新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1718、2017/01/18 07:49 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、窃盗による執行猶予中の窃盗、平成28年6月1日施行一部執行猶予制度】

執行猶予中の窃盗についての公判対応

質問:

 執行猶予中に前と同じ万引きで逮捕された場合、実刑になってしまうのでしょうか。詳し事情は次のとおりです。3日ほど前,私の娘がスーパーでの万引きでつ かまりました。どうやら,約1万円分の食料品や雑貨を会計せずにカバンに入れて外に出ようとしたところを警備員につかまったようです。現在は,都内の警察署に いるとのことです。

 実は,娘がつかまるのはこれが初めてではありません。娘は昨年に離婚して一人暮らしを始めてから,1年間で4回,スーパー等で万引きをしています。1回目 は不起訴処分,2回目と3回目は罰金となりましたが,4回目は,正式裁判をして,懲役1年,執行猶予3年の判決になってしまいました。そのため,現在は執行猶 予中,ということになります。

 娘の万引きは,離婚によるストレスから来ているのだと思います。もし,娘が解放されるのであれば,地方に住む私たち夫婦が娘を引き取り,一緒に暮らす覚悟 があります。

 ただ,前回の裁判では,私が証人として出頭しましたが,その際,裁判官から「執行猶予中に犯罪を犯した場合,今度は刑務所に入ってもらいますよ」というよ うな話をされた記憶があるため,非常に不安です。本日娘と面会できたのですが,娘は警察官にも同じようなことを言われたようです。

 執行猶予中でも刑務所に行かないようにできないでしょうか。また、できるだけ早く警察から帰ってこられるようにするにはどうしたらよいでしょうか。


回答:

1 法律上は、執行猶予中の犯罪についてもは,再度の執行猶予を付することが可能です。ただし,再度の執行猶予は,「情状に特に酌量すべきもの」が要件と なっており,特殊な事情がない限りなかなかハードルは高い,というところです。

2 逮捕から起訴されるまでの間(起訴前)においては,@身柄の早期解放とA不起訴処分ないし略式起訴処分を目指すことになります。詳しい手続き等について は,解説で詳述いたしますが,今回の事件だけであれば十分に可能性があっても,執行猶予中の行為であるだけで,かなり難易度が高まるというところです(もっと も,事案や状況によっては早期の身柄開放や不起訴処分もあり得るところですし,まずは動き出すことが肝要です)。ただ、裁判所側から見ると、執行猶予中の犯罪 は司法への挑戦と思われる傾向にあり、起訴されてからではさらに不利な状況に追い込まれ時期を失するといっても過言ではありませんので、起訴前に全力で示談を 成立せしめ、さらに、被害届、告訴取消、被害者側の有利な上申書を取得し、金員に糸目をつけず全力で行うことです。この事件に精通する弁護人と対策を協議する ことが肝要と思われます。可能性がないわけではありませんので最初から諦めてはいけません。

3 かかる「再度の執行猶予」に加えて,平成28年6月1日から,これまでになかった制度として,懲役刑等の実刑の一部について,執行猶予を付することができ る一部執行猶予制度が施行されました。これは,初めて刑務所(刑事施設)に入ることになる場合等において,3年以下の懲役または禁錮刑以下の刑に処する場合, 「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」には,刑の一部について その執行を猶予することができる,というものです。

 本件について,不起訴あるいは略式起訴処分による罰金刑にならず,正式起訴されてしまった場合,再度の執行猶予が付される可能性は必ずしも高いとは言えま せん。そのため,この一部執行猶予を求めることを視野に入れることもありうるところです(ただし,一部執行猶予は,あくまでも実刑の一態様であるため,主張は 慎重に行う必要があります)。

 一部執行猶予が認められるためには,実刑相当の事案について,その期間のすべてを刑事施設内で処遇するよりも,一部社会の中で遇する方が更生(再犯防止) の観点から良い,と認めてもらう必要がありますから,単に事件の軽微性や示談等の犯行後の上場を主張しても足りず,どのように社会内で更生を図るか,という観 点で主張を検討し,(更生のための)環境を整えておく必要があります。

 起訴される前においても,起訴後についても,早急に対応・準備する必要がありますので,すぐに弁護士にご相談ください。

 なお,本稿のほかにも,当事務所ホームページ事例集の1619 番1466番1446 番1430番1403 番1396番1262 番1142番1077 番1040番906 番738番691 番595番557 番等を併せてご参照ください。

解説:

1 手続きの流れと今後の見通し

(1)本件の流れ

 今後の対応について説明する前に,一般的な今後の流れについてごく簡単に踏まえておきます。

 あなたのお子様は,現在窃盗罪(刑法235条)の疑いにより,逮捕後,勾留されている状態です。

 法律上,警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に委ね(送検といいます),検察官は送検から24時間以内に勾留請求するべきか否かを決定し,裁判所に 勾留請求をすることになります。裁判所は勾留を決める場合は,勾留する日を入れて10日間以内の日数勾留期間を決めます(勾留決定)。定められた勾留期間が終 わる日(勾留満期日)においては,検察官がさらに10日の延長の請求をすることが可能であり,これを受けた裁判所が同じように延長について判断することになり ます。

 東京においては,勾留請求の翌日に勾留決定が行われることが多く,地方においては勾留請求と勾留決定が同日に行われることが多い印象です。いずれにして も,逮捕から最大23日間の勾留が可能,ということになります。
 勾留満期日には(延長の場合は延長後の満期日),検察官が処分を決定します(処分を決定せずにいったん釈放する,処分保留釈放という場合もありますが,割愛 します)。検察官の決める処分(終局処分といいます)には,@不起訴処分,A略式起訴処分,B(正式)起訴処分があります。A略式起訴の場合は,被疑者本人の 同意が必要ですが,裁判所への出頭等簡易裁判所の判断によって罰金刑(50万円以下)が下され,B起訴処分の場合はいわゆる公判(裁判)を経て,懲役刑ないし 罰金刑(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が下されることになります。

 @不起訴処分およびA略式起訴処分の場合は,処分を受けた時点で身柄が解放されることになりますが,B勾留中に起訴処分を受けた場合,起訴後勾留という形 で身柄拘束は継続します。起訴後勾留は2か月間が原則ですが,1か月単位で延長(請求)が認められています(起訴後については,保釈という手続きがあります が,本稿では省略します)。

 なお,本件のように執行猶予中の犯行の場合,B公判において懲役刑(執行猶予なし)が選択された場合には,前刑の執行猶予も取り消されることになりますし (刑法26条1号),仮にA略式起訴による罰金刑の場合も,裁量により前刑の執行猶予が取り消されることがあります(刑法26条の2第1号)。裁量による執行 猶予の取り消しについては本ホームページ事例集 1403番をご参照ください。

(2)本件の見通し

 刑事事件を起こしてしまった人にとって,常に問題となるのは@身柄開放のタイミングとA処分の軽重だと思います。

 例えば,本件の事案単体で見た場合,すなわち1万円分の食料品等の万引きだけだと,勾留を阻止する,あるいは勾留決定後の不服申し立て(準抗告)によって 身柄開放を実現する等もできますし,適切な活動によって十分に不起訴処分を見込めるところです。

 しかし,本件のように執行猶予中の犯行ということになると,その難易度はぐっと高まります。特に,本件のように同種の犯行(窃盗)による場合は,身柄開放 や刑事処分の内容についてより厳しい判断が予想されます。

 もっとも,具体的な事情のもとでは,本件のように執行猶予中の犯行であっても,ケースによっては早期の身柄開放や不起訴処分(あるいは罰金刑)が可能であ ることもあります。

 そこで以下では,起訴前における早期の身柄開放と不起訴処分あるいは略式起訴処分を目的とする弁護活動を簡単に説明したうえで,起訴後における弁護活動, 特に平成28年6月から施行された一部執行猶予制度について,説明します。

2 起訴前における弁護活動

(1)はじめに

 まず,警察による逮捕から,検察官による終局処分決定までの間に,@早期の身柄開放およびA不起訴処分あるいは略式起訴処分(罰金刑)を求めるにあたって するべき弁護活動について説明していきます。

(2)身体拘束との関係

 一般的に,逮捕後・起訴前における身柄開放のタイミングとしては,@検察官が勾留請求しない,A検察官による勾留請求が裁判所に却下される,B裁判所の勾 留決定に対する弁護人の準抗告(不服申し立て)が認められる,C勾留満期日において,処分保留となる,D勾留満期日において不起訴処分あるいは略式起訴処分と される,パターンが考えられるところです(@からBについては,勾留延長についても同様です)。

 そのため,弁護活動としても,これらの各段階に応じて行う必要があるところです。このうち,Bの準抗告の申し立てを除くと,法律上弁護人がイニシアチブを とることができる手続きではないので,積極的に検察官・裁判官に働きかけなければ,そのまま手続きは進んでしまうことになります。特に,@およびAは,上記の とおり逮捕から最大72時間(通常はそれよりも短い時間)でなされるため,準備等にも迅速さが求められるところです。

 なお,本件では,逮捕から3日が経過しており,またあなた自身がお子様に面談できているようなので,すでに勾留が決定されていると思われます(弁護人以外 が面会できるのは,勾留が決まった後になります)。そのため,すでに@およびAの機会は失われていることになります。この点からも,やはり早い段階で弁護士に 相談して,動き出す対応が必要,ということが分かります。

 具体的な弁護活動の前に,起訴前における身体拘束の根拠である,勾留の要件について確認していきます。
 勾留は,犯罪の嫌疑があることを前提として,@定まった住居を有しないこと,A罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること,B逃亡し又は逃亡すると 疑うに足りる相当な理由があること,のいずれかの該当によって認められます(刑事訴訟法60条1項各号の同法207条1項による準用)。加えて,同法87条1 項から,C勾留の必要性も要件とされています。この必要性は,勾留をして捜査をする利益と勾留という身体拘束によって生じる不利益の均衡を求めるものです。

 つまり,勾留からの解放を目指すのであれば,検察官あるいは裁判官において,@定まった住居があり,A罪証(証拠)を隠滅する疑いも,B逃亡するという疑 いなく,C身体拘束される不利益が身体拘束する利益を大きく超える,と説得することが必要だ,ということになります。通常は,住居についてはあまり問題となら ず,A罪証隠滅の疑い,B逃亡の疑い,C勾留の必要性が問題になるところです。

 各要件の具体的な考え方については本稿では省略しますが,各事案や本人の環境によって異なる主張になります(本ホームページ事例集1619 番1466番1446 番1430番1403 番1396番1262 番1142番1077 番1040番906 番738番691 番595番557 番等を併せてご参照ください。)。
 
 かかる勾留の要件からすると,執行猶予中の犯行であることが直接勾留の要件に際しては無関係であるようにも思えるところです。あくまでも,勾留は捜査の便宜 のための身体拘束であり,罰ではないからです。また,建前上,勾留を決定するに際して「再犯の可能性がある」等を理由とすることはできません。将来の犯罪の恐 れによる身体拘束は認められないからです。

 しかし,実際には勾留に関する上記各判断において,執行猶予中の犯行であることはかなり重視されてしまう,という印象です。これは,検察官および裁判官の 「執行猶予中の犯行であるため重い処分が見込まれる。重い処分が予定されている人間は,証拠を隠滅したり,逃亡したりする可能性がある」という考え(経験則) に基づくものであるようです。

 この経験則の当否は別として,少なくとも現在の実務においては,執行猶予中の犯行における身柄開放は,通常よりも困難である,ということは事実であるため, 勾留の判断にあたって有利になる事実(例えば,示談の成立や,より厳しい監督者の存在)をより積極的に主張して,説得にあたる必要がある,ということになりま す。

(3)終局処分との関係

 上記の身体拘束(勾留)からの解放に奏効しなかった場合,勾留決定から最大で20日後には検察官が終局処分を行うことになります。なお,上記のとおり,処 分を保留にしていったん釈放し,期間の定めなく捜査をおこうこともありますが,捜査が20日間で終わらない,余罪がある等の例外的な場合に限られます。

 そして,終局処分の場合,上記の勾留に関するものと異なり,直接的に執行猶予中の犯行であることが重く判断される要素になります。本件におけるお子様の場 合と同様,一般的な万引き等の犯罪の場合,犯行の回数を重ねるごとに,不起訴処分から略式起訴処分(罰金刑),そして正式起訴と処分は重くなる傾向にありま す。

 もちろん,これは一般的な「傾向」であり,必ず犯行回数と処分が比例するわけではなく,弁護活動等によって罰金刑を受けたあと不起訴処分となる場合もあり ます。

 執行猶予中の犯行についても、公判請求して再度の執行猶予が認められないと実刑となってしまうが、そこまでの刑事処分を科するには今回の事案は軽微,とい うような場合には,検察官の判断で,不起訴処分に付したり,略式起訴処分による罰金刑に付したうえで,執行猶予の裁量取り消し申し立てを見送ったりすることも ありうるところです。

 なお,終局処分における弁護活動ですが,本件のような窃盗罪の場合,まず損害の補てん(示談)が最も重要であることは初犯でも執行猶予中の犯行であっても変 わりません。さらに、告訴取消、被害届取り下げも必要で示談金に糸目をつけてはいけません。裁判所側から見ると、執行猶予中の犯罪は司法への挑戦と思われても 仕方ないからです。示談なくしてそのうえで,執行猶予付きの刑事処分を受けることになったときと現在との間で,環境面でも心理面でも劇的な変化があった,とい うことを示すことが必要です。

 当然,事案ごとに犯行のきっかけは変わりますし,犯行のきっかけが変われば調整するべき環境も異なりますが,本件のように窃盗を繰り返してしまう場合に は,@医学的なアプローチによる治療とA家族との同居等の監督者の設置がプラスに働くことが多い印象です。特に,これまでの処分に際して治療等を受けておら ず,また一人で生活していたような場合には,「変化」を作ることができるため,有益です。

3 起訴後における弁護活動

(1)はじめに

 以上,起訴前における弁護活動について説明しましたが,執行猶予中の犯行においては,やはり(正式)起訴されてしまう可能性を捨象できません。そこで以下で は,仮に本件が起訴されてしまった場合における,弁護活動等について説明していきます。

 もっとも,再度の執行猶予については,本ホームページ事例集1619 番1446番1040 番に詳しい説明があるため,簡単に説明するにとどめ,本稿では,新しい制度である「一部執行猶予」を中心に説明していきます。

(2)再度の(全部)執行猶予

 執行猶予中の犯行について,再度の執行猶予を付するためには,@前回の刑で保護観察が付されていないこと,A今回の刑が1年以下の懲役刑,あるいは禁固刑 であること,B「情状に特に酌量すべきものがある」こと,が必要です(刑法25条2項)。本件の場合,@保護観察中ではないようですし,A量刑的にも1年以下 の懲役刑も十分にありうるところです。そのため,B「情状に特に酌量すべきもの」があるかどうか,という点が問題です。

 「特に酌量すべきもの」なので,単に示談が成立したであるとか,反省を示している等のみでは足りないと一般的に考えられているところです。

 過去の裁判例等をみると,摂食障害等の精神疾患を患っていて,その疾患と窃盗(万引き)が密接に関連している上,その疾患の治療計画が具体化している等の 事情で,「特に酌量すべき」情状の存在を認めています。

 もちろん,精神疾患に限られるものではありませんし,具体的な事案によって主張するべき事実関係は異なりますが,これらに匹敵する特別の事情が必要だ,とい うことになります。

(3)一部執行猶予

ア これまでの刑法では,再度の執行猶予を付する場合であっても,初めて執行猶予を付する場合であっても,その刑の全部についての執行の猶予か,実刑か,とい うことになっていました。しかし,平成28年6月1日から施行された改正刑法においては,そのほかのパターンとして,刑の一部執行猶予制度が設けられました。 以下では,この一部執行猶予制度について説明したうえで,具体的な主張の内容等について説明します。

イ 平成28年6月1日から施行された刑法27条の2は,前に禁錮以上の実刑に処せられたことがない者(実刑に処せられた後,当該刑の消滅の場合を含む) に,3年以下の懲役または禁錮の刑を言い渡す場合に,1年以上5年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することができる,というもので,これを「刑法による 刑の一部執行猶予」といいます(ほぼ同趣旨の制度が,「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」によって,薬物事犯においても新設 されています)。

 つまり,懲役1年6月,うち6月(間)についてその執行を2年間猶予する,という判断が可能になった,ということになります。その場合,判決後1年間は刑 事施設に収容され,残りの刑期である6か月間について,2年間の執行猶予が付される,ということになります。そして裁判所は,この執行猶予期間について,保護 観察を付することができます。

 この一部執行猶予制度は,これまで期間のすべてを施設内において処遇していた人について,執行猶予の取り消しによる心理的な規制の下,一定期間社会内で生 活させることで,施設内における処遇(実刑期間)の改善・更生の効力を維持・強化して,もって再犯防止を図ることを目的としています(そのほかに,刑事施設の 過剰収容問題の解消,という目的もあるようですが,本稿では省略します)。

 そのため,あくまでも執行猶予という社会内処遇が再犯防止にとって役に立つ,という事案・人であることが必要ですから,「犯情の軽重及び犯人の境遇その他 の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」という要件が付されています(改正後の刑法27条の2)。

 なお,一部施設内,残りを社会の中で過ごさせる,という点で仮釈放の制度と重なるところがありますが,これらの制度は別個のものと考えられていて,併用が 可能です(今回の改正を受けた,仮釈放に関する法律の改正はありませんでした)。つまり,懲役2年,うち6月についてその執行を2年間猶予する,という判決の 場合,全体の刑期(2年)の3分の1である8か月経過後から,執行猶予期間に先立って仮釈放が可能ということです(実務の運用として,必ずしも刑期の3分の1 の経過で仮釈放が認められるわけではない点に注意が必要です)。

ウ 以上の制度を踏まえた,具体的な主張内容ですが,この一部執行猶予制度は,全部の執行猶予と実刑の間のいわば中間刑ではなく,一部執行猶予が必要である場 合に適用される,というところが重要です。つまり,考え方としては「(全部の執行猶予は難しいとしても,)実刑は重すぎるので,一部の執行猶予を求める」ので はなく,「実刑にして,その期間のすべてを更生施設内で過ごさせるよりも,社会内で生活させたほうが当人の更生にとって良い」と判断してもらう必要がある,と いうことです。

 だからこそ上記のとおり条文は,「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認め られるとき」であることを要件としているのです。

 ここで想定される「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」は様々な事情が考えられるところですが,同趣旨の制度 が導入された薬物事犯(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律参照)では,刑法犯とは異なり,必要的に保護観察に付したうえでの薬 物治療プログラムが予定されているようです。

 そこから考えると,本件のような刑法犯であっても,出所後の治療や,少なくとも家族による監督等の具体的な更生計画を主張する必要があります。例えば本件 では,現在一人暮らししているお子様について,親であるあなたが一緒に住んで監督することや,犯行を繰り返してしまう原因を特定し,精神科での治療等により解 決することを前提として,具体的な治療先等を決定すること,等が考えられるところです。

4 まとめ

 以上のとおり,身体拘束からの解放についても,早い着手が不可欠ですし,再度の執行猶予や一部執行猶予を目指すためには,時間のかかる環境の調整が必要で す。一部執行猶予については,現在裁判例の蓄積もなく,今後の裁判所の運用を注視する必要もあります。

 また,そもそも,本件が一部執行猶予相当であるか,という問題もあり得るところです。つまり,一部執行猶予判決は,あくまでも実刑であるうえ,上記のとおり 実刑と全部執行猶予判決との中間的なものではない,という建前があるため,再度の全部執行猶予の主張とのバランス(どちらをより強く主張するべきか)も問題と なるところです。

 ただし,本件のようなケースでは,何も動かず,主張していかなければ,どんどん進んでしまって,結果的にそのまま実刑に付されてしまう可能性が高いところで す。事件発覚後,できるだけ早くご相談されることをお勧め致します。

【参照条文】
刑法(改正前のもの)
(執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の 期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前 項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(保護観察)
第二十五条の二  前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付 せられなかったものとみなす。
(執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五 条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
(執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

改正後刑法
※上記改正前刑法についても,一部執行猶予制度の施行により若干内容が変更されています。
(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二  次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をするこ とを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一  前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三  前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2  前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又は その執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
3  前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべ き懲役又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役若しくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日か ら起算する。
(刑の一部の執行猶予中の保護観察)
第二十七条の三  前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
2  前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3  前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せら れなかったものとみなす。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡 単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る