再開発の共有床と区分床

民事|都市再開発法|組合側から共有床を勧められた場合の注意点|共有床の長所と短所、問題点

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

駅前で商業ビルを所有してテナントに貸しています。駅前再開発の計画が持ち上がり、再開発組合が設立されました。テナントオーナー向けに「商業部会説明会」が開催され、再建築後の権利床の取得方法について説明がありました。計画によると、再開発ビルの1階と2階の大半は「共有床」として計画されているようで、大型テナントに貸すことができる、退去リスクが低い、管理の手間がほぼ無い、単独区画の配置について希望が重複した場合の抽選が無いなど、共有床を取得するメリットが説明され共有床の取得が推奨されていました。大型区画の面積に共有持分を乗算して算出される床面積は、単独区画の床面積よりも1割ほど多くなっています。共有床の方が有利なようにも思いましたが、どのように考えるべきでしょうか。

回答:

1、共有床の持分権を取得した場合と単独区画の床について区分所有権を取得する場合のメリットとデメリットは、組合側の説明だけで判断するのではなく、必ず第三者の専門家の意見を聞いてから判断することをお勧めいたします。一般論として、組合の説明のように共有床は、大型区画への賃貸が可能となり賃貸収入が安定するなどのメリットもありますが、自分の持ち物であっても「自由に使えず」「自由に貸せず」「共有持ち分権の売却の困難性」というデメリットもありますので、必ずしも推奨できない取得方法になります。

2、再開発の権利床(権利変換で新しいビルに取得する建物所有権)は、区域内地権者の権利床の取得方法の意向を集計して、組合が「権利変換計画」を策定し、権利変換計画の縦覧を行い、行政庁に権利変換計画の認可申請を行います。行政庁では、商業床である権利床が単独所有でも共有持分であっても、審査に影響はありません。計画全体の適法性などを審査して認可することになります。

3、都市再開発法の権利変換は、都再法80条1項に従って従前試算評価がなされた従前試算評価額に対応する、従後床の割り当てを受けて、権利変換期日に権利が移行することで、区域内地権者は、新たなビルの権利を取得します。権利変換の登記は、権利変換期日の数か月後に、区域内の土地が合筆され所有権保存登記という形で土地の持ち分登記がなされます。建物は未建築なので、建築後に所有権保存登記がなされます。この時、建物の所有権を、区分建物の単独所有で取得するのか、それとも共有持分として取得するのかが、今回問題となっている共有床の問題です。

4、再開発の地権者保護に関する関連事例集参照。

解説:

1、権利変換の意向調査

組合施行方式の第一種市街地再開発事業では、本組合が設立されると事業計画認可公告1か月後の期日(都再法80条1項)を評価基準日として、従前資産評価額を算出し、この評価額に対応する従後床の取得もしくは都再法91条の転出補償金を受領することを内容とする、権利変換計画書が策定され、縦覧され、行政庁に認可申請されます。

※参考書式、権利変換計画書

https://www.shinginza.com/kenrihenkan.pdf

権利変換計画認可の基準は、都再法74条1項と2項で法定されています。

都市再開発法74条(権利変換計画の決定の基準)

1項 権利変換計画は、災害を防止し、衛生を向上し、その他居住条件を改善するとともに、施設建築物、施設建築敷地及び個別利用区内の宅地の合理的利用を図るように定めなければならない。

2項 権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。

これはかなり抽象的な規定となっていますが、日本国憲法29条1項の財産権保障と、都再法20条以下の再開発組合の管理運営方法の諸規定に鑑みると、これは「従前資産の価値を維持する形で」、「各地権者への公平な開発利益の配分を行い」、「組合内の十分な意見聴取と議論を経た上で」策定される必要があることになります。

また、都再法77条の2第3項では、個別利用区という歴史的建造物を残すような特例に関する規定ではありますが、「照応の原則」が規定されており、従前のビジネス環境に「できる限り照応」することが求められており、従来の使用収益関係を可能な限り再現して維持できるように取り計らうことが求められています。これは個別利用区の権利変換計画に関して注意的に規定されているもので、権利変換計画全般でこの考え方に留意することが求められていると解釈することができます。

都市再開発法

第77条の2(個別利用区内の宅地等)

1項 権利変換計画においては、指定宅地の所有者又はその使用収益権を有する者に対しては、それぞれ個別利用区内の宅地又はその使用収益権が与えられるように定めなければならない。

2項 個別利用区内の各宅地の地積は、第七十条の二第二項第三号に規定する面積以上でなければならない。

3項 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。

従って、多くの再開発組合では、権利変換計画を策定するにあたって、「権利変換計画策定基準」を設け、従前地権者のビジネスや居住関係が維持できるように配慮しつつ、権利変換計画が策定される運用が行われています。権利変換計画書は、最終的には、組合事務局と理事会が策定し、理事会決議を経て総会の承認を経て行政庁に認可申請されるものですが、区域内地権者の意向を無視して策定することはできない仕組みになっています。多くの再開発組合で、権利変換基準の説明会が行われたり、商業部会という商業地権者向けの説明会が行われたりします。

再開発組合では、必ず、権利変換計画を策定する前に、「権利変換意向申出書」「取得希望区画申出書」などの意向調査が行われることになります。

2、商業事務所区画の共有床

(1)共有床方式の提案

権利変換の意向調査にあたって、再開発ビルの一番良い区画、例えば、1階入り口正面付近に大型区画を設計し、区域内地権者はこの共有持分を取得し、共有者の組合を結成し、これを一括して管理会社に貸し渡して、大型テナントに転貸するなどして、賃料の持ち分を受け取る方式の提案がなされることがあります。いわゆる「共有床方式」です。

※共有床方式の模式図

共有者組織

一括賃貸↓↑配分

賃貸借契約管理会社

転貸↓↑賃料

大型テナント

この「賃貸借契約管理会社」と共有者組織の契約は、テナント賃料から管理費を引いて地権者にそのまま支払う「パススルー型」と、固定賃料を保証してテナントの有無に関わらず支払う「固定賃料保証型」があります。固定賃料保証型は、いわゆる「サブリース契約」に類似するものとなります。

共有床に対して単独区画を取得する場合は、「単独床」「区分所有床」「区分床」などと言われることがあります。

従前地権者としては、取得希望区画申出書に共有床か単独床かどちらを選ぶか記載する必要があります。その際、組合からは「共有床の場合は共用廊下の面積が減るので効率が良くなり取得できる専有面積が増えますよ、他の人もみんな共有床を選択していますよ、単独床が予定されている場所は端の不利な場所ですよ」、などと勧誘されることが多い様です。

そこで、一般的に再開発組合で説明されることの多い、共有床のメリットと単独床のデメリットを列挙いたします。共有床には美辞麗句が並べられており「これを選択する他ない」という雰囲気の説明が多くなっています。

共有床のメリット:

・大型区画の方が賃料が上がる。

・大型区画の方が退店リスクが少なく、安定収益が望める。

・専門の賃貸管理運営会社による良質テナント入れ替え交渉ができる。

・まちづくりのコンセプトに合った大型優良区画を誘致できる。

・商業環境の変化に合わせたテナントの入れ替えや施設全体の効果的なリニューアルを専門家の立場で行うことができる。

・管理業務を一元化するので、販売促進活動や経費削減活動を効率的に行うことができる。

・共用廊下や仕切り壁の施工が不要となるので、権利者ごとの専有面積を増やすことができる。

区分床のデメリット:

・区分所有床区の配置希望が衝突すると抽選になり希望通りの区画が取得できない。

・取得した区画の配置や規模や性格によりテナント選定の自由度が制限される。

・区分所有者同士の連絡が薄いため入居テナントがバッティングすることがあり雑居ビル化してしまうことがある。

他方、共有床のデメリットは、あまり積極的に説明されないことが多いですが、次のようなものがあります。

共有床のデメリット:

・権利譲渡の際の共有者組織への優先譲渡交渉権が設定される場合がある。譲渡価額も自由に設定できない場合がある。

・共有持分は資産価値が低いとみなされ金融機関からの融資が受けにくい場合がある。

・担保権設定方法に特定の金融機関との融資に制限される場合がある。

・賃貸管理会社が収受する手数料が賃料の20パーセント以上など、想定よりも高率となってしまう場合がある。

・共有物分割請求を制限する規約が定められていることが多い。

これらの規約の詳細は、権利変換計画の段階では未定であることが多く、組合担当者に尋ねても、「詳細を詰めているところであり建物竣工後に確定します」などと不明確な回答がなされることもあります。

(2)民法における共有関係規定

共有床の場合、区分建物の共有となりますから民法の定める共有関係の規定が適用となり、民法が定める共有について理解しておく必要があります。

まず、民法249条(共有物の使用)は、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」と規定しています。

これは、共有者が自己使用する場合の規定です。しかも、親族がひとつの不動産を共有しているような場合に共同使用するような場合の規定であり、再開発の共有床では賃貸管理会社と契約し、テナントと転貸する使用方法になりますので、共有者が自己使用しようと思っても、「賃貸管理会社と賃貸借契約を締結してください」と言われてしまうことになります。その場合は、賃貸管理会社の手数料がありますので、賃貸管理会社に支払う転貸賃料よりも、2割以上、受領する賃料配分金が少なくなってしまう場合があります。自分の物件なのに賃借しなければならないのです。自己所有していると言っても共有床の場合は、持分相当の面積ですら、無償では使用できません。

民法251条(共有物の変更)各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

共有物の変更行為というのは、建物の用途を商業区画から居住区画に変更したりするなどの大きな変更(工事)であり共有者全員の同意が必要となります。

民法252条(共有物の管理)共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

共有物の管理方法というのは、誰に賃貸するのか決めることも含まれます。サブリース(転貸)にする場合は、賃貸管理会社を決めることも含まれます。あなたがもしも、共有床の持ち分の過半数を持っていないのであれば、誰に貸すのか自由に決められないことになってしまいます。共有物の保存行為というのは、破損している共有物を修理したりすることです。

民法265条(共有物の分割請求)

1項 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

2項 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。

民法254条(共有物についての債権)共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

このように民法の規定はありますが、共有床の共有者の組合が結成され、組合の規約が成立すると、共有者の権利に様々な制限が加えられることがあります。共有物に関する取り決めを他の共有者に求める債権は、民法254条で譲渡先の承継人にも行使できることとされています。

3、参考判例

共有床と単独床の評価に関して、問題となった裁判例がありますので紹介します。広島地方裁判所平成3年12月26日市街地再開発事業の権利変換計画における価額確定処分取消請求事件判決

『原告は、本件権利変換計画においては、新築される建物全部が権利者全員による共有であるとされていたにもかかわらず、被告は、一部の権利者にだけ区分床を与えたため、権利者間に不均衡が生じているが、かかる不均衡を考慮せずに算定された価額は、著しく不当であると主張する。

しかし、前掲乙第一号証、証人Aの証言によれば、本件建物は、右認定のとおり区分所有建物であり、本件権利変換計画においては、区分所有権の目的たる建物の部分の全部が権利者全員による共有とされていたのではなく、複数の権利者の共有とされた部分(共有床)と一名の権利者が単独で所有することとされた部分(区分床)とが予定されていたこと、右権利変換計画に基づく権利変換処分により、原告を含も権利者は、共有床を取得し、他の一部の権利者は、区分床を取得したことが認められる。

したがって、一部の権利者にのみ区分床を与えたのは、権利変換計画に則ったものであって、何ら違法な点はないのであるから、その余について判断するまでもなく、原告の主張は失当である。』

この判例は、共有床を割り当てられた地権者が、単独の区分床を割り当てられた地権者との間に不均衡を生じているとして提起された事案でしたが、権利変換計画の段階で共有床と区分床に分かれていたのであり、適正な権利変換計画の認可手続きを経ていれば何ら違法なものでは無いという判断でした。従前資産評価と権利変換の内容の詳細に立ち入った判断ではありませんでしたが、権利変換計画が一旦認可されてしまうと覆すことは一般に難しいということの参考になる判例です。権利変換の無効を争う場合は、具体的な法令違背事由を主張立証していくことが必要になります。

4、権利変換意向調査への対応

(1)共有床と区分床の選択

共有物の持分権を取得した場合のメリットとデメリットは、組合側の説明だけで判断するのではなく、必ず第三者の専門家の意見を聞いてから判断することをお勧めいたします。一般論ではありますが、共有床は、大型区画への賃貸が可能となり賃貸収入が安定するなどのメリットも勿論ありますが、自分の持ち物であっても「自由に使えず」「自由に貸せず」「自由に売却もできない」という不利益があります。自由に売却できないということは、資産価値が低くなってしまうことを意味します。

テナントとの間に介在させる賃貸管理会社の手数料も高額となってしまうことがあり、区分床に比べて多少面積が多くても実際の手取り額が区分床よりも少なくなってしまうことも多いのが実情です。あなたが再開発ビルの共有床の共有持分を取得した場合、固定資産税と都市計画税、ビル全体の管理費と修繕積立金、賃貸管理会社の管理手数料を負担することになり、差し引きで受け取ることができる賃料は僅かな金額になってしまうことがあります。

共有床を取得した場合、不動産の共有持分は登記されますが、実質上「不動産投資信託(いわゆるJリート)」を保有しているのと近い状況になってしまうことがあります。当事務所の見解ですが、一般論として推奨できない取得方法になります。組合によっては、単独の区分床は原則としてお勧めしていない、として事実上区分床を選べないような説明をしてくることもありますが、極めて不適切な説明態度です。虚偽説明があれば手続き全体の違法性に帰結することになります。

(2)従前資産評価や従後床面積も含めた総合的な主張

共有床の選択についての解説は上記の通りですが、組合施行の再開発事業に参加する場合は、共有床か区分床かという問題よりも、そもそも、従前資産評価額が妥当なのか、適正評価と言えるのか、また、従後床として想定される床面積が妥当なのかという問題点があります。

これを考えるには、事業計画全体を精査し、権利床と保留床の割合がどうなっているか、参加組合員が何割の床面積を取得する計画になっているか、施工費の坪単価はどうなっているか、延べ床面積と専有面積の割合(有効率)は相当範囲内か、など詳細な分析検討が必要になります。

一部の組合では、参加組合員と一部の地権者が開発利益を独占し、他の一般地権者や借家権者の権利が蔑ろにされている不当な事業も散見されます。事業計画全体を精査して、開発利益を地権者全体に公平に配分できるような適正な再開発事業を求めていく姿勢も必要となってきます。御心配であれば、再開発事業に詳しい弁護士事務所に御相談なさることをお勧めいたします。

以上です。

関連事例集

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参照条文

民法249条(共有物の使用)各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

民法250条(共有持分の割合の推定)各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

民法251条(共有物の変更)各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

民法252条(共有物の管理)共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

民法253条(共有物に関する負担)1項 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。

      2項 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。

民法254条(共有物についての債権)共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

民法255条(持分の放棄及び共有者の死亡)共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

民法256条(共有物の分割請求)1項 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。

      2項 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。