2026年10月5日更新
「息子が建物の壁に落書きをして逮捕された」「腹を立てて玄関ドアを蹴ってしまった」「修理代を払えば事件は終わるのか」。建物への落書きやドアの破損は、建造物損壊罪に当たる場合があります。物を壊す事件でも、建造物損壊罪と器物損壊罪では刑罰や告訴の扱いが異なります。ご本人とご家族に向けて、現行法と裁判例、被害回復、示談、身柄解放、弁護士に相談する意義を説明します。
1 建物への落書きは何罪?建造物損壊罪と器物損壊罪
相談例
息子が半年ほど、鉄道沿線の建物やマンションの壁に、夜間スプレーやペンキで落書きを繰り返し、逮捕されました。家族はどうすればよいでしょうか。
壁の使用価値を損なう落書きは、建物を倒壊させなくても建造物損壊罪に当たり得ます。まず警察署、逮捕日時、対象となる行為を確認し、弁護士の接見を手配してください。被害箇所と修繕費を把握し、被害者の意向を尊重して弁償・示談を進めます。繰り返しや多数の被害は重要な事情ですが、それだけで実刑と決まるわけではありません。
刑法260条(建造物等損壊及び同致死傷)
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の拘禁刑に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
| 比較 | 建造物損壊罪(260条前段) | 器物損壊罪(261条) |
|---|---|---|
| 対象の例 | 建物の外壁、建物の一部に当たる玄関ドア | 自動車、独立した家具など(他の特別な損壊罪の対象を除く) |
| 法定刑 | 5年以下の拘禁刑。罰金刑の選択肢なし | 3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料 |
| 告訴の必要性 | 親告罪ではない | 親告罪(刑法264条) |
2025年6月1日から懲役・禁錮に代わり拘禁刑が施行されました。施行前の行為には経過措置があるため、以前の事件は行為の日を確認します。以下の古い裁判例の判断枠組みと、現在の刑罰の名称を区別してください。法定刑の上限が、そのまま個別事件で言い渡される刑になるわけではありません。
2 「壊していない」「消せる」落書きでも損壊になる?
損壊は、壁を割る、ドアに穴を開けるといった物理的な破壊だけではありません。建物の用途・機能や美観に照らし、その使用価値を損なう行為も問題になります。後で修復できることだけで犯罪が否定されるわけではありません。
最高裁平成18年1月17日第三小法廷決定(平成16年〔あ〕第2154号)
公園の公衆便所の外壁に、ラッカースプレーで赤・黒の文字を大きく書いた事件です。最高裁は、落書きによって外観・美観が著しく汚され、原状回復にも相当の困難があることなどから、建造物損壊罪の成立を認めました。壁が倒れず、便所として使用できても、処罰対象となり得ることを示す決定です。
ただし、あらゆる汚れが直ちに同じ犯罪になるという趣旨ではありません。範囲、材質、塗料、除去の難しさ、建物の用途などを確認します。被害直後の写真、清掃業者の説明、見積書は、犯罪の成否や被害の程度を検討するうえで重要です。関連QA792・落書き事件と最高裁決定
3 玄関ドアや付属設備は「建物の一部」なのか
最高裁平成19年3月20日第一小法廷決定(刑集61巻2号66頁)
住宅の玄関ドアを金属バットでたたいて損傷させた事件で、最高裁は、取り付けられた物と建物との接合の程度に加え、建物における機能上の重要性を総合して判断しました。玄関ドアが外界との遮断、防犯、防風、防音などの重要な役割を担うことを踏まえ、建造物損壊罪の対象としています。
工具で取り外せるから必ず器物損壊罪になる、とはいえません。ドア・窓・設備等は、構造、設置状況、用途、破損箇所ごとの検討が必要です。小さなへこみであっても、被害額の少なさだけでは罪名は決まりません。
被害者が「器物損壊」と告訴していても、その罪名に固定されない
広島高裁平成19年9月11日判決は、告訴に記載された罪名と検察官の法的評価との関係を扱っています。被害者が器物損壊と考えて届けた事件でも、事実関係が建造物損壊に該当すれば、親告罪ではない建造物損壊として処理されることがあります。「告訴を取り消せば必ず終わる」と判断する前に、対象物と疑われている罪名を確認してください。
4 事故・悪ふざけ・飲酒と刑事責任
建造物損壊罪・器物損壊罪は故意犯です。うっかり物をぶつけた事故と、壊れることを認識しながら蹴った行為は区別されます。「悪ふざけだった」「腹が立っただけ」という動機は、それだけで故意を否定するものではありません。飲酒していた場合も、当然に責任がなくなるわけではありません。
事故でこれらの罪が成立しなくても、過失による民事上の損害賠償責任が生じる場合があります。建物に立ち入った経緯によっては住居侵入・建造物侵入、相手への言動によっては脅迫等も別に問題となります。弁護士には、自分に有利な事情だけでなく、現場の状況、発言、飲酒量、映像の有無を正確に伝えてください。
行為に心当たりがない、被害の一部しか関与していない場合は、安易に全部を認めず、日時・場所・行動記録を整理します。謝罪や示談書の記載が後に証拠となることもあるため、争う事実と認める事実を整理したうえで対応します。
5 親告罪・告訴取消し・示談の違い
親告罪とは、原則として有効な告訴がなければ起訴できない犯罪です。器物損壊罪は親告罪ですが、建造物損壊罪は違います(刑法264条)。被害届は被害を申告するもの、告訴は犯罪事実を申告して処罰を求めるものです。名称や提出状況を確認してください。
- 器物損壊罪:適法に告訴が取り消されれば、その告訴を前提とする起訴はできなくなります。告訴取消しは起訴前までで、一度取り消した告訴は再びできません(刑事訴訟法237条)。原則として犯人を知った日から6か月という告訴期間もあります(同235条)。
- 建造物損壊罪:告訴がなくても起訴され得ます。示談、被害届の取下げ、告訴取消しは被害回復・処罰感情の事情として重要ですが、事件の終了を法律上保証するものではありません。
- 示談:当事者間で賠償等を合意することです。示談の成立と、捜査機関への告訴取消しは別に確認します。修理代を払っただけで、処罰を求めない合意や告訴取消しまで成立するわけではありません。
共犯者や被害者が複数いる事件、ほかの犯罪も疑われる事件では、取消しの効果が及ぶ範囲も検討します。被害者に取下げを迫ることは避け、連絡や交渉は弁護士を通じて進める方法があります。
6 発覚直後にすること・避けること
- 安全を確保する:ガラスや破損箇所でけがをするおそれがあれば、管理者等へ知らせます。緊急の安全措置と、証拠の保全を両立させます。
- 記録を残す:現場写真、やり取り、呼出し書類、見積書等を保管します。映像は消去される前に、弁護士から保存を求めることも検討します。無断立入りや関係者との口裏合わせはしないでください。
- 勝手に清掃・修理しない:塗料の除去で下地を傷めることがあります。所有者・管理者と方法を協議し、捜査が始まっている場合は証拠確認との調整も行います。
- 取調べ前に相談する:黙秘権があり、供述を強制されるものではありません。調書を確認し、記憶と違う内容には訂正を求め、納得できない署名押印を急がないでください。
家族は、警察署名、逮捕日時、担当部署、本人の持病・服薬、仕事や学校への影響を整理してください。在宅捜査の場合も呼出しを放置せず、日時の調整が必要なら連絡します。
7 逮捕・勾留と弁護士による身柄解放
警察が逮捕した通常の事件では、身体拘束から48時間以内に検察官へ送致するか釈放し、検察官は受け取ってから24時間以内、かつ身体拘束から通算72時間以内に勾留請求するか釈放する必要があります。勾留が認められると、原則として請求日から10日間、やむを得ない事由がある場合はさらに最大10日間延長されます。これは一つの被疑事実についての通常の枠組みで、別事件の再逮捕などは別途検討が必要です。
弁護士は接見で本人の説明を確認し、住居、家族の支援、証拠の確保状況、被害者と接触しない体制等を整理して、勾留をしないよう意見を提出します。勾留後は準抗告や勾留取消し等の適否を検討し、起訴後は保釈を検討します。起訴前に保釈という制度を利用することはできません。
否認していることだけで勾留が当然に認められるわけではなく、罪証隠滅・逃亡のおそれ等を具体的に検討します。家族が接触を控える必要のある関係者もいるため、独自に聞き込みや謝罪訪問を始める前に相談してください。関連QA1836・マンションの損壊と身柄解放活動
8 修理代・示談金はいくら?一律の相場はありません
損害賠償は、民法709条などに基づき、当該行為と因果関係のある損害を検討します。壁の材質、足場の要否、塗装範囲、ドアの部品交換で足りるかなどで金額は大きく変わります。「一件につき数十万円」と一律に決めることはできません。
- 被害写真と見積りの施工範囲が一致するか。
- 洗浄・部分補修で回復できるか、全面塗装や交換が必要な理由は何か。
- 修繕前の劣化や既存の傷が含まれていないか。
- 営業への支障等がある場合、その期間と金額を裏付ける資料があるか。
- 保険金が支払われた場合、保険会社の請求権との調整が必要か。
物損で精神的苦痛の慰謝料が常に認められるわけではありません。一方、示談交渉では、解決のための金銭を含めて合意することもあります。法的に賠償すべき損害と、合意による解決金を区別し、負担できる金額と支払方法を検討します。
マンションでは、専有部分か共用部分か、所有者・賃借人・管理組合の誰が権利を持ち、誰に合意する権限があるかも重要です。管理会社への支払だけですべての権利者との解決になるとは限りません。
9 複数の被害者との示談・合意書・供託
連続した落書きでは、被害箇所、所有者、修繕費、連絡状況、支払状況を一覧にし、事件ごとに進めます。一部の示談も意味がありますが、他の被害まで解決したことにはなりません。被害者が直接連絡を望まない場合は、その意向を尊重し、弁護士から捜査機関を通じて連絡の可否を確認します。
合意書には、対象の行為と損害、金額、期限・振込先、修繕方法、今後の接触や再発防止、追加請求の扱いを明確にします。処罰を求めない意思や告訴取消しについては、被害者が了解する範囲で確認します。合意書だけでなく、実際の支払を示す領収書等も保存してください。
相手が受取りを拒む場合、民法494条の要件を満たせば弁済供託を検討できます。ただし、単に示談が成立しないから任意の額を「示談金」として供託すれば解決する、という制度ではありません。債務の内容、適切な弁済の提供、受領拒否等の要件を確認します。供託ができても、示談の成立や告訴取消しと同じ効果が生じるわけではありません。
被害者の拒否や条件が厳しい場合も、交渉経過、弁償の準備、再発防止の取組を弁護士と整理します。返答を迫る繰り返しの訪問・連絡は避けてください。
10 不起訴・裁判・執行猶予はどう決まる?
検察官は証拠を検討し、犯罪が認められる場合でも、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の状況等から起訴猶予とすることがあります(刑事訴訟法248条)。弁護士は、被害回復、被害者の意向、再発防止策などを資料とともに示します。示談がないから必ず起訴、示談があるから必ず不起訴、とはいえません。
建造物損壊罪には罰金刑がないため、この罪について罰金の略式命令で終える手続は使えません。起訴された場合は公開の法廷で審理されますが、要件を満たせば刑の全部の執行猶予が付く可能性があります。初犯というだけで保証されるものではなく、反復性、被害の程度、動機、前科、弁償等を総合して判断されます。
起訴後も示談や支払を進める意味があります。弁論終結までに必要な資料を提出できるよう準備し、その後に示談が成立した場合も速やかに弁護士へ伝えてください。弁論再開を申し立てることは考えられますが、再開するかは裁判所の判断であり、自動的に審理がやり直されるわけではありません。
11 少年・家族の対応と、法律相談を受ける意義
20歳未満は少年法の対象で、18・19歳も特定少年として対象に含まれます。家庭裁判所での手続や付添人の役割など、成人とは異なる検討が必要です。14歳未満は刑罰を科されませんが、警察の調査や児童相談所等による対応があり得ます。親だから当然にすべての賠償義務を負うわけではなく、本人の責任能力や監督義務等に応じて民事責任を検討します。
再発防止は、誓約書だけでなく、夜間の行動、交友関係、飲酒、ストレスへの対処、学校・仕事・家庭での支援を具体化することが大切です。必要に応じ医療・福祉の支援にもつなげます。東京都の「事件を起こしてから社会復帰までの流れ」には、成人・少年の手続を説明する図解があります。
弁護士は、罪名・故意・証拠の検討、取調べへの助言、身柄解放、権利者の確認、修繕費の検討、示談交渉、検察官・裁判所への資料提出を行います。本人が争っている事件では防御を支え、認めている事件では被害回復と再発防止を具体化します。早い相談ほど、起訴前に使える時間を確保できます。
相談には、発生日時、場所、破損・落書きの写真、見積書、警察等からの書類、支払記録、過去の処分に関する書類を、分かる範囲で用意してください。資料が全部そろうまで相談を待つ必要はありません。
12 新銀座法律事務所の無料相談
落書き・建物や物の損壊で呼出しを受けた方、家族が逮捕された方、示談や再発防止について悩んでいる方は、早めにご相談ください。
受付:平日9:00~21:00/土日祝日9:00~18:00
電話・LINE・メールで受け付け、弁護士が電話で5分程度を目安に一般的な見解を無料で回答します。既に弁護士へ依頼中の案件のセカンドオピニオンも受け付けています。
逮捕されている場合は、警察署名と逮捕日時を最初にお伝えください。無料相談と、接見・示談交渉・弁護人としての活動の依頼は別です。具体的な依頼範囲と費用は、事情を伺ってご案内します。
14 参考法令・公的資料・PDF
- 刑法:260条・261条・264条等
- 刑事訴訟法:身柄拘束、235条・237条・248条等
- 民法:709条・494条等
- 法務省:拘禁刑下の矯正処遇等
- 裁判所:刑事事件の手続
- 東京都:事件を起こしてから社会復帰までの流れ(成人・少年の図解)
- 千葉県:適正な行政執行の確保に向けて(2025年版PDF・器物損壊等の解説を含む行政職員向け資料)
- 新銀座法律事務所:示談等の参考書式の案内
情報確認日:2026年10月5日。具体的な処分は、事実関係、行為時の法令、証拠、個別事情によって異なります。