新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1678、2016/04/01 10:33 https://www.shinginza.com/saikaihatsu.htm

土地区画整理事業への対応方法

質問:
駅の近くに店舗を賃借して営業しています。市役所から、「○○駅南口地区土地区画整理事業住民説明会」の案内が送られてきました。土地区画整理事業とはどういうものですか。私の借家権を守るためにどのような手段がありますか。



回答:
1、土地区画整理事業は、土地区画整理法に基づき、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業を言います。
2、土地区画整理法において、直接借家権者の保護を規定した規定はありませんが、建物の移転等に伴って損失を生じた場合の補償に関する規定はあります。また建物所有者の借地権を保護する規定と判例はあります。土地区画整理法には、施行者が強制的に建物を移転する直接施行の規定もあり、この直接施行された移転後の建物には賃借権が移行すると解釈されています。私有財産制、所有権絶対の原則(憲法29条)からは、行政による所有権等の強制的収用は基本的に認められませんが、公共の福祉に よる制限は受けることになり(憲法13条)、その場合は、所有権者等の権利損失に対し、所有権者等の実質的権利保全、公平、適正な損失補償が当然求められます。この理論は、建物賃借権者についても憲法の趣旨から当然適用されることとなります。
3、借家権者として、施行者に対して採りうる手段は、事業計画・換地計画への意見書提出と、仮換地の指定通知や換地処分の通知など処分に対する行政不服審査法に基づく不服申し立てや取消訴訟が考えられます。また、賃貸契約の貸主(建物所有者)に対しては、移転後の建物に賃借権が移行することの確認・合意を求めることが考えられます。

4、関連事例集 1649番1513番1490番1448番参照。



解説:

1、土地区画整理事業は、土地区画整理法に基づき、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業を言います。例えば、細くて不整形な道路を拡幅し整形し、交通の利便性や防火対策を向上させ、駅前ロータリーや公園や図書館や市役所などの公共施設を整備する事業です。

※参照URL、国土交通省解説ページ
http://www.mlit.go.jp/crd/city/sigaiti/shuhou/kukakuseiri/kukakuseiri01.htm

※参照URL、東京都都市整備局解説ページ
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/bosai/tk_seiri.htm

 土地区画整理法で重要な概念は、「照応の原則」です。関連する条文を引用致します。

第1条(この法律の目的)この法律は、土地区画整理事業に関し、その施行者、施行方法、費用の負担等必要な事項を規定することにより、健全な市街地の造成を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
第89条(換地)
第1項 換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。
第2項 前項の規定により換地を定める場合において、従前の宅地について所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限があるときは、その換地についてこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分を前項の規定に準じて定めなければならない。

これは、土地区画整理事業の目的が健全な市街地の造成を図ることによる公共の福祉の増進にあるのだから、移転を余儀なくされる権利者についても、従来の権利に遜色のない権利を与えるべきという考え方に基づくものです。土地収用法に関する判例で蓄積された「完全補償説(経済的に均衡すれば問題ないとされる)」よりも、更に一歩進んだ考え方と言えるものです。「照応の原則」では、経済的に均衡するだけでなく、「位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等」まで考慮・配慮することが求められています。


土地区画整理事業の流れを示します。

都市計画決定(都市計画法12条2項の市街地開発事業として土地区画整理事業が行われる場合、土地区画整理法3条4項)

事業計画決定及び認可(法4条1項、都道府県知事の認可が必要、法6条8項、事業計画においては、環境の整備改善を図り、交通の安全を確保し、災害の発生を防止し、その他健全な市街地を造成するために必要な公共施設及び宅地に関する計画が適正に定められていなければならない。)

換地計画決定及び認可(法86条1項、都道府県知事の許可が必要、法87条1項各号、換地計画において定める事項は、@換地設計、A各筆換地明細、B各筆各権利別清算金明細、C保留地その他の特別の定めをする土地の明細)

仮換地指定(法99条1項、仮換地について使用又は収益をすることができ、従前の宅地については使用又は収益することができないようになる)

建物等の移転・工事(法77条1項、施行者が建物の除却移転工事をする場合を直接施行と言い、権利者が自分で移転工事をする場合を自主移転と言います)

換地処分(法104条1項、換地は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地とみなされるものとし、換地計画において換地を定めなかつた従前の宅地について存する権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅する)

区画整理登記(法107条2項、施行者が申請または嘱託する)

精算金の徴収・交付(法110条1項、施行者は、換地処分の公告があつた場合、確定した清算金を徴収し、又は交付しなければならない。)


施行者から支払われる補償金には次のようなものがあります。主なものを説明します。

減価補償金、法109条1項=土地区画整理事業の施行により、土地区画整理事業の施行後の宅地の価額の総額が土地区画整理事業の施行前の宅地の価額の総額より減少した場合においては、その差額に相当する金額を、その公告があつた日における従前の宅地の所有者及びその宅地について地上権、永小作権、賃借権その他の宅地を使用し、又は収益することができる権利を有する者に対して、政令で定める基準に従い、減価補償金として交付しなければならない。道路など公共用地を捻出するために、換地の面積がが従前の土地よりも減少することを、減歩と言います。

損失補償金、法78条1項=施行者が建築物等を移転し、若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合又は同条第二項の照会を受けた者が自ら建築物等を移転し、若しくは除却したことによりその者が損失を受け、若しくは他人に損失を与えた場合においては、施行者は、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。


施行者に徴収される清算金には次のようなものがあります。住民が支払いを受ける補償金と徴収される清算金は、差し引き相殺されて、支払いまたは徴収されます。

清算金、法94条=換地処分に際して不均衡が生ずると認められるときは、従前の宅地及び換地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、金銭により清算するものとし、換地計画においてその額を定めなければならない。要するに、従前の土地に比べて換地の方が経済的価値が高くなる場合は、施行者は清算金を徴収することができます。


2、土地区画整理法において、直接借家権者の保護を規定した規定はありませんが、建物の移転等に伴って損失を生じた場合の補償に関する規定はあります(法78条1項)。

また建物所有者の借地権を保護する規定(法104条2項)と判例(最高裁判所昭和52年1月20日判決)はあります。

法104条2項 前条第四項の公告があつた場合においては、従前の宅地について存した所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限について、換地計画において換地について定められたこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地について存したこれらの権利又は処分の制限の目的である宅地又はその部分とみなされるものとし、換地計画において換地について目的となるべき宅地の部分を定められなかつたこれらの権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅するものとする。

最高裁判所昭和52年1月20日判決
『土地区画整理法による換地処分がされた場合、従前の土地に存在した未登記賃借権は、これについて同法八五条のいわゆる権利申告がされていないときでも、換地上に移行して存続すると解すべきである。けだし、土地区画整理事業は健全な市街地の造成を図り、公共の福祉の増進に資することを目的とし、その施行者は、右目的達成のため土地の区画整理をするのであるが、土地についての私権の設定、処分はできないのであるし、また、土地区画整理法一〇四条一、二項各前段によると、換地は従前の土地とみなされるのであつて、従前の土地についての権利は換地上に移行するというべきであるからである。なお、同法一〇四条一、二項各後段は、換地計画において権利の目的となる換地又は換地部分が定められなかつた場合には従前の土地についての権利は消滅する旨規定するが、前述の土地区画整理事業の趣旨及び換地の本質に鑑み、右の換地又は換地部分が定められなかつた場合とは、同法九〇条のいわゆる関係者の同意による換地不指定清算処分及び同法九一条三項のいわゆる過小地についての換地不指定処分の場合をいうにとどまると解するのを相当とする。』

 この判例の理論構成は、換地と従前の土地は、法的に「同じとみなされる」ので、従来の土地に借地権を有する権利者が居た場合は、同じように換地に借地権を取得すると考えるというものです。土地区画整理事業の制度趣旨を考えれば、区画内の土地上の建物の借家人についても、出来る限り保護すべきことになります。

土地区画整理法には、施行者が強制的に建物を移転する直接施行の規定(法77条1項)もあり、この直接施行された移転後の建物については従前の賃借権が移行すると解釈されています。

法77条1項 施行者は、第九十八条第一項の規定により仮換地若しくは仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定した場合、第百条第一項の規定により従前の宅地若しくはその部分について使用し、若しくは収益することを停止させた場合又は公共施設の変更若しくは廃止に関する工事を施行する場合において、従前の宅地又は公共施設の用に供する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」と総称する。)を移転し、又は除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、又は除却することができる。


参考URL、宮城県都市計画課解説ページ、借家人に対する補償
http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/tosikei/kukaku-tatemonoiten.html

参考URL、借家人が保護されている例、金沢八景駅東口地区土地区画整理事業
http://www.city.yokohama.lg.jp/toshi/hakkeikj/


3、借家権者として、地方自治体などの施行者に対して採りうる手段は、事業計画及び換地計画の縦覧に対する意見書提出と、仮換地の指定通知や換地処分の通知など処分に対する行政不服審査法に基づく不服申し立てや取消訴訟が考えられます。

※事業計画縦覧
法20条第2項 当該土地区画整理事業に関係のある土地若しくはその土地に定着する物件又は当該土地区画整理事業に関係のある水面について権利を有する者(以下「利害関係者」という。)は、前項の規定により縦覧に供された事業計画について意見がある場合においては、縦覧期間満了の日の翌日から起算して二週間を経過する日までに、都道府県知事に意見書を提出することができる。ただし、都市計画において定められた事項については、この限りでない。

※換地計画縦覧
法88条第2項 個人施行者以外の施行者は、換地計画を定めようとする場合においては、政令で定めるところにより、その換地計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならない。
第3項 利害関係者は、前項の規定により縦覧に供された換地計画について意見がある場合においては、縦覧期間内に、施行者に意見書を提出することができる。

 意見書における主な主張は、借家人の保護内容が明記されていないということや、土地区画整理法89条の「照応の原則」に違反して、事業計画または換地計画において過大な損失を被る見込みとなっているので改善して欲しい、というものです。

 行政不服審査法に基づく審査請求は、処分(仮換地の指定通知、建築物等の移転または除去の通知、換地処分通知、清算金の徴収または交付通知など)があったことを知った日から60日以内に、都道府県知事に申し立てることができます。

行政不服審査法第14条(審査請求期間)
第1項  審査請求は、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六十日以内(当該処分について異議申立てをしたときは、当該異議申立てについての決定があつたことを知つた日の翌日から起算して三十日以内)に、しなければならない。ただし、天災その他審査請求をしなかつたことについてやむをえない理由があるときは、この限りでない。

 行政事件訴訟法に基づく行政訴訟は、処分があったことを知った日から6ヶ月以内に提起することができます。

行政事件訴訟法第14条(出訴期間)
第1項 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

行政訴訟で取消判決が下されるのは、従前の宅地と指定された換地を比較して社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合に裁量を逸脱し違法と判断される場合です。区画整理する以上、多少の減歩(面積減少)や移転などは避けられないことですから、裁量を逸脱するというのは、多数の権利者のうち一部の権利者だけが格別に不利益を被っていると訴訟資料から判断できるような例外的場合に限られるといえるでしょう。これを、法89条1項所定の「位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等」の観点から、ひとつひとつ詳細に丁寧に比較検討した上で主張立証することが必要と考えられます。


最高裁判所平成元年10月3日判決
『土地区画整理事業は、健全な市街地を造成して公共の福祉の増進に資することを目的とし、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の変更及び公共施設の新設等を行うものであるが(法一条、二条一項)、施行者は、法九八条一項に基づいて仮換地を指定する場合においても、法八九条一項所定の基準を考慮してしなければならない(法九八条二項)。土地区画整理は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、仮換地の方法は多数ありうるから、具体的な仮換地指定処分を行うに当たっては、法八九条一項所定の基準の枠内において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるをえない面があることは否定し難いところである。そして、仮換地指定処分は、指定された仮換地が、土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して、法八九条一項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお、社会通念上不照応であるといわざるをえない場合においては、右裁量的判断を誤った違法のものと判断すべきである。』

最高裁判所平成25年2月19日判決
『土地区画整理事業の施行者は、法98条1項に基づいて仮換地を指定する場合において、法89条1項所定の基準を考慮してしなければならないところ(法98条2項)、土地区画整理は、施行者が一定の限られた施行地区内の宅地につき、多数の権利者の利益状況を勘案しつつそれぞれの土地を配置していくものであり、また、仮換地の方法は多数あり得るから、具体的な仮換地の指定を行うに当たっては、法89条1項所定の基準の枠内において、施行者の合目的的な見地からする裁量的判断に委ねざるを得ない面があることは否定し難いところである。そして、仮換地の指定は、指定された仮換地が、土地区画整理事業開始時における従前の宅地の状況と比較して、同項所定の照応の各要素を総合的に考慮してもなお、社会通念上不照応であるといわざるを得ない場合においては、上記裁量的判断を誤った違法のものと判断すべきである』

また、建物賃貸借契約の貸主(建物所有者)に対しては、移転後の建物に賃借権が移行することの確認・合意を求めることが考えられます。建物の移転工事について、法77条1項では、直接施行が原則で自主移転が例外のような定め方となっていますが、実際の土地区画整理事業では、土地所有者の意思を尊重して、ほとんどのケースで自主移転が行われています。建物所有者としても、自分が建設業者に発注して思い通りの建物を再建築したいと考えるのが自然な態度と言えます。自主移転がなされた場合に、借家権が換地上の建物に移行するかどうかについては、法令の明確な規定がありませんから、賃貸人と賃借人の間の協議が重要となってきます。

建物賃貸借契約(民法601条、借地借家法31条1項)は、当事者が特定の建物の賃貸を契約したものですから、土地区画整理事業により建物が強制的に移転(建て替え)した場合は、土地区画整理法104条1項の「みなし規定」を勘案して、従前の土地と換地が法的に同じものであるとみなされ、土地上の借地権も同様に移行するとされているのだから、借地権と不可分の建物についても、当事者にとって法的に同じものであると考え、建物賃貸借契約の当事者間においては、従前土地上の建物に関する契約が、換地上の建物に移行すると解釈(契約条項について当事者の合理的意思解釈)することは十分可能だと思われます。ただ、土地区画整理事業に伴い借家権の移行について裁判で争ったケースは多くないようで、借家権の移行について正面から判断した上級審判例は見あたりません。ケースバイケースで具体的案件において個別交渉することが必要になってきます。借家人にとって有利な事情は、借家人が任意に占有を明け渡さなければ、自主移転(法77条2項)は事実上困難と考えられることです。直接施行(施行者による強制移転)を回避したいのであれば、借家権の移行についての協議に応じるように、賃借人から賃貸人に要求することが考えられます。協議の成果は、調停調書や公正証書など法的効力のある文書として残すことが望ましいでしょう。

ご心配であれば、お近くの法律事務所にご相談なさり、施行者や賃貸人との交渉を代理して貰うと良いでしょう。


<参照条文>
土地区画整理法
第77条(建築物等の移転及び除却)
第1項 施行者は、第九十八条第一項の規定により仮換地若しくは仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定した場合、第百条第一項の規定により従前の宅地若しくはその部分について使用し、若しくは収益することを停止させた場合又は公共施設の変更若しくは廃止に関する工事を施行する場合において、従前の宅地又は公共施設の用に供する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下これらをこの条及び次条において「建築物等」と総称する。)を移転し、又は除却することが必要となつたときは、これらの建築物等を移転し、又は除却することができる。
第2項 施行者は、前項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする場合においては、相当の期限を定め、その期限後においてはこれを移転し、又は除却する旨をその建築物等の所有者及び占有者に対し通知するとともに、その期限までに自ら移転し、又は除却する意思の有無をその所有者に対し照会しなければならない。
第3項 前項の場合において、住居の用に供している建築物については、同項の相当の期限は、三月を下つてはならない。ただし、建築物の一部について政令で定める軽微な移転若しくは除却をする場合又は前条第一項の規定に違反し、若しくは同条第三項の規定により付された条件に違反して建築されている建築物で既に同条第四項若しくは第五項の規定により移転若しくは除却が命ぜられ、若しくはその旨が公告されたものを移転し、若しくは除却する場合については、この限りでない。
第4項 第一項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする場合において、施行者は、過失がなくて建築物等の所有者を確知することができないときは、これに対し第二項の通知及び照会をしないで、過失がなくて占有者を確知することができないときは、これに対し同項の通知をしないで、移転し、又は除却することができる。この場合においては、相当の期限を定め、その期限後においてはこれを移転し、又は除却する旨の公告をしなければならない。
第5項 前項後段の公告は、官報その他政令で定める定期刊行物に掲載して行うほか、その公告すべき内容を政令で定めるところにより当該土地区画整理事業の施行地区内の適当な場所に掲示して行わなければならない。この場合において、施行者は、公告すべき内容を当該土地区画整理事業の施行地区を管轄する市町村長に通知し、当該市町村長は、当該掲示がされている旨の公告をしなければならない。
第6項 第三項の規定は、第四項後段の規定により公告をする場合における期限について準用する。
第7項 施行者は、第二項の規定により建築物等の所有者に通知した期限後又は第四項後段の規定により公告された期限後においては、いつでも自ら建築物等を移転し、若しくは除却し、又はその命じた者若しくは委任した者に建築物等を移転させ、若しくは除却させることができる。この場合において、個人施行者、組合又は区画整理会社は、建築物等を移転し、又は除却しようとするときは、あらかじめ、建築物等の所在する土地の属する区域を管轄する市町村長の認可を受けなければならない。
第8項 前項の規定により建築物等を移転し、又は除却する場合においては、その建築物等の所有者及び占有者は、施行者の許可を得た場合を除き、その移転又は除却の開始から完了に至るまでの間は、その建築物等を使用することができない。
第9項 第七項の規定により建築物等を移転し、又は除却しようとする者は、その身分を示す証票又は市町村長の認可証を携帯し、関係人の請求があつた場合においては、これを提示しなければならない。

第78条(移転等に伴う損失補償)
第1項 前条第一項の規定により施行者が建築物等を移転し、若しくは除却したことにより他人に損失を与えた場合又は同条第二項の照会を受けた者が自ら建築物等を移転し、若しくは除却したことによりその者が損失を受け、若しくは他人に損失を与えた場合においては、施行者(施行者が国土交通大臣である場合においては国。次項、第百一条第一項から第三項まで及び第百四条第十一項において同じ。)は、その損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。
第2項 前条第一項の規定により施行者が移転し、若しくは除却した建築物等又は同条第二項の照会を受けた者が自ら移転し、若しくは除却した建築物等が、第七十六条第四項若しくは第五項、都市計画法第八十一条第一項 若しくは第二項 又は建築基準法 (昭和二十五年法律第二百一号)第九条 の規定により移転又は除却を命ぜられているものである場合においては、施行者は、前項の規定にかかわらず、これらの建築物等の所有者に対しては、移転又は除却により生じた損失を補償することを要しないものとし、前条第一項の規定によりこれらの建築物等を移転し、又は除却した場合におけるその移転又は除却に要した費用は、これらの建築物等の所有者から徴収することができるものとする。
第3項 第七十三条第二項から第四項までの規定は、第一項の規定による損失の補償について準用する。この場合において、同条第四項中「国土交通大臣、都道府県知事、市町村長若しくは機構理事長等又は前条第一項後段に掲げる者」とあるのは「施行者」と、「同項又は同条第六項」とあるのは「第七十七条第一項」と読み替えるものとする。
第4項 行政代執行法 (昭和二十三年法律第四十三号)第五条 及び第六条 の規定は施行者(個人施行者、組合及び区画整理会社を除く。)が第二項 の規定により費用を徴収する場合について、第四十一条の規定は組合又は区画整理会社が同項 の規定により徴収する徴収金を滞納する者がある場合について準用する。この場合において、同条第一項から第三項までの規定中「組合」とあるのは「組合又は区画整理会社」と、同条第二項中「定款」とあるのは「定款又は規準」と、同条第四項中「組合の理事」とあるのは「組合の理事又は区画整理会社の代表者」と読み替えるものとする。
第5項 施行者は、前条第一項の規定により除却した建築物等に対する補償金を支払う場合において、その建築物等について先取特権、質権又は抵当権があるときは、その補償金を供託しなければならない。ただし、先取特権、質権又は抵当権を有する債権者から供託をしなくてもよい旨の申出があつた場合においては、この限りでない。
第6項 前項に規定する先取特権、質権又は抵当権を有する債権者は、同項の規定により供託された補償金についてその権利を行うことができる。

第89条(換地)
第1項 換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない。
第2項 前項の規定により換地を定める場合において、従前の宅地について所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限があるときは、その換地についてこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分を前項の規定に準じて定めなければならない。

第94条(清算金)換地又は換地について権利(処分の制限を含み、所有権及び地役権を含まない。以下この条において同じ。)の目的となるべき宅地若しくはその部分を定め、又は定めない場合において、不均衡が生ずると認められるときは、従前の宅地又はその宅地について存する権利の目的である宅地若しくはその部分及び換地若しくは換地について定める権利の目的となるべき宅地若しくはその部分又は第八十九条の四若しくは第九十一条第三項の規定により共有となるべきものとして定める土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を総合的に考慮して、金銭により清算するものとし、換地計画においてその額を定めなければならない。この場合において、前条第一項、第二項、第四項又は第五項の規定により建築物の一部及びその建築物の存する土地の共有持分を与えるように定める宅地又は借地権については、当該建築物の一部及びその建築物の存する土地の位置、面積、利用状況、環境等をも考慮しなければならないものとする。

第98条(仮換地の指定)
第1項 施行者は、換地処分を行う前において、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合又は換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができる。この場合において、従前の宅地について地上権、永小作権、賃借権その他の宅地を使用し、又は収益することができる権利を有する者があるときは、その仮換地について仮にそれらの権利の目的となるべき宅地又はその部分を指定しなければならない。
第2項 施行者は、前項の規定により仮換地を指定し、又は仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定する場合においては、換地計画において定められた事項又はこの法律に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない。
第3項 第一項の規定により仮換地を指定し、又は仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定しようとする場合においては、あらかじめ、その指定について、個人施行者は、従前の宅地の所有者及びその宅地についての同項後段に規定する権利をもつて施行者に対抗することができる者並びに仮換地となるべき宅地の所有者及びその宅地についての同項後段に規定する権利をもつて施行者に対抗することができる者の同意を得なければならず、組合は、総会若しくはその部会又は総代会の同意を得なければならないものとし、第三条第四項若しくは第五項、第三条の二又は第三条の三の規定による施行者は、土地区画整理審議会の意見を聴かなければならないものとする。
第4項 区画整理会社は、第一項の規定により仮換地を指定し、又は仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を指定しようとする場合においては、あらかじめ、その指定について、施行地区内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者が有する借地権の目的となつているその区域内の宅地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地権の目的となつている宅地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。
第5項 第一項の規定による仮換地の指定は、その仮換地となるべき土地の所有者及び従前の宅地の所有者に対し、仮換地の位置及び地積並びに仮換地の指定の効力発生の日を通知してするものとする。
第6項 前項の規定により通知をする場合において、仮換地となるべき土地について地上権、永小作権、賃借権その他の土地を使用し、又は収益することができる権利を有する者があるときは、これらの者に仮換地の位置及び地積並びに仮換地の指定の効力発生の日を、従前の宅地についてこれらの権利を有する者があるときは、これらの者にその宅地に対する仮換地となるべき土地について定められる仮にこれらの権利の目的となるべき宅地又はその部分及び仮換地の指定の効力発生の日を通知しなければならない。
第7項 第一項の規定による仮換地の指定又は仮換地について仮に権利の目的となるべき宅地若しくはその部分の指定については、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章 の規定は、適用しない。

第99条(仮換地の指定の効果)
第1項 前条第一項の規定により仮換地が指定された場合においては、従前の宅地について権原に基づき使用し、又は収益することができる者は、仮換地の指定の効力発生の日から第百三条第四項の公告がある日まで、仮換地又は仮換地について仮に使用し、若しくは収益することができる権利の目的となるべき宅地若しくはその部分について、従前の宅地について有する権利の内容である使用又は収益と同じ使用又は収益をすることができるものとし、従前の宅地については、使用し、又は収益することができないものとする。
第2項 施行者は、前条第一項の規定により仮換地を指定した場合において、その仮換地に使用又は収益の障害となる物件が存するときその他特別の事情があるときは、その仮換地について使用又は収益を開始することができる日を同条第五項に規定する日と別に定めることができる。この場合においては、同項及び同条第六項の規定による通知に併せてその旨を通知しなければならない。
第3項 前二項の場合においては、仮換地について権原に基づき使用し、又は収益することができる者は、前条第五項に規定する日(前項前段の規定によりその仮換地について使用又は収益を開始することができる日を別に定めた場合においては、その日)から第百三条第四項の公告がある日まで、当該仮換地を使用し、又は収益することができない。
第100条 (使用収益の停止)
第1項 施行者は、換地処分を行う前において、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合又は換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合においては、換地計画において換地を定めないこととされる宅地の所有者又は換地について権利の目的となるべき宅地若しくはその部分を定めないこととされる権利を有する者に対して、期日を定めて、その期日からその宅地又はその部分について使用し、又は収益することを停止させることができる。この場合においては、その期日の相当期間前に、その旨をこれらの者に通知しなければならない。
第2項 前項の規定により宅地又はその部分について使用し、又は収益することが停止された場合においては、当該宅地又はその部分について権原に基き使用し、又は収益することができる者は、同項の期日から第百三条第四項の公告がある日まで、当該宅地又はその部分について使用し、又は収益することができない。
第3項 第一項の規定による宅地又はその部分についての使用又は収益の停止については、行政手続法第三章 の規定は、適用しない。

第103条(換地処分)
第1項 換地処分は、関係権利者に換地計画において定められた関係事項を通知してするものとする。
第2項 換地処分は、換地計画に係る区域の全部について土地区画整理事業の工事が完了した後において、遅滞なく、しなければならない。ただし、規準、規約、定款又は施行規程に別段の定めがある場合においては、換地計画に係る区域の全部について工事が完了する以前においても換地処分をすることができる。
第3項 個人施行者、組合、区画整理会社、市町村又は機構等は、換地処分をした場合においては、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。
第4項 国土交通大臣は、換地処分をした場合においては、その旨を公告しなければならない。都道府県知事は、都道府県が換地処分をした場合又は前項の届出があつた場合においては、換地処分があつた旨を公告しなければならない。
第5項 換地処分の結果、市町村の区域内の町又は字の区域又は名称について変更又は廃止をすることが必要となる場合においては、前項の公告に係る換地処分の効果及びこれらの変更又は廃止の効力が同時に発生するように、その公告をしなければならない。
第6項 換地処分については、行政手続法第三章 の規定は、適用しない。

第104条(換地処分の効果)
第1項 前条第四項の公告があつた場合においては、換地計画において定められた換地は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地とみなされるものとし、換地計画において換地を定めなかつた従前の宅地について存する権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅するものとする。
第2項 前条第四項の公告があつた場合においては、従前の宅地について存した所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限について、換地計画において換地について定められたこれらの権利又は処分の制限の目的となるべき宅地又はその部分は、その公告があつた日の翌日から従前の宅地について存したこれらの権利又は処分の制限の目的である宅地又はその部分とみなされるものとし、換地計画において換地について目的となるべき宅地の部分を定められなかつたこれらの権利は、その公告があつた日が終了した時において消滅するものとする。
第3項 前二項の規定は、行政上又は裁判上の処分で従前の宅地に専属するものに影響を及ぼさない。
第4項 施行地区内の宅地について存する地役権は、第一項の規定にかかわらず、前条第四項の公告があつた日の翌日以後においても、なお従前の宅地の上に存する。
第5項 土地区画整理事業の施行に因り行使する利益がなくなつた地役権は、前条第四項の公告があつた日が終了した時において消滅する。
第6項 第八十九条の四又は第九十一条第三項の規定により換地計画において土地の共有持分を与えられるように定められた宅地を有する者は、前条第四項の公告があつた日の翌日において、換地計画において定められたところにより、その土地の共有持分を取得するものとする。この場合において、従前の宅地について存した先取特権、質権若しくは抵当権又は仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記若しくは処分の制限の登記に係る権利は、同項の公告があつた日の翌日以後においては、その土地の共有持分の上に存するものとする。
第7項 第九十三条第一項、第二項、第四項又は第五項の規定により換地計画において建築物の一部及びその建築物の存する土地の共有持分を与えられるように定められた宅地又は借地権を有する者は、前条第四項の公告があつた日の翌日において、換地計画において定められたところにより、その建築物の一部及びその建築物の存する土地の共有持分を取得するものとする。前項後段の規定は、この場合について準用する。
第8項 第九十四条の規定により換地計画において定められた清算金は、前条第四項の公告があつた日の翌日において確定する。
第9項 第九十五条第二項又は第三項の規定により換地計画において定められた換地は、前条第四項の公告があつた日の翌日において、当該換地の所有者となるべきものとして換地計画において定められた者が取得する。
第10項 第九十五条の二の規定により換地計画において参加組合員に対して与えるべきものとして定められた宅地は、前条第四項の公告があつた日の翌日において、当該宅地の所有者となるべきものとして換地計画において定められた参加組合員が取得する。
第11項 第九十六条第一項又は第二項の規定により換地計画において定められた保留地は、前条第四項の公告があつた日の翌日において、施行者が取得する。

第110条(清算金の徴収及び交付)
第1項 施行者は、第百三条第四項の公告があつた場合においては、第百四条第八項の規定により確定した清算金を徴収し、又は交付しなければならない。この場合において、確定した清算金の額と第百二条第一項の規定により徴収し、又は交付した仮清算金の額との間に差額があるときは、施行者は、その差額に相当する金額を徴収し、又は交付しなければならない。
第2項 前項の規定により徴収し、又は交付すべき清算金は、政令で定めるところにより、利子を付して、分割徴収し、又は分割交付することができる。
第3項 第三条第二項から第五項まで、第三条の二又は第三条の三の規定による施行者は、第一項の規定により徴収すべき清算金(前項の規定により利子を付した場合においては、その利子を含む。以下同じ。)を滞納する者がある場合においては、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。
第4項 前項の督促をする場合においては、第三条第二項の規定による施行者は定款で定めるところにより、同条第三項の規定による施行者は規準で定めるところにより、同条第四項若しくは第五項、第三条の二又は第三条の三の規定による施行者は施行規程で定めるところにより、督促状の送付に要する費用を勘案して国土交通省令で定める額以下の督促手数料及び年十・七五パーセントの割合を乗じて計算した額の範囲内の延滞金を徴収することができる。
第5項 第三項の規定による督促を受けた者がその督促状において指定した期限までにその納付すべき金額を納付しない場合においては、第三条第四項若しくは第五項、第三条の二又は第三条の三の規定による施行者は、国税滞納処分の例により、第三項に規定する清算金並びに前項に規定する督促手数料及び延滞金を徴収することができる。この場合における清算金並びに督促手数料及び延滞金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
第6項 督促手数料及び延滞金は、清算金に先立つものとする。
第7項 第四十一条第一項及び第三項から第五項までの規定は、第三条第二項又は第三項の規定による施行者の徴収に係る第三項に規定する清算金並びに第四項に規定する督促手数料及び延滞金を督促状において指定した期限までに納付しない者がある場合について準用する。この場合において、第四十一条第一項及び第三項中「組合」とあるのは「組合又は区画整理会社」と、同条第四項中「組合の理事」とあるのは「組合の理事又は区画整理会社の代表者」と読み替えるものとする。
第8項 第四十二条の規定は、第三条第二項から第五項まで、第三条の二又は第三条の三の規定による施行者が第三項に規定する清算金並びに第四項に規定する督促手数料及び延滞金を徴収する権利について準用する。この場合において、第四十二条第二項中「前条第一項」とあるのは、「第百十条第三項」と読み替えるものとする。

第111条(清算金等の相殺)
第1項 施行者は、施行地区内の宅地又は宅地について存する権利について清算金又は減価補償金を交付すべき場合において、その交付を受けるべき者から徴収すべき清算金があるときは、その者から徴収すべき清算金とその者に交付すべき清算金又は減価補償金とを相殺することができる。
第2項 施行者は、減価補償金が次条第一項の規定により供託する必要があるものである場合においては、その減価補償金は、前項の規定にかかわらず、その減価補償金に係る宅地又はその宅地について存する権利について徴収すべき清算金とのみ相殺することができる。


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