協議を行う旨の合意による消滅時効の完成猶予|民法改正

民事|改正民法における消滅時効の中断・完成猶予|取引先との関係悪化を防止したい場合の対応方法

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

電子機器の製造・販売を行う会社を経営する者です。来月末で消滅時効が完成してしまう、取引先の売掛金債権がありますが、この取引先とは長い付き合いがあり、出来れば、法的手続きを執ることで関係を拗らせたくありません。取引先は、売掛金債務の存在自体については認めているのですが、当社が発行した請求書の内容に一部誤りがあるとの考えを持っているようです。

回答

1 令和2年4月1日から施行された改正民法により、消滅時効の完成について新たに「協議を行う旨の合意書面作成による時効の完成猶予」という制度が設けられましたので、この書面を作成して消滅時効の完成を伸ばすことが良いでしょう。新民法を前提に、取引先に対する売掛金債権が時効消滅してしまうことを防ぐ手段は次の通りとなります。

①訴訟提起(場合によっては仮差押えも検討)、支払督促、民事調停等の法的手続きを執り、権利を確定させ、時効の更新(5年間の時効期間が再スタート)を行う(新民法147条)

②債務承認を受けて時効の更新を行う

③催告により6カ月間の時効完成猶予を得る(新民法150条1項)

④協議を行う旨の書面による合意により時効完成猶予を受ける(新民法151条)

2 このうち①については、法的手続きを執ることで関係を拗らせたくないというお考えからすれば、最終手段とすべきでしょう。
②については、債権額に争いがある以上、1月の間に債務承認を得るのは困難と思われます。
③催告による時効完成猶予については、再度の催告が時効完成猶予の効力を有しない(新民法150条2項)、すなわち6か月以上の猶予は得られないことから、いずれは法的手続きを執らざるを得ないこととなる可能性が高いという点において、限界がありますし、取引先とは今後も円満な取引を継続するということであれば一方的に催告することは差しさわりがあるでしょう。

3 取引先との関係を考えて、法的手続きはなるべく執りたくないが、じっくり債権の金額や支払方法等について協議を行う時間を作りたい、という趣旨からすると、新設された④協議を行う旨の合意による時効完成猶予を検討するのに適した事案と言えるでしょう。

本件では、売掛金債権の存否自体には争いがない事案ですので、取引先が債権の金額や支払方法等について協議を行うことに納得してくれる見込みは十分あると考えられますので、協議を申入れましょう。

権利に関する協議を行う旨の合意は、書面でも電磁的記録でも良いですが、慎重を来すためには、合意書を作成して双方記名・押印しておくのが安全です。催告と異なり、猶予期間内(期間を定めなかった場合は1年間)における再度の合意が可能で、合計5年間猶予を受けられますので、じっくり債権回収の話合いが可能となります(催告の場合は、一度しか効果がありません)。

解説

第1 消滅時効に関する民法改正の概要

令和2年(2020年)4月1日から施行された改正民法により、債権法の内容が大きく変わりました。消滅時効制度に関しても大きく内容が変わっております。

1 消滅時効期間の原則に関する改正

まず、消滅時効期間に関する改正内容を簡単に解説します。

(1) 従来の民法では、債権の消滅時効期間を10年間、債権又は所有権以外の財産権の消滅時効期間を20年として規定されていました(旧民法167条)。

しかし、債権の消滅時効期間について、権利行使可能であることを知りながら10年間も権利行使しないことを許容するのは不合理である(消滅時効期間が長過ぎる)との理由から、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間で消滅時効が完成することを原則としつつ、②債権者が権利行使できることを知らない場合でも、権利を行使することができる時から10年間で消滅時効が完成する、という内容に改正されました(新民法166条1項)。債権又は所有権以外の財産権についての時効期間は従来のままです(同条2項)。

また、これに伴い、職業別の短期消滅時効制度(旧民法170条以下)を廃止し、商事消滅時効(旧商法522条)も廃止されました。

不法行為に基づく損害賠償請求権については、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除き、従来どおり、①被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間、②不法行為時から20年間とされ(新民法724条。改正なし。)、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については、①債務不履行による損害賠償請求権も不法行為による損害賠償請求権も、損害及び加害者を知った時から5年間、又は②権利行使可能時から20年とされました(改正民法724条の2、167条)。

(2) これにより、多くの債権が権利の発生から5年で時効消滅することになりました。通常、債権の発生と同時に権利行使可能であることを債権者が認識するからです。

旧民法と新民法の適用関係ですが、改正前に発生した債権については旧民法が適用されます(新民法附則10条4項)。
ただし、改正後に発生した債権であっても、その原因となる法律行為(契約等)が改正前になされた場合には、旧民法が適用されます(新民法附則10条1項括弧書、4項)。

2 時効の中断・停止から時効の更新・完成猶予へ

(1) 旧民法では、時効の完成を防ぐ方法として、「時効中断」と「時効停止」の2つが規定されていました。「時効中断」とは、ある事由が発生することによって、時効期間の進行がリセットされ、初めから進行するというものです。「時効停止」とは、ある事由が発生している期間中、時効期間の進行が停止し、停止事由が消滅した後は、続きから進行するものです。

改正民法でも、この制度自体は引き継がれましたが、中断や停止という文言がわかりにくいという意見があったため、改正後は、それぞれ「更新」と「完成猶予」という表現に改められました。

(2) 裁判上の請求、支払督促、調停、破産手続参加(新民法147条)、強制執行等(新民法第148条)、債務の承認(新民法152条)が時効更新(中断)事由であること、催告(裁判によらない請求)は時効完成猶予(停止)の効力しか持たない(新民法150条1項)ことは、旧民法と同様です。

ただし、旧民法では時効更新(時効中断)事由として規定されていた、仮差押えや仮処分(新民法第147条2号)が、時効完成猶予の効力しか持たないようになった(新民法第149条)点には、注意が必要です。

また、「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた」ことが、時効完成猶予事由として新設されました(新民法第151条1項)。債権の額に争いがある等の理由により、債務承認を受けることはできないが、裁判外での協議を行いたい場合等に利用することが想定されます。

以下では、新設された、権利についての協議を行う旨の合意書面による時効完成猶予制度について解説します。

(3) 協議を行う旨の書面による合意による消滅時効の完成猶予の概要は以下のとおりです。

ア 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意があったときは、次の時点のいずれか早い時まで時効は完成しません。
① 合意があった時から1年経過時
② 合意で協議期間が1年未満と定められていたときは、その期間を経過した時
③ 当事者の一方が相手方に協議続行拒絶を書面又は電磁的記録で通知した時から6か月経過した時

イ 当事者は上記(1)で時効が猶予されている間に改めて上記(1)の合意をすることができます。ただし、その期間は、本来の時効完成時点から合わせて5年を超えることができません。

ウ 上記(1)の合意は、本来の時効完成時点までに行わなければなりません。催告によって時効完成が猶予されている間に行っても、時効完成猶予の効力はありません。

エ 合意が電磁的記録(電子メール等)によってなされたときは、当該合意は書面によってなされたものとみなされます(協議続行の拒絶も含む)。

(4) 旧民法と新民法の適用関係ですが、当該事由が改正前に発生したものであれば現民法が適用され、改正後に発生したものであれば新民法が適用されます(新民法附則10条2項)。改正前に発生した債権であっても、改正後に当該事由が発生したものであれば、新民法が適用されます。

新設された協議を行う旨の合意による時効完成猶予ついては、改正後に合意し、書面が作成された場合についてのみ、時効完成猶予の効果が発生します(新民法附則10条3項)。ただし、改正前に発生した債権であっても、改正後に合意し、書面が作成された場合には、時効完成猶予の効果が発生します。

第2 本件での対応

1 本件で、取引先に対する売掛金債権が時効消滅してしまうことを防ぐ手段としては、①訴訟提起(場合によっては仮差押えも検討)、支払督促、民事調停等の法的手続きを執り、権利を確定させ、時効の更新(5年間の時効期間が再スタート)を行う(新民法147条)、②債務承認を受けて時効の更新を行う、③催告により6カ月間の時効完成猶予を得る(新民法150条1項)、④協議を行う旨の合意により時効完成猶予を受ける(新民法151条)等が考えられます。

2 このうち、①については、法的手続きを執ることで関係を拗らせたくないというお考えからすれば、最終手段とすべきでしょう。

②については、債権額に争いがある以上、1月の間に債務承認を得るのは困難と思われます。

③催告による時効完成猶予については、再度の催告が時効完成猶予の効力を有しない(新民法150条2項)、すなわち6か月以上の猶予は得られないことから、いずれは法的手続きを執らざるを得ないこととなる可能性が高いという点において、限界があるでしょう。

3 ④そこで、新設された、協議を行う旨の合意による時効完成猶予を目指す方法を検討してみます。

本件は、売掛金債権の存否自体には争いがない事案ですので、取引先が債権の金額や支払方法等について協議を行うことに納得してくれる見込みは十分あるでしょう。

権利に関する協議を行う旨の合意は,書面で行う必要があり,電磁的記録の場合は書面によるものとみなされますが,慎重を来すためには合意書を作成して双方記名・押印しておくのが良いでしょう。

催告と異なり、猶予期間内における再度の合意が可能で、合計5年間猶予を受けられますので、じっくり債権回収の話合いが可能となります。

勿論、取引先が協議において不誠実な態度に終始するようでは、話し合いでの解決は困難ですから、その場合は法的手続きも検討しなければなりません。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

参照条文

民法(改正後)
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
(仮差押え等による時効の完成猶予)
第百四十九条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第百五十一条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
第百六十七条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。