新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1061、2010/11/26 12:14

【民事・駐車場の賃料不払いと自動車収去手続き・駐車場の明け渡し】

質問:私は,駐車場を近くのマンションに住んでいる8年前位から独身者に1台月2万円で賃貸しています。契約書は作成していません。昨年から賃料の滞納が始まり,1年以上も滞納しています。住んでいるマンションに確認したところかなり前から退去しており行方不明になっています。駐車場の車もそのままで困っています。車の処分,賃料の回収等どうしたらいいでしょうか。手続きを教えてください。

回答:
1.まず,駐車場にある自動車の所有者を確認する必要があります。ナンバープレートを資料に陸運局で確認することができます。
2.所有者の確認ができたら,所有者に連絡して引き取りを請求します。自動車の所有者と駐車場の賃借人が異なる場合は,所有者には,自動車の引き取りと,駐車場の契約解除後の駐車期間に応じ駐車場代金相当の損害金を請求することになります。過去の駐車場賃料は,あなたが賃貸した相手にしか請求できません。
3.そこで,駐車場の賃借人が自動車の所有者でない場合は,賃借人の住所も探す必要があります。そのためには住民票の請求が必要になります。
4.いずれの場合も,相手が任意に自動車をどかさない場合は裁判を起こす必要があります。自動車の保管場所等があれば別ですが,通常は自動車を売却する必要が出てきますが,自分で勝手に廃車したりまた事実上破棄したり,また売却することはできません。判決に基づいて行う必要があります。
5.法律相談事例集キーワード検索1025番参照。

解説:
第1 自ら自動車を撤去しスクラップにすることの違法性
1.本件のようなケースに遭遇した場合,誰もが一度はスクラップ業者等に依頼して,本件自動車を撤去もしくは廃棄してもらうこと(以下,「撤去等」と言います)を考えるのではないでしょうか。しかし,本件自動車は,行方不明になっている土地賃借人(以下,「賃借人」と言います)または,その他の人の所有物です。上記撤去等により,賃借人等の自動車の所有者は本件自動車に対する使用収益権を失ってしまうのですから,撤去等を行うことは賃借人の所有権(民法206条)を侵害する行為に該当します。そのため,あなたの判断で撤去行為等を行うと,不法行為による損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。自動車の価値相当の金額が損害となるでしょう。

2.もちろん,あなたからすれば,自分の土地の所有権が賃借人等の自動車所有者によって侵害されているのだからやむを得ない撤去だったと主張されたいでしょう。しかし,上記撤去等は,法的手続きによらないで権利の回復をはかるものであり,いわゆる「自力救済」に該当します。そして自力救済は,「法定の手続によっていては,現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合においてのみ,必要の限度を超えない範囲内で例外的に許される」というのが現在の判例の立場です(最判昭40.12.7)。
 すなわち,自力救済は原則違法であって,極めて限定的な場合にしか許容されないということです。本件で,あなたが侵害されている利益は本件土地の使用収益権(所有権)ですが,ある程度の時間をかけて下記第2以降の手続を取ったとしても,かかる侵害状態は事後的に賃借人に損害賠償請求すること等で十分に回復できるものであると考えられ,上記判例における「緊急やむを得ない特別の事情」があるとまでは言えないでしょう。したがって,撤去等は違法の評価を受けてしまう可能性が高いです。

第2 相手方を見つけて事実上の交渉をすること
1.上記のとおり,本件自動車の撤去等は違法な自力救済に該当します。そこで次に考えられるのは,なんとかして賃借人等の自動車所有者との交渉を試みようとする手段です。

2.相手方を確認する方法
 まず,本件では,自動車のナンバープレートのナンバーから,運輸局で自動車の登録情報を調べることができます。登録情報で自動車の所有者と住所は確認できます。普通乗用車の場合は,陸運局で「自動車車検証の写し交付申請」を行います。軽自動車の場合は,軽自動車検査協会で申請します。自動車の所有者本人からの申請でない場合は,陸運局や検査協会で,証明書の利用目的を質問されることになりますが,放置自動車の妨害排除請求手続であると説明すれば問題なく取得できるでしょう。この点について証明資料の提示は通常必要ありませんが,念のため,現場写真や,土地の登記簿謄本や自分の運転免許証など,関連資料を持参すると良いでしょう。
 また,契約当時に相手方の携帯電話番号が分かっていれば,弁護士に依頼すれば弁護士会照会によって電話会社に照会をかけ,現在の住所が判明する場合があります(弁護士法23の2。あくまで任意回答であることに注意)。

3.住所確認後
 もし住所が判明した場合には,その住所宛に内容証明郵便等を送るなどして,交渉を行うべきです。また,賃借人の旧住所に内容証明郵便を送ってみるという手段も考えられます。もし,転送届を賃借人が出していれば,同郵便は賃借人の現住所に転送されることになります(なお,転送された事実までは把握することが可能ですが,現住所がどこになっているかまでは判明しません)。

4.この場合の,内容証明郵便の内容についてですが,相手が賃借人の場合に一般的なのは,@賃借人の賃料滞納の事実を告知した上で,A相当の期間を定めて未払賃料の支払いを催告し,Bその期間内に賃料の支払いがなければ本件賃貸借契約を解除すること(民法541条),C誠実な対応がなければ法的手続きに出る意向であること,等です。
 また,もはや賃借人が未払賃料を全て払ったとしても本件賃貸借契約を存続させる意向がない場合もあると思われますので,この場合には,上記ABの内容ではなく,@Cの内容に付け加えてAB長期にわたる賃料不払の事実及び全く連絡が取れないという不誠実な行動に鑑み直ちに契約を解除する,旨の通知をすることになります。
 ただし,かかる無催告解除が法的に有効となるのは「賃借人が賃貸人との間の信頼関係を破壊し,賃貸借契約の継続を著しく困難にした場合」に限定されるので(最判昭27.4.25),場合によっては無催告解除が有効でない可能性があります。解除が有効でないと,法的には明渡しが認められないことになるので,無催告解除の手段をとる場合には慎重な検討が必要です。
 相手が賃借人でない自動車の所有者の場合は,無断で自動車が自分の土地に駐車してあるので撤去して欲しいと,請求することになります。また,1日についていくらの損害金を請求するという文言を入れた方が良いでしょう。
 
5.なお,賃貸借契約に保証人がついている場合は,保証人に連絡して事実上の交渉を行うことも有益であると思われます。

第3 法的手続きへの移行
1.上記第2の交渉が効を奏さなかった場合,もしくは賃借人等の所在が全くつかめず,交渉すらできなかった場合には,法的手続きを検討することになります。以下,賃借人等の所在が全くつかめなかった場合を想定して回答させていただきます。
 
2.証拠の収集
(1)いかなる事実に関する証拠が必要か
 賃借人に対して請求する場合,賃貸借契約終了に基づく土地明渡請求を行い,附帯請求として未払賃料及び土地明渡しの遅延損害金(もしくは賃料相当損害金)を請求することになります。ただし,裁判においては事実を立証しないと請求が認容されませんので,そのために証拠を揃える必要があります(民訴法247参照)。本件では以下の事実を立証しないと請求が認容されないため,以下の事実を立証するための証拠が揃っているかを訴訟提起の前に検討する必要があります。
ア 賃貸借契約の成立
イ アの契約に基づく土地の引渡し
ウ 賃料支払期限の経過
エ 催告の事実
オ 催告後,相当期間が経過したこと
カ 解除の意思表示
※上記第2のとおり,無催告解除をしようと思うのであれば,判例に従い,エオに代えてエオ´「賃借人が賃貸人との間の信頼関係を破壊し,賃貸借契約の継続を著しく困難にした」事実を立証するための証拠が揃っているかを検討することになります。
 
(2)(1)のために必要となる証拠
ア 賃貸借契約の成立
 本件では賃貸借契約書が存在していません。既払い賃料の支払方法は口座振込みだとすれば,記帳するなどして証拠化できます。この通帳に関しては,通常何ら契約関係無しに毎月定期的にお金を他人に振り込む人がいることは考えにくいので,賃貸借契約が存在していたと推認できる証拠になります。また,本件自動車の登録情報において自動車の所有者と上記 振込名義人の名前が一致していれば,通帳に入金してあることと相俟って,さらに賃貸借契約の存在を推認する証拠となりうるといえます。
イ 契約に基づく土地引渡し
 陳述書に引き渡したことを記載すれば足りると思います。
ウ 賃料支払い時期の経過
 これに関しては顕著な事実なので,証拠がなくても事実認定が可能です(民訴法179条)
エオカ 催告,解除
 これに関しては,第2の3で述べた内容証明を証拠として提出します。解除の意思表示については,訴状で行ってもいいですし,訴訟提起前に解除の意思表示を内容証明でおいてもいいです。

(3)自動車の所有者が賃借人ではない場合
 この場合は,土地所有権に基づき自動車を撤去して土地を明け渡せという裁判になります。ですから,土地の所有権が自分にあることの証拠として土地登記事項全部証明書の用意が必要になります。その他には自動車が駐車していることの証拠が必要ですが,賃借人に対するのと同様の証拠となるでしょう。なお,自動車の所有者に対する駐車場賃料の請求は,契約関係がないためできません。そのため,契約がないのに駐車していることによる損害賠償を請求することになります。これは,賃借人に貸している以上は請求はできないので,賃貸借契約解除後から自動車の撤去までの期間の駐車場代金相当の金額を損害として請求することになります。
        
3.訴訟提起の段階
(1)訴訟提起には被告への訴状送達という手続が必要です(民訴138T)。相手の所在が不明ということですので送達ができるか問題となります。そこで,送達を被告の住所,居所,営業所,事務所(以下,「住所等」と言います。)において行えるかをまず検討するべきです(交付送達。民訴101条,103T等)。
(2)あなたは相手方の住所等について,通常人に期待される調査方法を一通り尽くす必要があります。例えば,表札が誰になっているか等を調べに現地へ行ってみる,弁護士に住民票謄本を取得してもらう(住民基本台帳法12の3T@A)などです。これらの手段を尽くしたうえで,相手方旧住所に居住していなく,かつ転居先も不明であるということが裁判所に分かってもらえそうであれば,その状況を報告書にまとめるなどした上で,公示送達による送達を裁判所書記官に申立てることになります(民訴110T@)。なお,訴状の公示送達とは,裁判所の掲示板にいつでも訴状を交付すべき旨を掲示し,その掲示があった日から2週間経過することにより送達されたことにする,という送達手段です(民訴111,112T本文)。

4.訴訟の開始
 訴訟では,上記第3の2における事実を主張し,証拠を提出することになります。なお,上記公示送達を行った場合には被告があなたからの訴訟提起に気付いていない可能性があり,その場合には相手方が期日に出席しないことも想定されます。本来,相手方が答弁書であなたの主張を争うことのないまま欠席すると,相手方はあなたが主張する事実について自白したものとみなされ(民訴159TV本文),既に判決に熟したものとして欠席判決が可能となります(民訴243T)。しかし,本件は公示送達を行っているため,かかる手続にはならず(159V但),あなたは上記第3の2の証拠を用いてきちんと立証活動を行う必要があります。

5.勝訴判決が出た場合の手続
(1)判決を受けた後,判決書を書記官から受け取ることになりますが,公示送達の場合は,相手は判決に従って自動車を撤去することを期待できません。そこで,車を処分するためには別途執行手続を行う必要があります。
(2)執行手続には,@債務名義,A執行文,B送達証明が必要となります。本件の場合には,@確定判決(民執22T@ 控訴期間の経過により判決が確定します。),A単純執行文を事件記録が存在する裁判所の裁判所書記官から付与してもらい(26T),B送達証明書を債務名義を作成した裁判所から付与してもらい,執行裁判所に対して強制執行の申立てを行うことになります。
(3)この場合の強制執行ですが賃借人の場合は,未払い賃料を払えという金銭債権に基づき動産執行により自動車を売却するのが良いでしょう。執行官が第3者に売却すればその購入者が自動車を引き取ってくれるはずです。登録自動車ですから換価は執行官の執行裁判所に対する強制競売の申立てによって行われます(168X後段,民事執行規則86条以下)。購入者がいない場合は,あなたが買い取って処分するしかないでしょう。
(4)自動車の所有者が駐車場の賃借人でない場合は,賃料債権では自動車を差し押さえることはできませんが,所有者が土地を不法占拠していることについての損害賠償請求権が判決で認められますから,登録自動車の強制競売の手続きがとれること変わりはありません。
(5)その他事情によって,相手方が再度駐車場の利用を防ぐ必要があれば,あなたの土地占有権限を回復し相手方の駐車場の土地占有権原がないことを明らかにするため,駐車場の明渡しの強制執行も考えられます。駐車場(土地)の明け渡しの請求訴訟を提起して確定判決(債務名義)を取得して,強制執行を申し立てます。手続きとしては,執行官が債務者の土地占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法で行われ(民執168T),具体的には,本件では登録自動車という執行目的外動産が土地上に存在しているため,執行官がそれを取り除いて,債務者その代理人又は同居の親族等(以下,「債務者等」と言います)の相当のわきまえのあるものに引き渡さなければいけません(民執168X前段)。このような手続きをとる事情,必要性がなければ,動産執行の手続で処理する方が良いでしょう。

 以上の手続で持って,本件登録自動車の執行手続を行い,土地の明渡しが実現されることになります。

≪参照条文≫

<民法>
206条  所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する。
541条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
709条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

<弁護士法>
第23条の2 弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において,当該弁護士会は,その申出が適当でないと認めるときは,これを拒絶することができる。
2 弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

<民事訴訟法>
101条 送達は,特別の定めがある場合を除き,送達を受けるべき者に送達すべき書類を交付してする。
103条 送達は,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし,法定代理人に対する送達は,本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
111条 公示送達は,裁判所書記官が送達すべき書類を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
138条 訴状は,被告に送達しなければならない。
159条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には,その事実を自白したものとみなす。ただし,弁論の全趣旨により,その事実を争ったものと認めるべきときは,この限りでない。
3 第1項の規定は,当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし,その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは,この限りでない。
179条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。
247条 裁判所は,判決をするに当たり,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により,事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

<民事執行法>
22条  強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
26条  執行文は,申立てにより,執行証書以外の債務名義については事件の記録の存する裁判所の裁判所書記官が,執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与する。
168条  不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は,執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
5  執行官は,第一項の強制執行においては,その目的物でない動産を取り除いて,債務者,その代理人又は同居の親族若しくは使用人その他の従業者で相当のわきまえのあるものに引き渡さなければならない。この場合において,その動産をこれらの者に引き渡すことができないときは,執行官は,最高裁判所規則で定めるところにより,これを売却することができる。

<民事執行規則>
86条 道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第十三条第一項に規定する登録自動車(自動車抵当法(昭和二十六年法律第百八十七号)第二条ただし書に規定する大型特殊自動車を除く。以下「自動車」という。)に対する強制執行(以下「自動車執行」という。)は,強制競売の方法により行う。

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