質問
私立中学に通う息子が、学内で同級生で盗撮をした疑いで退学処分を受けました。息子は中高一貫の私立中学に入ったばかりで、引き続き学校に通いたいと思っています。退学処分を争うことは諦めた方がよいでしょうか。
回答
盗撮行為は、性的姿態等撮影罪として、刑罰上も厳しい処罰の対象となります。被害生徒や学校内外に与える影響が大きいことから、厳しく処分される類型です。退学処分が適当と判断されることの方が多いといえます。
もっとも成長過程にある学生は浅薄に行為に及んでしまうこともあります。退学処分は学生の地位自体をはく奪する厳しい処分ですので、判例も「当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、その要件の認定については他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要する」としております。
仮に盗撮行為自体が事実だとしても、諸般の事情を考慮して、生徒への教育的な働きかけによって改善の余地が見込まれるのであれば、引き続きの通学が認められるケースもあります。被害者との示談が有効な場合もあります。
盗撮行為をもって退学処分を争うことを諦めるのではなく、まずは法律事務所にご相談されることをお勧めします。
解説
1 退学処分の根拠規定について
具体的な退学処分の判断基準の前に、中学校による退学処分の根拠について触れます。
退学処分は、学校教育法11条、学校教育施行規則26条2.3項で定められた学校が行う懲戒処分で、退学処分により生徒と学校との在学契約を将来に向けて解約する効果が発生します。従って、最も重い懲戒処分です。生徒は退学処分により学校からの教育を受けられなくなるのですから、生徒の学習権を侵害することになりますが、他方で学校の教育の自由から、退学処分を否定するこ都はできません。そこで退学処分となる生徒の権利、学校の教育権、他の在学生の学習権の保障という点から、退学処分の合法性の検討が必要になります。
中学校における教育の自由については、子供の教育を受ける権利(憲法26条1項)に応えるために行使されるものと考えられています(最判昭和51年5月21日刑集30巻5号615頁)。
憲法上でこうした教育に関する権利・自由が言及されているのは、大日本帝国憲法下において、学問の自由が蹂躙される事態が頻発したからに他なりません。学問の自由は、表現の自由と密接に関連し、自由な言論を支える重要な基盤でもあります。最も自由が尊ばれるべき学問の世界において、軍国主義の弾圧が及んでしまい、戦争の悪化を避けられなかった反省が活かされています。
ここで教育の目的は「人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」(教育基本法1条)とされています。
要するに、教育とは人を育てることです。人格が未完成であり過ちを犯すこともある生徒に対して、学校が適切な訓戒や指導をすることも当然に教育の範囲に含まれることになります(学校教育法11条)。
特に有志の教育機関である私立学校は、その建学の精神を尊重され(教育基本法8条)、教育に関して広範な裁量権が認められます(最判昭和49年7月 19日民集28巻5号790頁 昭和女子大事件)。
しかしながら一度学校に入学した生徒は、学校との入学契約に基づき学生という法的地位が生じます。いくら学校側の教育の自由が認められるとしても、中等部における教育の自由は、子供の教育を受ける権利に応えるためにあります。教育の目的が人を育てることにある以上、間違いを犯した生徒に対して適切な教育を施すことも学校側の責務です。
退学処分は、生徒に教育を施さず、学外に強制的に排除する手続になるわけですから、その重要性に鑑み、学校教育法施行規則26条3項では退学事由を限定列挙しています。
〇学校教育法施行規則26条3項一 性行不良で改善の見込がないと認められる者
二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三 正当の理由がなくて出席常でない者
四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
2 退学処分の判断基準
以上を前提に、本件を具体的に検討してゆきます。
盗撮は性的姿態等撮影罪に該当する重大な非行行為となるため、退学処分も十分にあり得ます。しかしながら先に述べたとおり、退学事由については学校教育法で限定列挙されており、退学処分という厳しい措置を下すことは、裁判所も慎重な配慮をするように求めています。そのため盗撮をしたからといっても、必ずしも退学処分が認められるわけではなく、諸般の事情を考慮して、復学が認められるケースもあり得ます。
⑴ 判例の基準
判例は、中学校の校長が生徒に対し退学処分を行うかどうかの判断について、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものであるが、退学処分は生徒の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則26条3項も4個の退学事由を限定的に定めていることからすると、当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、その要件の認定については他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである(最高裁平成8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁参照)。
⑵ 判断基準の解説
判例は、学校の教育の自由を認め、教育の一環としての生徒に対する懲戒処分については学校の裁量権を認め、他方で、生徒の教育を受ける権利、学習権が侵害されないか、という点から具体的に検討する必要があるとして、①全く事実の基礎を欠くか又は②社会観念上著しく妥当を欠く場合に退学処分は無効としております。
①全く事実の基礎を欠くとは、事実認定が間違っているということです。学校の退学処分の判断の基礎とした事実が存在しない場合ですから、当然に懲戒処分は認められないことになります。
問題は②社会観念上著しく妥当を欠く場合とは、具体的にどのような場合か、という点です。一般的には生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないとはいえない場合を指します。学校が教育の自由に基づいて有する裁量権を逸脱している場合です。諸般の事情を考慮して、学生に改善の余地があるのであれば、退学とはせずに、学校内の不安の除去や教育的指導をまずは先行すべきということになります。
3 考慮要素について
ご質問のケースでは、撮影行為自体に争いはないとのことですので、①全く事実の基礎を欠くとの主張はできません。②社会観念上著しく妥当を欠く場合に当たるとして退学処分の無効を争い、学生の地位仮処分命令を申し立てることになります。
退学処分は当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ない場合に認めれるものです。換言すれば生徒に改善の見込みがある場合は、退学処分を取らずにそれよりも軽い処分を選択しなければなりません。
生徒に改善の見込みがある場合とは、そもそもの撮影行為の悪質性、同種の撮影行為が認められるか、過去に懲戒処分を受けた事実はあるか、撮影行為を指摘されたことにつき素直に認めて反省をしたか、再発防止策はとられているか、被害者の処罰感情といった事情が考慮されることになります。
撮影行為の悪質性とは、撮影した部位や場所、撮影の頻度を考慮されることは当然に、撮影した後の写真や動画の措置(例えば友人に拡散をしたのか、すぐに削除をしたのか)まで考慮して判断されます。
撮影行為を指摘されたことにつき素直に認めて反省したのであれば、生徒において改善が認められる一事情として考慮されます。
再発防止策としては、そもそもスマートフォンを学校に持たせない、防犯上持たせる必要があるとしても、学校内では学校に預ける、ペアレンタルコントロールを設定して操作させないといった対応が考えれられます。
被害者の処罰感情についても、仮に被害者が謝罪を受け入れて撮影行為を宥恕するのであれば、復学に向けた一事情となります。被害者に対しては可能な限り謝罪を申し入れることが望ましいです。
一例とはなりますが、仮に生徒において、今回の撮影行為が初めての懲戒処分事由であり、撮影行為も反復して行われておらず、学校からの聞き取り調査に素直に応じて真摯な反省を示し、被害者と示談をし(仮に示談が成立しなくとも被害生徒の親権者と示談交渉をして謝罪の意を示すことも反省の一事情として考慮されます)、登校復帰した場合の再発防止策を示せば、生徒に改善の見込みがあると判断される場合もあり得ます。
盗撮行為自体がやはり悪質ではあるので、様々な有利な事情が積み重なければ退学処分の撤回は難しいですが、決して諦めることなく、生徒が教育によって改善の余地がある旨を疎明してゆく他ありません。
仮に生徒に改善の見込みが認められた場合、学校が生徒に対してどのような対応をしたのかが審査されることになります。すなわち学校が改善の見込まれる生徒に対して、無許可での撮影行為や性的な領域にかかわる教育的指導をしたのか、学内の不安感を除去するために具体的な対策を施したのかという点です。仮にこれら学校側の対応が効を奏さず、生徒に改善が認められないのであれば、当該生徒を学外に排除することが教育上やむを得ないといえ、退学処分は正当化されます。
対して学校がこれら対応をとらずに漫然と退学処分を選択したのであれば、改善の見込みある生徒に対して必要な対応をとらなかったものとして、社会観念上、著しく妥当を欠く場合にあたるとして退学処分が無効となる場合もあります。
4 結論
学校内での盗撮事件はスマートフォンの普及に伴い増加傾向にあります。盗撮行為自体は非難されて然るべきではありますが、中学生は判断能力が未成熟な部分もあることから、必ずしも退学処分一択ということにならず、諸般の事情を踏まえての判断となります。
すでに退学処分となってしまったということですが、本来であれば、上記の点を学校に説明して、他の懲戒処分にするよう要望するのが一番でした。しかし、退学処分が上記の基準に照らして重すぎる不当な処分ということであれば、処分の違法性、無効を主張して裁判所に、生徒の地位の確認の裁判、地位保全の仮処分の申し立てが可能です。復学の可能性がある場合も考えられます。
中学生は義務教育課程ですので、私立中学を退学となっても公立高校への転学は認められます。しかし当該私立中学に引き続き通いたい事情があれば、一度弁護士に相談されることをお勧めします。
以上
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参考条文
学校教育法施行規則
第二十六条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
② 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
③ 前項の退学は、市町村立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)若しくは義務教育学校又は公立の特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一 性行不良で改善の見込がないと認められる者
二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三 正当の理由がなくて出席常でない者
四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
判例
最判平成8年3月8日 判例タイムズ906号77頁
高等専門学校の校長が学生に対し原級留置処分又は退学処分を行うかどうかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである。しかし、退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則一三条三項も四個の退学事由を限定的に定めていることからすると、当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要するものである