2026年10月6日更新
会社のお金を使ってしまった、使途不明金について説明を求められた、取引先からのリベートが問題になった――。まず、実際の権限、資金の流れ、承認の有無を確認しましょう。刑事事件への対応と、弁償・雇用関係の問題を一緒に検討することが大切です。
早期の弁償・示談は重要ですが、告訴の取消しや全額弁償によって、必ず不起訴になるわけではありません。身に覚えのない金額を含む自認書や返済合意書には、内容を確認せず署名しないでください。
被害を受けた会社・個人の方は、横領・背任被害の証拠保全・告訴・回収の解説をご覧ください。
1 横領罪・業務上横領罪とは
横領罪は、他人から預かって管理している物を、権限なく自分の物のように処分する犯罪です。刑法252条は自己の占有する他人の物の横領を、253条は業務上の占有に基づく横領を処罰します。「占有」は単に手元にあることだけではなく、管理・処分できる立場も含めて判断されます。
業務とは、社会生活上の地位に基づき反復・継続して行う事務をいい、営利目的や給与の有無だけでは決まりません。会社の経理担当者、集金担当者、団体の会計担当者による預り金の着服などが問題になります。
| 罪名・根拠 | 現行の法定刑 |
|---|---|
| 単純横領罪(刑法252条) | 5年以下の拘禁刑 |
| 業務上横領罪(253条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 遺失物等横領罪(254条) | 1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料 |
| 背任罪(247条) | 5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 |
| 取締役等の特別背任罪(会社法960条) | 10年以下の拘禁刑若しくは1,000万円以下の罰金、又は併科 |
2025年6月1日から懲役・禁錮に代わり拘禁刑が導入されました。施行前の行為は経過措置を含めて適用法を確認します。業務上横領罪には罰金刑の選択肢がなく、通常の罰金による略式手続では終わりません。
2 「後で返すつもり」でも横領になるのか
横領に必要な「不法領得の意思」とは、委託された任務に背き、権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思です。会社の資金を私的な借金返済や投資に回した場合、後で補填するつもりだったというだけでは犯罪の成立を否定できません。返還後であっても、既に成立した横領が当然に消えることはありません。
他方、帳簿の記載ミス、二重計上、未処理の経費、許可された立替精算などまで、直ちに横領と決めつけることもできません。承認した人の権限、承認内容、従来の運用、支出先、領収書やメールを調べます。「上司が知っていた」という説明と、有効な会社の承認があったことは同じではありません。
会社と社長個人の財産は別です。株式をすべて持つ社長であっても、会社の金銭を自由に私的使用できるわけではありません。
3 窃盗・詐欺・背任との違い
他人が占有する物を無断で持ち出す場合は窃盗、預かって占有している物を着服する場合は横領が問題になります。レジのお金でも、現金管理をどの程度任されていたかによって結論が変わるため、「従業員だから業務上横領」とは限りません。
架空請求で会社をだまして支払わせた場合には詐欺、任務に反する不正な取引によって会社に財産上の損害を与えた場合には背任が問題になります。背任罪には、他人のために事務を処理する立場、自己・第三者の利益を図る目的又は本人に損害を加える目的、任務違背行為、財産上の損害が必要です。単なる経営判断の失敗と犯罪は区別しなければなりません。
取締役等については会社法960条の特別背任罪を検討します。会社に帰属するリベートの着服、水増し請求に伴う個人的なキックバックなども、権限と金銭の流れによって罪名が異なります。詳しくは事例1784をご参照ください。
顧客情報やプログラムをコピーした場合は、情報の複製だけで当然に財物の横領になるわけではありません。媒体の持出しと区別し、背任罪、不正競争防止法上の営業秘密侵害等の要件を個別に検討します。
4 使途不明金の疑いと、令和7年の最高裁決定
最高裁令和7年10月20日第三小法廷決定(令和6年〔あ〕1506号)は、経理担当職員による長期間の業務上横領について、訴因変更の要否を判断しました。共通の犯意、同じ被害者、同一の業務上の占有を利用した継続的行為という事情から全体を包括一罪とし、総額を訴因より少なく認定しつつ時期のずれにより一部の月額が増えた本件では、訴因変更を経ない認定を違法とはしませんでした。
これは「会計上の不足があれば、その担当者の横領と認めてよい」という決定ではありません。実務への示唆としては、全期間の総額だけでなく、月別・項目別の受領額、入金額、繰越し、返還の時期を照合することが重要です。担当者以外のアクセスや支出の可能性も検討します。
5 会社から呼び出されたときの対応
問題にされている期間、取引、金額、資料を確認し、自分が認める点、記憶が曖昧な点、否定する点を整理します。会社への説明は後の民事訴訟や刑事捜査で証拠になることがあります。推測を事実として述べたり、早く帰るために全額を認めたりしないでください。
- 自分の記憶を日時順に記録し、承認・精算を裏付ける資料の所在を弁護士に伝える。
- 帳簿、メール、端末のデータを削除・改変しない。権限のない持出しや他人のアカウントへのアクセスもしない。
- 自認書、退職届、損害賠償合意書は写しを求め、金額と責任の範囲を確認する。
- 威迫や長時間の拘束がある場合は、その状況を記録し、危険が迫る場合は警察に助けを求める。
会社からの面談と捜査機関の取調べは別の手続です。弁護士は、面談対応、証拠の保存、返済交渉と刑事上の説明の整合性を検討します。
6 警察の取調べ・逮捕・勾留への対応

告訴や被害届が提出されても、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕の嫌疑・必要性、勾留における逃亡・罪証隠滅のおそれなどが個別に判断され、在宅のまま捜査が進むこともあります。身柄を拘束されていない任意の取調べでは、刑事訴訟法198条により出頭を拒み、又は退去することができます。出頭調整は弁護士と相談しましょう。
被疑者には黙秘権があります。供述調書の内容が正しくない場合は訂正を求め、納得しない内容の署名押印をしないことが重要です。逮捕後は起訴前の身柄拘束が通常、逮捕から最長23日間となることがありますが、別件の逮捕等も含めた全体の日数を保証するものではありません。起訴前には保釈制度はありません。
弁護士は接見、取調べへの助言、資料提出、勾留を避ける意見書や不服申立て、起訴後の保釈請求などを行います。会社や関係者への不用意な連絡は避け、必要な交渉は弁護士を通して進めます。
まだ逮捕されていない段階でも、警察からの呼出しや取調べに備えて継続的に相談し、万一逮捕された場合の初回接見をあらかじめ準備しておくことができます。新銀座法律事務所では、特定の刑事事件についての継続相談と初回接見1回を組み合わせた「接見予約付き継続相談」をご案内しています。詳しくは接見予約付き継続相談のご案内をご覧ください。
7 弁償・示談はどのように進めるか
まず被害額の根拠を確認し、支払可能な金額・時期を整理します。被害者が望むのは弁償だけとは限らず、事実の解明、謝罪、再発防止、処罰を重視することもあります。連絡方法や交渉への意向を尊重してください。
示談書では、対象となる行為と期間、認める金額、支払期限・方法、支払済み額、清算の範囲、追加被害が判明した場合、被害者の処罰に関する意向などを明確にします。単にお金を振り込んだことと、包括的な示談が成立したことは異なります。
会社を被害者とする通常の横領・背任は非親告罪です。告訴の取消しや「処罰を求めない」とする意思は重要な事情ですが、捜査・起訴を法的に止めるものではありません。親族間の犯罪に関する特則が問題になる場合もありますが、家族経営の会社の財産を当然に親族間の財産と扱うことはできません。
8 一括で払えない場合・家族の援助
分割払いを求める場合は、収入・生活費・他の債務を踏まえた現実的な案を示します。頭金、毎月の支払日、遅滞時の取扱い、連絡先変更の通知などを定めます。守れない約束をしてしまうと、被害回復が進まず、信頼も損なわれます。
一定額の金銭支払について強制執行を受ける旨を認めた公正証書を作成すると、不払いの際、別の訴訟を経ずに執行され得ます。通常の私的な示談書とは効力が異なります。対象額と期限の利益喪失条項等を理解してから合意してください。
成人本人の親・配偶者に、家族というだけで当然に弁償義務が生じるわけではありません。任意の援助、保証契約、担保提供は区別します。家族の住居への抵当権設定や連帯保証は重大な負担を伴うため、家族自身も内容を確認する必要があります。身元保証契約には期間や責任範囲の制限があり、個人根保証の極度額の問題もあります。
9 不起訴・執行猶予と再発防止
検察官は、証拠と犯罪の成否を検討した上で、刑事訴訟法248条の諸事情を踏まえて起訴猶予を判断します。被害額、期間、手口、立場の悪用、前科、弁償の実行、被害者の意向、反省や生活環境などが問題になります。初犯や全額弁償だけで不起訴・執行猶予が約束されることはありません。
執行猶予には宣告刑や前科等に関する法定の要件があります。業務上横領で高額・長期間・計画的な事件では、初犯でも実刑となる可能性があります。単に謝罪文を用意するだけでなく、資金管理から離れる、依存症等が関係するなら医療・支援につながるなど、原因に即した対策を考えます。
捜査機関に犯罪や犯人が発覚する前の自首は刑法42条の刑の減軽に関係しますが、当然に減軽されるものではありません。会社に申し出ることと法律上の自首は同じではないため、事実関係を整理して相談してください。
10 損害賠償・解雇・時効は刑事事件と別に確認
不起訴になっても、民事上の返還義務や損害賠償責任が当然になくなるわけではありません。反対に、会社が民事訴訟を起こしただけで刑事上の有罪が決まるわけでもありません。民事裁判の訴状や督促を受け取ったときは、期限内に対応します。
公訴時効は、単純横領・背任が原則5年、業務上横領・特別背任が原則7年ですが、起算点、包括一罪、停止事由などの検討が必要です。民事では不法行為・債務不履行等の請求原因によって期間と起算点が異なり、刑事の公訴時効とは連動しません。
懲戒処分・解雇の有効性は就業規則、事実、処分の相当性等によって判断されます。会社が損害賠償名目で賃金から一方的に控除することも、労働基準法24条の賃金全額払いの原則との関係で問題になります。刑事弁護と労働・民事の対応を併せて検討します。
11 弁護士へ相談するときに準備するもの
会社からの通知、就業規則、職務分掌、資金の流れが分かる表、通帳・会計資料、承認メール、提示された合意書、警察からの連絡内容を、適法に手元にある範囲で準備してください。分からないことは分からないまま伝えて構いません。
弁護士には、認める事実だけでなく、争いたい金額、既に会社や警察に話した内容、弁償できる見込みも率直に伝えます。弁護士は犯罪の成否、証拠、示談案、捜査への対応、民事請求をまとめて検討し、無理な自認や実行困難な返済約束を避けるための助言をします。
12 新銀座法律事務所の無料相談
横領・背任の疑いで説明を求められた方、弁償・示談や捜査への対応に不安のある方は、お早めにご相談ください。
受付:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
電話・LINE・メールで受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解を無料で回答します。既に弁護士へ依頼中の案件のセカンドオピニオンも受け付けています。
ご相談の際は、当事者の氏名・会社名、被害額、捜査の状況、急ぎの期限をお伝えください。無料の電話相談と、来所相談、交渉・告訴・訴訟・弁護活動の依頼は別です。来所相談は原則1時間11,000円(税込)で、具体的な依頼範囲と費用は事情を伺ってご案内します。
14 参考法令・公的資料・PDF
- 刑法:42条・247条・252条~255条等
- 刑事訴訟法:198条・230条・237条・241条・248条・250条等
- 会社法:423条・960条等
- 民法:166条・415条・465条の2・703条・709条・724条等
- 民事保全法
- 民事執行法
- 最高裁令和7年10月20日第三小法廷決定・全文PDF
- 裁判所:民事保全
- 裁判所:債権執行・申立書式(PDF等)
- 東京地方裁判所:財産開示手続
- 警視庁:捜査や裁判について・刑事手続の図解
- 厚生労働省:賃金と他の債権の相殺・裁判例
- 法務省:保証に関する民法のルール(PDF)
情報確認日:2026年10月6日。具体的な処分は、事実関係、行為時の法令、証拠、個別事情によって異なります。