No.1791|不動産関係

私道に障害物が置かれるトラブル|位置指定道路と通行権の主張

民事・建築基準法|位置指定道路と妨害排除請求|最高裁平成9年12月18日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は、20年前に分譲地内の住宅を購入しました。私は通勤で車を利用していますが、自宅から分譲地外の公道に出るためには、分譲当時から位置指定道路にされた私道を通っています。周囲の住民もこの道路を徒歩や車で通行しています。これまで、この道路の通行についてトラブルになったことはありません。

最近になり、分譲地内の宅地とその前の私道部分の所有権を取得した人(以下「Aさん」といいます)が、道路部分に障害物を置いて、私たちの自動車通行を妨害しています。地元自治会の役員によると、Aさんは近い将来、車の通行ができないようにするとも話していたとのことです。

この道路が使えなくなると、他に分譲地外の公道に出る道路もなく、自動車を利用することができなくなります。Aさんの道路通行の妨害を阻止する方法はないでしょうか。

回答

1 位置指定道路の所有者は、近隣土地の所有者に対して、道路通行の妨害をすることはできないとして、近隣住民の道路所有者に対する妨害排除請求を認めた最高裁判例があります(最高裁判所平成9年12月18日判決)。以下に解説します。

2 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 私道に物を置くことの問題点

ご相談者様は、分譲地内で位置指定道路とされている道路を自動車で通行されていました。位置指定道路とは、特定行政庁から道路位置指定を受けた私道です。位置指定道路については建築基準法上の道路として扱われ、また、位置指定された土地については建物を建てることはできないとされています。Aさんは道路が自己に所有権があることを理由に、障害物を置いたりして自動車通行を妨害しているとのことですが、Aさんが建物を建てることはできないとしても、自分の土地に物を置くこともできないのか、という点については明確にそれを禁じる条文はありません。

Aさんは、自己の所有権の行使として、道路に障害物を置いていると考えられますが、ご相談者様にとって、日常利用して、生活に不可欠な道路通行を妨害されているという点で、Aさんの所有権の行使とご相談者様の道路利用のいずれが優先されるのか問題となります。

位置指定道路として建築基準法上の道路と認められる最大の目的は建築基準法で要求されている、建物を建てられる土地は4メートル以上の道路に面していなければならない、という要件を満たすためです。消防自動車が入れないような狭い通路しかないような住宅の建築を禁止するということです。

しかし、位置指定道路だからと言って自動車で通行できる権利があるのか、自動車での通行の妨害を排除できるのか、ということは別の問題となります

以下で、位置指定道路の説明と、同様の問題が扱われた最高裁判所判決について解説します。

第2 位置指定道路とは

建築基準法(以下、「建基法」)では、建築物の敷地は原則として2メートル以上「道路」に接していなければならず、接道義務が定められています(建基法43条1項)。「道路」については原則として幅員4メートル以上でなければならないこと等の制限をし、すべての建築物が交通、安全、防火、衛生上適切な道に十分面している状態の実現を目指しています(建基法42条)。

位置指定道路は、このような「道路」の一種ですが、国や公共団体が所有、管理する道路ではなく、私人が所有する私道となっています。建基法42条1項5号により、土地を建築物の敷地として利用するため、道路法等の公法規定によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもので、かつ、幅員4メートル以上のものであることが要件となっています。上記の接道義務を満たすため、私道を「道路」とする必要がある場合、特定行政庁に対し道路位置指定の申請を行い(建基法施行規則9条)、指定を受けることになります。

私道が位置指定道路とされた場合、その上に建築物を建てることはできません(建基法第44条)。このように位置指定道路に指定された場合その土地の所有者は、権利の制限を受けることになります。しかし、他方でその土地通行するという権利があるのかという点については、法律で特に定めがありません。そこで、通行を妨害された場合に、妨害を排除できる権利があるのか問題となります。

憲法第29条は、国民に財産権を保障しています。そして、民法第206条は、所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する、としています。土地があっても建物が建てられない場合、所有権の制限となり、憲法第29条に違反するのか問題となります。ところが、所有権といえども国民全体の公共の福祉の観点から制限されることは憲法も認めるところです。建築基準法による所有権の制限も国民の生命、身体および財産の保護を図るという「公共の福祉」の見地から認められるものです。

それでは、道路通行が道路所有者に妨害されている場合、どのような要件で道路通行者が道路所有者に対し、妨害排除を請求することができるのか、最高裁判決がありますので、以下に紹介します。

問題点は、位置指定道路について、通行をする権利、通行を妨害されない権利があるかということと、道路の所有者の所有権が通行権によって制限されるのか、という点です。最高裁判所は、『敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。』として、人格的権利として妨害行為の禁止を求める権利を認めました。

第3 最高裁判所平成9年12月18日判決

当事者

Xら:分譲地内で位置指定道路となっている土地(以下「本件土地」といいます)の所有権を取得した者。自己の所有権を理由にYらの自動車通行を妨害した。

Yら:30年以上にわたり、本件土地を道路として利用し、自動車通行に利用をしている。

事案の経過
  • 本件土地は、昭和33年ころ、本件土地周辺が大規模分譲住宅として開発された際、各分譲地に至る通路として開設された幅員4メートルの道路である。
  • 本件土地は昭和33年に、〇〇市長より道路位置指定を受けた。
  • 本件土地は道路位置指定後30年以上にわたり、Yらを含む近隣住民等の徒歩及び自動車の通行に利用されている。
  • Yらは、同分譲地に居住し、自動車を利用している。Yらが居住地から公道に出るには、公道に通じる他の道路が階段状であって自動車による通行ができないため、本件土地を道路として利用することが不可欠である。
  • Xらは、本件土地が分譲住宅として開発されてから約30年後の昭和61年、本件土地の所有権を贈与により取得した。
  • 平成3年、Xらは、Yらを含む本件土地周辺の住民に「Xらと本件土地の通行に関する契約を締結しないと、車両等の通行を禁止する。」とのビラを配り、本件土地上に簡易ゲートを設置し、Yらの自動車通行を妨害した。
  • 平成4年、Xらは、Yらの所属する自治会に対し、「道路通行を不可能とする工事を行うことがある。」との通知をした。
  • Yらは、Xらに対して、道路通行の妨害排除を求めて裁判所に訴えを提起した。
判例の基準(『 』は判決文の引用です)
  • どのような者が妨害排除請求が可能なのか。
    『建築基準法四二条一項五号の規定による位置の指定(以下「道路位置指定」という。)を受け現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は』妨害を排除請求する権利がある。
  • どういう状況で妨害排除請求が可能となるのか。
    『右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるとき』
  • 妨害排除請求ができない場合があるのか。
    『敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り』
  • 以上より『敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべきである。』として妨害排除請求が認められると最高裁判所は判断をしています。
本件の事情での最高裁の判断
  • Yらは、Xらに対する妨害排除請求が可能である。Yらは、『道路位置指定を受けて現実に道路として開設されている本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。』
  • Yらは妨害排除請求が可能となる状況にある。
  • 『本件土地の所有者である(Xら)は、(Yら)が本件土地を通行することを妨害し、かつ、将来もこれを妨害するおそれがあるものと解される。』
  • Yらの妨害排除請求を阻止する特段の事情はXらには認められない。
  • XらがYらの『右通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情があるということはできず、他に右特段の事情に係る主張立証はない。』
  • Yらは、Xらに対して、『本件土地についての通行妨害行為の排除及び将来の通行妨害行為の禁止を求めることができるものというべきである。』
引用元:裁判所HP判例全文PDF

第4 最後に

最高裁判所は、以上のように、道路通行を妨害している所有者に対して、道路利用者による妨害排除請求ができることもあることを認めました。

ご相談者様の場合、本件土地を道路として長年利用し、他に公道に通じる道もないのですから、本件土地を自動車で通行するについて日常生活上不可欠の利益を有するものといえます。

Aさんは現実にご相談者様らの道路通行を妨害し、また、ご相談者様の通行を上回る利益がAさんにあるとはいえません。こうした場合、ご相談者様はAさんに対して、通行妨害の排除を請求することが認められると考えられます。

位置指定道路だからと言って、簡単に通行の妨害を排除できることにはならないことに注意が必要です。位置指定道路の通行は本来は通行の権利を与えるものではなく、権利として認められるためには、日常生活に必要不可欠であり、通行が私道の所有者の権利を不当に侵害しないものであることが必要ですただ、裁判となった場合、どのように主張・立証をするのか、専門的な知識も必要ですので、一度お近くの弁護士にご相談された方がよいでしょう。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

憲法

第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

民法

(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

建築基準法

第四十二条 この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員四メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、六メートル。次項及び第三項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
一 道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)による道路
二 都市計画法 、土地区画整理法 (昭和二十九年法律第百十九号)、旧住宅地造成事業に関する法律(昭和三十九年法律第百六十号)、都市再開発法 (昭和四十四年法律第三十八号)、新都市基盤整備法 (昭和四十七年法律第八十六号)、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 (昭和五十年法律第六十七号)又は密集市街地整備法 (第六章に限る。以下この項において同じ。)による道路
三 この章の規定が適用されるに至つた際現に存在する道
四 道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの
五 土地を建築物の敷地として利用するため、道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの
2 この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートル(前項の規定により指定された区域内においては、三メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、二メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし、当該道がその中心線からの水平距離二メートル未満でがけ地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離四メートルの線をその道路の境界線とみなす。
3 特定行政庁は、土地の状況に因りやむを得ない場合においては、前項の規定にかかわらず、同項に規定する中心線からの水平距離については二メートル未満一・三五メートル以上の範囲内において、同項に規定するがけ地等の境界線からの水平距離については四メートル未満二・七メートル以上の範囲内において、別にその水平距離を指定することができる。
4 第一項の区域内の幅員六メートル未満の道(第一号又は第二号に該当する道にあつては、幅員四メートル以上のものに限る。)で、特定行政庁が次の各号の一に該当すると認めて指定したものは、同項の規定にかかわらず、同項の道路とみなす。
一 周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認められる道
二 地区計画等に定められた道の配置及び規模又はその区域に即して築造される道
三 第一項の区域が指定された際現に道路とされていた道
5 前項第三号に該当すると認めて特定行政庁が指定した幅員四メートル未満の道については、第二項の規定にかかわらず、第一項の区域が指定された際道路の境界線とみなされていた線をその道路の境界線とみなす。
6 特定行政庁は、第二項の規定により幅員一・八メートル未満の道を指定する場合又は第三項の規定により別に水平距離を指定する場合においては、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならない。

(敷地等と道路との関係)
第四十三条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。
一 自動車のみの交通の用に供する道路
二 高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第四十四条第一項第三号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一 の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの
2 地方公共団体は、特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。

(その敷地が四メートル未満の道路にのみ接する建築物に対する制限の付加)
第四十三条の二 地方公共団体は、交通上、安全上、防火上又は衛生上必要があると認めるときは、その敷地が第四十二条第三項の規定により水平距離が指定された道路にのみ二メートル(前条第二項に規定する建築物で同項の条例によりその敷地が道路に接する部分の長さの制限が付加されているものにあつては、当該長さ)以上接する建築物について、条例で、その敷地、構造、建築設備又は用途に関して必要な制限を付加することができる。

(道路内の建築制限)
第四十四条 建築物又は敷地を造成するための擁壁は、道路内に、又は道路に突き出して建築し、又は築造してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物については、この限りでない。
一 地盤面下に設ける建築物
二 公衆便所、巡査派出所その他これらに類する公益上必要な建築物で特定行政庁が通行上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したもの
三 地区計画の区域内の自動車のみの交通の用に供する道路又は特定高架道路等の上空又は路面下に設ける建築物のうち、当該地区計画の内容に適合し、かつ、政令で定める基準に適合するものであつて特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるもの
四 公共用歩廊その他政令で定める建築物で特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上他の建築物の利便を妨げ、その他周囲の環境を害するおそれがないと認めて許可したもの
2 特定行政庁は、前項第四号の規定による許可をする場合においては、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならない。

(私道の変更又は廃止の制限)
第四十五条 私道の変更又は廃止によつて、その道路に接する敷地が第四十三条第一項の規定又は同条第二項の規定に基く条例の規定に抵触することとなる場合においては、特定行政庁は、その私道の変更又は廃止を禁止し、又は制限することができる。
2 第九条第二項から第六項まで及び第十五項の規定は、前項の措置を命ずる場合に準用する。

建築基準法施行規則

(道路の位置の指定の申請)
第九条 法第四十二条第一項第五号 に規定する道路の位置の指定を受けようとする者は、申請書正副二通に、それぞれ次の表に掲げる図面及び指定を受けようとする道路の敷地となる土地(以下「土地」という。)の所有者及びその土地又はその土地にある建築物若しくは工作物に関して権利を有する者の承諾書を添えて特定行政庁に提出するものとする。(以下略)