新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1165、2011/10/4 15:58

【労働・名ばかりの店長(管理監督者)と残業(時間外)手当ての請求】

質問:私は外食レストランの店舗の店長をしていますが,残業代の請求はできないのでしょうか。私の出退勤時間の管理については,他の従業員やアルバイトと同様にタイムカードで行っています。季節や曜日により繁閑の差はありますが,忙しいときには午前8時から夜の12時過ぎまで働くこともあります。会社は,私が管理監督者にあたるということを理由に基本給のほかに店長手当てを支給してくれますが,残業代については一切支給してくれません。私の労働時間と支給されている給与を時給換算すると,アルバイトの子たちよりも低い時給となってしまうので納得ができません。会社に対して,残業代などの時間外手当を請求することはできないでしょうか。

回答:
1.あなたが労働基準法上の「監督若しくは管理の地位にある者」(労働基準法41条2号)に該当する場合には残業代などの時間外手当については請求できないことになります。そこで,店長という地位にあるあなたが,この「監督若しくは管理の地位にある者」(以下,「管理監督者」といいます。)といえるか検討が必要になります。しかし,「管理監督者」にあたるかについては,役職の名称にかかわらず,職務内容,責任と権限,勤務態様,賃金などの待遇を総合的に判断して決められます。
2.ご質問の事情のみから判断することは困難ですが,あなたが管理監督者には該当せず時間外手当の請求が認められる可能性はあるように見受けられます。いかなる場合に管理監督者にあたると判断されるかについては,解説をご覧下さい。
3.本件に関係する法律相談事例集キーワード検索:763番762番を総合的に参照してください。
4.労働法に関する 参考事例,法律相談事例集キーワード検索:1133番1062番925番915番842番786番763番762番743番721番657番642番458番365番73番5番。動労審判は,995番参照。

解説:
1 労働時間等に関する規定の適用除外(労働基準法41条)
  労働基準法(以下,「労基法」といいます。)41条柱書は「この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」と規定し,同条2号は「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」と規定しています。
  同条は,労働時間・休憩・休日に関する労基法上の規定を適用するに適しない性質・態様の事業・業務に従事する労働者につき,予めそれらの規定を適用しないことを定めた規定です。
  同条により適用除外とされる規定は,労基法第4章(労働時間,休憩,休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)第6章の2(妊産婦等)の諸規定のうち「労働時間,休憩及び休日に関する規定」です。したがって,年次有給休暇や育児・介護休業の規定および深夜業の規定については適用除外の対象となりません。

2 管理監督者に該当するかの基本的な判断基準
  労基法41条2号が,管理監督者について労働時間,休憩及び休日に関する規定を適用除外とした趣旨は,管理監督者は,経営者と一体的立場にあり,職務内容や勤務態度が労基法上の労働時間等の規制になじまないという点にあります。
  したがって,管理監督者に該当するかについては,職能資格や職位の名称にとらわれることなく,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって,労働時間,休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないような立場にあるかどうかを,職務内容,責任と権限,勤務態様,賃金等の待遇を踏まえ総合的に判断することになります(昭和22年9月13日付け発基第17号,昭和63年3月14日付け基発第150号)。

  以上から法41条2号の管理監督者とは,職務上形式,実質的に経営者側と一体的関係が認められ,職務上機械的労働時間の拘束になじまず自らの業務,勤務時間について一定範囲の裁量権を有して労働者に対して経営者の基本的決定に従い管理監督者として指揮,指示命令して経営者の意思を伝達,実現する地位にあり,且つ,自らの職務に対して相応する経済的待遇が保証されている実態を有する者を言います。経営者と一体的関係とは,一般労働者と異なり,経営者から指揮指示命令されて従属的,服従的関係ではなく,経営者と同様に自ら一定の裁量決定権を有し,経営者の経営方針に基づき労働者に対し業務を指揮指示する立場にあると言う事です。経済的待遇とは給料,残業時間に対応する手当てその他の優遇処置を総合的考慮して決められます。この内容は,労働契約(雇用契約)の性質である使用者の指揮命令権に従う労働者の従属性,服従性から当然に導かれるものです。

3 名ばかり管理職の問題
  労基法上の管理監督者については,上記のとおり名称にとらわれず経営者と一体的立場にあるかということを実質的に判断する必要がありますが,チェーン店の形態で多数の店舗を展開している小売や飲食の企業における比較的小規模の店舗においては,店長等に十分な権限や相応の待遇を与えることのないまま労基法上の管理監督者として取り扱われることが多くありました。
  これがいわゆる名ばかり管理職の問題で,こうした実態を受けて厚生労働省は,「多店舗展開する小売業,飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(平成20年9月9日付け基発第0909001号)と題する通達を発しました(以下,この通達を「平成20年9月通達」といいます。)。
  この通達では,店舗の店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素が,店舗における実態や裁判例を参考にしながら整理されています。以下,通達が整理した判断要素を引用します。

(1)「職務内容,責任と権限」についての判断要素
  店舗に所属する労働者に係る採用,解雇,人事考課及び労働時間の管理は,店舗における労務管理に関する重要な職務であることから,これらの「職務内容,責任と権限」については,次のように判断されるものであること。

@ 採用
   店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
A 解雇
   店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず,実質的にもこれに関与しない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
B 人事考課
   人事考課(昇給,昇格,賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力,業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において,その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず,実質的にもこれに関与しない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
C 労働時間の管理
   店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(2)「勤務態様」についての判断要素
  管理監督者は「現実の勤務態様も,労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから,「勤務態様」については,遅刻,早退等に関する取扱い,労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により,次のように判断されるものであること。

@ 遅刻,早退等に関する取扱い
  遅刻,早退等により減給の制裁,人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。ただし,管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから,これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
A 労働時間に関する裁量
  営業時間中は店舗に常駐しなければならない,あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように,実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。
B 部下の勤務態様との相違
  管理監督者としての職務も行うが,会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。

(3)「賃金等の待遇」についての判断要素
  管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが,「賃金等の待遇」については,基本給,役職手当等の優遇措置,支払われた賃金の総額及び時間単価により,次のように判断されるものであること。

@ 基本給,役職手当等の優遇措置
  基本給,役職手当等の優遇措置が,実際の労働時間数を勘案した場合に,割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく,当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは,管理監督者性を否定する補強要素となる。
A 支払われた賃金の総額
  一年間に支払われた賃金の総額が,勤続年数,業績,専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず,他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。
B 時間単価
  実態として長時間労働を余儀なくされた結果,時間単価に換算した賃金額において,店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に,当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は,管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。上記の平成20年9月通達が整理した要素は,いずれも管理監督者性を否定する要素に係るものですが,これらの否定要素が認められない場合であっても直ちに管理監督者性が肯定されるわけではありません。

  平成20年9月通達に続いて,平成20年10月3日付けで「多店舗展開する小売業,飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について」と題する通達が発されました(基監発第1003001号)(以下,「平成20年10月通達」といいます。)。平成20年10月通達は,平成20年9月通達の趣旨・内容が正確に理解されることを期するために発された通達です。
  平成20年10月通達では,以下のとおり上記の判断要素の解釈の仕方について示しています。
  「通達で示した判断要素は,監督指導において把握した管理監督者の範囲を逸脱した事例を基に管理監督者性を否定する要素を整理したものであり,これらに一つでも該当する場合には,管理監督者に該当しない可能性が大きいと考えられるものであること。」
  「通達においては,これらに該当すれば管理監督者性が否定される要素を具体的に示したものであり,これらに該当しない場合には管理監督者性が認められるという反対解釈が許されるものではないこと。これらに該当しない場合には,基本通達において示された「職務内容,責任と権限」,「勤務態様」及び賃金等の待遇の実態を踏まえ,労務管理について経営者と一体的な立場にあるか否かを慎重に判断すべきものであること。」

4 参考となる裁判例の紹介
  ご相談いただいた件と類似の事案として,ファミリーレストランの店長が労基法上の管理監督者に該当するかが問題となった事案を紹介いたします。大阪地裁昭和61年7月30日判決は,管理監督者性の判断についての一般論を述べ,職務内容,責任と権限,勤務態様,賃金等の待遇などの考慮要素について細かく検討したうえで,店長は管理監督者に該当しないとの判断を示しています。裁判例の店長の勤務実態とご自身の勤務実態と比較してみてください。

  「労働基準法四一条二号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは,労働時間,休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指すから,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり,出勤・退勤等について自由裁量の権限を有し,厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきであり,単に局長,部長,工場長等といった名称にとらわれることなく,その者の労働の実態に則して判断すべきものである。」

  「そこで,これを本件についてみるに,(証拠略),原告(第一,二回)及び被告の各本人尋問の結果を総合すれば,原告は,本件店舗の店長として,本件店舗で勤務していたコック,ウエイター等の従業員六,七名程度を統轄し,右ウエイターの採用にも一部関与したことがあり,材料の仕入れ,店の売上金の管理等を任せられ,店長手当として月額金二万円ないし三万円の支給を受けていたことが認められるけれども(右事実のうち,原告が本件店舗の店長たる地位にあったこと,店長手当の支給を受けていたことは当事者間に争いがない。),他方,原告は,本件店舗の営業時間である午前一一時から午後一〇時までは完全に拘束されていて出退勤の自由はなく,むしろ,タイムレコーダーにより出退勤の時間を管理されており,仕事の内容も,店長としての右のような職務にとどまらず,コックはもとよりウエイター,レジ係,掃除等の全般に及んでおり,原告が採用したウエイターの賃金等の労働条件は,最終的に被告が決定したことが認められるところであり,これら原告の労働の実態を彼此勘案すれば,原告は,本件店舗の経営者である被告と一体的な立場にあるとはいえず,前記「監督若しくは管理の地位にある者」には該らないというべきである」

(東京地裁平成20年1月28日判決)日本マクドナルド事件
  有名ハンバーガーチェーン店の店長が管理監督者ではないと主張して残業代を請求した事件で,実質的に経営者との一体的立場には無いので管理監督者に該当しないと判断したもので妥当な結論です。

判決内容
  「2 争点(2)(店長である原告は,管理監督者に当たるか)について
 (1)使用者は,労働者に対し,原則として,一週四〇時間又は一日八時間を超えて労働させてはならず(労働基準法三二条),労働時間が六時間を超える場合は少なくとも四五分,八時間を超える場合は少なくとも一時間の休憩時間を与えなければならないし,(同法三四条一項),毎週少なくとも一回の休日を与えなければならないが(同法三五条一項),労働基準法が規定するこれらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法一条二項),この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。

  しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定は適用されないが(同法四一条二号),これは,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解される。
 したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だけでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,〔1〕職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,〔2〕その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,〔3〕給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるといえる。

  この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざるを得ず,これを採用することはできない。」

5 ご相談の件について
  ご相談内容だけですと管理監督者性を判断する際の事情が十分ではありませんが,少なくとも,タイムカードで時間管理がされていること,店長手当てを考慮しても時給換算をした場合にアルバイト従業員よりも低い時給となってしまうことについては,平成20年9月通達によるといずれも管理監督者性を否定する重要な要素となります。
  平成20年9月通達が示した判断要素について,ご自身の勤務実態を整理したメモなどを作成し,弁護士に相談することをおすすめいたします。

<参照条文>

労働基準法
41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
柱書 この章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1号 別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2号 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3号 監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの

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