不当解雇の場合における金銭補償

労働|不当解雇の慰謝料|労働者と使用者の利益対立|労働審判|東京地裁平成29年7月3日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文・判例

質問:

私は、とある中小企業に無期雇用で勤めていたのですが、妊娠していることを理由として、普通解雇されてしまいました。会社としては、どうやら私が産休・育休を取ることを嫌ったようです。このようなやり方は、到底受け入れることができないので、不当な解雇であるとして、会社と争おうと思っています。もし解雇が不当であると認められた場合、私は、会社に対し、解雇期間中の賃金や慰謝料を請求することができるのでしょうか。どのような法的手続を取れば良いのかも、併せて教えてください。

回答:

1 まず始めに、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律でも、「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。」と定められていることからも明らかなとおり(同法9条4項本文)、妊娠を理由とする普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、解雇権を濫用したものとして、無効とされることになります(労働契約法16条)。

2 普通解雇が無効とされた場合、解雇された従業員は、解雇期間中の賃金(バックペイ)の全額の支払いを受けることができるのが原則ですが(民法536条2項前段)、その従業員が解雇期間中に別の仕事をして収入を得ていた場合には、その分の収入は、バックペイから控除されることになります(同項後段)。

もっとも、会社は、その責めに帰すべき事由による休業においては、休業期間中の労働者に対し、賃金の6割に相当する手当を支払わなければならないとされています(労働基準法26条)。すなわち、その従業員は、解雇期間中に別の仕事をして収入を得ていたとしても、別途、解雇期間中の賃金の6割に相当する手当の支払いを受けることができます。

3 また、普通解雇が無効とされた場合であっても、上記のとおり、解雇された従業員は、バックペイの支払いを受けることができ、不当解雇による精神的苦痛は、原則として、これによって慰謝されるものとして扱われ、不当解雇の事案で、別途、慰謝料の支払いを受けることができるのは、慰謝がバックペイだけでは不十分なほどの格別の精神的苦痛を被った場合に限定されています。

もっとも、妊娠を理由とする普通解雇は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条4項本文に明確に違反する措置であるため、解雇に至る経過等にもよるところですが、慰謝がバックペイだけでは不十分なほどの格別の精神的苦痛を被ったものとして、慰謝料請求が認められる可能性も十分にあるといえるでしょう。

4 法的な手続きとしては、主に、労働審判や地位確認訴訟の2つが挙げられますが、基本的には、迅速性が重視されている労働審判を選択することになるでしょう。

その具体的な審理の流れとしては、管轄する地方裁判所に申立書を提出して労働審判の申立てを行うと、特別の事由がある場合を除き、申立てがなされた日から40日以内の日に第1回の期日が指定され、当事者双方が裁判所に呼び出されます。

期日では、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会、及び、申立人と相手方の双方(並びにその代理人)により、審理が進められることとなり、事実関係や法律論に関する双方の言い分の聴取や争点の整理のほか、必要に応じて、直接、申立人本人や相手方の関係者等からの事情聴取が行われます。

話合いによる解決の見込みがあれば、調停(当事者間の合意)での解決が試みられますが、話合いが纏まらない場合は、労働審判委員会が、審理の結果、認められた当事者間の権利関係と手続の経過を踏まえ、事案の実情に即した判断(労働審判)を示します。

不当解雇された場合、従業員たる地を主張して、未払い賃金の請求をするのは当然ですが、今後は会社を辞めたいという場合も多いでしょう。その場合は、未払い賃金に加算して、退職に伴う形での解決金を受け取って退職するという場合も多く見られますので、検討されたら良いでしょう。本稿では未払い賃金について以下詳しく説明します。

4 関連事例集1972番参照。その他、解雇に関する関連事例集参照。

解説:

1 普通解雇の可否

⑴ 普通解雇とは、従業員が労働契約の本旨に従った業務を提供しないことを理由として、会社が一方的に労働契約を解約することをいいます。

普通解雇が有効と認められるための要件は、①(a)解雇予告の意思表示がなされ、それから30日が経過したこと、若しくは、(b)解雇の意思表がなされ、解雇予告手当が支払われたこと、②解雇に正当な理由があることの2つです。

⑵ ①については、会社が従業員を解雇する場合には、少なくとも、解雇日の30日前に予告しなければならないのが原則とされています。

ただし、かかる解雇予告がなかったとしても、30日以上分の平均賃金(解雇予告手当)を支払えば足りるとされています(労働基準法20条1項)。

また、解雇予告の日数は、返金賃金を支払った分だけ短縮することができるとされており(同条2項)、例えば、会社が10日後に従業員を解雇しようとする場合には、解雇日の10日前に解雇予告を行った上で、30日に足りない20日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払えば足りることになります。

⑶ ②については、期限の定めのない雇用契約(無期雇用契約)は、いつでも解約の申入れをすることができるとされていますが(民法627条1項)、会社側がこれをする場合、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、解雇権を濫用したものとして、解雇は無効とされることになります(労働契約法16条)。

その上で、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律でも、「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。」と定められていることからも明らかなとおり(同法9条4項本文)、妊娠を理由とする普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないため、無効とされることになります。

(4) このように、普通解雇には正当な理由が必要ですから、会社雇用者は、何らかの正当な理由といえるような事実を指摘して解雇の有効性を主張するのが一般的です。とはいえ、そのような事実についての主張立証責任は会社雇用者にありますから、一般的には正当な理由があると認められるのは困難であると言えますから、心配は不要です。

2 不当解雇の場合における賃金の取り扱い(バックペイ)

⑴ 普通解雇が無効とされた場合であっても、解雇された従業員は、会社に対して労務を提供していなかった以上、解雇期間中の賃金の支払いを受けることができないようにも思えます(ノーワーク・ノーペイの原則。民法624条1項。)。

しかしながら、解雇が無効であれば従業員としての地位は継続するのですから、その従業員が労務を提供することができなかったのは、あくまでも会社によって不当解雇がなされたのが原因であり、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるため、会社は、「反対給付の履行」の履行、すなわち、解雇期間中の賃金の支払いを拒むことができないことになります(同法536条2項前段)。

⑵ こうした解雇期間中の賃金のことをバックペイといいますが、解雇された従業員は、その全額の支払いを受けることができるのが原則です。

もっとも、その従業員が解雇期間中に別の仕事をして収入を得ていた場合には、その分の収入は、「自己の債務を免れたことによって」得た「利益」に当たるため、バックペイから控除されることになります(民法536条2項後段)。

ただし、会社は、その責めに帰すべき事由による休業においては、休業期間中の労働者に対し、賃金の6割に相当する手当を支払わなければならないとされています(労働基準法26条)。すなわち、その従業員は、解雇期間中に別の仕事をして平均賃金の4割以上の収入を得ていたとしても、別途、解雇期間中の賃金の6割に相当する手当の支払いを受けることができます。

例えば、1月当たりの平均賃金が50万円で、6か月の解雇期間中に別の仕事をして合計200万円の収入を得ていた場合には、解雇期間中の賃金が300万円(=50万円×6か月)となり、そこから200万円を控除すると、その金額は100万円となりますが、これは、解雇期間中の賃金の6割に相当する手当に足りないため、結局、その従業員は、別途、180万円(=300万円×0.6)の手当の支払いを受けることができます。

なお、賞与についても、個別の査定が行われず、賞与が画一的に支給されていた場合には、バックペイに含まれることになります。

3 不当解雇の場合における慰謝料

普通解雇が無効とされた場合であっても、上記のとおり、解雇された従業員は、バックペイの支払いを受けることができ、不当解雇による精神的苦痛は、原則として、これによって慰謝されるものとして扱われ、不当解雇の事案で、別途、慰謝料の支払いを受けることができるのは、慰謝がバックペイだけでは不十分なほどの格別の精神的苦痛を被った場合に限定されています。一般的考え方として、経済的な損失については、損失についての金銭賠償が原則で、それにより損害が回復されたと考えられ、精神的な損害についての賠償である慰謝料は認められません。東京地裁平成29年7月3日判決でも、「解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。」とされています。

もっとも、妊娠を理由とする普通解雇は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条4項本文に明確に違反する措置であるため、解雇に至る経過等にもよるところですが、慰謝がバックペイだけでは不十分なほどの格別の精神的苦痛を被ったものとして、慰謝料請求が認められる可能性も十分にあるといえるでしょう。なお、不当解雇の場合における慰謝料の金額としては、一般的には、50~100万円程度が相場とされています。

4 具体的な法的手続

⑴ 普通解雇の効力を争う法的な手続きとしては、主に、労働審判や地位確認訴訟の2つが挙げられます。

このうち、労働審判は、個々の従業員と会社との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための裁判所における手続です。

労働審判では、迅速性が重視されており、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっています。審理に要する期間としては、80日程度であり、訴訟が通常1年以上を要する手続きであることと比較すると、その迅速性が分かるかと思います。また、訴訟とは異なり、非公開で行われます。

⑵ その具体的な審理の流れとしては、管轄する地方裁判所に申立書を提出して労働審判の申立てを行うと、特別の事由がある場合を除き、申立てがなされた日から40日以内の日に第1回の期日が指定され、当事者双方が裁判所に呼び出されます。この際、相手方に対しては、期日呼出状のほか、申立書の写し等も送付されます。相手方は、労働審判官が定めた期限までに、答弁書等を提出しなければなりません。

期日では、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会、及び、申立人と相手方の双方(並びにその代理人)により、審理が進められることとなり、事実関係や法律論に関する双方の言い分の聴取や争点の整理のほか、必要に応じて、直接、申立人本人や相手方の関係者等からの事情聴取が行われます。

話合いによる解決の見込みがあれば、調停(当事者間の合意)での解決が試みられますが、話合いが纏まらない場合は、労働審判委員会が、審理の結果、認められた当事者間の権利関係と手続の経過を踏まえ、事案の実情に即した判断(労働審判)を示します。

⑶ 労働審判は、裁判上の和解、ひいては、判決と同一の効力を有するため、これが確定すれば、その内容によっては、強制執行を申し立てることもできるようになります。

ただし、労働審判に対して不服があるときは、当事者は、審判書の送達を受けた日又は労働審判期日において労働審判の口頭告知を受けた日から2週間以内に裁判所に異議の申立てをすることができ、この異議の申立てがなされた場合は、労働審判は効力を失い、訴訟手続に移行することになります。

⑷ 手続選択という観点から言えば、基本的には、迅速性が重視されている労働審判を選択し、相手方である会社が徹底抗戦の構えを見せており、労働審判についても異議の申立てを行ってくると予想される場合には、地位確認訴訟を選択するということになるでしょう。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参照条文・判例

【民法】

第536条(債務者の危険負担等)

1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

第624条(報酬の支払時期)

1 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

1 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。

【労働基準法】

第20条(解雇の予告)

1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

3 前条第二項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

第26条(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

【労働契約法】

第16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

【雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律】

第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)

1 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

4 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

《参考判例》

(東京地裁平成29年7月3日判決)

第3 当裁判所の判断

1 認定事実

前記前提事実(第2の1)、甲22、乙125から128まで、証人B、同C及び原告本人のほか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(ただし、甲22及び原告本人のうち、以下の認定に反する部分は採用しない。)。

(1) Fが上司であった時期の原告の言動等

ア 原告は、第1回休業に入る前に行っていた引継ぎについて、○○チームのマネージャーであるFから不十分であるとの指摘を受けており、引継ぎのために夜遅くまで残業をすることがあったほか、社内の挨拶回りよりも引継ぎを優先して行うようにとの注意を受けたこともあって、強い不満を抱いていた。

イ Fは、原告が第1回休業後に復職してから、給与等の待遇に繰り返し不満を述べ、面談の機会を設けようとして送信したメール等にも積極的に対応しないほか、事前に求めた連絡をしないまま外部で開催されるセミナーに参加したり、原告が開催するシステムサポートの勉強会にFが出席を求めても拒まれたりするなどの問題もあって、原告への対応に苦慮しており、そのために残業時間も増えて負担が大きくなっていることをB部長に申し出ていた。B部長は、こうした状況が○○チーム内の大きな問題であると考えており、同チームの上部組織に所属するDに報告したり、Fと原告との面談に同席したりするなどして対応していた。(乙21から27まで、30、34)

ウ 一方、原告は、Fにシステム設計の実務経験がないことが原因となって○○チームのマネジメントが効率的に行われていないのではないかという疑問を持っており、他のメンバーと理解度が異なるため、Fの質問に時間を費やされると上記イの勉強会の意義が薄れるという意図の下にその出席を断っていた。

エ 平成24年5月、被告の就業規則の改定について人事部が主催する社員向けの説明会が開催され、原告もこれに参加した。席上、出席者にアンケート用紙が配布され、回答・提出が求められたが、原告はこれに記入しないまま提出した。その後、Cから改めて提出を求められ、原告は同年6月7日にアンケートを提出した。その自由記載欄には、就業規則の改定への意見のほか、派遣社員の更新時期の就労についての管理職の対応に疑問を呈するような内容も含まれていた。(乙32、33)

オ 平成25年3月22日、Fは、Cの同席の下、昇給通知を原告に交付し、その内容を説明したが、Fの説明に対して原告が強い不満を述べ、その言動も感情的なものであった。Cは上記面談での原告の言動にショックを受け、翌営業日である同月25日に原告を呼び出して、上司への態度として不適切なものである旨注意したところ、原告は謝ったものの、Fに非があるかのような不満を述べた。

カ 原告は、平成25年3月、原告が作成することになっている平成25年度の目標設定文書について、Fと協議する機会を持った。その後、Fが進捗状況を尋ねたところ、原告はFに再度の協議を求めたものの、Fが協議の方法を尋ねても、これに正面から答えず、結局、原告がこれを提出したのは、後記(2)イのとおり、Fが他部門に異動し、B部長が原告の上司となった後の同年7月末であった。(乙39、40)

キ B部長やDは、原告とFとの関係が改善せず、原告への対応がFの大きな負担となっていることを踏まえて、Fを他部門へ異動させ、B部長が原告の直接の上司となるよう組織変更を行うこととした(乙41、42)。

(2) B部長が上司になってからの原告の言動等

ア B部長は、平成25年6月中旬頃、Fが異動し自身が原告の上司という体制になることを原告に説明する際、それまでのFに対する原告の言動が不適切であったことを指摘したところ、原告は謝罪の言葉を述べる一方で、他の人に対しては同じようなことはしない、Fが自分にやったことはインドのレイプ事件と同じであるという趣旨を述べて、泣き出してしまった(乙77)。

イ 原告は、平成25年7月26日に至って、平成25年度の目標設定文書をようやく提出したが、B部長は、このような案件は上司に対しもっと素早く返答すべきであること、何か理由があって返答できないとしても、その旨を上司に伝えるべきことをメールで原告に注意した(乙40)。

ウ 原告は、平成25年8月頃、B部長に対し、原告が副業をすることについて承認が得られるかを尋ねた。B部長は、原則として承認できないが、期間・内容を聞いた上で止めないことはあり得る旨伝えたところ、原告からは、副業を始めようとした理由をヒアリングしないことについて不満が述べられ、B部長は、そのような希望があるのであればオープンに伝えてほしい旨を述べた。(乙43)

エ 平成25年10月17日、台風で交通機関が乱れ、社員が通常どおり出勤できない見込みであったことを受けて、被告では、午後2時までに出勤すればよいこと、その場合でも、午前9時30分に出勤したものとみなして一律に扱うことをメールにより社員に告知した。しかし、原告は、保育園の送り迎えで退勤時刻が他の社員一般より早く、在社時間を確保するため当日も正午過ぎには出勤していたところ、退勤時刻を実際の午後5時15分どおりとして申告すると所定労働時間である7.5時間が確保されたことにならないため、他の社員と同じように午前9時30分に出勤したと扱われたのでは不公平であると考えて、出勤時刻を午前8時45分と申告した。原告の申告は不正確なものであるとして、人事部で修正されたため、原告は、B部長に対し、こうした運用の改善を求めたが、B部長は被告が決めた運用であり、変更はできないなどと答えた。(乙98から103まで)

オ 原告は、平成26年2月、B部長と面談した際、それ以前の面談時に中座したことについて、B部長と話すと心臓に来ると感じたので、話を切り上げて失礼した、B部長の評価に納得がいったことがない、B部長と話すと具合が悪くなるので労災申請してもよいかなどと述べた(乙47)。

カ 平成26年4月、B部長がミーティングを招集したが、予定の時刻までに原告が現れなかったため、自席にいるところを呼び出されて原告はこれに参加した。その際、原告は、案内メールを下書きフォルダに保管し、見忘れていたなどと弁解した上、B部長が声をかければ済むのにそれもしないということは、時間までに出席していない者を出席の意志なしとみなすという方針をとるものと理解した、などと皮肉めいた内容のメールを送信した。(乙52)

キ 平成26年7月、原告は、第2回休業に入る前の引継ぎとして、休業時にそれまで原告が担当していた業務を受け持つ予定の社員との間で、過去に関係先と送受信したメールを共有する措置を取るよう指示されていた。同僚のGからB部長に対して原告の共有の措置が不十分であるとの申出があり、B部長が原告に対して指示どおり措置を取らないのは業務命令違反であり処分の検討対象であるなどの注意を与えたところ、原告は適宜の方法で情報共有しており、全てのメールの共有まで必要であるとは考えなかった、他の業務より優先順位が低いと考えていたなどと反論した。さらに、原告は、B部長から注意を受けたことについて、「さきほど『処分を検討している』という恐ろしい脅し文句をいただきましたので、(というのは冗談ですが・(笑い))、取り急ぎご要望いただいていた・・過去のメールに移動しました」などの文面のメールを複数の同僚に送信した。なお、B部長は、メールの共有について原告に指導を行おうとした際、Cに連絡を取ったメールの中で、原告の退職勧奨を進めたいなら自身で行動をとってよいとの指示を受けていたが、業務も忙しくなり、原告もそれほど問題を起こしていなかったので、つかず離れずの対応をしていたという趣旨の内容を送信していた。(乙54から59まで、106)

ク 原告が第2回休業に入ってからも、原告が共有の措置を講じていないメールがあったことにより、同僚から支障が生じたという申出もあり、結局、原告のメールアカウントについてパスワード変更を行い、原告のメールボックスの内容をB部長らが閲覧できる状態にする措置が講じられた。原告は、こうした措置を取ることに強く反発し、B部長やCらに対し、何度も抗議する内容のメールを送信した。(乙64から70まで)

(3) 原告に対する人事評価(平成24年度及び平成25年度)

ア 平成24年度の原告に対する人事評価の書面(原告については、平成25年3月12日の日付とサインが、Fについては、同月13日の日付とサインが記載されている)において、原告の自己評価は、基本姿勢3項目、チームワーク2項目、業務遂行5項目について、基本姿勢の中の「ビジネスマナー」、チームワークの中の「チームプレイ」「コミュニケーション」及び業務遂行の中の「業務改善・創意工夫」「報告・連絡・相談」「計画性・期限」「問題分析・解決・決断」の合計7項目を「2」(基本的に満たしている)という4段階中の上から2番目の評価とし、その余の3項目(基本姿勢の中の「責任性・向上心」「イニシアティブ・自律」、業務遂行の中の「処理速度・正確・質」)を「3」(顕著に満たしている)という4段階中の最高評価としていたのに対し、Fの評価は、上記「報告・連絡・相談」を「1」(やや不足している)という4段階中の上から3番目の評価としたほかは、いずれも原告の評価と一致しており、両者の合意評価においては、Fが「1」とした項目が「2」とされた。

なお、上記書面の「上司の評価」欄には、原告の業務上の貢献を積極的に評価する記載があるほか、「コミュニケーションに関しては、私のメッセージが不明瞭であったり、時間が必要であったり、又は、問題が懸念される際を含めた状況下で、私の質問や要望に対する返答を期待しています。私は、私自身のコミュニケーションをより明確にできるように改善します。2013年以降もチームとして一緒に働けることを楽しみにしています。」と記載されている。(甲13)

イ 平成25年度の原告に対する人事評価の書面(原告については、平成26年2月28日の日付とサインが、B部長については、同年3月6日の日付とサインが記載されている)において、原告の自己評価は、上記アと同じ各項目について、全て「3」の最高評価としていたが、B部長の評価は、基本姿勢の中の「ビジネスマナー」及びチームワークの中の「チームプレイ」「コミュニケーション」の各項目を「1」と評価とし、その余の7項目については「3」と評価しており、両者で面談を実施するも、評価の食い違いについて合意をみるに至らなかった。

なお、上記書面の「上司の評価」欄には、「編集部やお客様の反応から、本人が自分の知識をフルに使って、最適なサービスを最短時間で工夫していることがわかる。この責任感がなければ、我々はお客様からもっと苦情を受け、時間を費やしたことでしょう。また少なからぬ人が、社内でセミナーを開いたり、知識や技術を合理的な方法で同僚に共有したり、新しい社員に効率的に引継ぎをしていることに対して、ありがたく思っていることを聞いています。オフィス内でのあいさつについては、私は本人の方法を尊重するとともに、やはり最低でも退社する時にはチームにあいさつしてもらいたいと思っています。そのことによって同僚間の関係性が変わりパフォーマンスが上がるはずです。」との記載がある。(乙48から50まで)

(4) 原告の産業医との面談、弁護士等から助言を受けた被告の対応等

ア 原告は、平成24年10月9日、自ら希望して被告の産業医との面談を実施し、その後も同年12月11日、平成25年6月11日及び同年7月5日にも産業医との面談が行われた。Cは、原告の面談の結果について、産業医から意見を聴いており、原告について、感情不安定、強迫観念が強い、上司に対する攻撃的な言動を考慮すると、人間関係をうまく構築できず人の揚げ足をとって徹底的に追い詰めて、相手が自分の言うなりに仕向けるタイプ、相手がストレスで体調を崩す危険性がある、会社の秩序を守らず、周囲をかき乱す性格と思われる、冷静な判断力や思考力は欠けており、職場内でリーダー的な仕事はできないと思われるなどの説明があり、B部長やCでは原告には太刀打ちできないので、今後は弁護士や社労士に相談し、面談にも同席してもらった方がいい、などとする助言を受けた。(乙71から79まで)

イ Cは、平成25年12月以降、原告への対応の仕方について、弁護士、顧問の社会保険労務士、産業医に相談していた。弁護士からは、いきなり原告を解雇することはできないので、個々の事例について就業規則の根拠を示すなどして段階的に注意・懲戒を行うべきで、本人の態度が改まらないのであれば、最終的には解雇するか、本人が退職を選択する可能性もあるなどの助言を得ていた。(乙81から86まで)

ウ B部長は、平成26年3月初め頃、顧問の社会保険労務士に相談し、原告に交付するC名義の注意書を起案した。そこに記載された内容は、①平成25年の目標設定文書の提出が約5か月遅れ、その点について注意を受けていたにもかかわらず、平成26年の目標設定時も何度も督促を受けたが、優先順位が低いなどと述べて、書類提出の重要性を理解しようとする様子がみられず、その後提出された書類の一部は白紙であった、②出退勤時にチーム全体に対して挨拶するというチームルールを守るよう指導しているのに、話を切り上げ、ルールを守るという行動にも出ていないことは著しい協調不良である、③ 原告の行為は共同作業や業務遂行を大きく乱し、他の社員の業務にも支障を与え、被告就業規則30条1号(5)、2号(27)等に違反し、92条1項6号等の懲戒事由に該当するので、このような行為を改善されるよう注意するという趣旨のものであった。しかし、このときに起案された注意書は、結局、原告に交付されなかった。(乙87、88)

エ 第2回休業後に原告からの復職申出を受けて、被告との面談が実施された際に、被告からは退職勧奨が行われ、原告は職場復帰しないまま自宅に待機した状態で被告との間で折衝を行った。C及びEと面談した際に、原告からは、B部長に謝りたい、Fには大変申し訳ないことをした旨の発言があった。また、原告がB部長に送信したメールには、不愉快な思いをさせたことを詫び、言葉が過ぎて甘えていた、指導を受けて改善されたことが分かるような態度を取ればよかったなどと反省の弁を述べるものがあった。(前記前提事実(5)、乙128・17頁、B調書15頁、C調書7、8頁)

2 解雇の効力について

(1) 妊娠等と近接して行われた解雇と均等法及び育休法違反について

前記第2の2のとおり、均等法9条3項及び育休法10条は、労働者が妊娠・出産し、又は育児休業をしたことを理由として、事業主が解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じている。一方で、事業主は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合には、労働者を有効に解雇し得る(労働契約法16条参照)。

上記のとおり、妊娠・出産や育児休業の取得(以下「妊娠等」という。)を直接の理由とする解雇は法律上明示的に禁じられているから、労働者の妊娠等と近接して解雇が行われた場合でも、事業主は、少なくとも外形的には、妊娠等とは異なる解雇理由の存在を主張するのが通常であると考えられる。そして、解雇が有効であるか否かは、当該労働契約に関係する様々な事情を勘案した上で行われる規範的な判断であって、一義的な判定が容易でない場合も少なくないから、結論において、事業主の主張する解雇理由が不十分であって、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり、そのように推認したりして、均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない。

他方、事業主が解雇をするに際し、形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは、当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになる。もちろん、均等法及び育休法違反とされずとも、労働契約法16条違反と判断されれば解雇の効力は否定され、結果として労働者の救済は図られ得るにせよ、均等法及び育休法の各規定をもってしても、妊娠等を実質的な、あるいは、隠れた理由とする解雇に対して何らの歯止めにもならないとすれば、労働者はそうした解雇を争わざるを得ないことなどにより大きな負担を強いられることは避けられないからである。

このようにみてくると、事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。

(2) 被告が主張する解雇理由について

ア 被告は、原告の解雇理由について、前記第2の4(2)ア(イ)、(ウ)のとおり主張しており、原告の問題行動が、業務妨害や、業務命令違反、職場秩序のびん乱や、業務遂行能力及び資質の欠如に当たる旨主張している。

イ 被告主張に関連して認定できるのは前記認定事実のとおりであり、原告は、自身の処遇・待遇に不満を持って、FやB部長ら上司に執拗に対応を求め、自身の決めた方針にこだわり、上司の求めにも容易に従わないなど、協力的な態度で対応せず、時に感情的になって極端な言動を取ったり、皮肉・あてこすりに類する言動、上司に対するものとしては非礼ともいえる言動を取ったりしており、その結果、上司らは原告への対応に時間を取られることを大きな負担と感じ、Fに関しては他部門へ異動せざるを得なかったものと要約できる。

他方、原告の業務遂行に関しては、その能力・成績等について何ら問題にされておらず、むしろ良好・優秀な部類と受け取られていたことは、平成25年度の原告に対する人事評価において、「ビジネスマナー」やチームワークの項目以外、B部長も全て4段階中の最高評価としていたことからも明らかであり(前記認定事実(3)イ)、その評価時点から第2回休業開始時までの間に約5か月の期間があるものの、この間に原告の業務遂行の状況について顕著な変化があった旨の主張立証はされていないところである。

ウ 次に、被告が原告の問題行動についてどのような注意・指導を行っていたかという点についてみると、B部長やCからは、上司への態度として不適切なものであることが口頭で注意されており(前記認定事実(1)オ、(2)ア)、第2回休業前のメール共有の措置に関しては、B部長から業務命令違反であることを明示し、処分をほのめかしている(前記認定事実(2)キ)ほか、個々の指示に際しての注意も行われている(前記認定事実(2)イ等)。しかし、これまでに、それ以上に懲戒処分はもちろん、文書を交付して注意が行われたことはなく、業務命令違反等の就業規則違反であることを指摘したり、将来の処分をほのめかしたりしたのも、上記メール共有の措置の件以外には見当たらない。

被告は、弁護士や社会保険労務士の助言を受けつつ注意書を準備していたとするが、実際に原告には交付されていない。この点について、被告は交付する予定であったものの直前の平成26年4月に原告の妊娠が発覚し母性保護を優先して交付を断念したと主張し、Cも同旨を供述する(乙128・15頁)。しかし、注意書の文案(乙88)及び社会労務士作成の原案(乙87)は同年3月5日及び2月27日に作成されていたというのであり、上記文案の作成から妊娠の発覚までは一定の時間的余裕もあったようにみえながら、原告への注意書の交付が実行されていなかったことからすると、原告の問題行動なるものを被告においてどの程度深刻なものと受け止めていたかについては疑問も残り、少なくとも緊急の対応を要するような状況とまでは捉えていなかったことがみてとれる。

さらに、被告では、原告の問題行動に苦慮し、これへの対応として弁護士、社会保険労務士及び産業医に相談し、助言を受けていたというのであるが、助言の内容は、要するに、今後の原告の問題行動に対して、段階を踏んで注意を与え、軽い懲戒処分を重ねるなどして、原告の態度が改まらないときに初めて退職勧奨や解雇等に及ぶべきであるとするものであるが、第2回休業までの経過及びその後の経過をみる限り、こうした手順がふまれていたとは到底いえないところである。そして、その助言の内容に照らせば、被告(その担当者)にあっては、第2回休業の終了後において直ちに、すなわち、復職を受け入れた上、その後の業務の遂行状況や勤務態度等を確認し、不良な点があれば注意・指導、場合によっては解雇以外の処分を行うなどして、改善の機会を与えることのないまま、解雇を敢行する場合、法律上の根拠を欠いたものとなることを十分に認識することができたものとみざるを得ない。

エ ところで、被告は、本件解雇につき、弁護士からの助言を踏まえた既定の方針を変更してされたものであることを認めつつ、そうした方針変更の理由について、第2の4(2)ア(ア)eのとおり主張している。その理由は、ある意味、臆面がなく、率直に過ぎるものであるが、これを要約すれば、他の社員にとって、問題行動のある原告がいない職場があまりに居心地がよく、原告が復職した場合にはその負担・落差に耐えられず、組織や業務に支障が生ずるではないかというものである。こうした方針転換の理由は、被告の主張限りのものではなく、B部長やCも率直に同旨を述べている(B調書13頁、C調書11頁)。

しかし、労働者に何らかの問題行動があって、職場の上司や同僚に一定の負担が生じ得るとしても、例えば、精神的な変調を生じさせるような場合も含め、上司や同僚の生命・身体を危険にさらし、あるいは、業務上の損害を生じさせるおそれがあることにつき客観的・具体的な裏付けがあればともかく、そうでない限り、事業主はこれを甘受すべきものであって、復職した上で、必要な指導を受け、改善の機会を与えられることは育児休業を取得した労働者の当然の権利といえ、原告との関係でも、こうした権利が奪われてよいはずがない。そして、本件において、上司や同僚、業務に生じる危険・損害について客観的・具体的な裏付けがあるとは認めるに足りない。

オ 以上によれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められず無効である。また、既に判断した解雇に至る経緯(第1回休業前の弁護士等の助言内容のほか、紛争調整委員会が発した調停案受諾勧告書の内容(前記前提事実(6))も考慮されるべきである。)からすれば、被告(の担当者)は、本件解雇は妊娠等に近接して行われており(被告が復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、前記(1)で判断したところによれば、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって、この意味からも本件解雇は無効というべきである。

3 地位確認請求及び賃金支払請求について

上記2で判断したところによれば、原告の被告に対する労働契約上の地位を有することの確認請求並びに賃金及びこれに係る遅延損害金支払請求は全部理由がある。

4 不法行為に基づく損害賠償請求について

解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。

もっとも、本件においては、原告が第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば、育休法や就業規則の定め(第2の4(1)ア、3(2)参照)に従い、被告において、復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ、原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、原告もそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、原告は、特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、被告は、原告がこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない。

そして、本件に表れた一切の事情を考慮すれば、被告のした違法な本件解雇により、原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は50万円と認めるのが相当であり、これと相当因果関係にあると認められる弁護士費用5万円とを併せて、被告は損害賠償義務を負うものというべきである。

以上