オンラインカジノ利用による賭博罪の成立
刑事|被疑者被告人の利益と社会全体の利益の対立と限界|属地主義の原則と理由
目次
質問:
私は、海外の会社が運営しているオンラインカジノのサイトで、遊んでいました。日本国内において、自分のパソコンやスマートフォンからサイトに接続し、最初は無料版でお金を投下せずに遊んでいましたが、1年ほど前からは、お金を送金してベットするようになり、累計では300万円程度は投下していると思います。
私としては、違法ではないと思っていたのですが、最近、著名人等がオンラインカジノの利用で摘発されたとのニュースを聞き不安になっています。今は利用を止めていますが、今後、私も警察に逮捕されることはあるのでしょうか。それを避けるためには、どうしたら良いでしょうか。
回答:
1 日本国内でオンラインカジノを利用する行為は、刑法上の賭博罪、又は常習賭博罪に該当する可能性が高いです。海外のサイトを利用する分にはグレーゾーンであるなどの主張もありますが、政府や警察はそのような主張を認めておらず、近年、摘発にも力を入れています。
2 とはいえ、オンラインカジノの利用者は相当数存在するため、全員が警察の捜査対象となったり、逮捕にまで至る可能性は低いと思われます。ただし、利用金額が多い場合には、その可能性も否定はできません。
3 利用金額が多い場合に、逮捕や処罰を避けるためには、予め警察に相談又は自首をし、仮に賭博罪に該当する場合には、任意捜査に協力する旨を上申しておく方法等が考えられます。現在の情勢であれば、自ら出頭した者に対して、逮捕や家宅捜索等の強制捜査を行う可能性は、低いと思われます。
4 ご不安な点があれば、弁護士に相談して、いかなる対策が必要かを協議することをお勧めします。
5 賭博罪に関する関連事例集参照。
解説:
1 賭博罪の成否について
(1)賭博罪の要件
賭博の罪については、刑法において以下のように規定されています。
(賭博)第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
上記でいう「賭博」とは、①偶然の事情に関して②財物を賭け勝敗を争うことを意味します。
ここでいう「①偶然の事情」とは、当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいいます。技量等の差異により勝敗が予め歴然としているときは別段、多少とも偶然の事情により勝敗が左右されうるような場合には偶然性が認められます。
また「②財物を賭け」とは、財産得喪の意志表示をすれば足り、現物を賭場に提出することは要しません。また対象となる財物は、有体物に限らず、広く「財産上の利益」であれば足り、債権等を含みます。
なお、但し書きのとおり、形式的には賭博行為に該当するような場合であっても、単に一時的な娯楽のために物を賭けたに過ぎないような場合には、軽微性又は社会的相当性のために処罰しないこととされています。一般的には、その場で直ちに費消される食事等がこれに当たる一方、金銭は、その性質上、その多寡にかかわらず、立件する否かは別にして一時の娯楽と認められないと判断されています。
オンラインカジノで行われている遊戯は、多少とも偶然の事情により勝敗が左右されうるでしょうから、その勝敗に金銭的な価値のある利益(仮想通貨などを含む。)の得喪をかからしめていれば、形式的には賭博罪の対象となることに争いはないでしょう。
(2)常習賭博罪
さらに、一定の要件を満たす場合には、常習賭博罪が成立する可能性もあります。
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。 2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
常習として賭博したか否かは、賭博行為の種類や賭けた金額等を総合して客観的に判断されることになります。一般的には、職業性を帯びている場合や生活の重要な部分を占めるに至っているような場合が該当します。特に賭博の前科がある場合には、重視されるでしょう。
オンラインカジノを継続的な利用し、多額の財産を投下している場合には、常習性が認められてしまう場合もあるでしょう。
(3)国外運営のオンラインカジノを国内で利用する行為の違法性
オンラインカジノのサイトの多くは、海外の会社が運営しています。そのため、これを国内から使用しても違法ではない(グレーゾーン)との言説があります。日本の刑法の対象となる賭博という犯罪は、日本国内で犯罪行為が行われた行為を対象とするのが原則ですから、海外サイトを利用した場合外国で賭博行為が行われたのではないかという疑問が生じることからこのような言説が生まれています。また、一人では賭博はできないため、外国にいる人を相手として賭博をした場合でも日本の刑法が適用されるかという指摘もあります。しかし、以下で述べるとおり、海外サイトの利用であっても、国内から利用する限りは違法行為と判断されるとするのが実務の扱いといえます。
ア 属地主義
オンラインカジノがグレーゾーンと主張される理由の一つに、犯罪行為地の問題があります。
刑法の適用について、日本の刑法は、属地主義を採用しています。すなわち、原則として、日本国内で罪を犯したもののみが、処罰の対象になります(刑法第1条)。例外として、国外犯の処罰規定がある罪(刑法第2条ないし第4条の2)については、国外で犯した場合でも処罰の対象となりますが、賭博罪に国外犯はありません。よって、日本国民が米国に渡航してラスベガスのカジノで賭博を行っても違法ではありません。
つまり、賭博罪の処罰の対象となるためには、「日本国内で賭博行為をした」と認められる必要があります。この点、海外運営のオンラインカジノの場合、賭博の受付や資金決済が海外で処理されているとすると、「日本国内で賭博行為をした」と認められるか否かが問題となります。
もっとも、この点については、「犯罪の構成要件の一部が国内で行われていれば国内犯となる。」という偏在説が判例です。
上記のとおり、賭博罪は、財物を賭けるという意思表示が犯罪となる挙動犯であるため、その意思表示自体を、国内で行っていれば、国内犯として処罰の対象となると解されます。
よって、属地主義の観点から犯罪の成立を否定するのは困難でしょう。
イ 必要的共犯
もう一つの争点として、賭博罪が必要的共犯である点があげられます。必要的共犯とは、構成要件上2人以上の行為者の意思の連絡のある行為を予想して規定された罪を言います。典型例が、贈収賄罪(第197条、第198条)であり、同罪が成立するためには、贈賄者と収賄者の両方が必要です。
賭博罪についても、「財物や財産上の利益の得喪を争う」以上、賭博場開帳者と賭博参加者、又は複数の賭博参加者の行為というように、複数の者の関与が必要とする考えがあります。この必要的共犯の考えをオンラインカジノに当てはめた場合、賭博開帳者が海外に存在し、賭博開帳罪が成立しないのであれば、日本国内で賭博に参加した者のみを処罰することはできない、との結論もあり得ます。
しかし、過去の判例では、賭博開帳者(ゲーム機設置者)の常習賭博罪の成否に関し、「個々の賭客ごとにその存在や内容が明らかにされなくても、(賭博ゲーム機設置者について)常習賭博罪が成立する」 とし、個々の顧客の存在と賭博行為まで立証する必要はないとしたものがあります(最判昭和61年10月28日。賭博罪を必要的共犯とした一審判決が高裁で破棄されています。)
上記判例の趣旨からすると、賭博参加者側の構成要件である賭博の意思表示自体が国内で行われていることが証明されれば、やはり賭博罪の成立肯定されてしまう可能性が高いでしょう。
政府や警察も、その前提のもとで、オンラインカジノの利用は犯罪であるとの答弁や広報活動をしています。また、略式裁判ではありますが、日本から、英国のオンラインカジノにアクセスしてブラックジャックを行ったことにより現に罰金刑の有罪判決を受けた事例も存在します。
そのため、必要的共犯であることを理由に、賭博罪の成立を否定することもほぼ不可能と言ってよいでしょう。
2 逮捕・処罰の可能性とその回避策について
上記のように、日本国内でオンラインカジノを利用する行為は、刑法上の賭博罪、又は常習賭博罪に該当する可能性が高いです。上記は法律の解釈の問題ですので、「違法とは思わなかった」との弁明は通用しません。
特に近年では、警察も捜査に力を入れており、「ビットカジノ」「スポーツベットアイオー」「ベラジョンカジノ」といった、広く宣伝広告をしているサイトの利用者でも、摘発されているケースが存在します。仮に有罪となる場合、初犯であれば罰金刑が予想されます。
とはいえ、オンラインカジノの利用者は相当数存在するため、全員が警察の捜査対象となったり、逮捕にまで至る可能性は低いと思われます。警察庁の発表では、令和5年中の検挙人数は107人とのことであり、利用者数からすれば、相談者が逮捕や処罰の対象となる可能性は低いと思われます。
一方、検挙人数宇は右肩上がりであり、警察が検挙に力を入れ始めている事件類型であることは間違いありません。上記のとおり、法的には犯罪となることは争い難いため、一時期の児童ポルノDVDの所持事案のように、今後、みせしめが如く大量検挙がされる可能性も否定できません。そのため、利用期間が長く、利用金額も多いような場合には、摘発され、逮捕や家宅捜索等の対象となる危険性は、考慮せざるを得ないところです。
これらの不利益や処罰を避けるためには、予め警察に相談又は自首をし、仮に賭博罪に該当する場合には、任意捜査に協力する旨を上申しておく方法等が考えられます。現在の情勢であれば、自ら出頭した者にまで、逮捕や家宅捜索等の強制捜査、処罰を科す可能性は低く、厳重注意程度で終わる可能性も高いと思われます。
出頭の際には、できれば弁護士を同行した上で、上記のグレーゾーンの議論も踏まえた上で可罰的な違法性が認められないことを主張しつつ、任意捜査への協力を誓約して強制捜査を避けるよう上申しておくべきでしょう。また、賭博行為の証拠資料等について既に消去している場合には、証拠隠滅のために消去したわけではないこと等を説明することも必要です。
3 まとめ
オンラインカジノの利用による賭博罪は、まさに現在進行形で警察が摘発に力を入れている事件類型です。今後の捜査の動向について、注視する必要があるでしょう。
突然の逮捕や,前科等の不利益を回避する為には迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。不安な点があれば、まずは専門家に適切な方策と対応を相談することをお勧め致します。
以上