新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1556、2014/10/27 12:00

【登記】

相続登記において登記簿上被相続人の住所が移転前のまま未登記で現在の住所と公的書類によって証明することができない場合の対策


質問:1年前に亡くなった父の遺産分割協議が終わりました。母は父が亡くなるよりも前に亡くなっており、相続人は私と弟の二人です。相続財産の中に両親が住んでいた家があるので、相続登記を申請する必要があります。
 しかし、その不動産の登記簿上に記載されている父の住所と最後の住所が異なっていることが判明し、住民票又は戸籍の附票で登記簿上の住所から最後の住所までの変更の経緯を証明する書面を添付するように法務局から言われました。しかし、両親は転勤により日本全国を転々としていたため、登記をした直後から途中までの住所の変更を証明する書類を取得することができませんでした。このような場合には、どのようにして住所の変更を証明したらいいのでしょうか。



回答:
ご質問の状況において、住所の変更を証明する書面を添付できない場合には、@当該登記簿上の住所における市区町村長発行の「不在籍証明書・不在住証明書(当該住所に被相続人の本籍あるいは住所がないということを証明する書面)」を添付し、かつ、A被相続人がその不動産の所有権を取得したときの権利証または登記識別情報(通知書)も添付します。万が一、Aの権利証が添付できない場合には、相続人全員からの上申書(実印押印、印鑑証明書付き)を添付することにより対応します。上申書の一例を後掲しますのでご参考ください。

登記関連事例集 1518番1516番1515番1492番1477番1148番905番857番733番712番554番394番391番75番68番参照。

解説:
 不動産の所有権者が死亡すると、その相続人に包括的に権利が承継され、死亡日に、相続を原因として、所有権が移転することになります。また、その後に相続人間で遺産分割協議が成立すれば、その協議に従って相続人に所有権が移転します。所有権が移転した場合は、相続人は、法務局に所有権の移転登記を申請して、登記簿に権利が移転したことを公示することができます。

 相続登記の申請にあたっては、登記原因証明情報として遺産分割協議書等の書類のほか、相続関係を証する書面として戸籍簿謄本、除籍簿謄本、本籍地付きの住民票または戸籍の附票を添付します。ここにおいて「本籍地付きの住民票の除票(以下「住民票の除票」といいます。)」あるいは「戸籍の附票」の添付が要求されるのは、登記簿上の名義人と当該相続登記の被相続人が同一人物であること(つまり、登記しようとしている不動産が本当に相続財産に含まれているということ)を当該書類に記載されている住所氏名と登記簿上の名義人の住所氏名との一致をもって明らかにする必要があるからです。故に、被相続人の登記簿上の住所と最期の住所(亡くなった時の住所地)が異なる場合には、併せて、被相続人の住所の変更の経緯を住民票の除票又は除戸籍の附票で証明していく必要があるのです。具体的には、不動産の登記簿に登記された住所地の住民票除票から、相続開始時(死亡時)の住所地の住民票除票まで、「○年○月○日○市○町○番地に転出」「○年○月○日○市○町○番地より転入」などの記録が連続しており、登記簿に記載された人物が、添付された戸籍謄本と住民票除票で死亡した人物と同一人物であると確認できることが必要となるのです。登記簿上の住所と現在の住所が異なると、書類上は他人ということになります。というのは本来、住所が変われば、そのたびに住所変更の登記をするのが原則ですから、住所変更の登記をしていれば、亡くなった時の住所と登記簿上の住所は一致しているはずです。ですから、登記簿上の住所と亡くなった時の住所が異なるということは、原則として異なった人物と考える必要があるからです。登記簿上の住所と現住所が異なる場合は、住所変更について確認する必要があり、確認が不確実でおろそかにされてしまいますと、虚偽の相続登記(被相続人の者でない財産についての相続登記)がなされてしまい、正当な権利者から見れば自分の不動産が勝手に第三者に対して相続を原因として移転登記されてしまうというリスクを生じてしまう事になりますので、法務局としては、この確認作業は極めて厳格に行うことが原則となっているのです。

 しかしながら、登記簿上の名義人である被相続人が、当該不動産を取得後に住所を転々としていたような場合や、被相続人が亡くなってから相当期間が過ぎた後に相続登記を申請しようとする場合には、途中の住所変更の経緯を証明することはもちろん、最後の住所をも証明することができないということは珍しいことではありません。これは、住民票も戸籍の附票は、除票となって(引越しであれば、その行政区画から転出後(住民票)、または転籍後(戸籍の附票)、死亡であれば亡くなった後(住民票、戸籍の附票とも))から5年経過後に、戸籍の附票も当該戸籍が除籍となり除票となってから5年(法律で定められた保管期限)を経過することにより廃棄されてしまうからです。従って、不動産を取得したのが数十年以上前であって、かつ、住民票の移転と本籍地の移転を何度も繰り返しているようなケースでは、住民票除票と戸籍の附票の保管期限が過ぎてしまって、登記された不動産取得当時の住所地と、現在の住所地との間の移転の履歴(繋がり)を証明することができなくなってしまっているケースも起こりうることになってしまいます。本来は、住所が変わるたびに住民票に基づき住所変更の登記をするのが原則ですが、費用もかかることから移転登記手続き等必要がない限りは、住所変更登記をしない場合が多いことも事実ですので、何らかの救済処置を取っておく必要があります。

このような住民票と戸籍の附票の両方が廃棄され、登記簿上の名義人と被相続人が同一人であることを証明できないケースにおいて、法務局は、前述の【回答】に記載したいくつかの方法を用意して当該不動産の登記名義人と申請にかかる被相続人が同一人であることを確認しています(なお、このケースに対する対応が法務局により異なる場合もありますので、申請される法務局に念のため直接確認されることをお勧めします。)。

以下、添付すべき書類について解説します。

@不在籍証明書・不在住証明書

当該登記簿上の住所に被相続人の本籍及び住所がないことを証明する書面です。登記簿上の住所地に被相続人の名前で本籍や住民票があると、被相続人とは別の人物が存在する可能性があります。そこで、登記簿上の名前ではその住所地に本籍や住所がある人がいないということを証明することができれば、登記簿上の人物と被相続人が同一人物、所有権者である可能性が極めて高くなることからこのような書類が要求されています。請求先は、当該住所の市区町村長です。「本籍」と「住所」について、それぞれ証明するものですが「不在住・不在籍証明書」として1通にまとめられている市区町村もありますが、「本籍」と「住所」の両方について証明書が必要となります。通常の戸籍謄本や住民票の写しの交付申請とは異なる手続きですので、事前に各市役所の戸籍係や住民登録係に連絡し、事情を説明して相談しながら証明書の発行申請をすることになります。

A当該不動産取得時の権利証または登記識別情報(通知書)

被相続人がその不動産の所有権を取得したときの権利証または登記識別情報(通知書)を添付します。登記名義人以外が持って(知って)いるはずのないものを登記名義人の相続人を名乗る申請人が持っている(あるいは、知っている)、という事実から、申請人が登記名義人の相続人であり、当該申請にかかる被相続人と登記名義人は同一人物であることが強く推測できる、ということになります。

B相続人全員からの上申書(各自の実印押印、印鑑証明書付き)

今回のご相談のケースでは、住民票の除票あるいは戸籍の除票の代わりに上記@Aを添付すれば足りますが、度重なる引越し等でAの権利証等の存在を相続人が把握できない場合もあります。このようなケースでは、相続人全員からの「登記簿上の名義人と当該相続登記にかかる被相続人は同一人物に相違ない」旨の上申書(各自の実印押印、印鑑証明書付き)を提出して対応していくことになります。相続人が自分の権利であることを申し出る訳ですから、自分の利益なることで必ずしも信用性があるとは言えませんが、一種の保証というか誓約のようなもので、被相続人が登記簿上の名義人であることを保証する、間違っていたら責任を取るという申し出と考えられます。他に方法がないので、やむを得ず担保的な書類と考えて良いでしょう。なお、法務局によりその対応方法や書面の記載内容が異なることがあります。例外的な取扱いですので、事前に法務局の登記受付係と相談しながら手続きを進めて行くことになります。通常の相続登記であればご自分で手続きすることも不可能ではありませんが、本件のような例外的な事例では弁護士や司法書士に手続きを依頼された方が良いでしょう。

**書式例**

上  申  書

東京法務局○○○出張所 御中
     被相続人の表示
     被相続人    A (大正○○年○○月○○日生)  
     相続開始の日  平成○○年○○月○○日
     最後の本籍   東京都○○区○○一丁目2番地
     最後の住所   東京都○○区○○二丁目3番4号
     登記簿上の住所 東京都○○区○○三丁目4番地

今般,後記記載の不動産(以下「本件不動産」といいます。)の所有権登記名義人である 亡A の相続を原因とする所有権移転登記(以下「本件相続登記」といいます。)を申請致しますが,登記簿上の住所である「東京都○○区○○三丁目4番地」から最後の住所である「東京都○○区○○二丁目3番4号」までの変更を証明する資料が存在しないため,本件不動産の所有権登記名義人である A と,本件相続登記の被相続人である 亡A との同一性を証明することができません。

しかしながら、本件不動産の登記簿上の所有権登記名義人である A と、本件相続登記の被相続人である 亡A とが同一人であることに相違なく,また,本件相続登記が受理されることにより,その権利関係においていかなる紛争が生じることはございません。万が一,他から異議の申し出等があったときは,当方において処理し,御庁にご迷惑をお掛けすることはございませんので,本件登記申請を受理されたく,ここに上申致します。

不動産の表示
    所  在  ○○区○○町一丁目
    地  番  2番3
    地  目  居宅
    地  積  123.45u

平成  年  月  日

被相続人A相続人
住  所 東京都○○区○○二丁目3番4号

      氏  名                 実印

      住  所 東京都○○区○○二丁目3番4号

      氏  名                 実印

      住  所 東京都○○区○○二丁目3番4号

      氏  名                 実印

 ※念のため、上申書の内容について、事前に登記を申請する法務局に直接確認されることをお勧めします。


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