質問
独身で子供も居ません。兄弟や甥姪などの親戚とは疎遠です。自宅マンションと金融資産もありますが、遺産の処分や、死後の手続きについて考えていることがあります。趣味の活動を主催している公益社団法人に全財産を寄付したいのです。死後の手続きは最低限にして、亡くなったことを知らせる連絡先も用意しています。遺骨は散骨にしてもらいたいのです。これを実行するための手続きを教えてください。病院に入院して意識がなくなった場合の手続きについても教えてください。
回答
1、生存中は、「財産管理等委任契約」「任意後見契約」「みまもり契約」を法律専門家などと締結し、手続きしてもらうと良いでしょう。これらの契約でも、手術の同意や治療方針の同意などは代行することができませんので、これについて意思を実現されたい場合は、エンディングノートや医療に関する事前指示書を作成しておくと良いでしょう。
2、死亡後の財産処分や、遺品整理なども含めた手続きは、「遺言書の作成(遺言執行者指定)」と「死後事務委任契約」の二種類の方法で実現できます。遺言執行者も死後事務委任の委託先も、知人などに頼むこともできますが、法的手続きに明るいプロの法律専門家に依頼することも検討なさって下さい。
3、散骨については、令和8年時点で具体的な法令はありませんが、厚労省ガイドラインは定められています。適法に行える余地があると言えますが、お考えの近い宗教法人の墓地や、霊園墓地等に、いわゆる「永代供養墓」に申し込みして埋葬してもらうのが良いと考えます。
4、「任意後見契約」「みまもり契約」については、当事務所事例原稿1242番もご参照下さい。「散骨」については、事例原稿539番をご参照下さい。
解説
1、存命中の手続き代行
突然の事故やご病気などによって意識を喪失したり、認知症その他の事情によって判断能力が低下した場合には、ご自身で意思表示をすることが難しくなり、病院の入退院手続、入院費や生活費の支払い、介護施設への入所手続、預貯金の管理などについても、ご自身だけで行うことが困難になる可能性があります。配偶者やお子さんがいらっしゃらない場合は、手続きが困難となってしまうことが懸念されます。
そのような場合に備えて、元気なうちに法律専門家などとの間で、「みまもり契約」「財産管理等委任契約」「任意後見契約」などを締結し、必要な手続きを代行してもらう仕組みを準備しておくことができます。
(1)任意後見契約とは
任意後見制度とは、本人がまだ十分な判断能力を有している間に、将来自分の判断能力が低下した場合に自分を援助してもらう人をあらかじめ決め、その人に財産管理や療養看護等に関する事務について代理権を与えておく制度です。
任意後見人には、「未成年者」「破産者」「行方の知れない者」「本人に対して訴訟をし、またはした者、その配偶者・直系血族」などの欠格事由はありますが(任意後見契約に関する法律4条1項3号)、親族や弁護士、司法書士等の個人だけでなく、弁護士法人、司法書士法人、社会福祉法人、NPO法人、株式会社等の法人を選任することもできます。法人の種類について特別な制限はありませんが、その法人が任意後見人として適切に業務を遂行できることが必要です。
任意後見制度は、平成12年(2000年)4月1日に施行された「任意後見契約に関する法律」によって創設されました。施行から20年以上が経過していますが、現在でも十分に普及しているとはいえない状況にあります。
※参考URL、最高裁、任意後見制度の概要を知りたい方へ
https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp3/index.html
※参考URL、法務省、法定後見制度と任意後見制度にはどのような違いがありますか?
https://www.moj.go.jp/MINJI/a01.html
「任意後見契約に関する法律」2条1号は、任意後見契約について、本人が受任者に対し、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況における、本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約として定めています。また、同法3条により、任意後見契約は公正証書によって締結しなければなりません。
そして、その契約内容は「後見登記等に関する法律」5条に基づき、後見登記等ファイルに登記されます。同条は、任意後見契約に係る公正証書の作成公証人、本人・任意後見受任者の氏名・住所、代理権の範囲などを登記事項として定めています。東京法務局民事行政部後見登録課が、日本全国の後見登記を一元的に担当していますが、登記事項証明書は全国の法務局で交付申請することができます。成年後見登記の登記事項証明書交付申請できるのは、本人、任意後見受任者、本人の配偶者、本人の四親等内の親族、およびその代理人などです(後見登記等に関する法律10条)。
※参考URL、日本公証人連合会HPより、任意後見契約の解説
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow04
任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに任意後見受任者を選び、将来、判断能力が不十分となったときに、その者から支援を受ける制度です。対象となる仕事としては、預貯金等の財産管理だけでなく、医療契約、施設入所契約などがあります。
例えば、任意後見人に与える代理権としては、預貯金等の管理、年金の受領、税金・公共料金の支払い、要介護認定の申請、介護サービス契約、医療契約、入院手続、入院費の支払い、老人ホームへの入居契約などを定めることができます。
令和8年時点の、任意後見契約公正証書を作成する場合の費用概算を記します。
・公正証書作成の基本手数料:13,000円
・登記嘱託手数料:1,600円
・法務局に納付する収入印紙代:2,600円
・正本や謄本等の交付費用、登記嘱託書の郵送料など:実費
公正証書を作成する場合の最低限の固定費だけなら17,200円+正本等の交付費用・郵送料という形となります。弁護士などの法律専門家に任意後見人を依頼する場合は、その費用が別途必要です。一般的に、最初の着手金と、月額費用が必要となります。
なお、任意後見契約を締結していない場合には、判断能力が低下した後、民法7条等に基づき、本人、配偶者、4親等内の親族などが家庭裁判所に後見開始等の審判を申し立てることができます。本人や親族等のほか、検察官による申立ても認められており、65歳以上の方については、その福祉を図るため特に必要があると認められる場合には、老人福祉法32条により市町村長が申し立てることもできます。
家庭裁判所では、本人の心身の状態、生活・財産の状況などを考慮して、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職を成年後見人に選任することが多いですが、事情によっては親族が選任されることもあります。ただし、誰を成年後見人に選任するかは家庭裁判所が判断するため、申立人が希望した候補者が必ず選任されるとは限りません。
そこで、将来、判断能力が低下した場合に、自分が信頼する人に財産管理や身上保護を任せたいという希望がある場合には、あらかじめその人を任意後見受任者として任意後見契約を締結しておくことも検討なさってください。
任意後見契約に関する法律6条(本人の意思の尊重等)任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
4条2項 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
任意後見契約が締結されている場合に、親族の申し立てなどにより法定後見が開始されていても、後見監督人が選任されて任意後見人が職務開始する場合には、法定後見開始の審判は取消されます(任意後見契約に関する法律4条2項)。任意後見契約に関する法律6条で規定されている通り本人の意思を尊重する趣旨です。
(2)任意後見契約の効力発効時期
任意後見契約は、公正証書を作成したその日から任意後見人が自由に本人の財産を管理したり、入院手続を代理したりできる制度ではありません。
任意後見契約に関する法律2条1号、4条によれば、本人の判断能力が不十分となった後、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任することによって任意後見契約が発効します。
成年後見登記の登記事項には、「任意後見受任者」→「任意後見人」と登記事項が変更登記されます。更に「後見監督人の住所氏名」や「任意後見監督人選任審判の確定年月日」なども登記されます。変更登記後の任意後見に関する登記事項証明書は、任意後見人の代理権を証明する委任状の代わりとして使用することができます。
後見監督人が選任された後、任意後見人は、本人の財産状況を調査して、財産目録、収支予定表、任意後見事務報告書などを後見監督人へ提出します。さらに、高額出費や高額契約(老人ホームなどへの入居契約など)、不動産や有価証券など、大きな財産処分などがあるときは事前に相談することになります。
任意後見に関する法律
第2条(定義)この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一号 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
第4条(任意後見監督人の選任)
1項 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一号 本人が未成年者であるとき。
二号 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三号 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
本人の判断能力が低下した後、任意後見受任者や親族等が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをし、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が発生し、任意後見受任者が任意後見人として仕事を開始することになります。
したがって、例えば交通事故によって突然意識を失い、その日のうちに入院手続や医療費の支払い、銀行からの払戻しなどが必要になったとしても、任意後見契約だけでは直ちに対応できない場合があります。
そこで必要となるのが、「財産管理等委任契約」です。
(3)契約直後から有効にできる財産管理等委任契約
財産管理等委任契約とは、本人に判断能力がある段階から、信頼できる人に財産管理や各種契約・手続きを委任しておく普通の委任契約(民法643条)です。
民法643条(委任)委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
民法644条(受任者の注意義務)受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
民法643条は、委任について、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方が承諾することによって効力が生ずる契約であると定めています。また、法律行為そのものではない事務の委託(準委任契約)についても、民法656条によって委任に関する規定が準用されます。
なお、民法644条の「善良なる管理者の注意」というのは、受任者の職業・能力・立場に応じて社会通念上一般に要求される注意をいいます(いわゆる善管注意義務、最判昭和46年6月10日判決など)。注意義務の程度は、受任者の能力によって変わることになりますから、弁護士などの法律専門家に委託するとより安心できるでしょう。ご検討なさって下さい。和歌山地裁平成15年6月24日判決も、弁護士は「法律専門家として善良な管理者としての注意」をもって事務を処理すべき義務を負うと判示しています。
※和歌山地方裁判所平成15年6月24日判決
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-7412.pdf
『弁護士と依頼人との関係は,委任契約ないし準委任契約に基づく法律関係と解されるところ,弁護士は,依頼人に対し,委任契約ないし準委任契約(民法644条,656条)に基づき,法律専門家として善良な管理者としての注意をもって依頼された事務を処理すべき善管注意義務を負担するだけでなく,弁護士と依頼人との関係が,専門的知識を有する者とそのような知識を有しない素人との間の関係であり,依頼人が全面的に弁護士を信頼せざるを得ないという関係であることに照らすと,弁護士は,依頼人の利益を図るために誠実にその職務を行うべき義務であるいわゆる誠実義務があると解される(弁護士法1条2項参照)。そして,この誠実義務は,前記説示のとおり,依頼人が弁護士を全面的に信頼せざるを得ない関係にあることにかんがみると,単なる倫理的な義務にとどまらず,一般的な善管注意義務と並ぶ法的な義務であると解すべきである。』
実際に締結する財産管理等委任契約書では、例えば、
預貯金の管理・払戻し、家賃や公共料金の支払い、入院費・医療費の支払い、病院との入退院契約、介護サービス契約、老人ホーム等への入所契約、保険金の請求、行政機関への申請その他日常生活上必要となる法律行為について、あらかじめ代理権を与えておくことが考えられます。銀行や医療機関など、個別の委任状を提出することが求められる場合もありますので、委任契約締結と同時に複数の委任状交付も行っておくと良いでしょう。小口現金の支払いを代行する場合は、予め「預り金」として受任者に金銭を交付しておくことが多いでしょう。
代理権の発生時期は契約で定めることができますが、勿論、契約締結と同時に発効するように定めることができます。これは任意後見契約と異なる点です。
判断能力はあるものの、高齢や病気によって身体が不自由となった場合には、任意後見契約では対応できませんので、任意後見契約と同時に「(財産管理等)委任契約」を締結すると良いでしょう。任意後見契約と、財産管理等委任契約を組み合わせる契約形態は、『移行型』と呼ばれています。
つまり、
本人の判断能力が十分にある間
→ 財産管理等委任契約による支援(本人も代理人も法律行為できる状態)
本人の判断能力が低下した後
→ 家庭裁判所による任意後見監督人選任
→ 任意後見契約による支援(本人による法律行為は事実上不可能)
というように、切れ目なく支援を受けられるようにしておくのが『移行型』の任意後見契約です。
(4)「みまもり契約」の併用
これに加えて、「みまもり契約」を締結しておく方法があります。
みまもり契約とは、定期的な電話、面談、訪問などによって本人の健康状態や生活状況を確認してもらい、何か異常がないか、判断能力が低下してきていないかなどを継続的に確認してもらう契約です。安否確認する方法は、直接訪問による面談、電話連絡、電子メール、スマートフォンを使ったSNSの連絡など多岐に渡りますが、契約で自由に定めることができます。この契約は、民法典に個別規定のある典型契約ではありませんが、個々の事務を委託する契約と考えれば、準委任契約(民法656条)の一種であると解釈することができます。
民法656条(準委任)この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
委託する事務の内容は、例えば、
毎月1回電話で連絡を取る、月1回メールの往復をする、LINEなどSNSの連絡をする、数か月ごとに面談する、入院した場合には病院との連絡を取る、必要に応じて介護サービス等の利用について相談する、判断能力が低下したと考えられる場合には任意後見監督人選任の申立てを検討する、
といった内容を定めることが考えられます。連絡の頻度や、事務に要する時間などにより、契約代金が増減することになります。みまもり契約の履行により、本人の判断能力の低下などを任意後見受任者(任意後見人予定者)が早期に把握できるので、家庭裁判所への後見監督人選任申し立てがスムーズに行えるメリットがあります。
みまもり契約は「本人の状態を継続的に確認する契約」、財産管理等委任契約は「第三者との間で具体的な手続きを代理する契約」、任意後見契約は「判断能力が低下した後の法律行為を代理する制度」と考えると良いでしょう。
(5)入院手続の代理と「手術への同意」は別問題
さらに注意しなければならないのは、病院への入院手続を代理する権限と、手術・輸血その他の医療行為について本人に代わって同意する権限とは同じではないことです。
任意後見人は、契約で代理権が与えられていれば、医療契約や入院契約を締結し、入院費を支払うことはできますが、成年後見人等に当然に包括的な「医療同意権」が認められているわけではありません。厚生労働省のガイドライン・事例集でも、成年後見人等の権限には、いわゆる医療同意権までは含まれないという考え方が示されています。
※厚生労働省「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン及び事例集」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/miyorinonaihitohenotaiou.html
これは、どのような治療を受けるかという問題が、本人の生命・身体や人格に直接関係する高度に一身専属的な判断だからです。
この点について、最高裁平成12年2月29日判決(民集54巻2号582頁、いわゆる東大医科研病院輸血事件)は、宗教上の信念から輸血を拒否していた患者について、
「このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」
と判示しています。最高裁は、病院側が、場合によっては輸血するとの治療方針を患者に説明せず手術を行ったことについて、患者が手術を受けるか否かを自ら決定する権利を奪ったとして人格権侵害を認めました。
したがって、将来自分が意思表示できなくなった場合への備えとしては、単に第三者に代理権を与えるだけではなく、どのような医療を希望するかについて、自分自身の意思を元気なうちに明確にしておくことも重要です。
延命治療についての希望、人工呼吸器や胃ろうについての考え方、輸血についての考え方、重大な手術の場合に連絡してほしい人などについて、「事前指示書」やエンディングノート等に記録しておけば、将来本人の意思を直接確認できなくなった場合にも、その人がどのような考えを持っていたのかを判断する重要な資料になります。厚生労働省の前記ガイドラインも参考になさってください。後見監督人受任者は、エンディングノートの所在などを予め聞いておけば、医療機関などに円滑に本人の意思を伝えることができます。
(6)元気なうちから一連の仕組みを作っておく
したがって、将来、事故、病気、認知症などによって自分自身で手続をすることができなくなる場合に備えるのであれば、一つの契約だけですべてを解決しようとするのではなく、
①みまもり契約によって、元気なうちから定期的に生活・健康状態を確認してもらい、
②財産管理等委任契約によって、必要に応じて入退院手続、医療費・生活費の支払い、金融機関その他の各種手続を代理してもらい、
③判断能力が低下した後は任意後見契約を発効させて、任意後見人に財産管理や療養看護等に関する法律行為を代理してもらい、
さらに、
④エンディングノートや医療に関する事前指示書等によって、意思表示ができなくなった場合にも自分自身の医療についての考えができる限り尊重されるようにしておく、
という仕組みを作っておくことが有効です。
特に、一人暮らしであったり、身近に手続きを頼める親族がいなかったりする場合には、単に任意後見契約を締結するだけでなく、「まだ元気な時期」「身体が不自由になった時期」「判断能力が低下した時期」までを連続して支える仕組みを作っておくことが大切です。
弁護士等の法律専門家とこれらの契約を締結しておけば、元気な間は定期的に連絡を取り、病気や入院等が発生した場合には必要な手続きを援助・代理し、その後判断能力が低下したときには、家庭裁判所への任意後見監督人選任の申立てにつなげ、任意後見制度へ移行するという流れをあらかじめ用意しておくことができます。
これは、単なる財産管理の問題ではありません。自分で意思を表明することができなくなった場合にも、できる限り自分が元気なときに決めた生活方針や希望に沿って、医療、介護、住居、財産管理その他の日常生活を継続していくための生活全般に及ぶ法的な準備ということができます。
2、死亡後の手続き代行
人が死亡すると、相続により相続人が、直ちに死亡した方の権利義務を承継し、相続人がその後の様々な手続きを行うのが民法の原則です。しかし、死後の処理についても自分の考えによって処理し、相続人には任せたくないという場合、
死亡後の手続きをあらかじめ第三者に任せておく方法として考えられるのが、①遺言書の作成、遺言執行者の指定と、②死後事務委任契約です。
両者は似ているように見えますが、役割が異なります。簡単にいえば、遺言執行者は主として遺言書で定められた財産承継等を実現する人であり、死後事務受任者は主として葬儀、納骨、各種契約の解約など死亡後の事務上の手続きを処理する人です。遺言一本で処理できれば良いのですが、遺言書で定める事項には制限があり、遺言できない事柄については死後委任事務契約が必要になります。
この二つを組み合わせておくことで、死亡後の手続きをかなり広い範囲でカバーすることができます。
(1)遺言執行者の指定
遺言書を作成するときには、その遺言の内容を実際に実現する人として「遺言執行者」を指定しておくことができます。
民法1006条1項は、
「遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。」
と定めています。したがって、例えば弁護士その他の信頼できる人を、あらかじめ遺言書のなかで遺言執行者として指定しておくことができます。
遺言執行者の権限は、民法1012条に定められています。
民法1012条(遺言執行者の権利義務)
1項 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2項 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3項 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
現在の民法では、遺贈の履行は、遺言執行者がいる場合には原則として遺言執行者のみが行うこととされ、また、特定の不動産を特定の相続人に承継させる遺言について対抗要件を備えるための行為や、一定の場合の預貯金の払戻し・解約等についても、遺言執行者に権限が認められています(民法1012条2項、1014条)。
例えば、
「自宅不動産をAに相続させる。」
「預貯金をAとBに各2分の1ずつ相続させる。」
「友人Cに100万円を遺贈する。」
という遺言を作成した場合、遺言執行者は、遺言の内容に従って必要な手続きを行います。
さらに、民法1013条1項は、遺言執行者がいる場合、相続人が「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為」をすることを禁止し、同条2項は、これに違反した行為を原則として無効としています。
民法1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
1項 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2項 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3項 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
そのため、遺言執行者を指定しておくことは、単に事務を代行してもらうだけではなく、相続人間の意見の対立などによって遺言の実現が妨げられることを防止する意味もあります。
また、遺言執行者には民法644条の善良な管理者の注意義務等が準用されます(民法1012条3項)。したがって、遺言執行者は、自分の財産を自由に扱うような立場ではなく、遺言者の意思を実現するため、適切に財産を管理し、遺言執行事務を行わなければなりません。前述の通り、善管注意義務の内容は受任者の能力により影響を受けますので、弁護士などの法律専門家に依頼されると良いでしょう。
なお、遺言で遺言執行者を指定していなかった場合や、指定された遺言執行者が死亡するなどして遺言執行者がいなくなった場合には、利害関係人の請求によって家庭裁判所が遺言執行者を選任することもできます(民法1010条)。
もっとも、遺言執行者を指定しておけば、死亡後のあらゆる手続きを行ってもらえる、というわけではありません。
遺言は、法律上、一定の事項について法的効果を生じさせる制度です。民法960条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と規定しており、例えば財産の遺贈については民法964条、遺言執行者の指定については民法1006条というように、民法が遺言によって行うことを認めた事項について法的効力が生じます。このような法律行為のことを「要式行為」と言います。
これに対して、
「家族だけで小さな葬儀をしてほしい。」
「○○寺の墓に納骨してほしい。」
「富士山が臨める○○湾に散骨してほしい。」
「飼っている犬を○○さんに預けてほしい。」
「携帯電話やインターネットサービスを解約してほしい。」
といった希望は、遺言に記載しておくこと自体はできますが、通常、財産の遺贈などと同じ意味での法定の遺言事項ではありません。遺言書の記載事項として法的に効力を生じ得る遺言事項には含まれていないからです。そのため、こうした事項を確実に実行してもらうには、遺言だけに頼るのではなく、別途、死後事務委任契約を締結しておくことが有効です。
(2)死後事務委任契約
死後事務委任契約とは、自分が死亡した後に必要となる様々な事務を、生前に信頼できる第三者に依頼しておく契約です。
例えば、契約内容として、
葬儀・火葬・納骨・永代供養等の手配・散骨手配、親族や友人への死亡の連絡、病院や老人ホーム等の費用の精算、住居の明渡し、電気・ガス・水道等の解約、電話・インターネット等の解約、遺品整理、行政機関への各種届出に関する手続、ペットの引渡し、SNSその他デジタルサービスの解約・整理などを定めることが考えられます。
ここで一つ問題となるのが、民法653条です。
同条は、
「委任は、次に掲げる事由によって終了する。一 委任者又は受任者の死亡」
と規定しています。つまり、普通の委任契約は、原則として委任者本人が死亡すると終了します。
それでは、自分が死亡した後の事務をあらかじめ委任しておく契約は、本人が死亡した瞬間に終了してしまうのではないか、という疑問が生じます。
この問題について重要なのが、最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決(平成4年(オ)第67号・金融法務事情1358号55頁)です。
最高裁判所平成4年9月22日判決
『原審は、(一) 丙山良子は、入院加療中の昭和六二年三月初めころ、同人名義の預貯金通帳、印章及び右預貯金通帳から引き出した金員を上告人に交付して、丙山の入院中の諸費用の病院への支払、同人の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、同人が入院中に世話になつた家政婦の丁野テル子及び友人の戉山ミカ子に対する応分の謝礼金の支払を依頼する旨の契約を締結した、(二) 上告人は、丙山が同月二八日に死亡した後、右依頼の趣旨に沿つて、病院関連費、葬儀関連費及び四十九日の法要までを施行した費用並びに丁野及び戉山に対する各謝礼金を支払つた、との事実を認定した上で、丙山が上告人に対して右金員などの交付をしたのは、前記各費用などの支払を委任したものであり、そうすると委任者である丙山の死亡によつて右委任契約は終了した(民法六五三条)として、上告人は、丙山から受け取つていた預貯金通帳及び印章のほか、上告人が支払つた前記各費用などを控除した残金を、丙山の相続財産をすべて相続した被上告人に返還すべきであるとし、また、前記各費用などのうち上告人の戉山に対する謝礼金の支出は、被上告人の承諾を得ることなく上告人が独自の判断でしたものであるから不法行為となり、上告人は被上告人に対し同額の損害賠償責任を負うとした。
しかしながら、自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が丙山と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者丙山の死亡によつても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法六五三条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。
しかるに、原判決が丙山の死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら、この契約が民法六五三条の規定により丙山の死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるに帰し、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人敗訴の部分は破棄を免れない。』
この事件では、本人が、生前、受任者に対して、入院中の病院費用の支払いだけでなく、自分の死亡後の葬式・法要の実施とその費用の支払い、世話になった人への謝礼等を依頼していました。
最高裁は、このような契約について、死亡後の事務を委任する契約が成立している以上、
「委任者の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する」
とし、さらに民法653条についても、そのような合意の効力を否定するものではないと判示しました。
したがって、本人が死亡した後にも契約を存続させ、死亡後の事務を処理してもらう旨を合意することは有効であると考えられています。
さらに、東京高裁平成21年12月21日判決(判例時報2073号32頁、判例タイムズ1328号134頁)は、本人死亡後に相続人等が死後事務委任契約を自由に解除できるかという問題について判断しています。
東京高裁平成21年12月21日判決
『本来、委任契約は特段の合意がない限り、委任者の死亡により終了する(民法六五三条一号)のであるが、委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼するなど、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者の死亡によっても当然に同契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨と解される(最高裁平成四年(オ)第六七号同年九月二二日第三小法廷判決・金融法務事情一三五八号五五頁参照)。さらに、委任者の死亡後における事務処理を依頼する旨の委任契約においては、委任者は、自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である。』
この事件で裁判所は、死後事務委任契約は、本人が「自己の死亡後に契約に従って事務が履行されること」を想定して締結するものであることを重視し、契約内容が不明確・実現困難であったり、承継者の負担が過重であるなど、履行させることが不合理な特段の事情がない限り、相続人等による解除を許さない趣旨の合意も含まれると判断しました。
この判例からも、死後事務委任契約が単なる「お願い」ではなく、本人の死亡後にも効力を有する契約として法律上認められていることが分かります。
但し、死後事務委任契約だけでは、遺産の相続先や遺贈先を決めることはできませんので注意が必要です。
例えば、
「私が死亡したら、この預金1000万円を友人Aに渡してください。」
という財産処分を、死後事務委任契約だけで行おうとしても、遺言の方式や遺留分も含めた民法の相続法上の規律との関係で問題が生じ得ます。財産を誰に相続・遺贈させるかという問題については、原則として遺言によって定めておく必要があります。
そこで、死亡後の準備としては、
財産を誰に承継させるかについては「遺言書」及び「遺言執行者の指定」、葬儀・納骨・住居の明渡し・各種契約の解約などについては「死後事務委任契約」、というように役割を分けておくことが適切です。遺言書の内容や、遺留分の内容と矛盾しない形で、死後事務委任契約の各条項を定めておく必要があります。
遺言執行者と死後事務受任者を同じ弁護士等に指定することもできます。そのようにしておけば、本人が死亡した後、その者が、まず葬儀や病院費用等の緊急の死後事務を処理するとともに、並行して遺言執行者として相続財産を調査し、預貯金、不動産等について遺言内容に従った手続きを円滑に進めることができます。
なお、死後事務委任契約には法律上特別な方式は定められていませんが、実際に事務が行われる時点では委任者本人は既に死亡しており、「本人が本当にこの内容を希望していたのか」を本人に確認することができません。そのため、契約内容、費用・報酬、預り金の管理方法、受任者の権限、相続人への報告方法などを明確にし、公正証書によって作成しておくことが有効です。
相続人との意見の相違が予想される場合は、遺言無効確認訴訟を提起されてしまう可能性もありますので、公正証書による遺言書や死後事務委任契約書の形で遺志を遺しておくことをお勧め致します。単に便箋などに遺言を書くだけではなく、公正証書遺言を作成して遺言執行者を指定するとともに、同じ法律専門家等との間で公正証書として死後事務委任契約を締結しておくと良いでしょう。
この二つを組み合わせることによって、死亡後の「財産の承継」と「実際の生活上・事務上の後始末」の双方について、自分が元気なうちに、自分の意思に沿って処理される仕組みを整えておくことができます。
3、散骨について
散骨とは、「死者の遺骨を粉にして海や山へまく葬礼」(広辞苑第7版)とされる行為です。日本では古くから土葬や火葬のほか、地域の風土や慣習に応じて、風葬など様々な葬送方法が行われてきました。
旧厚生省生活衛生局が設置した「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」が平成10年6月にとりまとめた報告書は、「墓地埋葬法が想定していない葬法として、焼骨を粉末状にして、墓地又は墓地以外の場所に焼骨を散布する散骨を行う人々が現れた」としたうえで、「墓地埋葬法は、本来、伝統的な葬法である埋葬・火葬の取締法規であり、葬法の在り方自体を直接的に規制するものではない。また、刑法の遺骨遺棄罪は社会的な習俗、倫理に関するものであり、相当な節度をもって行なう場合は、散骨を処罰の対象とすることはできないと解されている。」との見解を示しています。
(1)散骨に関する法規制、ガイドライン
令和8年現在、散骨そのものを全国一律に禁止する法律はありません。ただし、どこで、どのような方法で散骨しても自由というわけではありません。墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)4条1項は、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない」と規定しています。この「埋蔵」は焼骨を土中に埋めることを意味するため、粉末状にした焼骨を地表や海面に撒く通常の散骨とは区別されています。
また、刑法190条は、死体、遺骨等を損壊、遺棄又は領得した者を「3年以下の拘禁刑」に処すると規定しています。このため、散骨も方法によっては遺骨の遺棄等に当たる可能性がありますが、葬送を目的として社会的に相当な方法で行われる散骨については、一般の遺骨遺棄とは区別して考えられています。
現在は、厚生労働省も公式に「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」を公表しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123872.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001321304.pdf
同ガイドラインは散骨を、墓埋法に基づいて適法に火葬された焼骨を「粉状に砕き」、墓埋法が想定する埋蔵・収蔵以外の方法で陸地又は水面に散布・投下する行為と定義しています。さらに、散骨事業者に対し、墓埋法、刑法、民法、地方公共団体の条例等を遵守するよう求めています。逆に言えば、墓埋法や刑法190条の規定に違反しない形で、一定の範囲で、合法的に散骨する余地が認められるに至っているということができます。
具体的な方法についても、厚生労働省のガイドラインは、陸上ではあらかじめ特定した区域で行い、河川や湖沼を避けること、海洋散骨では海岸から一定距離以上離れた海域を選定すること、焼骨は外観から焼骨と分からない程度の粉状にすること、地域住民、周辺土地所有者、漁業者等の利益や宗教感情に十分配慮することを求めています。したがって、海岸、公園、他人の土地などに自由に撒いてよいというものではありません。ガイドラインでは、研修など散骨が適切に行われるための取り組みに努める散骨関係団体の役割についても言及されておりますので、単独事業者として散骨を行うよりも、業界団体を設立したり加入したりした上で行うことが望ましいと言えます。
散骨予定地について地方公共団体の条例・ガイドラインを事前に確認することも重要です。
※飯能市、散骨の実施に関するガイドラインについて
https://www.city.hanno.lg.jp/soshikikarasagasu/kankyokeizaibu/kankyomidorimizuka/11504.html
※熱海市、海洋散骨事業ガイドライン
https://www.city.atami.lg.jp/kurashi/sousai/1009425/1000630.html
※地方自治研究機構、散骨を規制する条例
https://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/127_sankotsu.htm
(2)葬式・法要等を生前に決めておく方法
自分の葬儀を家族葬にしてほしい、特定の宗教形式では葬儀をしてほしくない、散骨してほしい、特定の寺院で法要をしてほしい、といった希望を生前に定めておくことはできます。
しかし、これらを遺言書に記載しただけでは、通常、相続財産の処分などと同じ法律上の強制力が生じるわけではありません。遺言は、民法960条以下により、遺贈、相続分の指定、遺言執行者の指定など、法律が遺言によって行うことを認めた「遺言事項」について法的効果を生じさせる制度だからです。葬儀の形式や散骨、法要の方法などは、原則として法定の遺言事項ではありません。
そこで、このような希望をできる限り確実に実現するためには、遺言とは別に、信頼できる人との間で「死後事務委任契約」を締結しておく方法が有効です。令和6年6月に内閣官房、法務省、厚生労働省、消費者庁等9府省庁が策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」も、死後事務サービスとして、死亡の確認・関係者への連絡、葬儀、火葬、納骨、永代供養、行政手続、公共料金等の解約、遺品整理などを具体的に挙げています。
※内閣官房ほか、高齢者等終身サポート事業者ガイドライン(令和6年6月)
https://www.moj.go.jp/content/001420018
同ガイドラインは、葬儀・火葬・埋葬・供養・法要等について、本人の希望する具体的な葬送方法を生前に確認し、必要な費用等を把握しておくことを推奨しています。特に「散骨」を希望する場合には地方自治体に事前確認をすることが望ましいと明記されています。したがって、散骨や葬儀について具体的な希望がある場合には、「散骨してほしい」という遺言やエンディングノートだけに頼るのではなく、散骨場所、方法、葬儀、供養・法要、費用等を具体的に定めた死後事務委任契約を締結しておくことが、現在の実務上、より確実な方法といえます。
このように適法に散骨を行える可能性も無いとは言えませんが、現時点で法的整備が未完成の状態であると言わざるを得ません。お考えの近い宗教法人の墓地や霊園墓地に、いわゆる「永代供養墓」に申し込みして埋葬してもらうことも検討してみてください。弁護士が、遺言執行者や死後事務委任で通常行うのも、永代供養の方式です。
4、まとめ
以上の次第ですから、遺志の履行が確実にできるのか御心配であれば、これから、存命中に関する「任意後見契約」「みまもり契約」を弁護士などの法律専門家に依頼し、更に「公正証書遺言」を作成し、遺産の処分方法を定め、それを実施すべく公正証書遺言の中で「遺言執行者の指定」もなさると良いでしょう。更に、遺産処理以外の手続きについても代行してもらうために、「死後事務委任契約」を締結なさっておかれると良いでしょう。ご心配であれば、お近くの弁護士事務所にご相談なさり、ご依頼されることをご検討なさって下さい。
以上
関連事例集
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参考条文
任意後見契約に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二 本人 任意後見契約の委任者をいう。
三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
(任意後見契約の方式)
第三条 任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
(任意後見監督人の選任)
第四条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。
(任意後見監督人の欠格事由)
第五条 任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。
(本人の意思の尊重等)
第六条 任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
(任意後見監督人の職務等)
第七条 任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一 任意後見人の事務を監督すること。
二 任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。
三 急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
四 任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。
2 任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。
4 民法第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、任意後見監督人について準用する。
(任意後見人の解任)
第八条 任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。
(任意後見契約の解除)
第九条 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
(後見、保佐及び補助との関係)
第十条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。
(任意後見人の代理権の消滅の対抗要件)
第十一条 任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない。
※参考資料
令和2年度厚生労働科学特別研究事業「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究」研究報告書より
散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)
1 目的
本ガイドラインは、散骨が関係者の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生等の見地から適切に行われることを目的とする。
2 定義
本ガイドラインにおける用語の定義は次のとおりとする。
(1) 散骨 墓埋法に基づき適法に火葬された後、その焼骨を粉状に砕き、墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で、陸地又は水面に散布し、又は投下する行為
(2) 散骨事業者業として散骨を行う者
(3) 散骨関係団体 散骨事業者を会員とする団体
3 散骨事業者に関する事項
(1) 法令等の遵守
散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、墓地、埋葬等に関する法律(昭和 23 年法律第 48 号)、刑法(明治 40 年法律第 45 号)、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和 45 年法律第 137 号)、海上運送法(昭和 24 年法律第 187 号)、民法(明治 29 年法律第 89 号)等の関係法令、地方公共団体の条例、ガイドライン等を遵守すること。
(2) 散骨を行う場所
散骨は、次のような場所で行うこと。
① 陸上の場合 あらかじめ特定した区域(河川及び湖沼を除く。)
② 海洋の場合 海岸から一定の距離以上離れた海域(地理条件、利用状況等の実情を踏まえ適切な距離を設定する。)
(3) 焼骨の形状
焼骨は、その形状を視認できないよう粉状に砕くこと。
(4) 関係者への配慮
散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、地域住民、周辺の土地所有者、漁業者等の関係者の利益、宗教感情等を害することのないよう、十分に配慮すること。
(5) 自然環境への配慮
散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、プラスチック、ビニール等を原材料とする副葬品等を投下するなど、自然環境に悪影響を及ぼすような行為は行わないこと。
(6) 利用者との契約等
① 約款の整備
散骨事業者は、あらかじめ散骨に関する契約内容を明記した約款を整備し、公表するとともに、利用者の求めがある場合には、約款を提示すること。
② 利用者の契約内容の選択
散骨事業者は、約款に定める方法により、利用者の契約内容に関する選択に応じること。
③ 契約の締結
・ 契約内容の説明
散骨事業者は、契約の締結に当たっては、必要な教育訓練を受けた職員にあらかじめ適切な説明を行わせ、利用者の十分な理解を得ること。
・ 契約の方法
散骨に係る契約の方法は、文書によること。
・ 費用に関する明細書
散骨事業者は、契約の締結に当たっては、費用に関する明細書を契約書に添付すること。
④ 契約の解約
散骨事業者は、約款に定めるところにより、利用者の解約の申し出に応じること。
⑤ 散骨証明書の作成、交付
散骨事業者は、散骨を行った後、散骨を行ったことを証する散骨証明書を作成し、利用者に交付すること。
(7) 安全の確保
散骨事業者は、散骨を行うに当たっては、次のような措置を講ずるなど、参列者の安全に十分に配慮すること。
① 陸上の場合 歩道、安全柵等、必要な施設の設置等
② 海洋の場合 必要な教育訓練を受けた従事者及び補助者の配置、ライフジャケット等の安全装具の確保等
(8) 散骨の実施状況の公表
散骨事業者は、自らの散骨の実施状況(散骨の件数、散骨の場所等)を年度ごとに取りまとめ、自社のホームページ等で公表すること。
公表あるいは事業の紹介、PR においては、亡くなった人を含め、個人情報の取り扱いには十分に配慮すること。
4 散骨関係団体に関する事項
(1) 散骨関係団体の役割
散骨関係団体は、会員事業者やその職員に対する研修会の開催等、散骨が適切に行われるための取組みに努めること。
(2) 散骨の実施状況の公表
散骨関係団体は、会員の散骨の実施状況(散骨の件数、散骨の場所等)を年度ごとに取りまとめ、自団体のホームページ等で公表すること。また地方公共団体の求めがあれば提出すること。
以上
判例