新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1068、2010/12/14 15:30 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事・保証人の破産・自然債務・保証人の追加】

質問:私は,転職活動中の友人に頼まれ,毎月15万円を半年間にわたって貸す約束をしています。この貸付けについては,私と友人の間で,友人が保証人を立てるという約束をしており,その友人の兄が保証人になっています。4か月ほどお金を貸していたのですが,この度,その兄が裁判所に破産申立てをしました。おそらく,近いうちに免責許可決定が出ることになるかと思います。その兄は,免責許可決定が出た後も自分がちゃんと支払うから大丈夫だと言っています。
1 その兄の言うとおり,破産した後でもちゃんと支払ってもらうという約束をすることはできるのでしょうか。
2 私としては不安なので,その兄以外の人に新たに保証人になってもらいたいとも思うのですが,そのようなことはできるのでしょうか。
3 また,今後,保証人が破産したことを理由にお金を貸すことを拒否できますか。

回答:
1.免責許可決定確定後に,免責債権について任意で支払合意をすることについては,その合意自体が無効であるとされる可能性があります。破産者から真に任意の支払いを受けることは可能と考えられますが,破産者等に対する面会強請等の罪(破産法275条)が定められておりますので,注意が必要です。
2.また,下記のとおり,主債務者に対して,新たに保証人を立てるよう請求することができる場合がありますし,主債務者が新たに保証人を立てない場合に,今後貸す予定の分について貸付けを拒むこともできると考えられます。
3.法律相談事例集キーワード検索:1020番717番322番参照。以下,ご説明します。

解説:
1.破産免責許可決定の効果
 免責許可決定が確定すると,破産者は,破産手続による配当を除いて,破産債権についての責任を免れることになります(破産法253条1項本文)。
 責任を免れるという免責の効果の意味については,債務そのものが消滅するという有力説もありますが,通説は,責任は消滅するが債務そのものは消滅せず自然債務として残ると考えています。自然債務というのは,法的手段により請求することはできないが債務者が任意に履行すればその給付を受け取ることはできるというものです。
 どうして,裁判上請求できないような債務、債権を認める必要があるかということですが,もともと権利義務の発生の根拠は、理論的に当事者の意思(契約)と責任(不法行為)にありますが,その理念は,私的自治の大原則の下正義にかなう公正、公平な社会秩序建設、維持にあり,その理想達成の為には,時として不完全な債務、権利も解釈上認められることになります。すなわち,契約は守られなければならないという決まりと,経済的に窮する債務者の更正による個人の生活権保証,自由競争社会の確保という目的の利害調整から生じる概念ということになります。
 ただ,免責許可決定確定後に,免責債権について任意で支払合意をすることについては,その合意自体が無効であるとする裁判例があります(横浜地判昭和63年2月29日)。契約自由の原則から考えると任意の合意であれば有効なことが原則なのですが,債務者に何の利益もないのに免責確定後に,免責前と同じ債務を負担するということは,免責制度の趣旨からすると問題があり,そのような約束を根拠に裁判所に請求しても認めないというが判決の趣旨です。そもそも任意の支払いができるのであれば裁判になることもないのですから,判決の結論は妥当なものと言えるでしょう。本件でも,おそらくこの裁判例の想定するケースにあたると思われますので,たとえ任意であっても支払合意は無効と判断される可能性があります。
 通説である自然債務説によれば,破産者から真に任意の支払いを受けることは可能ですので,その限りで事実上期待することはできるかと思われます。もっとも,破産者等に対する面会強請等の罪(破産法275条)が定められておりますので,事実上紛争が生じてしまう危険もあるかと思われます。そのため,ご質問にあるような申し出を受けるに際しては,慎重に対応した方がよいかと思われます。

2.新たに保証人を立てる義務
 主債務者(本件でいう借受人)が保証人を立てる義務を負っている場合には,その保証人は,@行為能力者であること,A弁済をする資力を有することが必要となります(民法450条1項)。そして,その保証人が前記Aの要件を欠くに至ったときは,債権者は,前記@Aの要件を満たす人物を代わりに保証人にするように主債務者に請求することができます(同条2項)。ただし,債権者が保証人を指名していた場合には,債権者自らがその責任で保証人を指定した以上,保証人が前記@Aの要件を満たすことは必要でなく,また,その保証人が弁済資力を欠くに至っても代わりの保証人を請求することはできません(同条3項)。
 そこで,主債務者である本件の借受人が保証人を立てる義務を負っていれば,その保証人である兄が破産申立てをしたことにより弁済の資力を欠くに至ったといえると考えられますので,借受人に対して,保証人である兄に代わる新たな保証人を請求することができることになります。保証人を立てる義務は,法律の規定(民法650条2項・受任者による担保の請求,991条・受遺者による担保の請求,等)による場合の他に,当事者の特約により負うことになります。
 本件では,貸付けの際に,借受人が保証人を立てる義務を負う旨の約束があるとのことですので,あなたが保証人を指名していたのでなければ,借受人はその特約により保証人を立てる義務を負っていることになります。

3.主債務者が新たな保証人を立てない場合の効果
 主債務者が新たな保証人を立てない場合は,「債務者が担保を供する義務を負う場合において,これを供しないとき」にあたり,債務者は期限の利益を喪失することになります(民法137条3号)。これにより,債権者は,債務者に対して一括弁済を求めることができることになります。
 また,期限の利益を喪失させることができるだけでなく,契約の解除をすることができるという考えもあります。保証人の有無は,主債務者との契約を維持すべきかどうかを決める重要な意義を持つためです。契約を解除した場合には,それ以後の貸付け義務はなくなりますので,以後の貸付けを止めることができることになり,他方,すでに貸し付けた分については,解除を初めから契約がないものとして処理すると考えると,契約がないのにお金を渡したことになり不当利得として返還請求することになるとも考えられます。しかし,この場合の解除は将来にわたり貸し付ける契約を解除すると考え,すでに貸し付けた分は貸金として返還請求できるとする方が契約の効力を認める考え方として良いでしょう。
 なお,法律に規定があるものではありませんが,契約締結後に,後履行者の財産状態が悪化した場合に,先履行義務者が自己の債務の先履行を拒絶できるという法理(不安の抗弁)があります。学説や裁判例でこれを認めるものがあり(東京地判平成2年12月20日),この東京地裁判決は,継続的商品供給契約等の場面で,「既に成約した本件個別契約の約旨に従って更に商品を供給したのではその代金の回収を実現できないことを懸念するに足りる合理的な理由があり,かつ,後履行の被告の代金支払いを確保するために担保の供与を求めるなど信用の不安を払拭するための措置をとるべきことを求めたにもかかわらず,被告においてこれに応じなかった」ことを挙げ,履行の拒絶ができるとしています。
 ちなみに,主債務者が保証人を立てる義務を負っていない場合であれば,債権者は上記のような請求はできないことになり,債務者が任意に代わりの保証人を立てるのを期待するだけにとどまることになると考えられます。

[参考判例]

@横浜地裁昭和63年2月29日判決(抜粋)
 破産法三六六条の一二[※現行法253条1項]により免責された債権は,全く消滅するものではなく,自然債務になるといわれており,自然債務は,債務者において任意に支払を約束したときは,履行を強制できる債務になるといわれている。しかし,自然債務だからといって,すべて同一の効果を生じるものではなく,それぞれについてその性質についてその効果を判断すべきものというべきであり,破産法による破産者の免責規定は,免責により破産者の経済的更生を容易にするためのものであるから,破産者が新たな利益獲得のために,従前の債務も併せて処理するというような事情もなく,債権者の支払要求に対し,単に旧来の債務の支払約束をし,支払義務を負うことは,破産者の経済的更生を遅らせるのみで何らの利益もないものであり,したがって,破産者にとって何らの利益もない免責後の単なる支払約束は破産法三六六条の一二の免責の趣旨に反し,無効であるものと解するのが相当である(…略…)。

A東京地裁平成2年12月20日判決(抜粋)
 本件において,原告が被告に対して本件ベビー用品を約定どおりの期日に出荷,納入せず,また,被告との以後の新たな取引も停止することとしたのは,先に認定したとおり,被告との継続的な商品供給取引の過程において,取引高が急激に拡大し,累積債務額が与信限度を著しく超過するに至るなど取引事情に著しい変化があって,原告がこれに応じた物的担保の供与又は個人保証を求めたにもかかわらず,被告は,これに応じなかったばかりか,かえって,約定どおりの期日に既往の取引の代金決済ができなくなって,支払いの延期を申し入れるなどし,原告において,既に成約した本件個別契約の約旨に従って更に商品を供給したのではその代金の回収を実現できないことを懸念するに足りる合理的な理由があり,かつ,後履行の被告の代金支払いを確保するために担保の供与を求めるなど信用の不安を払拭するための措置をとるべきことを求めたにもかかわらず,被告においてこれに応じなかったことによるものであることが明らかであって,このような場合においては,取引上の信義則と公平の原則に照らして,原告は,その代金の回収の不安が解消すべき事由のない限り,先履行すべき商品の供給を拒絶することができるものと解するのが相当である。
 したがって,原告が右のとおり被告に対して本件個別契約にかかる本件ベビー用品をその納入期日に出荷,納入せず,また,被告との以後の新たな取引も停止することとして継続的供給を停止したことには,なんら違法性がないものというべきである。
 いわゆる不安の抗弁権をいう原告の本訴請求についての再抗弁及び反訴請求に対する抗弁は,以上のような意味において理由がある。

[参照条文]

民法
(期限の利益の喪失)
第百三十七条  次に掲げる場合には,債務者は,期限の利益を主張することができない。
一  債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二  債務者が担保を滅失させ,損傷させ,又は減少させたとき。
三  債務者が担保を供する義務を負う場合において,これを供しないとき。
(保証人の要件)
第四百五十条  債務者が保証人を立てる義務を負う場合には,その保証人は,次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
一  行為能力者であること。
二  弁済をする資力を有すること。
2  保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは,債権者は,同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
3  前二項の規定は,債権者が保証人を指名した場合には,適用しない。

破産法
(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条  免責許可の決定が確定したときは,破産者は,破産手続による配当を除き,破産債権について,その責任を免れる。ただし,次に掲げる請求権については,この限りでない。
一  租税等の請求権
二  破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三  破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四  次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条 の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条 の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条 (同法第七百四十九条 ,第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条 から第八百八十条 までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって,契約に基づくもの
五  雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六  破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七  罰金等の請求権
2  免責許可の決定は,破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
3  免責許可の決定が確定した場合において,破産債権者表があるときは,裁判所書記官は,これに免責許可の決定が確定した旨を記載しなければならない。
(破産者等に対する面会強請等の罪)
第二百七十五条  破産者(個人である破産者に限り,相続財産の破産にあっては,相続人。以下この条において同じ。)又はその親族その他の者に破産債権(免責手続の終了後にあっては,免責されたものに限る。以下この条において同じ。)を弁済させ,又は破産債権につき破産者の親族その他の者に保証をさせる目的で,破産者又はその親族その他の者に対し,面会を強請し,又は強談威迫の行為をした者は,三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。

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