別荘地の管理会社からの請求
民事|別荘地の土地のみ所有者に対する別荘地管理会社からの管理費用請求はできるか|別荘地所有者の利益と別荘地管理会社・管理組合の利益対立|最高裁判所令和7年6月30日判決(令和5年(受)第2461号不当利得返還等請求事件)
目次
質問:
数年前別荘地(更地)を購入しました。この別荘地は一帯を管理会社が管理している土地で毎年管理費がかかることも知っていました。しかし、建物をすぐに建てる予定もなく、土地を利用しておりませんでしたので管理会社から管理契約を締結するようにという手紙は来ていましたが管理委託契約は締結せずにおりました。
先日、管理会社の代理人弁護士から内容証明郵便が届き、別荘地の規約により管理契約の締結をお願いします、管理業務により別荘地の価値が維持・向上しているから、管理会社と契約していなくても事務管理あるいは不当利得として管理費用を請求すると書いてありました。契約もしていないのに無理やり請求されることなんてあるのでしょうか。どのように対応すべきでしょうか。
回答:
1、管理契約を締結してなくても、何らかの利益を得ているという場合、管理会社から管理費相当の金銭の請求が認められる場合があります。この問題については、肯定否定する裁判例がありましたが、近時の最高裁の判決では管理会社の管理費相当の請求を認めています
2、日本全国の別荘地で同様の問題が発生していますが、私道の所有状況など別荘地の形態や権利関係によって若干事情が異なる場合があります。多くの別荘地は単独で存在することはできず、数十から数百の区画がまとまって存在し、共通の道路や街灯やごみ置き場などを共同で管理して運営されています。あなたは別荘地に建物を所有しておらず別荘地を利用しておらず訪れることも無いということで管理への関心が薄いのかもしれませんが、別荘地に至る道路の陥没を補修して通行の危険を除去するような行為は、別荘地所有者の法的責任を軽減ないし予防する有益な行為と評価することもできます。契約関係に無い第三者の行為により、あなたが利益を受けた場合に、その利益を第三者に返還しなければならないという法規範があり、民法703条で不当利得の返還義務が法定されています。
3、別荘地の管理会社の管理行為について不当利得返還請求の可能性があることを判示した近時の最高裁判所の判例がありますので御紹介致します。
4、最高裁判決では具体的な金額や基準や計算方法は示されていませんが、管理会社が他の別荘地所有者との間で締結している管理契約で定める管理費相当の金額の請求を認めています。
5.別荘地・管理組合に関する関連事例集参照。関連事例集1381番等参照。その他関連1202番、1071番、1013番参照
解説:
1、不当利得返還請求、事務管理
多くの別荘地では、管理組合が組織されたり、管理会社と所有者との間で管理委託契約が締結されていたりします。例えばマンションであれば、区分所有法3条で区分所有者の全員が管理組合に強制加入することが法定されていますが、別荘地の敷地所有権は個々の独立した所有権であり、別荘地の管理組合に強制加入することを規定した法律はありません。
区分所有法3条(区分所有者の団体)区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
そこで別荘地の場合は、分譲時のデベロッパーが、分譲時の条件として管理会社との管理委託契約の締結を求め、最初の別荘地所有者は全員がこの契約を管理会社との間で締結する取り扱いが行われています。分譲時の土地売買契約書には、「別荘地を譲渡する場合は譲受人も管理委託契約を締結する。」「別荘地を譲渡する場合は譲受人も管理組合に加入する義務を負う。」というような特約条項が入っていることがほとんどです。しかし、この特約は分譲時の当事者間のみが契約しているものですから、特約により発生する管理料債権も、契約した当事者のみ請求できることになります。別荘地が第三者に譲渡されると、この特約は買主には適用されないことになります。分譲時の契約当事者でない第三者に、この分譲当事者間の特約を強制することはできないのです。
契約関係に無い当事者間において、契約に基づかない事実関係に由来して、債権債務の請求関係が成立するためには、契約に代わる、法律上の根拠が必要となります。
例えば、交通事故の様に、契約関係に無い当事者間で、故意過失に基づいて、「加害行為」「損害発生」「加害行為と損害発生の因果関係」という法律上の要件を満たせば、民法709条(不法行為責任)で被害者が加害者に対して損害賠償請求をすることができます。
他方、契約関係の無い当事者間で、一方の行為により他方が利益を得た場合に、この利益を償還させるのが、「事務管理(民法697条)」ないし「不当利得返還請求(民法703条)」です。
民法697条(事務管理)1項 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2項 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
第702条(管理者による費用の償還請求等)
1項 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
2項 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。
3項 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。
民法703条(不当利得の返還義務)法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
事務管理は、「義務なく」つまり、当事者間の契約上ないし法律上の義務によらずに、他人のための事務を始めた場合の法律関係を規律しています。事務管理は、「最も本人の利益に適合する方法」で行う必要があり、本人のために有益な費用を支出した時は、これを請求できるという規定です。①法律上の義務がないのに、②本人の利益を図る意思で、③他人のための事務を開始する、ことが法律要件です。
不法行為の場合は、加害行為をした相手方に対して損害賠償の請求をすることができましたが、事務管理の場合は、管理行為により利益を得た者が管理者に対して費用を支払わなければならないのです。
不当利得返還請求は、「法律上の原因なく」つまり、当事者間の契約上の義務あるいは法定代理人など法律上の義務によらずに、他人の財産や労務によって利益を得て、他人に損失を及ぼした場合は、その利益が現存している限度で返還請求できるとするものです。①他人の労務や財産から派生した利益の存在、②利益の現存、③他人への損失の発生、④利益と損失の間の因果関係、⑤法律上の原因の不存在、が法律要件となります。法律上の原因がある場合は、その債権債務関係は、根拠となる法律関係に基づいて規律するこということになります。
事務管理と不当利得返還請求は、どちらの条項が適用されるのか、重なり合う部分もありますが、事務管理の例としては、①落とし物を拾得して警察に届ける行為、②ペットが逃げないように捕まえる、死なないように餌を与える行為、③留守中の家財の応急修繕行為、④溺れて意識不明の海水浴客を救助する行為、などが考えられます。いずれも自己の生命・身体・財産などを保全する行為として、本来は自分自身が行うべき行為ですが、何らかの事情で本人が行わない、又は行えない場合に、偶然居合わせた他人などが、本人から頼まれなくても、善意でその事務を行うわけです。
不当利得返還請求の例としては、①売買契約解除後に既払いの売買代金を返還請求する、②借金の返済で誤って多く払い過ぎてしまったので過払い分を返還請求する、③家主では無い人物に誤って家賃を払ってしまったので返還請求する、④銀行振り込みで誤って別人の口座に振り込んでしまったので返還請求する、⑤誤って労働契約を締結してない別の会社のために働いたので労務費相当額を返還請求する、などが考えられます。
「現存利益」が残っているかという要件は、利益を受けた本人に過失なく、例えば転変地異などで当該利益が消失してしまっている場合は、返すべき利益が残っていないので返還する義務は無いということです。例えば、老齢年金に過払いがあったとしても、受給者が全て生活費で費消してしまっている場合には、後日、計算ミスがあったということで過払い分の返還請求をされても、返すべきものが残っていないと主張できることになります。他方、過払い分が預貯金として残っている場合は現存利益があると評価できるでしょう。
土地建物の所有者には、民法717条により工作物責任が課せられる場合があります。工作物責任とは、民法717条1項に定められた土地の工作物などに起因する損害に対する所有者等の損害賠償責任です。所有者については、故意過失という主観的要件が必要とされておらず、いわゆる無過失責任(過失の有無を問わない責任)の一つとなっています。
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)1項 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
工作物は、「土地に接着している人工物」とされています。建物・塀・擁壁・階段・看板・街灯・マンホールなどですが、別荘地に接続する私道のアスファルトに穴が開いて通行人が転倒したり自動車事故が起きてしまった場合は、賠償責任を問われる可能性があります。
責任発生の要件は、①工作物の設置・保存に瑕疵(通常備えるべき安全性を欠いている状態。老朽化したブロック塀が倒れるなど。)②損害発生(第三者が生命・身体・財産などに損害を受けたこと。)③因果関係(瑕疵が損害発生の原因となっていること。)です。
当該別荘地で、別荘所有者が私道の所有権を共有していたり、通行地役権を準共有していた場合に、道路や付属施設に瑕疵(故障や欠陥)がある場合は、第三者の損害が発生した場合には、この民法717条の責任を問われる可能性があります。この法的責任を回避するために、別荘地の道路も含めた工作物に欠陥が無いかどうか、定期的に巡回検査したり必要な補修を行うことが必要となります。
さて、別荘地の管理会社が、管理委託契約を締結していない別荘地所有者のために、別荘地の管理業務を行った場合に、事務管理の費用償還請求もしくは、不当利得返還請求をすることは可能でしょうか。
これについては、前記の法律要件に従って順番に考えていくことになりますが、別荘地を維持するために必要な(有益な)行為だったか、それによって、別荘地所有者が(必要な費用負担を免れたなど)利益を受けているかがポイントになります。
2、判例紹介
別荘地の管理業務に関して、不当利得返還請求権が発生する可能性について判示した最高裁判所の判例がありますので御紹介します。同じ日に同じ趣旨で2件の判決がありましたが、高裁段階の判断が分かれていたものについて統一的判断を示したものです。
判決では、管理会社の管理行為が、別荘地としての基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであると認め、管理会社の管理業務という労務は、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきであるとして、その管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、その支払を受けていない管理会社には損失があること、支払いをしていない所有者は管理費相当の利益を得ている、として管理費相当の金額について不当利得の成立を認めています。
※最高裁判所令和7年6月30日判決(令和5年(受)第2461号不当利得返還等請求事件)『上告人は、昭和57年以降、本件別荘地内に土地を所有する者(以下「本件別荘地所有者」という。)との間において、個別に共益管理契約(以下「本件管理契約」という。)を締結し、本件別荘地において、本件管理契約に基づく管理業務(以下「本件管理業務」という。)を行っている。その内容は、①道路、側溝及びマンホール等の雨水排水設備、街路灯、消火栓、ゴミ集積所等の保全及び維持管理、②毎日2回のパトロール実施、道路ゲートの開閉管理、関係者以外の立入り防止、天災地変時の見回り点検、③道路両脇の雑草の刈込み作業、U字溝内部の清掃作業である。
本件管理契約によれば、本件別荘地所有者は、本件管理業務に対し、本件別荘地内の土地1区画当たり年額3万6000円(消費税別)の管理費を支払うものとされている。』
『上記事実関係によれば、本件土地は本件別荘地内の土地の1区画であるところ、本件別荘地は多数の土地及び道路等の施設から成る大規模な別荘地として開発され、現在も別荘地として利用されていることが明らかである。そして、上告人は、本件別荘地所有者との間で個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において継続的に本件管理業務を提供しているところ、その内容は、本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。これらによれば、本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる。そうすると、上告人の本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、被上告人からその支払を受けていない上告人には損失があるというべきである。
以上によれば、被上告人は、本件管理契約を締結することなく上告人の本件管理業務という労務により法律上の原因なく利益を受け、そのために上告人に損失を及ぼしたものと認められる。このことは、本件管理業務が本件土地の経済的価値それ自体に及ぼす影響が不明であったとしても変わるものではない。
そして、上記の本件管理業務の内容、性質に加え、被上告人は、本件別荘地が別荘地であることを認識して、その1区画である本件土地を取得したことは明らかであること、本件管理契約を締結していない本件別荘地所有者が本件管理業務に対する管理費を負担しないとすると、これを支払っている本件別荘地所有者との間で不公平な結果を生ずることになるほか、本件管理業務に要する費用を賄うための原資が減少して、本件管理業務の提供に支障が生じ、別荘地の基本的な機能や質の確保に悪影響が生ずるおそれがあること、本件管理業務は、本件別荘地所有者が個別になし得るものではなく、地方自治体による提供も期待できないものであって、上告人以外に本件管理業務を提供することができる者がいることはうかがわれないことも踏まえると、被上告人が上告人による本件管理業務の提供を望んでいなかったとしても、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の負担を免れることはできないというべきである。このように解することが契約自由の原則に反するものでないことは明らかである。
したがって、被上告人は、上告人に対し、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の不当利得返還義務を負う。』
※最高裁判所令和7年6月30日判決(令和6年(受)第1067号不当利得返還等請求事件)
『上記事実関係によれば、本件土地は本件別荘地内の土地の1区画であるところ、本件別荘地は多数の土地及び道路等の施設から成る大規模な別荘地として開発され、現在も別荘地として利用されていることが明らかである。そして、被上告人は、本件別荘地所有者との間で個別に本件管理契約を締結し、本件別荘地において継続的に本件管理業務を提供しているところ、その内容は、本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。
これらによれば、本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる。そうすると、被上告人の本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、亡Aらからその支払を受けていない被上告人には損失があるというべきである。
以上によれば、亡Aらは、本件管理契約を締結することなく被上告人の本件管理業務という労務により法律上の原因なく利益を受け、そのために被上告人に損失を及ぼしたものと認められる。このことは、本件管理業務が本件土地の経済的価値それ自体を維持又は向上させるものではなかったとしても変わるものではない。
そして、上記の本件管理業務の内容、性質に加え、亡Aは、本件別荘地が別荘地であることを認識して、その1区画である本件土地を取得したことは明らかであること、本件管理契約を締結していない本件別荘地所有者が本件管理業務に対する管理費を負担しないとすると、これを支払っている本件別荘地所有者との間で不公平な結果を生ずることになるほか、本件管理業務に要する費用を賄うための原資が減少して、本件管理業務の提供に支障が生じ、別荘地の基本的な機能や質の確保に悪影響が生ずるおそれがあること、本件管理業務は、本件別荘地所有者が個別になし得るものではなく、地方自治体による提供も期待できないものであって、被上告人以外に本件管理業務を提供することができる者がいることはうかがわれないことも踏まえると、亡Aらが被上告人による本件管理業務の提供を望んでいなかったとしても、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の負担を免れることはできないというべきである。このように解することが契約自由の原則に反するものでないことは明らかである。
したがって、亡Aらは、被上告人に対し、本件管理業務に対する管理費として相当と認められる額の不当利得返還義務を負う。』
ふたつの事件とも、管理業務の内容を、「本件別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つものである。」としています。
別荘地所有者が受ける利益については、「本件管理業務は、本件別荘地が別荘地として存続する限り、その基本的な機能や質を確保するために必要なものであり、また、本件管理業務は、本件別荘地の全体を管理の対象とし、全ての本件別荘地所有者に対して利益を及ぼすものであって、本件管理契約を締結していない一部の本件別荘地所有者のみを本件管理業務による利益の享受から排除することは困難な性質のものであるということができる」としています。
また、建物所有の有無に関しては、「そうすると、上告人の本件管理業務という労務は、本件別荘地内の土地に建物を建築してその土地を利用しているか否かにかかわらず、本件別荘地所有者に利益を生じさせるものであるというべきである。」と判示して、敷地のみの所有者に対しても利益を生じさせていると判断しました。
他方、管理会社が受ける損失については、「そして、本件管理業務に要する費用は、本件別荘地所有者から本件管理業務に対する管理費を収受することによって賄うことが予定されているといえるから、被上告人からその支払を受けていない上告人には損失があるというべきである。」として、本来得られるはずであった管理料を受領できないことにより、損失が発生していると認定しています。利益と損失の因果関係についても認定されています。
3、保存行為
前記の判例では、「別荘地を支える基盤となる施設を本件別荘地所有者による利用が可能な状態に保全及び維持管理し、本件別荘地内の土地や上記施設に対する犯罪や災害による被害の発生等を予防し、本件別荘地の環境や景観を別荘地としてふさわしい良好な状態に保つ」とされている行為を、管理会社が別荘地所有者に代わって行うことにより、別荘地所有者が本来支出すべき費用負担を免れ、他方で、管理会社は一部の別荘地所有者から支払いを受けられないことで損害が発生していると認定されました。
別荘地所有者が本来支出すべき費用負担とは、どういう行為でしょうか。別荘地所有者としての工作物責任などの法的責任を回避し、別荘地の財産としての価値を維持する最低限の行為をするための費用と言えますが、法的にいうと、これは「保存行為」とされるものです。
保存行為とは、法律上の利害関係を有する財産の現状を維持・保全するための行為を指し、民法上は、一部の共有者が単独で全共有者のために単独で行うことができる行為として特別に位置付けられています(民法252条5項)。
民法252条(共有物の管理)1項 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
2項 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
一 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
二 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
3項 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
4項 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年
二 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年
三 建物の賃借権等 三年
四 動産の賃借権等 六箇月
5項 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
※最高裁判所昭和47年9月1日建物収去土地明渡請求事件判決
『そして、家庭裁判所の選任した不在者財産管理人が民法一〇三条所定の権限内の行為をするには、その行為が訴または上訴の提起という訴訟行為であつても、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を要しないものと解すべきところ、被上告人の提起した本訴建物収去土地明渡等の請求を認容する第一審判決に対し控訴を提起し、その控訴を不適法として却下した第二審判決に対し上告を提起することおよび右訴訟行為をさせるため訴訟代理人を選任することは、いずれも上告人の財産の現状を維持する行為として同法一〇三条一号にいう保存行為に該当するものであるから、本件不在者財産管理人および同人の選任した訴訟代理人は、同法二八条所定の家庭裁判所の許可を得ることなしに、本件第一、二審判決に対する上訴を提起する権限を有するものというべきである。』
この判例によれば、「財産の現状を維持する行為」が保存行為とされています。その他、建物の修繕、塀の補修、損害保険の付保、賃借人への督促、時効中断のための催告などが保存行為の例とされています。工作物の修繕は、勿論、財産の価値を維持することに繋がりますが、同時に、民法717条の工作物責任を免れるための予防行為であるとも言えます。財産の価値が上昇するような「改良行為」や、財産を金銭に換えてしまう「変更行為・処分行為」とは異なり、財産の価値を維持して、財産を所有していることにより生じ得る工作物責任を予防するような行為が、保存行為と言えそうです。
従って、管理会社が行っている管理業務のうち、必要最低限度の維持管理業務を超えたものについては、保存行為の範囲を超えており、管理組合に加入していない、あるいは業務委託契約を締結していない別荘地所有者は負担を拒絶することも可能と考えられます。
4、まとめ
別荘地の管理組合への加入や、管理会社との管理委託契約の問題については、別荘地に関する基本法令も無く、また長らく最高裁判決が無かったため法的に不明確な状態が続いてきましたが、一帯の別荘地に含まれている土地であることを認識して別荘地の所有権を取得した者は、今回の最高裁判決で管理業務に掛かった費用のうち「相当と認められる額」の支払い義務があるという形で、一応の決着を見ていることになります。
ただ、「相当と認められる額」を具体的にどのように定めるのかについては、明確な基準が示されているわけでは無く、引き続き当事者間の争点となり得るものです。この額については、保存行為に要する費用のうち、実費相当額が、これに当たるようにも思われます。少なくとも、正規の管理委託契約書に記された「正規費用全額」の請求ができないことは明らかです。では、正規費用のうち、どの部分の支払いをなすべきかという問題については、引き続き契約関係に無い当事者間の協議に委ねられていると言えるでしょう。管理会社に代理人弁護士がついて請求して来ているということであれば、あなたの側でも代理人弁護士を立てることを御検討なさった方が良いかもしれません。御心配であれば、お近くの弁護士事務所に御相談なさって下さい。
以上