件変更の訴えを提起することができます(都市再開発法102条6項)。


都市再開発法第102条(借家条件の協議及び裁定)
第1項 権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により借家権が与えられるように定められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。
第2項 第百条第二項の規定による公告の日までに前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次に掲げる事項について裁定することができる。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
一  賃借りの目的
二  家賃の額、支払期日及び支払方法
三  敷金又は借家権の設定の対価を支払うべきときは、その額
(・・中略・・)
第6項 第二項の裁定に不服がある者は、その裁定があつた日から六十日以内に、訴えをもつてその変更を請求することができる。
第7項 前項の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。

(2)地区外転出

 他方、再開発区域内の建物に借家権を有する者は、再開発組合設立後に、事業計画案の認可公告から30日以内に「借家権の取得を希望しない旨の申し出」をすることにより、再開発計画から離脱することもできます(都市再開発法71条3項)。この申し出を行うと、権利変換計画に、当該借家者が取得すべき借家権が記載されないことになります(都市再開発法77条5項)。

第71条(権利変換を希望しない旨の申出等)
第3項 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第一項の期間内に施行者に対し、第八十八条第五項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。


 再開発計画から離脱をする場合でも、退去に際して生じる損失の補償は受けることができます(都市再開発法97条1項)。また、退去することにより借家権を喪失することになりますので、この対価について補償を受けることができます(都市再開発法91条1項、同73条1項17号)。

都市再開発法第91条(補償金等)
第1項 施行者は、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものに対し、その補償として、権利変換期日までに、第八十条第一項の規定により算定した相当の価額に同項に規定する三十日の期間を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額に、当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につき年六パーセントの割合により算定した利息相当額を付してこれを支払わなければならない。この場合において、その修正率は、政令で定める方法によつて算定するものとする。

都市再開発法73条1項17号 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

 この対価(価額)の算出方法は、組合設立及び事業計画の認可公告から31日目の評価期日における、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」(都市再開発法80条1項)として算出されるべきこととされています。


都市再開発法第80条(宅地等の価額の算定基準)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。


 この価額は、権利変換計画書の一部になりますので、権利変換計画の縦覧に際して「意見書」を提出することができますし(都市再開発法83条2項)、意見書が採択されなかった場合は、管轄する市区町村の収用委員会に裁決の申請をすることができます(都市再開発法85条1項)。収用委員会の裁決に不服がある場合は、裁決書の正本を受領してから3ヶ月以内に、価額変更の訴えを提起することができます(都市再開発法85条3項、土地収用法133条)。


3、 借家権の退出補償額

 都市再開発法80条1項の「相当の価額」は、私権の公共利用について、土地収用法に関する完全補償説の判例(最高裁昭和48年10月18日判決)を参照すると、「時価相当額」であると解釈することができます。つまり、「再開発の前と後で権利者の財産的価値を等しくさせるような補償」をなすべきであると解釈することができます。


最高裁昭和48年10月18日判決
『土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によつて当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復をはかることを目的とするものであるから、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要する』

 ここで問題となるのは、「借家権の時価相当額」です。事業用建物賃借権の設定時に多額の権利金を要するような不動産高騰の時代もありましたが、現在では、都心の中心地など一部の例外を除いて、賃貸の入居時に多額の権利金を要する事例は少なくなり、また、賃借権設定時に「転貸禁止」の特約が設定されることも珍しくありません。借家権の譲渡が予定されていない契約の場合、そもそも「借家権の時価」を観念し得ない(算出することができない)のではないか、問題となります。

 この点、参考判例がありますので御紹介致します。


東京地方裁判所平成27年6月26日判決

『(1)借家権の消滅と91条補償の要否について
ア施行者は,第一種市街地再開発事業の施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利を有する者で,法の規定により,権利変換期日において当該権利を失い,かつ,当該権利に対応して,施設建築敷地若しくはその共有持分,施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権が与えられないものに対し,その補償として,失われる宅地若しくは建築物又は権利の価額たる法80条1項所定の「相当の価額」に,所定の修正を加え利息相当額を付して支払わなければならない(法91条1項,80条1項,73条1項12号)。

この91条補償は,施行地区内に有していた権利に対応する権利が第一種市街地再開発事業完了後の施行地区内において与えられずにその権利を失う者に対して,当該権利の消滅の対価として支払われるべき補償であるということができる。

もっとも,法71条は,権利変換を希望しない旨の申出等について定めているところ,上記の申出の内容は,@施行地区内の宅地の所有者及びその宅地について借地権を有する者については,これらの資産の価額に相当する金銭の給付を希望することであり,施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者については,建築物の価額に相当する金銭の給付か又は建築物を他に移転するかを希望することであると規定されている(同条1項)のに対し,A施行地区内の建築物につき借家権を有する者については,単に,借家権の取得を希望しないことであると規定され,金銭の給付を希望することがその内容に含まれていない(同条3項)。

上記のとおり,同条の1項と3項とが権利変換を希望しない旨の申出等の内容を書き分けているのは,借家権は,賃貸人の承諾なく第三者へ譲渡し得ないものであり,取引慣行自体が存在しないことが一般であって,客観的な取引価格を認識することが困難であるのが通常であることに基づくものと解される。そうすると,同条3項の規定は,施行地区内の建築物につき借家権を有する者は,借家権の消滅の対価として当然に何らかの金銭の給付を受けられるものではないことを前提にしたものと解することが相当である。

以上によれば,法は,施行地区内の建築物について借家権を有する者が地区外転出の申出をした場合において,法91条1項に定める91条補償が支払われるべき対象者に形式的には当たるとしても,必ず借家権の消滅の対価として法91条に基づき金銭の給付による補償をしなければならないとの立場をとるものではないといわざるを得ない。』


東京高等裁判所 平成27年11月19日判決(上記地裁判決の控訴審判決)

『控訴人らは,本件建物部分の明渡しは不随意の明渡しであるから,本件借家権の価格の補償の要否を判断するに当たり,客観的な取引価格を問題とすること自体誤りであり,取引価格が存在しない限り借家権価額は0円であるとする原判決の法解釈は立法者意思にも反するものである旨主張する。
しかしながら,原判決は,借家権者が法87条2項により失う借家権の価額は,法80条1項において,所定の評価基準日における近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額と規定されていることから,この文言に従い,施行者が91条補償により補償すべき額は,借家権の取引価格を基礎として算定すべきものであるとしたものである。また,甲33号証(衆議院建設委員会議事録)によれば,都市再開発法案審議における政府委員の答弁内容は,権利変換を希望しない借家人については,施行者が直接借家権を評価して補償すること,その借家権の評価に当たっては,近傍同種の借家権の取引に権利金授受の慣行があるかどうかといった形によって借家権価額の存在が認められる場合には,取引価格を中心に,賃貸借契約の諸条件を考慮して評価するというものであって(取引価格等の「等」とはこれらの考慮要素を指すものと解される。),近傍同種の借家権取引に照らして借家権価額が認められない消滅借家権についてまで,他の評価方法によって補償を行うことを明らかにしたものとは認め難いから,このような借家権について91条補償をしないことが立法者意思に反するものともいえない。控訴人らの上記主張は,法91条の文言を離れて独自に解釈するものであり,採用することができない。』


 つまり、裁判所は、法71条3項の申し出(借家権の取得を希望しない旨の申し出)が、71条1項の申し出(自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望する申し出)とは格別に異なる定め方をしていることと、取引実勢価格の認定を根拠として、借家権の取得を希望しなかった旧借家権者に対する補償額をゼロ円と裁定することも法に反しないと判断していることになります。前記の完全補償説に立って考えても、借家権の実勢価格がゼロ円ということであれば、補償額がゼロ円、つまり「補償をしない」という結論になっても、「再開発の前と後で権利者の財産的価値を等しくさせるような補償」に矛盾しないことになり、違法ではないということになります。

 結局、現在の都市再開発法の条文と裁判所の判例を前提とすれば、「借家権の取得を希望しない旨の申し出」には、補償額がゼロ円となってしまうリスクが存在すると言わざるを得ません。この申し出を検討する場合には、当該借家権の設定された区域において、具体的に借家権の流通価格を見積もりすることができるかどうか、慎重な検討が必要になります。弁護士として、この申し出を行うことに意見を求められた場合は、「一般論として、お勧めすることができない」という回答になってしまいます。


4、事実上の買い取り

このように、再開発手続における「借家権の取得を希望しない旨の申し出」を選択しても、借家権価格がゼロと評価されてしまい、補償が受けられないリスクがありますが、それでも、補償を受けて地区外転出をする方法が全く無いというわけではありません。

それは、再開発に際して借家権者として再入居の選択をし、都市再開発法97条の損失補償を受けつつ仮店舗に移転し、4年後の再入居を目指す態度で臨んでいる場合に、大家側との任意の交渉により、借家権の合意解除により、解決金・立ち退き料を受領し、事実上「借家権の買い取り」をしてもらうという方法です。賃貸借契約に譲渡禁止特約がついていても、唯一、大家さんに賃借権を返却することは当然に可能なことですから、この賃借権(賃貸物件)の返却時に和解金を受領することも可能になります。

あなた(賃借人)にとって、再入居を選択した以上、予定通り4年後に再入居すれば良いのであり、権利を売却(賃借権を合意解除して物件を返却)する必要もありませんし、大家側にとっても、借家権の買い取りをする義務もありませんが、大家に取ってみれば、新築の再開発ビルにおいて、借家人の居ない即入居可能物件を取得するか、借家権付きの物件を取得するかは、経済的に大きな違いがあることになります。一般論ですが、借家権負担のあるオーナーチェンジ物件の場合に、即入居物件よりも、数パーセントから1割程度、譲渡価格が下落してしまう可能性があります。物件の買い主から見れば、オーナーチェンジ物件は、自己使用できませんし、事前に内見することができない不安要素がある物件となってしまうからです。

特に、大家さんが、再開発ビルの竣工に際して当該権利の売却を企図している場合は、賃借権負担のない即入居可能物件として売却したい希望が高まることになります。賃貸借物件の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば、登記簿の乙区に抵当権などの担保権が設定されている場合もあり、貸主の経済状況を知る一助となる場合もあります。

ご自分で判断できない場合は、借家権の売買や、都市再開発法に詳しい弁護士事務所に御相談なさり、弁護士を通じて賃借権買い取りの打診をしてみることも検討なさってください。


※参照条文

日本国憲法
第11条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第29条
第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

都市再開発法

第1条(目的)この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

第71条(権利変換を希望しない旨の申出等)
第1項  個人施行者若しくは再開発会社の施行の認可の公告、第十九条第一項の規定による公告若しくは事業計画の決定若しくは認可の公告(第六項において「施行認可の公告等」という。)又は前条第六項の規定による公告があつたときは、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について所有権若しくは借地権を有する者又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、第八十七条又は第八十八条第一項及び第二項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨を申し出ることができる。
第2項 前項の宅地、借地権若しくは建築物について仮登記上の権利、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記があるとき、又は同項の未登記の借地権の存否若しくは帰属について争いがあるときは、それらの権利者又は争いの相手方の同意を得なければ、同項の規定による金銭の給付の希望を申し出ることができない。
第3項 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)は、第一項の期間内に施行者に対し、第八十八条第五項の規定による借家権の取得を希望しない旨を申し出ることができる。
第4項 第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後三十日以内に、第一項若しくは前項の規定による申出を撤回し、又は新たに第一項若しくは前項の規定による申出をすることができる。その三十日の期間経過後更に六月を経過しても第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始がされないときも、同様とする。
第5項 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては、前項前段中「第一項の期間経過後六月以内に第八十三条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(個人施行者が施行する第一種市街地再開発事業にあつては、次条第一項後段の規定による権利変換計画の認可。以下この項において同じ。)がされないときは、当該六月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。
第6項 前条第三項の規定による決定があつた場合においては、同条第六項の規定による公告があつた日から起算して三十日以内に、施行認可の公告等があつた場合又は新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告若しくはその変更の認可の公告があつた場合において行つた第一項又は第三項の規定による申出を撤回することができる。
第7項 第一項又は第三項から前項までの規定による申出又は申出の撤回は、国土交通省令で定めるところにより、書面でしなければならない。
第8項 前条第八項の規定は、第一項又は第三項の規定による申出について準用する。
第80条(宅地等の価額の算定基準)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
第2項 第七十六条第三項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。


第73条(権利変換計画の内容)
第1項 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  配置設計
二  施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
三  前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
四  第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額
五  第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
六  前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利
七  指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所
八  前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額
九  第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額
十  第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
十一  前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利
十二  施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)で、当該権利に対応して、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
十三  前号に掲げる者に借家権が与えられることとなる施設建築物の一部
十四  施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要
十五  施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要
十六  第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
十七  施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額
十八  組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所
十九  第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所
二十  第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法
二十一  新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項
二十二  権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期
二十三  その他国土交通省令で定める事項
第2項 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一  担保権等の登記に係る権利の消滅について関係権利者の全ての同意があつたとき。
二  宅地と建築物又は借地権と建築物とが同一の担保権等の登記に係る権利の目的となつており、かつ、それらの全ての権利の順位が、宅地と建築物又は借地権と建築物とにおいてそれぞれ同一であるとき。
第3項 借地権の設定に係る仮登記上の権利(指定宅地に係るものを除く。)があるときは、仮登記権利者が当該借地権を有する場合を除き、宅地の所有者が当該借地権を別個の権利者として有するものとみなして、権利変換計画を定めなければならない。
第4項 宅地又は建築物(指定宅地に存するものを除く。)に関する権利に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。ただし、借地権以外の宅地(指定宅地を除く。)を使用し、又は収益する権利の存否が確定しない場合にあつては、その宅地の所有者に対しては、当該権利が存しないものとして、その者に与える施設建築物の一部等を定めなければならない。

第74条(権利変換計画の決定の基準)
第1項 権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物、施設建築敷地及び個別利用区内の宅地の合理的利用を図るように定めなければならない。
第2項 権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。

第77条(施設建築物の一部等)
第1項 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について借地権を有する者及び施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。
第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。
第3項 宅地(指定宅地を除く。)の所有者である者に対しては、その者に与えられる施設建築敷地に第八十八条第一項の規定により地上権が設定されることによる損失の補償として施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。
第4項 権利変換計画においては、第一項又は前項の規定により与えられるように定められる施設建築物の一部等以外の部分は、施行者に帰属するように定めなければならない。
第5項 権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が同条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。


第80条(宅地等の価額の算定基準)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
第2項 第七十六条第三項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。

第85条(価額についての裁決申請等)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額について第八十三条第三項の規定により同条第二項の意見書を採択しない旨の通知を受けた者は、その通知を受けた日から起算して三十日以内に、収用委員会にその価額の裁決を申請することができる。
第2項 前項の規定による裁決の申請は、事業の進行を停止しない。
第3項 土地収用法第九十四条第三項 から第八項 まで、第百三十三条及び第百三十四条の規定は、第一項の規定による収用委員会の裁決及びその裁決に不服がある場合の訴えについて準用する。この場合において必要な技術的読替えは、政令で定める。
第4項 第一項の規定による収用委員会の裁決及び前項の規定による訴えに対する裁判は、権利変換計画において与えられることと定められた施設建築敷地の共有持分、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権には影響を及ぼさないものとする。


第88条第1項 施設建築物の敷地となるべき土地には、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、施設建築物の所有を目的とする地上権が設定されたものとみなす。ただし、権利変換期日以後第百条第二項の規定による公告の日までの間は、権利変換計画の定めるところに従い、施行者がその地代の概算額を支払うものとする。
第2項 施設建築物の一部は、権利変換計画において、これとあわせて与えられることと定められていた地上権の共有持分を有する者が取得する。
第3項 第七十三条第四項の規定により宅地(指定宅地を除く。)に借地権が存するものとして権利変換計画が定められたときは、当該借地権を有するものとされた者が取得した施設建築物の一部等は、その取得の際、その者から当該借地権の設定者とされた者に対し、当該借地権の存しないことの確定を停止条件として移転したものとみなす。
第4項 建物の区分所有等に関する法律第一条 に規定する建物の部分若しくは附属の建物で権利変換計画において施設建築物の共用部分と定められたものがあるとき、権利変換計画において定められた施設建築物の共用部分の共有持分が同法第十一条第一項 若しくは第十四条第一項 から第三項 までの規定に適合しないとき、又は権利変換計画において定められた施設建築物の所有を目的とする地上権の共有持分の割合が同法第二十二条第二項 本文(同条第三項 において準用する場合を含む。)の規定に適合しないときは、権利変換計画中その定めをした部分は、それぞれ同法第四条第二項 、第十一条第二項若しくは第十四条第四項又は第二十二条第二項ただし書(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定による規約とみなす。
第5項 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有していた者(その者が更に借家権を設定していたときは、その借家権の設定を受けた者)は、権利変換計画の定めるところに従い、施設建築物の一部について借家権を取得する。
第6項 第一項の規定による地上権の設定については、地方自治法第二百三十八条の四第一項 及び国有財産法 (昭和二十三年法律第七十三号)第十八条第一項 の規定は、適用しない。


第91条(補償金等)
第1項 施行者は、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものに対し、その補償として、権利変換期日までに、第八十条第一項の規定により算定した相当の価額に同項に規定する三十日の期間を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額に、当該権利変換計画の認可の公告の日から補償金を支払う日までの期間につき年六パーセントの割合により算定した利息相当額を付してこれを支払わなければならない。この場合において、その修正率は、政令で定める方法によつて算定するものとする。
第2項 収用委員会は、前項の規定による補償を受けるべき者に対し第八十五条第一項の規定による裁決をする場合において、その裁決で定められた価額が前項に規定する相当の価額として施行者が支払つた額を超えるときは、次に掲げる額の合計額を支払うべき旨の裁決をあわせてしなければならない。
一号 その差額につき第八十条第一項に規定する三十日を経過した日から権利変換計画の認可の公告の日までの前項に規定する物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額及び権利変換計画の認可の公告の日から権利変換期日までの間の同項に規定する利息相当額
二号 前号の額につき権利変換期日後その支払いを完了する日までの日数に応じ年十四・五パーセントの割合による過怠金
第3項 土地収用法第九十四条第十項 から第十二項 までの規定は、前項の裁決に関し、第八十五条第三項の規定による訴えの提起がなかつた場合に準用する。


第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項 の規定による補償額の裁決を申請することができる。
第5項 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。


第102条(借家条件の協議及び裁定)
第1項 権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により借家権が与えられるように定められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。
第2項 第百条第二項の規定による公告の日までに前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次に掲げる事項について裁定することができる。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
一  賃借りの目的
二  家賃の額、支払期日及び支払方法
三  敷金又は借家権の設定の対価を支払うべきときは、その額
第3項 施行者は、前項の規定による裁定をするときは、賃借りの目的については賃借部分の構造及び賃借人の職業を、家賃の額については賃貸人の受けるべき適正な利潤を、その他の事項についてはその地方における一般の慣行を考慮して定めなければならない。
第4項 第二項の規定による裁定があつたときは、裁定の定めるところにより、当事者間に協議が成立したものとみなす。
第5項 第二項の裁定に関し必要な手続に関する事項は、国土交通省令で定める。
第6項 第二項の裁定に不服がある者は、その裁定があつた日から六十日以内に、訴えをもつてその変更を請求することができる。
第7項 前項の訴えにおいては、当事者の他の一方を被告としなければならない。



土地収用法
第1条(この法律の目的) この法律は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。

第2条(土地の収用又は使用) 公共の利益となる事業の用に供するため土地を必要とする場合において、その土地を当該事業の用に供することが土地の利用上適正且つ合理的であるときは、この法律の定めるところにより、これを収用し、又は使用することができる。

第70条(損失補償の方法) 損失の補償は、金銭をもつてするものとする。但し、替地の提供その他補償の方法について、第八十二条から第八十六条までの規定により収用委員会の裁決があつた場合は、この限りでない。

第94条(前三条による損失の補償の裁決手続)
第1項 前三条の規定による損失の補償は、起業者と損失を受けた者(前条第一項に規定する工事をすることを必要とする者を含む。以下この条において同じ。)とが協議して定めなければならない。
第2項 前項の規定による協議が成立しないときは、起業者又は損失を受けた者は、収用委員会の裁決を申請することができる。
第3項  前項の規定による裁決を申請しようとする者は、国土交通省令で定める様式に従い、左に掲げる事項を記載した裁決申請書を収用委員会に提出しなければならない。
一号 裁決申請者の氏名及び住所
二号 相手方の氏名及び住所
三号 事業の種類
四号 損失の事実
五号 損失の補償の見積及びその内訳
六号 協議の経過
第4項 第十九条の規定は、前項の規定による裁決申請書の欠陥の補正について準用する。この場合において、「前条」とあるのは「第九十四条第三項」と、「事業認定申請書」とあるのは「裁決申請書」と、「国土交通大臣又は都道府県知事」とあるのは「収用委員会」と読み替えるものとする。
第5項 収用委員会は、第三項の規定による裁決申請書を受理したときは、前項において準用する第十九条第二項の規定により裁決申請書を却下する場合を除くの外、第三項の規定による裁決申請者及び裁決申請書に記載されている相手方にあらかじめ審理の期日及び場所を通知した上で、審理を開始しなければならない。
第6項 第五十条及び第五章第二節(第六十三条第一項を除く。)の規定は、収用委員会が前項の規定によつて審理をする場合に準用する。この場合において、第五十条、第六十一条第一項、第六十三条第二項から第五項まで、第六十四条第二項及び第六十六条第三項中「起業者、土地所有者及び関係人」とあり、及び第五十条第二項中「収用し、又は使用しようとする土地の全部又は一部について起業者と土地所有者及び関係人の全員」とあるのは「裁決申請者及びその相手方」と、同条第二項及び第三項中「第四十八条第一項各号又は前条第一項各号に掲げるすべての事項」とあるのは「損失の補償及び補償をすべき時期」と、同条第五項中「権利取得裁決又は明渡裁決」とあるのは「第九十四条第八項の規定による裁決」と、第六十三条第三項中「前二項」とあるのは「前項」と、同条第四項中「第四十条第一項の規定による裁決申請書の添付書類により、若しくは第四十三条第一項の規定による意見書により申し立てた事項又は第一項若しくは第二項」とあるのは「第九十四条第三項の規定による裁決申請書により申し立てた事項又は第二項」と、第六十五条第一項第一号中「起業者、土地所有者若しくは関係人」とあるのは「裁決申請者若しくはその相手方」と、第六十五条の二第一項、第二項及び第七項中「土地所有者又は関係人」とあるのは「裁決申請者又はその相手方(これらの者のうち起業者である者を除く。)」と読み替えるものとする。
第7項 収用委員会は、第二項の規定による裁決の申請がこの法律の規定に違反するときは、裁決をもつて申請を却下しなければならない。
第8項 収用委員会は、前項の規定によつて申請を却下する場合を除くの外、損失の補償及び補償をすべき時期について裁決しなければならない。この場合において、収用委員会は、損失の補償については、裁決申請者及びその相手方が裁決申請書又は第六項において準用する第六十三条第二項の規定による意見書若しくは第六項において準用する第六十五条第一項第一号の規定に基いて提出する意見書によつて申し立てた範囲をこえて裁決してはならない。
第9項 前項の規定による裁決に対して不服がある者は、第百三十三条第二項の規定にかかわらず、裁決書の正本の送達を受けた日から六十日以内に、損失があつた土地の所在地の裁判所に対して訴えを提起しなければならない。
第10項 前項の規定による訴えの提起がなかつたときは、第八項の規定によつてされた裁決は、強制執行に関しては、民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第二十二条第五号 に掲げる債務名義とみなす。
第11項 前項の規定による債務名義についての執行文の付与は、収用委員会の会長が行う。民事執行法第二十九条 後段の執行文及び文書の謄本の送達も、同様とする。
第12項 前項の規定による執行文付与に関する異議についての裁判は、収用委員会の所在地を管轄する地方裁判所においてする。

第133条(訴訟)
第1項  収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。
第2項 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
第3項 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。

第134条 前条第二項及び第三項の規定による訴えの提起は、事業の進行及び土地の収用又は使用を停止しない。



※参考判例

東京高等裁判所 平成27年11月19日判決
平成27年(行コ)第252号価額変更等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成26年(行ウ)第365号)

『主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2東京都収用委員会が平成26年5月29日付けでした赤坂A地区第一種市街地再開発事業に係る都市再開発法73条1項12号に定める原判決別紙物件目録記載の建物部分に関する控訴人らの借家権の価額を金0円と定める裁決を,金4773万0556円と定めると変更する。

3被控訴人は,控訴人らに対し,4773万0556円及びこれに対する平成25年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
以下,略称については原判決の例による。

1本件は,本件再開発事業の施行地区内の建築物の一部である本件建物部分に本件借家権を有していた控訴人ら(原告ら)が,本件再開発事業の施行者である被控訴人(被告)に対し,法85条3項,土地収用法133条に基づき,東京都収用委員会がした本件裁決において0円と定められた法73条1項12号の本件借家権の価額を4773万0556円と定める旨変更することを求めるとともに,91条補償として4773万0556円及びこれに対する権利変換期日の翌日である平成25年9月26日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2原審は,都市再開発法は,施行地区内の建築物について借家権を有する者が地区外転出の申出をした場合において,91条補償が支払われるべき対象者に形式的には当たるとしても,必ず借家権の消滅の対価として91条補償をしなければならないとの立場をとるものではないとした上で,法80条1項の文言に照らせば,施行者が91条補償により補償すべき額は,借家権の取引価格を基礎として算定すべきものであるところ,評価基準日現在,本件再開発事業の施行地区付近において,借家権の取引価格が成立している事実を認めるに足りる証拠はないなどとして,91条補償による本件借家権の価額は0円であると認めるのが相当であるから,本件裁決は相当であると判示して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。これに対し,控訴人らが控訴した。

3関係法令の定め,前提事実,主な争点と両当事者の主張は,4に当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1から3までに記載のとおりであるから,これを引用する。

4当審における控訴人らの主張

(1)
原判決は,本件建物部分の明渡しが不随意の明渡しである旨判示していながら,客観的な取引価格が借家権の消滅の対価であるとの考えに立っている。しかしながら,客観的な取引価格が借家権の消滅の対価であるとの考え方は,そもそも本件建物部分の明渡しが不随意の明渡しであることと矛盾するもので,失当である。不随意の明渡しにおいて客観的な取引価格を問題とすること自体が誤りであり,取引価格が存在しない限り借家権価額は0円であるとする原判決の法解釈は,立法者意思にも反するものである。

(2)
都市再開発法は,借家権者に対して,権利変換と地区外転出の申出という二つの等価的選択肢を用意しているのであるから,権利変換を希望した者に新たな借家権が与えられることとの均衡上,地区外転出の申出をした者には借家権補償がされるべきであり,97条補償がされていることをもって,借家権の経済的価値に対する補償がされているとはいえない。本件においては,本件借家権には0円を超える借家権価額が存在し,それは割合法によれば4773万0556円であるから,本件借家権の経済的な価値に対する補償として,控訴人らに対して91条補償として上記金員が支払われるべきである。

第3当裁判所の判断

1当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,原判決13頁16行目の「借家権」を「地区外転出の申出をした者の消滅する借家権」と,16頁25行目の「借家権」を「本件借家権」とそれぞれ改め,2に当審における控訴人らの主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

2当審における控訴人らの主張について
(1)
控訴人らは,本件建物部分の明渡しは不随意の明渡しであるから,本件借家権の価格の補償の要否を判断するに当たり,客観的な取引価格を問題とすること自体誤りであり,取引価格が存在しない限り借家権価額は0円であるとする原判決の法解釈は立法者意思にも反するものである旨主張する。
しかしながら,原判決は,借家権者が法87条2項により失う借家権の価額は,法80条1項において,所定の評価基準日における近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額と規定されていることから,この文言に従い,施行者が91条補償により補償すべき額は,借家権の取引価格を基礎として算定すべきものであるとしたものである。また,甲33号証(衆議院建設委員会議事録)によれば,都市再開発法案審議における政府委員の答弁内容は,権利変換を希望しない借家人については,施行者が直接借家権を評価して補償すること,その借家権の評価に当たっては,近傍同種の借家権の取引に権利金授受の慣行があるかどうかといった形によって借家権価額の存在が認められる場合には,取引価格を中心に,賃貸借契約の諸条件を考慮して評価するというものであって(取引価格等の「等」とはこれらの考慮要素を指すものと解される。),近傍同種の借家権取引に照らして借家権価額が認められない消滅借家権についてまで,他の評価方法によって補償を行うことを明らかにしたものとは認め難いから,このような借家権について91条補償をしないことが立法者意思に反するものともいえない。控訴人らの上記主張は,法91条の文言を離れて独自に解釈するものであり,採用することができない。

(2)
控訴人らは,都市再開発法が借家権者に対して,権利変換と地区外転出の申出という二つの等価的選択肢を用意しており,権利変換を希望した者には新築の施設建築物内の借家権が得られるという利益が与えられるのであるから,権利変換と同等の選択肢である地区外転出の申出をした者にも消滅する従前の借家権に対応する借家権補償がされるべきであり,そうしなければ著しい不均衡が生じる旨主張する。しかしながら,本件再開発事業において,そもそも権利変換を希望するのか,地区外転出の申出をするのかは借家権者が自由に選択することができるものである上,地区外転出の申出をした者には,97条補償として,権利変換を希望した者には支払われない家賃差額補償額や敷金の運用益損失相当額から成る借家人補償金を含む移転費用が支払われるものであるから(控訴人らには1069万5720円の借家人補償金が支払われた。),地区外転出の申出をした者の消滅する借家権価額が取引価格を有しない場合において91条補償がされないからといって,権利変換と地区外転出の申出という二つの選択肢が経済的価値において著しく均衡を欠くということはできない。したがって,控訴人らの上記主張はその前提を欠き,採用することができない。


よって,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官柴田寛之

裁判官小田靖子

裁判官矢作泰幸』



東京地方裁判所平成27年6月26日判決
平成26年(行ウ)第365号価額変更等請求事件
『主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1請求
1東京都収用委員会が平成26年5月29日付けでしたα地区第一種市街地再
開発事業に係る都市再開発法73条1項12号に定める別紙物件目録記載の建
物部分に関する原告らの借家権の価額を金0円と定める裁決を,金4773万
0556円と定めると変更する。

2被告は,原告らに対し,4773万0556円及びこれに対する平成25年
9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要

原告らは,都市再開発法(以下,単に「法」という。)に基づく第一種市街
地再開発事業であるα地区第一種市街地再開発事業(以下「本件再開発事業」
という。)の施行地区内の建築物の一部である別紙物件目録記載の建物部分に
つき,借家権(以下「本件借家権」という。)を有していたが,本件再開発事
業によって建築される施設建築物の一部についての借家権を希望しなかった。
本件再開発事業の施行者である被告は,権利変換計画において,法91条に基
づく補償に係る本件借家権の価額を0円と定めたところ(法73条1項12
号),原告らは,これを違法であるとして,法85条1項に基づき東京都収用
委員会にその価額の裁決の申請をしたが,同委員会も平成26年5月29日付
けで本件借家権の価額を0円と定める旨の裁決をした(以下「本件裁決」とい
う。)。

本件は,原告らが,本件裁決を不服として,法85条3項,土地収用法133条に基づき,被告に対し,本件借家権の価額を4773万0556円と定める旨に本件裁決を変更するよう求めるとともに,法91条1項所定の補償金として同額及びこれに対する権利変換期日の翌日である平成25年9月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,更に後者につき仮執行宣言を申し立てる事案である。

1関係法令の定め

(1)第一種市街地再開発事業と補償の種類
ア第一種市街地再開発事業は,市街地の土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため,都市計画法及び法で定めるところに従って行われる建築物及び建築敷地の整備並びに公共施設の整備に関する事業並びにこれに附帯する事業である市街地再開発事業(法2条1号)のうち,権利変換手続(法第3章第2節)の手法によりその目的を実現しようとする事業である。

イ第一種市街地再開発事業の施行者は,施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利を有する者で,法の規定により,権利変換期日において当該権利を失い,かつ,当該権利に対応して施設建築敷地若しくはその共有持分,施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものに対し,その補償を支払わなければならない(法91条1項前段。以下,この補償を「91条補償」という。)。


また,施行者は,施行地区内の土地の占有者及び当該土地にある物件を占有している者で物件に関し権利を有する者が,これらの土地若しくは物件の引渡し等により通常受ける損失を補償しなければならない(法97条1項,96条1項。以下,この補償を「97条補償」という。)。

(2)権利変換計画における借家権の取扱い
法72条1項により施行者が定めるべきものとされている権利変換計画においては,施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者に対しては,法71条3項により,施行者に対し施設建築物の一部についての借家権の取得を希望しない旨の申出をした者(以下「地区外転出の申出」という。)を除き,施設建築物の一部について,借家権が与えられるように定められなければならない(法77条5項)。

他方,地区外転出の申出をした者は,権利変換期日において借家権を失い(法87条2項),かつ,当該権利に対応する施設建築物の一部についての借家権が与えられないこととなるので,91条補償の対象となる(上記(1)イ)。そして,権利変換計画においては,91条補償を支払われるべき者について,その定める権利変換期日(法73条1項17号)において失われる借家権及びその価額を定めなければならない(同項12号)。

(3)91条補償の額
91条補償の価額は,地区外転出の申出をすべき期限を経過した日(以下「評価基準日」という。)における近傍類似の土地,近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額であり(法80条1項),91条補償として支払われるべき額は,この相当の価額に評価基準日から権利変換計画の認可の公告の日までの物価の変動に応ずる所定の修正率を乗じて得た額に,同公告の日から補償金を支払う日までの期間につき年6パーセントの割合により算定した利息相当額を付した金額とされている(法91条1項)。

(4)権利の価額についての意見及び不服の扱い
施行者である市街地再開発組合は,権利変換計画を定めようとするときは,権利変換計画を2週間公衆の縦覧に供しなければならない(法83条1項)。施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者は,縦覧期間内に,権利変換計画について施行者に意見書を提出することができ(同条2項),施行者は,この意見書の提出があったときは,その内容を審査し,その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え,これを採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない(同条3項)。91条補償の額の算定の基礎となるべき法73条1項12号の価額についてこの意見書を採択しない旨の通知を受けた者は,その通知を受けた日から起算して30日以内に,収用委員会にその価額の裁決を申請することができ,その裁決に不服がある場合の損失の補償に関する訴えは,裁決書の正本の送達を受けた日から6月以内に,これを提起した者が裁決申請者であるときは施行者を被告として,提起しなければならないが,この裁決の申請及び訴えの提起は,事業の進行を停止しない(法85条1項ないし3項,土地収用法133条2項,3項,134条,都市再開発法施行令33条)。

2前提事実

(1)当事者等
ア原告らは,A法律特許事務所の名称で法律事務所を共同経営する弁護士らであり,その事務所の用に供する建物として,平成24年ないし平成25年当時,別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物部分」という。)を共同で賃借していた(甲20,弁論の全趣旨)。

本件建物部分の属する建築物(別紙物件目録中の一棟の建物。以下「本件建築物」という。)は,本件再開発事業の施行地区内に所在していた(甲1,2)。


被告は,平成24年8月8日に東京都知事の設立の認可を受けたことにより成立した法8条1項所定の市街地再開発組合であり,東京都港区α及びβの一部の合計約2.5ヘクタールの区域を施行地区として高さ約200メートルの高層の施設建築物(以下「本件再開発ビル」という。)を建築する等の内容の第一種市街地再開発事業(本件再開発事業)の施行者である(甲7)。

(2)原告らによる地区外転出の申出
原告らは,被告に対し,平成25年4月5日,本件建物部分について,施設建築物である本件再開発ビルの一部についての借家権の取得を希望しない旨の法71条3項の規定による地区外転出の申出をした(甲11)。

(3)権利変換計画の縦覧及び認可等
被告は,本件再開発事業に係る権利変換計画(以下「本件権利変換計画」という。)を,平成25年7月10日から同月23日までの2週間公衆の縦覧に供した。本件権利変換計画には,権利変換期日を同年9月25日とすることのほか,原告らについては,同期日において本件建物部分の借家権を失い,かつ,これに対応して,本件再開発ビルの一部についての借家権を与えられず,その価額を0円とすることなどが定められた。(争いのない事実)

原告らは,その縦覧期間内である同年7月18日に,地区外転出の申出をした借家人の全員について91条補償の額として0円を除く相当の価額を記載すべき旨等を述べる法83条2項の意見書を被告に提出した(甲12)。

被告は,原告らに対し,同年8月6日,同条3項の規定に基づいて,この意見書に係る意見を採択すべきでない旨の通知をした(甲13)ため,原告らは,同月12日,法85条1項に基づき,東京都収用委員会に本件借家権の価額の裁決を申請した(甲14)が,翌9月,被告は,法72条1項により東京都知事の認可を受けて本件権利変換計画を定め(甲7),法86条1項により原告らにその通知をし,これにより,同条2項に基づき権利の変換の処分がされた(弁論の全趣旨)。

(4)本件建物部分の明渡しと97条補償
原告らの本件借家権は,法87条2項により,平成25年9月25日の権利変換期日に消滅したところ,同年10月17日,原告らと被告との間で,本件建物部分の引渡しにより原告らが通常受ける損失に対する97条補償の額を1659万8926円とする旨の法97条2項の協議が成立し,原告らは,同年末まで頃に,本件建物部分を被告に引き渡す一方,被告は,原告らに対し,同年10月23日及び同年12月6日の2回に分けて同補償額を支払った。その補償の内訳は以下のとおりである。(乙1,3,弁論の全趣旨)

ア工作物補償259万2166円
イ動産移転補償185万2800円
ウ移転雑費補償145万8240円
エ借家人補償1069万5720円(家賃差額補償額2年分及び敷金の運用益損失相当額から成るもの)

(5)収用委員会の裁決と本件訴えの提起
東京都収用委員会は,法85条3項により準用される土地収用法94条8項により,平成26年5月29日付けで,法73条1項12号に定める原告らの本件借家権の価額を0円とする旨の裁決をし(甲15。本件裁決),原告らは,同年8月4日,法85条3項により準用される土地収用法133条2項及び3項により,被告に対し,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

3主な争点と両当事者の主張

本件の主な争点は,(1)本件借家権に対する91条補償の要否とその額(争点1),(2)補償額に対し遅延損害金を付すべき起算日及び仮執行宣言の許否(争点2)であり,これらに関する当事者の主張は以下のとおりである。

(1)争点1(本件借家権に対する91条補償の要否とその額)
(原告らの主張)
ア不随意の明渡しに伴い借家権価格が発生すること

市街地再開発事業において施行者が支払うべき補償は,権利変換計画に記載され,施行地区内に権利を有する者で権利変換期日に権利を失い,かつ,当該権利に対応した権利を与えられない者に対し,権利変換期日までに支払われる91条補償と,市街地再開発事業の工事のための土地の明渡しに伴い,物件の移転料,仮住居・仮営業所のための費用,移転雑費等の関係権利者が受ける通常損失を補償し,明渡しの期限までに支払われなければならない97条補償の2種類が存在し,被告は,権利変換で借家権を失う地区外転出を希望する者に対し,両者の補償を行わなければならない。

このうち,91条補償は,客観的に借家権の取引価格が認められる場合についてのみ必要となる補償ではなく,その有無にかかわらず,不随意の明渡しに伴い当然に発生するものである。そして,原告らは,本件再開発事業が行われない限り,本件建物部分に係る賃貸借契約を継続し,その賃借権を保有しつづけることができた以上,これに伴う明渡しが原告らにとって不随意なものであることは明らかであり,借家権価格が当然に顕在化する。

また,第一種市街地再開発事業においては,法88条5項により,施行地区内の建物に借家権を有する者は,原則として,権利変換計画の定めるところに従い,施設建築物の一部について借家権を得ることになっている一方,法71条3項は,例外的に,借家権者が施行者に対して地区外転出の申出を行うことができると定めるのであり,法が,借家権者に対し,権利変換と地区外転出という2つの選択肢を用意している以上,選択肢の経済的価値は等価であるべきである。しかるに,本件借家権の価額を0円とする場合には,等価であるべき2つの選択肢の均衡を著しく欠く結論となり,借家権価格が0円であること自体,誤っている。

さらに,借家権価額を0とすることは,法1条の目的規定に掲げられた公共の福祉の名の下に個人の私有財産を収奪する行為であり,憲法29条1項及び3項に違反する。
イ本件借家権の価額の算定は割合法によるべきこと借家権価格を算定する上では,土地価格,建物価格及び借地権価格等に標準借家権割合を乗じて求める方法(以下「割合法」という。)が,市街地再開発事業において一般的に採用されている評価方法として妥当する。

その理由は,@従前財産の配分を基本的考え方とする権利変換になじむこと,A算式が単純で理解しやすく,多人数の借家人を説得しやすく処理しやすいこと,B画一的処理が要求される相続税財産評価でも借家権割合の考え方が用いられていることなどにある。そして,借家権価額の算定基準を定める法80条1項においても,相当の価額を,取引価格「等」を考慮して定めるべきものとしていて,条文上も許容されている。

この割合法によれば,本件建物部分の属する別紙物件目録中の専有部分の建物(以下「本件専有部分」という。)の借地権の価格22億3687万9000円及び本件専有部分自体の価格2億6913万8800円に,それぞれ本件専有部分の床面積3907.83平方メートルに対し本件建物部分の床面積248.10平方メートルの占める賃借割合0.06348792と,東京都における標準借家権割合30パーセントとを乗じて算出した4260万4438円及び512万6118円の合計である4773万0556円が,本件借家権の価額とされるべきである。

なお,本件借家権の価額の算定に当たっては,本件建物部分は,正面路線価,側方路線価ともに地価水準の極めて高い本件建築物内において,約45年間にもわたり継続的に,安定性高く法律事務所として営業型,店舗型として使用されてきたという個別事情が十分考慮されるべきである。

(被告の主張)
ア借家権価格の発生について
原告らが有する本件借家権について,α地区における事務所の借家権の取引慣行がなく,取引価格も発生していないことから,被告は,法91条に基づく本件借家権価額は0円と判断した。もっとも,被告は,原告らに対し,法97条補償として,原告らが通常受ける損失の補償を適正に行っており,原告らは当該補償によりほぼ経済的な負担なく代替物件に移転することが可能となっている。法91条及び法97条に基づく補償額は全体として十分に合理的である。

都市再開発法に基づく明渡しは,不随意の明渡しではない。都市再開発事業において,借家権者は,地区外転出か施設建築物への入居かのいずれかを自ら選択するものであり,後者を選択して従前とほとんど同じ場所に同様の借家権を取得することもできる。被告は,本件建築物の借家権者らに対し,本件再開発ビルに再入居することもできると案内していたが,これを申し込まずに地区外転出を決めたのはほかならぬ原告ら自身であり,法に基づく本件建物部分の明渡しは不随意の明渡しとは性質を異にする。

また,権利変換と地区外転出の2つの選択肢の経済的価値は等価であるべきであること自体は当然のことであるが,本件再開発事業が行われるα地区においては,権利変換により取得する借家権価額も0円であるため,上記2つの選択肢の経済的価値は正に等価であり,不均衡は生じていない。

イ原告ら主張の本件借家権の価額の算定方法について
市街地再開発事業の実務において,借家権の価額を割合法により求めることが一般的に採用されているとの事実は全くない。

割合法は,個別性が強く賃貸人との関係において個別的な形をとって具体的に現れる借家権価額について,契約内容等の個別性を反映しない点で合理性を欠く評価方式である。相続税の財産評価で借家権割合の考え方が用いられるのは貸家建付地の評価減の算定のみであり,借家権自体の財産評価に用いるものではない。

(2)争点2(補償額に対し遅延損害金を付すべき起算日及び仮執行宣言の許否)
(被告の主張)
本件裁決主文の価額の変更請求は,裁決後の民事訴訟によってのみ行使することができ,かつ,判決によって補償額が確定的に決まるものであるから,遅延損害金の起算日は判決確定の日の翌日であると解すべきであり,判決後に確定する補償額の仮執行宣言の申立ても許されない。

(原告らの主張)

土地収用法133条2項に基づく損失補償増額請求訴訟において,判例は,収用の時期以降の遅延損害金を請求することができるとするところ,同条を準用することを定めている法85条3項に基づく本件訴訟にもその理は当然に妥当するから,遅延損害金は権利変換期日の翌日から起算すべきであり,民事訴訟法259条1項の財産権上の請求として金銭の給付を求める部分についての仮執行宣言の申立ても,何ら不適法なものではない。


第3当裁判所の判断

1争点1(本件借家権に対する91条補償の要否とその額)について

(1)借家権の消滅と91条補償の要否について
ア施行者は,第一種市街地再開発事業の施行地区内の宅地若しくは建築物又はこれらに関する権利を有する者で,法の規定により,権利変換期日において当該権利を失い,かつ,当該権利に対応して,施設建築敷地若しくはその共有持分,施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権が与えられないものに対し,その補償として,失われる宅地若しくは建築物又は権利の価額たる法80条1項所定の「相当の価額」に,所定の修正を加え利息相当額を付して支払わなければならない(法91条1項,80条1項,73条1項12号)。

この91条補償は,施行地区内に有していた権利に対応する権利が第一種市街地再開発事業完了後の施行地区内において与えられずにその権利を失う者に対して,当該権利の消滅の対価として支払われるべき補償であるということができる。

もっとも,法71条は,権利変換を希望しない旨の申出等について定めているところ,上記の申出の内容は,@施行地区内の宅地の所有者及びその宅地について借地権を有する者については,これらの資産の価額に相当する金銭の給付を希望することであり,施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者については,建築物の価額に相当する金銭の給付か又は建築物を他に移転するかを希望することであると規定されている(同条1項)のに対し,A施行地区内の建築物につき借家権を有する者については,単に,借家権の取得を希望しないことであると規定され,金銭の給付を希望することがその内容に含まれていない(同条3項)。

上記のとおり,同条の1項と3項とが権利変換を希望しない旨の申出等の内容を書き分けているのは,借家権は,賃貸人の承諾なく第三者へ譲渡し得ないものであり,取引慣行自体が存在しないことが一般であって,客観的な取引価格を認識することが困難であるのが通常であることに基づくものと解される。そうすると,同条3項の規定は,施行地区内の建築物につき借家権を有する者は,借家権の消滅の対価として当然に何らかの金銭の給付を受けられるものではないことを前提にしたものと解することが相当である。

以上によれば,法は,施行地区内の建築物について借家権を有する者が地区外転出の申出をした場合において,法91条1項に定める91条補償が支払われるべき対象者に形式的には当たるとしても,必ず借家権の消滅の対価として法91条に基づき金銭の給付による補償をしなければならないとの立場をとるものではないといわざるを得ない。

イ他方,施行者は,施行地区内の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が,施行者から,権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるとして求められる土地の明渡しのためにする土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により通常受ける損失を補償しなければならない(法97条1項,96条1項)。

この97条補償は,権利の消滅の対価の補償ではなく,明渡しをすることに伴って通常受ける損失についての補償を行う趣旨のものであるということができ,消滅する借家権について取引価格を認識することができない場合であっても,明渡しに伴い,当該借家権が借家人に対してもたらしていた経済的な利益が損なわれるときは,これを通常損失の範囲内で補償することも含まれると解される。

ウ原告らは,法91条に基づく補償は,借家権の客観的な取引価格が認められるかどうかを問わず,不随意の明渡しに伴い当然に発生するものである旨主張する。

この点,本件建物部分の借家権を有していた原告らは,本件建物部分の属する本件建築物の所在地が本件再開発事業の施行地区とされたことにより,自ら地区外転出の申出を選択すると否とにかかわらず,その明渡しを余儀なくされ,この意味において,本件建物部分の明渡しは「不随意の明渡し」に当たることは否定できないが,上記で判示したとおり,この明渡しによる損失の補償は,97条補償により賄われることが予定されている(なお,この補償には,明渡し等に伴う移転費用に加えて,転出後の家賃差額の補償といった,従来の借家権を継続したときに享受できたであろう経済的な利益の喪失部分も含まれ得る。前提事実(4)参照。)。そうすると,建築物の明渡しがこのような意味における「不随意の明渡し」であることをもって,直ちに91条補償を受けられるべきと解さなければならないわけではない。

また,原告らは,法が,借家権者に対し,権利変換と地区外転出の申出という2つの選択肢を用意している以上,選択肢の経済的価値は等価であるべきであるが,借家権の価額を0円とする場合には,等価であるべき2つの選択肢の均衡を著しく欠く結論となる旨主張する。

しかしながら,施行地区内の建築物について借家権を有する者が権利変換を選択し,当該権利に対応して施設建築物の一部について借家権を与えられることになった場合においても,当該借家権につき,当然に,取引価格が認識できることにはならない(権利変換計画上も,当該借家権の価額は記載されない。法73条1項7号,8号。同項2号ないし4号対照。)。
したがって,原告らの上記主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。

上記アで判示したとおり,施行地区内の建築物に借家権を有する者で,権利変換期日においてこれを失い,かつ,これに対応して,施設建築物の一部についての借家権が与えられないものについて,常に借家権の消滅の対価として91条補償が必要とされているとまではいえないのであり,法は,91条補償の額を0円と算定すべき場合があり得ることを当然の前提としているものであるから,原告らの主張は採用することができない。

なお,このように解するとしても,法は,91条補償以外に97条補償を設け,不随意の明渡しに伴って生じる損失を補償することとしているから,憲法29条1項及び3項に違反するものとはいえない。

(2)91条補償をすべき額
そこで進んで,原告らが本件再開発事業により失うところとなった本件借家権につき,施行者が法91条により補償すべき額を検討する。

ア借家権者が法87条2項の規定により失う借家権の価額は,所定の評価

基準日における近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額と規定されており(法80条1項),この文言に照らせば,施行者が法91条により補償すべき額は,借家権の取引価格を基礎として算定すべきものであることは明らかである。

これに対し,原告らは,取引価格「等」との表現のうちに,割合法により算定することが許容されており,本件借家権の評価において割合法を使用することが合理的である旨主張する。

しかしながら,上記(1)アで判示したとおり,法は,権利変換の際に生じる借家権の消滅の対価として,借家権者は当然に金銭の給付を受けられるものではないとの立場をとっているところ,常に割合法を採用して標準借家権割合に相当する一定の金額を補償しなければならないと解することは,上記の立場と相容れないものとなるから,そのように解することは困難である。また,不動産鑑定評価基準においては,借家権の評価に関し,@借家権の取引慣行がある場合の借家権の鑑定評価額の評価方法と,A賃貸人から建物の明渡しの要求を受け,借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等,賃貸人との関係において個別的な形をとって具体に現れるものがある場合の借家権の鑑定評価額の評価方法とを区別して記載し,割合法については,上記@の場合に比較考量するものとされ,上記Aの場合には勘案すべきものとされていない(甲18)。これらの点を勘案すると,借家権の取引慣行があるなど取引価格が認識し得る場合においては,割合法により求めた価格を比較考量することが許容されることがあるとしても,取引価格を認識し得ない場合においては,常に割合法のみを採用して上記の対価の額を算定しなければならないと解すべき理由はなく,また,後記イのとおり借家権の取引慣行があるとはいえない本件において,割合法を適用することが合理的であるともいい難い。以上と異なる原告らの主張は採用することができない。
また,原告らは,再開発の実務において,借家権価額を割合法により求めることが一般的である旨主張し,それに沿う書証(甲18,19)を提出するが,仮に他の市街地再開発事業の実務において,借家権の取引慣行がないのに,専ら割合法により算定した額により91条補償を行っている事例があるとしても,それが故に,本件再開発事業において,本件借家権の価額を割合法によらずに算定したことが法に反することになるものではない。

さらに,原告らは,借家権の価格を評価すべき他の場面において,他の法令又は実務上,割合法に相当する考え方が採用されている例が存在することを指摘するが,各分野における立法趣旨や問題状況の違いに応じて評価方法が異なることはあり得るものであり,そうした例の存在することが以上に判示したところを左右するものではない。

イそこで,本件建物部分の近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格を検討すると,評価基準日現在,本件再開発事業の施行地区付近において,借家権の取引価格が成立している,即ち,@借家権取引の慣行があって借家権に譲渡取引対象としての財産価値があるとか,A借家権を取得する上で返還の予定されない一時金を支払わなければならないのが一般であって,当該一時金相場が実質的に借家権の取得取引における経済的価値を形成しているとかいった事実を認めるに足りる証拠はない。@について付言すると,証拠(甲3,5の各第7条)及び弁論の全趣旨によれば,原告らが本件建物部分に借家権の設定を受けた賃貸借契約においては,「乙〔賃借人〕は甲〔賃貸人〕の書面による承諾を得ないで,他に賃借権を譲渡し,もしくは転貸(共同使用,同居その他これに準ずる一切の行為を含む)をしてはならない。」旨の約定があると認められるところ,このような無断賃借権譲渡禁止の約定を伴う同種の借家権が,一定の価格をもって譲渡取引の対象とされることは,容易に想定し難いものである。

なお,原告らは,本件借家権の価額を算定するに当たっては,借家権価額が一般的に高額となるとされる個別要因(長期継続性,安定性,地価水準,営業・店舗型であることなど)があるとし,これが考慮されるべきであると主張するが,借家権の取引価格が成立しているとはいえない本件においては,それらの個別要因は,せいぜい97条補償として通常損失を算定する際の基礎事情として考慮され得るにとどまるものであって,91条補償において考慮すべき事情には当たらない。そして,実際上も,原告らは,本件再開発ビル付近において事務所を賃借することにさしたる困難はないものと考えられ,また,前提事実(4)のとおり,原告らに対しては,地域の標準賃料と従前の本件建物部分の賃料との実差額の相当期間分も97条補償として支払われていることをも勘案すると,原告らが従前有していた借家権の経済的な価値についてはそれに見合う補償がされているものということができ,これとは別に,91条補償が支払われるべき事情があるとは認め難い。

ウ以上によれば,法91条により補償されるべき借家権の価額は0円であると認めるのが相当である。

2結論

よって,本件借家権について法91条により補償されるべき額を0円とした本件裁決は相当であり,その価額についての本件裁決の変更及び本件借家権を失うことに対して91条補償の支払を求める原告らの請求は,その余の点につき判断するまでもなく理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第38部

裁判長裁判官谷口豊

裁判官平山馨

裁判官馬場潤』



法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る