質問
私は、10年前から、共用施設に温泉設備が備わったリゾートマンションを買い、住んでいます。最近、このリゾートマンションの管理組合から、「不定期に保養施設として使用する範囲を超えた使用を禁止する」規定を管理規約に盛り込むという提案がありました。私以外の区分所有者は、このマンションに定住していないため、区分所有者数及び議決権の各4分の3で可決されてしまい、改正された管理規約に基づいて、定住をやめるように管理組合からうるさく言われています。私はこのマンションに住み続けることはできないのでしょうか。それは困ります。
回答
1.今回の管理規約の改正は、リゾートマンションの一室に対する所有権を制限し、その結果、自由に使用収益できる権利を侵害する可能性が高いため、建物の区分所有に関する法律第31条1項後段により、管理規約の改正にあなたの同意が必要と考えられます。お住まいのマンションの性質にもよりますが、住み続けることができる可能性は十分にあります。
2.関連事例集論文1906番参照。
3.その他の関連事例集参照。
解説
1 マンションの性質について
(1)マンションのようにビル(一棟の建物)に構造上区分された数個の独立した部屋がある場合、ビル全体ではなく部屋ごとに所有権の目的とすることができることを定めた法律が「建物の区分所有等に関する法律」です。同法は、このような建物の所有権を「区分所有権」、建物を「専有部分」と呼ぶことを定めています。区分所有権は一棟の建物の一部であるため、民法上一個の不動産として所有権を認めると、他の区分所有者との権利の調整が問題となることから区分所有権として特別法で規制しているわけです。
(2)そして、同法三〇条で、「建物の使用に関する区分所有者相互間の事項は規約で定めることができる。」、とされていますから、あなたのお住まいのマンションの使用についても規約で定めることができることになります。
(3)温泉設備が備わったリゾートマンションとのことですが、確かに、日本各地には、温泉地内の保養目的のリゾートマンションが建築・販売されています。これらのマンションについては、やはり保養目的に主眼があることが多いのですが、とはいえ、管理規約において、「定住使用を禁止する」旨の明文がない場合には、保養目的のみでの使用を認め、住居としての利用を禁止することは難しいと考えられます。
(4)本件と似た事案について判断した東京高裁平成21年9月24日判決は、定住使用を禁止する条項について、「(対象マンション居室の売買)契約は本件マンションの各居室を住居の用に供することを前提としてその所有権を取引の対象とし、住居という語はその場所に定住するなどして一定期間継続して起居することを意味するのが通常であり、各居室の形状及び設備等は定住使用にも適するものと認めることができる。」と示し、各居室部分の売買契約書及び管理委託契約書の記載内容や、専有部分が定住使用にかなう設備であったことを理由に、定住使用を禁じるのであれば管理規約に明文の定めを要求しました。したがって、今回は、定住使用を禁止する旨の明文がない管理規約の改正となり、建物の区分所有に関する法律(以下では「区分所有法」といいます)31条1項で定める規約の変更に該当します。
2 規約の設定・変更における特別の影響について
次に、今回の提案が管理規約の改正に該当するとしても、区分所有法31条1項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当する場合は影響を受ける区分所有者の承諾が必要となることから、あなたの承諾なくして管理規約を変更できるか問題となります。
(1)ここにいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決により「規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される」と示されています。そして、このような規定が設けられたのは、東京地裁平成19年7月26日判決によれば、「区分所有法31条1項後段の趣旨は,規約の設定,変更又は廃止を多数決で決するものとすると,多数者の意思によって少数者の権利を害するおそれが生じ,この弊害を除去し,規約の設定等によって区分所有者全般の受ける利益とこれによって一部の区分所有者が影響を受ける利益との調和を図る目的によるものであると解される」ためです。
(2)先に掲げた東京高裁判決は、リゾートマンションの専有部分の一つを所有していたという事実について、所有権の本質内容をその所有物を本来の用法に従って使用収益する権利と確認したうえで、「本件管理規約①(注:判決は、本件マンションの各居室を「不定期に保養施設として」使用する範囲を超えて使用することを原則として禁止する規定を指しています)は、控訴人X1の本件居室所有権の本質的内容に制約を加えるものと認めることができ、この規定を定めなければ他の居室所有者の権利が著しく害されることが避けられないなどの特段の事情がない限り、控訴人X1に受忍限度を超える不利益を与えるものと認めることができる」と示し、管理規約の変更により控訴人(所有者)が蒙る不利益が重大なものである以上、その同意を要すると判断したことになります。
3 本件に則した結論とは
本件についても、管理規約においてこれまでに定住使用が禁止されていなかったことに鑑みれば、定住使用の禁止を新たに定めることは管理規約の変更に該当し、区分所有法31条1項が適用されるする可能性が高いと思われます。また、マンションの販売や管理の実情にもよりますが、これまでは定住していたということですから、今回規約を改正して定住を禁止することは、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすことは明らかですから同条後段の適用があり、影響を受ける区分所有者の承諾が必要となります。従って、管理組合があなたに対して改正後の管理規約を根拠として定住をやめろ、ということはできないことになります。
あなたから、管理組合の理事長に対して、内容証明郵便で定住利用をやめろという要請に対する回答をすることが考えられます。内容証明に記載することは、「①定住利用を禁止する管理規約の改正決議は、区分所有法31条1項により現に定住利用している私の承諾が必要である。②私はこの改正決議に承諾していないので、決議は有効に成立していない。従って定住利用を禁止する管理規約の改正は無効である。③管理規約の改正が無効であるのに定住をやめるように連絡してくることは、私にとって精神的苦痛であるので、これ以上、定住禁止について連絡して来ないで下さい。この要請を無視して定住禁止の連絡を継続する場合は、私に法的な損害が発生しますので、管理組合に対して損害賠償請求の法的な手続きを取らざるを得ませんので悪しからず了解下さい。なお、連絡方法が不相当な場合は、刑法223条強要罪の適用が問題となる可能性もあることを念のため申し添えます。」、というような内容になります。内容証明を自分で出すことに心配がある場合は、一度弁護士さんに相談してみると良いでしょう。
参考条文
判例