公務員の2度目の万引きと職場連絡阻止対策

刑事|前歴があっても微罪処分となるか|犯罪捜査規範25条

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

私は,某県某市で公務員として働いています。先日,夫や子ども達との関係が上手くいかないストレスから,スーパーで800円程度の食品を万引きをしてしまいました。その場でお店の方に見つかり,警察署に連れていかれましたが,逮捕はされず家に帰されました。実は,2年ほど前にも同じように万引きをしたことがあり,今回警察の方からは「2回目だから検察庁に送致する。公務員だから職場にも連絡する。」と告げられています。私は今後どのように処罰されるのでしょうか。また,職場に万引きの事実が発覚してしまうと,懲戒処分を受けることになると思います。夫は病気で働けず,私が免職されると子ども4人を育てることはできません。何とか職場への連絡を回避することはできないのでしょうか。

回答:

1.このような2回目の窃盗事件の場合,原則として事件は検察庁に送致され,検察官によって刑事裁判に起訴すべきかどうかの処分が下されることになります。あなたの場合,このままだと略式命令により罰金刑を科され,前科が付く可能性が高いと言えます。

しかし,今後の対応と示談等の弁護活動により,前回よりも深い反省の態度を示すことができれば,不起訴処分となり,前科が付くことを回避できる可能性は十分に考えられます。ストレスが原因で万引き行為を繰り返してしまったのであれば、依存症などの精神疾患が関与している可能性もあります。精神科専門医の受診や臨床心理士など専門家のカウンセリングを受けることも検討してください。そのような治療の努力をしていることも、警察・検察に主張していくべきでしょう。

2.公務員が刑事事件を起こした場合,警察官又は検察官から職場に刑事事件を起こした事実を連絡される場合があります。特に,刑事事件を起こすのが2回目の場合,警察の内規上,職場連絡をされる可能性は非常に大きいです。

しかし,刑事処罰を受ける可能性が小さいこと等のあなたに有利な事実を主張し,捜査機関と折衝を行うことで,職場への連絡を回避できる場合があります。

通常,警察官は検察官に送致する前に職場に連絡をしてしまうことが多いため,職場連絡回避のためには早急に警察官と交渉する必要があります。

直ちに経験のある弁護士に依頼した方が良いでしょう。

3.職場連絡に関する関連事例集参照。

解説:

1.万引きの場合の刑事処分

(1)微罪処分について

少額の万引き事件の場合,それが1回目の万引きであれば,微罪処分として警察段階で終了することが多いといえます。

微罪処分とは,刑事訴訟法246条但書に規定された処分であり,一定の軽微な事件について,事件を検察官に送致して刑事処罰を下すことをせず,警察段階で反省させて終了させる取扱いのことをいいます。

事件を微罪処分として処理するか否かの基準は,各検察庁がそれぞれ指定しています。窃盗事件であれば,「被害額がわずかで(おおむね20,000円の範囲内),かつ,犯情軽微であり,盗品等の返還その他被害の回復が行われ,被害者が処罰を希望せず,かつ,被疑者に前科・前歴がなく,素行不良者でない者の偶発的犯行であって,再犯のおそれのない」ことが,微罪処分とする一般的な基準とされています。

微罪処分の場合,法律上の「前科」とはなりません。従って,賞罰の履歴が残ったり,海外渡航や資格等に影響が出たりすることもありません。しかし,微罪処分であっても,「前歴」という形で警察の記録には残ることになります。

なお,公務員の場合,1回目の窃盗事件でも,弁護活動を行わないと微罪処分とならない場合もあります。詳細は当事務所事例集1465番を参照下さい。

(2)2回目の場合

一方,微罪処分の基準に「被疑者に前科前歴がない」ことが含まれますので,万引き事件を起こすのが2回目である場合,前回の微罪処分は前歴ですから、前科前歴がないという要件を欠くことになり原則として微罪処分とはなりません。従って,事件は検察庁に送致され,検察官が刑事処分を決定することになります。

窃盗罪の法定刑は,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですが,2回目の罰金初めての検察官送致であれば、検察官による不起訴処分又は略式命令による罰金刑となる可能性が高いといえます(公判請求や懲役刑となることはないということです)。

しかし、罰金刑は刑事処罰ですので,当然法律上の「前科」がつきます。一方,不起訴処分となれば,微罪処分と同様「前歴」に留まります。

検察官は,具体的な犯行の態様や被疑者の反省の状況,被害者の処罰感情等様々に事情を総合的に考慮して,処分の内容を決定します。

本件の場合,被害金額は少額ですが,前回の事件からまだ2年足らずの期間しか経過しておりませんので,このまま何もしないでいると罰金刑となる可能性が大きいと言えます。不起訴処分を得るためには,以下のような弁護活動を迅速かつ十分に行う必要があるでしょう。

ア 示談

被害者がいる犯罪の場合,示談を行うことは最も重要な弁護活動となります。保護すべき被害者が犯罪事実を許していれば,処罰すべき必要性が相当程度減じるためです。

さらに万引き事件の場合,単に被害品を買い取るだけではなく,相応の謝罪金(想定される罰金刑に相当する金額)を店舗側に支払うことも必要です。それによって,実質的には罰金刑と同様の打撃を被疑者にあたえるため,重ねて刑罰を科す必要性がより小さくなります。

また,仮に示談が成立しなくとも,謝罪文の提出や今後被害店舗に近づかない旨の誓約書の作成等を行うことにより,十分な被害回復の措置を取ることが必要です。

本件は,スーパーマーケットでの犯行であるとのことですが,店舗との示談は,個人相手の示談に比べ非常に困難であり,ご本人が行うのは不可能と言えます。経験のある弁護士に依頼するべきでしょう。

イ 弁済供託

仮に店舗に示談金を受け取って貰えなかった場合,示談金を法務局に弁済供託(民法494条)をすることが考えられます。供託手続を行えば,被害店舗がいつでも示談金を受け取れるのと同じ状態になるため,実際に示談金を支払った場合と類似の効果を期待する事が出来ます。

ウ 万引き性向の改善治療

万引き事件を起こすのが初めてではない場合,処分を決める検察官には,やはり刑罰を与えなければ反省させる事は出来ないと考えられてしまいます。そのため不起訴処分を得るためには, 刑罰に代わる根本的な解決策を考え,それを実践する必要があります。その為に有効なのが,盗癖治療を専門に行っているクリニックや心療内科や精神科に通院し,医科学的な治療を開始することです。依存症の問題を取り扱っている臨床心理士のカウンセリングも有益と思います。

自分が複数回同種の事件を起こしてしまったこと,自分には万引きしてしまいやすい性向があることを認め,具体的な対策を講じることで,本件限り刑事罰を猶予してもらえる可能性が生じます。

本件でも,2回目の窃盗事件であることから,抜本的な解決を図る必要があります。直ちに病院に通院する等して治療を始めるべきでしょう。通院している医師やカウンセラーとの間で信頼関係が形成できたのであれば、医師に診断書を書いて貰ったり、臨床心理士にカウンセリング経過報告書を書いてもらうと良いでしょう。これらの書類を提出することにより、不起訴処分の可能性も出てくると思います。

エ その他

本人が反省文を作成し提出するのは勿論ですが,家族による謝罪文の提出も必要です。場合によっては,弁護士等の第三者に身元保証をしてもらうこともできます。

これらの弁護活動を十分に行うことによって,不起訴処分となる可能性が大きく上昇します。

2.職場連絡の可能性

また,あなたの場合職業が公務員であるとのことですので,刑事事件を起こした事について,捜査機関から報道機関や勤務先の役所へ報告される危険があります。

捜査機関は,捜査上の必要性がある場合に限り,職場へ連絡する場合もあるとしています。しかし,実際には,事件の捜査として必要性がほとんどない場合でも,懲戒処分のための情報提供として職場に連絡されてしまうことも多いのが現状です。

そもそも公務員は,国民全体の奉仕者として公権力を行使し公共の業務に従事し,公共の福祉のために職務に専念する義務があり,民間企業よりも身分保障が充実しているという性質上,一般の方よりも世間的に厳しい目が向けられています。そのため,各警察署や検察庁においては,公務員による一定の刑事事件の場合には,勤務先や報道機関への事件情報の提供を行っています。犯罪捜査規範25条で新聞など報道機関への事案公表が認められているのだから,職場だけに連絡することも当然に可能であると考えている捜査担当者も居るようです。

事件が勤務先に知られるところとなれば,当然,事件を理由とした懲戒処分がなされることとなります。国家公務員法82条では,「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」懲戒処分の対象となるとしています。具体的な懲戒処分の基準に関しては,各自治体が独自に定めていますが,基本となる人事院の指針によると,窃盗事件の場合「免職又は停職」という厳しい処分が基準として定められています。

軽微な刑事事件であっても,実際上取り返しのつかない不利益を被る場合もあります。職場に連絡されないよう,早急な対応が必要です。

3.警察・検察の運用とその対策

具体的にどのような場合に捜査機関が勤務先や報道機関に情報提供を行うのかについて,統一的な定めは存在せず,各検察庁・警察署が独自の内規を定めています。国家公安委員会規則である犯罪捜査規範9条では秘密の保持について規定され、25条では新聞発表の方法などについて規定され、101条では聞き込みなど内偵捜査の方法が規定されますが、運用の詳細については各捜査機関に任せられていると言えます。例えば窃盗の累犯事案であれば、「勤務先の勤務態度はどうだったか、職場でモノが無くなったことは無いか」など捜査資料を補充するために職場に連絡をすることがやむを得ない場合もあるでしょう。

犯罪捜査規範(昭和三十二年七月十一日国家公安委員会規則第二号)

第9条(秘密の保持等)

第1項 捜査を行うに当たつては、秘密を厳守し、捜査の遂行に支障を及ぼさないように注意するとともに、被疑者、被害者(犯罪により害を被つた者をいう。以下同じ。)その他事件の関係者の名誉を害することのないように注意しなければならない。

第2項 捜査を行うに当たつては、前項の規定により秘密を厳守するほか、告訴、告発、犯罪に関する申告その他犯罪捜査の端緒又は犯罪捜査の資料を提供した者(第十一条(被害者等の保護等)第二項において「資料提供者」という。)の名誉又は信用を害することのないように注意しなければならない。

第25条(新聞発表等)捜査に関し、新聞その他の報道機関等に発表を行うときは、警察本部長若しくは警察署長(捜査本部を設置した場合においては捜査本部長)又はその指定する者がこれに当たらなければならない。

第101条(聞込その他の内偵)捜査を行うに当つては、聞込、尾行、密行、張込等により、できる限り多くの捜査資料を入手するように努めなければならない。

各警察署では,具体的には,以下の様な点を重視し,職場への連絡を行っているようです。職場連絡の可能性を下げるためには,以下の点を理解し,適切な対応をする必要があります。

①刑事処分の可能性

まず,最も重要視されるのが,当該犯罪事実に関して刑事処分が下される見込みが強いかどうかです。罰金等の刑事処分が科される可能性が高ければ,職場に連絡をし,逆に不起訴処分相当の事案や,微罪処分対象事件の場合は,あえて職場に連絡することは少ないといえます。

刑事裁判に掛けるかどうかの処分を決めるのはあくまで検察官ですが,警察でも,一定の類型の事件については刑事処罰か下される可能性が高いことは当然把握しておりますので,そのような事案については,警察段階で早期に職場連絡がされてしまいます。例えば,被疑者が前科前歴を有していたり,犯行態様が悪質(虚偽の弁解をしている,被害金額が多額等)の場合は,捜査の一環として,職場連絡がされることを覚悟しなければなりません。

そのため,職場連絡を避けるためには,本件が不起訴処分相当の事案であることを早期に警察に主張する必要があります。上で述べたとおり,被疑者に前歴があったとしても,上記1(2)ア~エで述べたような弁護活動を行うことによって,不起訴処分を獲得する事は十分可能です。早期に示談等それらの活動に着手し,警察に対して事件が不起訴処分で終結する可能性が高いことを強く主張する必要があります。

特に,示談活動については,示談成立まで数週間の時間を要することも多いため,成立を待っていては職場に連絡をされてしまいます。謝罪文の作成や,示談金を準備して弁護人に預けていることの謝罪金預かり証明証等を直ちに準備の上,警察に提示することによって,示談が成立する可能性が相当程度高いことを早急に警察官に示す必要があります。示談成立の可能性が残されていることを警察官に示すことができれば,職場連絡を食い止めることが可能な場合もあります。

②被疑者の役職

先に述べたとおり,公務員が刑事事件を起こした際に職場連絡や報道が行われる理由は,公務員が国民全体への奉仕者として,厳しい監督を受けるべき立場にあり,刑事事件を起こした際の影響力=報道価値も高いと考えられているためです。

そして,公務員の中でも,高い役職を持つ者については,その社会的な責任の大きさから,報道等について厳しい対応がなされることが多いと言えます。

中には,ある一定以上の階級に該当する公務員に関しては,原則的に職場通報等するという内規を定めている警察署もあります。具体的にどの程度の階級以上に対して,原則連絡の措置が取られているかは定かではありませんが,ある警察署では,概ね課長以上の階級の者については原則連絡の措置を取っているとのことです。

そのため,もしあなたが一定以上の役職についている場合には,早期に対応を取る必要があります。上級官職であっても,①のポイント,つまり刑事処分の見込みとして不起訴処分の可能性が高いと認められれば,例外的に職場連絡を回避することも可能です。

また,被疑者の役職が不明確な場合(主任,係長,課長といった官職ではなく,主幹や技査等の特殊な呼称の場合等)も,事実調査の名目で,警察は職場に連絡してしまう可能性が高いと言えます。

警察官は,警察以外の公務員の役職に精通しているものでもないため,地位が不明確であるとして職場に確認の連絡をしてしまい,そこから職場に事件が発覚してしまうこともあります。

そのため,このような場合には,自分の役職が職場連絡が必要なほど上位でないことを,警察官に納得させる必要があります。しかし,本人による説明では容易に警察官には信用してもらえず,結局確認の連絡をされてしまうことが多いのが現状です。

そのため,弁護人を通じて,客観的な資料(職場で使用されている階級表や,あなたの俸給表等)を準備した上で警察官と交渉することも検討する必要があります。

③その他の事情

職場連絡を阻止するためには,その他の職場連絡をすることが相当ではないことを基礎付ける事情を多く主張することも必要です。

公務員が,上記のように社会全体から監督を受けるべき立場にあるとしても,警察の捜査活動は,被疑者に犯した罪以上の不利益を与えることがないよう,必要かつ相当な範囲で行われなければなりません。そのため,職場連絡によって,犯した犯罪事実よりも著しく過大な損害を当該公務員が受けるような場合には,職場連絡を行うことは許されません。

しかし,警察は軽々に職場連絡を行ってしまうため,職場連絡が不要であり,それを行えば相当性を欠くという事情については,弁護人等を通じて早期に主張する必要があります。

例えば,被疑者が一家の大黒柱として働いており,家計が被疑者の収入のみに依存しているような場合に,懲戒免職の危険もある職場連絡を行うことは妥当ではありません。また,被疑者の家族(夫等)も同じ公務員の場合,犯罪事実とは無関係な夫にも職場で不当な影響が及ぶ危険も考えられるため,やはり職場連絡を行うことは控えるべきといえます。

本件でも,あなたが家計を支えており,職場で懲戒処分を受けると,通常よりも生活に与える影響が大きいこと等を,迅速かつ丁寧に主張する必要があります。担当刑事に対して,「どのような法令の根拠に基づいて,犯罪捜査規範の何条に基づいて,また,どのような合理的必要性と合理的許容性があって職場連絡をしようとするのか」問い質すことも必要です。弁護人としても,通常の起訴前弁護事件とは異なり,職場連絡阻止にポイントを置いた弁護活動を意識する必要があります。

4.まとめ

事件を起こしたのが2回目の場合,刑事処罰を受ける可能性も,職場連絡をされる可能性も非常に大きなものとなるため,それらの不利益を避けるために十分な弁護活動をする必要があります。特に職場連絡を回避するためには,事件後直ちに警察と交渉することが必要です。

対応が遅れることによって生活に想像以上の思わぬ不利益を受けることがないよう,ひとまず弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文

(刑法)

第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(刑事訴訟法)

第246条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

(国家公務員法)

第82条 職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

一 この法律若しくは国家公務員倫理法 又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条三項 の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

○2 職員が、任命権者の要請に応じ特別職に属する国家公務員、地方公務員又は沖縄振興開発金融公庫その他その業務が国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち人事院規則で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職国家公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職国家公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職国家公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職国家公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職国家公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。以下この項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、これに対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。職員が、第八十一条の四第一項又は第八十一条の五第一項の規定により採用された場合において、定年退職者等となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又は第八十一条の四第一項若しくは第八十一条の五第一項の規定によりかつて採用されて職員として在職していた期間中に前項各号のいずれかに該当したときも、同様とする。