2026年9月30日更新/令和8年4月施行の改正対応
「古いマンションを建て替えたいが、費用が心配」「建物と敷地をまとめて売るというアンケートが届いた」「反対したら自宅を失うのだろうか」。マンションの再生では、安全性だけでなく、住み続けられるか、いくら負担・取得するか、少数者の権利が守られるかを一緒に考える必要があります。令和8年4月施行の改正により、建替えに加えて建物更新、売却、取壊しを多数決で選択する仕組みが整備されました。本記事では、決議の種類と多数決要件、費用、容積率等の特例、売渡請求と時価評価を解説します。
最初に確認すること
- 改正前から、耐震性不足等を必須条件とせず、原則各5分の4以上で建替え決議が可能でした。改正は、新たな選択肢と決議要件の緩和等を加えるものです。
- 建替え等の決議は、原則として全体を母数とする特別多数決です。通常の管理に関する決議の「出席者多数決」と混同しないでください。
- 容積率等の特例、売却価格、工事費、各住戸の負担額は、実現可能性と算定根拠を資料で確認します。
- 賛成・反対のどちらの立場でも、催告・売渡請求・認可等の書類と期限を放置しないことが大切です。
1 令和8年改正で選べる再生方法
令和7年法律第47号による改正の主要部分は令和8年4月1日に施行され、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」は「マンションの再生等の円滑化に関する法律」へ名称が変わりました。本記事では「再生円滑化法」と呼びます。区分所有法が所有者の意思決定を、再生円滑化法が組合・権利変換等の事業手続を主に定めています。
| 方法・根拠 | 内容 | 原則の多数決要件 |
|---|---|---|
| 建替え決議 区分所有法62条 | 現在の建物を取り壊し、その敷地等に新たな建物を建築します。 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 |
| 建物更新決議 64条の5 | 構造上主要な部分の効用の維持・回復のため共用部分の形状を変更し、これに伴い全ての専有部分の形状・面積・位置関係を変更します。一棟リノベーションとも呼ばれます。 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 |
| 建物敷地売却決議 64条の6 | 建物と敷地に関する権利を一括売却します。売却後の建物利用や解体は契約条件や買主の事業計画等によります。 | 区分所有者・議決権・敷地利用権の持分価格の各5分の4以上 |
| 建物取壊し敷地売却決議 64条の7 | 所有者側で建物を取り壊し、敷地に関する権利を売却します。解体費や費用増加の負担も検討します。 | 区分所有者・議決権・敷地利用権の持分価格の各5分の4以上 |
| 取壊し決議 64条の8 | 建物を取り壊します。この決議だけで敷地の売却まで決まるわけではありません。土地の権利は残り、その後の利用・管理を別途検討します。 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 |
上表には、法定事由がある場合の各4分の3以上への緩和等があります。敷地売却を伴う決議には、敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利であること等の前提も必要です。団地・被災建物・滅失後の敷地は別の規定を確認します。
通常の大規模修繕、耐震改修、設備更新が全て「建物更新決議」に当たるわけではありません。共用部分の変更・管理として決める工事か、全ての専有部分まで一体的に変更する法定の建物更新かを工事の実態で区別します。事例875「建物更新決議、建物敷地売却決議等」もご覧ください。
2 多数決の数え方と4分の3への緩和
(1)頭数・議決権・敷地持分は別に計算
区分所有者数は人数による要件、議決権は規約等に従う要件です。議決権は、規約に別段の定めがなければ区分所有法38条・14条による専有部分の床面積割合を基礎とします。登記された敷地持分と当然に同じとは限りません。建物敷地売却等では敷地利用権の持分価格も別に確認します。
1人が複数の住戸を所有しても、人数を住戸数だけ増やすわけではありません。1住戸の共有、相続、法人所有等は、登記・名簿・規約を照合します。議決権行使書と委任状の重複、代理権、賛否も記録してください。
議決権を有する区分所有者が100人である建替え決議では、原則として80人以上の賛成に加え、議決権でも5分の4以上の賛成が必要です。80人だけ出席し、そのうち64人が賛成したというだけでは、全体の人数要件を満たしません。
所在不明や無回答を理由に、管理組合だけで母数から外すことはできません。区分所有法38条の2の裁判手続等を検討します。単なる反対者は所在等不明者とは異なります。
(2)古いだけでは4分の3になりません
区分所有法62条2項は、①耐震性不足、②火災に対する安全性不足、③外壁等の剝落による危険、④改修が著しく困難な配管設備の劣化による衛生上の問題、⑤バリアフリー基準への不適合について、法務大臣の定める基準等に該当する場合に要件を各4分の3以上に緩和します。新設された各決議にも準用されます。
築年数が古い、エレベーターが不便、配管に不具合があるというだけでは足りません。適用基準と建築士等による調査・証明を確認してください。再生円滑化法の要除却等認定は重要な確認資料になりますが、決議要件と行政の認定・許可は、それぞれの根拠と効果を区別します。
耐震診断未実施でも、原則の多数決要件による建替え等が直ちに不可能になるわけではありません。ただし、安全性、修繕との比較、緩和要件の立証のために診断は重要です。指定災害による被災建物には、被災区分所有法による各3分の2以上等の特例があります。「要除却等認定を受ければ常に3分の2でよい」という制度ではありません。
3 決議までに説明・決定しておくこと
(1)建替え決議の4つの決議事項
現行の区分所有法62条4項は、①再建建物の設計の概要、②取壊し・建築費用の概算額、③費用分担、④再建建物の区分所有権の帰属を定めることを求めています。同条5項により、費用分担と権利帰属は各区分所有者の衡平を害しないよう定めます。
建物更新では更新後の設計・費用・費用分担・権利帰属、建物敷地売却では売却先・代金見込額・各人が取得する金銭の算定方法を決めます。取壊し敷地売却では解体費とその分担も必要です。「建替えを検討・推進する」という方針決議と、法律上の建替え等の決議は別です。
(2)2か月前の招集通知・1か月前までの説明会
建替え決議の集会は、会日の少なくとも2か月前に招集通知を発し、少なくとも1か月前までに説明会を開催します(62条6項・8項)。規約による通知期間の延長も確認します。通知には議案の要領に加え、建替えの必要性、建替えをしない場合の効用維持・回復費用と内訳、修繕計画、修繕積立金額等を含めます。新設決議も準用関係を確認します。
費用増額時の扱い、仮住居・引越費用、希望住戸が重複したときの選定方法、計画変更の決め方まで説明すると、各人が生活への影響を判断しやすくなります。アンケートは意向把握であり、それだけで法定の再生決議が成立するわけではありません。
4 建替費用・保留床・既存不適格
(1)「床が増えれば自己負担ゼロ」とは限りません
従前所有者等が取得する部分以外の床を事業費に充てる仕組みがあり、実務上「保留床」などと呼ばれます。参加組合員が取得する床、施行者に帰属して処分する床など、具体的な割当ては事業方式・定款・権利変換計画で確認します。
販売収入が見込めても、解体費、設計・工事費、資金調達費、補償費、予備費等が増えれば自己負担が生じます。同じ面積の住戸を無償で取得できる保証もありません。見積基準日、物価変動条項、遅延時の負担、事業協力者の取得条件、税金も確認しましょう。
高齢者やローン返済中の方には、住戸面積の調整、住替え、融資、補助等の複数案を提示し、毎月の負担まで試算することが必要です。引越・仮住居費が必ず全額自己負担、又は必ず全額補償されるとは限りません。制度上の補償と、事業計画・契約での費用負担を分けて確認します。
(2)既存不適格と建築可能な規模
建築時は適法だった建物が、法令・都市計画の変更により現在の基準に適合しなくなることがあります。これを違法建築と混同しないことが大切です。建替え時には現行の容積率、建蔽率、高さ、道路、斜線、日影、防火・避難等を確認し、指定容積率だけから床面積を断定しないようにします。
天空率は建築基準法56条7項等に基づき一定の斜線制限への適合を別の方法で検討する仕組みであり、日影規制や全ての高さ制限がなくなるものではありません。既存図面、確認済証・検査済証、用途地域、道路条件を建築士に確認してもらいましょう。
5 要除却等認定と容積率・高さの特例
再生円滑化法163条の56は、一定の耐震性・防火性等の問題があるマンションについて、管理者等が特定行政庁に要除却等認定を申請する制度です。163条の59は、その認定に係る建替え又は更新について、敷地規模、交通・安全・防火・衛生、市街地環境の改善等を踏まえた許可により、容積率や建築基準法55条の高さ・56条の斜線等の制限を緩和できる制度です。
認定と許可は別の手続です。認定だけで一定割合の容積率増加が保証されるものではありません。全国一律に「2倍」「75%増し」と説明せず、所在地の最新要綱、公開空地、敷地・計画条件等を確認します。建築基準法59条の2の総合設計制度との違いも確認してください。
東京都では、令和8年4月1日施行のマンション再生法容積率等許可要綱等が公表されています。許可要綱(PDF)を確認し、所管行政庁と協議します。
更地にする前の確認が重要です
国土交通省の163条の59の運用通知・技術基準(PDF)は、原則として、要除却等認定マンションが現に存在する時点で許可の事前協議がされていることを求めています。取壊し後に初めて特例を検討すると利用できない可能性があります。売却方式・解体時期を決める前に、認定・協議・許可の時期と買主への引継ぎの可否を確認してください。
6 賛成・反対した場合の権利と催告
建替え決議への賛成者等には、決議内容に従って建替えを行う合意があったものとみなす規定があります(区分所有法64条)。売却等にも準用されます。賛成後も、決議に沿う事業の実施、説明、適切な会計、衡平な取扱いを求められますが、気が変わっただけで自由に撤回・離脱できるとは限りません。大幅な計画変更には、再決議や認可変更の要否を検討します。
集会招集者は、建替え決議に賛成しなかった区分所有者に、決議内容による参加の可否を書面で催告します。承諾があれば所定の電磁的方法も利用できます。回答期間は催告を受けた日から2か月で、期間内に回答しなければ不参加とみなされます(63条1~4項)。反対票と催告への回答は別に管理してください。
回答期間満了後、参加者や買受指定者は、不参加者に区分所有権・敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できます(63条5項)。有効な売渡請求は相手の承諾を要しない形成権です。価格を争っているから売買の効力が当然に生じない、というものではありません。
この売渡請求の行使期間は、原則として回答期間満了の日から2か月以内です。組合による再生円滑化法15条等の売渡請求には別の起算点・期間制限があります。条件付き参加回答にも争いが生じ得るため、通知が届いたら早めに弁護士に確認しましょう。
7 売渡請求の時価と不動産鑑定
売渡請求の時価は、決議上の分配予定額と必ずしも一致しません。国土交通省のマンション等売却実務マニュアル(令和8年3月、本文69~70頁)は、請求時点で売却を予定した客観的取引価格を検討し、決議の見込額・分配算定方法は考慮要素であって直ちに時価ではないと説明しています。
建物を残すか、解体して再開発するかという最有効使用を検討します。建物にほとんど価値がない場合には更地価格から解体費を控除する考え方、建物にも価値があれば土地と建物の双方を評価する考え方があります。買主の開発条件、容積率等の許可見込み、建築費、販売可能性も資料となりますが、未確定の開発利益を実現確実として扱うことはできません。
不動産鑑定士の鑑定書・評価書は、適正な時価や分配の妥当性を主張する根拠資料となり得ます。建替え・建物売却・取壊し敷地売却のどれを前提とするか、価格時点、敷地権、行政協議の状況を明確にします。私的評価書が裁判所を拘束するわけではなく、評価方法・資料・実現可能性が検討されます。
分配割合についても、頭数・議決権・登記持分を混同せず、建物と土地の評価、費用控除、住戸条件を確認します。敷地持分だけで全ての分配額が機械的に決まるとは限りませんが、多数決なら自由に不利益を押し付けられるわけでもなく、区分所有者間の衡平が必要です。
8 裁判例と紛争への対応
事例875が紹介する神戸地裁平成13年1月31日判決は、複数住戸を持つ者の人数と議決権を区別し、人数要件を満たさない建替え決議を無効としました。母数と賛成数を正確に確認する重要性を示します。
東京地裁平成24年9月25日判決(PDF)は、決議段階で住戸配分や清算額の詳細を全て確定することは難しく、取得・清算の基準やルールを定めることで足りるとしました。説明を省き、事業者に全て白紙委任してよいという意味ではありません。
これらは改正前の事案です。現行法と事案の違いを確認し、決議の不存在・無効、売渡請求の要件・価格、行政認可の適法性を区別します。提訴だけで事業が当然に停止するわけではありません。手続編の紛争対応もご確認ください。
9 相談前に集めたい資料
- 管理規約、名簿、議決権・敷地持分一覧、登記事項証明書。
- アンケート、招集通知、議案、説明会資料、議事録、委任状・議決権行使書。
- 耐震診断、劣化調査、修繕計画・積立金、工事見積り、行政協議資料。
- 事業者の提案、買主との覚書、鑑定評価、分配・住戸配分・負担額の試算。
- 催告・売渡請求等の通知と到達日が分かる封筒・配達記録。
全てそろうまで相談を待つ必要はありません。期限のある通知を優先し、入手できない資料は名称だけでも整理してください。
10 新銀座法律事務所への無料相談
「決議案や分配額が妥当か」「期限内にどう回答すべきか」「管理組合の手続を確認したい」「借家人への補償が不明」といった段階からご相談いただけます。通知書・議案書・契約書・価格資料と、分かる範囲の経緯をご用意ください。
無料相談の対象・受付条件は最新の案内をご確認ください。継続的な顧問・交渉・訴訟等の依頼費用や、不動産鑑定・建築調査費用は別途ご説明・お見積りします。
12 法令・公的資料・PDF
- e-Gov:建物の区分所有等に関する法律
- e-Gov:マンションの再生等の円滑化に関する法律
- e-Gov:行政事件訴訟法
- 国土交通省:マンション関係法令・改正資料
- 国土交通省:マンションの再生等について(最新マニュアル・様式)
- マンション再生等手法の比較検討マニュアル(令和8年3月・PDF)
- マンション再生実務マニュアル(令和8年3月・PDF)
- マンション等売却実務マニュアル(令和8年3月・PDF)
- 要除却等認定実務マニュアル(令和8年3月・PDF)
- 容積率等の特例の運用通知・技術基準(PDF)
- 東京都:分譲マンションに関する法令・ガイドライン
- 東京都:マンション再生法容積率等許可要綱・実施細目等
確認日:2026年9月30日。改正前から進行中の案件は経過措置を確認してください。裁判例は本文で示した事案を参照しています。新制度について判断が確立したと断定するものではありません。具体的な対応は個別の契約・決議・通知等により異なります。