新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.738、2008/1/11 14:31

【刑事・起訴前弁護・傷害と勾留・泥酔による記憶の喪失・不起訴処分・略式手続同意後の不起訴処分・お正月、連休の接見・弁護活動】

質問:私は関西地方で大手電気メーカーに勤務している38歳のサラリーマンで家族は他妻と10歳と6歳の子供2人です。私はかなり酒好きなのですが、年末29日同僚と酒を飲み何軒もはしごをして日本酒、ビール、チューハイ、ウイスキーを大量に飲み駅前で些細な事から通行人と言い争いになり、取り調べ警察官の話しによりますと、私が言いがかりをつけて何度も殴りかかり土下座まで強要して全治20日の傷害を負わせたというのです。ところが、言い争いになった程度はかすかに記憶しているのですが殴ったことをまったく憶えていません。今、警察署の留置場にいます。逮捕後直ぐに当番弁護士さんに来てもらったのですが、「憶えていない以上そのまま正直に言うしかないでしょう」といって帰りました。検察官、裁判所の人にもそういったのですが10日間留置場にいることになりました。このままだと仕事始めにも間に合いませんし、有罪となり前科がついた場合、自分、子供の将来を思うと暗澹たる気持ちになります。どうしたらいいでしょうか。勿論、前科はありませんが学生時代空手部の選手でした。

【回答】
1.至急留置係の警察官、担当刑事さんにお願いして、家族に連絡し別の弁護士を選任するよう手続をとることが必要です。
2.弁護人と協議し、このまま記憶がないということで刑事裁判をするかよく記憶を思い起こし、被害者と示談して早期釈放を求めるか
を決める必要があります。
3.刑事裁判を選択すると、逮捕から約1ヶ月は釈放されません。記憶になくても証拠がある限り無罪とはなりません。
4.示談の方向を選択すると、あとで無罪を主張する事は出来ませんが、示談が出来次第釈放され不起訴処分となるでしょう。
5.示談が出来なくても、更に10日間の勾留延長はされませんが、略式手続により罰金を支払い釈放されるでしょう。状況によっては、一旦釈放になり後日示談の成否により不起訴処分の可能性も残されています。(略式手続同意後の不起訴処分については事例集538を参照してください)

【解説】
1.
@貴方の行為は、傷害罪(刑法204条)に該当しますが、酒を大量に飲み記憶がまったくない場合、心神喪失、心身耕弱として、無罪、減刑理由(刑法39条)になるか問題となります。

A貴方はいずれにも該当しません。心神喪失とは、精神の障害により是非善悪を理解できないか、理解できてもそれによって行動することが出来ない状態を言いますし、耕弱は精神障害の常況にはなく理解能力、それによる行動能力が不完全な場合です。しかし、この責任能力の判断時期は犯罪行為が行われた時を基準として決められますから、後日記憶があるかないかはまったく無関係だからです。確かに、当日は大酒でうわの空かもしれませんが、同僚と一緒に何軒も自分の意思で飲み歩き、駅前通りを自分の意思で通行し、自ら通行人と言い争いをしていますから完全な精神状態(刑法上責任能力といいます)であったと判断されることになります。通行人、被害者、同僚の証言が一致していれば、いくら貴方が記憶にないと言い訳しても無罪にはならないでしょう。

B貴方のような行為を無罪、減刑としたら大酒飲みの人はほとんど、無罪、減刑になり犯罪者から悪用されてしまいます。

2.
@理論的に貴方は有罪なのですが、全治20日間の傷害であっても酒の上での事であり計画性もありませんし、貴方に前科もなく勤務先、家族もしっかりしていますので、説教されて妻が身元引受人となり当日か翌日帰宅を許されるのが一般です。しかし、貴方は10日間の勾留決定されていますから、少なくとも逮捕から4日以上経過しています(逮捕後勾留決定までの手続については事例集595号457号を参照してください)。

Aどうしてこのような事態になったのかといいますと、その理由は、「記憶がまったくない」と供述しているからです。貴方は本当のことをそのまま話したのですが、捜査上はいわゆる「否認事件」として取り扱われます。というのは、憶えていなということは、犯罪の認否の点から言うと犯罪行為をしていないという意味をも50%含んでいるからです(やっているけれど記憶にないという場合もありますので50%になるわけです)。

B刑事事件は最終的に裁判で決着されますから、否認されている以上検察官は犯罪事実(公訴事実)の立証する責任があり拘束されている被疑者の人権確保上逮捕から最長23日間の期間内に必ず証拠調べ、証拠収集を終了しなければなりませんから絶対家には帰してくれません。手続き的には逮捕後72時間以内に行われる送検、検察官の勾留請求、そして裁判官の勾留質問、決定であり刑訴60条1項2号「被告人(準用により被疑者と読み替えます。)が罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という規定が根拠になります(刑訴207条で被疑者についても準用されています。文言が抽象的で解かりにくいですがその様に解釈されています)。

C貴方としては、普通の社会人ですし被害者の氏素性も知らないのですから、被害者にあって証拠隠滅の行為をすること、現場の目撃者に口裏合わせを要求する等ありえないでしょうが、捜査機関はそうは考えません。捜査は最悪の事態を想定して行われます。万が一、後日立件する証拠が収集できなければ被害者からの糾問により責任問題ともなりかねないからです。思い出すまで勾留を続けますしその間に目撃者等の証人確保に奔走します。

D記憶がないという供述を繰り返していますと、勾留延長が行われ逮捕されてから23日経過後公判請求されます。すなわち刑事裁判です。起訴されますと保釈の請求により釈放を求める事が出来ますが、記憶がないと一貫して主張すると保釈が許可されない場合があります(保釈について事例集598、242号参照してください)。そうすると更に2−3ヶ月以上留置場にいる恐れもあるわけです。このような状況では何時までたってもご家族でお正月を迎える事は出来ません。

3.そこで、貴方がどうしたら一刻も早く釈放されるか、そして、釈放されるだけでなく刑事罰である罰金等の前科もつかないような方法はないかどうかを便宜上逮捕の時からさかのぼってご説明いたします。

4.先ず、逮捕されたのが12月29日の夜と思いますので、このような場合、翌々日である31日に検察庁に諸身柄送検されるのですが(午前中の逮捕ですと30日送検です)、この間に記憶があいまいだといっても基本的に傷害の事実を認め奥様に身元引き受け人になってもらえば身元もしっかりしており30日に釈放されたはずです。しかし、貴方は、記憶の通り供述しましたので弁解録取書上(刑訴212条216条、203条1項)否認事件となり30日に送検が決定になったわけです。ここで弁護人がいれば、担当刑事と協議し、事件の概要を把握し事件認否について適切なアドヴァイスが出来たはずです。そういう意味から当番弁護人の接見内容は不親切なような気もします。本来であれば、弁解録取書をとり終えて送検が決まったあとでも翌日大晦日31日の検察官の勾留請求を止めるために適切な弁護人との協議が必要です。

5.31日担当当直検察官(当日勾留請求のみを担当する当番の検察官)は、貴方の弁解を簡単に(10分―30分間程度)聞いて「記憶がない」と言うことであれば、否認事件をとして裁判所に勾留請求をします。検察官面接までに貴方は、弁護人と詳細に協議し、事件の概要を認め謝罪の用意があること等弁護人を通し書面にて提出すれば31日警察署に戻され夕方釈放されたはずです。ただし、検察官の勾留請求決定後は勾留請求手続中となり弁護人がいくら説得しても釈放はしていただけないと思います。

6.続いて1月元旦、裁判所にて裁判官の面接(勾留質問)がありますが、ここで供述を変えて罪の概要を認め謝罪する内容の書面を事前に弁護人と協議し(例えば元旦、貴方が裁判所に護送される午前8時30分前に警察署で接見し対策をとる事もできます。弁護人は早朝、深夜いつでも接見可能です。事例集734号参照)作成、提出すれば勾留請求却下の可能性もあります。ただ、貴方の場合は、警察署、検察庁で2回も半ば否認していますので勾留請求が却下される可能性は低いでしょう。また、仮に、勾留請求が却下されたとしても、検察官は不必要な勾留請求をしたことになり検察官は公務員としての面子から必ずといっていいほど準抗告をして争います。そして検察官の準抗告は認められることが多いのです(準抗告については事例集691号、333号参照)。そうすると、勾留質問の際に罪を認める書面を提出することは無意味なようにも思えます。しかし、この時点で罪を認めたことは記録上明らかになりますし、また勾留が不要であるという主張をしておくことは今後の貴方に対する捜査において貴方に有利に働くことが予想され、必要なことといえます。

7.
@そこで、裁判官の10日間勾留決定後の対策ですが、先ず弁護人を新たに選任することが大切です。弁護人には各々弁護方針と言うものがありますので、自分にあった弁護人を探す事も時として必要です。至急電報、手紙、その他留置係の警察官に頼み奥様に面会に来てもらうよう連絡することです(刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則80条、留置規則19条)。

Aしかし、被疑者には本来接見交通権があるのですが(事例集734参照)規則上結構厳しく、逮捕後裁判所の勾留質問が終わるまでの4日間(法的には逮捕から72時間、3日間なのですが面会時間は午前9時から午後4時30分頃までなので4日目裁判所での勾留質問の日も会えないことになるわけです)と土曜、日曜、正月三が日は法的に又実質上面会できませんので手紙、電報などで家族に新たな弁護人選任を求めることになります(刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則19条、71条)。今回のように正月などは計算上ですが最長9日間も家族は接見できない場合があるのです(夕方から夜の逮捕の場合その日から勾留質問まで4日かかり、土日をはさみ、正月3が日を合計すると9日です)。

Bこのような事態は連休の場合(連休でなくても土、日前の逮捕では最長6日間事実上面会できません)にも生じ家族が何時までたっても会えないことになりますので家族と新たな弁護人選任の協議も出来ず、被疑者の不安、焦燥感は募るばかりですし不当な自白強要の危険も生じるのです。話はそれますが、当職としては憲法、刑事訴訟法上被疑者に認められる家族との接見交通権(事例集737号)に対する事実上の侵害であると思っています(少なくとも土曜日は半日接見を認めるべきです。前記規則は一部憲法違反です)。捜査機関からすれば、弁護人がいつでも接見できるのだから不都合はないと反論するでしょうが、これは本末転倒した意見です。弁護人との接見交通権と家族との接見する権利はまったく別な権利であり、家族等外部等との接見交通権は本来被疑者に理論上当然に認められる憲法(憲法13条31条)に根拠を有する基本権です。ただ、弁護人との接見交通権は憲法上の弁護人依頼権(憲法37条3項、31条)を実質的に保証するために接見の制限がほとんどないというだけのことです。

被疑者段階では公判と違い弁護人が必ず選任されるとは限りませんし、そもそも肝心の(事件に適切な)弁護人を依頼するには費用、手続の点もあり家族等外部との密接な連絡協議が必要なのです。本件の場合も被疑者はそれぞれ一度だけ捜査機関(刑訴203条1項)、裁判官(刑訴60条の解釈上、実務上)から弁護人選任権があることを口頭で告げられただけで実際上はなすすべもなく4日以上も経過しているのです。ところが、この問題を議論する専門家はあまりおりません。その理由は連休、正月に実質的弁護活動を行う弁護人が少ないので被疑者の家族が接見できない事実上の不都合を実感できず問題提起がなされないのです。捜査機関、裁判所は年末、正月、連休全てに平日と同じく対応できる体制になっているのですが、当番弁護制度があっても弁護人は単独事務所が多く特別な大事件でない限り正月等には事実上弁護活動を休んでしまうところにその原因があります。今後、弁護体制、弁護人の意識改革が求められるでしょう。国民の法曹に対する信頼はこのような小さな改善を繰り返す事により維持されると思います。

C少しわき道にそれましたが、以上のように年末が土曜、日曜にかかると奥様の面会は1月4日になってしまいますから委任契約を締結し弁護費用を奥様が支払って新しい弁護士と会えるのは多分1月5日頃になるでしょう。検察官が処分を決める勾留満期は勾留請求日31日から数えて10日目の1月9日ですが諦めるのはまだ早いと思います。本当の弁護活動はこれからです。

8.
@1月5日に弁護人と面会できたら先ず、記憶がないということで裁判上無罪を争うか、罪を認め一刻も早く釈放を求め更に被害者に謝罪し不起訴処分を求めるかの選択が必要です。選択するためには、いざ裁判になったときに勝てるかどうかの見極めが必要です。犯罪事実は勾留状謄本で分かりますが、この謄本を裁判所から受け取るまで2−3日かかりますのでそんな流暢な事をしている暇はありません。弁護人は接見後一旦打ち切り直ちに刑事課に行って担当警察官と面接し事件の概要を教えてもらう事です(検察官は正月休みで、送検の日から考えて担当も未定と思いますから刑事さんが頼りです)。通常担当刑事さんは3人いるはずですから正月でも誰かと話せるはずです。そこで弁護人がどれだけ犯罪状況を把握できるかがポイントになります。捜査の密行性がありますから対応を誤ると何も聞き出せません。

A大切な事は真実です。このような場合捜査に協力することになっても真実を明らかにする弁護人の誠実な態度が求められます。要は、傷害の証拠、証人がいるかどうかです。捜査官も人間ですからお正月何の前科もないサラリーマンを勾留しておくにはそれなりの事情があるのです(例えば、重傷である。空手は凶器である等)。その事情を教えていただくのです。検察官と違い刑事さんは叩上げの人が多いですから弁護士の資格を振り回すようでは門前払いとなるでしょう。

B証人、証拠があり無罪の可能性が事実上ないようであれば、再度同日接見し弁護人は貴方に罪を認め一刻も早く釈放を求める方法を協議することになります。

9.罪を認め釈放優先の方針が決定したら、先ず貴方は謝罪文を書かなければなりません。憶えていなくても空手をしていた腕力で年末全治20日間の大けがを負わせたのですから人間としてまず謝罪することは当然のことです。弁護人は用意してきたボールペン、便箋を差し入れますから(ボールペンは留置係りの人から借りることもできます)直ぐに謝罪文を作成し待機している弁護人に宅下げしてください。2回ほど半ば否認していますら詳細に罪を認める点を強調し記載する必要があります。それと同時に、このような事態に対応すべく弁護人は、妻、兄弟、両親からの謝罪文、示談金(予想押される罰金の額以上の50万円程度)を事前に預かっていますからそれら預り証等一切のコピーを持って、同日中に再度担当刑事と面会する事になります。

10.次に、担当刑事さんに以上の書類の写しを交付し被害者との示談交渉の連絡を求めるのですが、ここでも弁護人の誠実な態度が必要です。捜査官によっては弁護人選任届けの写しも受け取らない人がおり、なぜか弁護人からの書類を受け取ることにアレルギーがあります。しかし、捜査官としても自白調書が取れず悩んでいる事もあり、被疑者の謝罪文はこれを補完しますので意外と受け取ってくれることが多いのです。それと一緒に示談金預かりの写しも渡して被害者への連絡をお願いすることになります。

11.経験豊かな刑事さんとしては、正月でもあり、このような事件は計画性も前科もなくだれでも酔ってこのような事件を起こすことは人生一度ぐらいあると思っていますから、即日被害者に連絡をとってくれる場合があります。又被害者としても病院に通院しているはずですから弁護人が治療費、慰謝料を支払う提案に怒るはずがありません。

12.刑事さんから被害者に弁護人の連絡先、携帯電話を伝えてもらいお会いする日を決めることになります。万が一、被害者が自分の連絡先について捜査官を通じて弁護人に教えてくれた場合はほぼ、示談の可能性が大きいと考えていいと思います。弁護人側を信用している証拠であり、担当捜査官も被害者への連絡を誠実に行ってくれたことの証です。

13.正月など被害者が地方に帰郷していれば上京を待ち直ちに示談し、できれば被害届け、告訴を取り消していただき検察庁に書類を提出すれば検察官の指揮により即日釈放(又は翌日)になるでしょう。勿論不起訴処分となり前科もつきません。

14.万が一、被害者との面会、交渉が遅れるようであれば、それまでの示談状況を書面にして謝罪文等作成した一切の書類のコピーを担当検察官に送付、交付し意見書を提出して勾留延長をしないで処分保留のまま釈放を求めることになります。この場合、釈放と同時に罰金の略式手続への同意を求められるのが通常ですが、弁護人としては刑事訴訟法247条、起訴便宜主義の大原則から(事例集538号参照)示談交渉の結末を待って最終処分を求めるべく検察官と交渉する必要があります。万が一略式手続に同意しても裁判所への略式手続請求には未だ時間的余裕があり、諦めずに弁護人と協議しあくまで略式手続請求の延期を求める事になります(事例集538 号参照)。その後被害者との示談がまとまればやはり不起訴処分になると思います。

15.以上長々とお話いたしましたが、貴方が、一刻も早く釈放されてご家族皆さんとお正月を迎えられる事を心からお祈りしております。

≪条文参照≫
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条  心神喪失者の行為は、罰しない。
2  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
(傷害)
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。
第二百十二条  現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
○2  左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一  犯人として追呼されているとき。
二  贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三  身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四  誰何されて逃走しようとするとき。
第二百十六条  現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。

刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
(平成十七年五月二十五日法律第五十号)
第二目 未決拘禁者
(面会の相手方)
第百十五条  刑事施設の長は、未決拘禁者(受刑者又は死刑確定者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、他の者から面会の申出があったときは、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、これを許すものとする。ただし、刑事訴訟法の定めるところにより面会が許されない場合は、この限りでない。
(弁護人等以外の者との面会の立会い等)
第百十六条  刑事施設の長は、その指名する職員に、未決拘禁者の弁護人等以外の者との面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させるものとする。ただし、刑事施設の規律及び秩序を害する結果並びに罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがないと認める場合には、その立会い並びに録音及び録画(次項において「立会い等」という。)をさせないことができる。
2  刑事施設の長は、前項の規定にかかわらず、未決拘禁者の第百十二条各号に掲げる者との面会については、刑事施設の規律及び秩序を害する結果又は罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合を除き、立会い等をさせてはならない。
(面会の一時停止及び終了)
第百十七条  第百十三条(第一項第二号ホを除く。)の規定は、未決拘禁者の面会について準用する。この場合において、同項中「各号のいずれか」とあるのは「各号のいずれか(弁護人等との面会の場合にあっては、第一号ロに限る。)」と、同項第二号ニ中「受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障」とあるのは「罪証の隠滅の結果」と読み替えるものとする。
(面会に関する制限)
第百十八条  未決拘禁者の弁護人等との面会の日及び時間帯は、日曜日その他政令で定める日以外の日の刑事施設の執務時間内とする。
2  前項の面会の相手方の人数は、三人以内とする。
3  刑事施設の長は、弁護人等から前二項の定めによらない面会の申出がある場合においても、刑事施設の管理運営上支障があるときを除き、これを許すものとする。
4  刑事施設の長は、第一項の面会に関し、法務省令で定めるところにより、面会の場所について、刑事施設の規律及び秩序の維持その他管理運営上必要な制限をすることができる。
5  第百十四条の規定は、未決拘禁者と弁護人等以外の者との面会について準用する。この場合において、同条第二項中「一月につき二回」とあるのは、「一日につき一回」と読み替えるものとする。
第二目 未決拘禁者
(発受を許す信書)
第百三十四条  刑事施設の長は、未決拘禁者(受刑者又は死刑確定者としての地位を有するものを除く。以下この目において同じ。)に対し、この目、第百四十八条第三項又は次節の規定により禁止される場合を除き、他の者との間で信書を発受することを許すものとする。ただし、刑事訴訟法の定めるところにより信書の発受が許されない場合は、この限りでない。
(信書の検査)
第百三十五条  刑事施設の長は、その指名する職員に、未決拘禁者が発受する信書について、検査を行わせるものとする。
2  次に掲げる信書については、前項の検査は、これらの信書に該当することを確認するために必要な限度において行うものとする。ただし、第三号に掲げる信書について、刑事施設の規律及び秩序を害する結果又は罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合は、この限りでない。
一  未決拘禁者が弁護人等から受ける信書
二  未決拘禁者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書
三  未決拘禁者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第三条第一項に規定する職務を遂行する弁護士から受ける信書
3  刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序を害する結果並びに罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがないと認める場合には、前二項の規定にかかわらず、第一項の検査を行わせないことができる。

刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則
(平成十八年五月二十三日法務省令第五十七号)
(保管私物の保管方法)
第十九条  法第四十八条第一項 に規定する保管私物(以下この条及び次条において「保管私物」という。)は、刑事施設の長が指定する居室内又は居室外の棚、容器その他の保管設備に保管させるものとする。
2  保管私物を居室外の保管設備に保管させるときは、被収容者に、一日に一回以上、その設備に保管私物を出し入れする機会を与えなければならない。ただし、居室棟外の保管設備について、次に掲げる日にその機会を与えることが刑事施設の管理運営上困難であるときは、この限りでない。
一  日曜日
二  土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、一月二日、一月三日及び十二月二十九日から十二月三十一日までの日
三  法務大臣が定める七月から九月までの間の前二号に掲げる日を除いて連続する三日
四  刑事施設の長が、一月につき四日の範囲内で、その刑事施設において矯正処遇等のうち専ら作業(連日作業(炊事、食事の配給又は畜産に関する作業その他その性質上連日行うことが必要な作業をいう。以下同じ。)を除く。)以外のものを行う日として定める日
(面会の日の制限)
第七十一条  刑事施設の長は、被収容者としての地位の別ごとに、その刑事施設において面会(弁護人又は刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三十九条第一項に規定する弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との面会を除く。)を許す日(以下この条及び次条において「面会日」という。)を定めるものとする。
2  一月につき面会日として定める日数は、その月の日数からその月の第十九条第二項第一号及び第二号に掲げる日の日数を差し引いた日数を下回ってはならない。
3  各月の面会日は、その月の初日の一月前までに被収容者に告知するとともに、その月の初日の一月前から刑事施設の公衆の見やすい場所に掲示する方法その他の方法により公告するものとする。
(面会の時間帯の制限)
第七十二条  法第百十四条第一項の規定により被収容者の面会の時間帯について制限をするときは、その時間は、一日につき六時間(第十九条第二項第一号及び第二号に掲げる日を面会日として定めるときは、四時間)を下回ってはならない。
(面会の時間の制限)
第七十三条  法第百十四条第一項の規定により被収容者の面会の時間について制限をするときは、その時間は、三十分を下回ってはならない。ただし、面会の申出の状況、面会の場所として指定する室の数その他の事情に照らしてやむを得ないと認めるときは、五分を下回らない範囲内で、三十分を下回る時間に制限することができる。
(信書の発受の方法の制限)
第八十条  法第百三十条第一項の規定による被収容者が信書を発する方法についての制限は、次に掲げる方法に制限することにより行うことができるものとする。
一  郵便(郵便法(昭和二十二年法律第百六十五号)第四十四条に規定する特殊取扱(速達及び年賀特別郵便の取扱いを除く。)によるものを除く。)による方法
二  電報による方法(緊急の必要がある場合及び弁護人等に対して信書を発する場合に限る。)
2  法第百三十条第一項の規定による被収容者が信書を受ける方法についての制限は、次に掲げる方法に制限することにより行うことができるものとする。
一  郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者による同条第二項に規定する信書便による方法
二  電報による方法

被疑者留置規則
(昭和三十二年八月二十二日国家公安委員会規則第四号)
最終改正年月日:平成一八年五月二三日国家公安委員会規則第一八号
第一章 総則
(この規則の目的)
第一条 
この規則は、逮捕された被疑者の留置を適正に行なうため必要な事項を定めることを目的とする。
(処遇の適正)
第二条 
留置中の被疑者(以下「留置人」という。)については、法令の定めるところによるのほか、この規則に従い、その処遇の適正を期し、いやしくも人権の保障に欠けることがあつてはならない。
(構造、設備についての配意)
第三条
(管理の責任)
第四条
(関係簿冊の備付)
第五条
第二章 留置
(留置の場所)
第六条
(連絡事項)
第七条
(凶器の検査)
第八条
(危険物等の取扱)
第九条
(外傷等の記録)
第十条
(家族等に対する通知)
第十一条
警察署長は、留置人から申出があつた場合には、その家族またはこれに代るべき者に留置の旨を通知しなければならない。ただし、捜査上特に支障のある場合は、この限りでない。(女子等の留置)
第十二条
(通謀の防止)
第十三条
第三章 看守
(看守者の配置)
第十四条
(看守に対する監督)
第十五条
(看守者の交代)
第十六条
(事故防止等)
第十七条
(参考事項の報告)
第十八条
(留置人の申出に対する措置)
第十九条
看守者は、留置人からその処遇または弁護人の選任等につき申出があつたときは、直ちに留置主任官に報告し、必要な措置が講ぜられるようにしなければならない。
第四章 保安
(戒具の使用)
第二十条
(戒具の種類等)
第二十条の二
(異常発見の場合の措置)
第二十一条
(留置人の死亡)
第二十二条
(避難および解放)
第二十三条
(非常計画)
第二十四条
第五章 給養衛生
(給食等)
第二十五条
(保健衛生)
第二十六条
(疾病者に対する措置)
第二十七条
(感染症等に対する措置)
第二十八条
第六章 接見および書類その他の物の授受
弁護人との接見授受)
第二十九条
留置人に対し、弁護人(弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者を含む。以下同じ。)から接見又は書類その他の物の授受の申出があつたときは、留置主任官は、その者が刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三十九条第一項に規定する者であることを確認した上、必要な措置を講じなければならない。
2 捜査主任官は、弁護人との接見又は書類その他の物の授受に際し、捜査上の必要があるときは、その日時、場所及び時間を指定することができる。ただし、被疑者の防御の準備をする権利を、不当に制限してはならない。
(弁護人との接見授受に関する注意)
第三十条
留置人と弁護人との接見または書類その他の物の授受に際しては、その接見に立ち会い、またはその間における書類その他の物の授受を妨げてはならない。ただし、留置場の保安上支障があるものの授受については、この限りでない。
2 前項に規定する書類その他の物の授受に際しては、留置場の保安上支障のあるものの授受が行なわれることのないよう、それらの物の検査を行なわなければならない。
(弁護人以外の者との接見授受及び自弁購入)
第三十一条
留置主任官は、弁護人以外の者から留置人との接見又は書類その他の物の授受の申出があつたとき及び留置人からそれらの物の自弁購入の申出があつたときは、捜査上又は留置場の保安上支障がある場合を除き、その便宜を図るようにしなければならない。この場合において、捜査上の支障の有無については、捜査主任官の意見を聴かなければならない。
2 糧食の差入れおよび自弁購入は、これを禁止してはならない。
3 糧食の差入れおよび自弁購入は、特別の事情のある場合を除き、警察署長が指定する業者が調製し、または取り扱うもので、かつ、警察署長が定める種類および分量によつて行なわせるものとする。
4 第一項および第二項に規定する接見または書類その他の物の授受もしくはそれらの物の自弁購入に当つては、接見に立ち会い、または授受もしくは自弁購入されるそれらの物の検査を行なわなければならない。
(接見の場所)
第三十二条
第七章 釈放
(留置期限に対する注意)
第三十三条
(釈放の際の注意)
第三十四条
第八章 特則
第三十五条
被疑者又は被告人を刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律(明治四十一年法律第二十八号)第二条の規定により刑事施設に代用される警察官署に附属する留置場に収容する場合については、他に特別の定めのある場合を除き、この規則の規定を準用する。
附則 抄
この規則は、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の施行の日(平成十八年五月二十四日)から施行する

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る