質問
マンションの管理組合からアンケートが来ました。建物敷地売却決議というものが検討されているようです。知り合いの管理組合役員によると、この決議は令和8年4月の法改正で導入された新しい制度のようです。これはどのような制度で、どのように対応したらよいのでしょうか。
回答
1、令和8年4月の区分所有法改正で、従来の「建替え決議」に加えて、「建物更新決議」、「建物敷地売却決議」、「建物取壊し敷地売却決議」、「建物取壊し決議」が新設されました。改正前から、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成により建替え決議は可能でしたが、今回の改正では、建替え以外にも、更新、売却、取壊しといった多様な再生方法を多数決で選択できるようにするとともに、耐震性不足など一定の客観的な問題があるマンションについては、決議要件を原則5分の4から4分の3に緩和し、マンションの再生をより円滑に進められる制度としました。ご相談の、建物敷地売却決議について簡単に解説致します。
2、建物敷地売却決議の内容は、「①売却の相手方となるべき者の氏名又は名称、②売却による代金の見込額、③売却によって各区分所有者が取得することができる金銭の額の算定方法に関する事項」です(区分所有法64条の6第2項)。
決議が成立すると、決議不参加者や反対者に対して参加するかどうかの回答を求める「催告手続き」が行われ、それでも賛成しない者には、区分所有権の「売渡請求手続き」が行われます。決議に賛成するか反対するかを決めるために、当該「売却見込み額」と「分配算定方法」が妥当なのかを御自身の立場で試算・見積もりすることが必要です。その際、当該マンションの耐震診断の結果(要除却認定を受けているか、マンション再生等円滑化法163条の56)や、要除却マンションの容積率の特例の見込み(円滑化法163条の59)の内容が大切となってきます。容積率や高さ制限が緩和され、建物全体で従来の床面積よりも大きく増加することが想定できます。これは、従来のマンション価値とは全く異なるものです。自分のマンションの時価はこれくらいかな、という相場感覚とは異なっている可能性があります。
3、決議に賛成した場合でも、その後の売却手続について何も異議を述べられなくなるわけではありません。決議で定められた売却相手、売却代金の見込額及び分配算定方法に沿って適正に事業を進めることや、区分所有者間の衡平を害しない分配を求めることができます(区分所有法64条の6第3項、62条5項)。特に、実際の売却条件が決議時の前提から大きく変わった場合や、土地の評価、容積率等の特例、再開発可能性などが十分に売却価格へ反映されていない場合には、価格の再検討や鑑定評価、必要に応じて改めて集会で意思決定することを求めることが考えられます。賛成したこと自体によって、不合理な価格や分配方法まで当然に承認したことになるわけではありません。
4、決議に反対する場合には、まず、法定の多数決要件を満たしているか、招集通知その他の手続に違法がないか、売却先・売却代金の見込額・分配算定方法という法定の決議事項が適切に定められているか、分配算定方法が区分所有者間の衡平を害していないか等を検討し、決議自体の有効性を争うことが考えられます。決議不存在確認訴訟や、無効確認訴訟を提起することが考えられます。また、決議が成立した場合でも、催告に対して売却に参加しない旨を回答することができます。その後に売渡請求を受けた場合、買取価格は決議で示された分配予定額ではなく「時価」となります(区分所有法64条の6第3項、63条5項)。決議された売却見込額や分配算定方法による金額は時価算定の一資料にすぎず、それが当然に時価となるものではありません。そのため、土地の最有効使用、容積率等の特例の適用可能性、再開発による収益性等を踏まえた不動産鑑定を行い、より高い時価を主張することも考えられます。基本的に、あなたの立場から、不動産鑑定士の評価書を取得することが必要となるでしょう。
5、いずれにしても、数年前まで当該マンションは坪何円で売買されていた、というような従来の相場常識が当てはまらない新たな価値が生み出され、それをどのように分配するのか、という問題が生じています。お困りでしたら経験のある法律事務所にご相談なさり、一緒に対策を考えてもらうと良いでしょう。
解説
1、令和8年4月法改正
令和8年4月に、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に名称変更され、区分所有法も改正されて、従来の建替え決議に加えて、建物更新決議、建物敷地売却決議、建物取壊し敷地売却決議、建物取壊し決議が新設されました。
昭和40年代以降に増加した共同住宅マンションの老朽化が全国で進む中で、各マンションの事情や管理組合の多様なニーズに応じて、建替えだけでなく、大規模な更新(耐震補強工事も含めたリノベーション)、建物・敷地の一括売却、建物の取壊しなど複数の選択肢を設け、老朽化マンションの再生・更新を促進し、居住者の安全性を高めることを目的とする法改正です。
従来からの建替え決議も含めて簡単に解説致します。
建替え決議・・・区分所有者が主体となって、現在のマンションを取り壊し、その敷地又はその一部等に新しい建物を建築することを決議する制度です(区分所有法62条)。原則として、区分所有者(人数要件)及び議決権(資本多数決)の各5分の4以上の賛成が必要です。従来から設けられていたマンション再生の代表的な制度ですが、建物を全部取り壊した上で新たに建築するため、工事費や仮住居の確保など区分所有者の負担が大きくなる場合があります。新築マンションの分譲相場が高額な地域など、ある程度の保留床処分金を見込める区域(容積率の割り増し分で工事費を賄える区域)では現実味のある選択肢となります。
建物更新決議・・・建物を全部取り壊すのではなく、既存の構造躯体を活用しながら、耐震補強など、建物の構造上主要な部分の効用を維持・回復するために共用部分の形状を変更し、これに伴って全ての専有部分の形状、面積又は位置関係を変更する大規模な更新を行う制度です(区分所有法64条の5)。「一棟リノベーション」とも呼ばれ、既存建物を活用しながら住戸配置などを大幅に変更するような再生方法が想定されています。通常の大規模修繕とは異なり、共用部分と全ての専有部分を一体的に更新するもので、工事内容によっては、新築マンションに近い外観や内装に改修される場合もあります。原則として、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成が必要です。建物の状態や工事内容にもよりますが、建替えに比べ、既存の構造躯体を活用することで費用の削減が見込まれる場合などに検討されます。建物更新工事においても、要除却建物の容積率割り増し認定を受けて増築した床面積を保留床として処分して事業費に充てることができます。
建物敷地売却決議・・・マンションを取り壊さず、建物とその敷地に関する権利を一体として第三者に売却する制度です(区分所有法64条の6)。決議では、売却先、売却代金の見込額、各区分所有者が取得する金銭の額の算定方法を定めます。原則として、区分所有者の人数、議決権(規約に別段の定めがなければ専有部分の床面積割合)及び敷地利用権の持分価格の各5分の4以上の賛成が必要です。売却後に建物をリノベーションして利用するのか、取り壊して再開発するのかは、売買契約上の条件や法令上の制限を踏まえ、買主の事業計画によることになります。建物の老朽化が進行し、耐震性の不足などへの対応が必要となったものの、区分所有者が建替え事業費を自己負担することが難しい場合などに検討されます。容積率の緩和が見込まれる場合には、その実現可能性や、それによる開発利益を売却価格にどこまで反映させるかが、価格設定や交渉上の課題となります。
建物取壊し敷地売却決議・・・マンションを区分所有者側で取り壊した上で、その敷地を第三者に売却する制度です(区分所有法64条の7)。建物ごと売却する建物敷地売却決議とは異なり、更地にしてから敷地を売却することになります。一般論として、更地にした方が売却額が高まる可能性があります。決議では、取壊し費用やその分担、敷地の売却先、売却代金の見込額、各区分所有者が取得する金銭の額の算定方法などを定めます。原則として、区分所有者、議決権及び敷地利用権の持分価格の各5分の4以上の賛成が必要です。
なお、これらの決議については、建物が耐震性、耐火性その他法律で定める一定の客観的要件を満たさない場合には、決議要件が原則の5分の4以上から4分の3以上に緩和される制度も設けられています。
建物取壊し決議・・・マンションの建物だけを取り壊すことを決議する制度です(区分所有法64条の8)。建物取壊し敷地売却決議と異なり、この決議だけでは敷地を売却することまでは決まりません。取壊し後も敷地に関する権利は各区分所有者に残り、その後、敷地をどのように利用・処分するかを別途検討することになります。原則として、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成が必要ですが、耐震性不足など法定事由がある場合には各4分の3以上に緩和されます。さらに、政令で指定された地震などの災害によって建物が大規模一部滅失した場合には、被災区分所有法の特例により、各3分の2以上の多数で取壊し決議をすることができます。このように、地震などの災害により建物が大きく損壊して危険な状態となり、除却の必要性が高い場合などにも活用が想定される制度です。
2、要除却等認定に伴う容積率緩和
マンションの建設技術は日々進歩しており、また、地震などの災害の建物への影響の分析技術も進歩し、それにつれて、建築基準法の耐震基準も強化されてきました。築50年などの旧来の建物の安全性を高めるために、耐震改修(リノベーション)することや、建て替えを促進するために、マンション再生等の円滑化に関する法律が改正され、様々な法整備が進んでいます。マンションは多数の権利者が居住する区分所有建物ですから、一部の権利者が「このまま住みたい」と思っていても、建物全体で災害を乗り切れるかどうか運命共同体になっているという性質があります。法律では、建物全体の居住者の安全のために、多数決により、建物全体の更新や改修をある程度強制的に進める制度が整備されています。
※参考URL、東京都耐震ポータルサイトより、その他の建物の耐震化
https://www.taishin.metro.tokyo.lg.jp/others/sonotano-kenchiku.php
(1)耐震診断
マンションの安全性を高めるための対策の第一歩は、建築年数が経過したマンションの耐震性の状況を検査する「耐震診断」です。
現在の耐震基準(いわゆる「新耐震基準」)は昭和56年(1981年)6月1日(建築確認申請受理日)から施行されており、それ以前の旧耐震基準によって建築確認を受けて建築されたマンションには、現在の基準からみて耐震性が十分でない建物が存在します。そのため、国土交通省も、昭和56年以前に建築された建物について、まず耐震診断によって耐震性を把握し、耐震性が不足する場合には耐震改修や建替えを検討することを推奨しています。
耐震診断の実施に先立ち、耐震診断の必要性や診断方法を検討し、その費用を見積もるため、「予備調査」が行われるのが一般的です。予備調査では、設計図書、構造計算書、修繕・増改築履歴等の文献・資料を確認するとともに、現地で建物の状況を目視確認し、建物の概要や経年劣化、設計図書との相違等を概略的に把握した上で、その後に行う耐震診断の方法や範囲を検討し、耐震診断費用の見積りを行います。
耐震診断に関する法律上の根拠は、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(以下「耐震改修促進法」)です。同法2条1項は、耐震診断を「地震に対する安全性を評価すること」と定義しています。また、同法16条1項は、一定の既存耐震不適格建築物の所有者について、「耐震診断を行い、必要に応じ、当該既存耐震不適格建築物について耐震改修を行うよう努めなければならない」と定めています。
耐震改修促進法16条1項(一定の既存耐震不適格建築物の所有者の努力等)
要安全確認計画記載建築物及び特定既存耐震不適格建築物以外の既存耐震不適格建築物の所有者は、当該既存耐震不適格建築物について耐震診断を行い、必要に応じ、当該既存耐震不適格建築物について耐震改修を行うよう努めなければならない。
ここでいう「既存耐震不適格建築物」とは、建物竣工後(建築確認申請後)に建築基準法等の改正(耐震基準の強化等)があり、現在の耐震関係規定には適合していないものの、建築基準法3条2項により、その規定の適用を受けない既存建築物をいいます。旧耐震基準で建築された分譲マンションなどがこれに該当する場合、原則として、耐震改修促進法16条1項に基づき、所有者である区分所有者に耐震診断と必要に応じた耐震改修の努力義務が課されます。したがって、耐震診断は行政が推奨しているだけでなく、法律上も所有者による取組が求められています。
通常は上記の努力義務ですが、地震による倒壊で道路の通行を妨げるおそれがある建物のうち、地方公共団体の耐震改修促進計画で指定された道路沿い(緊急輸送道路等の沿道)にあるものなど、同法7条の「要安全確認計画記載建築物」に該当する場合には、耐震診断を実施し、その結果を所定の期限までに所管行政庁に報告する義務があります。
耐震診断は、耐震診断について専門的な知識を有する建築士等が、まず設計図、構造図、構造計算書、仕様書、設計変更図、地盤調査報告書などの設計図書を確認するとともに、増改築や過去の被災、補修等の履歴を調査します。その上で現地調査を行い、柱・梁・耐力壁などの寸法が設計図書と整合しているか(設計図書通りに施工されているか)、ひび割れその他の劣化が生じていないかなどを確認します。必要に応じて、鉄筋探査により鉄筋の位置や間隔などの配筋状況、鉄筋のかぶり厚さを確認するほか、コンクリートコアを採取して圧縮強度試験を行い、さらに中性化深さを測定してコンクリートの劣化状況を調査することもあります。
これらの調査結果をもとに、建物の強度や粘り、建物の形状・バランス、経年劣化などを考慮して「構造耐震指標(Is値)」等を算出し、所定の判定基準と比較して、建物が想定される大規模地震に対して必要な耐震性能を有しているかを総合的に評価します。したがって、耐震診断は単に建築年数や設計図面だけから判断するものではなく、実際の建物の施工状況や経年劣化の状態も踏まえて、その時点における建物全体の耐震性能を評価する手続です。具体的には、震度6強から7程度の大規模地震を想定し、人命に危害を及ぼすような建物の倒壊・崩壊の危険性がどの程度あるかを判定します。
Is値(アイエスち)は、建物が地震に対してどの程度「倒壊しにくいか」を表す構造耐震指標です。特に、旧耐震基準で建てられた鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)などの耐震診断でよく使われます。
Is = Eo × SD × T
で求められます。
Eo(保有性能基本指標):建物そのものの「強さ」と「粘り強さ」
SD(形状指標):平面・立面のバランス、偏心、吹抜けなど形状上の弱点
T(経年指標):ひび割れ、劣化、老朽化など
を総合して評価します。
Is値 震度6強~7程度の大地震に対する評価
0.3未満 倒壊・崩壊する危険性が高い
0.3~0.6未満 倒壊・崩壊する危険性がある
0.6以上 倒壊・崩壊する危険性が低い
※参考URL、東京都耐震ポータルサイト
https://www.taishin.metro.tokyo.lg.jp/
※参考URL、国土交通省、要除却等認定実務マニュアル
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001993385.pdf
耐震診断の結果、耐震性が不足していることが判明したマンションについては、「マンションの再生等の円滑化に関する法律」に基づく「要除却等認定」を受けることができます。同法163条の56第1項は、マンションの管理組合等が都道府県知事や市区町村長などの特定行政庁に対して、マンションについて「除却等をする必要がある旨の認定」を申請できると定めています。申請するかどうかは各管理組合の判断に任されています。
耐震性不足を理由として認定を受ける場合、同条2項1号により、「地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準」に適合していないことが必要です。具体的には、耐震診断資格者等による耐震診断の結果、構造耐震指標(Is値)が0.6未満である場合など、想定される大規模地震によって倒壊又は崩壊する危険性があると判定されたマンションが対象となります。Is値が0.6未満であったとしても、Is値が0.6をどの程度下回っているかによって耐震性不足の程度は異なりますから、その数値は、耐震改修による対応が適切なのか、それとも建替え等を検討すべきなのかを判断する上での重要な資料の一つとなります。
なお、要除却等認定は耐震性不足の場合だけに認められる制度ではありません。法律163条の56第2項は、①耐震性不足、②火災安全性不足、③外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ、④配管設備の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、⑤バリアフリー基準への不適合、という5種類の認定事由を定めています。したがって、耐震性能には問題がないマンションであっても、他の要件を満たせば要除却等認定を受けることがあります。
認定申請をする場合には、原則として、管理組合において要除却等認定の申請をする旨を決議することが必要です。この決議によって直ちに建替えや取壊しが決まるわけではないため、区分所有法18条1項の管理行為に相当し、総会の普通決議、すなわち出席した区分所有者及びその議決権の各過半数で決議することができます(同法39条1項)。その上で、管理組合の理事長が、耐震診断結果など認定基準に適合していないことを証する書類(耐震診断に係る構造計算書、第三者機関による判定を受けた旨の証明書等)、総会議事録の写し等を添付して、特定行政庁(建築主事を置く市町村の長又は都道府県知事)に認定を申請します。
(2)要除却認定
特定行政庁は、申請に係るマンションが地震に対する安全性について国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められる場合に、要除却等認定を行います(同法163条の56第2項1号)。
要除却等認定を受けると、そのマンションの区分所有者には、当該マンションについて除却又は更新等を行うよう努める義務が生じます(同法163条の57)。
マンション再生円滑化法163条の57(要除却等認定マンションの区分所有者の除却等の努力)要除却等認定を受けたマンション(以下「要除却等認定マンション」という。)の区分所有者は、当該要除却等認定マンションについて除却等を行うよう努めなければならない。
さらに、必要な除却等が行われない場合には、都道府県知事等による指導・助言、指示等の対象となり、正当な理由なく指示に従わない場合にはマンションの名称等が公表される場合もあります(同法163条の58)。
この意味で、要除却等認定は、単に容積率の緩和を受けるためだけの形式的な手続ではなく、建物について公的に「除却等の必要性」が認定される制度です。
一方、要除却等認定を受けたことによる大きなメリットの一つが、建替え又は建物更新を行う際の容積率等の緩和制度(マンション再生型総合設計制度)です。同法163条の59は、一定規模以上の敷地にある要除却等認定マンションについて、建替え又は更新をする場合、特定行政庁が、交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、建蔽率、容積率及び建物の高さについて総合的な配慮がされ、市街地環境の整備改善に資すると認めて許可したときは、建築基準法上の容積率制限等を緩和できると定めています。
マンション再生円滑化法163条の59(容積率等の特例)
第1項 その敷地面積が政令で定める規模以上であるマンションのうち、要除却等認定マンションに係るマンションの建替えにより新たに建築されるマンション又は要除却等認定マンションに係るマンションの更新がされるマンションで、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建蔽率(建築面積の敷地面積に対する割合をいう。)、容積率(延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。以下この項において同じ。)及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、建築基準法第五十二条第一項から第九項まで、第五十五条第一項、第五十六条又は第五十七条の二第六項の規定による限度を超えるものとすることができる。
※参考URL、東京都港区HP(マンション再生法に基づく容積率等の特例)
https://www.city.minato.tokyo.jp/mansyontatekae/yousekitokurei.html
(3)各自治体の容積率緩和要綱
前記条文では、具体的にどの程度の容積率の緩和を受けられるか明確な基準は法定されていません。各自治体の実情に合わせた裁量に任されているのです。各自治体では、容積率の緩和基準を要綱などとして定めて公表しています。
※参考URL、東京都マンション再生法容積率等許可要綱
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toshiseibi/pdf_kenchiku_kijun_pdf_yoko_2026
※参考URL、都庁によるマンション再生法解説ページ
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku_kaihatsu/kenchiku_gyosei/gyosei/kijun/mansion
様々な条件があるため一概に申せませんが、東京都の場合、基準容積率×0.75 または+300%の低い方が緩和の上限となっています。
この制度によって、例えば従来の容積率では同程度の戸数を確保することが難しいマンションでも、容積率を増加させて新たな床を生み出し、その増加した床(いわゆる保留床)を第三者に売却することによって建替え費用の一部を賄い、従前の区分所有者の負担を軽減できる可能性があります。このような経済的効果が、老朽化マンションの建替えを促進する重要な仕組みとなっています。国土交通省も、保留床の確保等によって区分所有者の負担を軽減し、合意形成を容易にすることを制度の背景として挙げています。建築基準法改正に伴って追加された、共用廊下・共用階段、地下室や駐車場などの「容積率不算入の特例」が使える場合もあります。
ただし、要除却等認定を受ければ当然に容積率が割り増されるわけではありません。要除却等認定とは別に、同法163条の59に基づいて特定行政庁の許可を受ける必要があり、敷地面積、市街地環境への影響、空地の確保など、各特定行政庁の許可基準に従って個別に審査されます。したがって、実際にどの程度まで容積率を増加できるかについては、マンションの所在地や敷地条件、建替計画等によって異なります。国土交通省も、特定行政庁ごとに許可基準が異なるため、早い段階から特定行政庁と事前協議することを推奨しています。
令和8年4月の改正では、この特例がさらに拡充されています。従来は主として要除却認定マンションの「建替え」に対する容積率緩和でしたが、新制度ではリノベーションなどの「建物更新」も対象となり、さらに容積率だけでなく、建築基準法55条の絶対高さ制限や同法56条の斜線制限についても、特定行政庁の許可による緩和が可能になりました。これにより、既存マンションの敷地条件に応じて、建替えだけでなく更新を含めた、より柔軟な再生方法を選択できる制度となっています。
前記のように、従来の基準容積率に対して75パーセントや、300パーセントなどの容積率の割り増しがあるということは、お住まいのマンションの敷地が、従来の床面積よりも数十パーセント以上の分譲可能床面積を生み出すことができる可能性があるということを意味します。勿論、建物の建替えや更新には費用が掛かりますが、再建マンションの一部を分譲することにより工事費用を賄える可能性があるということを認識すると良いでしょう。
(4)取壊し前の行政協議の必要性
なお、「建物取壊し敷地売却決議」や「建物取壊し決議」に基づいて建物を取り壊す場合には、容積率等の特例の取扱いに注意が必要です。マンション再生等円滑化法163条の59の特例は、要除却等認定マンションの建替え等を対象とするため、必要な認定や事前協議を行わずに更地にすると、その後の新築について適用を受けられない可能性があります。その場合、通常の総合設計制度など、別の制度による緩和を検討することになり、想定した建築規模や売却価格を確保できないおそれがあります。ただし、更地になれば一律に特例が使えなくなるという意味ではありません。決議前から特定行政庁と協議し、認定・許可の手順、取壊しの時期、買主による建築計画との関係を確認しておくことが重要です。
3、建替えや建物敷地売却に関するアンケートへの対応
管理組合理事会で、建替えや、建物敷地売却が検討されている場合、組合員の意向を確認するためにアンケートが行われることがあります。
(1)アンケートの参考例
問1 現在のマンションについて、問題又は不安を感じている事項をお選びください。(複数回答可)
□ 建物の老朽化
□ 耐震性
□ 給排水管・電気設備等の老朽化
□ 外壁・防水等の劣化
□ エレベーターその他設備の老朽化
□ バリアフリー性能
□ 断熱性・省エネルギー性能
□ 間取りや居住性能
□ 修繕積立金の不足又は将来の修繕費増加
□ マンションの資産価値低下
□ 特に問題を感じていない
□ その他( )
問2 当マンションの建替えを検討することについて、現在のお考えに最も近いものをお選びください。
□ 積極的に建替えを検討してほしい
□ 条件が合えば建替えを検討してもよい
□ 建替えと耐震補強等を比較してから判断したい
□ 現時点では判断できない
□ どちらかといえば建替えには反対である
□ 建替えには反対である
問3 建替えを検討する場合、特に重要だと思う事項をお選びください。(複数回答可)
□ 建替え後に現在と同程度以上の専有面積を確保できること
□ 建替え後の間取りや設備
□ 建替え後も現在の場所に再入居できること
□ 各区分所有者の追加負担額
□ 仮住居費及び引越費用
□ 建替え期間
□ 建替え後の管理費・修繕積立金
□ 建替え後の資産価値
□ 高齢者その他の居住者に対する支援
□ 建替え事業を行う事業者の信用・実績
□ その他( )
問4 建替えに伴って自己負担金が必要となる場合、どの程度までであれば検討可能ですか。
□ 原則として追加負担がなければ検討できる
□ 500万円未満
□ 500万円以上1,000万円未満
□ 1,000万円以上2,000万円未満
□ 2,000万円以上でも条件によっては検討できる
□ 金額だけでは判断できない
□ 現時点では分からない
□ 回答したくない
問5 建替え後の住戸について、どのような希望がありますか。(複数回答可)
□ 現在と同程度の専有面積を希望する
□ 現在と同じ部屋の数を希望する
□ 現在より広い住戸を希望する
□ 現在より狭くても追加負担を抑えたい
□ 現在と同じ位置・方角に近い住戸を希望する
□ 階数や位置には特にこだわらない
□ 建替え後のマンションへの再入居を希望しない可能性がある
□ 現時点では分からない
□ その他( )
問6 建替え期間中の仮住居について、どのようなお考えがありますか。
□ 自分で仮住居を確保できる
□ 管理組合又は事業者による仮住居の紹介あっせんを希望する
□ 仮住居費の負担が大きな問題となる
□ 高齢その他の事情から転居自体に不安がある
□ 現時点では分からない
□ その他( )
問7 建替えを判断するため、今後特に提示してほしい情報をお選びください。(複数回答可)
□ 現在の建物の耐震性・劣化状況
□ 現在の建物を維持する場合に必要となる将来の修繕費
□ 建替えの概算事業費
□ 各区分所有者の追加負担額
□ 建替え後に取得できる住戸の面積
□ 建替え後の住戸の間取り
□ 建替え後の建物の規模・階数
□ 建替え後の管理費・修繕積立金
□ 建替え後の資産価値
□ 建替えに要する期間
□ 仮住居・引越しに関する支援
□ 税金・各種費用
□ 建替えに関する法律上の手続
□ その他( )
問8 建替えを検討する上で、最も不安又は懸念を感じる事項をお選びください。(複数回答可)
□ 追加負担金が高額になること
□ 現在より専有面積が狭くなること
□ 希望する住戸を取得できないこと
□ 仮住居・引越しの負担
□ 建替え期間が長期化すること
□ 高齢等の理由により再入居が困難になること
□ 建替え後の管理費等が高額になること
□ 建替え事業そのものが途中で進まなくなること
□ 区分所有者間で意見が対立すること
□ 特に不安はない
□ その他( )
問9 現在の住戸の利用状況をお答えください。
□ 自ら居住している
□ 配偶者・親族等が居住している
□ 第三者に賃貸している
□ 空室となっている
□ 店舗・事務所等として利用している
□ その他( )
問10 その他、当マンションの建替えについて、ご意見、ご要望、ご質問等がありましたら自由にご記入ください(自由記入欄)。
(2)アンケートへの対応
前記のような建替えに関するアンケートが行われた時点では、単なる居住者意識の確認という段階ではなく、管理組合の理事会内部や管理会社、場合によってはその系列のデベロッパー等との間で、相当程度、マンション建替えや建物敷地一括売却についての検討が進んでいる可能性があることを認識しておく必要があります。
もちろん、アンケートが実施されたからといって、直ちに建替えが決定するわけではありません。しかし、管理組合として正式に建替えの検討に入る前段階として、各区分所有者が建替えについてどのような考えを持っているのか、建替えに賛成する可能性があるのか、反対する理由は何かなどを確認する目的でアンケートが実施されることが多いようです。
したがって、アンケートを受け取った区分所有者としても、単純に「賛成」「反対」「分からない」と回答するだけではなく、その後どのような手続が予定されているのか、また、どのような条件であれば建替えに賛成できるのかを考えておくことが重要です。
管理組合理事会としても、アンケートで示された組合員の意向を無視して建替えの検討を進めることは困難です。そのため、アンケートに対してどのように回答するかについては、できる限り多くの組合員、すなわち区分所有者同士で情報を共有し、話し合っておくことが望ましいでしょう。
特に建替え問題では、単純に「新しい建物になるから賛成」「費用がかかりそうだから反対」というだけでは十分ではありません。建替えを実施した場合に、自分の専有部分がどの程度の面積になるのか、追加負担がどの程度必要になるのか、仮住居費や引越費用は誰が負担するのか、将来売却する場合に資産価値がどの程度になるのかなど、具体的な条件を確認したうえで判断する必要があります。
アンケートそのものは、組合員の意向を尋ねる比較的シンプルな内容であることが多いため、一見すると区分所有法やマンション再生等円滑化法の知識は必要ないようにも思われます。しかし、実際には、その後の建替え手続や交渉条件を理解するためには、これらの法律や制度について一定の知識を持っておくことが非常に重要です。
少なくとも、次のような事項については、アンケートに回答する段階から概要を把握しておくことが望ましいでしょう。
・区分所有法に定められている建替え決議その他の各種決議の概要
・建替え決議に必要となる多数決要件や、その後の催告・売渡請求等の手続
・マンション再生等円滑化法に基づく建替え事業の手続概要
・マンション再生組合の設立、権利変換計画、明渡し、建築工事等の流れ
・要除却等認定の手続と、当該マンションが認定を受けられる見込み
・要除却等認定を受けたマンションについて利用できる容積率その他の建築規制の緩和制度
・マンションを建て替える場合に必要となる除却費、建築費、設計費、諸経費等の概算
・建替え後に従前の区分所有者が取得できる専有床面積の見込み
・建替え後の専有床面積と従前専有床面積との割合、いわゆる還元率の見込み
・区分所有者に追加負担金が発生する可能性と、その金額の概算
・建替え期間中の仮住居費、引越費用等の負担関係
これらの事項を知らないままアンケートに回答すると、後になって具体的な建替え条件が提示された際に、その条件が有利なのか不利なのかを判断することが難しくなります。
管理組合が管理を委託している管理会社の系列デベロッパーから、管理組合に対して建替え事業の提案や事業収支の試算が提示されていることがありますが、デベロッパーは建替え事業に参加する事業者として、自らの事業採算性も考慮して条件を設定するものです。そのため、デベロッパーが提示する事業計画や還元率、保留床価格等が、必ずしも区分所有者にとって最も有利な条件であるとは限りません。
そこで、管理会社系列のデベロッパーが作成した建替え条件とは別に、区分所有者側でも「地権者の立場」から独自に建替え条件を試算しておくことが重要となってきます。
たとえば、現行の指定容積率や許容容積率がどの程度で、容積率の緩和制度を利用した場合にどの程度まで延べ床面積を増やすことができるのかを検討します。そのうえで、新たに増加する床面積のうち、どの程度を従前区分所有者に還元し、どの程度を事業費に充当するための保留床としてデベロッパー等に売却するのかを試算することになります。
さらに、建物除却費、建築工事費、設計費、各種調査費、仮住居対策費、融資費用その他の事業費を概算し、それらを保留床処分代金等によってどの程度まかなうことができるのかを検討する必要があります。
このような試算を行うことによって、初めて「現在提示されている還元率が妥当なのか」「追加負担金が本当に必要なのか」「保留床の処分価格が適正なのか」という点を具体的に検討できるようになります。
したがって、区分所有者側では、少なくとも次のような事項について一定の目標値や考え方を設定し、管理組合内部で協議していくことが望ましいでしょう。これらの検討は、デベロッパー側とは別に、地権者側として独自の立場から行う必要があります。
・容積率の緩和の程度
現行の容積率からどの程度の容積率の緩和(割増し)が可能であるかについて、自治体の許可要綱等を確認するとともに、特定行政庁との事前相談・協議を行い、想定される容積率、容積対象延べ面積その他の建築可能な規模を具体的に確認する。あわせて、道路幅員、斜線制限、高さ制限、日影規制等の各種建築制限を考慮して、実際に建築可能な建物規模を検討する、いわゆる「ボリュームチェック」を行う。
・建物除却費用
既存建物の解体費用、アスベスト処理費、地下躯体の処理費等を含め、どの程度の費用が必要になるのかを確認する。
・建設工事費用
建替え後の建物規模、構造、設備水準等を前提として、総工事費及び坪単価を検討する。
・引越費用及び仮住居費用
建替え期間中の仮住居家賃、往復の引越費用等について、各区分所有者の自己負担がどの程度になるのかを確認する。
・保留床の面積
建替え後に新たに生じる床のうち、どの程度を事業費の財源としてデベロッパー等に処分するのかを確認する。
・保留床の処分価格
デベロッパーが取得する保留床について、どの程度の坪単価で評価・処分されるのかを確認し、周辺の新築マンション相場等と比較する。
・還元率
従前の専有床面積に対し、建替え後に取得できる専有床面積が何パーセント程度となるのかを確認する。あわせて、間取り、住戸の位置・階数、追加負担額等も確認し、自己居住者及びその家族が建替え後も現実に居住を継続できる計画であるかを検討する。
・追加負担金(増床分担金)
現在と同程度の専有面積を確保するために、追加でどの程度の金銭負担が必要になるのかを検討する。
容積率の特例や高さ制限等の緩和については、デベロッパー側の説明だけに頼るのではなく、可能であれば区分所有者側でも行政庁との事前相談を行い、どの程度の緩和が現実的に見込めるのかを確認しておくことが重要です。
容積率の緩和幅が変われば、建替え後に確保できる総床面積が変わり、それに伴って保留床面積、事業収入、区分所有者への還元床面積、追加負担金の額なども大きく変わります。したがって、容積率の緩和可能性は、建替え条件を検討するうえで極めて重要な要素になります。
区分所有者自身が、容積率、建設費、保留床価格、還元率、追加負担金、仮住居費等について一定の知識と考え方を持っていれば、デベロッパーから提示された事業計画をそのまま受け入れるのではなく、その条件が合理的なものか、改善できる余地がないかを検討することができます。地権者側としても、事業計画を評価する能力を持つ必要があるのです。
反対に、区分所有者側に独自の試算や目標が全くなければ、デベロッパーが提示した数字を前提として議論せざるを得なくなります。デベロッパーの提示条件を鵜呑みにすることになりかねません。
その意味でも、建替えに関するアンケートが実施された段階から、区分所有者同士で情報を共有し、「建替えをするか、しないか」という二者択一だけではなく、「耐震補強はできないか、建替えをするのであればどのような条件で行うべきか」という観点からも検討を始めておくことが大切です。
これらの事項について地権者として自分たちなりの考え方や目標を持っているかどうかによって、その後にデベロッパー側から具体的な建替え条件が提示された際の評価や交渉の姿勢は大きく変わってくるでしょう。デベロッパー側の試算では、耐震補強の工事費が高めに設定されていたり、建て替え工事の費用が低めに設定されていたりすることがあります。それで耐震補強より建替え工事の方が有利であるとされて建替え決議したのに、後日建替えの工事費が見積もりよりも高くなってしまう、という問題が発生することもあります。
具体的な地権者間の連絡方法としては、「勉強会を開く」、「チラシを配る」、「ホームページを開設する」、「ネット掲示板を開設する」、「メーリングリストを開設する」、「SNSのグループを作成する」などの方法があります。管理会社まかせにせず、自分達が実際に動いて努力する姿勢が大切です。
4、決議に賛成した場合の対応
建物敷地売却決議に一度賛成した場合でも、その後の売却手続について何ら異議を述べることができなくなるわけではありません。但し、賛成したことによって一定の法的拘束を受けることには注意が必要です。
区分所有法64条(建替えに関する合意)建替え決議に賛成した各区分所有者、建替え決議の内容により建替えに参加する旨を回答した各区分所有者及び区分所有権又は敷地利用権を買い受けた各買受指定者(これらの者の承継人を含む。)は、建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意をしたものとみなす。
区分所有法64条の6第3項は、建物敷地売却決議について同法64条を準用しているため、建物敷地売却決議に賛成した区分所有者は、原則として「その決議の内容により売却を行う旨の合意をしたもの」とみなされます。したがって、決議成立後になって単に気が変わったという理由だけで、「やはり自分の区分所有権や敷地利用権だけは売却しない」と自由に撤回できるわけではありません。建物敷地売却決議に賛成するということは、その決議で定められた内容に従って売却を進めることについて同意するという重要な法律効果を伴います。これを法律上の合意擬制と言います。「決議に賛成しただけで売却に合意したわけではない」という主張は通らないのです。
もっとも、この拘束力が及ぶのは、あくまでも「建物敷地売却決議の内容」による売却です。建物敷地売却決議では、①売却の相手方となるべき者の氏名又は名称、②売却による代金の見込額、③売却によって各区分所有者が取得することができる金銭の額の算定方法、という重要な事項を定めなければなりません(区分所有法64条の6第2項)。したがって、区分所有者が賛成した対象は、単に抽象的な「マンションを売却すること」だけではなく、誰に売却するのか、どの程度の代金を見込んでいるのか、その代金を区分所有者間でどのような方法によって配分するのかという具体的な内容を含んでいます。
また、分配方法については多数決で自由に決めてよいわけではありません。区分所有法64条の6第3項によって準用される同法62条5項により、各区分所有者が取得する金銭の額の算定方法は、各区分所有者の衡平を害しないように定めなければなりません。したがって、建物敷地売却決議に賛成した区分所有者であっても、その後の具体的な分配額の算定が決議で定めた算定方法に従っていない場合や、一部の区分所有者だけが合理的な理由なく有利又は不利に扱われている場合には、決議内容に従った適正な算定を求めることができます。賛成したという事実によって、決議とは異なる分配方法や、区分所有者間の衡平を害する取扱いまで承認したことになるわけではないからです。
特に重要なのが、売却価格の問題です。法律が決議事項としているのは確定した「売却代金」ではなく、「売却による代金の見込額」です。そのため、最終的な売却代金が決議時の見込額と多少異なったからといって、直ちに決議に反することになるとは限りません。市況の変動、調査によって判明した事情、売却時期の変更等によって一定の価格変動が生じることは制度上も想定されていると考えられます。
しかし、これは売却価格を後から自由に変更してよいという意味ではありません。例えば、決議時には100億円程度で売却できるという説明で多数の賛成を得ていたにもかかわらず、その後、合理的な説明もなく80億円で売却しようとしているような場合には、その条件が本当に決議時の「代金の見込額」の範囲にあるのかが問題となります。決議時から実際の売却時までに不動産価格が高騰している場合は、このインフレ率を考慮して売却することが必要となります。
また、売却相手そのものを別の事業者に変更する場合や、決議で示された分配方法を実質的に変更する場合には、そもそも当初の建物敷地売却決議の「内容により」売却するものといえるのかという問題が生じます。このような重要な前提条件の変更がある場合には、当初決議だけで当然に処理できると考えるのではなく、改めて区分所有者に説明し、必要に応じて再度の集会決議等によって意思を確認することを求めることが考えられます。
さらに、売却価格が適正であるかについても十分に検討する必要があります。マンションの土地価格を評価する場合、単に現在の建物を中古マンションとして評価すればよいわけではありません。土地の立地、面積、形状、接道条件、用途地域、指定容積率、実際に利用可能な容積率、周辺の土地取引価格、マンション開発による収益性などを総合的に検討する必要があります。建物を除却して新しいマンションや商業施設等を建築することが現実的である場合には、その再開発可能性も土地価格に影響します。
要除却等認定を受けることによって容積率や高さ制限等について特例を利用できる可能性がある場合には、その事情が売却価格にどの程度反映されているのかを確認することが重要です。国土交通省の基本方針でも、容積率又は高さの特例を利用しようとする場合には、建物敷地売却決議より前から特定行政庁との相談を進めることが可能であり、許可による効果を「売却による代金の見込額や分配金の価額に適切に反映」するよう努めることが示されています。したがって、「現在の容積率を前提にした土地価格だからこの金額になる」という説明だけでなく、容積率等の緩和を利用した場合の開発可能性を踏まえた価格についても検討する必要があります。
そのため、決議後であっても、新たに容積率緩和の可能性が明らかになった場合、周辺の土地価格が大幅に上昇した場合、より大規模な再開発が可能であることが判明した場合、あるいは買受人であるデベロッパーが土地を取得した後に高い収益を得ることのできる事業計画を予定していることが判明した場合などには、当初の売却価格の前提を再確認することには十分な意味があります。必要に応じて、不動産鑑定士による鑑定評価、複数のデベロッパーからの価格査定、周辺の土地取引事例や新築マンション販売価格の調査などを求め、売却価格の妥当性について説明を求めることが考えられます。
なお、建て替え決議後に、マンション再生等円滑化法に基づいてマンション等売却組合が設立され、売却組合によりその後の手続きが進められことが多いと考えられます、その場合は組合により「分配金取得計画」が作成されます。分配金取得計画では各組合員が取得する具体的な分配金額が定められ、総会の議決、審査委員の過半数の同意、都道府県知事等の認可という手続を経ることになります。ただし、具体的な分配額は、原則として建物敷地売却決議の段階で定めた算定方法に従って算定されます。したがって、売却決議の際にどのような分配方法を定めるかが極めて重要になります。
※参考URL、国土交通省マンション等売却実務マニュアル
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001993402.pdf
国土交通省の実務マニュアルでは、売却代金の見込額について、後の分配金取得計画の手続で示されるものではなく、売却決議の議案で示されることに留意すべきであるとしています。この意味でも、売却決議に賛成する前に、価格の算定根拠、容積率等の前提条件、土地の開発可能性、買受人の事業計画などを十分に確認することが非常に重要です。
結局のところ、建物敷地売却決議に賛成した場合には、「決議内容に従って売却する」という基本的な点については拘束されます。しかし、賛成したことは、売却手続をデベロッパーや売却組合に全面的に白紙委任したという意味ではありません。決議で示された条件が守られているか、分配方法が区分所有者間の衡平を害していないか、売却価格の前提となった土地評価が適正であるか、容積率等の特例や再開発可能性が適切に考慮されているかなどについて、説明や資料の提示、再検討を求めていくことは可能です。
特に、決議時の重要な前提がその後大きく変化した場合には、「一度賛成したのだから何も言えない」と考える必要はありません。当初の決議がどの範囲までを承認したものなのかを確認し、その範囲を超える重要な条件変更であれば、改めて組合員に十分な情報を開示し、集会で意思決定することが適切であると考えられます。
5、決議に反対する場合
建物敷地売却決議に反対する場合には、まず、決議そのものが区分所有法の要件を満たしているかを慎重に確認する必要があります。建物敷地売却決議は、原則として、区分所有者、議決権及び敷地利用権の持分の価格のそれぞれについて5分の4以上の多数を必要とする重大な決議です。また、一定の耐震性不足その他の法定事由に該当する場合には4分の3に多数決要件が緩和されますが、その場合には、そもそも多数決要件を緩和するための要件を満たしているかについても確認する必要があります(区分所有法64条の6第1項・第3項、62条2項)。
さらに、建物敷地売却決議では、①売却の相手方となるべき者、②売却による代金の見込額、③売却によって各区分所有者が取得することのできる金銭の額の算定方法を、決議の中で具体的に定めなければなりません。そして、このうち分配額の算定方法については、各区分所有者の衡平を害しない内容でなければなりません。したがって、単に「マンションを○○社に売却する」という程度の抽象的な決議では足りず、売却価格や分配方法について法定事項が欠けている場合や、特定の区分所有者だけが合理的理由なく著しく不利になるような算定方法になっている場合には、決議の効力そのものが問題となります。
招集手続も重要です。建物敷地売却決議については、建替え決議に関する区分所有法62条の手続規定が準用されるため、原則として集会開催日の少なくとも2か月前までに招集通知を発し、法定の事項を通知しなければなりません。また、集会の少なくとも1か月前までに説明会を開催する必要があります。各区分所有者の賛否については議事録にも記載又は記録されます。したがって、招集通知の時期、通知内容、議案の要領、説明会の開催、委任状・議決権行使書の取扱い、議決権の計算などに瑕疵がないかも確認する必要があります。個々の組合員のうち高齢で認知症に罹患している者が居なかったか、その意思表示は有効であったのか、確認が必要な場合もあります。
また、売却決議の議案で買受人と指定された者が、建物の区分所有権を事前買収で取得して議決権を行使している場合は、決議の有効性に疑義を生じる場合もあります。区分所有法では、建替え決議や建物敷地売却決議において、買受人が議決権を行使できないとする規定はありませんが、買受人は議案に当然に賛成することになるので、買受人もしくは協力者名義で事前買収が多数行われている場合には、実質的に区分所有法で定められた5分の4多数決要件を潜脱していることになるからです。少なくとも、買受人やその協力者名義で、事前買収が行われており、それが総議決権の何パーセントに達しているかなど、決議の前に組合員に周知を求めることはできると考えられます。
※参考判例、神戸地裁平成13年1月31日建替決議無効確認請求事件判決
『2 無効確認請求原告らは、本件建替え決議は「区分所有者の五分の四以上の多数」という要件を充たさない旨主張する(争点2)ので、次に、この点について判断する。
(一) 区分所有者の人数の数え方について、まず、一つの専有部分を数人で共有する場合、区分所有法四〇条の規定の趣旨に照らし、右共有者数人で一人と計算すべきものと解される。
また、一人の区分所有者が複数の専有部分を所有している場合も、区分所有者としての定数は全部で一人と計算するのが相当である。なぜなら、区分所有法が、建替え決議(六二条一項)に限らず、その他の特別決議(三一条一項、六一条五項)、普通決議(三九条一項)について、決議の成立要件として、議決権の五分の四以上若しくは四分の三以上の多数又は過半数と併せて、区分所有者の五分の四以上若しくは四分の三以上の多数又は過半数を必要としているのは、建物の区分所有関係における意思決定には、財産権としての面から各区分所有者の有する区分所有権の大きさ、すなわち持分(専有部分の床面積の割合)による多数の意見を反映させなければならない(これは議決権によって反映される。三八条、一四条)と同時に、一つの管理共同体としての面からその構成員である区分所有者の数による多数の意見も反映させなければならないとの考慮に基づくものと考えられるからである。
(二) 次に、議案の採決に当たり誰を区分所有法六二条一項等にいう「区分所有者」として扱うか(具体的には、管理組合が誰に、集会招集通知を発し、議決権の行使をさせるか)を決する基準として、登記簿上の記載によるのか、それとも実質的な権利関係によるのかであるが、仮に実質的な権利関係で決するとすると、実質的な権利関係は第三者が容易に知りえないことがあるため、管理組合に過度の負担を強いる可能性がある上、採決後に、採決に参加した特定の者が実は真実の区分所有者ではなかったと主張すること(本件がまさにそうである。)が許され、ときに採決の結果(議案が可決されたにしろ、否決されたにしろ)が覆えされることになり、法的安定性が損なわれるおそれが大きい。したがって、誰が右六二条一項等にいう「区分所有者」であるかを決する基準としては、画一的で明確性のある登記簿上の記載によるとするのが相当というべきである。
この点、被告管理組合及び建替え参加原告らは、区分所有法六二条一項の「区分所有者の五分の四以上の多数」にいう「区分所有者」について、例外として、ある区分所有者が登記簿上複数の専有部分を有している場合であっても、当該複数の専有部分のうちの一部を、真実あるいは実質的に他の者(実質的区分所有者)が所有し、かつ、登記簿上の区分所有者の議決権の行使について実質的区分所有者もこれを同意・了承しているときは、区分所有者の定数の計算において、登記簿上の区分所有者一名だけではなく、実質的区分所有者の数も定数に入れるべきであると主張するが、右主張は、要するに、登記簿上の記載ではなく、実質的な権利関係によって決すべきである旨の主張に帰するから、右に説示したところにより、採用することができない。
(三) 前記一2認定の事実によれば、登記簿上、Iは本件マンションの住戸のうち四〇三号、七〇三号及び一〇〇三号の合計三戸、Tは同じく八〇九号及び一〇〇五号の合計二戸をそれぞれ所有していたのであるから、右二名については、「区分所有者」としては各一人として計算されることになる。その結果、住戸の区分所有者数は、合計八七名となる(神戸市〔水道局〕を含めると、八八名となる。)。
しかるに、前記一4(三)認定の事実によれば、第一号議案すなわち本件建替え決議にかかる議案について、賛成七三票(神戸市〔水道局〕を含む。)、反対一六票であり(棄権二名)、議決権は、神戸市が一票、各住戸がそれぞれ一票の合計九一票として扱われたため、Iは三票の議決権を有するものとして、Tは二票の議決権を有するものとして扱われ、両名とも賛成票を投じた、というのである。神戸市(水道局)の議決権を、その専有部分の床面積の割合にかかわらず、一票として計算することが正当であるとして、賛成票は九一分の七三であって、議決権の五分の四以上という要件は充足するものの、区分所有者という点では、右I、Tのいずれも前示のとおり各一人として計算すべきものであるから、全区分所有者数、賛成者数は、正しくはそれぞれ三を減じた八八人、七〇人となる(本件建替え決議をした集会においては、議決権の五分の四以上の多数という要件と区分所有者の五分の四以上の多数という要件が区別して認識されていなかったことが窺われる。)。
したがって、賛成者は八八分の七〇であって、区分所有法六二条一項にいう「区分所有者の五分の四以上の多数」に達しないことが明らかであるから、本件建替え決議は同条項の規定する議決要件を欠く無効な決議であるというほかない(なお、本件では、神戸市〔水道局〕が被告組合員であるか否かについて争いがあるが、仮に神戸市が被告組合員でないとすると、全区分所有者数は八七人、賛成者数は六九人となるから、賛成者はやはり「区分所有者の五分の四以上の多数」に達しないことになり、結論に影響しない。)。
なお、被告管理組合及び建替え参加原告らは、決議無効確認請求原告らは本件訴訟の当初、区分所有法六二条の「区分所有者の五分の四以上の多数」の要件の充足を問題にしたことはなく、従前この点を争うことは全くなかったのであるから、右議決要件を充足しない旨主張することは禁反言の原則の趣旨に反し、信義則上許されない旨主張する。確かに、決議無効確認請求原告らが明確に右議決要件を欠くと主張するに至ったのは、当裁判所がいったん終結した口頭弁論の再開を命じた上で、この点について被告管理組合及び建替え参加原告らに釈明を求めた後のことではあるが、被告管理組合及び建替え参加原告らは、本件訴訟の当初から右「区分所有者の五分の四以上の多数」という要件は充足していることを争わない旨を明確に述べていたわけではないし、そもそも、右議決要件の「区分所有者」をいかに解するかは法律解釈の問題であって、直ちに信義則が適用される場面であるとはいい難いから、右主張は理由がない。
したがって、本件建替え決議の無効確認を求める決議無効確認請求原告らの第一事件及び第二事件の各請求は、争点6(区分所有法六二条一項〔及び六三条〕は、憲法二九条に違反するか)を含め、その余の争点について判断するまでもなく、理由のあることが明らかである。』
この判例は、事前買収による多数決要件の潜脱についての判断ではありませんでしたが、区分所有法の多数決要件(特に頭数要件)は厳格に判断されるべきものであることを判示したものです。建替え決議の無効確認請求が認容される場合もあるということです。
実際に反対する場合には、集会で単に反対票を投じるだけでなく、可能であれば、反対理由を文書にして管理者又は集会招集者に提出しておくことが望ましいでしょう。「売却価格の根拠が不十分である」「容積率緩和の可能性が価格に反映されていない」「分配算定方法が不公平である」「多数決要件を満たしていないと考える」など、具体的な理由を明確にしておくことによって、後に決議の効力や売渡価格を争う場合の資料にもなります。議事録、区分所有者名簿、議決権一覧、委任状・議決権行使書、売却価格の鑑定資料、買受候補者との覚書、行政との事前協議資料なども可能な範囲で確保しておくべきです。
決議が成立した後であっても、決議に重大な瑕疵がある場合には、その有効性を争う余地があります。例えば、必要な多数を満たしていない、法定の決議事項が欠けている、招集通知や説明会等に重大な手続違反がある、分配算定方法が区分所有者間の衡平を害している、といった場合です。このような場合には、建物敷地売却決議の不存在確認や無効確認等を求める民事訴訟を提起することが考えられます。国土交通省のガイドラインでも、反対区分所有者との間では決議成立後に決議無効・不存在確認等の民事訴訟に発展する可能性があると説明されています(マンション敷地売却ガイドライン令和4年3月版、60頁)。
※参考URL、国交省マンション敷地売却ガイドライン
https://www.mlit.go.jp/common/001229202.pdf
決議成立後、集会を招集した者(通常は管理組合理事長)は、決議に賛成しなかった区分所有者に対し、遅滞なく、「決議の内容による売却に参加するか否か」を回答するよう催告しなければなりません(区分所有法64条の6第3項により準用される同法63条1項)。この催告は、決議には賛成しなかった区分所有者に対し、改めて最終的に売却へ参加するか否かを選択する機会を与える手続です。
催告を受けた区分所有者には、催告が到達した日から2か月間の回答期間があります。この間に考え直して「売却に参加する」と回答することもできます。その場合には、当初から決議に賛成した区分所有者と同様に売却参加者となり、決議内容に従って売却を行う旨の合意をしたものとみなされます。他方、売却に参加する意思がない場合には、明確に「売却には参加しない」と回答することになります。回答をしなかった場合も、法律上は売却に参加しない旨を回答したものとみなされます。
反対する立場であれば、単に何も回答しないよりも、期間内に書面で、
「建物敷地売却決議には反対しており、売却には参加しない。なお、決議の有効性、売渡請求の有効性及び時価その他一切の権利を留保する」
という趣旨を明確に回答しておく方が実務上は安全です。配達証明付き内容証明郵便等を利用し、回答した日時と内容を証拠として残しておくことが望ましいでしょう。国土交通省のマニュアルでも、催告について到達日を明確にするため配達証明付き内容証明郵便を利用することが望ましいとしています。
そして、この2か月の回答期間が経過すると、売却参加者と売却不参加者が確定します。売却参加者又は買受指定者は、その回答期間満了日の翌日から2か月以内に、売却不参加者に対して、その区分所有権及び敷地利用権を「時価」で売り渡すよう請求することができます(区分所有法64条の6第3項により準用される同法63条5項)。例えば、催告が4月10日に到達した場合には回答期限は6月10日となり、原則として6月11日から8月10日までが売渡請求権の行使期間となります。
また、マンション再生等円滑化法に基づいてマンション等売却組合が設立された場合には、同組合も反対区分所有者に対して売渡請求をすることができます。この場合、原則として組合設立認可の公告の日等から2か月以内に請求する必要があり、さらに売却決議の日から1年以内という期間制限もあります(マンション再生等円滑化法121条)。したがって、売渡請求については、区分所有法に基づき売却参加者等から行われる場合と、マンション等売却組合から行われる場合の二つのルートがあることになります。
売渡請求は通常の「買い取り交渉」とは異なるものです。売渡請求権は法律上の形成権ですから、有効な売渡請求の意思表示が反対区分所有者に到達すると、その時点で「時価」による売買契約が成立します。通常の請求権が、相手方に一定の行為を求める権利であるのに対し、形成権は、権利者の一方的な意思表示によって法律関係を発生、変更又は消滅させる権利です。
したがって、売渡請求書を受け取った後に「売却には応じません」と返答するだけでは、売買の成立を阻止することはできません。争うのであれば、売渡請求の前提となった決議が無効である、売渡請求者に請求権がない、請求期間を経過している、あるいは時価の評価が誤っている、といった具体的な法律上の主張をする必要があります。
※参考判例、東京地裁平成16年2月19日判決
『2 「時価」の算定方法について
(1) 「時価」とは、その建物について建替え決議がなされていることを前提として、区分所有権と敷地利用権とを一体として評価した客観的な評価額をいい、本件各建物の「時価」は、〈1〉建替えが完成した場合における再建建物及び敷地利用権の価額から建替えに要した経費を控除した額(以下「〈1〉の額」という。)、又は、〈2〉再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価額から現存建物の取壊し費用を控除した額(以下「〈2〉の額」という。)に、対象となる区分所有部分及び敷地利用権の配分率を乗じて算定する。
〈1〉の額と〈2〉の額は、論理的には一致すると説かれるが、実際にその価額を通常の不動産価額鑑定の手法に従って具体的に算出した場合には、採用した算出方法等によっては両者に差異が生じる。
したがって、より客観的かつ合理的な「時価」の算定のためには、〈1〉及び〈2〉の各価額についてそれぞれ相当な算出方式により具体的数値を算出し、その各数値を比較考量すべきであるが、その後、さらに当該建替えにおける個別的事情も加味した総合判断を行ったうえで、最終的な「時価」の算定を行うのが相当である。
(2)ア ところで、被告らは、〈1〉の額の算出に当たって考慮される「建替えに要した経費」には、建築工事費のほか、仮住居の費用、販売諸経費、管理費など(以下「諸費用」という。)が含まれるところ、「時価」による売渡し請求の制度の趣旨は、建替えに参加しない者を保護することにあり、建替えに参加しない者らに諸費用を負担させるのは均衡を失するから、「時価」の算定はもっぱら〈2〉の額に基づくべきであると主張する。
しかし、「〈2〉の額によれば建替えに参加しない者らに諸費用を負担させない前提での時価が算定される」という被告の主張は、〈2〉の額の算出方法における「更地価額」を、「再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価額」ではなく、その土地の利用方法が全く限定されていない状態での「白紙の更地価格」と解するのでなければそもそも成り立たない。前記のとおり、〈2〉の額の算出方法における「更地価額」は「再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価額」であり、だからこそ〈2〉の額と〈1〉の額とは理論的には一致すると説かれるのであって、〈2〉の額を採用したからといって、〈1〉の額を採用する場合よりも被参加者の保護が図られるという関係にはない。
したがって、被告らの主張は、正確には前記の〈2〉の額によるのが相当であるとの主張ではなく、『「時価」は、敷地の「白紙の更地価額」から「現存建物の取壊し費用を控除した額」として算定すべきである』という主張だということになる。
イ しかしながら、「時価」は、建替え決議が成立した時点における価額である。建替え決議は、単に抽象的に「建替え」を決定するものではなく、現存建物を取り壊して具体的な「再建建物」(法62条2項1号)に建て替える決議であり、前記〈2〉の額にいう「更地価額」とは、「再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価額」なのであって、その土地の利用方法が全く限定されていない状態での「白紙の更地価格」ではない。
そもそも、建替え決議が成立する以前に各区分所有者が敷地に対して把握していた権利は、現存する区分所有建物の敷地に対する権利に他ならず、複数の区分所有者が存在する区分所有建物の敷地という制限の付着した権利であるから、その価額は、『敷地の「白紙の更地価額」から「現存建物の取壊し費用」を控除した額』にはならない。なぜなら、「現存建物の取壊し」は、区分所有者の特別多数による決議がなければ実現しないことであり、決議実現までのコストを経済的に算定すると決して些細な額ではないからである。実際に、建替え決議が存在しない段階で老朽化した現存建物の敷地の価額を鑑定評価すれば、著しく低廉な額となるのが通常である。「建替え決議」が成立したことにより、その敷地は、「老朽化した区分所有建物の敷地」ではなく「(新しい)再建建物の敷地」という前提で評価されることになるが、「利用方法に限定のない更地」になるわけではない。
要するに、建替え決議の成立・不成立を問わず、区分所有者はその敷地について、「(現存建物の取壊し費用を控除した)白紙の更地価額」相当分の権利を有してはいないのである。
ウ 以上のとおりであるから、仮に、被告らの主張を採用するとすれば、建替え不参加者は、建替え決議が成立したことにより、もともと有していた権利を遥かに超える権利を取得することになる。しかし、このような解釈を採用すれば、参加者との間に大きな経済的不平等が生じることになり、建替え決議の成立の可能性を著しく狭める結果になるから、前記の法63条の趣旨に合致しない。よって、被告らの主張は採用できない。』
この判決は、建替え決議を前提とする「時価」について、開発法による評価額(1㎡当たり47万6000円)と、取引事例比較法による更地価額から既存建物の取壊し費用を控除した評価額(同57万4500円)を比較考量し、現実の建替え計画を反映する開発法による評価額を相対的に重視し、同49万9000円、敷地全体では端数整理後の34億円を算定の基準としました。ただし、各区分所有者に対する具体的な売渡し代金額は、この基準額をもとに個別事情を加味して決定するとしています。
※参考判例、東京地裁平成27年1月26日判決
『2 争点(2)(時価)について
円滑化法15条1項にいう「時価」とは,建替え決議の内容による建替えが予定されていることを前提として,売渡請求がされた時点における区分所有権及び敷地利用権の取引価格を客観的に評価した額をいうものと解するのが相当である。そして,その額は,不動産鑑定評価の手法によって,①建替えが実現した場合における再建建物及び敷地利用権の価額から建替えに要する経費を控除した額(以下「①の試算額」という。),又は,②再建建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価格から現存建物の取壊し費用を控除した額(以下「②の試算額」という。)を試算し,これに対象となる区分所有権及び敷地利用権の配分率を乗じて算定するのが相当である。
これを前提として,原告評価書(甲12)及び被告意見書(乙17の1)のほか,前提事実並びに証拠(甲6,29の1,乙3,7,8)及び弁論の全趣旨により認められる諸事情を総合考慮すると,本件売渡請求がされた平成25年9月21日の時点における被告区分所有権等の時価は,再建建物の敷地とすることを予定した本件土地の更地価格を62億2400万円とし,本件マンションの取壊し費用を1億6092万円とし,被告区分所有権等の配分率を0.005542として,本件土地の更地価格から本件マンションの取壊し費用を控除した額に被告区分所有等の配分率を乗じた額に概ね相当する3360万円((62億2400万円-1億6092万円)×0.005542≒3360万円)とするのが相当である。その理由は,以下のとおりである。
(1) 原告評価書は,①の試算額を49億3200万円,②の試算額を49億8600万円とした上,より高額である②に基づき,被告区分所有権等の時価を2763万2000円と算定しているのに対し,被告意見書は,①の試算額を75億4100万円,②の試算額を101億5300万円とした上,より高額である②に基づき,被告区分所有権等の時価を5630万円と算定している。
(2) ②の試算額についての原告評価書と被告意見書の相異は,本件土地の更地価格について,原告評価書は,539万円/m2~636万円/m2の取引事例を参照して,近隣地域の標準的使用における標準価格を600万円/m2とし,建替え計画に伴う建付減価(対象地の最有効使用が店舗付き事務所であるのに対し,再建建物は共同住宅が大半を占め,低層部には店舗及び住宅があるものの,事務所についても従前の利用形態を踏襲した小区画が中心となっていることによる減価)を△35%として,取引事例比較法による試算額を51億4000万円とし,収益還元法及び開発法による試算額51億4700万円と比較して,後者を採用しているのに対し,被告意見書は,約528万円/m2~約799万円/m2の取引事例を参照して,近隣地域の標準的使用における標準価格を707万2000円/m2とし,建付減価を△10%とする一方,大規模画地であることによる増価を20%,間口が広いことによる増価を3%として,取引事例比較法による試算額を103億1400万円とし,これを採用していることにある。
被告意見書における上記の試算は,本件土地上の再建建物は建替えに参加する各区分所有者がそれぞれ区分所有権を取得することが予定されているものであることによる利用上の制約を十分に考慮に入れずに,基本的に本件土地の最有効利用を前提とした算定をしているものであって,そのまま採用することができないが,被告意見書で指摘された取引事例の存在や画地の特性も考慮に入れると,近隣地域の標準的使用における標準価格は630万円/m2とし,建付減価は△25%とするのが相当であり,これらを前提として,原告評価書における取引事例比較法による試算額を修正すると,本件土地の更地価格の試算額は,62億2400万円となる。
(3) その余の点については,原告評価書において時価算定の基礎とされた数値や事情の取捨選択,評価の手法及び判断の過程に特に不合理なところは認められない。』
この判例では、マンション建替えに際し、売渡価格は決議された建替え計画を前提とする客観的な取引価格であるとし、土地の最有効利用をそのまま前提とする評価を採用しませんでした。他方、組合側の鑑定評価も修正し、更地価格から取壊し費用を控除して配分率を乗じ、組合提示額2763万2000円を上回る3360万円を認定しました。
売渡請求を受けた段階では、まず相手方に対して文書で異議を述べることが考えられます。ただし、書面で「価格に同意しない」と述べただけで手続が停止するものではありません。相手方が所有権移転登記や建物明渡しを求めて訴訟を提起した場合には、その訴訟の中で決議無効、売渡請求の無効、時価の額等を主張することになります。逆に、反対区分所有者側から決議無効確認等の民事訴訟を先行して提起する場合も考えられます。どの請求形式を選ぶかは、その時点で相手方がどのような請求をしているかによって異なります。
また、売渡請求が有効であったとしても、相手方が自由に買取価格を決められるわけではありません。法律上の売買価格は、決議で記載された「分配予定額」ではなく「時価」です。国土交通省の令和8年3月の「マンション等売却実務マニュアル」は、時価について、売渡請求権を行使した時点において売却を予定した場合の区分所有権及び敷地利用権の客観的な取引価格であるとしています。そして、決議に記載された売却代金の見込額や分配算定方法による金額は時価評価の考慮要素にはなり得るものの、それが直ちに時価になるものではないと明確に説明しています。決議に賛成した場合と、反対した場合とで、売却額が異なる可能性があります。
建物敷地売却決議の場合の時価評価では、建物を残して利用するのが最も経済合理性が高いのか、それとも建物を取り壊して土地を再開発するのが最有効使用なのかを検討することになります。建物にほとんど価値がない場合であれば、更地価格から建物解体費用を控除した価格を基礎として敷地持分を評価することが考えられます。他方、既存建物にも価値がある場合には、建物価値と土地価値の双方を考慮することになります。売却先のデベロッパーが予定している開発内容や、マンション新築を前提とした売却条件なども、最有効使用を判断する資料になり得ると国土交通省は説明しています。不動産鑑定士が評価書を作成するときも、最有効使用を前提として鑑定評価します。最有効使用とは、その不動産について、現実の社会経済情勢の下で、客観的にみて合理的かつ合法的であり、その不動産の効用を最も高く発揮させる使用方法をいいます。
したがって、売渡価格を本格的に争う場合には、容積率、用途地域、高さ制限、接道条件、敷地形状、周辺地価、新築マンションの販売価格、建築費、解体費、容積率等の特例を利用できる可能性、行政協議の進捗状況などを調査し、土地の開発可能性を踏まえた評価を行う必要があります。特に容積率や高さ制限の特例が現実的に見込まれる場合、それによって土地の利用価値が大きく変わる可能性があります。国土交通省「マンションの再生等の円滑化に関する基本的な方針」でも、容積率又は各部分の高さの特例を活用しようとする場合には、早期に特定行政庁と許可に係る相談を行うとともに、その許可を売却代金の見込額や分配金の価額に適切に反映させるよう努める必要があるとしています。
※参考URL、国土交通省マンションの再生等の円滑化に関する基本的な方針
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001973348.pdf
このため、反対区分所有者の立場から時価を争うのであれば、独自に不動産鑑定士へ鑑定評価を依頼することが必要となります。法律上、必ず自分で鑑定評価書を取得しなければならないという要件があるわけではありませんが、組合側(デベロッパー側)も通常は不動産鑑定や価格査定を根拠として価格を提示してきます。裁判で「提示された3,000万円ではなく、時価は4,000万円である」と主張するのであれば、その根拠を客観的に示さなければならないため、価格を本格的に争う場合には、自ら依頼した不動産鑑定評価書の取得は実務上ほぼ不可欠と考えてよいでしょう。
なお、売渡請求がされた場合、反対区分所有者の建物明渡し・所有権移転登記義務と、売渡請求者の時価による代金支払義務は、原則として同時履行の関係にあります(民法第533条)。したがって、適正な時価の支払又は提供がなされていないのに、一方的に明渡しや登記移転だけを求められた場合には、代金の支払・提供がないことを主張することができます。
以上からすると、建物敷地売却決議に反対する場合には、単に集会で「反対」と投票して終わりではありません。決議前後では決議要件・手続・売却価格・分配方法を検討し、決議成立後には催告に対して2か月以内に売却不参加の意思を明確にし、売渡請求を受けた場合には、その請求自体の有効性と「時価」の双方を検討する必要があります。価格に争いがある場合には、デベロッパーや管理組合側の評価だけに頼らず、反対区分所有者自身の立場から独立した不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、必要であれば民事訴訟の中で適正な時価を主張することが必要となります。
6、まとめ
令和8年4月の法改正により、老朽化したマンションについて、建替えだけでなく、建物更新や建物・敷地の一括売却など、事情に応じた再生方法を選択できるようになりました。しかし、いずれの方法も、区分所有者の住まいや財産に重大な影響を及ぼします。アンケートの段階から、耐震診断の結果、修繕・更新と建替えの費用比較、売却条件、転居後の生活などを確認し、自分にとって受け入れられる条件を具体的に考えておくことが大切です。
特に、建物敷地売却では、従来の中古マンションとしての取引相場だけで価格の妥当性を判断することは適切ではありません。敷地の開発可能性や、容積率・高さ制限の緩和が実現する見込み、その効果が売却価格に適切に反映されているかを検討する必要があります。同時に、解体費や建築費なども踏まえ、売却代金の見込額と各区分所有者への分配方法を確認することが重要です。
決議に賛成すると、原則として決議内容に従って売却する合意があったものと扱われ、自由に撤回できるわけではありません。他方、決議と異なる条件変更や不公平な分配について、説明や是正を求める余地はあります。反対する場合も、反対票を投じるだけでなく、決議の有効性、催告への期限内の回答、その後の売渡請求への対応を検討する必要があります。売渡請求における「時価」は、決議で示された分配予定額と当然に一致するものではありません。
管理組合や事業者の説明を十分に確認するとともに、区分所有者同士で情報を共有し、必要に応じて独立した不動産鑑定士やマンション再生に詳しい弁護士に相談して、ご自身の権利と生活を守るための対応を検討なさってください。
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参考条文
マンション再生等円滑化法
第163条の56(除却等の必要性に係る認定)
1項 マンションの管理者等(区分所有法第二十五条第一項の規定により選任された管理者(管理者がないときは、区分所有法第三十四条の規定による集会において指定された区分所有者)又は区分所有法第四十九条第一項の規定により置かれた理事をいう。第百六十三条の六十において同じ。)は、国土交通省令で定めるところにより、特定行政庁に対し、当該マンションの除却又は当該マンションの構造上主要な部分の効用の維持若しくは回復(通常有すべき効用の確保を含む。)をするものとして国土交通省令で定める工事(以下「除却等」という。)をする必要がある旨の認定(以下「要除却等認定」という。)を申請することができる。
2項 特定行政庁は、前項の規定による申請があった場合において、当該申請に係るマンションが次の各号のいずれかに該当するときは、その旨の認定をするものとする。
一号 当該申請に係るマンションが地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
二号 当該申請に係るマンションが火災に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
三号 当該申請に係るマンションが外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剝離し、落下することにより周辺に危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
四号 当該申請に係るマンションが給水、排水その他の配管設備(その改修に関する工事を行うことが著しく困難なものとして国土交通省令で定めるものに限る。)の損傷、腐食その他の劣化により著しく衛生上有害となるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める基準に該当すると認められるとき。
五号 当該申請に係るマンションが高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成十八年法律第九十一号)第十四条第五項に規定する建築物移動等円滑化基準に準ずるものとして国土交通大臣が定める基準に適合していないと認められるとき。
3項 要除却等認定をした特定行政庁は、速やかに、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事等(当該特定行政庁である都道府県知事等を除く。)にその旨を通知しなければならない。
判例