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No.1120、2011/6/22 14:49 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・5歳の子供の面接交渉権・調停調書による間接強制の条件】

質問:私は,このたび妻と家庭裁判所での調停を踏まえて離婚をしたのですが,その際,5歳になる息子の親権は妻が持つこととし,私は養育費を支払い,月に2度息子と会えるということを決めました。初めのうちは元妻も息子を私に会わせてくれていたのですが,最近は,忙しいなどと言って息子に会わせてくれなくなってしまいました。家庭裁判所の調停で約束をしたのに守ってもらえなくなり,納得がいきません。私としてはどうしたらよいのでしょうか。

回答:
1.あなたには息子さんと会う面接交渉権があり,面接交渉に関して調停で合意がされていますので,家庭裁判所へ履行勧告(家事審判法15条の5)をしてもらうことができます。また,履行しない場合に賠償金の支払いを命じるという間接強制(強制執行,民事執行法172条)が認められる場合もあります。すなわち,面接交渉権は,金銭債権のように直接強制(民法414条1項)はできませんが,間接強制(民事執行法172条)の方法により面接を事実上強制させる事になります。岡山家庭裁判所津山支部,平成20年(家ロ)第801号,平成20年9月18日決定間接強制申立事件においては,父親の面接交渉権を認めた審判(決定正本)に基づき面接1回不履行につき5万円の支払いを命じています。又,大阪高等裁判所平成19年6月7日第11民事部決定,間接強制審判に対する執行抗告事件において,面接交渉権を認めた調停調書でも間接強制の定めが具体的かつ明確に定めてあり間接強制を認めています。大阪高裁平成14年1月15日決定も同様です。
2.調停調書を債務名義として間接的強制履行を行うためには,面接交渉の具体的内容(回数,場所,方法,期日変更の方法,違約した場合の責任等)をなるべく詳細に定め単なる面接交渉権の確認条項ではなく明らかな給付条項(例えば,親権者は相手方に面会させると親権者の給付の意思を明確に記載する。)としておく必要があります。調停調書の内容を確認してください。心配であれば専門家とも相談しましょう。
3.又面接交渉権の侵害として債務不履行,不法行為による損害賠償請求も可能でしょう。東京高等裁判所平成22年3月3日判決は70万円の賠償を認めています。
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解説:
1.(面接交渉権とは何か・条文根拠)
  離婚の際に親権者や監護権者にならなかった親が子に会うことができる権利を面接交渉権といいます。面接交渉権は,民法等に直接規定があるものではありませんが,子の福祉・利益を害しない限り権利として認められるものとされています。条文の根拠としては民法766条1項の「監護について必要な事項」2項「監護について相当な処分」の内容のひとつとして認められます。又,当事者に協議が出来ない場合には家事審判法では9条乙類4号の「監護に関する処分」として認められています。

2.(面接交渉権はなぜあるのか)
  種々の説がありますが,個人の尊厳(憲法13条)は,精神的,肉体的に未発達な未成年者にこそ保障されなければならず,面接交渉権は,未成年の子が精神的,肉体的に健全に成長発育するために親権,監護権もない親に認められる親子関係から当然に派生する権利であると思います。すなわち,親子関係から理論上当然発生する権利ですから,法律上明文化しなかったものと考えることができるでしょう。

3.(履行勧告)
  本件のような面接交渉の不履行は,離婚後によく生じる問題です。13歳未満であれば,子供の意思を確認することができませんし,両親間の感情の行き違い,子供を独占したいという気持ちから生じるといわれています。対応の方法ですが,まず履行勧告とは,家庭裁判所の調停や審判で決まった事項について守らない相手方に対して,きちんと履行するように家庭裁判所から勧告してもらう制度です。この履行勧告は,金銭債務以外でも使えますので,面接交渉の約束が守られていない場合には適しているといえます。
  履行勧告の申し出は文書によるほか口頭でもすることができ,強制執行の申立てのように細かい手続を経る必要はありません。家庭裁判所に調停調書や審判書を持参して申し立ててください。家庭裁判所は,履行勧告の申し出を受けると,相手方に事情を問い合わせるなどした上で,取り決めをした事項について履行するよう説得したり勧告したりすることになります。
 履行勧告は,このとおり簡易な手続で利用することができる制度で,手続費用もかかりません。しかし,履行勧告には法的な拘束力はなく,相手方が勧告に応じない場合には強制することはできませんが,裁判所からの勧告により心理的に働きかけることができます。又,後述する間接強制が認められる前提要素になる可能性もあります。

4.(間接強制)
  (1)上記の履行勧告が功を奏しない場合に,間接強制という手段が認められる場合があります。間接強制とは,裁判所が,債務を履行しない者に対し,一定の相当期間内に履行しないときには一定の相当額の支払いを命ずることにより,金銭の支払いという不利益を免れるには履行するしかないと義務者を追い込むことによって間接的に履行を促すという強制執行の一場合です。金銭の支払いを目的とする債権の場合は,裁判所が債務者の財産を差し押さえて,その財産から回収するなどの直接強制ができますが,面接交渉については,無理やり子どもを連れてくることはできず,直接強制ができませんので,間接強制により債務者に財産的損失という心理的圧迫を与えて履行を促すことになります。
  個人主義,自由主義の見地から人身の自由を奪い,行為を直接強制することは刑法,刑事訴訟法に定められた厳格な適正手続きに基づき犯罪者に科せられる懲役刑や禁固刑などの刑罰以外には認められません。民事上の手続では基本的に許されません。414条1項但し書きは「性質がこれを許さざる」と規定し債務者の行為を強制する直接強制を認めていません。

  (2)面接交渉については間接強制を認めるべきでないという考えもありますが,間接)強制を認めるのが実務の多数派であると考えられます(大阪高裁平成14年1月15日決定等)。面接交渉は離婚後の子供と親権者でない親の一方とが面会するわけですから,子どもの年齢等を考えると他方の親が間接的にでも,面接を強制されているという状態は望ましいことでないことは明らかです。自由な雰囲気での面接を重視すると間接強制を否定する見解にも理由があると言えます。
  しかし,裁判所で決めたことを守らないというのはあまりに不公平です。特に,離婚の交渉の際,面接ができることを前提に親権を相手に譲るということが普通ですから,後日,面接を拒否されると強制する方法がない,というのでは離婚の話し合いが円滑に行われないことになってしまいます。そこで,間接強制は望ましいことではないとして,調書等で面接交渉の方法が具体的に決まっていること,履行勧告が行われても相手が勧告に応じない,というような場合には間接強制が認められることになります。
 
大阪高裁平成14年1月15日決定は,原決定を破棄し調停調書に債務名義の効力として間接強制を認めていますが,調停調書で定めた面接交渉の内容が以下のように具体的であることを条件としています。
面会の具体的な内容。

 「申立人は,相手方が第1項記載の未成年者と毎月少なくとも2回面接することを認める。具体的な面接方法は以下のとおりとする。
  (@)面接は,毎月第2土曜日からその翌日の日曜日,及び第4土曜日からその翌日の日曜日に行うこととする。
  (A)相手方は,第2土曜日,第4土曜日の午前9時頃から午前10時頃までの間に申立人の住所において,申立人から第1項記載の未成年者を引取り,申立人は,翌日の日曜日の午後5時台(大阪発の時間)の特急(スーパー白兎号)に乗ることができるような時間帯に,相手方から第1項記載の未成年者を引き取ることとする。
  (B)なお,平成13年3月の面接日は,同月17日(土曜日)の昼頃から翌日の日曜日とし,具体的な時間については,当事者双方が事前に協議の上定める。
  (C)相手方と第1項記載の未成年者とが面接交渉するにつき,その日時,場所,方法等で都合が悪い場合には,未成年者の意思を尊重し,かつ,その福祉を慎重に配慮して,その都度,当事者双方が事前に協議の上,前項の日時等を変更することとする。」

  以上のように,調停調書を債務名義として確実に間接的強制履行を行うためには,単なる面接交渉権の確認条項と解釈できないように,面接交渉の具体的内容(回数,場所,方法,期日変更の方法,違約した場合の責任等の記載から給付の意思を明らかにする。)をなるべく詳細に定め明らかな給付条項(他に例えば,「親権者は相手方に面会させる」と親権者の給付の意思も明確に記載しておくとよいでしょう。)としておく必要があります。
  強制執行とは,執行裁判所が給付を求める権利(請求権)を有する債権者に代わり債務名義としての効力が認められた調停調書に基づき権利内容を実現するものです。従って,その内容が単なる権利確認条項になっていれば権利履行について法的に助力することができません。当事者主義,処分権主義から調停において当事者が権利内容を特定する必要があります。例えば,訴訟でも単なる権利確認の判決であればその内容が給付を請求できないものであり,債務名義として強制執行はできません。心配であれば専門家とも相談しましょう。

5.(債務不履行,不法行為による損害賠償請求)
  面接交渉権が前述のように自然権的に親権をもたない両親が有するものであれば,正当な理由がない拒絶については損害賠償請求権が発生すると考えられます。東京高等裁判所平成22年3月3日判決(原審横浜地裁)は不履行に関し70万円の賠償を認めています。妥当な判断でしょう。
判旨抜粋,「2 当審における控訴人の主張に対する補足説明

(1)控訴人は,面接交渉の際,被控訴人と長女が二人だけで会うことについて繰り返し長女に問い,促すこともしていたが,長女自身が拒み,実現しなかったと主張する。
 しかし,平成17年×月以前に長女自身が被控訴人と二人だけで会う面接交渉を拒んでいたと認めるに足りる証拠はなく,控訴人は原審において長女と二人だけで会わせることに納得がいかなかったと供述しており,そのために被控訴人と長女だけの面接交渉が実現しなかったものと認められるのであって,面接交渉の態様に関する被控訴人の要求等が控訴人において面接交渉を拒絶することを正当化する理由とはならないとした原判決の判断に誤りはない。

(2)控訴人は,本件合意は,月1回以上の面接を認めるという第1項と学校行事への参加等について協議するという第2項から成っており,被控訴人が第2項の協議を無視しているのに,第1項の面接を強制される関係にないと主張する。
 しかし,上記第2項は,被控訴人の学校行事への参加等について,その円満・円滑な実現のために話合いをすることを定めたものであって,父親である被控訴人による長女の学校行事への参加等について,その権利を原則的に否定したものと解することはできないところ,被控訴人が控訴人に対し学校行事への参加について協議を求めても控訴人はこれに応じなかったのであり,被控訴人は事前に事情を述べて学校側の承諾を得た上,学校行事に参加しているのである。そして,参観時に被控訴人が長女の近くに長く佇立していたなどのことが9歳の小学生であった長女には恥ずかしく感じられたことは推認に難くないが,それは被控訴人の態度,対応のぎこちなさであるにすぎず,学校行事が年のうちでも限られた回数であることからすれば,控訴人との協議が整わないのに被控訴人が長女の学校行事に参加したからといって,本件合意に基づく面接交渉を拒絶する理由とはならないというべきである。

(3)控訴人は,そもそも本件合意の内容が公平でなく,不当であると主張する。
 しかし,一般的に見て本件合意が公平を欠く内容のものであるということはできないし,本件合意当時,長女が7歳(小学2年生)であったことや,平成14年×月×日,控訴人が長女を連れて別居し,同年×月×日,被控訴人が面接交渉を求める審判を申し立て,その調停において本件合意が成立したという本件合意成立の経緯(乙3)に照らしてみても,本件合意の内容が公平を欠き,それ故に控訴人の不履行もやむを得なかったということはできない。」

6.(まとめ)
  面接交渉権の実現について,ご自身の対応で行き詰まったと感じられる場合には,法律の専門家である弁護士に一度相談してみるのがよいかもしれません。

≪参考判例≫

大阪高裁平成14年1月15日決定
「1 一件記録によれば,抗告人(昭和30年3月6日生れ)と相手方(昭和31年6月19日生れ)は,昭和61年10月20日婚姻した夫婦であること,相手方が申し立てた子の監護に関する処分調停申立事件(神戸家庭裁判所龍野支部平成13年(家イ)第36号)において,平成13年3月14日,両者間の子」A(平成4年11月17日生れ,以下「A」という。)の監護及び抗告人との面接交渉について,調停が成立したこと,面接交渉に関する調停条項において,相手方は,抗告人がAと毎月少なくとも2回面接することを認め,その具体的方法も定めていること,平成13年5月,相手方は,抗告人を被告として,離婚訴訟を提起したこと,同月以後,相手方は,抗告人にAと面接させていないこと,抗告人が履行勧告の申立てを2回したものの,功を奏しなかったことが認められる。 
 2 原審は,面接交渉の義務(面接交渉を定める条項)については,一切の強制執行が許されないとして,抗告人の本件間接強制の申立てを却下した。 
 しかし,上記判断は,次に述べるとおり,是認できない。すなわち,家庭裁判所の調停又は審判によって,面接交渉権の行使方法が具体的に定められたのに,面接交渉義務を負う者が,正当の理由がないのに義務の履行をしない場合には,面接交渉権を行使できる者は,特別の事情がない限り,間接強制により,権利の実現を図ることができるというべきである(家事審判法15条,21条但書き参照)。 
 3 上記1の事実によれば,相手方は,抗告人との間で,成立した調停において,面接交渉について具体的な合意をしながら,平成13年5月以降,2度の履行勧告を受けながら,義務を履行していないのであるから,抗告人が相手方に対し,間接強制の申立てをすることは許されるというべきである。 
 4 以上のとおりであるから,これと異なる原決定は相当でないから取り消すこととし,さらに,間接強制の申立てに対する決定をするには,相手方の審尋が必要であるから(民事執行法172条),本件を原審裁判所に差し戻すこととする。」

≪参照条文≫

家事審判法
第十五条  金銭の支払,物の引渡,登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は,執行力ある債務名義と同一の効力を有する。
第十五条の五  家庭裁判所は,権利者の申出があるときは,審判で定められた義務の履行状況を調査し,義務者に対して,その義務の履行を勧告することができる。
第二十一条  調停において当事者間に合意が成立し,これを調書に記載したときは,調停が成立したものとし,その記載は,確定判決と同一の効力を有する。但し,第九条第一項乙類に掲げる事項については,確定した審判と同一の効力を有する。
○2  前項の規定は,第二十三条に掲げる事件については,これを適用しない。
第二十五条の二  家庭裁判所は,調停又は第二十四条第一項の規定による審判で定められた義務の履行について,第十五条の五から第十五条の七までの規定の例により,これらの規定に掲げる措置をすることができる。

民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては,確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては,確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
(間接強制)
第百七十二条  作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は,執行裁判所が,債務者に対し,遅延の期間に応じ,又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに,債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2  事情の変更があつたときは,執行裁判所は,申立てにより,前項の規定による決定を変更することができる。
3  執行裁判所は,前二項の規定による決定をする場合には,申立ての相手方を審尋しなければならない。
4  第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において,債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは,債権者は,その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5  第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては,執行抗告をすることができる。
6  前条第二項の規定は,第一項の執行裁判所について準用する。

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