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- No.1579|
重大なスピード違反事案における免許取消処分回避
行政|道路交通法違反|スピード違反|運転免許取り消し
質問
私は,先日,制限速度が時速80kmの高速道路を
時速148kmで走行してしまい,67kmオーバーのスピード違反で検挙されてしまいました。今回の件の前に軽微な違反が数点あり,今回の速度超過の12点により合計点数が15点に達したため,県警から,運転免許取消処分になるという通知が来てしまいました。
しかし,私は会社を経営しており,取引先を回る際に商材を運ぶためには,車を運転する必要があります。免許取消となれば,会社が傾き,従業員にも迷惑をかけてしまいます。
運転免許に関する処分を受けるのは初めてですが,何とか免許取消を回避することはできないでしょうか。
回答
1 交通違反の点数が一定の基準に達した場合,各都道府県の公安委員会は,行政処分として、対象者の運転免許を取り消す処分をすることができます。
過去に運転免許に関する処分を受けたことが無い方の場合でも,違反点数が15点以上に達した場合,運転免許取消処分の対象となります。
2 しかし,上記基準は絶対的・機械的なものではなく,具体的な事情によっては運転免許取消処分を回避できる可能性もあります。
警察庁の定める運転免許の効力の停止等の処分量定基準(警察庁丙運発第40号 平成25年11月13日)によれば,一般違反行為をした事を理由とする取消処分は,「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合,その処分を軽減するとされています。
本件のような単純な速度違反の事例で,その程度が70km以下である場合には,「特段の事情」が認められる可能性が十分存在します。
3 運転免許取消処分の基準に達する場合,公安委員会の呼び出しにより,意見の聴取の手続きが行われます(道路交通法104条)。
免許取消処分を回避するためには,意見聴取手続きにおいて,上記「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」を主張することになります。
具体的には,違反行為の態様が同種類型の中で悪質性が小さいこと,違反行為を行った動機に酌量の余地があること等を主張することができます。斟酌される動機とは例えば、定刻まで商取引の目的物を届けないと重要な契約がキャンセルされる等、特別な事情があった。社員であれば、定刻まで必ず目的物を配達せよという会社からの業務命令があり渋滞でついスピードオーバーした。医師であれば、急患の治療に行くためつい違反をしてしまったというような生命、身体の安全を図る公的理由があった等です。これらの主張をする際には、主張を裏付ける書面資料の提出も行うべきでしょう。
このとき「仕事で車を使う必要がある」と主張することは,あまり効果がありません。誰でも仕事はするものであり、格別の理由にはなりにくいからです。しかし,具体的に取消処分による不利益が大きい具体的な事情があれば,考慮の対象となります。本件のようにあなたが会社の代表者として車を使用しなければならないことは十分考慮の対象になります。対象者だけでなく、従業員の雇用にまで影響が大きいということであれば、会社の決算書等を添えてその旨を主張するべきでしょう。
また,贖罪寄付等を行うことで,反省の意思を客観的な証拠の形で残すことも効果があります。
4 意見聴取手続きにおいては,有利な証拠を提出することや,弁護士が補佐人として同席することも認められております(道路交通法の規定に基づく意見の聴取及び弁明の機会の付与に関する規則第6条)。
本人にとって有利な事情であっても,本人が自分自身で主張すると真意が伝わらず,言い訳ととられかねない場合もございますので,弁護士等に意見書の作成や代理人としての出席を依頼して,最大限有利な事項を主張してもらうと良いでしょう。
5 仮に運転免許取消処分が出されてしまった場合,公安委員会に対して異議申立てを行うことが可能です。
しかし,一般的に異議申立の認容率は低いため,処分が決定される前の意見聴取の手続きにおいて,やり残しが無いように全力で有利な事情を主張しておくことが重要です。
そのためにも,同分野の取扱い経験のある弁護士に早期に相談すると良いでしょう。
6 運転免許に関する事例としては,1994番,1781番,1675番,1579番,1463番,1412番,1303番,1115番,1085番,1079番参照。
7 その他関連事例集参照。
解説
1 スピード違反(速度超過)に対する処罰
(1)刑事処罰
スピード違反は道路交通法22条に違反する行為であるため,六月以下の懲役又は十万円以下の罰金という刑事処罰を受けることになります(同法118条)。
しかし、一般道で30キロ未満高速道路で40キロ未満のスピード違反については反則行為として反則金を支払えば刑事処罰を受けることはありません。それ以上の超過の場合あるいは反則金を支払わないと,他の刑事事件と同様,検察庁に送致され検察官が処分を決定することになります。
本件のような68キロの速度超過の場合,一般的には略式起訴による罰金刑が予想されますが、同様の前科がある場合などは正式起訴による公判請求も考えられます。
公判請求を避けるためには,弁護士に適切な弁護活動を依頼すべきでしょう。この点については,弊所事例集1450番等をご参照下さい。
(2)行政処分
道路交通法違反の場合,刑事処罰とは別に,運転免許に関する行政処分を受けることになります(道路交通法103条1項5号)。
行政処分の内容は,運転免許の取消処分や運転免許の停止処分ですが,どのような処分が下されるかは次項に述べる点数制度によって決められています。
2 運転免許取消処分の対象者と回避の可能性
(1)点数制度の概要
運転免許に関する点数制度とは,非常に多数発生する交通法規違反について迅速かつ画一的な処分をする為に定められた制度であり,各違反行為について個別に違反点数を定め,その点数の合計によって処分の内容を決めるという制度です。
各違反行為の点数及び行政処分の内容については,警察庁のホームページをご参照下さい。
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/gyousei/tensuu.htm
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/gyousei/gyousei20.htm
今回は,行政処分の前歴がなく,一般違反行為によって違反点数が合計15点に達した場合ですので,原則としては免許取消処分が下されることになります。
(2)取消処分を軽減する「特段の事情」
しかし,上記基準は絶対的なものではなく,具体的な事情によっては運転免許取消処分を回避できる可能性もあります。
警察庁の定める運転免許の効力の停止等の処分量定基準(警察庁丙運発第40号 平成25年11月13日)によれば,一般違反行為をした事を理由とする取消処分は,「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」が認められる場合,その処分を軽減するとされています。
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20131113-1.pdf
では,ここでいう「特段の事情」とは,どのような事情を意図しているのでしょうか。この点,警察庁が運転免許停止処分をする際に基準として定めた事項が参考になります。「運転免許の効力の停止等の処分量定の特例及び軽減の基準について」(警察庁丁運発第44号)第2の1によれば,処分を軽減する根拠となることができる事情として次の事項を掲げています。
https://www.npa.go.jp/pdc/notification/koutuu/menkyo/menkyo20090430-11.pdf
(1) 交通事故の被害の程度又は不注意の程度のいずれか一方が軽微であり、かつ、その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
(2) 違反行為等の動機が、災害、急患往診、傷病人搬送その他やむを得ない事情によるものであり、かつ、危険性がより低いと認める場合
(3) 違反行為等が他からの強制によるものであるなどやむを得ない事情 によるものであり、危険性がより低いと認める場合
(4) 被害者の年齢、健康状態等に特別な事情があるとき等同一原因の他の事故に比べて被害結果を重大ならしめる他の事由が介在した場合であって、その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
(5) 被害者が被処分者の家族又は親族であって、その他にも危険性がより低いと評価すべき事情がある場合
(6) 前各号に掲げる場合のほか、危険性がより低いと評価すべき特段の事情があり、明らかに改善の可能性が期待できる場合
(2)処分軽減が期待できる場合
よって,基本的にはこれらの事情を主張し,運転免許取消処分の回避を主張することになります。
しかし,実際には,いかなる場合でも運転免許取消処分が回避できる可能性があるものではありません。飲酒運転等の悪質な違反の場合,この「特段の事情」が認められ,免許取消処分が回避できることは殆ど存在しません。
一方,本件のような単純な速度違反の事例で,その超過の程度が小さい場合には,「特段の事情」が認められる可能性が存在します。
時速50キロ以上の速度超過は,12点の違反点数となりますが,60キロまでの超過であれば,免許停止処分へ軽減できる可能性は十分見込めるでしょう。
さらに時速68キロの速度超過が含まれる事案でも,適切な弁護活動を行ったことにより免許停止処分にとどまった例が存在します。
勿論,速度超過違反以外にどのような違反行為が含まれるかによっても,処分の結果は変わり得るため,取消処分の回避が可能か否かは,弁護士等に直接相談してみると良いでしょう。
3 免許取消処分の手続き
運転免許取消処分の基準に達する場合,公安委員会の呼び出しにより,意見の聴取の手続きが行われます(道路交通法104条)。
免許取消処分を回避するためには,意見聴取手続きにおいて,上記「その者の運転者としての危険性がより低いと評価すべき特段の事情」を主張することになります。
意見聴取手続きにおいては,有利な証拠を提出することや,補佐人の出頭も認められております(道路交通法の規定に基づく意見の聴取及び弁明の機会の付与に関する規則第6条)。
可能であれば,意見聴取の手続きに精通した弁護人等に依頼すると良いでしょう。
特に,違反行為をしてしまった動機や,免許取消処分となった場合に被る不利益の重大性等の事情は,本人直接が主張すると真意が伝わらず,かえって言い訳ととられかねない場合もございます。
取消処分の基準点数に達した場合に,処分の軽減が認められるか否かは,意見聴取を担当する警察職員の心証によっても左右されるところが少なくないとみられています。
万全を期すためには,弁護士等に意見書の作成や代理人としての出席を依頼して,最大限有利な事項を主張すると良いでしょう。
4 本件における弁明の具体的活動手法
最後に,本件類似の事案で免許取消処分を回避できた事例に基づき,具体的に意見の聴取手続において主張すべき事項をご紹介いたします。
70キロに近い速度超過の事例において,下記の事項を詳細に主張することで,特段の事情が認められ,免許取引処分を回避することができると考えられます。
各事件の具体的な事情によって状況は変わりますので,一つの例としてご参照ください。
(1)違反行為の態様について
まず,違反行為の態様を詳細に説明することは重要です。当時の周囲の交通状況,道路の形状,交通量等を,客観的な時間・場所等の事情に基づいて説明する必要があります。
勿論,本人の主張がそのまま考慮されることは少ないですが,例えば現場が交差点の無い片側2車線の直線道路であること,帰宅による混雑時間から外れていること等は,客観的に危険性が小さいことを認める事情となりますので,詳細に事実を摘示する必要があります。
(2)違反行為の動機について
意見聴取の手続の際に必ず聞かれるのが,違反行為に特別の動機があるか否かです。
この点,上記第単に「仕事のために急いでいた」等の理由では,特段の事情が認められるものではありません。その違反行為のときに速度を上げることも止むを得なかったという理由を具体的に示すことが必要です。
例えば,重要な取引の予定があったのであれば,その日のタイムスケジュールや移動に係る時間を示した上で,已むをない状況であったことを示す必要があるでしょう。具体的な予定の証拠があれば,資料として提出しても良いと思います。
(3)今後の改善策の提示
加えて,今後同様の状況が起こらないようにするための具体的な改善策の提示をすることが肝要です。
例えば,仕事のスケジュールの都合で速度を超過してしまったのであれば,会社の上司等に相談してスケジュールの改善について応じて貰った旨の上司からの嘆願書等があれば,客観的にも改善のための具体的行動を取っていることが見受けられるため,一定の効果を認めることができます。
(4)免許取消処分による不利益について
多くの方が意見聴取の際に主張するのが,「仕事に車を使うので,免許取消になると困る」という事情です。しかし,違反行為が自己の罪責に基づく結果である以上,単に「仕事ができなくなる」等の理由だけでは,特段の事情に値すると認められるものではありません。
一方で,処分対象者が車を使用する業務が代替不可能であり,取消処分による影響が,罪のない関係者等に迄及ぶ等の事情があれば,一定の考慮を得られる可能性は存在します。
すなわち本件のように,相談者が代表取締役として自ら営業先を回る必要があり,しかも商材を運ぶために車を使用する必要がある(電車等では代替不可能)という事情あれば,処分を軽減すべき特段の事情としての一要素になる可能性は存在します。
関係者の証言等の資料と併せて,詳細に主張する必要があるでしょう。
(5)その他
その他,処分の軽減のためにしばしば行われる手法として,贖罪寄付という方法があります。贖罪寄付とは,違反行為をしてしまった事に対する反省と贖罪の意思を示すために,弁護士会や交通遺児育英会等の公的な団体に対して一定の金額を寄付することをいいます。
これも,客観的な取り組みとして一定の効果が見込めるため,可能な限り行っておくことが必要です。
金額については,違反の程度と本人の経済状況に応じて心からの謝罪する意思が伝わる金額であれば問題ありません。本件のような70キロ近い速度超過であれば,一般論として10万円以上の寄付金額があれば,資料としての効果が期待できるでしょう。当然ながら,贖罪寄付を行わなかった場合と,贖罪寄付を行った場合とでは,行政側の評価も異なってきます。
最後に,上記で色々と具体的な例を技巧的に説明しましたが,重要なのは,事実に基づき詳細な分析・主張を行い,可能な限り客観的な資料や裏付けの証拠を準備することが,全ての事案に共通して重要な手法であると言えます。
個々の具体的な事案においてどのような主張や準備を行うべきか,経験のある弁護士に相談すると良いでしょう。
5 不服申立て
上記のような活動にも拘わらず,運転免許取消処分が下されてしまった場合には,各都道府県の公安委員会に対して,異議申立て(行政不服審査法第1条第2項),又は処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法第8条)を起こすことができます。
取消の訴えにおいて,処分の取消が認容されるためには,取消処分を行ったことが行政の裁量権を逸脱・濫用といえるものでなくてはならず,一般的にそのハードルは非常に高いものといえます。
そのため,一度決定されてしまった処分を覆すのは難しく,取消処分を回避するためには,まず最初の意見聴取の手続において,
やり残しが無いように全力で有利な事情を主張しておくことが重要です。
6 まとめ
運転免許取消処分については,意見聴取手続において何も有利な事情を主張しなければ,点数制度により形式的な処分が下されてしまう場合が殆どです。
取消処分により受ける不利益が大きい場合には,最善を尽くした対応が可能な弁護士に相談することをお勧めします。
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判例