刑の執行終了後5年以内における覚醒剤の自己使用

【刑事|薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律】

質問

 私の息子は、窃盗の罪で実刑判決を受け、刑務所に服役しておりましたが、昨年3月に出所いたしました。

 ところが、先日、息子が、覚醒剤を使用したとして、覚醒剤取締法違反の罪で逮捕・勾留され、その後、起訴されるに至りました。

 本人の話によれば、覚醒剤に手を出したのは今回が初めてであり、友人から強く勧められる中で、軽率にもこれに応じてしまったとのことでした。一時は、息子を見放すべきではないかとさえ思い悩みました。しかしながら、今回初めて手を出したという点や、出所後真面目に生活を立て直そうとしていた姿を思い返すにつけ、なお更生の余地があるのではないか、親として支え直すべきではないかとの思いに至りました。

 つきましては、息子が本件を真摯に受け止め、深く反省した上で、再び社会の一員として更生することができるよう、親として可能な限りの支援を尽くしたいと考えておりますが、息子の処分が少しでも情状面において酌量されるためには、どのような具体的取組みが考慮され得るのでしょうか。

回答

薬物事犯については、依存症という特性に鑑み、通常の刑法の枠組みにとどまらず、特則が設けられ、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」により、前刑の執行終了から5年以内であっても、一部執行猶予を付することが可能とされています。この特則は、単に処罰するだけでなく、治療と社会内更生を組み合わせて再犯防止を図るという観点から設けられたものであり、薬物事犯に特有の重要な制度といえます。息子さんについても刑の一部執行猶予の可能性があります。

 実務における情状弁護では、この特則の適用を見据え、単なる反省の表明にとどまらず、医療機関での継続的かつ具体的な治療状況、家族による現実的かつ継続可能な監督体制、薬物に結び付く交友関係の遮断といった事情を、客観的資料に基づいて丁寧に主張立証することが不可欠です。

 本件においても、これらの事情が認められる場合には、再犯可能性が低減しているものと評価され、刑の一部の執行猶予が付されることにより、社会内における更生の機会が与えられる可能性は十分にあるといえるでしょう。

解説

1 覚醒剤取締法の概要

  覚醒剤取締法は、覚醒剤の濫用による健康被害や各種犯罪の誘発を防止することを目的として、覚醒剤に関する行為を厳格に規制する法律です。この法律は、国民の生命・身体の安全を確保し、社会秩序を維持する観点から、覚醒剤の使用及び流通を広く禁止している点に大きな特徴があります。

  覚醒剤取締法においては、覚醒剤に関する多様な行為が広く規制されています。例えば、覚醒剤の所持については、「何人も、覚醒剤を所持してはならない」(同法14条)と規定され、また、使用についても、「何人も、覚醒剤を使用してはならない」(同法19条)と規定され、これらの行為が明確に禁止されています。さらに、製造、輸入、輸出、譲渡及び譲受についても、それぞれ厳格な規制が設けられており、特に営利目的でこれらの行為を行った場合には、より重い刑罰が科される構造となっています。

  これらの禁止規定に違反した場合の法定刑については、覚醒剤取締法41条以下に詳細に定められています。すなわち、覚醒剤の単純所持や自己使用については、「10年以下の拘禁刑」(同法41条の2第1項、同法41条の3第1号)とされているのに対し、営利の目的でこれらの行為を行った場合には、「1年以上の有期拘禁刑」とされ、刑の下限が引き上げられています(同法41条の2第2項、同法41条の3第2項)。さらに、覚醒剤の製造や輸出入といった重大な行為については、無期又は長期の拘禁刑が定められており、極めて厳しい処罰が予定されています。

  具体的な量刑判断(どの程度の刑罰を科すのが相当かを裁判所が決定する判断)にあたっては、単にこれらの法定刑の枠内で機械的に決せられるものではなく、個別具体的な事情が総合的に考慮されます。すなわち、初犯であるか否か、使用の回数や期間といった常習性の有無、覚醒剤の入手経緯、被告人の反省の程度、さらには、医療機関への通院状況や治療への取組みの有無、家族による監督体制の具体性等が重要な要素となります。とりわけ、覚醒剤事犯については、再犯率が高いとされていることから、再犯防止に向けた具体的かつ実効性のある取組みが示されているか否かが、量刑において極めて重要な意味を有します。

2 薬物事犯における執行猶予制度

 ⑴ 執行猶予制度の意義

   執行猶予制度とは、裁判所が有罪判決として拘禁刑を言い渡した場合であっても、直ちにその刑を執行することなく、一定期間その執行を猶予し、その期間を問題なく経過したときは、最終的に刑の執行を免除する制度をいいます(刑法25条、同法27条の2)。この制度は、比較的軽微な犯罪や、更生の可能性が高いと認められる被告人に対し、社会内での立ち直りの機会を与えることを目的としています。

 ⑵ 執行猶予の類型と基本的要件

  ア 執行猶予の類型

    執行猶予には、刑の全部についてその執行を猶予する全部執行猶予(刑法25条)と、刑期の一部を実際に執行した上で残余について猶予する一部執行猶予(同法27条の2)があります。

  イ 全部執行猶予の要件

    全部執行猶予は、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金である場合に限り付することができ(刑法25条1項柱書)、これを超える刑が言い渡される場合には付することができません。

    また、前科に関する制限が設けられており、前刑の執行終了又は免除の日から5年が経過していない場合や、前刑の執行猶予期間中である場合には、これを付することができません(刑法25条1項各号 執行猶予中の再度の執行猶予が温情的に認められることはあります。同条2項)。この点は、比較的軽微な事案に限定するという制度趣旨を具体化するものです。

    なお、前刑の執行終了とは、満期出所の場合は、その時点を指し、仮釈放の場合には、仮釈放によって出所した時点ではなく、残刑期間を問題なく経過した時点を指します。

  ウ 一部執行猶予の要件

    一部執行猶予は、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑である場合に付することができ(刑法27条の2第1項柱書)、一定期間の実刑部分を執行した上で、残余について執行が猶予されます。

    一部執行猶予についても、全部執行猶予の場合と同様、前科に関する制限が設けられており、前刑の執行終了又は免除の日から5年が経過していない場合には、これを付することができません。ただし、全部執行猶予とは異なり、執行猶予期間中であること自体は直ちに排除事由とはされていません(刑法27条の2第1項各号)。

 ⑶ 薬物事犯における執行猶予の運用

   薬物事犯においては、依存性に起因する再犯の危険性が高い一方で、適切な治療や支援により再犯防止が可能であるという特質があります。そのため、量刑判断においては、犯情のみならず、治療状況、更生可能性、支援体制の有無といった事情が重視されます。

   もっとも、制度上、前刑の執行終了又は免除の日から5年以内である場合には、全部執行猶予を付することはできません。このため、薬物使用の再犯事案では、全部執行猶予が選択できない場面が少なくありません。

   しかしながら、薬物依存の特性に照らすと、このような場合に直ちに実刑のみとすることは、治療機会を失わせ、再犯防止の観点から相当でない場合もあります。

   そこで、薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律は、このような事案に対応するため、刑の一部を執行した上で残余について執行を猶予し、保護観察の下で治療・指導を継続させる制度を整備しています。すなわち、同法3条により、薬物使用等の罪については、前刑の執行終了又は免除の日から5年以内の事案であっても、治療状況や更生可能性等を踏まえ、社会内での更生が相当と認められる場合には、一部執行猶予を付することが可能とされています。

   このように、薬物事犯の実務においては、全部執行猶予が制度上困難な場合であっても、一部執行猶予を通じて社会内処遇を実現する道が確保されており、刑罰と治療とを組み合わせた柔軟な対応が図られています。

3 薬物事犯における情状弁護の方法

 ⑴ はじめに

   薬物事犯における情状弁護においては、単に被告人の反省を指摘するにとどまらず、再犯防止に向けた具体的かつ実効性のある取組みが講じられていることを明らかにし、いかなる処遇が相当であるかを説得的に示すことが重要となります。

   とりわけ、覚醒剤事犯は再犯率が高いとされていることから、「再び同様の犯行に及ぶおそれが低いといえるか」という点が、量刑判断において中心的な判断要素となります。そのため、情状弁護においては、再犯の原因を踏まえた具体的な対策が講じられていることを、多角的に主張立証していく必要があります。

 ⑵ 薬物依存症の治療

   薬物事犯については、依存症という疾病的側面が強く認められることから、医療機関への通院状況や治療内容は、重要な情状事情となります。

   具体的には、専門医療機関への定期的な通院、医師の指導の下での治療の継続、グループ療法への参加状況などを明らかにし、治療が一時的・形式的なものではなく、継続的かつ実効的に行われていることを示すことが重要です。

   このような治療状況が認められる場合には、被告人が自らの問題を認識し、再犯防止に向けた具体的行動を取っているものとして、更生可能性を基礎付ける有力な事情となります。

 ⑶ 家族による監督

   家族による監督体制の有無及びその実効性も、重要な考慮要素となります。

   単に同居しているという事実にとどまらず、日常的なコミュニケーションの状況、生活状況の把握方法、金銭管理の方法、交友関係への関与の程度など、具体的な監督内容を明らかにすることが求められます。

   特に、薬物への再接触を防止する観点から、家族がどのように関与し、どの程度まで継続的に監督し得るのかを具体的に示すことができれば、社会内における再犯防止の実効性を裏付ける事情として評価され得ます。

 ⑷ 友人関係の整理

   薬物事犯においては、薬物入手の契機となった交友関係の存在が再犯の大きな要因となることが少なくありません。そのため、これらの関係を遮断する具体的措置が講じられているか否かは、重要な判断要素となります。

   具体的には、当該友人との連絡先の削除、携帯電話番号の変更、生活環境の変更等により、薬物に接触する機会そのものを遮断する措置が講じられているかを明らかにすることが有効です。

   このような措置が現実に講じられている場合には、再犯の契機が除去されているものとして、再犯可能性の低減を基礎付ける事情となります。

4 まとめ

  本件は、前刑の執行終了から5年以内という事情があるため、制度上、全部執行猶予を付することはできません。

  もっとも、薬物事犯の特性に照らせば、適切な治療及び現実的な監督体制が整えられている場合には、再犯防止を図りつつ社会内での更生を促すことが相当と評価される余地もあります。

  したがって、医療機関における継続的な治療、家族による具体的かつ実効性のある監督、交友関係の遮断及び安定した就労状況といった事情を、客観的資料に基づいて丁寧に主張立証していくことにより、刑の一部の執行猶予が付される可能性は十分に考えられます。

以上

参考条文

【刑法】

第25条(刑の全部の執行猶予)

1 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

 ① 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

 ② 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

2 前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が二年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

第27条の2(刑の一部の執行猶予)

1 次に掲げる者が三年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。

 ① 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

 ② 前に拘禁刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者

 ③ 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

2 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。

3 前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき拘禁刑があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき拘禁刑の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。

【覚醒剤取締法】

第14条(所持の禁止)

1 覚醒剤製造業者、覚醒剤施用機関の開設者及び管理者、覚醒剤施用機関において診療に従事する医師、覚醒剤研究者並びに覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者から施用のため交付を受けた者のほかは、何人も、覚醒剤を所持してはならない。

2 次の各号のいずれかに該当する場合には、前項の規定は適用しない。

 ① 覚醒剤製造業者、覚醒剤施用機関の管理者、覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者の業務上の補助者がその業務のために覚醒剤を所持する場合

 ② 覚醒剤製造業者が覚醒剤施用機関若しくは覚醒剤研究者に覚醒剤を譲り渡し、又は覚醒剤の保管換をする場合において、郵便若しくは民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第二項に規定する信書便(第二十四条第五項及び第三十条の七第十号において「信書便」という。)又は物の運送の業務に従事する者がその業務を行う必要上覚醒剤を所持する場合

 ③ 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師から施用のため交付を受ける者の看護に当たる者がその者のために覚醒剤を所持する場合

 ④ 法令に基づいてする行為につき覚醒剤を所持する場合

第19条(使用の禁止)

 次に掲げる場合のほかは、何人も、覚醒剤を使用してはならない。

 ① 覚醒剤製造業者が製造のため使用する場合

 ② 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者が施用する場合

 ③ 覚醒剤研究者が研究のため使用する場合

 ④ 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者から施用のため交付を受けた者が施用する場合

 ⑤ 法令に基づいてする行為につき使用する場合

第41条の2

1 覚醒剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(第四十二条第五号に該当する者を除く。)は、十年以下の拘禁刑に処する。

2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、一年以上の有期拘禁刑に処し、又は情状により一年以上の有期拘禁刑及び五百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

第41条の3

1 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の拘禁刑に処する。

 ① 第十九条(使用の禁止)の規定に違反した者

 ② 第二十条第二項又は第三項(他人の診療以外の目的でする施用等の制限又は中毒の緩和若しくは治療のための施用等の制限)の規定に違反した者

 ③ 第三十条の六(輸入及び輸出の制限及び禁止)の規定に違反した者

 ④ 第三十条の八(製造の禁止)の規定に違反した者

2 営利の目的で前項の違反行為をした者は、一年以上の有期拘禁刑に処し、又は情状により一年以上の有期拘禁刑及び五百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

【薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律】

第3条(刑の一部の執行猶予の特則)

 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第五十号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。

判例