再開発における借家人の権利と補償
立退き・再入居・定期借家への切替えでお困りの方へ
法令・資料確認日:2026年9月18日(令和8年9月18日)
「再開発するので退去してほしい」「定期借家だから補償はない」と言われても、契約書の表題や担当者の説明だけで結論は決まりません。現在の借家権、事業の種類と進行段階、契約の終了時期を確認すると、再開発後の建物への再入居や適正な補償を求められる場合があります。
- 第一種市街地再開発事業では、借家権を新しい建物の借家権に移す仕組みが整備されています。借家権者も再入居が原則です。
- 「定期建物賃貸借契約書」があっても、普通借家からの切替えや事前説明に問題があれば、普通借家としての保護を主張できる可能性があります。
- 有効な定期借家でも、一律に権利変換(再入居)の対象外とは限りません。評価基準日に存在した借家権の取扱いについて、権利変換を求める法的主張を検討できる場合があります。
- 「借家権消滅希望申出書」の提出を求められても、署名前に、再入居を希望するか、転出して金銭補償を求めるか、その法的効果と期限を確認してください。
1.再入居と補償の基本
Q1 再開発と言われたら、直ちに退去する必要がありますか。
再開発の構想や都市計画があるだけで、今の賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。まず、普通の建替え・任意の立退き交渉なのか、都市再開発法に基づく事業なのかを確認します。普通借家の更新拒絶・解約申入れには、借地借家法26~28条等による通知や正当事由の要件が問題になります。再開発の必要性は判断要素になり得ますが、それだけで常に正当事由が認められるものではありません。
都市再開発法に基づく第一種事業では、適法な権利変換計画と権利変換処分によって、旧建物の借家権が消滅し、新建物についての権利や金銭補償に置き換えられます。これは、家主が普通借家の更新を拒絶する場合とは別の手続です。計画や処分の適法性、補償、明渡しの要件をそれぞれ確認する必要があります。
「高度利用地区に指定されている」という説明だけでも不十分です。事業の施行には都市再開発法所定の区域要件や認可等が必要で、高度利用地区以外の制度が利用される場合もあります。所在地の自治体で、都市計画決定の内容、事業名、施行者、認可・公告の有無を調べてください。
根拠:借地借家法26~28条、都市再開発法3条・72条・86条・87条。関連:店舗・ショッピングセンターの立退き。
Q2 第一種事業と第二種事業は、何が違いますか。
| 事業 | 基本的な仕組み | 確認すること |
|---|---|---|
| 第一種市街地再開発事業 | 権利変換方式。従前の権利に対応する新たな権利を権利変換計画で定めます。 | 新建物の借家権の割当て、転出申出、従前権利の価額、明渡しに伴う補償。 |
| 第二種市街地再開発事業 | 管理処分方式(用地買収方式)。買収・収用と、管理処分計画に基づく建物等の譲受け・賃借りの制度があります。 | 譲受け・賃借りを希望する申出と、その期限・要件。第一種の30日期限をそのまま当てはめないこと。 |
第二種事業は、公共性・緊急性の高い地区で用いられる制度です。施行者は事業類型に応じて異なり、地方公共団体に限られるものではありません。また、第一種にも原則型、地上権非設定型、全員同意型等の違いがあります。全員同意型(都市再開発法110条)では、一部の通常手続が適用されないため、同意書の内容が特に重要です。
参照:国土交通省・市街地再開発事業、横浜市・権利変換の仕組み。制度の詳細は現行の都市再開発法によります。
Q3 借家人も、新しいビルに戻れますか。
第一種事業では、原則として、従前建物の賃借人に新建物の賃借権を与えるように権利変換計画を定めます(都市再開発法77条5項)。従前の家主が新建物の床を取得する場合は、その床への賃借権が基本です。家主が権利変換を希望せず転出する場合も、同項ただし書には、施行者に帰属する床(保留床)への賃借権を割り当てる仕組みがあります。家主が転出するから借家人も必ず転出しなければならない、ということではありません。
ただし、借家権を取得しない旨の申出をした場合、過小な床面積について法79条3項が適用される場合、一時使用であることが明らかな賃借権の場合などは別に検討します。賃借権の実在、転貸関係、対象建物、権利変換方式も確認が必要です。借家人は、市街地再開発組合の組合員ではありませんが(都市再開発法20条1項)、借家権の権利変換(都市再開発法77条5項)や立ち退きに伴う通損補償を受ける権利(都市再開発法97条1項)は勿論あります。
権利変換計画では、賃借権を与えられる者とその対象区画を確認してください(現行法73条1項12・13号)。図面の面積だけでなく、階数、接道・動線、間口、搬入経路、設備容量、用途・業種の制限を調べ、現在の営業や居住が可能かを具体的に説明して協議します。従前と同じ面積・階数・場所が自動的に保証されるとはいえません。従前の利用状況や権利者間の均衡等を踏まえ、計画の合理性を検討します。
根拠:都市再開発法2条13号・20条・73条・74条・77条5項・79条3項・88条5項。参考:QA1822・第一種事業における借家人の保護。
Q4 再入居後の家賃や契約期間は、今と同じですか。
家賃が据え置かれることや、値上げが一定割合に収まることを、一般的に保証する法律はありません。家賃その他の借家条件は、まず当事者間で協議します。構造・設備・共用部分・維持管理費が変わるため、家賃と共益費を分け、内装工事負担、敷金、原状回復、営業開始までの負担も一覧にして交渉することが大切です。
法102条が適用される場合、所定の時期までに協議が成立しなければ、当事者の申立てにより施行者(再開発組合)の裁定を求める仕組みがあります。ただし、裁定事項は、賃借りの目的、家賃の額・支払期日・支払方法、敷金又は賃借権設定の対価の額であり、契約期間や定期借家への変更など、すべての条件を施行者が自由に決められる制度ではありません。裁定に不服があるときは、都市再開発法102条6項の訴え「借家条件に関する裁定変更の訴え」を提起することができます。
根拠:都市再開発法102条・103条・110条、借地借家法38条。
Q5 再入居しない場合や、工事中の移転には、どのような補償がありますか。
| 区分 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 権利自体の補償 法91条 | 権利変換により権利を失い、その権利に対応する新たな権利を与えられない場合の補償。借家権の価額等を評価します。 | 法80条の価額、所定の修正率・利息等を確認。再入居と同じ借家権についての消滅補償が重ねて当然に受けられるものではありません。ただし、転出する借家権者の91条補償が0円となる場合もあります(下記参照)。 |
| 明渡しに伴う損失補償 法97条 | 移転費、仮住居・仮店舗の費用、営業休止・得意先喪失等のうち、通常受ける損失に当たるもの。 | 再入居する方も転出する方も対象となり得ます。費目・期間・必要性・因果関係を個別に確認します。 |
| 任意の合意による立退料 | 家主や施行者との交渉で定める解約・退去の対価。 | 法91条・97条の補償と同一ではありません。何を含み、どの権利を放棄する合意なのかを明記します。 |
法71条3項の「借家権の取得を希望しない旨の申出」は、補償額を合意して権利を売却する契約ではありません。補償額が決まる前に申出をする仕組みのため、再入居の権利を取得できなくなる一方で、借家権自体の補償額が0円となるおそれがあります。
東京高等裁判所平成27年11月19日判決は、法80条1項に従い借家権の取引価格を基礎に91条補償を算定する考え方を是認し、近隣の同種の借家権取引に照らして価額が認められない借家権について、91条補償をしないことも立法者意思に反しないと判断しました。借家権者の転出がすべて無補償になるという意味ではなく、権利金授受の慣行や契約条件等を踏まえた評価が問題になります(判決の紹介・抜粋:QA1823・再開発における借家権の転出補償)。
申出前に、借家権の評価根拠・補償見込額を確認し、再入居の権利を確保したうえで任意の立退料を交渉する方法とも比較してください。任意の立退料も当然に支払われるものではありません。91条補償が0円でも、97条の移転費・営業上の損失等の補償まで当然になくなるわけではありません。両者を分けて確認する必要があります。
営業者は、移転費だけでなく、内装・設備の移設、休業中の固定費、合理的な休業期間、移転広告、得意先の減少、仮店舗での営業条件等を整理してください。営業廃止・規模縮小補償は、その必要性や移転先の状況を立証する問題で、希望すれば必ず認められるものではありません。工事期間の売上全額が、そのまま補償額になるわけでもありません。
施行者に補償基準と計算明細の開示を求め、決算書、売上帳、工事・引越見積り、移転候補物件、営業許可・設備要件等と照合します。税務上の借家権割合を機械的に掛けた金額が、再開発の補償額として当然に妥当になるわけではありません。補償費目の重複にも注意します。
根拠:都市再開発法80条・91条・97条。参照:横浜市・再開発事業の補償金、QA1812・営業補償、QA1927・営業廃止補償。
用対連基準とは
「用対連」は用地対策連絡会等の略称です。いわゆる用対連基準は、閣議決定による損失補償基準要綱を受けて定められた「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)を指します。同基準細則などとともに、動産の移転、借家人補償、営業休止・廃止等の補償額を算定する際に用いられ、再開発の補償実務でも参照されています。
用対連基準自体は法律や政令ではなく、都市再開発法97条も、その計算方法を一律に適用するよう直接定めてはいません。実務上の重要な算定基準ですが、基準に沿っているというだけで、個別の補償額が常に適正とは限りません。施行者が採用した基準・細則の版、補償項目、単価、対象期間、計算明細を確認し、営業実態や移転条件が十分反映されていない場合は、見積書・決算資料等を示して修正を求めます。赤字決算でも、移転費や休業中に必要な固定的経費など、補償項目ごとの検討が必要です。
参考:国土交通省「補償基準等」(用対連基準・細則等)。具体例は関連QA事例集の1812・1899・1934をご覧ください。
2.定期借家契約でも、あきらめる前に確認を
Q6 「定期建物賃貸借契約書」があれば、普通借家としての保護はなくなりますか。
契約書の名称だけでは判断できません。定期借家の有効性を確認し、有効であれば終了時期を確認し、そのうえで再開発の権利変換・補償との関係を検討します。「定期借家かどうか」と「再開発の対象になるかどうか」は、分けて考える必要があります。
有効な定期借家が期間満了により終了する場合、原則として普通借家の更新拒絶における正当事由は要求されません。しかし、更新なしの特約が無効であれば、普通借家としての更新・解約制限を主張でき、借家権が存続することを前提に権利変換計画への記載を求められる可能性があります。無効になるのは、原則として「更新がない旨の定め」であり、賃貸借全体が当然に無効になる、という説明は正確ではありません。
根拠:借地借家法38条1~5項。参考:QA1874・定期借家権の権利変換。
Q7 普通借家から定期借家への切替えが無効になるのは、どのような場合ですか。
① 2000年3月1日前からの居住用借家に対する切替制限
平成12年3月1日前に締結された居住用建物の普通借家については、その賃貸借を合意終了させ、引き続き同じ建物について定期借家とする切替えを制限する経過措置があります。これに該当する場合、借主が署名していても、更新を排除する定期借家として扱えないことがあります。契約の出発点、更新の履歴、使用目的を確認してください。
この制限は、すべての普通借家に一律に及ぶものではありません。店舗・事務所などの非居住用や、同日以後に開始した契約では、この経過措置だけを理由に無効とすることはできません。住居兼店舗については、実際の用途と契約内容を個別に検討します。
参照:国土交通省・定期建物賃貸借Q&A(Q13)。根拠は平成11年法律153号附則3条の経過措置です。
② 有効な合意がない、又は説明と実際の契約内容が食い違う場合
家主が一方的に「次回から定期借家に変更する」と通知しただけでは、有効な切替えにはなりません。普通借家をどのように終了させたのか、借主がどの不利益を理解して合意したのか、契約の意思表示に錯誤・詐欺等の問題がないかを検討します。単に不利な契約だから、又は切替えの対価がなかったから、必ず無効になるわけではありません。
「書式が変わるだけ」「今までどおり必ず更新できる」「再開発のときには当然に再入居できる」と説明されていた場合は、そのメール・録音・説明資料が重要です。再契約の約束の有無と、法定の更新がないことの説明の有無を区別します。切替え時だけでなく、後の再契約ごとの書類も確認してください。
根拠:借地借家法30条・38条、民法95条・96条等。具体的な問題提起:QA1945。
Q8 「更新がなく期間満了で終了する」と記載した説明書に不備がある場合はどうなりますか。
現行の借地借家法38条3項は、賃貸人に対し、契約に先立ち、更新がなく期間満了により賃貸借が終了することを記載した書面を交付して説明するよう求めています。同条5項は、その説明をしなかった場合に更新なしの特約を無効としています。契約締結自体の書面等と、事前説明の資料を区別して確認します。
| 確認点 | 具体的に調べる事項 |
|---|---|
| 説明資料の内容 | 「契約の更新がない」「期間満了により終了する」という双方の趣旨が明確か。単に「契約期間3年」などと記載しただけでは、更新なしの説明とは異なります。 |
| 交付・説明の時期 | 署名前に交付・説明されたか。契約後に初めて書面が渡された場合や、受領印だけがある場合は、実際の経緯も確認します。 |
| 契約書との独立性 | 契約書に定期借家条項があるだけでなく、契約書とは別個の説明資料が適切に提供されたか。 |
| 説明した人の立場 | 賃貸人又はその代理人による説明か。仲介業者の重要事項説明を受けただけで、当然にこの説明義務が履行されたことにはなりません。 |
| 実際の説明・証拠 | 説明書、メール、電子交付記録、説明日時、説明担当者、録音等。「必ず更新する」等の説明が併存していなかったか。 |
書式の違いや軽微な誤記があるだけで、直ちに無効になるとは限りません。法定事項の記載・提供・説明があったかという実質と、法が要求する方式を確認します。
最高裁平成24年9月13日判決(平成22年〔受〕第1209号)
最高裁は、借主が更新のない契約だと認識していたかどうかにかかわらず、事前説明書面は契約書とは別個独立のものを要すると判断しました。契約書の原案を事前に送付していた事案でも、法定の説明書面の交付に代わるものとはされず、更新なしの条項が無効とされました。事業者同士の契約であることだけで、この保護がなくなるわけでもありません。
裁判所公表の判決全文(PDF)。判決当時の38条2項・3項は、現行法では主に3項・5項に対応します。
電子契約・電子交付の場合の注意
2022年5月18日施行の改正で、契約内容を電磁的記録で作成すること(38条2項)、借主の承諾等の要件の下で事前説明事項を電磁的方法で提供すること(同条4項)が認められています。現在は「紙の説明書を持っていない」という一点だけでは無効と断定できません。電子メールや電子契約サービスの記録、借主の承諾、提供方法、契約との区別、説明実施の証拠も調べます。電子化されても、必要な事前説明そのものが不要になるわけではありません。契約時に適用された法令を確認することも必要です。
根拠:現行借地借家法38条1~5項。補足:国土交通省Q&A・説明主体等。
Q9 定期借家が有効でも、評価基準日に借家権があれば権利変換を主張できますか。
主張を検討できる場合があります。ただし、評価基準日に借家権があれば必ず再入居できる、という確立した結論として扱うことはできません。都市再開発法2条13号の借家権の定義は、一時使用であることが明らかな建物賃借権を除いていますが、定期借家をその名称だけで一律に除外してはいません。定期借家と一時使用の賃貸借は別の概念です。
まず、権利変換まで借家権が存続する場合は、定期借家であることだけを理由とする排除に対し、法77条5項・88条5項に基づく割当てを求めることが考えられます。旧契約の満了日が新建物の竣工前に来るというだけで、直ちに再入居の可否は決まりません。他方、新しい借家権の期間・条件や補償の範囲は、従前契約、計画、協議等を踏まえて別途検討する必要があります。
特に問題になるのは、評価基準日には有効な借家権があったものの、その後、権利変換期日前に契約上の満了日が来る場合です。法80条1項の評価基準日を権利関係の取扱いの基準として捉え、その時点で存在した借家権を計画から排除すべきではない、という主張が考えられます。新銀座法律事務所のQA1945でも、この解釈に基づく対応を紹介しています。
80条は直接には「価額をいつの時点で算定するか」を定める条文です。また、91条は、法律の規定により権利変換期日に権利を失う者等を補償対象として定めています。そのため、契約がそれ以前に有効に終了したとする施行者から、権利変換の対象ではないと反論されることも想定されます。評価基準日説は、こうした条文相互の関係を踏まえて展開する法的主張であり、自動的に権利取得や金銭支払を認める明文の特則ではありません。本稿執筆時において確立した最高裁判例はありません。
したがって、契約の有効性に関する主張と、仮に定期借家が有効でも評価基準日を基準に保護されるべきだという主張を、区別して準備します。施行者に対象外とする根拠を文書で照会し、権利調査・物件調書・権利変換計画案に借家権を反映するよう求めることが考えられます。後の満了によって普通借家へ自動的に転換する、又は更新が永続的に保障されるという主張とは異なります。
| 日付 | 意味 |
|---|---|
| 評価基準日 | 法80条1項により、法71条所定の30日の期間を経過した日を基準として従前権利等の価額を算定。71条4項等による再度の申出期間が生じる場合も確認します。 |
| 権利変換期日 | 計画に定められ、法87条等による従前権利の変動が生じる日。評価基準日とは別です。 |
| 契約上の満了日・終了を対抗できる時期 | 契約内容と、法38条6項の終了通知等から確認。満了日が来たことと、直ちに明渡しを求められることは区別します。 |
根拠:都市再開発法2条13号・71条・73条・77条・80条・87条・88条・91条。制度説明:横浜市・評価の基準日。見解・事例:QA1945、QA1874。
Q10 借家権があるかどうかで争っているとき、計画から除外されてしまいますか。
都市再開発法73条4項は、対象となる宅地・建築物の権利について争いがあり、その存否又は帰属が確定しないときは、権利が存在するものとして、又は現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定める規定です。定期借家への切替えや終了の有効性を争う場合には、具体的な根拠と証拠を示して、この規定に沿った取扱いを求めることを検討します。
ただし、単に「争う」と通知すれば借家権の存在が最終的に確定する制度ではありません。民事上の権利の有無は訴訟等で判断され得ますし、計画の方式・段階、既存の確定判決等によって対応は異なります。全員同意型では同条の適用関係も異なります。
物件調書や確認書に署名する際には、「定期借家の有効性・終了時期は争っている」「借家権の権利変換を希望する」など、必要な異議を記録し、写しを保存してください。既に署名した場合も、その文言・説明・経緯を確認して検討します。一度署名しただけで、あらゆる反論が当然に失われると決めつけるべきではありません。
根拠:都市再開発法73条4項・110条。参考:QA1945・権利の存否に争いがある場合。
Q11 満了の通知がなければ、定期借家は普通借家になりますか。
期間が1年以上の定期借家では、貸主は原則として満了の1年前から6か月前までの間に終了通知をする必要があり、通知がなければ終了を借主に対抗できません。遅れて通知したときは、その通知の日から6か月を経過した後に終了を対抗できるようになります(38条6項)。
通知の不備は、事前説明の不備による「更新なしの特約の無効」とは異なります。通知が遅れただけで普通借家への転換や永久の居住権が生じるわけではありません。ただし、明渡請求の可否・時期と、再開発手続上の借家権の取扱いを検討するうえで重要です。通知書と到達日、契約期間、再契約の有無を確認します。
根拠:借地借家法38条6項・8項。
3.具体的な対応・資料・検索
申出・縦覧・補償の期限を、別々に管理してください
転出して新たな借家権の取得を希望しない場合、借家人は原則として、法71条1項所定の認可等の公告があった日から起算して30日以内に、同条3項の申出を行います。登記が完了した日から30日、又は個別説明を受けた日から30日と考えないでください。補償額が分かるまで待っていればよいとも限りません。71条4項等による再度の申出・撤回の機会が生じる場合はありますが、いつでも撤回できるわけではありません。
| 手続 | 基本となる期限・対応 |
|---|---|
| 借家権を取得しない旨の申出 | 法71条所定の公告・期間を確認し、原則30日以内。再入居の希望を失う効果を理解して判断します。 |
| 計画の縦覧・意見書 | 法83条が適用される場合は2週間の縦覧期間内に意見書を提出。通知、縦覧場所、提出先を確認します。 |
| 従前権利等の価額に対する裁決申請 | 法85条の対象価額について、意見書を採択しない旨の通知を受けた日から起算して30日以内。計画全体への不服とは別です。 |
| 法97条の損失補償額 | 協議が成立しないときは収用委員会への補償額の裁決申請を検討。法85条1項の30日期限をそのまま当てはめる制度ではありません。 |
| 法102条の借家条件の裁定 | 裁定変更の訴えは裁定があった日から60日以内。相手方当事者を被告とする特別の訴えです。 |
権利変換処分や他の行政処分の取消し、補償額の増額、借家条件の変更は、対象・相手方・期限が異なります。行政不服審査や取消訴訟を行っても当然に事業は止まりません。工事や明渡しが迫る場合には執行停止等の要否も含め、公告・通知を持参して早めに相談してください。ここに掲載した期限だけですべての不服申立ての期限を網羅するものではありません。
根拠:都市再開発法71条・83~86条・97条・102条。手続の全体像:横浜市・事業のながれ。
明渡し通知と、補償金の支払・供託
法96条による明渡し請求は、権利変換期日後、工事に必要なときに行われます。明渡期限は、請求をした日の翌日から起算して30日を経過した後の日でなければなりません。同条3・4項では所定の補償金の支払がない場合の扱いも定められており、支払又は適法な供託の有無を確認します。
補償額に同意しない限り永久に明け渡さなくてよい、とはいえません。法定の手続による支払・供託がされる場合があり、補償額を争う手続と明渡しの問題を並行して検討する必要があります。一方、施行者が自力で鍵を替えたり、人や荷物を排除したりできるわけでもありません。
法98条1項の代行と2項の行政代執行は要件が異なり、行政代執行には行政代執行法所定の要件・手続が必要です。人の退去を含む執行の方法、民事訴訟・仮処分による請求の適否には、請求する権利の性質等に応じた問題があります。「期限が過ぎれば当然に明渡断行仮処分又は代執行」という一律の説明は避け、通知内容と具体的な根拠を個別に確認してください。
家主が「契約は終了した」として賃料を受け取らない場合には、支払を漫然と止めず、賃料の提供や民法494条の弁済供託を検討します。供託には要件があるため、受領拒否の記録、金額、供託先等を法務局又は弁護士に確認してください。
根拠:都市再開発法91~98条、行政代執行法、民法494条。参考:QA1806・明渡し期限(古い記事中の執行方法の説明は本稿の留意点と併せてご確認ください)。
相談・交渉の前にそろえる資料
- 都市計画法や都市再開発法に基づく住民説明会資料。
- 最初の賃貸借契約書、更新書類、定期借家への切替契約、すべての再契約・覚書。
- 事前説明書、電子交付への承諾・交付記録、重要事項説明書、説明のメール・録音。
- 契約終了通知・立退き通知と封筒、到達日が分かる資料。
- 市街地再開発事業施行認可等の公告、評価基準日の説明、事業計画・権利変換計画案、物件調書、縦覧通知。
- モデル権利変換、権利変換計画個票、再入居区画の図面、賃料・共益費等の条件、補償明細、調査・鑑定の資料。
- 営業者は決算書、月別売上・利益、設備投資、移転見積り、顧客・商圏・営業許可等の資料。
施行者や家主への照会では、①定期借家が有効とする理由と事前説明の証拠、②評価基準日・満了日・権利変換期日の関係、③計画に借家権を記載しない根拠、④再入居条件又は補償の計算根拠、⑤申出・意見提出の期限を、文書で回答するよう求めると整理しやすくなります。
再開発の流れ・権利変換計画書
第一種事業の流れと、定期借家の確認点をまとめた資料です。個々の事業では手続の順序・適用条文・例外が異なることがあります。
第一種市街地再開発事業フローチャート・定期借家の確認点(改訂PDF・2ページ)
様式は都市再開発法施行規則(様式第十・28条関係)から2026年9月18日に取得。公的様式を独自に改変せず収録しています。実際の提出には施行者・認可庁が指定する様式・記載要領も確認してください。
関連QA事例集
関心のある論点からお読みいただけます。各記事の執筆・更新時期により、条文の項・号番号や制度の説明が旧法に基づく場合があります。現行の法令と本ページの説明を併せて確認してください。
関連ページ:再開発の具体例(全国の市街地再開発事業一覧)/地権者・家主側の保護/店舗の立退き
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確認した法令・判例・公的資料
- e-Gov・都市再開発法:借家権の定義、権利変換、評価、補償、明渡し、借家条件。
- e-Gov・借地借家法:普通借家の更新・解約、定期建物賃貸借の方式・説明・終了通知。
- e-Gov・都市再開発法施行規則:権利変換計画書の現行様式。
- 最高裁平成24年9月13日判決・平成22年(受)1209号(PDF):契約書とは別個独立の事前説明書面。
- 国土交通省・定期建物賃貸借Q&A:切替制限・事前説明・終了通知。電子化後の項番号等は現行法と照合。
- 国土交通省・市街地再開発事業:第一種・第二種の基本的な仕組み。
- 横浜市・権利変換の仕組み/補償金/事業のながれ。
本ページは一般的な法律情報です。事業の方式、契約の締結時期、経過措置、通知・合意の内容によって結論が異なります。個々の借家権や補償の判断は、資料に基づき弁護士にご相談ください。関連QA中の見解を、そのまま確定した判例の結論として紹介するものではありません。
