仕事中・通勤中のけが、過労・ハラスメントによる病気でお困りの方へ

労災事故・労災保険と損害賠償

治療費や生活費の不安、会社との交渉、後遺障害やご遺族の補償まで。利用できる制度と、いま取るべき対応を順にご説明します。

最終改訂:令和8年(2026年)9月17日
現在施行されている制度を基本とし、令和9年4月施行の改正は別枠で説明しています。

まず知っていただきたいこと

  • 会社が「労災ではない」と言っても、それだけで請求を諦める必要はありません。労災保険給付を判断するのは労働基準監督署長です。
  • パート・アルバイト・派遣社員も対象です。適用事業であれば、会社が加入手続をしていなくても請求できます。
  • 労災保険と、会社・加害者への損害賠償は別の制度です。労災に慰謝料の給付はありませんが、会社等に責任があれば別に請求できる場合があります。
  • 請求には期限があります。会社の回答や労災認定を待っている間にも、別の請求の時効が進むことがあります。

会社が手続に協力しない、補償額に疑問がある、示談書への署名を求められたときは、お手元の資料を整理してご相談ください。

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1 事故・発病の直後にすること

まずは安全を確保し、必要な治療を受けてください。重いけがや急な体調悪化があれば救急搬送を優先します。労災の書類がまだ整っていないことを理由に、受診を遅らせる必要はありません。

  1. 医療機関に、仕事中・通勤中の事故であることを伝えます。作業内容、事故の時刻、痛む場所を具体的に説明し、診断書・領収書・診療明細を保管してください。労災に該当する傷病は原則として健康保険の対象外です。既に健康保険を使った場合は、医療機関・加入する健康保険・労働基準監督署に切替えを相談します。
  2. 会社に事故を報告し、記録を残します。電話だけでなく、メール等で日時・場所・作業内容・負傷の状況を伝え、写しを保存します。後日説明が食い違わないよう、目撃者の氏名も控えます。
  3. 消えやすい証拠を確保します。現場の写真、安全設備や機械の状態、作業指示、勤怠記録、業務メール、ハラスメントの記録などを、適法な方法で保存します。防犯カメラや入退館記録は保存期間が短いことがあるため、早めに保存を求めます。
  4. 休業・治療費について労災請求を進めます。会社の責任が確定するまで待つ必要はありません。会社との賠償交渉は、労災手続と並行して準備できます。
  5. 示談書・免責書・退職届は内容を確認してから判断します。「今後一切請求しない」という文言は、将来の後遺障害や賠償請求にも関わります。書面を持ち帰り、説明を受けてください。

手続の案内:厚生労働省「労災保険制度の概要、給付の請求手続等」

2 労災の対象になる人・事故

雇用形態ではなく、働き方の実態を確認します

労災保険は、業務災害、複数業務要因災害、通勤災害などに対して給付を行う国の制度です(労災保険法1条・7条)。原則として労働者を1人でも使用する事業に適用され、正社員に限らず、契約社員、パート、アルバイト、日雇労働者、派遣社員、外国人労働者も対象になります。保険料は原則として事業主の負担です。農林水産業の一部には、現時点で暫定任意適用の例外があります。

契約書に「業務委託」「請負」と書かれていても、仕事の指示、勤務時間・場所の拘束、報酬の性質などから実質的に労働者と判断されれば、通常の労災保険が適用される可能性があります。一方、独立した事業者、一人親方、会社役員等は、原則として労働者としての補償の対象ではなく、労働者性や特別加入の有無を検討します。公務員には、身分や勤務形態に応じた公務災害補償等の制度があります。

仕事との関係があることが必要です

典型例は、工場で機械に手を挟まれる、建設現場で転落する、配送中に交通事故に遭う、介護作業で腰を傷めるなどの事故です。熱中症、化学物質による疾病、過重労働による脳・心臓疾患、仕事の強いストレスによる精神障害も対象となり得ます。

事故では、事業主の支配下にあるかという「業務遂行性」と、仕事に伴う危険が現実化したといえるかという「業務起因性」を検討します。病気では、仕事の負荷や有害因子と発症との因果関係を医学的資料等で確認します。職場で発症しただけで当然に労災になるわけではなく、自宅で発症したから対象外になるわけでもありません。

労災給付は、会社の過失を証明することを一般的な条件としません。本人に通常の不注意があっても直ちに不支給にはなりません。ただし、故意に事故を起こした場合や、故意の犯罪行為・重大な過失等については、法定の給付制限があります(労災保険法12条の2の2)。

参照:労災保険法、QA第548番(派遣社員の事故)

3 通勤災害・寄り道・在宅勤務

通勤災害では、就業に関連して、住居と職場の往復などを合理的な経路・方法で行っていたかを確認します(労災保険法7条1項3号・2項・3項)。会社へ届け出た通勤経路と違うことだけで、直ちに対象外になるとは限りません。交通事情による迂回や、通常利用される複数の経路なども検討します。

私用のために通勤経路を外れたり、通勤を中断した場合は、原則としてその間とその後の移動は対象外です。ただし、日用品の購入、診療、一定の親族の継続的・反復的な介護など、省令で定める日常生活上必要な行為を、やむを得ず最小限度行った場合は、その行為の間を除き、合理的な経路へ戻った後の通勤が保護される場合があります。

「介護のために立ち寄った後に事故に遭った」という場合は、立寄り先、介護を必要とする事情、所要時間、事故地点、通常の経路を地図と時系列で整理してください。保育所への送迎等も、その必要性や実際の経路を個別に確認します。

在宅勤務中の事故でも、業務との関係が認められれば労災の対象になります。ただし、家事などの私的行為による事故との区別が必要です。業務指示、作業内容、勤務時間、事故発生の状況を記録しておきましょう。

参照:QA第1310番「労災と通勤経路の中断について」、厚生労働省「労災保険給付の概要」(PDF)

4 受けられる給付と休業中の生活費

主な給付は次のとおりです。業務災害、通勤災害、複数業務要因災害で正式名称が異なるため、ここでは「療養(補償)等給付」のようにまとめて表示します。

主な労災給付
困っていること給付主な内容・注意点
治療が必要療養(補償)等給付必要な診察・薬・手術・入院等。指定医療機関等では原則として窓口負担なく治療を受けます。指定外では、いったん支払った費用を請求する方法があります。通勤災害には原則200円の一部負担金があります。
療養のため働けず賃金を受けられない休業(補償)等給付休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%。別に休業特別支給金20%があり、原則として合計80%相当です。
症状固定後に障害が残った障害(補償)等給付障害等級1~7級は年金、8~14級は一時金。障害特別支給金等もあります。
長期の療養でも重い状態が続く傷病(補償)等年金療養開始後1年6か月を経過しても治らず、傷病等級1~3級に該当する場合。休業給付との関係を確認します。
介護が必要介護(補償)等給付一定の障害・傷病年金受給者で、現に介護を受ける場合。介護状況、施設への入所等による要件があります。
ご家族が亡くなった遺族(補償)等給付・葬祭料等生計維持関係、年齢、遺族の順位等に応じた年金又は一時金と、葬祭を行う方への給付。民法上の相続人と受給できる遺族は必ずしも同じではありません。

最初の3日間はどうなりますか

労災保険の休業給付には3日間の待期があります。業務災害の場合は、原則として会社がこの間の休業について平均賃金の60%を補償します(労働基準法76条)。通勤災害には、この規定による会社の補償義務はありません。複数業務要因災害にも業務災害と同じ会社負担が当然に生じるわけではなく、就業規則の上乗せ補償等と併せて確認します。

給付基礎日額は原則として平均賃金を基礎に算定されます。「手取り給与の80%」という意味ではありません。賃金の一部が支給される場合、短時間だけ働く場合、複数の勤務先がある場合は計算が変わるため、賃金台帳や給与明細で確認します。

給付の要件・金額:厚生労働省・各給付の請求手続、労働基準法75条以下

5 請求方法・会社が協力しない場合

会社の届出と、本人の給付請求は別です

労災保険給付は、原則として被災した本人又は受給権のある遺族が請求します。会社が事故報告をしただけで、必要な給付がすべて自動的に振り込まれるわけではありません。所轄の労働基準監督署へ相談し、給付ごとに必要な請求書・医師の証明・事業主の証明等を準備します。

業務災害の指定医療機関での治療には通常、様式第5号、休業補償には様式第8号を使います。通勤災害には別の様式があります。療養の給付の請求書は医療機関を経由して提出するなど、給付によって提出方法が異なります。書式は厚生労働省「労災補償」内の請求書ダウンロードから確認してください。

会社が証明しない・加入していないとき

事業主証明を拒まれても、請求自体は可能です。会社に依頼した日、拒否された理由ややり取りを記録し、その事情を労働基準監督署に伝えてください。会社が廃業していても同様です。事業主が労災保険の手続を怠っていた場合も、適用事業の労働者の給付がそのことだけで否定されるものではありません。

なお、事業主証明欄に押印がないことと、事業主が事実の証明を拒否していることは異なります。現在は、請求書等について押印を不要とする取扱いが行われています。

「仕事中の事故ではなかったことにしてほしい」と言われても、事実に反する説明をする必要はありません。会社による労働者死傷病報告の不提出・虚偽報告は「労災かくし」として問題になります。給付請求とは別の報告制度である点にも注意してください。

公的資料:厚生労働省「腰痛の労災認定」(事業主証明が得られない場合の案内・PDF)、労災補償(未手続事業主・押印見直し・労災かくし)

6 過労死・精神障害・ハラスメント

脳・心臓疾患では、労働時間以外の負担も評価します

過重な仕事による脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、重篤な心不全等は、労災認定の対象となり得ます。長期間の過重業務については、発症前1か月におおむね100時間、又は発症前2~6か月間の月平均で80時間を超える時間外労働が、業務との関連性が強いことを示す重要な目安です。

ただし、この時間数を下回れば一律に不認定ということではありません。令和3年の認定基準改正では、これに近い時間外労働と、休日のない連続勤務、勤務間隔の短さ、深夜・交替制勤務、身体的・心理的な負担などを総合評価することが明確にされました。発症直前の異常な出来事や短期間の過重業務も、別の認定の観点になります。

うつ病などは、出来事の内容と経過を整理します

精神障害の労災認定では、対象となる精神障害の発病、発病前おおむね6か月の業務による強い心理的負荷、業務以外の要因等を検討します。長時間労働だけでなく、上司からの暴力・侮辱、過大な要求、セクシュアルハラスメント、顧客からの著しい迷惑行為なども評価対象です。

令和5年9月の改正では、カスタマーハラスメント等の出来事や具体例が追加・拡充され、既に発病していた精神障害が、業務による強い心理的負荷で悪化した場合の認定の範囲も見直されました。持病があることだけを理由に諦めず、従前の状態、職場で起きた出来事、その後の症状を主治医と整理してください。

過労自殺の場合も、業務による精神障害の発病と自殺との関係等が認められれば、遺族給付や会社への損害賠償が問題となります。受診歴がない場合でも直ちに断念せず、勤務記録、本人のメール・日記、ご家族や同僚が見た言動の変化などを保存して相談してください。

認定基準:脳・心臓疾患の改正ポイント(PDF)、精神障害の改正ポイント(PDF)/関連:QA第2032番「過労自殺の損害賠償請求」

7 後遺障害と症状固定

「症状固定」とは、治療を続けても一般に医療効果が期待できない状態に達したことをいい、元どおりに回復したことを意味するものではありません。労災では「治ゆ」として扱い、療養・休業の給付から、残った障害に応じた障害給付を検討する段階になります。

痛み、しびれ、関節の動かしにくさ、視力・聴力の低下、高次脳機能障害、精神・神経の障害などが残る場合は、医師に具体的な症状と生活・仕事上の支障を伝えてください。画像所見、検査結果、関節可動域等の測定、症状の推移が等級判断の資料になります。「仕事に戻れない」という事情だけで等級が決まるわけではありません。

会社や保険会社から治療終了を求められた場合も、それだけで症状固定が決まるものではありません。主治医の意見や医学的な経過を確認します。労災の等級は民事賠償の重要な資料ですが、民事裁判での労働能力喪失や慰謝料の判断を当然に拘束するものではありません。

症状固定後でも、一定のアフターケアや、再発として療養給付が問題となる場合があります。認定された等級が症状に見合わないときは、決定通知と医療記録をそろえ、不服申立ての期限内に検討しましょう。

関連:QA第1856番「労災事故と民事損害賠償請求の交渉方法」

8 会社・元請・加害者への損害賠償

安全配慮義務違反などの責任を検討します

会社は、労働者が生命・身体等の安全を確保して働けるよう、必要な配慮をする義務を負います(労働契約法5条)。危険な機械への防護措置、転落防止、安全教育、人員配置、長時間労働の是正、健康状態への対応などが問題となります。この義務に違反して損害が生じた場合は、民法415条の債務不履行責任等を追及できる場合があります。

事故を起こした本人には不法行為責任(民法709条)、その勤務先には使用者責任(715条)を検討します。派遣先や元請会社についても、現場の指揮監督、設備・安全管理の実態等から責任を負う場合があります。元請という立場だけで、すべての事故について当然に賠償責任を負うわけではありません。

労災認定と民事責任は判断の対象が異なるため、認定されたことだけで会社の賠償責任が自動的に確定するわけではありません。事故原因、必要だった安全措置、その違反、損害との因果関係を具体的に示すことが重要です。

民事賠償で検討する主な損害
項目内容の例
治療・介護等の費用必要な治療費、通院交通費、付添費、将来介護費、装具費、住宅改修費等
休業損害事故・病気により働けず失った収入
逸失利益後遺障害や死亡がなければ将来得られたはずの利益。収入、労働能力への影響、期間等から算定
慰謝料入通院、後遺障害、死亡等による精神的苦痛に対する賠償
死亡に伴う損害葬儀関係費、死亡逸失利益、本人・一定の近親者の慰謝料等

本人にも事故への過失があれば、民事賠償では過失相殺による減額が問題となります。ただし、「本人の不注意」との説明をそのまま受け入れるのではなく、危険な作業方法が現場で常態化していなかったか、安全教育や防護措置が十分だったかを確認してください。

会社から「労災の申請と、元請業者から賠償金を取ってやるから委任状を出すように」と言われた場合も、会社自身の責任が問題になることがあります。誰の利益のための交渉か、委任状にどこまでの権限を与えるのかを確認し、被災者・ご遺族の立場から独立して判断することが大切です。

根拠:労働契約法5条、民法415条・709条・715条・722条/関連:QA第567番(元請・下請会社の責任と交渉)

9 交通事故・労災給付との調整・示談

仕事中・通勤中の交通事故では、労災保険のほか、加害者への損害賠償、自賠責保険、任意保険、人身傷害保険等の利用を検討します。労災と自賠責等のどちらを先に利用するかは選択できますが、過失割合、治療費、保険金額、休業の状況によって有利な進め方が異なります。

第三者の行為による事故について労災請求をする場合は、通常の請求書に加えて「第三者行為災害届」等が必要です。加害者側から受け取った金額や示談の状況も正確に申告してください。

二重取りはできませんが、すべての給付を一括控除するわけではありません

労災給付と民事賠償で同じ損害を重複して補償しないよう、支給調整や控除が行われます。例えば、休業補償や障害・遺族給付は、その性質に対応する収入喪失等の損害との調整が問題になります。慰謝料から労災給付を当然に差し引く、という扱いではありません。

休業特別支給金などの特別支給金は、原則として損害填補を目的とする保険給付とは区別され、民事賠償から控除しない取扱いです。また、未支給の将来の年金を、生涯分まとめて当然に控除できるわけではありません。給付の種類、既払い額、支給確定の有無、会社と第三者のどちらへの請求かを分けて検討します。

示談書では、治療費・休業損害・慰謝料等の内訳、既払いの労災給付、将来の給付や後遺障害の扱いを明確にします。損害賠償請求権を放棄する内容によっては、その後の労災給付に影響する場合もあります。示談前に、担当の労働基準監督署と弁護士へ確認してください。

参照:厚生労働省「第三者行為災害のしおり」、QA第1090番(労災給付と損害賠償の調整)、QA第2032番(特別支給金等の扱い)

10 不支給・障害等級への不服申立て

業務との関係を認めてもらえなかった、休業の一部が認められなかった、障害等級が低いなど、保険給付の決定に不服がある場合は、決定通知の理由を確認し、不服申立てを検討できます。

  1. 審査請求:決定があったことを知った日の翌日から起算して、原則3か月以内に、労働者災害補償保険審査官へ請求します。
  2. 再審査請求又は取消訴訟:審査官の決定にも不服がある場合、労働保険審査会への再審査請求を選択できます。その期限は原則として決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月です。再審査請求を経ずに取消訴訟を提起することもできます。
  3. 取消訴訟の相手方:通常は国を被告として、不支給処分等の取消しを求めます。労働基準監督署長個人を被告にするものではありません。

取消訴訟は原則として審査官の決定を経る必要がありますが、審査請求から3か月を経過しても決定がない場合などには例外があります。出訴期間は、審査請求に対する決定を知った日から原則6か月、決定の日から原則1年などの制限があります。再審査請求をした場合の起算点も含め、通知書の教示と具体的な日付を必ず確認してください。

「不服です」と述べるだけでなく、労働時間の認定漏れ、心理的負荷の評価、医学的意見、事故状況や等級基準への当てはめなど、どこが誤っているかを資料で示します。必要に応じて、労災調査資料の開示請求、追加の医師意見、同僚の陳述等を検討します。

根拠:厚生労働省「労災保険審査請求制度」、労災保険法38条・40条、労働保険審査官及び労働保険審査会法8条・38条、行政事件訴訟法8条・11条・14条

11 時効・手続期限の一覧

すべての請求が「事故から2年」ではありません。給付の種類や損害の内容により、期間も起算点も異なります。次の表は、令和8年9月現在の制度と、現行民法が適用される場合の基本的な整理です。

主な請求期限と確認事項
請求等原則の期間起算点・注意点
労災の療養費用2年療養費用の支出が具体的に確定した日の翌日から。医療機関で直接受ける「療養の給付」と、立替費用の請求は区別します。
労災の休業給付2年賃金を受けない日ごとに、その翌日から。
労災の障害給付5年傷病が治ゆ・症状固定した日の翌日から。
労災の遺族給付5年原則として死亡日の翌日から。既発生の年金支分権等は別途確認。
葬祭料等2年死亡日の翌日から。遺族給付と期間が異なります。
介護給付2年介護を受けた月の翌月1日から。
生命・身体の侵害による不法行為の損害賠償5年/20年損害及び加害者を知った時から5年、又は不法行為の時から20年。民法724条・724条の2。
安全配慮義務違反による生命・身体の侵害の損害賠償5年/20年権利を行使できると知った時から5年、又は権利を行使できる時から20年。民法166条・167条。
自賠責保険の被害者請求3年自賠法19条に基づき、損害・保有者を知った時等を確認。通常、傷害は事故、後遺障害は症状固定、死亡は死亡を基準に検討します。
任意保険の保険給付請求権原則3年権利を行使できる時から(保険法95条)。契約・約款・請求の性質を確認。加害者への損害賠償請求とは区別します。
労災決定への審査請求原則3か月決定があったことを知った日の翌日から。再審査・訴訟の期限は前項参照。

令和2年4月1日の民法改正前の契約・事故等については、経過措置により旧法が適用される場合があります。後遺障害や遅れて発症する疾病では、起算点が争点になることもあります。労災申請をしただけで会社への損害賠償請求の時効も止まる、とは考えないでください。単なる相談や交渉だけでは足りない場合があり、請求先ごとに完成猶予・更新の措置を検討します。

根拠:労災保険法42条、民法、自動車損害賠償保障法19条、保険法95条、労災保険給付の概要・時効の説明(PDF)

12 休業中の解雇・退職

業務上のけが・病気の療養のため休業する期間と、その後30日間は、原則として解雇が禁止されます(労働基準法19条)。ただし、打切補償など法律上の例外があります。通勤災害に、この解雇制限がそのまま適用されるわけではありません。

療養開始後3年を経過しても治らない場合の平均賃金1200日分の打切補償(同法81条)や、傷病補償年金と打切補償のみなし規定(労災保険法19条)には、個別の要件があります。単に「3年たったから解雇できる」という制度ではありません。また、解雇制限の例外に該当しても、労働契約法16条の解雇権濫用の判断は別途必要です。

退職しても、労災給付を受ける権利は退職だけを理由に失われません(労災保険法12条の5)。もっとも、退職の合意、復職・休職期間満了、解雇の有効性は別の問題です。書面への署名前に、就業規則、診断書、会社の説明を確認してください。

関連:QA第1741番「労災保険給付と打切補償」

13 参考になる判例・裁判例

判例は、具体的な事実関係を前提とした判断です。以下の考え方を参考に、事故状況、勤務実態、健康状態、会社が把握していた事情等を検討します。

電通事件・最高裁平成12年3月24日判決

長時間労働によるうつ病と自殺が問題となった事件です。使用者は、疲労や心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康を損なわないよう注意する義務を負うとされました。また、通常想定される個性の範囲内の性格を理由に、賠償額を減額した原審の判断が否定されています。「まじめな性格だったから本人の問題」として片付けず、業務量と会社の対応を検討する必要があります。

厚生労働省「こころの耳」電通事件の解説

東芝事件・最高裁平成26年3月24日判決

過重な業務によるうつ病について、精神科への通院等を会社に申告しなかったことなどを理由に、損害額を減額した判断が問題となりました。最高裁は、精神的健康に関する情報がプライバシーに関わることや、会社が把握できた状況等を踏まえ、減額を認めた原審の判断を是認しませんでした。病名の申告の有無だけでなく、会社が業務の負担や健康悪化を把握できたかが重要です。

裁判所・平成23年(受)第1259号判決全文(PDF)

専修大学事件・最高裁平成27年6月8日判決

労災保険から療養補償給付を受けている労働者についても、療養開始後3年を経過して治らない場合に、使用者が労働基準法81条の打切補償を支払うことで、同法19条の解雇制限の例外の適用を受け得るとされました。これは解雇を無条件で有効にする判断ではなく、解雇権濫用の有無等は別に検討します。

新銀座法律事務所・QA第1741番(判決の紹介と解説)

札幌地方裁判所令和6年2月6日判決に関する解説

当事務所のQA第2032番では、公務員の過労自殺に関するこの判決を紹介し、安全配慮義務違反、損害額、遺族年金等との調整を検討しています。公務災害補償と民間労働者の労災保険の制度上の違いを踏まえつつ、勤務状況の立証や損害計算を考える資料になります。下級審の個別事例としてご参照ください。

新銀座法律事務所・QA第2032番

14 最近の改正と今後の施行

既に施行されている主な変更

  • 複数の勤務先がある方の補償(令和2年9月):一定の複数事業労働者について、複数の勤務先の賃金を合算した給付額の算定や、複数の業務の負荷を総合した認定が行われます。副業先の勤務資料も保管してください。
  • 脳・心臓疾患の認定基準(令和3年9月の改正等):労働時間以外の負荷も総合評価します。
  • 精神障害の認定基準(令和5年9月):カスタマーハラスメント等の具体例、既存の精神障害の悪化の取扱い等が見直されました。
  • フリーランスの特別加入(令和6年11月):特定フリーランス事業が新たな対象になりました。対象業務・加入手続を確認する必要があり、フリーランスであれば自動的に加入する制度ではありません。事故後の加入で過去の事故が補償されるものでもありません。

令和8年改正法:主な施行は令和9年4月1日です

令和8年法律第60号は、令和8年7月17日に公布されました。厚生労働省の公表資料によれば、主に次の改正が令和9年4月1日から施行されます。

  • 遺族補償年金等について、夫にのみ課されている年齢・障害の要件を撤廃。
  • 遺族が1人の場合の年金額を、原則153日分(一定の妻は175日分)から、一律で給付基礎日額175日分へ見直し。
  • 業務上の疾病かどうか等の判断が容易でないものとして政令で定める疾病について、療養補償給付等の請求権等の時効を2年から5年へ延長。
  • 特別加入団体の要件・監督や、社会復帰促進等事業に関する不服申立ての制度を整備。

農林水産業の一部の小規模個人事業について暫定任意適用を廃止する改正は、公布から5年以内の政令で定める日に施行されます。

現在の請求を、将来の時効延長を期待して先送りしないでください。時効延長はすべての労災請求を一律5年にするものではありません。対象疾病・経過措置や、遺族給付の個別の適用関係は、施行時の法令等で確認する必要があります。

厚生労働省「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第60号)について」

15 新銀座法律事務所の無料法律相談

「労災申請を会社に断られた」「会社の責任を追及できるか知りたい」「後遺障害や示談金が適切か不安」「不支給の通知が届いた」など、どこから手を付ければよいか分からない段階でもご相談ください。

弁護士への依頼では、事故原因や勤務資料の整理、証拠の収集・保全、労災認定や等級に関する主張の検討、不服申立て・行政訴訟、会社・元請・保険会社との交渉、損害賠償請求などを、事案に応じて検討できます。会社との関係や今後の働き方も含め、進め方を相談することができます。

まずは無料の電話相談をご利用ください

0120-48-5791

受付:平日9時~21時/土日祝日9時~18時

電話・LINE・メールフォームから受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解をご案内します。LINE・メールのご相談内容は500文字以内を目安とし、お名前・都道府県・電話番号をお知らせください。具体的な受付方法は下記の案内をご確認ください。

詳しい資料を検討する来所相談は1時間11,000円(税込)です。代理人としての交渉・申立て・訴訟等は別途のご契約となります。ご依頼の範囲と費用をご確認いただいてからお決めください。

相談時にあると役立つ資料

  • 事故・発病・休業・通院の経過を日付順にまとめたメモ
  • 診断書、検査結果、領収書、後遺障害に関する資料
  • 雇用契約書、就業規則、給与明細、勤怠・入退館記録
  • 現場写真、作業指示、メール、録音、同僚の説明等
  • 労災請求書の控え、支給・不支給通知、会社や保険会社の提示書面

すべてそろっていなくても構いません。特に不支給通知や示談書がある場合は、受け取った日と回答期限を先にお知らせください。

18 主な根拠法令・公的資料

条文は要旨として説明しています。適用時点と経過措置を確認のうえ、リンク先で原文をご参照ください。

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