新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1466、2013/08/21 21:06 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事  離婚問題に起因する住居侵入事件における準抗告 準抗告対策】

質問:
 息子の嫁は,半年前に息子からDVを受けていることを理由に,勝手に子供を連れて実家に帰ってしまいました。その後、電話やメールで連絡をしたようですが、帰って来ないばかりか、子供にも合わせてもらえませんでした。そのため、妻の実家に行き面会を求めましたが拒否されてしまい、息子は怒って「開けろ」と何度もドアを叩いたところ,嫁から警察に通報されて住居侵入罪の現行犯として逮捕され勾留となってしまいました。現在は息子は罪を認めて勾留されておりますが,まだニュースにはなっておりません。息子がこれまで警察の面倒になったことはありません。このままでは今回のことが息子の職場にばれて,息子は職場に戻ることができなくなってしまいます。事件について公にすることなく,息子を何とか早く外に出してあげたいのですが,何か方法はないでしょうか。



回答:
1 勾留の決定に対して準抗告という手続で争うことによって,息子さんを外に出してあげることができる場合があります。長期欠勤となれば事件が公になるリスクが高くなりますが,準抗告が認められればそのリスクが軽減できます。
2 仮に準抗告が認められなかった場合は,勾留延長とならないように捜査に協力することが大切です。勾留延長にならなければ,勾留決定がされてから10日以内に検察官が刑事処分を決定しますが、事案からいって不起訴又は略式罰金の判断となるでしょうから,その時点で身柄は釈放されますし,事件について公にはなりません。その間に被害者と示談等をすれば不起訴処分になる可能性が高いでしょう。
3 準抗告について参考となる当事務所事例集として,1430番、1396番,1371番,1312番,1262番,1142番,1077番,906番,738番,691番,595番,557番があります。

解説:
1.(準抗告の意義)
  準抗告とは,裁判官の裁判(命令)・処分についてその取消・変更を求める不服申立てのことをいいます(刑事訴訟法第429条、ちなみに、裁判所の決定に対する異議申し立ては抗告、裁判所の判決に対する異議申し立ては控訴・上告です)。裁判官が行った勾留決定(起訴される前は単独の裁判官によって行われます)は,裁判官の命令ですから,勾留決定に不服がある場合準抗告の申し立てができます(法第429条第2号)。簡易裁判所の裁判官の命令の場合は管轄地方裁判所,その他の裁判官の命令の場合はその裁判官の所属する裁判所が担当し(法第429条本文),当該裁判所に対する書面による請求が必要となります(法第431条)。準抗告があると,直ちに裁判官3名で構成される合議体によって,法律の要件を満たすかどうかが判断されます(法第429条第3項)。単独の裁判官による判断ではないので,原裁判の違法性の有無が慎重に判断されます。
  準抗告が認められると,勾留決定が取り消されますので,被疑者は直ちに釈放されます。準抗告の申立ての審理は,一般的に、申立てが午前10時ころ前までになされれば午前中のうちに審理されるのが通常で,その場合,準抗告の判断は午後4時前後までに出されることが多く,判断が勾留取消しということであればその日の夜には釈放となります。

2.(準抗告に際しての弁護活動)
(1)争う対象
   勾留決定に対する準抗告において争う対象は,勾留を決定する要件の有無で勾留時点において勾留の要件を欠いていたこと,を主張立証していくことになります。
   勾留の要件は,@罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること,A定まった住居を有していないこと,B罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること,C逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があること,D勾留の必要性があることです(法第60条,第207条参照)。本件では,息子さんが住居侵入を犯したことには争いがなく(@の要件あり),妻と同居していたということですので定まった住居もあるといえます(Aの要件あり)。
   そこで,弁護人としては,B・C・Dのいずれかの要件を欠いていることを主張立証することになります。
(2)B罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由(罪証隠滅のおそれ)があること
   罪証隠滅のおそれは,証拠を隠したり,証人等に圧力をかけて供述を変えさせようとするおそれがある場合などに認められます。
   本件で息子さんについて住居侵入罪の立証の一番の証拠は,妻や、実家に住んでいる妻の父母の供述でしょう。その為息子さんを釈放してしまうと電話をしたり妻の実家に行くなどして供述を変えさせようとするおそれがあると認められてしまうことが多いと思われます。したがって,最低でも,妻の実家に近づかないことに加え妻の関係者に連絡をしないことを誓約していることの主張が必要です。加えて,その旨を記載した不接近誓約書を準抗告に際して提出することになると思われます。単に息子さんが近づかないと誓約しただけでは説得力に欠けますので,御両親様が保証人になるとか,息子さんが誓約を破ったら違約金を払う(息子さんの地位等にもよりますが,最低でも数百万円単位の定めが必要でしょう)などの条項を入れるなどの工夫が必要です。
   既に勾留されてから数日が経過しており,捜査機関が妻の関係者の供述証拠を作成済みと思われる場合には,証人等に圧力をかけて供述を変えさせようとするおそれが一般論としてあるとしても,供述証拠が既にある以上は検察官の起訴の判断において大きな問題となりませんので,罪証を隠滅するおそれはないという主張が可能といえます。したがって,教えてもらえるかどうかは別として,直接捜査機関に捜査状況を確認するなどしてかかる主張をしていくことになります。
(3)C逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由(逃亡のおそれ)があること
   逃亡のおそれは,訴追や刑の執行を免れる目的で所在不明になるおそれがある場合に認められます。
   一般論として,想定される刑罰が重い場合や執行猶予期間中の犯行の場合には逃亡のおそれが認められやすいといえます。もっとも,息子さんの行為については,家庭内のもめごとの一環といえますので犯行態様の悪質性は認められず,住居侵入罪で起訴されるとしても10万円以下の罰金刑が相当といえますから(刑法第130
  条),刑罰が重いゆえに逃走するということは考えにくいという主張が可能です。また,執行猶予期間中という事情もないという主張も加えてもよいでしょう。
   また,息子さんの御両親様が身元引受人になっていただけるということであれば,息子さんの監督者がいるという主張をするべきです。加えて,御両親様の身元引受書も準抗告に際しては提出すべきでしょう。単に身元引受書を提出するだけでは,事案によっては裁判官の納得を得られない場合があります。例えば,御両親様が息子さんの事件を知らないで身元引受人になっているのではないかと裁判官が懸念するような場合です。したがって,併せて息子さんの事件を十分に認識し,息子さんの監督をしていくことを誓うような謝罪文も提出できるとよいでしょう。他に裁判官の懸念しそうな事情についても,準抗告に際しては主張しておく必要があります。例えば,息子さんの御両親が息子さんと同居していない場合には,御両親は息子の住まいの傍に住んでいるので監督には問題ないことなどを主張する必要があります。
(4)裁判官との面談の必要性
   弁護人は捜査機関の捜査資料を起訴前に見ることはできませんので,弁護人の弁護活動が必ずしも裁判官の懸念する事項に応えていない場合もありえます。したがって,弁護人としては可能な限り,裁判官と面談して裁判官の懸念事項が何かを把握しておくべきです。
   裁判官が身元引受人の監督能力に懸念を覚えているという場合がありますので,身元引受人を実際に連れて裁判官との面談することも効果があります。この面接は、認めない裁判所もありますので、裁判所との交渉が必要です。認めてくれる場合、準抗告を認容する可能性があると考えられます。又この面接で、裁判官が事件の内容、状況を把握しようとしますので意外と重要です。裁判官は、準抗告の段階で簡単な書面審理(勾留請求の捜査機関側作成書面しか見ていません。)しかしていないので事件の実態把握の重要な要素となる場合があります。仮に身元引受人が不十分であれば、弁護人が重ねて身元保証、引受人となることも提案し、協議しましょう。

3.(その他の弁護活動)
(1)職場関係者に息子さんとの面会をさせないこと
   息子さんの身柄拘束期間が長くなると,職場関係者から息子さんと面会したいという話が出ることがあります。
   したがって,弁護人としては,職場関係者に会わせないための方策を息子さんと一緒に考える必要があります。また,職場への無断欠勤についての説明、言い訳も考える必要があるでしょう。このようにすることで,事件が公になるリスクが軽減できます。
(2)報道・職場連絡回避の申し入れ
   例えば,息子さんが公務員であったり,重要なポストの方であるような場合には,報道価値があるとして起訴される前に報道されてしまう場合があります。また,捜査機関から職場に連絡がされてしまう場合もあります。
   したがって,弁護人としては,直ちに捜査関係者と面会し,本件について報道価値がないことや報道されると解雇の危険があり息子さんの社会復帰が困難になることなどを説明する旨の上申書を早い段階で提出しておく必要があります。このようにすることで,事件が公になるリスクが軽減できます。
(3)勾留延長阻止の上申
   勾留がされて数日が経過している場合には,勾留延長請求(刑事訴訟法第208条第2項)がなされる可能性についても考慮しておく必要があります。勾留延長請求は勾留最終日になされることが通常で,遅くとも前日までには請求について上司の決済が得られていることが一般です。
   したがって,弁護人としては,遅くとも勾留満期の2日前までには,担当検察官と面会して勾留延長阻止の上申をしておく必要があります。このようにすることで,事件が公になるリスクが軽減できます。この面会も重要です。検察官が具体的にどのような理由で勾留を求めているか明らかになる場合があるからです。例えば、一部否認を理由にするようであれば、直ちに、被疑者の謝罪文等でこれを訂正し検察官にも事前提出する必要があります。
(4)示談
   勾留に対する準抗告、勾留延長の阻止、不起訴処分のいずれについても被害者と示談することは有利な事情となります。本件の被害者は住居の管理権者である妻の父親であると考えら、示談の相手方は妻の父親となります。ただ、妻本人や家族も示談書に当事者として記載しておいた方がより良いでしょう。
  準抗告が認められない場合には,直ちに妻の父親と示談を試みるべきですが、仮に準抗告が認められたとしても,示談の交渉が必要です。仮に示談が成立すれば,本件であれば息子さんについては不起訴(少なくとも略式請求)相当という判断が検察官に可能となります。その結果勾留延長がなされるリスクは低くなります。準抗告が認められず、また勾留が延長されたとしても息子さんが勾留満期前までの釈放を強く希望する場合には,弁護人としては,示談書を提出しつつ,担当検察官に対して満期前の早期釈放を求める上申をすることができます。更に加えて,管轄裁判所(準抗告と異なり,簡易裁判所の裁判官の命令の場合も管轄簡易裁判所となります)に、示談により勾留の必要が無くなったことを理由に勾留取消請求(法第87条第1項)をしておく必要があります(勾留取消請求と勾留決定に対する準抗告の関係については当事務所相談事例集1396番、1430番を参考にして下さい)。
https://www.shinginza.com/db/01396.html
https://www.shinginza.com/db/01430.html

4.(結語)
  このように,本件で想定される弁護活動は多岐に渡りかつ、緊急性を要しますので,弁護士の助力が不可欠となります。
<参照条文>

 ■ 刑法

  (住居侵入等)
   第130条  正当な理由がないのに,人の住居若しくは人の看守する邸宅,建造   
  物若しくは艦船に侵入し,又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去し
  なかった者は,3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 ■ 刑事訴訟法

   第60条  裁判所は,被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある
  場合で,左の各号の一にあたるときは,これを勾留することができる。
   一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
   二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
   三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
  2〜3(略)

   第87条  勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは,裁判所は,検察官,
  勾留されている被告人若しくはその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親
  族若しくは兄弟姉妹の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消さなければ
  ならない。
  2  (略)

   第207条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は,その処分に関し
  裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し,保釈については,この限りでない。
  2〜4 (略)

   第208条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき,勾留の請求をした
  日から10日以内に公訴を提起しないときは,検察官は,直ちに被疑者を釈放しなけ
  ればならない。
  2  裁判官は,やむを得ない事由があると認めるときは,検察官の請求により,前
  項の期間を延長することができる。この期間の延長は,通じて10日を超えることが
  できない。

   第429条  裁判官が左の裁判をした場合において,不服がある者は,簡易裁判
  所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に,その他の裁判官がした裁判に対
  してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
   一  忌避の申立を却下する裁判
   二  勾留,保釈,押収又は押収物の還付に関する裁判
   三  鑑定のため留置を命ずる裁判
   四  証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
   五  身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
 2  第420条第3項の規定は,前項の請求についてこれを準用する。
 3  第1項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は,合議体で決定をしなければ
  ならない。
 4〜5 (略)

  第431条  前2条の請求をするには,請求書を管轄裁判所に差し出さなければな
  らない。



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