破産事件・個人事業者・同時廃止・管財事件
民事|予納金|少額管財事件
目次
質問:
破産の申し立てを考えていますが,個人事業主であったことから,少額管財事件になり,予納金が20万円かかると言われました。同時廃止という手続きであれば,予納金はいらないと言われたのですが,私の場合,同時廃止は無理なのでしょうか。
回答:
1 原則として,事業主であった者,あるいは会社の代表者であった者については,少額管財事件となります。破産手続きに際して、偏波弁済(一部の債権者のみ返済すること)や財産隠匿(破産財団を散逸させてしまうこと)が無かったかどうか、最低限の調査が必要となるからです。
2 会社の代表者であった場合,会社と一緒に代表者の破産手続きを開始することが求められ,少額管財事件となります。この場合管財人の報酬となる最低限の20万円を開始決定後に管財人に預ける必要があります。会社組織ではなく個人の事業主の場合も,債権者の保護に欠けるところが無いか最低限の調査が必要ですから原則少額管財事件となりますが,事業をやめて1年以上経過していたり,債権者が事業と関係のない場合など,免責についての調査が不要である場合は,申立の際,代理人による調査が十分であることが必要ですが同時廃止になる可能性もあります。
3 破産に関する関連事例集参照。
解説:
1 債務整理
金融機関からの融資については,消費貸借契約という類型に属し,法律上,返還時期における返還債務が発生します(民法587条以下)。借りたお金を返済期に返すというものですから,常識的にもわかりやすいところです。
返還時期において返還すべき金額を返済しなければ,債務不履行となりますが,特に期限の利益(平たく言うと,全額一括で支払うのではなく,分割で一定額ずつ支払えばよいという猶予のことです。)が付与されていた場合,1回でも遅滞すればその期限の利益を喪失する(平たく言うと,猶予が取消しになり,残額の全額を一括で支払わなければなくなることです。)という特約が付されている場合がほとんどですので,急に巨額を請求されることになってしまいます。
このように一括の請求を受けたり,月々の分割払いが厳しくなったりしたときに,解決方法としては,支払い方法を変更して返済を続けるか(任意整理,民事再生),現在の財産をすべて整理して返済に充て,それでも残った負債について免除してもらう(破産,免責手続き)の二つの方法があります。現実的に支払い可能な返済方法を模索し,事案に適した解決を図るのが,いわゆる債務整理と呼ばれるものです。債権者との間での新たな分割返済方法についての合意を目指すのが,いわゆる任意整理と呼ばれるもので,それが難しい場合,収益を生み出す基礎となる財産を維持しつつ,債務者を経済的に再建する再生手続をとるか,それも難しいほどにまで債務が多大で財産が僅少である場合には,破産手続をとることになります。
あなたの場合,債務が多額である一方で,毎月の余剰資産がほとんどない状態のようですので,破産手続をとらざるを得ない状況かもしれません。
2 破産手続
破産手続は,債務者が支払い不能にあるとき(破産法(以下,単に「法」といいます。)15条1項),申立てにより,裁判所が開始の決定をします(法30条1項)。破産手続開始の申立ては,債権者と債務者がすることができますが(法18条1項),実務上はそのほとんどが債務者申立てによるものです。
破産手続が開始した場合,破産財団(破産開始決定時の総財産の集合体のことです。)に属する財産の管理・処分をする専属的権限を有する破産管財人(法78条)が裁判所によって選任され(法74条1項),破産手続が進んでいくことが原則形ですが,破産財団から破産費用を支弁できないとして,破産手続開始と同時に手続が廃止される,同時破産手続廃止となる場合もあります(法216条1項)。これは債権者に配当する財産が無いということを意味します。実務上,前者を「管財事件」,後者を「同時廃止事件」などと言ったりもします。その他,同意廃止(法218条・219条)や異時廃止(法217条)などというケースも法律上規定されていますが,それらは実務上ほとんどありません。
以上の,管財事件と同時廃止事件の振り分けですが,法文上は「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」には同時廃止になるとされています。また,この運用として,実務上,破産手続開始決定時の財産の多寡,負債額の多寡,偏頗行為の有無,法人代表者かどうか,個人事業者かどうか,個人事業者の場合には事業継続の有無や資産・負債の状況,免責調査の必要性の有無などが考慮されます。
3 同時破産手続廃止になる場合
管財事件と同時廃止事件の振り分けについての実務上の運用の詳細は,裁判所ごとに異なります。
たとえば,破産開始決定時の財産の多寡については,財産を多く有していればその分配のために同時廃止ではなく管財事件になりますが,これについて現在の東京地方裁判所においては,20万円以上の財産を有していれば管財事件とされる運用ですが,他の地方裁判所においては,自由財産(破産者の生活等のため,破産財団に属さず,破産者が自由に使える金銭のことです。)である99万円(法34条3項1号・民事執行法131条3号)を超える財産がある場合に管財事件とする運用のところも多いようです。また,負債額が多い,偏頗行為がある,免責調査の必要性があるなどの事情がある場合,調査の必要性から管財事件となります。
個人の破産者が法人代表者である場合や,破産者が個人事業者である場合も,原則として管財事件とされる運用が多いようです。もっとも,事業状況や資産・負債の状況などによって,同時廃止とされる場合もないわけではありません(会社が存在する場合は,会社については手続きを取らず代表者個人だけ破産手続きをするということは認めていません。そのような手続きを認めると会社組織だけが残り後日,法人として利用される危険性が残ってしまうためです)。
たとえば当事務所で取り扱った例で,個人事業者であったものの,2年ほど前に事業を廃止し,事業場所の賃貸借等もなく,取引先との債権債務関係も残っていない事案で,まとまった固定の財産・預貯金等もなく,回収可能性のある債権もなかったことから,管財事件にならずに同時廃止で終わったケースもありました。破産申立てをした裁判所の運用,担当した裁判官の判断という部分もあるでしょうが,同時廃止の可能性がないとまでは言えない事案の場合,同時廃止を目指すのであれば,申立て時にできる限りの調査をして,管財人を付してさらなる調査をする必要はないことを裁判所に示すことが重要となってきます。管財人の調査への協力という手続的負担の面でも,次項で紹介する費用の面でも,同時廃止を目指せる事案なのであれば,できる限りの調査を尽くして申し立てをするべきでしょう。
4 破産手続に関する費用
破産手続の費用については,まず,破産の申立て費用として1000円,免責の申立て費用として500円がかかります。次に,郵券代として数千円がかかります(裁判所によって異なります。)。また,予納金として,同時廃止事件であれば1万円強,管財事件であれば20万円以上(事案の規模等によっても異なります。)がかかります。これに加えて,申立てを代理してもらう弁護士への弁護士費用(特に東京の場合,申立代理人をつけるよう言われることが多いようです。)も必要となります。
以上のとおり,管財事件と同時廃止事件とでは,予納金の金額が異なってくるため,その点でも,破産者としては同時廃止として扱ってもらいたいところです。実際にも,同時廃止を考えて申立てをしたところ,管財事件とされ,管財事件の予納金が用意できずに申立てを取り下げるというようなケースはあります。
5 本事例について
あなたの場合,個人事業者であったこともあり管財事件となる可能性が高いと思われますが,既に廃業していることや,取引先との間で残っている債権債務関係もないことなどもあり,他の事情次第では,裁判所の判断によっては同時廃止になる可能性もないわけではないと思われます。
この場合,前述のとおり,管財事件となるか同時廃止事件となるかで予納金の額も変わってきますので,破産手続費用に不安があるのであれば特に,同時廃止を目指せないか検討すべき事案だろうと思います。
6 最後に
破産事件では,個別の事案に応じた適切な申立て前の調査が必要です。調査と報告次第で,手続の進み方が異なってくるケースもあります。また,特に東京では,現在,申立てには代理人をつける運用がなされていることもあります。
債務整理や破産をお考えの際には,一度弁護士にご相談され,最も適切な方針を立ててください。
以上