長期間違反行為を放置された後の運転免許取消し処分

刑事|道路交通法違反|運転免許取り消し処分

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は,1年ほど前から軽微な交通違反を繰り返してしまい,半年ほど前の速度違反で累積違反点数が7点となってしまいました。そのため,免許停止処分の対象となると思っていたのですが,警察(公安委員会)からの通知はありませんでした。そうしたところ,先月に通行禁止違反(2点)をし,さらにその1週間後に交通事故(6点)を起こしてしまった結果,違反点数が15点になってしまいました。その結果,公安委員会からは,16点で免許取消し処分を受けてしまいました。

しかし,もともと6点の時点で免許停止処分を受けていれば,免許取消しの対象とはならなかったと思います。私は,免許取り消し処分を受け入れるしかないのでしょうか。なお,過去の免許停止などの処分を受けたことはありません。

回答

1 一度、運転免許に対する行政処分の基準点数に達した者が、その処分が行われるまでの間に再び違反行為を重ねたことによって新たに免許取消処分の基準点数に達した場合,警察庁の通達にある「処分量定の特例」により,再度の違反行為までに1か月以上経過しており、処分が遅れた理由が違反者の本人の責めに帰すべき理由以外の理由に起因しているときは,免許取消処分を回避できる場合があります。

例えば,本件のようなケースですと,一度免許停止処分の基準に達した後,次の違反行為をするまでの間が1月の免許期間を経過しており,かつその処分の遅れの理由が,処分を受けるべき者の責めに帰すべき理由(住居移転を届け出ていなかった場合など)以外の理由に起因しているときには,順に処分を行った場合と均衡を失しないように処分量定を行うとの特例が存在します。

本件で上記特例を適用した場合には,まず違反点数6点の時点で,免許停止30日の処分が科されることになります。その上で,追加で8点の違反点数が累積すれば,行政処分の前歴1回の状態での8点の違反点数となりますので,免許停止120日の処分となります。これと均衡を失しないようにするために,今回処分をする場合には,長くとも停止150日以上の処分を科すことはできません。

そのため,今回あなたが受けた処分は,上記処分量定に違反した違法な処分である可能性があります。

2 運転免許取消処分が違法な処分である場合,その不服申立ての手段としては,まず公安委員会に対して審査請求をも申し立てることが考えられます。本件のような明らかな量定違反の場合には,審査請求の中で,公安委員会が免許取消処分を撤回して修正する可能性もあります。

また審査請求と併せて,運転免許取り消処分の執行停止を申し立てることもできます(参考事例集1635)。一方,審査請求に伴う執行停止は認められることが多くないため,公安委員会ではなく裁判所に対して取消訴訟と執行停止を申立てることも考えられます。

どのような対応をすべきか,速やかに専門家に相談することをお勧めします。

3 関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 処分量定に関する特例

⑴ 特例の内容

一度、運転免許に対する行政処分の基準点数に達した者が、その処分が行われるまでの間に再び違反行為を重ねたことによって新たに免許取消処分の基準点数に達した場合については,警察庁の通達「運転免許の効力の停止等の処分量定の特例及び軽減の基準について」の別表第2の2において特別な規定が定められています。

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/menkyo/menkyo20191011_r024.pdf

別表第2の2では,まず,再び犯した違反行為の点数が,取消しの基準に達した場合,その違反行為をするまでの間が1か月の免許期間を経過しているか否かを問題にしています。そして,再び違反行為をするまでの期間が1か月未満の場合には,新しい違反行為が3点以下の軽微な違反である場合を除き,原則として取消処分とすることとされています。これは,公安委員会が違反行為を認知してから処分をするまでには通常1か月程度の期間は要するため,その間に再び違反行為をした者を救済する必要性は小さいとの趣旨と考えられます。

再び違反行為をするまでの期間が1か月を経過している場合には,処分が遅れた理由が,処分を受けるべき者の責めに帰すべき理由か否かを検討します。処分を受けるべき者の責めに帰すべき理由の典型例としては,その所在不明(住居移転を届け出ていなかった場合など)が挙げられています。これは,運転免許に関する行政処分をするためには,意見の聴取などの手続きを経る必要があるところ,本人の住所が不明である場合には,その手続きを経ることができないため,そのような場合にまで本人を救済する必要がないためと考えられます。

そして,処分が遅れた理由が本人の責めに帰すべき理由以外の理由に起因しているときは,各違反行為につき行政処分の対象となった時点で速やかに処分がされることを仮定し,違反行為の順に複数回処分を行った場合と均衡を失しないように処分量定を行うとされています。このような規定がされている趣旨は,処分が遅れた責任が本人に認められない以上,処分の遅れによる不利益を本人に科すべきではないため,本人には,処分が遅れずに科された場合と同じ量定の処分を科す必要があるためです。

⑵ 本件における適用

以上を本件について適用すると,まず一度処分の基準点数に達してから再びした違反行為(通行禁止違反)までに5か月程度の期間が経過しているとのことですので,その間,あなたが所在不明などの状態にあったのでなければ,処分を順にされたのと同じ量定で処分を受けることになります。

具体的には,まず違反点数6点の時点で免許停止30日の処分が科されることになります。その上で,追加で8点の違反点数が累積すれば,行政処分の前歴1回の状態での8点の違反点数となりますので,免許停止120日の処分となります。そのため,今回処分をする場合には,長くとも停止150日以上の処分を科すことはできません。

なお,通常,運転免許停止30日にあたる累積点数となった場合でも,それが軽微な違反によるものであれば,いわゆる違反者講習を受けることにより,免許停止処分が科されず前歴扱いとしないことができます。そのため,本件の場合でも,最初の違反点数6点の時点で違反者講習を受けることができたことを理由に,次の8点の処分を前歴なし状態として,再び停止30日の処分と主張することも考えられます。

以上により,今回あなたが受けた処分は,上記処分量定に違反した違法な処分である可能性があります。

2 違法な処分がされてしまった場合の手続き

本件のように,量定に違反した運転免許取消処分がされてしまった場合の対応としては,①行政不服審査法に基づいて処分をした行政庁に不服を申し立てる方法と、②行政事件訴訟法に基づいて裁判所に不服を申し立てる方法の二つがあります。

まず①として公安委員会に対して審査請求を申し立てることが考えられます。通常,審査請求の手続きは,処分を行った行政庁自身が判断を行うため、行政庁が一度下した処分を自ら撤回することはそれほど期待できず、実効性の面では疑義が残ります。しかし本件のような明らかな量定違反の場合には,審査請求を申し立てることによって,公安委員会が免許取消処分を自ら撤回して,早期に修正する可能性もあります。

また,もう一つの不服申し立ての手段として,②の裁判所に対して運転免許取消し処分の取消訴訟を申し立てることも可能です(行政事件訴訟法8条)。裁判所での取消訴訟は,上記の審査請求と比較して審理に時間を要するため,本件のような事案では適切ではないことも多いです。一方,本件のように明らかな処分量定の誤りが見られる場合には,裁判所に取消訴訟を提起すると,同時に,処分の執行停止を申し立てることも検討すべきです(同25条)。処分の執行停止が認められれば,運転免許取消処分の効力がなくなるため,正式な結論が出るまでの間,運転免許を使用することが可能となります。そのため,タクシーの運転手など運転免許が生活の根幹に関わる場合などには,裁判所への執行停止の申立てをすることが考えられます。

なお,審査請求を申立てた場合でも,執行停止の申立ては可能です(行政不服審査法34条)。しかし,行政庁が執行停止まで認めることはケースとして多くなく,また執行停止自体の判断については,裁判所の手続きの方が速やかな審査が期待できるため,執行停止を最大の目的に置く場合には,直接裁判所への訴訟提起を検討した方が良いでしょう。なお、裁判所に執行停止の申し立てをするには、前提として処分の取り消し訴訟を提起することが必要ですから、手続きとしては取消訴訟の申し立てと執行停止の申し立てを一緒にすることになります。

いかなる不服申し立ての手段をすべきかは,状況によって異なりますので,経験のある弁護士に相談した上で,適切な対処を選択してください。

以上

関連事例集

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参照条文
(行政不服審査法)

(執行停止)

第三十四条 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。

2 処分庁の上級行政庁である審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をすることができる。

3 処分庁の上級行政庁以外の審査庁は、必要があると認めるときは、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取したうえ、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をすることはできない。

4 前二項の規定による審査請求人の申立てがあつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。

5 審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。

6 第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によつて目的を達することができるときは、することができない。

7 執行停止の申立てがあつたときは、審査庁は、すみやかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。

(行政事件訴訟法)

(処分の取消しの訴えと審査請求との関係)

第八条 処分の取消しの訴えは、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。

2 前項ただし書の場合においても、次の各号の一に該当するときは、裁決を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。

一 審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないとき。

二 処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。

三 その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。

3 第一項本文の場合において、当該処分につき審査請求がされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から三箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。

(執行停止)

第二十五条 処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。

2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。

3 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。

4 執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。

5 第二項の決定は、疎明に基づいてする。

6 第二項の決定は、口頭弁論を経ないですることができる。ただし、あらかじめ、当事者の意見をきかなければならない。

7 第二項の申立てに対する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

8 第二項の決定に対する即時抗告は、その決定の執行を停止する効力を有しない。