マンション再生円滑化法の手続|組合設立・権利変換・借家人保護

2026年9月30日更新/令和8年4月施行の改正対応

マンションの建替えや更新は、集会の決議だけで完了するものではありません。誰が事業を行い、従前の権利をどのように新しい住戸や金銭へ移し、住宅ローン・賃借人・引越しをどう扱うかを、段階ごとに決めていきます。本記事では、令和8年4月施行の改正後の「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に基づく手続を、主に1棟の組合施行による建替え・更新を例に説明します。建物・敷地の売却や取壊しの手続、紛争になった場合の対応も整理します。

手続を混同しないためのポイント

  • 管理組合と、認可を受けて事業を行うマンション再生組合等は別の組織です。
  • 建替え等の決議、組合設立、権利変換計画の決議は、母数・多数決要件が異なります。
  • 建替え・更新の「権利変換」と、売却の「分配金取得計画・権利消滅」は異なる制度です。
  • 改正後は賃貸借終了請求の制度もあります。借家人が必ず再入居できる、又は無補償で退去しなければならない、という説明はいずれも適切ではありません。
  • 施行前から進行中の案件は、決議・認可等の時期と改正法の経過措置を確認します。

決議編:再生方法・多数決・容積率・時価評価へ

1 法律と事業方式の全体像

区分所有法は、建替え・建物更新・建物敷地売却等の意思決定と、不参加者への催告・売渡請求等を定めています。再生円滑化法は、認可された組合等による事業、権利変換、分配金取得計画などを定めます。区分所有法上の決議が成立しても、必要な認可・登記・補償等が省略されるわけではありません。

事業ごとの主な組織と権利処理
進める事業主な組織・計画権利の扱い
建替え・建物更新マンション再生組合等/権利変換計画新たな、又は更新後のマンションの権利へ移行します。金銭給付による退出等も検討します。
建物・敷地の売却、除却後の敷地売却等マンション等売却組合/分配金取得計画権利を集約し、売却・分配・補償を行います。再入居用の住戸を当然に取得する制度ではありません。
建物の取壊しマンション除却組合/資金計画等建物の除却を進めます。土地の売却・再建は別途の検討が必要です。

再生円滑化法を利用する組合施行のほか、個人施行や、全員の合意・契約による実施等も検討対象です。「必ず同じ組合方式で進めなければならない」とは限りません。団地の一括建替え、滅失後の再建、借地権の敷地、都市再開発事業等には別の条件があるため、適用する制度を最初に特定します。

2 準備段階:調査・比較・合意形成

(1)建替えを前提にせず、複数の選択肢を比較

国土交通省は令和8年3月、改正に対応するマンション再生等手法の比較検討マニュアル(PDF)等を公表しました。従来の「建替えか修繕か」だけでなく、更新・売却・除却等を含め、建物の状態、費用、資産価値、住替え、工期を比較します。

  1. 有志の勉強会等で課題を整理し、管理組合としての検討につなげます。
  2. 総会で必要な調査費・専門家委託・検討体制を決めます。決議方法は議題の内容と規約を確認します。
  3. 建築士等による耐震・劣化調査、法規制調査、概算事業費を基に複数案を比較します。
  4. 所有者の年齢、資金、居住・賃貸状況、再入居の希望等を把握し、生活面の選択肢を示します。
  5. 事業者提案や行政協議を進め、実施計画と各人の負担・取得見込みを具体化します。

「検討を始める決議」「推進決議」と、区分所有法上の建替え等の決議は区別します。調査への賛成が、そのまま建替え事業への参加同意になるわけではありません。

(2)耐震診断と既存資料

旧耐震・新耐震の区別は、単純な竣工年だけでなく建築確認時期等を確認します。昭和56年6月1日の新耐震基準施行より前の確認による建物等では、耐震診断が特に重要です。診断では設計図・構造図と現況、劣化、必要に応じた鉄筋探査やコンクリートの強度・中性化等を調査し、構造形式に応じた指標で評価します。

新耐震基準の建物でも被害が生じない保証はありません。診断結果は建替えの一択を意味するものでもなく、耐震改修や更新の可能性を比較します。東京都のマンションポータルサイトでは、診断・改修、専門家派遣等の支援を案内しています。補助対象・年度・申請前着手の可否は所在地の自治体で確認してください。

3 マンション再生組合の設立

組合施行では、建替え・建物更新等の決議と、参加関係の整理を踏まえて、再生円滑化法9条による組合設立を進めます。原則として再生合意者5人以上が共同し、定款・事業計画を定め、都道府県知事等の認可を受けます。行政の窓口は事業所在地と権限配分により確認してください。

(1)設立の決議要件は建替え決議と異なります

現行9条2項では、再生合意者の人数と議決権の過半数を満たす者が出席する集会において、出席した再生合意者及びその議決権の各4分の3以上の多数で設立決議を行います。団地等には追加の制約があります。旧法の「合意者全体の4分の3以上の同意」という説明を、そのまま新たな手続に使わないようにします。

定款では名称・事務所、施行区域、参加組合員、役員、総会、費用負担等を定め、事業計画では設計・期間・資金計画等を具体化します。デベロッパーが参加組合員となる場合は、取得する床・負担する費用・責任範囲を確認します。

(2)管理組合・事業協力者との関係

日常管理を行う管理組合と、認可を受けた再生組合は別です。契約の当事者、費用支出、預金・帳簿、委任関係、資料引継ぎを明確にします。事業協力者の提案は、工事費だけでなく床の取得価格、追加負担、撤退条件、遅延・設計変更、利益相反も比較しましょう。管理組合側の弁護士と個々の所有者の弁護士は、依頼者・立場が異なることがあります。

4 不参加者への売渡請求と、金銭給付による退出

(1)複数の売渡請求制度を区別

区分所有法63条5項による売渡請求は、催告の回答期間満了後に参加者・買受指定者が行う制度です。これに対し、再生円滑化法15条では、組合設立認可の公告等を起点として、組合が不参加者に時価での売渡しを請求できます。

15条1項は、原則として設立認可公告の日(催告の回答期間満了前ならその満了の日)から2か月以内とし、同条2項は再生決議の日から1年以内という制限も定めています。ただし後者には正当な理由がある場合の例外があります。各相手への催告到達日、公告日、請求権者、根拠条文を分けて管理してください。

(2)権利変換を希望しない申出

再生円滑化法56条は、組合設立認可等の公告があった日から起算して30日以内に、権利変換を希望せず自己の権利に代わる金銭給付を希望する申出を認めています。権利関係による制限、借家権者の申出、計画が進まない場合の再申出等もあるため、対象と時期を確認します。

これは、建替え決議への反対や売渡請求と同じ手続ではありません。建替え等に賛成した所有者でも、資金事情等から金銭給付を選ぶ場面があります。金額の基準時・算定方法・支払時期、ローン返済、転居先確保、税務を比較して判断しましょう。

5 権利変換計画は何を決めるのか

権利変換計画は、従前の区分所有権・敷地利用権等を、再生後の建物・敷地の権利や金銭へどのように置き換えるかを定める計画です。従前の権利・評価額、取得する住戸・敷地権、担保権・借家権、補償・清算、権利変換期日、明渡し・工事完了予定等を整理します。

(1)評価と配分の衡平

再生円滑化法60条2項は、従前住戸の位置・面積・環境・利用状況や土地の権利と、再生後の位置・面積・環境等を総合的に勘案し、相互の衡平を害しないようにすることを求めます。同じ面積なら常に同じ価値、敷地持分だけで全て決まる、と単純化しないことが重要です。

従前資産の評価、再生後の取得価額、追加負担、面積変更、希望住戸の選定方法を、各人が確認できる一覧にします。不動産鑑定士の評価書は価格・配分の検討資料になります。売渡請求の時価と権利変換計画上の評価は、目的・基準時・算定規定をそれぞれ確認してください。

(2)計画の議決と認可

組合は、法定手続を経て計画を定め、総会の議決と必要な権利者の同意等を得て、認可を申請します(57条)。権利変換計画に関する議決は30条3項により、原則として組合員の議決権及び持分割合の各5分の4以上です。法定の緩和決議に対応する場合は4項等の特則があります。設立決議の「出席者の各4分の3」とは別です。

計画は建替え等の決議内容に適合し、法令違反がないこと等の認可基準を満たす必要があります(65条)。同意しない担保権者等がいるときも、単に多数決で切り捨てるのではなく、同意が得られない正当な理由と、損害を与えない措置等が審査されます(57条3項・65条3号)。

(3)計画に賛成しなかった組合員

64条は、計画の議決に賛成しなかった組合員に対し、組合が議決日から2か月以内に時価で売渡請求をする制度と、その組合員が同期間内に組合へ時価で買取請求をする制度を定めます。最初の建替え決議に賛成したことだけで、この段階の権利が全て失われるわけではありません。意思表示の内容、金額、期間を個別に確認しましょう。

6 住宅ローン・抵当権・借地権の扱い

権利変換期日には、敷地利用権等が計画に従って変換され、従前建物は施行者に帰属します。再生後の建物の区分所有権は、建築・更新工事の完了公告の日に計画に従って取得します(70条・71条)。時期が異なるので、売買や融資・登記の予定と照合してください。

抵当権等は、73条により計画に従って再生後の権利等へ移行します。「建物を壊すから全ての抵当権を一旦抹消するしかない」という説明は、法定の権利変換では適切ではありません。ただし、融資契約上の届出・承諾、追加借入れ、工事中の担保保全、退出時の返済等について金融機関との調整が必要です。

敷地が借地権の場合は、借地契約、建替え・譲渡等の承諾、期間、地代、底地の取扱いを検討します。区分所有者の決議だけで地主との関係が全て解決するわけではありません。借地借家法による裁判所の許可が利用できる場合も含め、契約と事業方式に応じた検討が必要です。

7 借家人の権利と、改正後の賃貸借終了請求

(1)再入居を予定する権利変換

再生円滑化法60条4項・71条3項は、一定の借家権者に再生後の建物の賃借権等を与える仕組みを定めます。ただし、借家権を取得しない旨の申出をした者や、法定の賃貸借終了請求を受けた者等は除かれます。再入居の可否、場所・面積・賃料、仮住居、営業継続、敷金等を計画・契約で確認しましょう。

(2)新たな終了請求と補償

区分所有法64条の2は、建替え決議後、法定の請求権者が専有部分の賃借人に終了請求をした場合、請求があった日から6か月の経過で賃貸借が終了する制度を設けています。建物更新・売却・取壊し等にも準用され、再生円滑化法15条の2等にも組合による請求の規定があります。

専有部分の区分所有者は、賃借人・転借人に対して、賃貸借終了により通常生ずる損失の補償金を支払います。区分所有者以外の請求者の連帯責任も定められています。賃借人は、法定の補償金の提供を受けるまで明渡しを拒めます。決議だけで直ちに無補償退去を求められるわけではありません。

通常の損失に何が含まれるかは、住居・店舗等の用途、移転、営業への影響等に応じて検討します。請求者の資格、決議の有効性、到達日、補償の算定資料を確認してください。この法定制度と、一般の更新拒絶・解約申入れにおける借地借家法上の正当事由・立退料の問題を混同しないことが大切です。

借家人は通常、所有者として再生決議の票を持つ立場ではありませんが、契約・補償・権利変換に関する利益を有します。事例1676「借家権者の保護」は旧法の説明なので、新しい終了請求制度を併せて確認してください。

8 明渡し・工事・再入居

権利変換後も、従前の権利に基づいて占有していた者等には、法定の明渡期限まで占有を続けられる規定があります(79条)。80条による明渡請求では、期限は請求日の翌日から起算して30日を経過した後の日でなければなりません。

同条4項には、必要な補償金の支払・供託、売買代金の支払・提供、賃貸借終了等の補償金の提供がない場合等の例外が定められています。通知期限だけを見て判断せず、誰に対する、どの根拠の請求かを確認します。明渡しが争われる場合も、組合が自ら鍵を交換して強制退去させてよいという意味ではありません。

所有者側は、仮住居期間が延びた場合の家賃負担、引越回数、荷物保管、介護・通学・営業への影響、工事遅延、完成後の不具合対応まで確認します。完成公告、登記、引渡し、清算、事業会計の報告を経て、再生後の管理体制へ引き継ぎます。

9 売却・取壊しを選ぶ場合の手続

(1)建物・敷地の売却

売却等の決議、参加関係の整理、マンション等売却組合の設立認可等を経て、分配金取得計画を定め、その認可を受けます(141条以下)。計画では、各組合員の分配金、権利を失う関係者の権利価額・補償、権利消滅期日等を定めます。権利を集約し、明渡し・売却・分配等を行います。

決議の分配算定方法、実際の売却代金、事業経費、借入れ、補償、税金等を照合し、各人の手取り額と受領時期を確認します。売渡請求で退出する人の「時価」と、参加者の分配金の計算は別です。買主の開発計画や容積率等の特例の実現可能性を価格に適切に反映する検討も必要です。

(2)建物の取壊しのみ

取壊し決議やマンション除却組合による手続を検討します。土地の売却が未定なら、解体後の共有土地の管理、固定資産税等、事故防止、杭・地下構造物の処理、将来の利用について先に協議しましょう。建物を除却すれば全ての権利関係が消えるわけではありません。

要除却等認定に基づく容積率等の特例は、原則として建物が現存する段階での事前協議が求められています。先行解体で特例の利用に支障が出ないかは、売却価格にも関わります。詳しくは決議編の認定・許可の説明をご覧ください。

10 紛争になった場合と裁判例

(1)何を争うかを特定する

争点主な確認事項・手続
決議の成立・有効性多数決、招集・説明会、議案、衡平性等を確認し、決議不存在・無効確認等を検討します。
売渡請求・買取請求請求権者、催告、期間、到達、価格、代金と明渡し・登記の関係を確認します。
設立認可・計画等の行政処分対象処分、処分主体、原告適格、出訴期間、審査請求・取消訴訟等を確認します。民事の決議無効とは別です。
借家人・抵当権者等権利変換、終了請求、補償、同意・損害防止措置等を確認します。

行政事件訴訟法25条により、取消訴訟を提起しても処分の効力・執行・手続が当然に止まるわけではありません。重大な損害を避ける緊急の必要等がある場合は執行停止を検討します。民事上の仮処分と、行政処分の執行停止では要件と対象が異なります。計画が進む前に、期限と保全の必要性を確認してください。

(2)決議事項をどこまで具体化するか

東京地裁平成24年9月25日判決(PDF)は、再建住戸の帰属・清算について、決議段階では基準・ルールを定めることで足りると判断しました。現在の実務でも、未確定部分を明らかにし、選定方法や変更手続を説明することが重要です。

(3)マニュアルに反すれば直ちに違法か

東京地裁平成24年12月25日判決(PDF)は、国の合意形成マニュアルが法的拘束力を持つ法令ではないとして、その記載からの逸脱だけで直ちに決議等が違法になるわけではないとしました。ただし、法定の招集・説明・決議要件や衡平性まで省略できるものではありません。

両判決は改正前の制度に関する事案です。旧条文番号や判断の前提を現行法に置き換えて検討します。国土交通省の令和8年版マニュアルは、事業手続と住民への説明を検討する重要な実務資料です。

11 期限と資料を一覧にしましょう

同じ「2か月」「30日」でも起算点が異なります。根拠条文、対象者、公告日・到達日、回答期限、請求期限、担当者、発送・受領記録を一覧にします。条件付き回答や、受領日が争われる送付方法を安易に選ばないようにしましょう。

  • 管理規約、登記、名簿、議決権・持分の計算表。
  • 決議・説明会資料、議事録、催告・回答・売渡請求、配達記録。
  • 設立認可・公告、定款・事業計画、権利変換計画又は分配金取得計画。
  • 各人の評価・取得住戸・負担額・分配額、鑑定書、融資・担保関係書類。
  • 賃貸借契約、終了請求、補償明細、明渡し通知、仮住居・引越し計画。

資料がそろわなくても、通知書と期限が分かるものを持って相談できます。管理組合・事業主体の手続チェックと、個々の所有者・借家人の権利保護は、それぞれの立場から検討します。

12 新銀座法律事務所への無料相談

「決議案や分配額が妥当か」「期限内にどう回答すべきか」「管理組合の手続を確認したい」「借家人への補償が不明」といった段階からご相談いただけます。通知書・議案書・契約書・価格資料と、分かる範囲の経緯をご用意ください。

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無料相談の対象・受付条件は最新の案内をご確認ください。継続的な顧問・交渉・訴訟等の依頼費用や、不動産鑑定・建築調査費用は別途ご説明・お見積りします。

14 法令・公的資料・PDF

確認日:2026年9月30日。改正前から進行中の案件は経過措置を確認してください。裁判例は本文で示した事案を参照しています。新制度について判断が確立したと断定するものではありません。具体的な対応は個別の契約・決議・通知等により異なります。