請求書を受領拒否された場合の時効中断方法

民事|時効中断|催告の到達の要否|受領拒否|不在配達通知書|最高裁平成10年6月11日第一小法廷判決|東京地裁平成10年12月25日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

以前、友人に頼まれ、個人的に300万円を貸しました。借用書は作成しましたが、当時、友人は経済的に苦しそうでしたので、返済期を過ぎても請求はしないでいました。それから、もうすぐ10年が経とうとしています。時効が間近に迫っているので、友人に貸金の返還を求める手紙を送ったり、電話で支払を催告したりしましたが、「そんな手紙は受け取っていない。」、「もう昔のことだから、今さら返せと言われても困る。」などと言われ、話し合いになりません。時効を回避するための対応方法を教えてください。

回答:

1 あなたは、友人に対して本来の貸金返還請求権に返済期経過後の遅延損害金を加え、約450万円(約10年で計算した場合)近い請求がなしうる立場にあります。もっとも、このまま何もせずにいると、消滅時効期間(個人間の金銭貸借の場合、返済期の翌日から起算して10年間です。)が満了し、何も請求できなくなってしまうので、直ちに時効中断のための措置を採る必要があります。

2 時効の中断事由としては、①請求、②差押え、仮差押え又は仮処分、③承認の3種類が法定されています(民法147条各号)。このうち、最も典型的かつ手間をかけずに行うことができるのは①請求(民法147条1号)でしょう。ただし、単なる裁判外での弁済の請求は「請求」の中でも「催告」と言われる類型であり、6か月以内に裁判上の請求等を行わなければ時効中断の効力は認められません(民法153条)。将来、訴訟となった場合、時効の中断の立証責任があるのはあなたですので、催告には内容証明郵便等の手段を用いる必要があるでしょう。

3 あなたの友人の発言や態度に照らすと、今後内容証明を送付しても受け取りを拒否されるなどの事態が懸念されるところです。時効中断のための催告は相手方に到達している必要があると解されているので、催告の到達を立証するための証拠化の活動が重要となってきます。

4 判例上、「到達」といえるためには、意思表示または通知を記載した書面が直接受領され又は了知されることを要するものではなく、書面が相手方の勢力範囲(支配圏)内に置かれれば足りる、という解釈が確立しています。裁判例上、時効中断のための催告の「到達」の有無の判断にあたっては、相手方が通知の内容を推知し得たかどうか、相手方が通知を容易に受領し得たか、債権者が時効中断のための手段を尽くしているか、通知が相手方に受領されなかった原因、その他具体的事情の下での公平性等がポイントとなってきます。弁護士による内容証明の作成、送付に加え、電話や訪問等による交渉内容の録音、弁護士による交渉経過に関する報告書の作成等により、友人との折衝、交渉の経過等を証拠化しておくと良いでしょう。内容証明郵便が不在(又は受領拒否)後受取期間経過で返送されてきた場合は、配達記録郵便で再度送付する手段も考えられます。

5 仮差押命令の申立て(民事保全法20条1項)に際しての保全の必要性の疎明や貸金債権等の立証、消滅時効以外の反論の可能性等、法的に検討すべき事柄は意外に多岐に渡りますので、弁護士への依頼も視野に入れ、一度専門家に相談されることをお勧めいたします。

6 通知受領拒否や時効中断に関する関連事例集参照。

解説:

1.(時効期間)

あなたと友人との間には、返還約束の下300万円の授受が行われているので、金銭消費貸借契約が成立しており(民法587条)、あなたはこれに基づき、友人に対して貸金返還請求権を有しています。また、返済期を過ぎても返済がなされていないようですので、あなたは友人に対して、債務不履行に基づく損害賠償請求権として、返済期の翌日から返済済みまで年5分の割合による遅延損害金(約10年間であれば、約150万円になります。)の支払いを求めることができます(民法415条、412条1項、140条本文、419条1項、404条)。

もっとも、債権には消滅時効(一定の期間の経過によって債権を消滅させる制度)が定められています。あなたのような個人間の金銭貸借にかかる貸金債権の場合、民法の原則通り、時効期間は10年です(正確には、返済期の翌日から起算して10年が経過した時点で時効期間が満了することになります。民法166条1項、167条1項、587条)。したがって、あなたはこのまま何もしなければ貸金債権が時効消滅し、債権が全く回収できなくなる可能性が高い状況といえます。なお、上記の遅延損害金は元本債権である貸金債権の存在を前提とする請求権なので、貸金債権が時効消滅した場合、これに伴い遅延損害金も請求できなくなります。

2.(時効の中断)

時効期間の満了が間近に迫っていますので、あなたは直ちに時効中断のための措置を講じる必要があります。時効の中断とは、一定の事由の発生により、それまで進行していた時効期間がリセットされ、新たにゼロから時効期間が進行することをいいます。時効の中断事由としては、民法上、①請求、②差押え、仮差押え又は仮処分、③承認の3種類が法定されていますが(民法147条各号)、このうち、最も典型的かつ手間をかけずに行うことができるのは①請求(民法147条1号)でしょう。

ただし、ここで言う「請求」とは、単なる金銭の支払要求と同一ではないという点に注意が必要です。請求の具体的態様としては、裁判上の請求(民法149条)や支払督促(民法150条)、和解及び調停の申立て(民法151条)、破産手続参加等(民法152条)の裁判所が関与する手続きが想定されており、単なる裁判外での弁済の請求に過ぎない「催告」の場合、催告から6か月以内に裁判上の請求等を行わなければ時効中断の効力は認められません(民法153条)。あなたが友人に貸金の返還を求める手紙を送ったり、電話で返還を求めたりした行為は、ここで言う「催告」に他なりません。

なお、裁判上の請求を見据えた場合、時効の中断事由が生じていることの立証責任はあなたにありますので、「催告」が実際に行われたことを立証できるかどうかという視点が1つ重要なポイントとなります。あなたの友人は「そんな手紙は受け取っていない。」などと発言しているようですので、民事訴訟の場でも同様の主張をしてくることが十分考えられます。したがって、「催告」がなされたことを確実に立証するためには、貸金の返還を請求する内容の書面を改めて内容証明郵便で送付しておく必要があるでしょう。

3.(催告の到達の要否)

あなたの友人は、催告の手紙を送っているにもかかわらず、受け取っていないと言っているとのことですので、今後内容証明を送付しても受け取りを拒否されるなどの事態が懸念されます。そこで、「催告」があったといえるためには、内容証明等の通知が相手方に到達しているまでの必要があるのかどうか(通知を発信しさえすれば、相手方に到達しなくても「催告」といえるのではないか)、民法153条の文言からは明らかではないため、問題となります。

この点、民法97条1項は「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」として、意思表示に関する到達主義の原則を規定しています。しかし、この規定が時効中断事由としての催告の場合に直接適用されることはありません。民法97条1項に言う「意思表示」というのは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為を意味し、催告のように、一定の意思を伝えはするものの、その意思から直接的に導かれる法律効果の発生を目的としない行為である「意思の通知」とは異なるものだからです。すなわち、「催告」はあくまで「貸したお金を返してください。」という意思が表示されたものであり、時効の中断という効果意思が表示されたものではないので、民法97条1項に言う意思表示とはいえず、同条は適用されないことになるのです。したがって、催告にあたっての到達の要否はあくまで消滅時効制度の趣旨に照らして解釈される必要があります。

時効制度の趣旨(時効を正当化する根拠)については、伝統的に、①永続した事実状態を尊重し、権利が行使されていないという事実関係を基に構築された社会秩序や法律関係を維持することで、法的安定性を図ること、②証拠の散逸等による過去の事実の立証の困難性を救済すること、③「権利の上に眠る者は保護せず」という3点が論じられてきましたが、現在においては、これら3つの存在理由を複合的に捉えるのが標準的な見解といえます。そして、時効中断が認められるのは、時効中断事由の発生により、これら3つの趣旨がもはや妥当しなくなるからに他なりません。

かかる観点からすると、消滅時効を中断させる立場の債権者からすれば、債務者に対して催告の通知を発することによって、「権利の上に眠る者」とはいえなくなりそうです。しかし、債務者にしてみれば、催告が到達しない場合、自らの与り知れぬところで時効が中断することになり、法的安定性が害される結果となります。そもそも、催告のような意思の通知は相手方に到達することが予定されているものですので、相手方への到達をもって時効の中断を認めることが法的安定性に資するといえます。

したがって、「催告」は相手方に到達することを要すると解さざるを得ないでしょう。東京地裁平成10年12月25日判決も「ところで、消滅時効の制度の趣旨は、法律関係の安定のため、あるいは時の経過に伴う証拠の散逸等による立証の困難を救うために、権利の不行使という事実状態と一定の期間の継続とを要件として権利を消滅させるものであり、また、権利の上に眠る者は保護に値しないとすることにあるとされているところ、催告に暫定的な時効中断の効果を認めた理由は、裁判手続外であるにせよ催告という権利者としての権利主張につながる行為を開始することにより、もはや権利の上に眠る者とはいえなくなるからと解される。そして、催告は、債務者に対して履行を請求する債権者の意思の通知であるから、これが債務者に到達して初めてその効力を生ずるというべきである。」として、同様の解釈を採っています。

4.(到達の意義)

では、友人による受け取り拒否等の対応が懸念される本件において、催告を「到達」させるためにはいかなる行動をとればよいのでしょうか。まず「到達」というのが如何なる状態を指すのか、その意義を明らかにする必要があります。判例上、「到達」といえるためには、意思表示または通知を記載した書面が直接受領され又は了知されることを要するものではなく、書面が相手方の勢力範囲(支配圏)内に置かれれば足りる、という解釈が確立しています。例えば、最判平成10年6月11日第一小法廷判決は、民法97条1項の意思表示の到達に関し、「意思表示を記載した書面が・・・相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される」としています。

問題は、何をもって「了知可能な状態」といえるかどうかです。この点については、以下の裁判例が参考になります。

(1)最判平成10年6月11日第一小法廷判決

遺留分減殺請求の通知(民法1031条、1042条)が受取人不在のため、留置期間経過後に差出人に還付され、意思表示の到達の有無が争点となった事案に関し、「(三)前記一の事実関係によれば、被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照)、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また、被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって(右(二)(3)参照)、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。」とし、結論として遺留分減殺請求の通知の到達を認めました。ただし、到達の時期については「遅くとも」留置期間が満了した時点であるとして、明言を避けています。

ここでは、不在配達通知書の投函やその留置期間の満了等の事情によって画一的に判断するのではなく、それらに加え、受取人が郵便物の内容を推知し得たかどうか、郵便物が容易に受領可能であったかどうかといった具体的な事実関係を総合考慮して到達の有無を判断するという枠組みが示されています。そして、郵便物の内容を推知し得たかどうかの認定に際しては、不在配達通知の記載や従前の折衝の経過などが考慮されています。

(2)東京地裁平成10年12月25日判決

金銭貸付の相手方及びその連帯保証人に対して貸金債権及び保証債務履行請求権の履行請求がなされたのに対し、商事消滅時効(5年間)の主張がなされ、消滅時効期間が経過する直前になされた催告の通知(借主の事務所に送付されたが、事務員により受け取り拒否された。)の到達の有無が争点となった事案について、まず、「右1認定事実によれば、原告の普通郵便による督促状は被告らに到達したことを確認できないし、配達記録付き(あるいは配達証明付き)の催告書ないし債務承認書は、いずれも被告らの不在のため受領されずに返送されるか、又は被告和興の事務所の事務員が受領を拒絶して返送されているのであるから、右各書面が被告らに到達したことを確定的に認定することは困難というべきである。」としながらも、「しかしながら、本件においては、(a)被告WKは時折自宅に帰っていたのであるから、右(一)認定の普通郵便による督促状を受領していた可能性が高い上、(b)被告らが不在のため保管期間経過として返送された郵便については、郵便局員が不在配達通知書を被告らの住居に差し置くのであるから、被告らはその郵便の存在を知ることができるとともに、容易にこれを受領することが可能となっていたものであり、(c)更に被告WKの事務所宛に送達された内容証明郵便については、二回とも同事務所の事務員により受領拒絶の措置が採られているが、右措置はあらかじめ被告WKからそのような指示がなければ考えにくいことであるし、また、少なくとも被告WKからは定期的に同事務所への連絡がなされていたはずであるから、その際にも原告からの内容証明郵便が配達されたことが被告WKに伝えられていたと考えられることからみると、被告WKは原告からの本件貸金債務の請求関係書類が同被告に送付されていたことを了知していた可能性が高いというべきである(更にいえば、被告WKは普通郵便による督促状を閲読していたゆえに、その後の原告からの郵便物の受領を拒否する措置をとった可能性も考えられるところである。)。」として、上記最判平成10年6月11日と同様の判断枠組みによって、催告の内容を了知していた可能性が高いと判断しています。

これに加え、本判決はさらに一歩進んだ判断を示しています。すなわち、「仮にそのように認められないとしても、前記のような時効制度の趣旨を前提として考えると、原告は、前後四回にわたって被告らに対し、その自宅あるいは事務所宛に催告の趣旨を記載した内容証明郵便ないし普通郵便を送付しており、債権者としてなし得る限りのことをしているのであって、権利の上に眠る者とは到底いえないし、他方、右催告が被告らに到達しなかった原因はもっぱら、債権者からの追求を免れるために送付書類の受領を拒否する態度に出た被告側にあるのであるから、右送付に催告の効果を認めなければ、結局債権者には時効中断のためにとりうる手段がないことになり、著しく不当な結果となる。そうすると、いずれにしても、本件の催告は、被告和興の事務所に郵便局員が内容証明郵便を配達し、同事務所の事務員がその受領を拒絶した平成一〇年三月二七日をもって被告WKに到達したものとみなし、催告の効果を認めるのが、時効制度の趣旨及び公平の理念に照らし、相当であるというべきである。」として、時効制度の趣旨と公平の理念に照らして、時効中断を認める事例判断を示しています。

これらの裁判例に照らすと、時効中断のための催告の「到達」の有無の判断要素は以下のような点に集約されると思われます。

・不在配達通知の記載や従前の折衝の経過などに照らして、相手方が通知の内容を推知し得たかどうか

・相手方が通知を容易に受領できる客観的状況にあったかどうか

・債権者として、時効中断のためになしうる限りの手段を採っているかどうか

・通知が相手方に受領されなかった原因

・その他具体的事情の下での公平性

あなたの場合、友人が通知書の受け取りを拒否するような場合に備え、これらの観点から、友人との折衝、交渉の経過等を証拠化しておく必要があるでしょう。手段としては、弁護士等による内容証明の作成、送付に加え、電話や訪問等による交渉内容の録音、弁護士による交渉経過に関する報告書の作成等が考えられます。

5.(今後の対応について)

時効を中断するための「催告」を最優先で行う必要があります。友人が内容証明を受け取ってくれれば問題ありませんが、受け取り拒否等の態度に出られた場合には、催告の「到達」を証明できるだけの立証活動が必要となってきます。

催告の後は6か月以内に裁判上の請求等を行う必要があります(民法153条)。典型的には訴えの提起ですが、浪費や隠匿等によって友人の財産が減少して、たとえ民事訴訟で勝訴しても貸金等の回収が著しく困難となるような事情があれば、これを防ぐため、訴え提起前に友人の財産に対する仮差押命令の申立て(民事保全法20条1項)を行う必要があるでしょう。その場合、裁判所に対して保全の必要性を疎明する必要があるため、やはり従前の交渉経過(主として相手方の交渉態度、発言内容等)の証拠化が重要となってきます。また、貸金債権の存在を立証できるかどうか、借用書その他の証拠資料を検討する必要がありますし、時効以外の反論の可能性がないか、従前の経過等を整理し、法的に精査する必要があります。

勿論、裁判上の請求(民法149条)であれば、訴訟提起(裁判所に訴状が受理されること)により時効中断効を生ずると解釈されていますので、可能であれば訴訟提起も検討すべきでしょう。

あなたのケースは、一見単純な事案に見えても、法的に検討すべき事柄は多岐に渡りますので、弁護士への依頼も視野に入れて、一度専門家に相談してみることをお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

民法

第97条(隔地者に対する意思表示)

隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

第2項 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

第145条(時効の援用)

時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

第147条(時効の中断事由)時効は、次に掲げる事由によって中断する。

一 請求

二 差押え、仮差押え又は仮処分

三 承認

第149条(裁判上の請求)

裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。

第153条(催告)

催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

第166条(消滅時効の進行等)

消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。

2項 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

第167条(債権等の消滅時効)

債権は、十年間行使しないときは、消滅する。

2項 債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

第404条(法定利率)

利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。

第412条(履行期と履行遅滞)

債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。

2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。

3項 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

第415条(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

第419条(金銭債務の特則)

金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。

2項 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。

3項 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

第五節 消費貸借

第587条(消費貸借)

消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

第588条(準消費貸借)

消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。

第589条(消費貸借の予約と破産手続の開始)

消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。

第590条(貸主の担保責任)

利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があったときは、貸主は、瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

2項 無利息の消費貸借においては、借主は、瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において、貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは、前項の規定を準用する。

第591条(返還の時期)

当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。

2項 借主は、いつでも返還をすることができる。

第592条(価額の償還)

借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第四百二条第二項に規定する場合は、この限りでない。

第1031条(遺贈又は贈与の減殺請求)

遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

第1042条(減殺請求権の期間の制限)

減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

民事保全法

第20条(仮差押命令の必要性)

仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2項 仮差押命令は、前項の債権が条件付又は期限付である場合においても、これを発することができる。

≪参考判例≫

最高裁平成10年6月11日第一小法廷判決民集52巻4号1034頁より抜粋

「三 上告理由二は、本件内容証明郵便による遺留分減殺の意思表示が被上告人に到達したか否かの争点に関するものである。

1 原審は、前記一の事実関係の下において、次のとおり判示して、右意思表示の到達を否定した。

すなわち、本件普通郵便を受け取ったことによって、被上告人において、上告人らが遺留分に基づいて遺産分割協議をする意思を有していると予想することは困難であり、被上告人としては、小川弁護士から本件内容証明郵便が差し出されたことを知ったとしても、これを現実に受領していない以上、本件内容証明郵便に上告人らの遺留分減殺の意思表示が記載されていることを了知することができたとはいえない。そうすると、本件内容証明郵便が留置期間経過によって小川弁護士に返送されている以上、一般取引観念に照らし、右意思表示が被上告人の了知可能な状態ないし勢力範囲に置かれたということはできず、また、上告人らとしては、直接被上告人宅に出向いて遺留分減殺の意思表示をするなどの他の方法を採ることも可能であったというべきであり、上告人らの側として常識上なすべきことを終えたともいえない。さらに、被上告人において、正当な理由なく上告人らの遺留分減殺の意思表示の受領を拒絶したと認めるに足りる証拠もない。

2 しかしながら、原審の右判断も是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(一)隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りるものと解される(最高裁昭和三三年(オ)第三一五号同三六年四月二〇日第一小法廷判決・民集一五巻四号七七四頁参照)。

(二)ところで、本件当時における郵便実務の取扱いは、(1)内容証明郵便の受取人が不在で配達できなかった場合には、不在配達通知書を作成し、郵便受箱、郵便差入口その他適宜の箇所に差し入れる、(2)不在配達通知書には、郵便物の差出人名、配達日時、留置期限、郵便物の種類(普通、速達、現金書留、その他の書留等)等を記入する、(3)受取人としては、自ら郵便局に赴いて受領するほか、配達希望日、配達場所(自宅、近所、勤務先等)を指定するなど、郵便物の受取方法を選択し得る、(4)原則として、最初の配達の日から七日以内に配達も交付もできないものは、その期間経過後に差出人に還付する、というものであった(郵便規則七四条、九〇条、平成六年三月一四日郵郵業第一九号郵務局長通達「集配郵便局郵便取扱手続の制定について」別冊・集配郵便局郵便取扱手続二七二条参照)。

(三)前記一の事実関係によれば、被上告人は、不在配達通知書の記載により、小川弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り(右(二)(2)参照)、その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、被上告人としては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである。また,被上告人は、本件当時、長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって(右(二)(3)参照)、さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる。そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、被上告人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で被上告人に到達したものと認めるのが相当である。

(四)以上と異なる原審の判断には、意思表示の到達に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点に関する論旨も、理由がある。」

最高裁昭和36年4月20日第一小法廷判決民集15巻4号774頁より抜粋

「上告代理人弁護士佐藤武夫、同柏井義夫、同保津寛の上告理由第一点について。

所論の点に関し原判決が当事者間に争ない事実及びその挙示の証拠によつて認定した事実に基いて判示するところは次のとおりである。即ち、上告会社の使用人であるSKは、昭和二六年九月二七日被上告人N自動車工業株式会社(以下N自動車と略称する。)の事務室において同会社の代表取締役であつたZYの娘ZTに対し、甲第二号証の一(本件係争延滞賃料の支払催告書)を交付したが、右ZYはN自動車を退社する考えで自己の本業である映画撮影関係の仕事を捜していたため、同年八月頃からN自動車に出社せず、右九月二七日当時も同様であつたこと、ZTは、SKが前記第二号証の一の催告書を持参した際たまたまN自動車に遊びに来ており、SKから差出された右催告書を通常の請求書と思い、N自動車の使用人でもなく、またZYから命じられてもいないのに、SKの持参した送達簿に欠勤中のZYの机上に在つた同人の印を勝手に押して受け取り、N自動車の社員に告げることもなく、右机の抽斗に入れておいたこと、次いで、同年一〇月五日上告会社から契約解除の書面が来り、初めて社員等において右催告書の来ていることを知了したものであること、これらの事実から見れば、右催告書はこれを受取る何らの権限のないZTに交付されたものであつて、いまだ右会社がこれを了知することのできる状態におかれたものと言うことはできず、契約解除の意思表示がなされるまでこれを了知しなかつたことが明らかであるから、右催告は契約解除の前提としての効力がなかつたものであるというのである。

しかしながら、思うに、隔地者間の意思表示に準ずべき右催告は民法九七条によりN自動車に到達することによつてその効力を生ずべき筋合のものであり、ここに到達とは右会社の代表取締役であつたZYないしは同人から受領の権限を付与されていた者によつて受領され或は了知されることを要するの謂ではなく、それらの者にとつて了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべく、換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべきところ(昭和六年二月一四日、同九年一一月二六日、同一一年二月一四日、同一七年一一月二八日の各大審院判決参照)、前示原判決の確定した事実によれば、N自動車の事務室においてその代表取締役であつたZYの娘であるZTに手交され且つ同人においてSKの持参した送達簿にZYの机の上に在つた同人の印を押して受取り,これを右机の抽斗に入れておいたというのであるから、この事態の推移にかんがみれば、ZTはたまたま右事務室に居合わせた者で、右催告書を受領する権限もなく、その内容も知らず且つN自動車の社員らに何ら告げることがなかつたとしても、右催告書はZYの勢力範囲に入つたもの、すなわち同人の了知可能の状態におかれたものと認めていささかも妨げなく、従つてこのような場合こそは民法九七条にいう到達があつたものと解するを相当とする。

然らば、右催告はこれを有効と解すべきところ、原判決はこれを無効と断じたのであるから、原判決は右催告の効力に関し民法九七条の解釈適用を誤つたものというの外なく、しかも右催告の有効であるか無効であるかは本事案全体の勝敗を決する要点であるから、本上告理由は理由あるに帰し、原判決は爾余の論点を審究するまでもなく、全部破棄を免れないものと言わざるを得ない。」