新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1121、2011/6/27 17:28 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・建物賃料減額請求・計算方法・手続き】

質問:当社は小売業を営む株式会社ですが、10年前の新規出店に際し、地主さんにスーパーマーケット用途の建物を建設してもらい、これを賃借する建物賃貸借契約を締結し、店舗を営業しています。店舗の営業は順調ですが、この10年の間に、不動産価格が下落しており、契約書に定めた賃料が若干割高になっているのではないかと思います。契約は2年更新で、更新のたびに、賃料減額を申し入れていますが、地主さんからは、「当方も建物建設費用のローンを支払い継続中であり、減額には応じられない」という回答です。このような場合、法的に賃料減額を求めることはできないのでしょうか。建物賃貸借契約の適正な賃料とは、どのように計算されるのですか。

回答:
1、(賃料減額請求権(借地借家法32条1項)について)

建物を他人に使用させて、その対価として賃料を授受するという契約を、建物賃貸借契約といいます(民法601条、借地借家法31条1項)。民法の基本原理である契約自由の原則がありますので、不動産の所有権者は、どのような建物でも好きな賃料額で相手方に貸し渡すことができますが、不動産の価格は常に変動しています。時間の経過に伴って、入居当時の賃料額が不相当になってしまう場合があります。そのような場合に、当事者間の公平を図るために、借地借家法32条1項で借賃増減請求権が定められています。

2、(相当賃料額の計算方法)

不動産鑑定士が鑑定評価を行う場合の評価方法には、@差額配分法、A利回り法、Bスライド法、C賃貸事例比較法などがあります。鑑定士による評価では、これらの評価方法により算出された賃料額を加重平均(3対1対1など重みを付けて平均化する方法)して算出する事例が多いようです。判例は、上記@〜Bを単純平均して用いたもの(大阪高裁平成20年4月30日判決、名古屋高等裁判所平成15年9月24日判決)が多くなっています。

3、(減額請求の手続方法)

実際の賃料減額請求は、具体的な希望額を明記した内容証明郵便で行います。内容証明通知後の協議でも合意成立しない場合は、民事調停法24条の3第1項により、借賃減額請求の裁判を起こす前に、宅地建物調停を提起する必要があります。賃貸借は継続的契約であり当事者の信頼関係が基本となるので話し合いを優先しています。調停が不調になった場合は、その不調になった事を証明する調停調書を添付して、賃料減額確認訴訟を提起することができます。調停の管轄は、建物所在地の簡易裁判所が原則ですが、賃貸借契約書で地方裁判所を合意管轄とする旨の定めがあればそちらに従うことになります。裁判の管轄は、相手方住所地または不動産所在地の地方裁判所になりますが、賃貸借契約書で合意管轄の定めがあればそちらに従うことになります。

解説:
1、(賃貸借契約および借地借家法32条の趣旨)

建物を他人に使用させて、その対価として賃料を授受するという契約を、建物賃貸借契約といいます(民法601条)。建物賃借人は、建物の引渡しを受けて、賃料を払い続ける限り、建物所有者が変更しても賃借権を主張して住み続けることができます(借地借家法31条1項)。賃貸借契約は、元来、(約束した当事者間でのみ有効な)当事者間の債権契約なのですが、借地借家法では、このように建物賃借権に第三者対抗力を持たせることにより、日々の生活権に直結する建物賃借人の地位の保証、安定化を図り、建物賃貸借契約を促進しようとしています。不動産は限られた資産ですから、これを有効活用することにより社会経済の発展に役立てる必要がありますので、自分が直接利用する場合の他、他人に貸して利用してもらう場合の法律関係についても、法律が整備されているのです。

民法601条(賃貸借) 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
借地借家法31条1項(建物賃貸借の対抗力等) 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

民法の基本原理である契約自由の原則がありますので、不動産の所有権者は、賃借人が了解する限り、どのような建物でも好きな賃料額で相手方に貸し渡すことができますが、不動産の価格は常に変動しています。時間の経過に伴って、入居当時の賃料額が不相当になってしまう場合があります。地価が上昇した場合は貸主が賃料増額を求めることになりますし、地価が下落した場合は借主が賃料減額を求めることになります。そのような場合に、当事者間の公平を図るために、借地借家法32条で借賃増減請求権が定められています。昨今の世界経済の停滞と、本邦の出生率の低下による人口減少社会到来により、どちらかと言うと、借賃減額請求手続の意義が高まっていると言えるかもしれません。

(条文参照)
借地借家法32条(借賃増減請求権) 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2項 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3項 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

賃料増減請求の内容証明郵便が届いても、賃料増減の裁判が確定するまでは、従前の賃料額を請求し、払っていれば問題はありませんが、裁判により相当額が定められて過不足がある場合は年1割の利息を付けて返還(又は追加支払)する必要があります。

借地借家法32条は当事者間の公平を図るための規定ですので、強行規定と解釈されており、賃料自動改定特約を定めていても、借地借家法32条の適用を排除することはできないと解釈されています(最高裁平成15年6月12日判決など)。また、本件のように特殊な用途のための建物を地主が建設して竣工と同時に賃借人が入居(又は一括借り上げ)するような特殊な賃貸借契約であっても同様に解釈されており、当事者が賃貸借契約書で借地借家法32条の適用を排除する合意をしていても、その特約は無効になり借主は賃料減額請求権を行使できます(スーパーストア賃貸借(オーダーリース、オーダーメイド賃貸)に関する最高裁平成17年3月10日判決、サブリース契約に関する最高裁平成15年10月21日判決、平成15年10月23日判決、平成16年11月8日判決など)。賃貸人が建物建設費用のローンの負担が重いので減額請求には応じられないという主張をしていても、この点は変更されません。

2、(相当賃料額の具体的な計算方法)

本邦において対価を得て不動産鑑定を業務として行う場合は、国家資格である不動産鑑定士が設置された不動産鑑定事務所が業務を行う必要があります(不動産の鑑定評価に関する法律35条、同36条)。そして、不動産鑑定士が鑑定評価を行うに際して、公平性が保たれるように、統一的な基準が「不動産鑑定評価基準」として、国土交通省から提示されています。

<参考URL=国土交通省の不動産鑑定評価基準>
http://tochi.mlit.go.jp/kantei/additional1.pdf

これによれば、不動産鑑定士が継続賃料について鑑定評価を行う場合の評価方法には、@差額配分法、A利回り法、Bスライド法、C賃貸事例比較法などがあります。

鑑定士による評価では、これらの評価方法を併用し、各評価方法により算出された賃料額を加重平均(3対2対1など重みを付けて平均化する方法)して算出する事例が多いようです。不動産の評価は、数学の方程式を機械的にあてはめるようなものではなく、複雑に影響しあう多数の要素を総合考慮して妥当性を持った数値を提示することが求められますので、加重平均の重み付けの方法についても、一概にどのような係数で行うか、あらかじめ決められているわけではありません。

判例は、上記@〜Bを単純平均(足して3で割った数値)して算出したもの(大阪高裁平成20年4月30日判決、名古屋高等裁判所平成15年9月24日判決など)が多くなっています。

上記の各評価方法を具体的に解説致します。

@差額配分法

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と、実際の賃料との差額のうち、貸主に帰属すると考えられる部分(割合)を、実際の賃料に加減することにより継続賃料を算出する方式です。

適正な実質賃料は、価格時点において想定される正常賃料であり、積算法、賃貸事例比較法などにより求めることとされています。基本的に新規賃料を定める際の鑑定評価方法と同様に考える事ができます。

貸主に帰属する部分(割合)は、一般的要因や地域要因のほか、次の3点を分析して求められます。裁判例では、当事者の公平を考慮して、折半法(5割)を採用するものが多いようです。

あ)契約上の経過期間と残存期間
い)契約締結及びその後現在に至るまでの経緯
う)貸主又は借主の近隣地域の発展に対する寄与度

<計算式>
実際純賃料=実際賃料年額(実際の支払額)−必要経費年額
差額純賃料=基礎価格×期待利回り(例=4パーセント)−実際純賃料年額
折半法による賃料試算額月額={実際純賃料+(差額純賃料÷2)+必要経費}÷12

A利回り法

利回り法は、対象不動産の基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費を加算して試算賃料を求める方式です。

基礎価格及び必要諸経費については、積算法に準ずるものとされています。これは原価法および取引事例比較法により求められます。原価法は、対象不動産を再調達すると想定して掛かる費用(更地価格と建設工事費など)を積算し、建物老朽化による償却などを減価修正して算出する方法です。取引事例比較法は、多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める方法です。

継続賃料利回りは、現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料の割合を標準として、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求められます。

実際の利回りは、個別事情に応じて、1〜6パーセントの範囲で定められることが多いようです。なお、個人的な意見ですが、この利回りが国債の利回りや、長期金利を下回ることは妥当では無い様に思われます。不動産には価格変動リスクや、建物老朽化のリスクなどがあるので、安全で単純な債権よりもリスクの分だけリターンが高くないと、不動産に関する経済活動が停滞してしまうからです。

<計算式>
入居時の実績純賃料利回り(これが純賃料期待利回りとなる)=(年間支払い賃料−必要経費年額)÷入居時不動産価格
利回り法による賃料試算額月額=(減額請求時不動産価格×純賃料期待利回り+必要経費年額)÷12

Bスライド法

スライド法は、現行賃料を定めた時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法です。なお、現行賃料を定めた時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として直接求めることができます。

変動率は、入居時から減額請求時点までの「各都道府県の家賃指数」「消費者物価指数」「市街地価格指数」「全国木造建築費指数」などを考慮して定められます。

<参考URL=一般財団法人日本不動産研究所の資料解説>
http://www.reinet.or.jp/?page_id=168

<計算式>
実際純賃料=実際賃料年額(実際の支払額)−必要経費年額
スライド法による賃料試算額月額=(実際純賃料×スライド変動率+必要経費年額)÷12

C賃貸事例比較法

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の
選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るす
べての経済的対価)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法です。この手法による試算賃料を比準賃料とも言います。賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等が行われている場合に有効です。

<判例紹介>

あ)大阪高裁平成20年4月30日判決、賃料増額確認請求控訴事件、「差額配分法、スライド法、利回り法は、継続賃料を算定するに当たってそれぞれ長所と短所を有するところ、本件増額請求による本件建物の相当賃料額をめぐる上記の諸事情を総合すると、各方式による試算額をほぼ均等に考慮するのが相当である。」

い)名古屋高裁平成15年9月24日判決、賃料確認本訴請求、賃料確定等反訴請求控訴事件、「以上のとおり、利回り法では4万7504円、差額配分法では7万4755円、スライド法では5万7406円となるところ、C鑑定では、各手法のもつ特徴、精度を点検のうえ、差額配分法、スライド法による試算賃料にやや重点をおいて調整した結果、月額賃料を6万2000円としているが、その根拠が必ずしも明確ではない。そこで、いずれの手法も長短所があることを考慮すると、これらを単純平均し端数処理することが相当であり、その結果、月額賃料は6万円となる。」

3、(減額請求の具体的な手続方法)

賃料減額請求の手続は、借地借家法32条3項の規定により、「当事者の協議」が原則となります。まず、不動産鑑定士に賃料の減額請求ができるかどうか、継続賃料の簡易鑑定を依頼してみましょう。鑑定の結果、減額請求が可能な場合は、その旨を通知書に記載して、内容証明郵便で貸主に通知して、減額請求をすることになります。通知文の基本的な要素は、「建物賃貸借契約の特定」、「○○の理由により、借地借家法32条1項に基づいて賃料の減額請求をします」、「相当賃料は○○円ですので本書面到達後2週間以内に承諾通知を返信をお願い致します」という内容になります。協議をしても合意が成立しない場合は、建物所在地の簡易裁判所に宅地建物調停を申立することになります。

民事調停法24条の3第1項により、借賃減額請求の裁判を起こす前に、宅地建物調停を提起する必要があります(調停前置主義)。管轄は建物所在地の簡易裁判所が原則ですが、賃貸借契約書で地方裁判所を合意管轄とする旨の定めがあればそちらに従うことになります(民事調停法24条)。

調停が不調になった場合は、その不調になった事を証明する調停調書を添付して、賃料減額確認訴訟を提起することができます。裁判の管轄は、相手方住所地または不動産所在地の地方裁判所になりますが、賃貸借契約書で合意管轄の定めがあればそちらに従うことになります(民事訴訟法4条、5条12号)。

賃貸借契約から一定の時間が経過し、不動産市況も下落しているなどの事情がある場合は、一度お近くの法律事務所に賃料減額請求の可否についてご相談なさってみると良いでしょう。

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