新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1249、2012/4/3 14:46 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-higai.htm

【民事・痴漢行為による被害発生とプライバシーの保全・損害賠償請求の方法・犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律】

質問:私は先日電車内で痴漢行為を受けました。その場で犯人を捕まえて警察に突き出し、犯人は警察に逮捕されたようです。警察では、私も一通りの取調べを受けたあと、解放されました。加害者に慰謝料を請求したいのですが、この後私はどうすればよいのでしょうか?名前や連絡先を知られると、仕返しされるのではないかとおそろしいという気持ちもあります。

回答: 
1.犯罪による被害を受けた場合、加害者に対して損害賠償を求めることができますが、名前や連絡先を知られないように、という方法には限りがあります。早期に代理人弁護士を依頼すれば、名前、住所等などを被疑者に知られずに慰謝料を獲得できる可能性はあります。ただ、名前は、合意書等に記載する必要があり被疑者に分からないようにすることは困難ですが、相手方被疑者に弁護人がついていれば、合意書の記載方法の工夫、条件の付け方により、事実上貴方を特定することができない方法を取ることは可能です。又、合意書に違約金等を付加する等再度の被害を防止するような手続きはできると思われます。是非、お近くの法律事務所でご相談ください。

解説:
1 痴漢行為は、迷惑防止条例や刑法上の犯罪行為であり、民事上は被害を受けた被害者は、加害者に対して、不法行為(民法709条)による損害賠償を請求することができます。損害賠償の内容としては、衣服や持ち物などに具体的な被害が出ていればその金額、加害行為によって怪我をしていれば治療費、休業損害等の経済的な損害、そして、精神的損害に対する慰謝料(怪我による精神的な損害と痴漢行為やその後の刑事捜査等による迷惑による損害)を請求することができます。

2 これからどうすればよいか、という問題ですが、意外に誤解が多いのですが、警察は犯人を逮捕して処罰するまでが仕事であり、それ以上はあまり協力してくれません。加害者から謝罪の申出があった場合に(弁護士が刑事弁護人として金銭賠償を申し込んでも)、これを取り次いでくれる警察官もいますが、全く取り次いでくれない警察官もいます。被疑者を捜査し処罰するという職務の性質上、被害者との間で示談が成立するとせっかく捜査しても起訴されないことになってしまうことを嫌がる警察官もいます。憲法上認められている起訴前の弁護人の職務を全く理解しようとしない警察官も事実上存在します。黙っていると、何も知らないうちに刑事手続が全て終わっていた、ということもありえます。
 加害者(被疑者)とすれば、量刑上刑事の処分が決まる前に示談したいという気持ちが強いので、慰謝料等請求するのであれば刑事の処分が決まる前に話し合いをした方が、話が早いでしょう。悪質な加害者の場合刑事処分が終わると示談に応じない人もいますからこの点は重要です。もちろん、起訴された後でも損害賠償の請求は可能ですし、刑事事件の手続きの中でも損害賠償を請求する手続きもあります。

3 近時、法改正が進み、刑事の公判における被害者参加制度が創設されました。これは、加害者の裁判において、被害者として意見を述べたり、被告人に対して質問したりすることができる制度です。また、公判手続の中で、損害賠償請求をすることもできます。代理人弁護士を選任して、弁護士にこれを依頼することもできます(平成23年12月から国選被害者代理人制度も開始されます)。後記犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律参照。
 犯罪にも様々なものがあり、元々被害者と知人であるような場合や、重大な事件などで、捜査や公判の過程で被害者の氏名がどうしても明らかになってしまうケースはかなり多く、加害者(被告人)と被害者が一定の関係、少なくとも名前はわかっている、というケースでは、被害者参加制度を利用することにより、加害者に対して働きかけることができます。

4 しかしこれらの制度は、ご相談の趣旨にはあまり合致しません。電車内での痴漢事件の場合、以下のような特殊性があるからです。ア、加害者と被害者は全く知らない人であることが多い。イ、罰則はあまり重くないので、加害者の社会復帰は早めになることが多い。ウ、毎日乗る電車での犯行の場合、報復されるという心配がある。知らない人同士であれば、できればこのまま名前などは知られずにいたいでしょう。また、加害者が罰金刑略式裁判などで終了した場合、社会復帰は早く、被害者参加制度なども利用することができません。このような場合、自ら民事裁判を提起して損害賠償請求をする必要があります。民事裁判では、裁判官が客観的かつ公平に損害額を認定します。そして、精神的損害という目に見えないものの認定は厳格にされますので、思ったほど多額の慰謝料が望めない場合もあります。

5 上記のようなデメリットを回避するため、加害者(被疑者)の弁護活動を引き受けた場合、直ちに以下のような措置をとることが一般的に行われます。@早期に示談金と謝罪の手紙を準備し、検察官に示談交渉の開始を促す。A示談においては、弁護人が知りえた被害者の情報(住所等)は加害者側には伝えない。B被害者に対しいかなる方法でも連絡、接近しないように誓約し、通勤経路の変更など、被害者の安心を得られる措置をとる。 これは、示談成立による加害者(被疑者)のメリットももちろんありますが、被害者にとっても、早期かつ安全に、示談のメリットである謝罪の受領と、生活の平穏、通勤通学の安全を得ることができるものであるといえます。

6 通常、法律事務所では、被害者の方の弁護活動も引き受けています。すなわち、早期段階で被害者の代理人として活動し、警察検察各機関に、謝罪と示談を受け入れる用意があること、被害者の氏名、住所等の特定情報を秘密にすること、通勤経路等の変更を依頼するなど、代理人を通じて行います。この方法によれば、近年叫ばれている被害者の実質的救済が実現できると考えています。実際、被害者の正式な名前を加害者の弁護人にすら伝えなくても(例えば、被疑者に弁護人が付いていれば、合意書に被害者の名前を記載しても被疑者側には開示しない条件を付する。又は名前を消去し、苗字のみの記載とする。)、検察官の仲介により、示談を成立させることが可能です。

7 もちろん、しかるべき刑罰を受けさせるべきであり、その後、しかるべき方法で慰謝料を請求するべきである。示談というのは相手を許すことなので、納得できない。という被害者のご意見もよく伺います。どちらも正論です。しかし、迷惑防止条例などの犯罪の場合、法定刑と被害者のダメージに差があるように思えます。むしろ、早期の示談交渉で被害者の被害回復を図ることが、加害者被害者双方のメリットになる場合が多いかと思われます。被害者の交渉依頼もお近くの法律事務所でご相談ください。

【参照条文】

(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例) 抜粋
(目的)
第一条 この条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持することを目的とする。
(乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止)
第五条 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、多数でうろつき、又はたむろして、通行人、入場者、乗客等の公衆に対し、いいがかりをつけ、すごみ、暴力団(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第二号の暴力団をいう。)の威力を示す等不安を覚えさせるような言動をしてはならない。
3 何人も、祭礼または興行その他の娯楽的催物に際し、多数の人が集まつている公共の場所において、ゆえなく、人を押しのけ、物を投げ、物を破裂させる等により、その場所における混乱を誘発し、または助長するような行為をしてはならない。
(罰則)
第八条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
二 第五条第一項又は第二項の規定に違反した者
三 第五条の二第一項の規定に違反した者
2 前項第二号(第五条第一項に係る部分に限る。)の罪を犯した者が、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影した者であるときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 次の各号の一に該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一 第七条第二項の規定に違反した者
二 前条第三項の規定に違反した者
4 次の各号の一に該当する者は、五十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
一 第三条の規定に違反した者
二 第四条の規定に違反した者
三 第五条第三項又は第四項の規定に違反した者
四 第六条の規定に違反した者
五 第七条第一項の規定に違反した者
六 前条第一項の規定に違反した者
5 前条第二項の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
6 第七条第四項の規定による警察官の命令に違反した者は、二十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
7 常習として第二項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
8 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
9 常習として第三項の違反行為をした者は、六月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
10 常習として第四項の違反行為をした者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、犯罪により害を被った者(以下「被害者」という。)及びその遺族がその被害に係る刑事事件の審理の状況及び内容について深い関心を有するとともに、これらの者の受けた身体的、財産的被害その他の被害の回復には困難を伴う場合があることにかんがみ、刑事手続に付随するものとして、被害者及びその遺族の心情を尊重し、かつその被害の回復に資するための措置を定め、並びにこれらの者による損害賠償請求に係る紛争を簡易かつ迅速に解決することに資するための裁判手続の特例を定め、もってその権利利益の保護を図ることを目的とする。
   第二章 公判手続の傍聴
第二条  刑事被告事件の係属する裁判所の裁判長は、当該被告事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)又は当該被害者の法定代理人から、当該被告事件の公判手続の傍聴の申出があるときは、傍聴席及び傍聴を希望する者の数その他の事情を考慮しつつ、申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならない。
   第三章 公判記録の閲覧及び謄写
   第四章 被害者参加弁護士の選定等
(被害者参加弁護士の選定の請求)
第五条  刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号)第三百十六条の三十四 から第三百十六条の三十八 までに規定する行為を弁護士に委託しようとする被害者参加人(同法第三百十六条の三十三第三項 に規定する被害者参加人をいう。以下同じ。)であって、その資力(その者に属する現金、預金その他政令で定めるこれらに準ずる資産の合計額をいう。以下同じ。)から、手続への参加を許された刑事被告事件に係る犯罪行為により生じた負傷又は疾病の療養に要する費用その他の当該犯罪行為を原因として請求の日から三月以内に支出することとなると認められる費用の額(以下「療養費等の額」という。)を控除した額が基準額(標準的な三月間の必要生計費を勘案して一般に被害者参加弁護士(被害者参加人の委託を受けて同法第三百十六条の三十四 から第三百十六条の三十八 までに規定する行為を行う弁護士をいう。以下同じ。)の報酬及び費用を賄うに足りる額として政令で定める額をいう。以下同じ。)に満たないものは、当該被告事件の係属する裁判所に対し、被害者参加弁護士を選定することを請求することができる。
2  前項の規定による請求は、日本司法支援センター(総合法律支援法 (平成十六年法律第七十四号)第十三条 に規定する日本司法支援センターをいう。以下同じ。)を経由してしなければならない。この場合においては、被害者参加人は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める書面を提出しなければならない。
一  その資力が基準額に満たない者 資力及びその内訳を申告する書面
二  前号に掲げる者以外の者 資力及び療養費等の額並びにこれらの内訳を申告する書面
3  日本司法支援センターは、第一項の規定による請求があったときは、裁判所に対し、これを通知するとともに、前項の規定により提出を受けた書面を送付しなければならない。
(被害者参加弁護士の候補の指名及び通知)
第六条  日本司法支援センターは、前条第一項の規定による請求があったときは、裁判所が選定する被害者参加弁護士の候補を指名し、裁判所に通知しなければならない。
2  前項の規定にかかわらず、日本司法支援センターは、次条第一項各号のいずれかに該当することが明らかであると認めるときは、前項の規定による指名及び通知をしないことができる。この場合においては、日本司法支援センターは、裁判所にその旨を通知しなければならない。
3  日本司法支援センターは、第一項の規定による指名をするに当たっては、前条第一項の規定による請求をした者の意見を聴かなければならない。
(被害者参加弁護士の選定)
第七条  裁判所は、第五条第一項の規定による請求があったときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、当該被害者参加人のため被害者参加弁護士を選定するものとする。
一  請求が不適法であるとき。
二  請求をした者が第五条第一項に規定する者に該当しないとき。
三  請求をした者がその責めに帰すべき事由により被害者参加弁護士の選定を取り消された者であるとき。
2  裁判所は、前項の規定により被害者参加弁護士を選定する場合において、必要があるときは、日本司法支援センターに対し、被害者参加弁護士の候補を指名して通知するよう求めることができる。この場合においては、前条第一項及び第三項の規定を準用する。
(被害者参加弁護士の選定の効力)
第八条  裁判所による被害者参加弁護士の選定は、審級ごとにしなければならない。
2  被害者参加弁護士の選定は、弁論が併合された事件についてもその効力を有する。ただし、被害者参加人が手続への参加を許されていない事件については、この限りでない。
3  被害者参加弁護士の選定は、刑事訴訟法第三百十六条の三十三第三項 の決定があったときは、その効力を失う。
4  裁判所により選定された被害者参加弁護士は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。
5  前項の規定により被害者参加弁護士に支給すべき旅費、日当、宿泊料及び報酬の額については、刑事訴訟法第三十八条第二項 の規定により弁護人に支給すべき旅費、日当、宿泊料及び報酬の例による。
   第五章 民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解
(民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解)
第十三条  刑事被告事件の被告人と被害者等は、両者の間における民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る。)について合意が成立した場合には、当該被告事件の係属する第一審裁判所又は控訴裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
2  前項の合意が被告人の被害者等に対する金銭の支払を内容とする場合において、被告人以外の者が被害者等に対し当該債務について保証する旨又は連帯して責任を負う旨を約したときは、その者も、同項の申立てとともに、被告人及び被害者等と共同してその旨の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
3  前二項の規定による申立ては、弁論の終結までに、公判期日に出頭し、当該申立てに係る合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実を記載した書面を提出してしなければならない。
4  第一項又は第二項の規定による申立てに係る合意を公判調書に記載したときは、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
(和解記録)
第十四条  前条第一項若しくは第二項の規定による申立てに基づき公判調書に記載された合意をした者又は利害関係を疎明した第三者は、第三章及び刑事訴訟法第四十九条 の規定にかかわらず、裁判所書記官に対し、当該公判調書(当該合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実が記載された部分に限る。)、当該申立てに係る前条第三項の書面その他の当該合意に関する記録(以下「和解記録」という。)の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付を請求することができる。ただし、和解記録の閲覧及び謄写の請求は、和解記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
2  前項に規定する和解記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付の請求に関する裁判所書記官の処分に対する異議の申立てについては民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第百二十一条 の例により、和解記録についての秘密保護のための閲覧等の制限の手続については同法第九十二条 の例による。
3  和解記録は、刑事被告事件の終結後は、当該被告事件の第一審裁判所において保管するものとする。
(民事訴訟法 の準用)
第十五条  前二条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に関する手続については、その性質に反しない限り、民事訴訟法第一編第三章第一節 (選定当事者及び特別代理人に関する規定を除く。)及び第四節 (第六十条を除く。)の規定を準用する。
(執行文付与の訴え等の管轄の特則)
第十六条  第十三条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に係る執行文付与の訴え、執行文付与に対する異議の訴え及び請求異議の訴えは、民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第三十三条第二項 (同法第三十四条第三項 及び第三十五条第三項 において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、当該被告事件の第一審裁判所(第一審裁判所が簡易裁判所である場合において、その和解に係る請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは、その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)の管轄に専属する。
   第六章 刑事訴訟手続に伴う犯罪被害者等の損害賠償請求に係る裁判手続の特例
    第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第十七条  次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一  故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二  次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2  損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3  前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。
(申立書の送達)
第十八条  裁判所は、前条第二項の書面の提出を受けたときは、第二十一条第一項第一号の規定により損害賠償命令の申立てを却下する場合を除き、遅滞なく、当該書面を申立ての相手方である被告人に送達しなければならない。
(管轄に関する決定の効力)
第十九条  刑事被告事件について刑事訴訟法第七条 、第八条、第十一条第二項若しくは第十九条第一項の決定又は同法第十七条 若しくは第十八条 の規定による管轄移転の請求に対する決定があったときは、これらの決定により当該被告事件の審判を行うこととなった裁判所が、損害賠償命令の申立てについての審理及び裁判を行う。
(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第二十条  損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第十三条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は、刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは、これを行わない。
2  裁判所は、前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間、申立人に、当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。
(申立ての却下)
第二十一条  裁判所は、次に掲げる場合には、決定で、損害賠償命令の申立てを却下しなければならない。
一  損害賠償命令の申立てが不適法であると認めるとき(刑事被告事件に係る罰条が撤回又は変更されたため、当該被告事件が第十七条第一項各号に掲げる罪に係るものに該当しなくなったときを除く。)。
二  刑事訴訟法第四条 、第五条又は第十条第二項の決定により、刑事被告事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することとなったとき。
三  刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百二十九条 若しくは第三百三十六条 から第三百三十八条 までの判決若しくは同法第三百三十九条 の決定又は少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条 の決定があったとき。
四  刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合において、当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当しないとき。
2  前項第一号に該当することを理由とする同項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3  前項の規定による場合のほか、第一項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(時効の中断)
第二十二条  損害賠償命令の申立ては、前条第一項の決定(同項第一号に該当することを理由とするものを除く。)の告知を受けたときは、当該告知を受けた時から六月以内に、その申立てに係る請求について、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
    第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第二十三条  損害賠償命令の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2  前項の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
(審理)
第二十四条  刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には、裁判所は、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし、直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは、裁判長は、速やかに、最初の審理期日を定めなければならない。
2  審理期日には、当事者を呼び出さなければならない。
3  損害賠償命令の申立てについては、特別の事情がある場合を除き、四回以内の審理期日において、審理を終結しなければならない。
4  裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならない。
(審理の終結)
第二十五条  裁判所は、審理を終結するときは、審理期日においてその旨を宣言しなければならない。
(損害賠償命令)
第二十六条  損害賠償命令の申立てについての裁判(第二十一条第一項の決定を除く。以下この条から第二十八条までにおいて同じ。)は、次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。
一  主文
二  請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三  理由の要旨
四  審理の終結の日
五  当事者及び法定代理人
六  裁判所
2  損害賠償命令については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3  第一項の決定書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
4  裁判所は、相当と認めるときは、第一項の規定にかかわらず、決定書の作成に代えて、当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては、当該裁判の効力は、その告知がされた時に生ずる。
5  裁判所は、前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には、裁判所書記官に、第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
    第三節 異議等
(異議の申立て等)
第二十七条  当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2  裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
4  適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
5  適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する。
6  民事訴訟法第三百五十八条 及び第三百六十条 の規定は、第一項の異議について準用する。
(訴え提起の擬制等)
第二十八条  損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てに係る請求については、その目的の価額に従い、当該申立ての時に、当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは、当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、第十七条第二項の書面を訴状と、第十八条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2  前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
3  第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は、その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、決定で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4  前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(記録の送付等)
第二十九条  前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、第二十四条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2  裁判所書記官は、前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。
(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第三十条  第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は、民事訴訟法第二百十九条 の規定にかかわらず、書証とすべきものを特定することによりすることができる。
(異議後の判決)
第三十一条  仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において、当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは、その判決において、損害賠償命令を認可しなければならない。ただし、損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは、この限りでない。
2  前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては、損害賠償命令を取り消さなければならない。
3  民事訴訟法第三百六十三条 の規定は、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において、同法第三百六十三条第一項 中「異議を却下し、又は手形訴訟」とあるのは、「損害賠償命令」と読み替えるものとする。
    第四節 民事訴訟手続への移行
第三十二条  裁判所は、最初の審理期日を開いた後、審理に日時を要するため第二十四条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは、申立てにより又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2  次に掲げる場合には、裁判所は、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一  刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに、申立人から、損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二  損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに、当事者から、当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり、かつ、これについて相手方の同意があったとき。
3  前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4  第二十八条から第三十条までの規定は、第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。
    第五節 補則
(損害賠償命令事件の記録の閲覧等)

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