再開発における借家人補償

(最終更新日令和5年3月10日)

再開発に伴って立ち退きを求められた場合

「賃貸借契約を更新しない」「都市再開発法手続きでビルの建替えをするので立ち退きを求める」「定期建物賃貸借への切り替えを求める」と言われてしまった場合の対策を御案内致します。再開発の具体例はこちらを参照下さい。地権者(家主側)の保護についてはこちらを御参照下さい。

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※国土交通省HP、第1種再開発事業のフローチャート

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/seido/06sigaichisai.html

当事務所作成、再開発事業フローチャート

概論

1、再開発手続きの原則

市区町村の都市計画で「高度利用地区」に指定されている地区内に存在する建物については、通常地権者が市街地再開発組合を設立して都市再開発法の権利変換手続に従って手続すれば、借地借家法の賃貸借契約更新拒絶をすることなく、強制的に旧建物の賃貸借契約の効力を消滅させることができます。但し、後述のように新建物についての借家権が認められますので安心して下さい(都市再開発法77条5項)。従来の賃借権(施行者側の土地所有権等も)が消滅し、新たな建物に賃借権が認められるので権利変換手続きといわれています。その趣旨は、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的としています(同1条)。このような大胆な手続きがアベノミクスの経済効果と共に注目されています。しかし、消滅する賃借権に代わる代償処置が定められ判例上保護されてきた賃借権をないがしろにすることはできませんので動揺することはありません。

2、第一種市街地再開発事業と第二種市街地再開発事業

都市再開発事業には、地方公共団体や都市再生機構が施行する公共性の高い第二種市街地再開発事業(管理処分方式)と、一般の地権者も施行することができる、第一種市街地再開発事業(権利変換方式)があります。御相談のようなケースはほとんどが、第一種市街地再開発事業です。

※国土交通省HPより、第2種再開発事業のフローチャート

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/seido/06sigaichisai.html

3、再開発における借家権の取り扱い

第一種市街地再開発事業(権利変換方式)では、再開発の対象となる建物について借家権を有する者に対して、建替え後の建物について、新たに賃借権を与えるべきこととされています。つまり、建替えについては強制されてしまいますが、狭小テナントなどの特別な例外を除いて、原則として立ち退きまでは強制されませんので御安心下さい。このように従来建物の賃借権が、新しい建物の賃借権に権利変換されることになります。前述のように賃借権の対象であった建物が取り壊しにより消滅するので新たに認められる賃借権は別個のものでありそういう意味で権利変換ということになります。なお、新しい建物の借家権の内容(占有面積や賃料等具体的内容)については、後述するように権利変換の手続きにより決定されますので、その手続きまで明確にはなりません。しかし、従前の賃借権と同価値の賃借権が再開発後のビルについて賃借人に与えられますが、賃貸人側の経済的利益により再開発がおこなわれる以上従前と同様に賃借人が営業できるよう配慮がなされます。従前の賃借面積は基本的に維持されるものと考えられます(再開発法74条2項の趣旨から同77条2項も準用されるものと解釈できます。)賃料ですが、基本的には従前のものが維持され新しい賃借権といえども1割程度の値上げが予想されます。ただ、管理費用は値上げの可能性が残されます。重要なことは、判例上積み重ねられた賃借権は、都市再開発、権利変換手続きによっても尊重されることになります。

※権利変換計画書の書式は↓こちらを参照下さい(都市再開発法施行規則別記様式第十)。

https://www.shinginza.com/kenrihenkan.pdf

4、再開発ビルに残る自由とビル建築までの休業補償等

さらに、権利変換後当該建物は取り壊しになりますが再開発ビル建築までの休業損害、仮店舗費用等の損失補償も確保されますので安心です(再開発法97条、96条)。補償内容も公正適正なものでなければならず、施行者側の言いなりになる必要はありません(審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決)。この費用は、万が一の明け渡しの立ち退き料の交渉、算定にも(組合設立前、設立後でも明け渡しの交渉は権利変換手続き開始、すなわち事業計画決定、認可公告まで行われます。変換手続き開始から30日以内に再開発に参加しないで借家人として補償をもらうこともできます。再開発法70条、71条。91条)賃貸人側の不利益事情として考慮する必要があります。

5、再開発ビルに残る自由と残らない自由

貴方の場合、再開発ビルに残らないで、建物賃借権の正当な補償を取得して退去する自由も当然あります。組合設立前であれば、賃貸人との交渉。組合設立後(個人の場合は個人の施行者と交渉)であれば組合側との交渉が権利変換計画開始登記(事業計画決定、認可公告)まで行われますが(補償を取得して退去も自由です。権利変換計画開始登記から30日以内の申出必要。当然補償額は申出期間経過後6カ月以内に通知され確認できます。)、再開発に参加しないで退去する場合は近隣借家権価格に従い適正な補償(公正な審査委員の関与があり、借家権については結局正式鑑定等が資料となるでしょう。84条)を取得できます(再開発法91条、80条)。又、借家権の補償内容を定める権利変換計画は事前に借家権者に通知され(同83条1項)2週間の間閲覧することができます。その閲覧期間内に価格が低額な場合は意見書を提出することができ(83条2項)、意見書の不採択の通知を受けた者は、価格について30日以内に都道府県収用委員会に裁決申請ができます。その裁決に不服であれば行政訴訟を提起できます。以上から、安易な地権者側の提案誘導に応ずる必要はありません。

6、施行者の手法と問題点

再開発事業者(施行者)担当者は、弁護士等の資格者でない限り(弁護士の場合再開発手続き、権利変換手続きについて誠実に説明する義務があり、万が一不十分な説明が行われると懲戒の危険があるので施行者側の作為的要請を承諾しません。)、巨大な利益関係を背景に再開発地に関連する権利関係者をまとめる必要性から、再開発法の具体的手続き内容を伝えず又は意図的に手続きを自らに有利に説明し交渉する場合が考えられます。例えば、再開発では賃借権者は権利者として法的に残れるという説明を省き立退き交渉を行う。組合設立後、権利変換手続開始後は、立退き料は現在より低額になるので合意解約に応じた方がいいなどという賃借人の無知に乗じた提案等があります。貴方の場合もその例と思われます。さらに、借家人が多数いるようなビルでは、一部の協力的借家人のみを種々の利益で同意させるなどして、当該借家人を通じ他の借家人に不確実な情報を伝えるなど同意に応じない借家人対策を取ることが考えられるので注意が必要です。このような場合、あくまで適正な権利変換手続を求め、弁護人等と協議が大切です。かなりの長期間を要する都市再開発手続き(都市計画決定から権利変換手続き終了まで2年以上必要です。それからビルの取り壊しとなります。新しいビルはその数年後。都市計画決定までは、借家人にも情報は公開されずその期間は先行買収、権利者との根回し、測量調査等により基本構想、基本計画等が立てられますが規模により不確定ですが最低でも数年以上を要するでしょう。都市再開発法60条。以上当初の手続き開始から10年以上は必要です。)は、一般の賃借人にもなじみが薄く理解しにくいところから施行者側のペースで、従来の賃借権を適正に評価されないまま安易な妥協により立ち退く場合もありますので専門家との協議対策が必要です。

7、供託手続き

尚、大家側が、「既に解除通知を出している」ということで賃料の受け取りを拒否する場合は、法務局に対する賃料供託の手続が必要となります。

8、定期建物賃貸借契約への変更について

都市再開発の賃借人交渉の過程で、再開発後完成したビルの賃借権について、従来の普通賃借権(法定更新あり)を定期賃借権(法定更新なし)に変更するように種々の理由をつけて要請してくる場合があります。この要請に応じてはいけません。なぜなら、借地借家法の賃借権と定期賃借権とはその財産的価値が全く異なるからです。又、応ずる法的義務もありません。仮に応ずるのであれば、借家権価格の賠償など、その公正な補償が必要です。定期借家権の権利変換についてはこちらをご参照ください。

9、店舗の立ち退き

借地借家法に基づいて処理されるショッピングセンターの立ち退き問題については、こちらを参照下さい。

解説

1、都市再開発法に基づく都市再開発事業

本件の建替え事業は、「第一種市街地再開発事業」として処理されることが計画されていると思われます。第一種市街地再開発事業は、都市再開発法に基づいて行われる、都市再開発事業です。

都市再開発法の制度趣旨は、「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。(都市再開発法1条)」とされています。つまり、市街地の高度利用を促進することにより、公共の利益を増進させるということになります。

市区町村の都市計画で「高度利用地区(都市計画法第9条第18項)」に指定されている地区内に存在する建物については、地権者が都市再開発組合を設立して(個人でもできます)都市再開発法の権利変換手続に従って手続すれば、借地借家法の賃貸借契約更新拒絶をすることなく、権利変換手続きにより強制的に賃貸借契約の効力を消滅させることができます(都市再開発法3条1号、87条2項)。市役所で、営業されている店舗の地域の都市計画図を確認してみると良いでしょう。高度利用地区の指定がなされていれば、大家側不動産業者担当者の言っていることにも、一定の根拠があるということになります。

※参照条文、都市計画法 第9条第18項 高度利用地区は、用途地域内の市街地における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図るため、建築物の容積率の最高限度及び最低限度、建築物の建ぺい率の最高限度、建築物の建築面積の最低限度並びに壁面の位置の制限を定める地区とする。

今回の再開発で言えば、駅前地区の機能を向上させ、駅周辺一帯としての利便性を向上させるという目的で再開発事業が行われることになります。都市再開発法では、当事者の権利の公平性を図りつつ、「市街地の再開発」については、公共の利益が高いものについては、どんどん認めていく、ということになります。借家権者に対して、金銭補償したり、新しい建物の借家権を割り当てたりしますが、公共の利益が高い案件について、建替えや再開発については強制的に行う、というのが、都市再開発法の基本的な考え方です。このようなことは、私有財産制の保障(憲法29条)という観点から問題がないとは言えませんが、公共の福祉という権利保障の内在的制約である理論により制限は可能と考えられています。しかし、判例上の集積により認めれてきた借家権の保障も当然代償的手続きの中で考えられています。

2、第一種市街地再開発事業と、第二種市街地再開発事業

都市再開発事業には、第1種と第2種があり、第1種が「権利変換方式」であり、第2種が「管理処分方式」とされています。「管理処分方式」とは、再開発地域に不動産の権利を所有する者の権利を強制的に買い取ることを認める方式です。公共的観点から考えて再開発事業の必要性と緊急性が高い事業において認可される方式です。第2種都市再開発事業では、事業主体として、「個人施行」や「(地権者の)都市再開発組合」による手続が認められず、主に、市区町村や都道府県などの地方自治体や、独立行政法人都市再生機構が、市役所整備などの公共性の高い事業において用いることができる手続方法です。その他、例えば、オリンピック開催をするために必要だということで競技場を建設したりするような場合にも、利用することができると考えられます。具体的には阪神淡路大震災被災地再開発、東京亀戸、大島、小松川再開発があります。

これに対し、第一種市街地再開発事業は、前記の第2種事業よりは緊急性や公共性が認められませんが、一定の必要性が認められる事案で、都市再開発法の定める手続に従って処理することにより、「権利変換」をすることが認められるものです。権利変換とは、権利変換期日において、都市再開発区域内の土地建物の旧来の権利が全て消滅し、代わりに、都市再開発後の新しい土地や建物等の権利が与えられることを意味します。権利変換により、円滑な建物の建替え工事が促進されることになります。

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)

第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。

第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び他に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。

3、第一種市街地再開発事業における借家権の扱い

都市再開発区域内に借家権を有する権利者の権利は、前記の「権利変換」により、新しい再開発後の建物の借家権を付与されることが原則となります。都市再開発法77条5項と、88条5項が根拠条文です。この条文は借家権者にとって極めて重要な条文ですので、よく理解するようにして下さい。

都市再開発法第77条(施設建築物の一部等)

第5項 権利変換計画においては、第七十一条第三項の申出をした者を除き、施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者(その者がさらに借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)に対しては、第一項の規定により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者が第七十一条第一項の申出をしたときは、前項の規定により施行者に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。

都市再開発法88条

第5項 施行地区内の建築物について借家権を有していた者(その者がさらに借家権を設定していたときは、その借家権の設定を受けた者)は、権利変換計画の定めるところに従い、施設建築物の一部について借家権を取得する。

ここで、都市再開発法71条3項は、借家人が新しい建物の借家権の取得を希望しない旨の申し出をした場合の規定で、71条1項は、宅地の所有者及び借地権者及び建物所有者が権利変換を希望しない旨の申し出をした場合の規定です。都市再開発法77条5項の但し書きの部分は、借家権者の大家が権利変換を希望せず退去する場合であっても、借家権者は保護されて、新しい建物の借家権を取得できる旨が規定されています。

都市再開発法77条5項の規定を、分かりやすく書き直すと、次の様になります。

都市再開発法第77条(施設建築物の一部等) 第5項 権利変換計画においては、施行地区内の土地に建築物を所有する者から当該建築物について借家権の設定を受けている者に対しては、権利変換計画により当該建築物の所有者に与えられることとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。ただし、当該建築物の所有者(借家人にとっての大家)が、事前に退去する旨の申出をしたときは、市街地再開発組合に帰属することとなる施設建築物の一部について、借家権が与えられるように定めなければならない。

現在、大家側不動産業者は、「解除通知を出した借家権」として、貴社の建物賃貸借契約を扱っておりますが、貴社が、現実に建物を占有使用し、また、賃料供託を行い続ける限り、簡単に借家権を消滅させることはできません。都市再開発組合が設立された場合は、大家から、再開発組合に対して、「解除通知を出した借家権」が引き継がれることになります。

再開発組合も、借家権の消滅を法的に確認するためには、裁判所への提訴をすることが必要ですが、その時間が無い場合は、都市再開発法の定める権利変換計画のなかで、貴社の新しい建物における賃借床面積を定める必要があることになります。今回の貴社ように、現実に占有が残っているケースでは、権利変換計画の中に、新しい建物の借家権を定める必要があることが原則となります。

4、権利変換計画に対する異議申立手続

今回の再開発における権利変換計画において、貴社の借家権が定められていなかったり、定められていても床面積が著しく不利な定められ方をしていた場合の、異議申立手続は、都市再開発法83~84条に規定されています。つまり、権利変換計画の縦覧が行われた時に、借家人は、「権利変換計画に関する意見書」を施行者に提出することができ、権利変換計画及び意見書に対する対応方法について、「審査委員の過半数の同意」、又は、「市街地再開発審査会の議決」を得ることが必要です。

都市再開発法第83条(権利変換計画の縦覧等)

第1項 個人施行者以外の施行者は、権利変換計画を定めようとするときは、権利変換計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならない。この場合においては、あらかじめ、縦覧の開始の日、縦覧の場所及び縦覧の時間を公告するとともに、施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者にこれらの事項を通知しなければならない。

第2項 施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者は、縦覧期間内に、権利変換計画について施行者に意見書を提出することができる。

第3項 施行者は、前項の規定により意見書の提出があつたときは、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない。

第4項 施行者が権利変換計画に必要な修正を加えたときは、その修正に係る部分についてさらに第一項からこの項までに規定する手続を行なうべきものとする。ただし、その修正が政令で定める軽微なものであるときは、その修正部分に係る者にその内容を通知することをもつて足りる。

第5項 第一項から前項までの規定は、権利変換計画を変更する場合(政令で定める軽微な変更をする場合を除く。)に準用する。

第84条(審査委員及び市街地再開発審査会の関与)

第1項 施行者は、権利変換計画を定め、又は変更しようとするとき(政令で定める軽微な変更をしようとする場合を除く。)は、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経なければならない。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。

第2項 前項の規定は、前条第二項の意見書の提出があつた場合において、その採否を決定するときに準用する。

審査委員は、「土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者のうちから総会で選任する。(都市再開発法43条2項)」とされており、一定の公平な判断が期待できる機関です。市街地再開発審査会は、「土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者(都市再開発法57条4項)」として地方公共団体の長から任命された5~20名の委員による機関で、これも一定の公平な判断が期待できる機関と言えます。公正な判断のため当然法的専門家、不動産鑑定士の参加も予定されています。

この、審査委員による同意や、市街地再開発審査会の議決において、不公平な判断が出てしまった場合や、これに対して異議がある場合には、権利変換計画の認可を受けた通知に対して、「行政不服審査請求」又は「行政処分取消訴訟」を提起することになります。

都市再開発法第86条(権利変換の処分)

第1項 施行者は、権利変換計画若しくはその変更の認可を受けたとき、又は権利変換計画について第七十二条第四項の政令で定める軽微な変更をしたときは、遅滞なく、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公告し、及び関係権利者に関係事項を書面で通知しなければならない。

第2項 権利変換に関する処分は、前項の通知をすることによつて行なう。

第3項 権利変換に関する処分については、行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章 の規定は、適用しない。

実際には、権利変換計画の策定前の期間や、縦覧や意見書を提出する期間内に、市街地再開発組合との間で、借家権をどうするか、実質的な交渉を行うことになります。新しい借家権の権利内容を貴社にとって有利なものとするために、交渉段階から弁護士を介入させるという手段が有効と考えられます。

新しいビルの借家権について、賃料、管理費、売上等に不安な場合、再開発に参加しないこともできますので、権利変換計画で賃借権補償の内容を知ることができます。不参加の期限は、事業計画決定後の権利変換手続き開始登記後30日以内です。再開発法70条、71条。参加しない意思表示を行うと30日の期間経過後通常6カ月以内に賃借人に通知がきて権利変換計画に示された借家権補償の額を知ることができます。前述のようにこの額は、公的機関も介入し適正公正なものとして算出されます。額に不満であれば、これに対し異議の申し立てとして、意見書の提出、都道府県収用委員会に裁決申立て、行政訴訟の手続きを取ることができますので適正な補償額が予想されます(再開発法72条乃至85条、91条)。従って、従来の借家権が消滅するとしても何もあわてる必要性はないわけです。

5、新しい建物の借家権を取得した場合

都市再開発法の規定に従って、貴社が、新しい建物の借家権床面積を取得した場合でも、大家としては、引き続き、建物の退去を希望してくると思います。今回の再開発が、駅ビル周辺の利便性向上にありますので、新しいテナントも大家の事業計画に従って選定したいと考えられるからです。その場合は、貴社と、大家との間で、新しい建物の借家権を買い取りする交渉を行うことができます。この時の買取価格の交渉が、事実上、現在の借地借家法における立退料の交渉と同様の交渉になると考えられます。どうしても大家との買取交渉がまとまらない場合は、貴社の株式を、新しい建物での営業を希望する第三者に買い取りしてもらうことを検討しても良いでしょう。

以上の様にして、大家が都市再開発法の手続を選択し、不動産業者を経由してその旨を連絡してきたとしても、あわてる必要はありません。貴社は、長年駅前で借家権に基づき営業されてきたので、その利益は重大であり、正当な借家権価格を基準とした立退料をベースとして交渉を継続する必要があるでしょう。都市再開発法の手続や、賃料供託の手続について御心配であれば、お近くの法律事務所に御相談なさってみると良いでしょう。

当事務所でも、無料電話法律相談03-3248-5791にて、都市再開発法関連の無料相談を受け付けしております。都市再開発の代理交渉事件については原則として着手金なしの成功報酬制にて弁護士委任契約を御提案することができますのでお気軽に御相談下さい。

※参考事例集

1806番、都市再開発法に基づく賃借権者の明け渡し期限

1812番、営業補償(都市再開発法97条1項)の算出方法|補償額の協議が整わない場合の手続の流れ

1829番、再開発における得意先喪失補償とは

1927番、再開発における営業廃止の補償の要件および算定方法

1934番、再開発における赤字事業への営業補償|用対連基準以外の適用の可否