住宅ローン・不動産・債務整理
不動産の任意売却と生活再建
最終更新:2026年9月28日(令和8年9月28日)
住宅ローンの返済が難しくなったときは、自宅を売るかどうかだけでなく、売却後の借金と住まいを一緒に考えることが大切です。任意売却は、債権者と調整しながら通常の不動産取引で売却する方法です。早い段階で相談すれば、返済条件の変更や住宅を残す方法も含めて比較できます。
任意売却の相談・交渉を始めても、競売は自動では止まりません。裁判所名、事件番号、入札期間、開札期日、代金納付の状況を確認して、金融機関と弁護士に早めに相談しましょう。
1.質問と回答
質問
収入が減り、住宅ローンの返済を続けることが難しくなりました。銀行から一括返済を求められ、競売になるかもしれません。任意売却をすれば、借金をなくせますか。引っ越し費用や保証人への請求も心配です。
回答
任意売却で残債を減らせる可能性はありますが、売却だけで借金がすべてなくなるとは限りません。売却価格、諸費用、各債権者への返済額を確認し、残る債務の返済方法まで検討する必要があります。保証人の責任も、別途合意等がなければ当然にはなくなりません。
住宅ローンを完済できない価格で売る場合は、通常、抵当権者に売却代金の配分を示して抹消の承諾を得ます。差押えがあればその解消も必要です。買主が見つかっただけで、安全な決済ができるわけではありません。
自宅を残したい場合は、売買契約を結ぶ前に、金融機関への返済条件変更の相談や、住宅資金特別条項を利用する個人再生の適否を確認しましょう。返済見込みがない場合には、任意売却と破産を組み合わせて生活を立て直すことも検討します。
2.解説:任意売却と競売はどう違うのか
ここでいう任意売却は、ローン等の担保になっている不動産を、裁判所の競売によらず売買契約によって売却し、売却代金を債務の返済に充てることです。特に、代金だけではローンを完済できない「オーバーローン」の物件では、債権者との調整が重要になります。
| 項目 | 任意売却 | 競売 |
|---|---|---|
| 進め方 | 所有者が売主となり、買主・債権者と条件を調整する | 裁判所の手続で買受人を決める |
| 価格 | 不動産会社の査定や市場価格を参考に売出価格を定め、買主との交渉で売買価格を決める。オーバーローンの場合は、抵当権者の承諾が得られる価格であることも必要。市場価格に寄せることができるので、より有利な売却を目指せる。 | 執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定め、入札では原則として最も高い価格で適法に買受けを申し出た者が買受人となる。参加者が限られるため市場価格より低額となりやすい。 |
| 引渡し | 決済日・退去日を契約で調整する | 売却後は引渡命令・強制執行等の問題が生じ得る |
| 担保の処理 | 通常、返済額と抵当権抹消条件を事前に合意する | 原則として売却により抵当権等が消滅するが、引き受ける権利の確認が必要 |
| 残債 | 返済しきれない債務は原則として残る。別途、合意や法的債務整理を検討する | |
任意売却が競売より必ず高く売れる、何割高くなる、と一律にはいえません。物件の状態、占有関係、販売期間、市場動向によって異なります。査定価格だけでなく、費用を差し引いた手取りと成立の見込みで比較してください。
住宅金融支援機構も、任意売却について、査定・売出価格の確認・抵当権抹消の審査・契約・決済という手順を案内しています。同機構の取扱いは他の金融機関にもそのまま適用されるわけではないため、各債権者の手続を確認します。住宅金融支援機構の案内
3.手続の流れと、弁護士・不動産会社・司法書士の役割
- 借入れ・権利・期限を調べる
借入残高、遅延損害金、保証人、すべての担保・差押え、税金・管理費の滞納を一覧にします。登記事項証明書は土地・建物の両方を確認します。
- 売却価格と配分案を作る
査定の根拠を確認し、仲介手数料、登記費用、必要な精算金等を見積もります。債権者にいくら支払えるかを示し、販売条件を協議します。
- 販売・契約条件を調整する
買主の資金計画、引渡時期、境界・建物の状態、契約不適合責任、手付金の扱いを確認します。債権者の承諾前に契約する必要がある場合は、承諾が得られないときの解除・返金等を明確にします。
- 全関係者の承諾と書類をそろえる
各担保権の抹消、差押解除、競売取下げの条件を確認します。競売が複数申し立てられている場合、一つの申立てだけを取り下げても手続が続くことがあります。
- 決済・登記・引渡しを実行する
送金先・金額と抹消書類の交付を確認し、所有権移転・担保抹消の登記を連携して行います。支払明細や領収書を保管します。
- 残債と転居後の家計を整理する
売却後の残高を書面で確認し、無理のない返済交渉や法的整理につなげます。
不動産会社は査定・販売・媒介等、司法書士は登記手続等、弁護士は権利関係の検討、債権者との法的交渉、紛争対応、残債の債務整理等を担当します。誰がどの業務を受任し、誰の利益を代表するのか、報酬・実費はいくらかを確認してください。売主と買主、債務者と保証人では利益が対立する場合があります。
任意売却における宅建業者の役割
任意売却は、裁判所の不動産競売による換価を避け、債務者と抵当権者が売却価格や代金の配分、抵当権抹消等を調整しながら、市場での売却を目指す方法です。競売が申し立てられている場合には、任意売却を成立させるため、申立債権者に競売手続の進行を猶予してもらったり、売却成立時に競売申立てを取り下げてもらったりする必要が生じることがあります。
宅建業者は、不動産の査定、広告、買主の探索、売買契約の仲介などを行い、売買を成立させるために必要な範囲で、抵当権者に売却条件や抵当権抹消の条件を確認・調整することができます。他方、債務者の代理人として、返済条件の変更、債務の減免、競売申立ての猶予・取下げなどについて法律上の紛争又は債務整理として交渉する行為は、具体的な態様によっては弁護士法72条の「法律事件」に関する「法律事務」に当たる可能性があり、注意が必要です。
弁護士が行う債務整理では、任意売却だけを前提とするのではなく、消滅時効の援用、任意整理、特定調停、個人再生、自己破産などの方法を比較検討し、債務者に効果・費用・不利益を説明した上で、本人の意向を確認しながら方針を決めます。なお、東京高裁令和6年4月24日判決(判例タイムズ1537号100頁)は任意売却そのものを扱った判決ではありませんが、債務整理案件について非弁護士による有償の周旋を弁護士法72条に違反すると判断しており、債務整理分野における非弁護士の関与の限界を考える上で参考になります。
4.競売が始まった後、いつまで任意売却できるのか
競売開始後でも、関係者と調整して任意売却できる場合があります。ただし、「開札前日までなら間に合う」と考えて着手を遅らせないでください。査定、販売、融資審査、債権者の承認、登記書類の準備に時間が必要です。
| 段階 | 注意する点 |
|---|---|
| 開札前 | 取下げを確実に進めるには、原則として開札期日の前日までに取下書を裁判所へ提出できる日程を組む。債権者への依頼だけで取下げは完了しない。 |
| 最高価買受申出人決定後 | 原則として、最高価買受申出人または買受人、および次順位買受申出人の同意が必要。売主と銀行だけでは決められない。 |
| 買受人の代金納付後 | 競売申立ての取下げはできない。競売で所有権を取得した買受人との関係が問題となる。 |
根拠は民事執行法76条・188条等です。他の差押債権者がいる場合の例外もあるため、事件ごとに執行裁判所へ確認します。交渉中であることや抹消を求める訴訟の提起だけでは、手続は当然には停止しません。裁判所BIT「競売の取下げ」/東京地方裁判所の取下げ案内
5.売却代金、費用、残債、保証人の扱い
費用を差し引けるかは、事前に確認します
仲介手数料、登記費用、測量・境界確認費用、管理費等の精算、転居費用などが問題になります。売却代金から当然にすべて優先控除できるわけではありません。法的な優先順位と債権者との合意を踏まえ、配分表に明記します。引っ越し費用を残してもらえる場合もありますが、必ず確保できる制度ではありません。
債務残高3,000万円、売却代金2,400万円、承認された諸費用等100万円の場合、返済に回せる金額が2,300万円なら、単純計算で700万円が残ります。実際には複数債権者への配分、利息・遅延損害金なども加えて計算します。
抵当権の抹消と、残債の免除は別です
債権者が抵当権を抹消することに同意しても、残債の免除まで同意したとは限りません。残高、分割額、返済開始日、利息・遅延損害金の扱い、一括請求の条件を確認します。「売れば返済しなくてよい」「毎月一定額で必ず済む」という説明だけで判断しないでください。
保証会社が銀行へ代位弁済していても、本人の負担がなくなるわけではなく、通常は保証会社への求償債務等が問題となります。債権譲渡があれば、正当な請求権者と振込先を通知書等で確認します。
保証人・連帯保証人への影響
売却代金による返済は債務を減らしますが、残額について保証責任が残ることがあります。本人が破産免責を得た場合も、原則として保証人への請求には影響しません(破産法253条2項)。他人の債務のために不動産だけを担保提供した「物上保証人」は、別に保証契約もしているかによって、他の財産で返済する義務の有無が異なります。
6.税金、マンション管理費、共有・賃貸物件の注意
税金の差押え
税務署・自治体の差押えがある場合、国税徴収法8条や地方税法14条で金融機関の抵当権に優先する場合がありますので注意が必要です。国税や地方税の法定納期限と抵当権設定登記の先後で決まるのが原則です。野々市市「滞納処分」
売却による税負担
売却代金を返済に充てても、譲渡所得税が当然にゼロになるわけではありません。税務上の利益は、ローン残高ではなく取得費・譲渡費用等を基に計算します。資力を喪失し、強制換価が避けられない状況で代金を債務弁済に充てる場合などには、非課税となる特例がありますが、単なる債務超過や任意売却という名称だけでは判断できません。税理士・税務署に資料を示して確認してください。国税庁 No.3105
マンション管理費等
滞納管理費等のうち区分所有法7条の債権は、同法8条により買主等の特定承継人にも請求できるとされています。管理組合の規約、滞納明細、遅延損害金、修繕積立金等の扱いを確認し、誰がいくら精算するかを契約に反映します。買主への請求が可能でも、売主の義務が当然に消えるわけではありません。
共有名義と賃貸中の物件
不動産全体を売るには共有者全員の意思確認が必要です。離婚の際に「住宅ローンは元配偶者が払う」と約束しても、金融機関の承諾等なしに債務者・保証人としての責任がなくなるわけではありません。
賃貸物件では、賃借権の対抗力、敷金・保証金、賃料差押え、賃貸人の地位の移転を調べます。任意売却と競売では権利の扱いが異なるため、競売での明渡しルールをそのまま任意売却に当てはめることはできません。
7.破産・個人再生と、売却後の住まい
住宅を残せる可能性を先に確認する
継続的な収入等の要件を満たす場合には、個人再生の住宅資金特別条項を利用して住宅の維持を図ることがあります。通常、住宅ローン自体の元本を減額する仕組みではなく、その他の債務の整理と返済条件の調整を組み合わせます。住宅以外の担保、保証会社による代位弁済の時期等によって利用の可否が変わります。裁判所「個人再生」
破産前の売却は、適正価格と代金の使途が重要
任意売却を先に行えば、必ず破産管財人が付かない「同時廃止」になる、ということはありません。他の資産、取引内容、調査の必要性等を踏まえ、裁判所が判断します。親族への著しく安い売却、売却代金の隠匿、一部債権者だけへの不適切な返済は、否認や免責の問題につながります。破産を予定している場合は、売却契約・配分を決める前に弁護士へ相談し、査定・売買契約・送金の資料を残してください(破産法160条以下、252条)。
リースバックは、家賃と住み続けられる期間を確認する
売却後に同じ住宅を借りるリースバックでは、売却価格だけでなく、毎月の家賃、増額条件、修繕費、普通借家か定期借家か、再契約・買戻しの条件を確認します。希望する期間ずっと住める、必ず買い戻せるとは限りません。債権者による任意売却の承認も別途必要です。
2026年10月1日施行予定の国土交通省「リースバックに関するガイドライン」は、売買と賃貸借を一体として捉え、重要な取引条件の告知等に関する宅建業法の解釈を示しています。本記事更新日には施行前です。国土交通省の案内/ガイドライン本文(PDF)
8.抵当権者が応じなければ、抵当権消滅請求を使えるのか
抵当権消滅請求は、抵当不動産を取得した第三者が法定の手続によって抵当権の消滅を求める制度です。主たる債務者、保証人およびその承継人は利用できず、抵当権実行による差押えの効力が生じる前に請求する必要があります。
債権者は書面受領後2か月以内に競売を申し立てることができるため、評価額を用意すれば必ず抹消できる制度ではありません。また、2か月の経過だけで消滅せず、すべての登記債権者の承諾(みなし承諾を含む)と、承諾額の払渡しまたは供託が必要です(民法379~386条)。購入資金を支払った後に競売となる危険もあるため、取引前に検討してください。抵当権消滅請求の詳しい解説
9.関連判例から分かること
免責を受けても抵当権が当然に消えるわけではありません
最高裁平成30年2月23日第二小法廷判決(平成29年(受)第468号)は、被担保債権が破産免責の効力を受ける場合、抵当権自体が20年の消滅時効にかかるとしました。本件は20年が経過していなかったため、抹消請求は認められませんでした。判決中の旧民法167条2項は現行166条2項に対応します。起算点や経過措置等の個別検討が必要で、免責や一定期間の放置だけで抹消できるという意味ではありません。裁判所判決本文(PDF)
賃料差押えのある物件は、買主が誰かも重要です
最高裁平成24年9月4日判決は、建物がその賃借人に譲渡された事案で、信義則上許されない等の特段の事情がない限り、譲渡後に支払期が到来する賃料の取立てを否定しました。これは、無関係の第三者への売却一般について差押えが消えるとしたものではありません。賃貸物件の任意売却では、既存の差押えと譲渡後の賃料の帰属を別に調べます。関連QA1488:判例と事案の解説
新銀座法律事務所への無料相談
住宅ローンの返済が難しい方、競売開始決定や一括返済の通知が届いた方、売却後の借金や保証人への影響が心配な方はご相談ください。 まずは無料の電話相談をご利用ください。概要を伺い、弁護士から5分程度を目安に一般的な見解をご案内します。
無料相談受付:0120-48-5791
つながらない場合:03-3248-5791
受付時間:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
電話のほか、LINE・メールフォームからも受付できます。お名前、都道府県、電話番号、相談の概要をお知らせください。LINE・メールからの受付も、原則として弁護士から電話で回答します。借入先、残高、登記事項証明書、督促・競売関係書類、売却査定、毎月の収入と生活費が分かる資料をご用意いただくと整理しやすくなります。競売事件番号、入札期間・開札期日、決済予定日がある場合は最初にお知らせください。
詳しい資料検討、書面作成、代理活動等は、範囲と費用を確認して別途契約します。弁護士費用の案内もご覧ください。受付と回答は同時とは限りません。期限や緊急の事情は最初にお伝えください。最新の受付方法・時間は相談案内ページでご確認ください。
QA事例集の検索・ChatGPT検索
新銀座法律事務所のQA事例集を検索
Googleで当事務所のQA掲載ページを検索します。検索エンジンに登録されていない記事は表示されない場合があります。
ChatGPTで関連情報を調べる
当事務所のQAと国・自治体の資料を検索する依頼文を作成します。ChatGPTの画面が開いたら内容を確認して送信してください。利用環境によりログイン等が必要です。氏名、物件の詳しい住所、口座番号、契約書原本などの個人情報・秘密情報は入力せず、一般化した質問にしてください。
検索依頼文を確認・コピーする
AIの回答には誤りや古い情報が含まれることがあります。提示された出典本文と適用時期を確認し、個別の期限・法的判断は専門家にご相談ください。
確認した法令・公的資料・PDF
確認基準日:2026年9月28日。法令本文と資料の対象・適用時期を確認してください。裁判所の書式は、提出先の最新の案内を優先します。
- 民法(抵当権、379~386条ほか)
- 民事執行法(76・183・188条ほか)
- 弁護士法(72条)
- 破産法/民事再生法/建物の区分所有等に関する法律
- 住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」/パンフレット・任売書式(PDF。同機構向け)
- 東京地方裁判所「競売取下げ」/取下書(PDF)
- 法務局:住宅ローン等を完済した方へ(抵当権抹消登記)
- 国税庁:強制換価等による譲渡の所得税基本通達
このページは一般的な制度の解説です。物件の権利関係、契約内容、競売の進行、家計の状況によって適切な方法が異なります。