再開発の反対運動

都市再開発法|再開発に反対したい場合の手続きと方法、対策|再開発組合設立決議に臨む際の留意点

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

駅前にマンションを所有して居住しています。数年前から再開発の話がありましたが、このたび、「再開発事業の都市計画決定」というものが市役所から発表され、もともとの容積率は400%程度だったのですが、区域内一帯が一律で800%とする容積率の緩和が認められました。

しかし再開発準備組合では、建て替え後の床面積の配分について、従来の面積の8割程度の床面積しか権利床として与えられないという説明を行っています。「再開発ビルは新築で坪単価が大幅に増加するので売却するなどした場合の市場価格は増加している」、「事業費が掛かるので保留床の面積が増えてしまうのは仕方ない」、と組合担当者は言います。

これに反発した一部地権者が「住民の権利を守る会」という組織を立ち上げて再開発の反対運動をやっています。勉強会に行きましたが「還元率120パーセントも不可能ではない」と主張していました。準備組合側と反対運動の主張が正反対になっています。

どちらの主張が正しいのでしょうか、反対運動に参加すれば権利を実現できますか?

回答

1 再開発事業には、さまざまな形態がありますが、ご相談の場合は、都市開発決定がなされ、再開発準備組合が再発事業の計画の中心となっていることから、市街地再開発組合が施工者となって行われる第一種市街地再開発事業であると考えられます。この手続きの場合、準備組合が準備を進め、その後、市街地再開発組合が設立され、この組合が再開発の対象となる土地や建物を権利変換という手続きにより取得することにより、既存建物の解体、新しい建物の注文者となって再開発の事業が進んでいくことになります。この市街地再開発組合は、準備組合と区別するために本組合と呼ばれていますが、この本組合設立には、都道府県知事の認可が必要であり、認可を得るためには、本組合の定款と事業計画について、地権者(施工地区内の土地の所有者と借地権者)のそれぞれ3分の2以上の人数の同意(かつ地権者の頭数だけでなく面積においても全体で3分の2以上の同意)が必要とされています。従って、反対運動側の地権者の人数等が本組合設立の要件を満たさない限りは、本組合が設立できないことになり、本組合の定款変更や事業計画の変更をしたうえで、同意を求めていくことになりますので、どちらが正しいかというより、地権者が自部の権利としてどの程度の還元率を主張するか、という問題になります。ご相談の場合も、準備組合の作成した事業計画について還元率が低すぎるという地権者が3分の1になれば、事業計画の変更が必要になります。どちらの言い分が正しいかというより、地権者が納得できる事業計画なのか否かという問題です。但し、一般論ですが、準備組合の中心となって事業計画を作成するのは、実質的には地権者ではなく、建築費等を負担するデベロッパー、参加組合員ですから、事業計画としては、保留床の確保、事業により利益を得ることが第一となることは否定できないでしょう。地権者としては、自らの権利の確保のためには準備組合の言いなりになるのではなく、事業の妥当性を自ら検討する必要があります。

2 土地都市再開発法に基づく市街地再開発事業は、区域内地権者の発意による第一種市街地再開発事業、いわゆる民間の都市開発と、地方自治体などが主導して行われる第二種市街地再開発事業があります。第一種市街地再開発事業では、再開発組合設立認可公告と、事業計画の認可公告の31日目の評価基準日における従前資産の評価額と同額の建て替えビルを「権利変換」という手法で権利を移行させ、区域内建物の一括建て替えを促進する仕組みになっています。

3 従前資産の評価方法は、都市再開発法80条1項で、事業計画認可公告の31日目である評価基準日における、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」とされています。

4 民間の再開発手続きである第一種市街地再開発事業では、この「従前資産」に対応する再開発ビルの権利床を現価床として割り当てることで、つまり権利変換することで、再開発ビルの専有部分の権利を取得することができます。再開発ビルの割り当てられた面積を従前床面積で割り算した数値を「還元率」「権利変換率」と言います。再開発ビルの面積が従来の面積と全く同じであれば、還元率・権利変換率は100パーセントとなります。通常、従前建物は老朽化しており、木造可燃建物であったり、コンクリート造であっても現行耐震基準を満たさない古い建物であることが多く、不燃耐震建物である新築の再開発ビルよりも坪単価が安くなっていることが多いので、準備組合担当者が言う「多少面積が減っても資産価値は逆に上がっている」というのは一概に間違いとは言えません。

5 他方、再開発事業で認められた容積率の緩和分を「開発利益」と言いますが、再開発ビルの床面積の大半を参加組合員や事業協力者が取得してしまうのであれば、地権者が開発利益をほとんど享受できない計画になっていると言わざるを得ません。地権者が区域内の土地を全て供出して再開発区域内を再整備するのですから、地権者が主体となって開発利益も享受できるのが原則であるはずです。都市再開発法の条文構造でも、あくまでも地権者が主体となって発議し再開発組合を設立し第一種市街地再開発事業を遂行していくことが規定されており、参加組合員は再開発事業を推進するために地権者の手助けをする立場であるに過ぎません。

6 このような都市再開発法の元来の制度趣旨を実現するために、地権者自身が都市再開発法と再開発手続きを勉強し、準備組合事務局に意見を提出し、区域内地権者の意思形成に積極的に参加することは何らおかしいことではありません。しかし、都市再開発手続きは、都市計画法や、都市再開発法や、建築基準法や、様々な法令手続きに関する膨大な規則に従って進められていくものですから、やみくもに反対運動をしても、準備組合事務局から「実現性の無い反対意見である」と批判されてしまい、準備組合理事会や区域内地権者の多数の理解を得ることができなければ、区域内地権者の多数から「訳も分からずごねているだけで、再開発を邪魔しようとしている変な人々」という目で見られてしまい、理事会決議や総会決議で反対意見を集めることができず、多数決で押し切られてしまうことになります。御心配であれば、都市再開発手続きに経験のある弁護士に相談しながら、準備組合理事会や、区域内地権者の意思形成に努力なさると良いでしょう。

7 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 都市再開発法による第一種市街地再開発事業

都市再開発法による市街地再開発手続きは、火災が延焼しやすい木造密集区域の建物をまとめて不燃建物に更新したり、不燃建物であっても建築基準法の耐震基準の改訂に伴って現行基準を満たさなくなってしまったいわゆる既存不適格の旧耐震建物を建て替えることにより、都市の防災機能を高め、商業機能を高めることにより国民経済の振興を図るという、公共目的のために、区域内建物の一体建て替え手続きを定めたものです。

都市再開発法第1条(目的)
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

都市再開発法では、民間主導の第一種市街地再開発手続きと、公共団体主導の第二種市街地再開発手続きが定められています。前記のような都市機能の更新が必要であるという事情は変わりませんが、第二種市街地再開発事業では、国際空港整備やオリンピックや国際万国博覧会のために一帯整備が必要であるなど特に公共性・緊急性の高い事業について、事業者となる地方自治体などが一旦すべての権利を取得して、施設建築物整備後に従前地権者に再度権利を割り当てる「管理処分方式」で建て替えが行われます。

都市再開発法第3条の2
都市計画法第十二条第二項の規定により第二種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、次の各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。
第2号のロ 当該区域内に駅前広場、大規模な火災等が発生した場合における公衆の避難の用に供する公園又は広場その他の重要な公共施設で政令で定めるものを早急に整備する必要があり、かつ、当該公共施設の整備と併せて当該区域内の建築物及び建築敷地の整備を一体的に行うことが合理的であること。

これに対して、第一種市街地再開発手続きにおいては、区域内地権者の発意と申請により再開発手続きを進めることができます。

民間の地権者が集まって再開発事業を進める第一種市街地再開発事業では、施行区域内の土地所有者や借地権者が5名以上集まって、事業計画を定め、施行区域内の宅地所有権者及び借地権者の面積と人数で、それぞれ3分の2以上の同意を得て、組合設立認可申請をすることができます。

都市再開発法第11条(認可)
第1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

再開発組合の設立が認可されると、権利変換計画案を作成し、組合決議を経て都道府県知事に対して権利変換計画認可申請をすることにより、権利変換期日に、借家権や借地権など施行区域内の従来の権利が一旦全て消滅し、敷地所有権は一旦施行者である再開発組合に帰属することになり、複雑な権利関係を整理して、建て替えを円滑にすすめることができるようになります。

そのうえで、再開発ビルの竣工後に、土地建物の従来の権利者に対しては、それぞれの従前権利の価額に対応する、新しい建物の権利が割り当てられることになります。地権者から見ると、権利変換期日に「組合に権利を取られる」ことになりますが、地権者は組合の構成員である組合員でもありますから、権利の直接単独保有から、組合を通した間接的な共有に姿を変えると考えることができます。

2 再開発手続きにおける従前床の「評価」と「権利変換手続き」

都市再開発法では、「権利変換手続き」という手法を使って建物の建て替えを実現する仕組みになっています。

権利変換とは、組合が定めた計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

  1. (1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。
  2. (2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。
  3. (3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。
  4. (4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。

面積と人数で3分の2以上という多数の意思形成は必要ですが、逆に言えば、区域住民の大多数が同意できるような計画を提示できれば、3分の1に満たない反対があっても事業を進めることができるように法令が整備されています。

この、権利変換計画を定めるにあたって、従前床と新しい床の評価が「著しい差額が生じないように」定めなければならないとされており(等価原則)、また、「与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように」定めなければならないとされています(都市再開発法77条2項)。つまり、従前床の評価が高ければ、従後床の価値も高くなり(床面積が広くなり)、また、建設資金を分担する参加組合員に与えられる床面積も、従前床の評価額と保留床処分金の価額とを比較して算定されることになります。

都市再開発法77条第2項
前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

従って、再開発手続きにおいて、従前床の評価は各権利者にとって極めて重大な問題であると言えます。都市再開発法では、従前床の評価は、次の通り定められています。

都市再開発法第80条(宅地等の価額の算定基準)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。
第2項 第七十六条第三項の割合の基準となる宅地の価額は、当該宅地に関する所有権以外の権利が存しないものとして、前項の規定を適用して算定した相当の価額とする。

第81条(施設建築敷地及び個別利用区内の宅地等の価額等の概算額の算定基準)
権利変換計画においては、第七十三条第一項第四号、第九号、第十四号又は第十五号の概算額は、政令で定めるところにより、第一種市街地再開発事業に要する費用及び前条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として定めなければならない。

つまり、評価基準日(組合設立認可および事業計画認可公告から30日後)における、「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額」により評価すべきとされています。

実際の再開発組合実務においては、再開発組合設立後に総会決議により「従前資産評価基準」を策定し、これに基づいて組合が従前権利者の権利を査定し、取得住戸選定手続きを経て、権利変換計画案が作成され、これが再開発組合の総会決議で承認されることにより、評価が定まることになります。権利変換計画が決議されると、2週間の期間、公共の縦覧に供されます(都市再開発法83条1項)。縦覧手続きでは、再開発組合事務所などにおいて関係図書を閲覧することができます。

都市計画決定後に本組合設立が認可されますので、評価基準日は容積率を緩和する都市計画決定よりも後の日付となっていますが、通常の再開発実務では、従前資産評価に容積率の緩和分を十分に加味せずに従前資産価格を見積もりしている事例が多くなっています。

都市再開発法第83条(権利変換計画の縦覧等)
第1項 個人施行者以外の施行者は、権利変換計画を定めようとするときは、権利変換計画を二週間公衆の縦覧に供しなければならない。この場合においては、あらかじめ、縦覧の開始の日、縦覧の場所及び縦覧の時間を公告するとともに、施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者にこれらの事項を通知しなければならない。
第2項 施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者は、縦覧期間内に、権利変換計画について施行者に意見書を提出することができる。
第3項 施行者は、前項の規定により意見書の提出があつたときは、その内容を審査し、その意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは権利変換計画に必要な修正を加え、その意見書に係る意見を採択すべきでないと認めるときはその旨を意見書を提出した者に通知しなければならない。
第4項 施行者が権利変換計画に必要な修正を加えたときは、その修正に係る部分についてさらに第一項からこの項までに規定する手続を行なうべきものとする。ただし、その修正が政令で定める軽微なものであるときは、その修正部分に係る者にその内容を通知することをもつて足りる。
第5項 第一項から前項までの規定は、権利変換計画を変更する場合(政令で定める軽微な変更をする場合を除く。)に準用する。

この権利変換計画に異議のある利害関係者(従前床の評価額が低すぎると考える組合員も含む)は、縦覧期間内に組合に対して意見書を提出することができます(法83条2項)。意見書が採用されなかった場合は、異議のある利害関係者は、各自治体の収用委員会に裁決の申請をすることができ(法85条)、収用委員会の裁決に不服がある場合は、国土交通大臣に対する審査請求や(土地収用法129条)、地方裁判所に行政訴訟を提起することができます(土地収用法133条1項)。

但し、行政処分には公定力がありますので(行政事件訴訟法3条2項)、権利変換処分は一旦有効に成立しており、社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、裁量権の範囲内にあるものとして違法にはならないとされています(最高裁昭和52年12月20日判決など)。明確な法令違反があるなどの場合でない限り、一般的には困難な手続きと言えます。

都市再開発法

第85条(価額についての裁決申請等)
第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額について第八十三条第三項の規定により同条第二項の意見書を採択しない旨の通知を受けた者は、その通知を受けた日から起算して三十日以内に、収用委員会にその価額の裁決を申請することができる。
第2項 前項の規定による裁決の申請は、事業の進行を停止しない。
第3項 土地収用法第九十四条第三項 から第八項 まで、第百三十三条及び第百三十四条の規定は、第一項の規定による収用委員会の裁決及びその裁決に不服がある場合の訴えについて準用する。この場合において必要な技術的読替えは、政令で定める。
第4項 第一項の規定による収用委員会の裁決及び前項の規定による訴えに対する裁判は、権利変換計画において与えられることと定められた施設建築敷地の共有持分、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権には影響を及ぼさないものとする。

土地収用法

第129条(収用委員会の裁決についての審査請求)
収用委員会の裁決に不服がある者は、国土交通大臣に対して審査請求をすることができる。

第130条(審査請求期間)
第1項 事業の認定についての審査請求に関する行政不服審査法 (平成二十六年法律第六十八号)第十八条第一項 本文の期間は、事業の認定の告示があつた日の翌日から起算して三月とする。
第2項 収用委員会の裁決についての審査請求に関する行政不服審査法第十八条第一項 本文の期間は、裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して三十日とする。

第133条(訴訟)
第1項 収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。
第2項 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
第3項 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。

3 還元率、権利変換比率

民間の再開発手続きである第一種市街地再開発事業では、この「従前資産」に対応する再開発ビルの権利床を現価床として割り当てることで、つまり権利変換することで、再開発ビルの専有部分の所有権を取得することができます。権利変換の内容は、各土地建物の権利毎に作成される権利変換計画書に記載されます。権利変換計画書の書式はこちらをご確認下さい。

但し、権利変換計画書では、従前資産は公簿面積、つまり、登記簿上の内法面積になっていることが多く、権利変換後の面積は、設計図の面積、建築確認書の面積、つまり、壁芯面積になっていることが多くなっていますので、単純比較をすることはできません。通常、登記簿の内法面積と、壁芯面積で数パーセントの差異を生じることが多いようです。

再開発ビルの割り当てられた面積を従前床面積で割り算した数値を「還元率」「権利変換率」と言います。

例えば、再開発ビルの面積が従来の面積と全く同じであれば、還元率・権利変換率は100パーセントとなります。一般論となりますが、従前資産がマンションである場合は還元率100パーセントを下回ってしまうことも珍しくは無く、従前資産が戸建てであれば、還元率は100パーセントを超えることが多い様です。但し、再開発ビル竣工後は必然的に、専有面積に応じて修繕積立金と管理費が掛かることになりますから、戸建て地権者にとっては還元率100パーセントでは管理費等を賄うことが難しく負担増を感じるかもしれませんし、マンション地権者にとっても新築タワーマンションを取得すると面積当たりの管理費等の増額が避けられず負担増を感じてしまう事が多い様です。

再開発手続きが必要となるような区域ですから、通常、従前建物は老朽化しており、木造可燃建築物や、コンクリート造であっても現行耐震基準を満たさない古い建物であることが多く、不燃耐震建物である新築の再開発ビルよりも坪単価が安くなっていることが多いので、準備組合担当者が言う「多少面積が減っても資産価値は逆に上がっている」というのは一概に間違いとは言えません。従前建物の専有面積あたりの坪単価よりも、新築ビルの専有面積当たりの時価が2倍以上になることも珍しくありません。

4 開発利益の分配割合

他方、再開発事業で認められた容積率の緩和分を「開発利益」と言いますが、再開発ビルの床面積の大半を参加組合員や事業協力者が取得してしまうのであれば、地権者が開発利益をほとんど享受できない計画になっていると言わざるを得ません。地権者が区域内の土地を全て供出して再開発区域内を再整備するのですから、地権者が主体となって開発利益も享受できるのが原則であるはずです。

都市再開発法の条文構造を見ても、あくまでも地権者が主体となって再開発事業を発議し再開発組合を設立し第一種市街地再開発事業を遂行していくことが規定されており(都市再開発法20条1項)、参加組合員は再開発事業を推進するために地権者の手助けをする補助的な立場であるに過ぎません(都市再開発法21条)。

都市再開発法20条1項(組合員)
組合が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、すべてその組合の組合員とする。

都市再開発法21条(参加組合員)
前条に規定する者のほか、住生活基本法第二条第二項に規定する公営住宅等を建設する者、不動産賃貸業者、商店街振興組合その他政令で定める者であつて、組合が施行する第一種市街地再開発事業に参加することを希望し、定款で定められたものは、参加組合員として、組合の組合員となる。

5-1 地権者としての対応策

前記の通り、再開発組合設立後に提示された評価額に対して異議の申し立てをしても司法手続きで救済されることは困難な状況ですが、従前床の権利者としては、再開発組合設立前の段階で、準備組合の理事会と協議していくことが大切になります。具体的には、次の点に注意を払って、再開発組合設立決議に臨む必要があります。

(1)事業計画原案における保留床割合を算出してみましょう。

再開発ビルの専有面積全体のうち、何パーセントが参加組合員の取得する保留床になっているか計算してみましょう。

保留床割合(パーセント)=保留床価額÷原価床総額

権利床と保留床のバランスが相当範囲内に収まっているかどうかを確認してください。等価交換方式による建て替えであれば、地権者と工事業者の分け方は、地域によりますが5対5や、4対6ということも十分に可能性があります。一般に、保留床の割合が80%を超えているような場合には、無駄な工事が発生している可能性があります。

保留床が80%を超えているということは、工事費を出しただけの参加組合員が完成ビルの床面積の8割以上を取得し、区域内の土地を供出している地権者が完成ビルの2割未満の床面積しか取得できないこと、また、地権者でもない参加組合員が開発利益の8割以上を取得してしまうことを意味します。まず最初に、この保留床割合を計算して、これを地権者全員が認識することが必要です。

(2)事業計画原案における、建築費の平米単価を算出してみましょう。

工事費が高ければ高いほど、豪華な建物で、不要な共用施設が充実し過ぎている懸念があります。

建築平米単価=総延床面積÷施設建築物工事費

これが40万円を超えている場合は、工事費が高額であると言わざるを得ないでしょう。1平米あたり40万円の工事費ということは、坪あたりになおすと3.3倍して、坪130万円以上の工事費ということになります。

国土交通省が毎年調査発表している「建築着工統計調査」を参照してみましょう。2020年度で、鉄筋コンクリートRC造で1平米あたり30万円程度が平均的な工事費となっています。勿論高層建物が多い再開発ビルでは建築平米単価が高くなりやすい傾向はありますが、30万円を大幅に超えて例えば40万円を超えてしまっているような場合には設計変更など何等かの改善策があり得るということになるでしょう。

一般にビル建設費は高層になればなるほど坪単価も上昇する傾向があります。都市計画決定で認められた計画容積率を実現する建物を建築する必要はありますが、建物の高さについてはなるべく低く抑えたほうが建築費を削減できるので地権者には有利な条件となるでしょう。高さ60メートル以上の超高層建築物(建築基準法20条1項1号)を回避できないかどうか、協議すると良いでしょう。

(3)事業計画案における、延床面積に対する専有面積の割合つまり有効率を算出してみましょう。

有効率(レンタブル比率)は、マンション開発の際に良く用いられる数値で、専有面積を総工事延床面積で割り算した割合数値です。

有効率(レンタブル比率)=総専有面積÷総延床面積

当然ながら、分譲マンションを計画する場合に、工事面積の全てを分譲することはできません。マンションには、エントランスや、廊下や、エレベーターや駐車場などの共用施設を用意しなければなりませんので、建築施工会社には共用部も含めて工事発注し、そのうち分譲できる床面積だけを販売することができるのです。

なお、事業計画案には「容積対象面積」という数値もあります。これは都市計画決定で認められた計画容積率を区域面積で乗じて許容される施設建築物の床面積です。建築基準法の緩和措置により外廊下などの共用施設は容積率算定の対象から外されましたが、屋根の下に含まれている内廊下やパイプスペースなどが容積対象面積に含まれています。通常、容積対象面積の9割程度が分譲可能な専有面積になると言われています。

この有効率は、通常の分譲マンションであれば、80~85パーセントになることが多いのですが、再開発ビルでは豪華な共用施設が計画されて、70パーセント台になったり、60パーセント台になってしまっている場合もあります。この数値が低すぎる場合は、区分所有者向けのパーティースペースや来客宿泊室やスポーツジムや共用ラウンジなど無駄な共用施設を造り過ぎていないか再確認が必要です。

(4)駐車場と駐輪場と荷捌き場の付置義務充足率を算出してみましょう。

付置義務充足率=計画駐車場(駐輪場、荷捌き場)台数÷付置義務で定められた台数

各自治体ごとに、ビル建設する場合の駐車場と駐輪場の付置義務が定められています。参考のために東京都の例を御紹介します。

例えば東京23区の住宅の場合は、延床面積350平米に1台の割合で駐車場を設けることが義務付けられています(参考:「東京都駐車場条例」及び「東京都集合住宅駐車施設附置要綱」に定める付置義務)。

また、東京都新宿区の場合ですと、400平米を超える小売店飲食店を設置する場合には、床面積20平米ごとに1台の割合で自転車駐輪場を設置しなければなりませんが、駐輪場を地上階に設ける場合は50パーセントの削減措置を受けることができます(参考:新宿区附置義務自転車等駐輪場整備の手引き)。

当然、付置義務の基準を満たす必要がありますので、付置義務充足率は100パーセントを超えなければなりませんが、実際に充足率を計算してみると、110パーセントを超えていたり、120パーセントを超えている場合もあります。充足率が高すぎる場合は、本当に必要な駐車場・駐輪場なのか再確認が必要です。例えば駅直結の再開発ビルなどでは、電車で往来することができますから、駐車場や駐輪場の台数は最低限度の台数で良いのかもしれません。駐車場や駐輪場の台数が増えると延床面積が増加し、工事費総額が高騰する原因となり、保留床の割合が増加し、権利床の面積が減少する原因になってしまいます。

(5)機械式駐車場や駐輪場エレベーターが計画されていないか確認してみましょう。

機械式駐車場は、再開発ビルの工事費が増大する原因となり、保留床の割合が増加し、権利床の割合が低下し、還元率が低下してしまう大きな原因となってしまいます。

再開発ビルが竣工した後においても、駐車場の収入は管理組合の管理費や修繕積立金会計に参入されるので区分所有者にとって共用駐車場は重要な資産となりますが、機械式駐車場の場合は、収入とメンテナンス費用や将来の置き換え費用が拮抗してしまい、ほとんど収入にならないことが多くなってしまいます。つまり、機械式駐車場は、地権者にとって還元率の面でも竣工後の管理費の面でも、不利益の多い施設です。地権者が主体となって手続きを進める再開発事業ですから、地権者の意見として機械式駐車場を可能な限り抑制するということは主張しても良いでしょう。以上の事情は駐輪場エレベーターについても同様です。

5-2 反対運動

以上のように、現在の再開発事業計画案が地権者の利益を棄損しており、再開発事業に修正すべき点がある場合は、地権者の多数意見に働きかけて再開発組合理事会を説得する努力も必要になります。反対運動としては、次のような手段が行われています。

  1. (1)区域内アンケートの実施
  2. (2)反対する地権者の勉強会
  3. (3)反対する地権者が独自に作成した事業計画案の説明会
  4. (4)組合に対する反対者の共同意見書・共同質問書の送付
  5. (5)地権者の反対意見を発信するホームページを開設
  6. (6)再開発準備組合に対する指導内容を行政当局に陳情

第一種市街地再開発事業は、地権者の発議による民間の再開発事業ですから、地権者が意思形成しようとする活動に引け目を感じる必要はありません。再開発手続きの内容が難しい場合は、手続きに詳しい弁護士や建築士のアドバイスを受けながら交渉することも検討なさって下さい。

いずれにしても、再開発組合の設立決議がなされてしまうと、そこから評価などについて修正していくことは極めて困難となってしまいますので、可能な限り再開発組合の設立前に、再開発準備組合の理事会が再開発組合の設立議案を策定する前に、準備組合の理事会と良く話し合うことが必要です。ご心配な場合は、再開発手続きに経験のある法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

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