新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1115、2011/6/10 13:58 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

【刑事・道路交通法違反行為により青キップ又は赤キップを切られた場合の手続きと効果・略式手続・在庁略式】

質問:私は先日、運転中、高速道路で35キロオーバ―で交通機動隊に捕まり、青キップをきられ反則金を支払うように言われました。これはどのような効果があるのでしょうか。裁判所に行くことになるのでしょうか。ところで良く聞く赤キップ、罰金、略式命令とはどのような関係になるのでしょうか。刑罰なのですか。このようなことは認められるのでしょうか。手続きも教えてください。

回答:
1.青キップを切られた場合、警察本部長から反則金納付の通告を受けた後10日以内に反則金を納付すれば刑事訴追を免除されることになり、裁判所に行く必要はなくなります(交通反則通告制度、道交法125条以下)。反則金を納付しない場合、刑事裁判での審理となり、違反事実が認められた場合罰金刑の言い渡しが予想されます。
2.交通反則通告制度は、道路交通法違反行為自体を争おうとする場合に刑罰を受ける危険を冒して裁判手続きによる審理を受けるか否かの選択を迫る側面があるため、憲法上保障されている国民の裁判を受ける権利や適正手続の見地から問題がありますが、判例は合憲の判断を示しています。
3.赤キップを切られた場合、後日検察官の取り調べを受けた上で略式手続という刑事裁判手続にかけられ、罰金刑の言い渡しを受けることが予想されます(刑訴461条)。この罰金刑というのは、懲役刑や禁固刑等と並ぶ刑罰であり、これが言い渡された場合前科が付くことになります。
4.略式手続においては公開の法廷での審理を行わないため、対審判決の公開(憲法82条)や公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利(同法37条)に抵触しないかが一応問題となりますが、判例はこれを否定しています。

解説:
1.(交通反則通告制度の概要)
  自動車を運転中に交通違反を犯して警察の取り締まりを受けた際、警察官から交通違反の日時や種類などを記載した書類を渡されることがあります。この書類が俗にいう「青キップ」、「赤キップ」であり、いずれが交付されるかは交通違反の程度によって異なります。
  青キップとは、自動車の運転者による道路交通法違反行為のうち比較的軽微な違反(この軽微な違反にかかる行為のことを道路交通法上の用語で「反則行為」といいます。)をした場合に渡される書類のことで、正式には交通反則告知書といいます。スピード違反の場合、一般道であれば時速30キロ未満の速度超過が、高速道路であれば時速40キロ未満の速度超過が青キップ交付の対象とされています。
  反則行為をした者に対しては、道路交通法上、警察本部長(行政権)が反則金の納付を通告するものとされ、その通告を受けた者が、通告を受けてから10日以内に任意に反則金(5万円以下)を納付すれば裁判による審理を免除する(すなわち、刑事訴追をしない)こととされており、これを交通反則通告制度といいます。
  
  そもそも、比較的軽微な反則行為を含む道路交通法違反行為は、本来犯罪を構成する行為であり、刑事手続きの原則からすれば、交通違反は全て刑事裁判手続きの中で審理されるべきものです。しかし、自動車の運転者による道路交通法違反行為は日々大量に発生しており、その全てを裁判所で審理しようとすると裁判所が膨大な事務処理に忙殺されることになります。そこで、道路交通法は、比較的軽微な反則行為については反則金の納付により刑事裁判手続きを免除するとすることで、裁判所の事務負担の軽減を図るとともに、大量に発生する道路交通法違反の事件処理を迅速化させようとしているのです。したがって、反則金を納付する場合、刑事手続きが進行することはないので、裁判所に行くことにはなりません。
  ただし、反則金の納付はあくまで任意なので、通告を受けた場合でも反則金の納付をしないという選択をすることができます。この場合、刑事手続きの原則通り、検察官の公訴提起により刑事裁判手続きが開始し、通告にかかる反則行為は裁判所で審理されることになります。その結果、裁判審理において道路交通法違反が認められれば、罰金刑が言い渡されることになります。この罰金刑というのは、反則金とは異なり、懲役刑や禁固刑等と並ぶ刑罰であり、罰金とはいえども前科が付くことになります。

2.(交通反則通告制度の問題点)
  以上が交通反則通告制度の概要ですが、この制度は国民の裁判を受ける権利や適正手続との関係で全く問題がないわけではありません。
  憲法32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定し、政治権力(特に行政権等)から独立した公平な立場の裁判所に対して、全ての個人が裁判を通じて自己の権利の救済を求めることができることを保障しています(憲法76条)。また、憲法31条は「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と規定しており、公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合には法定の手続きを経なければならないとされるとともに、その手続きは適正なものである必要があると解されています。これらの規定は、個人の基本的人権の保障の確保、ひいては「法の支配」の理念を実現する上で不可欠の前提となるものです。

  さて、反則行為をして通告を受けた場合に反則金を納付するかどうかの選択肢が与えられていることは前記のとおりですが、このことは裏を返せば、反則金を納付するか、刑罰を受ける危険を冒して裁判手続きによる審理を受けるかの選択を迫るものといえます。ここで、もし道路交通法違反行為自体を争おうとする場合、裁判所による違反事実の有無の認定を受ける必要があることから、刑事裁判手続きによる審理を選択する以外に術がないことになります。とすると、道路交通法違反行為を争いたくても、罰金刑の言い渡しを受け、前科が付くことを恐れるがゆえに、不本意ながら反則金の納付を選択せざるを得ないという状況が考えられるのです。このような状況は、違反事実の有無を裁判所で争う道を事実上奪って反則金の納付を強制するものであり、国民の裁判を受ける権利を奪い、適正手続に違反するきらいがないわけではありません。

  しかし、この点につき判例は「所論は、憲法三二条違反をいうが、通告が通告に係る反則金納付の法律上の義務を課するものではなく、また、通告の理由となった反則行為となるべき事実の有無等については刑事手続においてこれを争う途が開かれていることは前記のとおりであるから、通告自体に対する不服申立ての途がないからといって、所論憲法の条規に違反するものではなく、このことは従来の判例の趣旨に徴して明らかである(最高裁判所昭和三八年(オ)第一〇八一号同三九年二月二六日大法廷判決・民集一八巻二号三五三頁参照)。また、所論中憲法三一条、七六条二項後段違反をいう点は、通告は、前記のような性質の行政行為であって、刑罰を科するものではなく、行政機関のする裁判でもないから、いずれもその前提を欠くものというべきである。」としてこれを否定しています(最判昭和57年7月15日)。
  
  反則金は名称上刑罰(罰金)ではありませんが、実態は、金額が少ないとはいえ(5万円以下)、国民の財産を強制的に奪う面からいえば刑罰と同じですから、行政権の主体である警察本部長が反則金支払いの通告を行うというのは、司法権の独占、独立を定めた憲法76条1項、2項、特別裁判所(昔の軍法会議)禁止、行政権の終審裁判の禁止の趣旨に反するのではないかという問題です。しかし、特別裁判所とは、憲法の番人として司法権を有する普通裁判所の系列外にあってその支配下にない機関をいうのであり、普通裁判所で争う道が認められている以上(10日以内に反則金を支払わなければ自動的に罰金を科する通常の手続きになります。)反則金制度は特別裁判所に類するものではなく、行政権の終審裁判禁止の趣旨にも反しないことになります。

3.(略式手続の概要)
  自動車の運転者が比較的軽微な反則行為をした場合に青キップが交付されることは上記のとおりですが、道路交通法違反行為のうち軽微でない違反(この軽微でない違反行為のことを「非反則行為」といいます。)を犯した場合、いわゆる赤キップが交付されることになります。赤キップというのは、正式には「道路交通法違反事件迅速処理のための共用書式」といい、これが交付されると、後日検察官の取り調べを受けたうえで略式手続という刑事裁判手続にかけられることになります。スピード違反の場合、一般道であれば時速30キロ以上の速度超過が、高速道路であれば時速40キロ以上の速度超過が赤キップ交付の対象とされています。
  
  ここで、略式手続というのは,公開の法廷で審理を行う通常の裁判手続きとは異なり、簡易裁判所が軽微な事件について、公判を開かずに書面審理だけで、100万円以下の罰金または科料を科す(これを「略式命令」といいます。)制度です(刑訴461条、被疑者は裁判所へも出頭しません。但し、後述在庁略式、三者即日処理方式の場合は出頭します。)。略式手続には、非公開で書面の審理により刑罰である罰金刑が科せられますので予め略式手続によることについて説明し、異議がない旨の被疑者の同意書が必要となり、検察官の取り調べを受けた際、略式手続によることの同意書への署名を求められることになります。もっとも、略式手続による審理を希望するかどうかは被疑者の自由であるため、同意書への署名を拒否して、公開の法廷での通常の審判を求めることも可能です。
  
  検察官から公訴提起と同時に略式命令の請求がされた場合、請求を受けた裁判所は、その事件が略式命令をすることができないものでなく(例えば、法定刑に罰金刑が含まれていない場合がこれにあたります。)、略式命令をすることが相当であると判断したときは、公判を開くことなく、書面審理のみで罰金刑の言い渡しをすることになります。この罰金刑というのが、懲役刑や禁固刑等と並ぶ刑罰であり、これが言い渡された場合に前科が付くことは前記のとおりです。検察官の略式請求があった日から14日以内に略式命令を発する必要があります(刑事訴訟規則291条)。

(略式手続と弁護人の活動)
  なお、略式手続によって略式命令を受けた場合であっても、罰金の額、違反行為の認定について無罪等の意見がある場合は、略式命令の告知を受けた日から14日以内であれば正式裁判の請求をすることができ、この場合、改めて公開の法廷における審判が行われることになります。但し、正式裁判を請求しても有罪の結果が変わらないと思う場合は、略式手続請求前に弁護人を依頼し検察官に対して法的意見書、証拠書類(例えば贖罪寄付書、示談書)を事前に提出して略式請求公訴提起に添付してもらうことができます。又、請求と同時に以上の書類を裁判所に提出して略式手続内で罰金の減額等有利な判断を裁判官に求めることも可能です。公判請求のように証拠提出に制限(刑訴320条、伝聞証拠の禁止等)はありませんので自由に提出することができます。適正、公平な裁判、当事者主義の趣旨から略式手続でも被疑者、被告人側にも反証の機会は与えられています。事案によっては(例えば、罰金の額によりその後の行政処分等に影響がある場合)、検察官側に有利な証拠だけで判断されることを避ける必要がありますので弁護人との協議が大切です。罰金でも執行猶予の可能性も残されていますので(刑訴461条後段)同意するからといって安易に考えることはできません。ただ、請求後、略式命令が直ちに下されるので(請求の日から14日以内に略式命令はなされますのでその期間内に)事前準備、裁判所への連絡、検察官との交渉が不可欠になります。
  
  手続き上、略式命令は同意してから数週間後に裁判所から書面で送付されます。罰金の支払いは略式命令確定後30日以内に支払うことになりますし(刑法18条5項)、実質的にはさらに1カ月程度猶予されるようです。
通常、赤キップを切られた道交法違反者は、道交法違反の三者即日処理方式により1日で、取り調べから罰金仮納付までを行います。(警察・検察庁・裁判所の三者が同一庁舎内に一同に集まり刑事手続きを行います。)本来であれば、警察、検察庁の取調べ、裁判、罰金の納付に数日かかるのが通常ですが、1日で略式手続きに同意した違反者に対して事件処理が行われます。道交法違反の迅速処理、罰金納付の確保を目的としています。この手続きを行う専門庁舎が交通裁判所です。三者即日処理方式は時間的に被疑者の反論の機会が制限されることもあり適正手続き保障の面から道交法違反等交通違反事件についてのみおこなわれています。この手続きは、被疑者が身柄を拘束されていない点で後述の「在庁略式手続」とは異なります。在庁ではなく在宅中の略式手続(在宅略式)になります。

(在庁略式について)
  身柄を拘束されている被疑者に対して行われる略式手続です。勾留中の在庁略式手続又は、逮捕中の在庁略式に分けられます。
  道交法違反に限らず、被疑者が勾留されている場合(又は逮捕されている場合)は(例えば勾留中犯行後弁護人の活動も終了し情状が良くないような場合)処分の迅速性重視から同意すると在庁略式手続が取られる場合がありますし、その後の情状を考慮するために(弁護人はその旨主張する必要があります)一旦処分保留となり後日略式請求になることもあります。情状が変われば不起訴処分も考えられます。在庁略式の方式とは,昭和29年の刑事訴訟法改正施行により認められたもので検察官が被疑者を検察庁に在庁させて簡易裁判所に略式命令を請求(略式起訴)し,即日,略式命令が発せられた段階で,被告人が裁判所に出頭し,裁判所は直ちにその略式命令の謄本を被告人に交付して送達事務を完了しさらに、罰金の仮納付の裁判があった場合には,直ちにその裁判を執行して罰金又は科料を仮納付(略式手続の罰金は確定していないので仮納付になります)させるやり方です。この手続きの場合、弁護人、家族は罰金を用意していくことになります。罰金を納めますが、勿論命令謄本を受け取った後14日以内に正式裁判を求めることもできます。在庁略式は本来罰金処分の迅速性から採用されたものであるが、起訴前弁護における起訴便宜主義の趣旨から不起訴を目指す弁護人の活動を制限する危険があり刑事事件一般に濫用されるべきものではないと考えます。

4.(略式手続の問題点)
  以上が略式手続の概要ですが、この手続きは軽微事犯につき迅速な処理が可能であると共に、公判のために裁判所に出頭する必要がなく、被告人の負担が軽減される点で合理性があるといえますが、他方で公開の法廷での審理を行わないため、対審判決の公開(憲法82条)や公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利(同法37条)との関係が問題となりえます。
  もっとも、この点判例は、略式命令の請求があったとしても略式命令をなすことが不相当である等の場合、裁判所は通常の手続規定に従って審判しうること、略式命令告知後であっても一定期間内に正式裁判の請求をすれば通常の規定に従った審判を求めることができること等を理由に、略式手続は対審判決の公開に関する憲法82条の適用外であり、また、同法37条所定の権利等を害するものでもないと判断しています(最大判昭和24年7月13日)。

≪参照条文≫

憲法
第三十一条  何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の
刑罰を科せられない。
第三十二条  何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十七条  すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
第七十六条  すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第八十二条  裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
○2  裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

刑事訴訟法
第六編 略式手続
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第四百六十一条の二  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
第四百六十三条  前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
第四百六十五条  略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
第四百六十八条
○2  正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○3  前項の場合においては、略式命令に拘束されない。
第四百六十九条  正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。

刑事訴訟規則
(略式命令の時期等)
第二百九十条 略式命令は、遅くともその請求のあつた日から十四日以内にこれを発しなければならない。
2 裁判所は、略式命令の謄本の送達ができなかつたときは、直ちにその旨を検察官に通知しなければならない。

道路交通法
(最高速度)
第二十二条  車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
第百十八条  次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一  第二十二条(最高速度)の規定の違反となるような行為をした者
2  過失により前項第一号の罪を犯した者は、三月以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。
(通則)
第百二十五条  この章において「反則行為」とは、前章の罪に当たる行為のうち別表第二の上欄に掲げるものであつて、車両等(重被牽引車以外の軽車両を除く。次項において同じ。)の運転者がしたものをいい、その種別は、政令で定める。
2  この章において「反則者」とは、反則行為をした者であつて、次の各号のいずれかに該当する者以外のものをいう。
一  当該反則行為に係る車両等に関し法令の規定による運転の免許を受けていない者(法令の規定により当該免許の効力が停止されている者を含み、第百七条の二の規定により国際運転免許証等で当該車両等を運転することができることとされている者を除く。)又は第八十五条第五項から第九項までの規定により当該反則行為に係る自動車を運転することができないこととされている者
二  当該反則行為をした場合において、酒に酔つた状態、第百十七条の二第三号に規定する状態又は身体に第百十七条の二の二第一号の政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態で車両等を運転していた者
三  当該反則行為をし、よつて交通事故を起こした者
3  この章において「反則金」とは、反則者がこの章の規定の適用を受けようとする場合に国に納付すべき金銭をいい、その額は、別表第二に定める金額の範囲内において、反則行為の種別に応じ政令で定める。 (告知)
第百二十六条  警察官は、反則者があると認めるときは、次に掲げる場合を除き、その者に対し、速やかに、反則行為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別並びにその者が次条第一項前段の規定による通告を受けるための出頭の期日及び場所を書面で告知するものとする。ただし、出頭の期日及び場所の告知は、その必要がないと認めるときは、この限りでない。
一  その者の居所又は氏名が明らかでないとき。
二  その者が逃亡するおそれがあるとき。
(通告)
第百二十七条  警察本部長は、前条第三項又は第四項の報告を受けた場合において、当該報告に係る告知を受けた者が当該告知に係る種別に属する反則行為をした反則者であると認めるときは、その者に対し、理由を明示して当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付を書面で通告するものとする。この場合においては、その者が当該告知に係る出頭の期日及び場所に出頭した場合並びにその者が第百二十九条第一項の規定による仮納付をしている場合を除き、当該通告書の送付に要する費用の納付をあわせて通告するものとする。
(反則金の納付)
第百二十八条  前条第一項又は第二項後段の規定による通告に係る反則金(同条第一項後段の規定による通告を受けた者にあつては、反則金及び通告書の送付に要する費用。以下この条において同じ。)の納付は、当該通告を受けた日の翌日から起算して十日以内(政令で定めるやむを得ない理由のため当該期間内に反則金を納付することができなかつた者にあつては、当該事情がやんだ日の翌日から起算して十日以内)に、政令で定めるところにより、国に対してしなければならない。
2  前項の規定により反則金を納付した者は、当該通告の理由となつた行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。
(反則者に係る刑事事件)
第百三十条  反則者は、当該反則行為についてその者が第百二十七条第一項又は第二項後段の規定により当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ、第百二十八条第一項に規定する期間が経過した後でなければ、当該反則行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。ただし、次の各号に掲げる場合においては、この限りでない。
一  第百二十六条第一項各号のいずれかに掲げる場合に該当するため、同項又は同条第四項の規定による告知をしなかつたとき。
二  その者が書面の受領を拒んだため、又はその者の居所が明らかでないため、第百二十六条第一項若しくは第四項の規定による告知又は第百二十七条第一項若しくは第二項後段の規定による通告をすることができなかつたとき。

≪参考判例≫

最高裁判所判決昭和57年7月15日(抜粋)
道路交通法は、通告を受けた者が、その自由意思により、通告に係る反則金を納付し、これによる事案の終結の途を選んだときは、もはや当該通告の理由となった反則行為の不成立等を主張して通告自体の適否を争い、これに対する抗告訴訟によってその効果の覆滅を図ることはこれを許さず、右のような主張をしようとするのであれば、反則金を納付せず、後に公訴が提起されたときにこれによって開始された刑事手続の中でこれを争い、これについて裁判所の審判を求める途を選ぶべきであるとしているものと解するのが相当である。
・・・所論は、憲法三二条違反をいうが、通告が通告に係る反則金納付の法律上の義務を課するものではなく、また、通告の理由となった反則行為となるべき事実の有無等については刑事手続においてこれを争う途が開かれていることは前記のとおりであるから、通告自体に対する不服申立ての途がないからといって、所論憲法の条規に違反するものではなく、このことは従来の判例の趣旨に徴して明らかである(最高裁判所昭和三八年(オ)第一〇八一号同三九年二月二六日大法廷判決・民集一八巻二号三五三頁参照)。また、所論中憲法三一条、七六条二項後段違反をいう点は、通告は、前記のような性質の行政行為であって、刑罰を科するものではなく、行政機関のする裁判でもないから、いずれもその前提を欠くものというべきである。

最高裁判所大法廷判決昭和24年7月13日(抜粋)
旧刑訴第七編の規定する略式手続は、区裁判所(簡易裁判所)の管轄に属する事件について、公判前略式命令を以て、罰金又は科料を科する簡易訴訟手続である。すなわち裁判所は検察官から公訴の提起に附帯して略式命令の請求を受けたときは、公判を開くことなく従つて被告人その他の訴訟関係人の召喚、口頭弁論、証拠調等をなすことなく、専ら書類又は証拠物によつて(勿論憲法三八条三項の規定を考慮して)公訴に係る犯罪事実の取調をなし(旧刑訴四八条四項、新刑訴四三条三項、並びに刑訴規則二八九条二九三条参照)該事実の肯定し得る限りその科刑及び没収その他の附随処分を判断し、その罪となるべき事実、適用した法令、科刑及び附随の処分、並びに正式裁判を請求し得る旨の記載をなして略式命令を発し、その謄本を被告人に送達又は交付して、これを告知する一連の手続をいうのである。そして裁判所は、検察官から略式命令の請求を受けても、その事件略式命令をなすことができないものであるか又はこれをなすことが相当でないと思料するときは、通常の手続規定に従い審判し得るのであつて、毫も検察官の請求に拘束されるものではない。また被告人は、略式命令の告知があつた日から七日以内に正式裁判の請求をして通常の規定に従い審判を求めることができるのであり、この場合においては裁判所は略式命令に拘束されるものではなく、又正式裁判の請求により判決をしたときは略式命令は、その効力を失うものであるから、この命令は被告人の自由意思による正式裁判の請求に基ずき通常の手続において判決のなされることを解除条件とする裁判に外ならないのである。それ故被告人が迅速な公開裁判を受ける権利を行使しようと思えば略式命令の告知があつたときから直ちに正式裁判の請求をすれば事足りるのであり、むろん資格を有する弁護人を依頼しようと思えば何時でも附することを妨ぐるものではない。たゞ法律は、被告人が正式裁判の請求をしないで期間を経過し又はその請求の取下をしたとき等の場合においては略式命令に確定判決と同一の効果を認め、これに執行力及び既判力を附与するに過ぎないのである。されば略式手続は、対審判決の公開に関する憲法八二条の適用を受けるものではなく、また、同法三七条所定の被告人の迅速な公開裁判を受ける権利、証人を求め若しくは訊問する権利又は弁護人を依頼する権利等を害するものでもなく、また、もとより被告人の自白に関する同法三八条三項に触れるものでもない。しかのみならず口頭弁論に基く通常の判決手続においても罰金以下の刑(新刑訴においては五千円以下の罰金又は科料)にあたる事件については、被告人は特に裁判所の出頭命令がない限り、自ら公判に出頭することを要するものではない。(旧刑訴三三一条新刑訴二八四条参照)そして、公判に出頭しないことは、被告人の側においても出頭の労力と費用とを省き且衆人環視の下に面目を失することを避け得る等の利益なしとしない。されば罰金又は科料のごとき財産刑に限りこれを科する公判前の命令手続として被告人に対しかかる利益考慮の余地を与えると共に前示のごとき憲法上の権利の行使をも妨げない簡易手続を規定したからといつて毫も憲法に違反するものではない。(昭和二三年(つ)第二号同年七月二九日大法廷決定判例集第二巻九号一一一五頁以下参照)

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