再開発における等価原則と等価交換

民事|行政|都市再開発法|地権者の利益確保の方法|対策

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

駅前にマンションを所有しており、近隣に再開発の計画があると聞いています。再開発準備組合が設立され、本組合を設立するために、組合設立の同意書の提出を求められています。準備組合の事務局の方と面談し、「モデル権利変換」という建て替え後の床面積の概算を記した書類も受け取りましたが、床面積が1割程減ってしまうようです。組合担当者に対して「容積率が増えたのに床面積が減ってしまうのは困る」と抗議しましたが、「再開発法で等価原則というものがあり、従前資産評価額と等価の不動産を権利変換で取得することになっている。建て替え前の床単価と新築後の床単価は3割以上上昇する見込みであり、床面積が多少減っても時価ベースでは地権者には不利ではない。」という説明でした。等価原則とはどういうものですか?知り合いの不動産業者に相談したところ、「再開発の建て替えは等価交換の建て替えと基本的な構造は同じである。床面積が必ず減るというのはおかしいのではないか?」とアドバイスを頂きました。等価原則、等価交換とはどういうものですか?

回答:

1、都市再開発法における等価原則とは、権利変換により与えられる建物所有権は、施行地区内の従前土地建物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況と、権利変換により与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、権利者相互間に不均衡が生じないように、かつ、新しい地上権つき建物の評価額と従前権利の評価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならないという原則です(都市再開発法77条2項)。都市再開発による建て替えは権利変換という手続により、従前の建物権利が消滅し、建て替え後のビルの権利を取得する構造になっています。従前権利が消滅するのですから、従後の新しい建物についても同じ価格の建物を取得できるようにする必要があります。このように従前の権利者が損害を被らないようにするのが等価原則です。従前の建物を価額で評価し、それに相当する、施設建築物の区画の割り当てを受けるのです。等価原則は、従前の権利者が損害を受けないようにするという原則ですから、準備組合の事務局担当者の説明のように、等価原則を従後の建物の床面積が減少してしまうことの理由に使うのは誤りです。

2、これに対して、等価交換というのは、地権者とデベロッパーの任意の契約による建て替えの方式で、地権者が、敷地を提供し、他方でデベロッパーが建設費を負担して、ビルの建て替えを進める方式です。地権者とデベロッパーの床面積の割り振りについては、地権者が提供する土地の価格と建築費の割合で土地建物の権利を割り振ることになります。地権者とデベロッパーが協力して建て替えを進める点で、都市再開発法の建て替えと類似するものがあり、再開発の場合も従後の建物の権利の割合について、等価交換と同様の割合になると考えられますが、一般に、再開発組合施行の市街地再開発事業では、デベロッパー取得割合が大きくなる傾向があり、注意が必要です。お困りの場合は経験のある弁護士事務所に一度ご相談なさってみると良いでしょう。

解説:

1、第一種市街地再開発事業

都市再開発法による市街地再開発手続きは、火災が延焼しやすい木造密集区域の建物をまとめて不燃建物に更新したり、不燃建物であっても建築基準法の耐震基準の改訂に伴って現行耐震基準を満たさなくなってしまったいわゆる既存不適格の旧耐震建物を建て替えることにより、都市の防災機能を高め、商業機能を高めることにより国民経済の振興を図るという公共目的のために、区域内建物の一体建て替え手続きを定めたものです。

都市再開発法第1条(目的) この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

都市再開発法では、民間主導の第一種市街地再開発手続きと、公共団体主導の第二種市街地再開発手続きが定められています。前記のような都市機能の更新が必要であるという事情は変わりませんが、第二種市街地再開発事業では、国際空港整備やオリンピックや国際万国博覧会のために一帯整備が必要であるなど特に公共性・緊急性の高い事業について、事業者となる地方自治体などが一旦すべての権利を取得して、施設建築物整備後に従前地権者に再度権利を割り当てる「管理処分方式」で建て替えが行われます。

都市再開発法第3条の2

都市計画法第十二条第二項の規定により第二種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、次の各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。

第2号のロ 当該区域内に駅前広場、大規模な火災等が発生した場合における公衆の避難の用に供する公園又は広場その他の重要な公共施設で政令で定めるものを早急に整備する必要があり、かつ、当該公共施設の整備と併せて当該区域内の建築物及び建築敷地の整備を一体的に行うことが合理的であること。

これに対して、第一種市街地再開発手続きにおいては、区域内地権者の発意と申請により再開発手続きを進めることができます。

民間の地権者が集まって再開発事業を進める第一種市街地再開発事業では、施行区域内の土地所有者や借地権者が5名以上集まって、事業計画を定め、施行区域内の宅地所有権者及び借地権者の面積と人数で、それぞれ3分の2以上の同意を得て、組合設立認可申請をすることができます。

都市再開発法第11条(認可)

第1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)

第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

再開発組合の設立が認可されると、権利変換計画案を作成し、組合決議を経て都道府県知事に対して権利変換計画認可申請をすることにより、権利変換期日に、借家権や借地権など施行区域内の従来の権利が一旦全て消滅し、敷地所有権は一旦施行者である再開発組合に帰属することになり、複雑な権利関係を整理して、建て替えを円滑にすすめることができるようになります。区分所有法62条1項では、建て替え決議に5分の4の多数決が要求されていますので、手続き要件が緩和されていることになります。

区分所有法62条(建替え決議)抜粋 1項 集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

再開発ビルの竣工後には、土地建物の従来の権利者に対して、それぞれの従前権利の価額に対応する、新しい建物の権利が割り当てられることになります。地権者から見ると、権利変換期日に「組合に権利を取られる」ことになりますが、地権者は再開発組合の構成員である組合員でもありますから、権利の直接単独保有から、組合を通した間接的な共有に姿を変えると考えることができます。

2、権利変換手続き

都市再開発法における権利変換とは、都市再開発法の第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の要件に従って都道府県に申請することにより、権利変換期日に当該区域内の土地建物の権利が一括して移転し、建物所有権を目的とする権利は全て消滅し、建て替え後の新しい建物について、従前の権利者に対して権利が割り当てられる手続です。

権利変換は、組合が定めた権利変換計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却(取り壊し)及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。

(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。

(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。

(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。

権利変換計画書の書式を御案内致します。

https://www.shinginza.com/db/kenrihenkan.pdf

権利変換計画が規定されている都市再開発法73条1項を引用します。

都市再開発法第73条(権利変換計画の内容)

権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 配置設計

二 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

四 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額

五 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利

七 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所

八 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額

九 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額

十 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

十一 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利

十二 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について賃借権を有する者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けた者)又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けた者で、当該賃借権に対応して、施設建築物の一部について賃借権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

十三 前号に掲げる者に賃借権が与えられることとなる施設建築物の一部

十四 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施設建築物の一部について配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十五 前号に掲げる者に配偶者居住権が与えられることとなる施設建築物の一部

十六 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要

十七 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十八 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

十九 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

二十 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

二十一 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所

二十二 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法

二十三 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

二十四 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期

二十五 その他国土交通省令で定める事項

通常、従来あった建物を解体して新しい建物を建築する場合、建物の除却や借家権の解除などの立退きの問題は、ひとつひとつの権利者について個別に同意を得て権利消滅の法律効果を発生させていく必要がありますが、権利変換手続を用いることにより、再開発施行区域内の権利関係を一度に移動させることができ、建物の建て替えがスムーズに進むというメリットがあります。

憲法29条1項 財産権は、これを侵してはならない。 民法206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

近代私法の「所有権絶対の原則」からすれば、土地や建物を所有する所有権者は、自分の土地建物をどのように利用しようとも(建て替えるか建て替えないかは)自由(憲法29条1項、民法206条)であるのが原則ですが、特に都市部・市街地の密集地域においては、大規模都市災害に備えて防災機能を高める必要から不燃建物の比率を上げる必要がありますし、道路区画も避難等に備えて整備する必要があります。

また、国民経済の発展のため商業機能を高めるには建物の高層化が必須であり、所有権者だからといって、駅前に木造2階建ての店舗を永久に存続させることは、公共の福祉の観点から許容されないことになります。都市再開発法の権利変換手続きにより、都市部の再開発促進区域においては、個別の同意を経なくても、建物の建て替えが進行してゆくことになります。

3、再開発手続きにおける等価原則

土地や建物などの従前権利者に対して、権利変換により与えられる建物所有権は、施行地区内の従前土地建物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況と、権利変換により与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、権利者相互間に不均衡が生じないように、かつ、新しい地上権つき建物の評価額と従前権利の評価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならないと規定されています(法77条2項)。これを、権利変換手続きにおける均衡原則、等価原則と言います。

都市再開発法第77条(施設建築物の一部等)※抜粋

第1項 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について借地権を有する者及び施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。

第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

4、等価原則に関する準備組合担当者の説明

前記のように都市再開発法77条2項に、権利変換の前後で価額に著しい差額を生じてはならないという等価原則を定めた規定がありますので、準備組合担当者が、「都市再開発法で権利変換の前後で価値が同じになるように定めなければならない規定になっているから、床面積を増やすことはできない」という説明は、この規定を根拠としていると思われます。

しかし、そもそも、権利変換に関する均衡の原則や等価原則が定められた制度趣旨は、都市再開発法第一条の目的規定までさかのぼれば、「都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与すること」という公益目的を実現するにあたって、権利者相互の公平性を担保するために、権利の均衡や権利変換前後の等価性が求められていると解釈することができます。従前の権利者は、関係者の多数意見により、再開発の結果、以前に有していた権利を失って、建物の区分所有権を取得することになる訳ですから、開発の前と後では同様の価値の権利が保障されていなくてはならない、という当然のことを定めたものと解されます。権利を保障する規定ですから、権利が制限される根拠にはならないのですから、準備組合の担当者の説明は誤りと言わざるを得ません。

権利変換前後の等価性を具体的に検討してみましょう。

(1) 従前資産の評価(都市再開発法73条1項3号)

従前資産:施行地区内の宅地若しくはその借地権又は施行地区内の土地に権原に基づき建築物を有する者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

評価基準日:都市再開発法80条により、組合設立認可公告から31日目(都市再開発法11条2項、3項により事業計画を定めずに設立した場合は、事業計画認可公告から31日目)

評価方法:近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額

都市再開発法第80条(宅地等の価額の算定基準) 第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。

(2) 従後資産の評価(都市再開発法73条1項4号)

従後資産:従前資産に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の価額の概算額

評価基準日:都市再開発法81条により、組合設立認可公告から31日目(都市再開発法11条2項、3項により事業計画を定めずに設立した場合は、事業計画認可公告から31日目)。これは従前資産の評価基準日と同じ扱いです。

評価方法:敷地については、都市再開発法施行令28条1項により、「従前宅地及び従前借地権の価額の合計額と当該施設建築敷地の整備に要する費用の額とを合計した額」又は「基準日における近傍類似の土地の価額を参酌して定めた当該施設建築敷地の価額の見込額を超えない範囲内において定めた当該施設建築敷地の価額」いずれか低い額から、「当該敷地価額に基準日における近傍同種の建築物の所有を目的とする地上権の価額がその敷地の価額に占める割合を参酌して定めた施設建築物の所有を目的とする地上権の価額が当該敷地価額に占める割合を乗じて得た額」を控除した額とします。つまり、地上権敷地権の施設建築物を建設した後に、地上権価額を控除した後にも残る敷地所有権としての財産価値を評価します。

建物については、都市再開発法施行令28条3項により、「施設建築物の整備に要する費用のうち当該施設建築物の一部の整備に要する費用」又は「基準日における近傍同種の建築物の価額を参酌して定めた当該施設建築物の一部の価額の見込額をこえない範囲内において定めた当該施設建築物の一部の価額」いずれか低い額に、「敷地価額に地上権の割合を乗じて得た額に地上権の共有持分の割合を乗じて得た額を加えた額」とする。つまり、建物整備費用又は権利変換後の床面積に対応する近隣新築建物の時価相当額に、地上権敷地権の価額を加算したものが、従後資産評価の概算となります。

都市再開発法第81条(施設建築敷地及び個別利用区内の宅地等の価額等の概算額の算定基準)権利変換計画においては、第七十三条第一項第四号、第九号、第十四号又は第十五号の概算額は、政令で定めるところにより、第一種市街地再開発事業に要する費用及び前条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない。

都市再開発施行令第28条(施設建築敷地等の価額の概算額)抜粋

第1項 法第七十三条第一項第四号に掲げる施設建築敷地の価額の概算額は、同項第三号、第十六号及び第十七号に掲げる宅地及び借地権の価額の合計額と当該施設建築敷地の整備に要する費用の額とを合計した額(以下「合計価額」という。)以上であり、かつ、法第八十条第一項に規定する三十日の期間を経過した日(以下この章及び付録第三において「基準日」という。)における近傍類似の土地の価額を参酌して定めた当該施設建築敷地の価額の見込額を超えない範囲内において定めた当該施設建築敷地の価額(以下「敷地価額」という。)から、当該敷地価額に基準日における近傍同種の建築物の所有を目的とする地上権の価額がその敷地の価額に占める割合を参酌して定めた施設建築物の所有を目的とする地上権の価額が当該敷地価額に占める割合(以下「地上権の割合」という。)を乗じて得た額を控除した額とする。この場合において、合計価額が当該施設建築敷地の価額の見込額を超えるときは、当該施設建築敷地の価額の見込額をもつて敷地価額とする。

第3項 法第七十三条第一項第四号に掲げる施設建築物の一部等の価額の概算額は、施設建築物の整備に要する費用のうち当該施設建築物の一部の整備に要するものを償い、かつ、基準日における近傍同種の建築物の価額を参酌して定めた当該施設建築物の一部の価額の見込額をこえない範囲内において定めた当該施設建築物の一部の価額(以下「建築物価額」という。)に、敷地価額に地上権の割合を乗じて得た額に第二十六条の規定により定めた地上権の共有持分の割合を乗じて得た額を加えた額とする。この場合において、当該施設建築物の一部の整備に要する費用の額が当該施設建築物の一部の価額の見込額をこえるときは、当該施設建築物の一部の価額の見込額をもつて建築物価額とする。

(3) 検討

このように見てくると、従前資産の評価については、近隣同種の土地建物の取引価格を考慮して定める相当の価額とされていますが、当該従前資産の土地は、都市計画決定により、指定容積率から計画容積率への緩和が認められ、再開発促進区を定める都市計画決定を経て、再開発の事業計画の認可決定があり、これが公告された31日目の時点の評価となることから、当該土地は、事業計画における計画容積率の建物を建てることができる土地として評価すべきことになります。都市再開発法80条1項の「近傍同種の土地」というものは、再開発計画を考慮しなければ全く観念しえないことになります。再開発計画を考慮するならば、事業計画が認可された再開発計画の計画容積率を基準として、近傍の同程度の容積率を持つ土地の価格を基準として評価すべきことになるでしょう。再開発区域外の近傍には緩和された容積率に見合う宅地は存在しないこともありますから、比較すべき近傍同種の土地価格というのは、容積率100%当たりの地価と考えることが一つの解釈方法となるでしょう。

また、従後資産の評価については、整備費用の項目も出てきますが、基本的には基準日における近傍同種の建築物の価額を参酌して定めた当該施設建築物の一部の価額の見込額に、当該建物の地上権の時価相当額を加算したものとなりますが、一般に、高層建物の敷地権は、敷地全体面積に敷地権共有持分割合を乗算しますと、数平方メートル以下の面積に相当するまで減少していることが多くなっていますので、従前資産の土地の大半を譲渡して、譲渡の代償として新築建物を取得しているのと同じことになります。これは等価交換方式による建物の建て替えスキームと全く同じと考えることができます。つまり、従前資産も従後資産も正当に正確に評価するならば、基準日の前後で、権利変換の前後で、地権者が所有している権利に変化は生じることはありませんので、都市再開発法77条2項の「均衡原則」「等価原則」は、いわば当たり前のことを規定しているに過ぎないのです。もしも、権利変換の前後で大きく資産価値の変化を生じている場合には、他の地権者にそのしわ寄せが起こっていることになるので、公平性を担保するために、このような規定が設けられていると考えることができます。

このように見てくると、法77条2項の等価原則は、地権者を保護する趣旨のものであって、地権者の権利を制限する理由に援用することは全く出来ない規定であると分かります。準備組合担当者が、権利変換比率が低いことの根拠にこの条文を引用しているのは誤りと言えるでしょう。保留床が増えすぎて権利床が減ってしまうのは、多くの場合、無駄な建築工事が多すぎて事業費が膨らみ過ぎてしまっていることが原因です。勿論、権利変換の前後で床面積が増えることも当然有り得ることです。

5、等価交換方式

再開発による建て替えと良く対比されるものとして、「等価交換方式」による建て替え事業がありますので、簡単にご説明いたします。

等価交換方式は、ビルやマンションの区分所有者が、建物の老朽化などにより建て替えを必要としている時に、どうしても建設費を負担することが難しい場合は、デベロッパーとの間で「等価交換契約」を締結し、デベロッパーと共同で建物の建て替えを行う方式です。これは、区分所有者とデベロッパーの契約ですから、行政が関与する再開発事業とは手続きの進め方が異なります。通常はまず最初にデベロッパーとの間で「等価交換基本協定書」を締結し、事業内容が固まってきた段階で、「等価交換契約書」を締結することになります。

等価交換契約書では、①一旦区分所有者の全権利をデベロッパー等に譲渡し、デベロッパー等が新しいマンションを建設した後に、区分所有者が新しいマンションと敷地の再譲渡を受ける全部譲渡方式と、②区分所有者がデベロッパーに建て替えを依頼し、その建設費を、所有している敷地の一部をデベロッパー等に譲渡する代物弁済で支払う、一部譲渡方式があります。デベロッパーは全部譲渡方式での契約締結を求めてくることもありますが、区分所有者としては、一部譲渡契約を選択することをお勧めいたします。どちらの方式を選択しても、区分所有者とデベロッパー等が取得する床面積がどのような割合になるのか、ということが最も重要な契約事項となります。

等価交換契約で等価となるのは、「区分所有者が譲渡する一部の敷地」と、「デベロッパー等が建設費を負担して建てた建物」の価格です。これが等価になることにより、区分所有者は現金の持ち出しを負担することなく、建物を建て替えて新しい建物の所有権を取得することができます。都市再開発法による建て替えでは建物の敷地利用権は地上権となるのが原則ですが、等価交換方式では所有権を敷地利用権とするのが原則となります。

この契約は土地と建物を交換するものですが、実際には土地と建物を相互に譲渡する複合的な契約となっています。それぞれの売買代金の高低により、区分所有者とデベロッパー等の取得する床面積の割合が上下することになります。地権者とデベロッパーの建築後床面積の割合は、半々になったり、建設費がかさむ時は地権者4対デベロッパー6の割合で分配することがあります。

建て替えの際の床面積の割合は、当然に、新築ビルの総床面積により影響を受けます。建築基準法59条2項の「総合設計制度」による容積率の緩和措置や、マンション建て替え円滑化法105条の「容積率の特例」による容積率の緩和措置を受けることが出来る場合があり、それぞれどのような緩和措置になり、どれくらいの床面積の建物を建築できるのか精査が必要です。

※参考URL

国土交通省HPより総合設計制度の説明ページ

東京都マンション建替法容積率許可要綱の制定について

6、個人施行の市街地再開発事業の権利床比率

興味深いデータがありますので御紹介致します。過去40年以上の民間市街地再開発事業である第一種市街地再開発事業の権利床と保留床の割合を集計したものです。

公益社団法人全国市街地再開発協会発行、日本の都市再開発第8集、934ページより

個人施行139地区、権利床平均割合53パーセント(保留床47パーセント)

組合施行525地区、権利床平均割合39パーセント(保留床61パーセント)

都市再開発法7条の13第1項本文は、個人施行の市街地再開発事業で、土地建物の権利者全員の同意を認可の要件にしています。ここで個人施行というのは、区域内地権者5人以上の発起人による認可申請という組合施行要件を満たさない場合に、区域内地権者が個人で認可申請する方式の市街地再開発事業です。

都市再開発法7条の13第1項 第七条の九第一項の規定による認可を申請しようとする者は、その者以外に施行地区となるべき区域内の宅地又は建築物について権利を有する者があるときは、事業計画についてこれらの者の同意を得なければならない。

これは、事実上、手続きを進めるために、等価交換方式の建て替え事業と同じような意思形成が必要になることを意味しますが、そのような事業では、全国平均でほぼ5対5の割合で、地権者とデベロッパーが分配していることになります。これは、地権者の意思形成次第で、組合施行の場合でも、この数値に近づけることは不可能ではないことを意味しています。

7、さいごに

再開発法の条文を読むと、都市再開発法11条1項の組合施行方式の再開発事業では区域内地権者が主体であり、建設費やノウハウを提供する「参加」組合員は補助的な役割を期待されているように読めますが、実態は主客転倒の状態となっていることが多いと気づかされます。参加組合員が主体で、地元地権者が脇役のような形になっていることが多いのです。参加組合員が準備組合や再開発組合の事務局を実質的に運営し、地元地権者である再開発組合理事は手続きの方向性に意見を出すことが事実上難しいケースが多いのです。

このような不均衡は、地権者が取得する権利床と参加組合員が取得する保留床の比率にも現れています。

前記のとおり通常の等価交換方式による建て替え事業であれば、地権者とデベロッパーは、床面積を50対50で(つまり半分ずつ)わけあったり、建設費がかさんでしまった場合でも、地権者が4割、デベロッパーが6割などの床面積割合で、十分に建て替え事業を遂行することができるはずですが、組合施行の再開発事業の場合は、地権者が3割でデベロッパーが7割とか、地権者が2割でデベロッパーが8割という事業もありますし、中には地権者が1割未満でデベロッパーが9割以上という過度に偏ってしまった計画もあります。この割合が組合員に知らされず、配布された資料からは読み取りにくくなっている組合も多いのです。

行政認可された市街地再開発事業の都市計画決定では、計画容積率が、従前指定容積率の2倍以上に増加しているケースも珍しくありませんが、緩和された容積率、つまり、従前建物よりも増えた床面積部分を全て保留床として売却してもなお、建設費が不足するということは、事業計画のどこかに問題があると言わざるを得ません。

等価交換方式や総合設計制度を用いて建て替えした場合の床面積をシミュレーションし、これと同様の床面積を取得できないか、再開発組合の内部でも議論を深めていく必要があります。本組合の設立前であれば、準備組合の段階で、事業計画案を練り直すことが必要かもしれません。

以上です。

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参照条文

建築基準法

第五十九条の二(敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例)

1項 その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建蔽率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、第五十二条第一項から第九項まで、第五十五条第一項、第五十六条又は第五十七条の二第六項の規定による限度を超えるものとすることができる。

2項 第四十四条第二項の規定は、前項の規定による許可をする場合に準用する。

マンション建て替え円滑化法

第百五条(容積率の特例)

1項 その敷地面積が政令で定める規模以上であるマンションのうち、要除却認定マンションに係るマンションの建替えにより新たに建築されるマンションで、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建ぺい率(建築面積の敷地面積に対する割合をいう。)、容積率(延べ面積の敷地面積に対する割合をいう。以下この項において同じ。)及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率は、その許可の範囲内において、建築基準法第五十二条第一項から第九項まで又は第五十七条の二第六項の規定による限度を超えるものとすることができる。

2項 建築基準法第四十四条第二項、第九十二条の二、第九十三条第一項及び第二項、第九十四条並びに第九十五条の規定は、前項の規定による許可について準用する。