新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1528、2014/7/4 12:00 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

[労働,試用期間の長さ, 見習い期間と試用期間の関係 ブラザー工業事件 名古屋地裁昭和59年3月23日判決]

質問:当社は,設立3年の株式会社です。これまで設立以来の気心の知れた仲間と身内のつてで雇ったアルバイトだけでやってきましたが,事業拡大のため,正社員採用を検討しています。試用期間を設けたいと思いますが,試用期間に長さの制限はありますか。



回答:
1、試用期間の長さを直接規定する法令はありません。一般的には3か月とすることが多いかと思いますが,2か月,あるいは6か月とするところもあるでしょう。

2、使用期間の長さに関して、「労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し,その限りにおいて無効であると解する」という裁判例があります。余りにも長い試用期間を設けた場合は,合理的な期間を超える部分については公序良俗違反として無効とされます。合理的な期間を超えていると判断された場合は、合理的な期間経過後の本採用拒否は通常の解雇となりますから、正当な理由がない限り本採用拒否はできないことになります。

3、合理的な範囲と言えるか否かは、仕事の内容によって決まることになります。公務員の場合は法律で原則として長くて6カ月以内と定められていますから、一般企業の場合も6カ月程度であれば合理的な範囲を超えるとは言えないでしょう。

4、事務所関連事例集1441番1117番925番842番762番657番624番5番を参考に参照してください。手続は,995番978番書式ダウンロード労働審判手続申立参照。


解説:

【試用期間の意義】

 新入社員を採用する場合、試用期間を設ける場合がありますが、その場合も採用は雇用契約の締結となります。ここでいう試用期間とは,本採用決定前の「試みの期間」であって,その間に労働者の人物,能力,勤務態度等を評価して社員としての適格性を判定し,本採用するか否かを決めるための期間をいいますが、法的には試用期間付きの雇用契約となります。

 試用期間付きの雇用契約の法的性質については,本採用後の契約とは別個の予備的な契約ではなく,期間中に一定の解約権(解雇権)が使用者側に留保されているものの,本採用後の契約と一体のものであると解されています(三菱樹脂事件,最高裁昭和48年12月12日判決)。

 すなわち、法律上は試用期間だけの雇用契約というのは認められず、試用期間であっても正式な雇用契約となりますが、試用期間中は使用者に本採用の適否という点から解雇権が使用期間経過後よりも保留されていることになります。但し、試用期間内における解雇又は本採用拒否であっても、雇用主側の無限定な解雇を許容するものではなく、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性を有するものであることが必要と解されています。採用時の応募書類や面接では知りえなかった事情が試用期間内に判明し、それによって業務遂行に支障がでるので、応募時に判明していれば採用を拒否していたような事情が必要と考えられます。

【試用期間の長さ】

 試用期間の長さを直接規制する法令はありません。かといって,いくらでも長く定めることが許されているわけではありません。試用期間は,その間,本採用後に比して緩やかな基準での解雇権が使用者に認められていることや,試用期間中は本採用期間中より給料等の待遇面が低く設定されていることが多いなど,労働者側に不利益で不安定な期間であるといえます。交渉力の非対称的な労使間の取決めを放任することは,労働者側が応じざるを得ない状況を作り出しかねません。

 こうしたことからすれば,原則として労使間の自由な合意に委ねるとしても,それが試用期間を定める趣旨・目的から必要・相当な合理的期間を超えるような場合には,合理的な期間を超える部分については公序良俗に違反する合意として無効になると解すべきでしょう。下級審の裁判例においても同様に解されています(ブラザー工業事件,名古屋地裁昭和59年3月23日判決)。

【具体的な長さの例】

ではどれくらいの期間なら合理的な期間を超えるとされないでしょうか。

 これについては,業務の種類や採用者側による教育・研修の実施の程度などの個別事情に左右されるところもありますが,後で説明する公務員の場合と比較しても6か月以内程度であれば概ね容認されるのではないでしょうか。

 さらに,業務の性質等の個別事情によっては,1年以内であればなお合理的な期間を超えるとはいえないと判断される余地があるでしょう。これを超える期間となると,公序良俗違反が認められる危険性が高いと見るべきです。

 一般的には,3か月とするところが多いのではないかと思います。そのうえで,どうしても必要な場合に延長ができるとする規定を就業規則に置くことも考えられます。

【裁判例】

<ブラザー工業事件,名古屋地裁昭和59年3月23日判決>

 企業側は,中途採用制度として,6か月〜1年3か月の間,見習社員として雇用し,その後6か月〜1年のうちに社内で行う試用社員登用試験を経て試用社員となり,さらにその後,社員登用試験を経て正社員に任用されるという制度を採用していました。

 従業員側は,見習社員として雇用された後,試用社員登用試験に合格して試用社員となったものの,その後,2回の社員登用試験に不合格となったところ,企業側から本採用拒否をされました。

 そこで従業員側は,「見習社員期間こそが試用期間である。試用期間を見習い期間と言い換えることで,本来の試用期間6か月〜1年3か月に加算して6か月〜1年の試用期間を設ける労働契約は公序良俗に反して無効である。したがって,自分は既に本採用された地位にあった。そうすると,自分に対する本採用拒否は,試用期間中の本採用拒否ではなく本採用後の解雇ということになるが,この解雇は権利濫用に当たり無効である。」という趣旨の主張をしました。

 これに対して裁判所は,従業員側の主張どおり,見習期間こそ試用期間であると認定したうえ,労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を超えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し,その限りにおいて無効であると解するとの規範を立て,本件についても,少なくとも見習社員から試用社員に登用された後の部分については上記合理的期間を超えているとあてはめました。

【公務員の場合に関する法律の定めとの比較】

 なお,公務員については,試用期間(条件附任用期間)は法律で6か月と定められています(国家公務員法59条1項,地方公務員法22条1項)。公務員がこうだから,民間はこう,と一義的に論じられるものではありませんが,試用期間が6か月以内である場合に,その期間が合理的期間を超えるとはいえないとするための参考事情の一つにはできるでしょう。

【終わりに】

 労務問題は,小規模事業者の抱える法律問題の多くの割合を占めていると感じます。試用期間中の解雇や試用期間後の本採用拒否,その他,試用期間に関する問題でお困りのときは,弁護士へのご相談をご検討ください。

<参照法令>

【労働契約法】
(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

【民法】
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

【国家公務員法】
(条件附任用期間)
第五十九条  一般職に属するすべての官職に対する職員の採用又は昇任は、すべて条件附のものとし、その職員が、その官職において六月を下らない期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。
○2  条件附採用に関し必要な事項又は条件附採用期間であつて六月をこえる期間を要するものについては、人事院規則でこれを定める。

【地方公務員法】
(条件附採用及び臨時的任用)
第二十二条  臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、すべて条件附のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。この場合において、人事委員会は、条件附採用の期間を一年に至るまで延長することができる。
2〜7 略


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