不動産取引・担保権・登記
抵当権消滅請求の手続と注意点
最終更新:2026年9月28日(令和8年9月28日)
抵当権の付いた不動産を取得した第三者が、一定の金額を提示し、法律の定める手続によって抵当権の消滅を求める制度が「抵当権消滅請求」です。抵当権が抹消されるため、抵当権者に不利益をもたらす制度のようにも見えますが、抵当不動産の流通を容易にしてその交換価値を実現しやすくする側面があります。また、提示された金額が低いと考える抵当権者は競売を申し立て、より高い換価額を求めることができます。このように抵当権者の利益にも配慮した仕組みが設けられているため、債権者に一方的に不利な制度というわけではありません。2004年4月1日施行の改正で、従来の「滌除(てきじょ)」に代わる制度として整備されました。利用できる人・時期に制限があり、抵当権者が競売を選ぶ可能性もあります。
すべての登記債権者の承諾(法律上のみなし承諾を含む)と、承諾された金額の払渡しまたは供託が必要です。抵当権が法律上消滅することと、登記簿からその登記を抹消することも区別します。
1.質問と回答
質問
買いたい不動産に、売買価格を超える額の抵当権が付いています。金融機関が抹消に応じない場合でも、抵当権消滅請求で購入できますか。売主の代わりに評価額を支払えばよいのでしょうか。
回答
抵当権消滅請求を検討できる場合はありますが、抵当権が消えることを保証して購入できる制度ではありません。まずは通常の任意売却として、代金の配分と担保抹消の条件を債権者と協議する方法を検討します。
抵当権消滅請求を行うのは、原則として抵当不動産を取得した第三者です。主たる債務者、保証人およびその承継人は利用できません。また、抵当権実行による差押えの効力が発生する前に請求しなければなりません(民法379~382条)。
法律に従った書面を受け取った債権者は、2か月以内に抵当権を実行して競売を申し立てることができます。競売を選ばれた場合は、不動産を失う可能性があります。売主への代金支払と債権者への支払の関係、返金条件、資金調達、抹消登記までの手順を、契約前に組み立てる必要があります。
2.解説:似た制度を区別する
| 方法 | 主な仕組み | 注意点 |
|---|---|---|
| 任意売却に伴う合意抹消 | 売却代金の配分・返済と引換えに、債権者が抹消に同意する | 不足額があっても合意できる場合はあるが、残債免除とは別 |
| 代価弁済(民法378条) | 所有権・地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその代価を弁済する | 第三取得者から一方的に提示する抵当権消滅請求と区別する |
| 抵当権消滅請求(379~386条) | 第三取得者が法定書面を送付し、登記債権者の承諾等と払渡し・供託によって消滅させる | 対象者・期限の制限、債権者による競売の可能性がある |
| 根抵当権消滅請求(398条の22) | 元本確定後、現存債務額が極度額を超える場合に、所定の者が極度額を払い渡し・供託する | 「時価を支払えばよい」制度ではなく、別の要件がある |
| 弁済・時効等による消滅 | 被担保債権の弁済、時効その他の消滅原因を個別に確認する | 消滅を争われる場合や登記が残る場合には別途対応が必要 |
旧記事で用いていた「民法378条以下」は、現在の制度の説明では注意が必要です。現行378条は代価弁済、抵当権消滅請求の中心は379~386条です。条文の番号と制度を分けて確認してください。任意売却の詳しい解説
3.誰が利用できるか
第三取得者であることを確認します
「第三取得者」とは、抵当権の付いた不動産の所有権等を、その負担がある状態で取得した第三者です。単に買う予定がある人や、売主に代わって交渉している人が、その立場だけで請求できるわけではありません。取得した権利の内容、取得の効力、登記、担保の範囲を確認します。
- 主たる債務者・保証人・その承継人:利用できません(380条)。名義を変更すれば当然に利用できる、ということではありません。
- 停止条件付きの第三取得者:条件が成立するか未定の間は利用できません(381条)。「抵当権が消えたら所有権を取得する」という設計では、請求時の資格が問題になります。
- 共有持分・複数物件:取得した権利と抵当権の対象が一致するか、物件全体・共同担保をどう扱うかを確認します。一部の持分を買えば不動産全体の担保が消せるとは考えないでください。
親族・関連会社への取引も、取得者の資格だけでなく、実際の代金支払、契約の真正、債権者を害する行為に当たらないかを確認します。仮装売買や財産隠しを利用するための制度ではありません。
4.いつまでに請求する必要があるか
民法382条は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に請求することを求めています。競売の入札日・開札日まで待てるわけではありません。抵当権実行の開始決定による差押えは、原則として開始決定の送達時に効力が生じ、それより先に差押登記がされたときは登記時に効力が生じます(民事執行法46条・188条)。
登記簿だけでなく、競売開始決定の送達日、通知の発送・到達状況も調べます。「差押登記がまだ見当たらない」「開札は数か月先だから大丈夫」という判断は危険です。差押え後に検討を始めた場合は、任意売却の交渉、適法な取下げ・執行停止等を含め、別の対応を急いで検討します。
任意売却による競売取下げの時期と、この請求の期限は異なります。取下げは、最高価買受申出人の決定後には原則として買受人等の同意が必要となり、買受人の代金納付後にはできません。裁判所BITの取下げ案内
5.通知から抵当権消滅・登記抹消まで
① 権利と資金計画を調査する
登記事項証明書、担保設定契約、債権残高、抵当権者の変更・合併・債権譲渡、共同担保目録、差押え等を調べます。売買契約の権利移転時期と登記を整え、第三取得者として手続できるか確認します。取得登記をしたことだけで、他の要件が満たされるわけではありません。
② 登記をした各債権者へ法定の書面を送付する
民法383条により、次の書面が必要です。先順位の銀行だけへの通知では足りません。
- 取得原因と年月日、譲渡人・取得者の氏名・住所、物件の性質・所在、代価その他取得者の負担を記載した書面
- 現に効力のある登記事項のすべてを証明した登記事項証明書
- 受領後2か月以内に抵当権実行の競売を申し立てないときは、記載した代価または特に指定した金額を、債権順位に従って弁済・供託する旨の書面
通知内容と受領日を証明できる方法を選びます。内容証明郵便だけを送って登記事項証明書等の送付を欠いたり、別送書類との対応が不明になったりしないようにしてください。配達証明等とともに一式を保存します。
③ 債権者ごとに2か月の期間を管理する
2か月は、原則として各債権者が法定書面の送付を受けた後の期間です。全員一律に発送日から数えるものではありません。期間内に抵当権実行の競売申立てがなければ、その債権者は提示額を承諾したものとみなされます(384条1号)。
競売申立ての取下げ、却下決定の確定などにも、みなし承諾の規定があります。ただし、競売取消しには法律が除外する場合があるため、どの理由でも取消しになれば承諾と扱えるわけではありません(384条2~4号)。競売を申し立てる債権者は、同じ期間内に債務者・不動産の譲渡人へその旨を通知しなければなりません(385条)。
④ 承諾された金額を払い渡す・供託する
登記をしたすべての債権者の承諾がそろい、承諾額を払い渡しまたは供託した時点で、抵当権が消滅します(386条)。2か月の経過による「みなし承諾」と、抵当権そのものの「消滅」は別の段階です。
提示した総額を、各債権者に同額ずつ払うわけではありません。順位・債権額に応じた配分を確認します。供託先、供託原因、被供託者、供託金額等を整理し、必要に応じて法務局と確認してください。債権者が提示額に反対しているというだけで、先に供託すれば要件を省略できるものではありません。
⑤ 抵当権の抹消登記をする
抵当権が法律上消滅しても、登記簿の記載は自動では消えません。通常は登記義務者である抵当権者と協力して抹消申請を行います。必要書類が得られず任意の協力もない場合には、消滅の要件を立証して抹消登記手続を求める訴訟等を検討します。
登記原因証明情報等の作成・確認も必要です。法務局の一般的な抹消案内は、主に住宅ローン完済を想定しています。抵当権消滅請求の場合は、その消滅原因に合う資料を用意してください。法務局の抹消登記案内
取得・資格確認 → 差押効力発生前に法定書面を送付 → 各債権者の承諾・競売申立ての有無を確認 → 承諾額の払渡し・供託 → 抹消登記。競売が申し立てられた場合は、提示額での抹消が実現するとは限りません。
6.提示額、購入資金、売買契約で確認すること
民法383条は、取得の代価のほか「特に指定した金額」を提示する場合も定めています。「裁判所が認めた評価額を供託すれば必ずよい」という仕組みではありません。提示額が低いと、債権者が競売を選択する可能性が高くなるため、査定・鑑定、市場の販売事例、占有や境界の問題を踏まえた合理的な説明が重要です。
- 支払先と代金の関係:売主への代金、債権者への払渡し・供託をどう関係づけるか。二重の資金負担が生じないか。
- 競売になった場合:解除・返金の条件、費用負担、売主から実際に返金を受けられる見込み。
- 融資:既存抵当権が残る間の融資実行・担保順位を金融機関が認めるか。融資が一律に不可能とはいえないが、事前の確認が必要。
- 付随費用:取得登記・抹消登記の費用、登録免許税、不動産取得税、査定・鑑定、通知、供託、訴訟、専門家費用。
- 引渡し・利用:所有権取得だけで賃借人等の占有がなくなるわけではない。賃貸借・敷金・賃料差押えも確認する。
買主と売主の契約だけで抵当権者の権利を制限することはできません。資金や登記の手順を後回しにせず、弁護士・司法書士・金融機関と連携して設計してください。
7.根抵当権や特殊な担保、税金の差押え
根抵当権の消滅請求は、極度額が基準です
根抵当権は、一定範囲の取引から生じる債務を、極度額を限度に担保する権利です。民法398条の22による消滅請求には、元本が確定し、現存する債務額が極度額を超えることなどが必要です。所定の物上保証人や第三取得者等が、極度額相当額を払い渡しまたは供託します。主たる債務者・保証人等の制限も準用されます。
例えば極度額2,000万円、元本確定後の現存債務額2,500万円という場合には、この特別な制度の要件を検討します。物件の時価が1,200万円だから1,200万円を払えば足りる、という制度ではありません。共同根抵当権、元本確定の有無、通常の抵当権消滅請求との関係も個別に確認します。
通常の手続を適用できない担保もあります
抵当証券が発行されている抵当権には、抵当証券法24条により、民法379条・382~386条は適用されません。また、農業用動産の抵当権には、農業動産信用法12条2項により、民法379~386条が準用されません。不動産の抵当権についての説明を、名称の似たすべての担保に当てはめることはできません。
税金の差押えは、抵当権の消滅だけでは解決しません
抵当権と、自治体等による滞納処分の差押えは別です。抵当権消滅請求が成立したからといって、税の差押えまで当然に解除されるわけではありません。差押え後に所有者が変わっても公売される可能性があるため、徴収担当部署と解除条件を確認します。野々市市の滞納処分案内
8.関連判例:免責・時効による消滅との違い
最高裁平成30年2月23日第二小法廷判決(平成29年(受)第468号・民集72巻1号1頁)は、被担保債権が破産免責の効力を受ける場合の抵当権自体の消滅時効を扱っています。
最高裁は、この場合には民法396条は適用されず、債務者・抵当権設定者との関係でも抵当権自体が20年の消滅時効にかかると判断しました。元本の確定した根抵当権にも同様であるとしています。ただし、本件では20年が経過していなかったため、抹消請求を認めませんでした。
これは民法379条以下の抵当権消滅請求とは別の問題です。免責決定だけで抵当権が消えるわけでも、免責から常に20年と単純に計算できるわけでもありません。行使できる時、時効の完成猶予・更新、援用、経過措置等を確認します。判決が引用する旧民法167条2項は現行166条2項に対応します。裁判所の判決本文(PDF)
古い登記が残っている場合は、請求通知を送る前に、完済、債権の時効、抵当権自体の時効、登記名義人の所在・承継等を調査した方がよいことがあります。法的根拠の異なる手続を混同しないことが、費用と紛争を抑えるために重要です。
9.よくある質問
通知から2か月、返事がなければ登記を消せますか。
適法な書面送付と受領日を確認し、期間内の競売申立ての有無も調べます。回答がないことだけでは判断できません。みなし承諾が成立しても、払渡し・供託と抹消登記の手続が必要です。
売主本人が評価額を用意して請求できますか。
主たる債務者や保証人は利用できません。任意の減額・抹消交渉、債務の弁済、法的整理など別の方法を検討します。物上保証人等の立場では、根抵当権消滅請求など別制度の要件が問題になる場合があります。
抵当権が消えると、売主の借金や保証人の責任も消えますか。
担保権の消滅と、借金・保証債務の免除は別です。払渡し等による弁済の効果を反映しても不足する債務は、別途の免除合意等がなければ残る場合があります。売主は残債の整理も併せて検討します。
競売を申し立てられたら、もう交渉できませんか。
任意売却や取下げの交渉を続けられる場合はあります。しかし、交渉だけで競売は停止しません。手続の進行と必要な同意を確認してください。無理な資金投入を避けるためにも、請求前に競売となった場合の対応を考えておきます。
旧「滌除」と同じく、債権者に1割増しの買受義務がありますか。
現行の抵当権消滅請求は、旧滌除の増価競売制度とは異なります。債権者は通常の抵当権実行の競売を申し立てることができます。「債権者に重い負担があるので競売にはならない」という旧制度を前提とした判断はしないでください。
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確認基準日:2026年9月28日。法令は施行日、判例は事案と適用された法令を区別して参照してください。
- 民法(166条2項、378~386条、396条、398条の22ほか)
- 民事執行法(46・76・183・188条ほか)
- 不動産登記法(共同申請・判決による登記等)
- 抵当証券法(24条)/農業動産信用法(12条)
- 最高裁平成30年2月23日判決(PDF)
- 法務局:抵当権の登記の抹消手続の案内
- 法務局:不動産登記の申請書様式
- 登記・供託オンライン申請システム:操作手引書(抵当権抹消編のPDF等)
- 野々市市:滞納処分・差押え後の所有権移転
このページは一般的な制度の解説です。担保の種類、登記、当事者の資格、通知の到達、競売の進行等を資料で確認して判断する必要があります。