新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.458、2006/8/17 10:51 https://www.shinginza.com/rousai.htm

[民事・労働]
質問:私は,ある会社に正社員として勤務しているのですが,会社の車で営業中に,自分のミスで自損事故を起こし,その自動車を大破させてしまいました。その後,社長から,「今回の給料から,この前の事故による損害金を差し引くから,今月の給料は少なくなる。」と言われました。確かに,私のミスで会社に損害を与えたのでそれは責任を取らなくてはと思うのですが,給料がいつもよりも減ってしまうとこれからの生活が成り立ちません。それでも,社長の言うことをそのまま受け入れなくてはならないのでしょうか。

回答:
1、今回のケースでは,@会社に対する損害賠償義務が本当にあるのかという点と,A賠償義務があるとしても,会社側が一方的に給与から差し引いていいのかという点の2点が問題になると思われます。
2、まず,@については,あなたのミスで自動車を大破させたというのであれば,基本的に会社が被った損害についての賠償義務は否定しがたいと思われますが,もし,あなたが賠償義務を認めない場合には,法律上は,かかる損害賠償を請求する会社側が,あなたの故意又は過失,生じた損害及びこれらの間の因果関係などを立証しなければ,裁判上,会社の損害賠償請求権の存在は認められません(民法709条)。
3、そして,仮に損害賠償義務を否定しがたい場合にも,A会社側が一方的に給料から差し引いていいのか,法律的にいうと,会社側が一方的に損害賠償債権をもって賃金支払債務との相殺ができるかが問題となります。
4、この問題について,判例上は,このような一方的な相殺について,生活の基盤である賃金を労働者に確実に受領させるという「全額払いの原則」に違反しているなどの理由で,かかる相殺は禁止されるとしつつ(日本勧業経済会事件,最大昭36.5.31),使用者(会社)が労働者の同意を得て行う相殺は,労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認められる場合には,かかる相殺も許されるとしています(日新製鉄事件,最小平2.11.26)。
5、これらの判例によりますと,今回のケースで,社長から言われた給料からの天引きの申し出に対して,あなたが自由な意思で同意しない限り,会社は,勝手に給料から天引きすることはできないということになります。もっとも,今回の事故についてあなたに賠償責任のあることが明白な場合には,会社に対する賠償義務まで否定されるものではありませんので,本来受給できる給料を受け取った上で,別途,会社に対して賠償金を支払わなくてはならないことになります。
6、一方,あなたが給料からの天引きに同意しないにもかかわらず,給料から損害金を差し引かれた場合には,会社側が労働基準法などの関係法規に違反している可能性が高いと認められますので,最寄りの労働基準監督署や弁護士等の専門家に相談し,会社に対してかかる取り扱いを是正させるなどの処置をしてもらうとよろしいかと思われます。

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