新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1588、2015/4/3 13:56

【民事、信販会社の所有権留保形式により販売された車両が駐車場を不法占有している場合、最高裁平成21年3月10日判決民集63巻3号385頁】

駐車場を不法占有している自動車の撤去方法

質問:
 私は、所有している土地で貸し駐車場を経営しています。賃料月額1万5000円で賃貸しているのですが、そのうちの1人(甲)が賃料を2年ほど滞納しています。そこで、賃料未払いの債務不履行を理由に賃貸借契約を解除する旨の内容証明郵便を送りました。配達証明書が手元に届いているので、相手は受け取っているはずなのですが何の反応もないので、こちらから連絡を取り直接会って話をしました。すると、車については、信販会社が立替払いをするオートローン契約となっており、代金を完済するまで車の登録名義はこの信販会社になっているということでした。そして、最近何度も支払いの催促を受けているが、もうこの支払いもできないし、名義が自分のものになることもないから、自分には関係ない、車をどかす必要もないと言って、無関係を決め込んでいます。裁判等ではなく早く自動車を撤去させたいのですが、良い方法はあるでしょうか。
 なお、このとき見せてもらった信販会社との契約書類のコピーを取らせてもらっていますが、自動車の所有権は信販会社にあるということです。契約書類の内容は概ね以下のような内容でした。
  1.信販会社が車両代金を立替払いし、甲は信販会社に対して、立替金債務を分割して支払う
  2.車両の所有権は、自動車販売店から信販会社へ移転し、甲が立替金債務を完済するまで担保として信販会社に留保される
  3.甲は立替金債務について、分割金の支払いを怠り、信販会社から催告を受けたにもかかわらずこれを支払わなかったときなどは、期限の利益を喪失し、残債務全額を直ちに支払う
  4.甲は期限の利益を喪失したときは、事由のいかんを問わず、信販会社が留保している所有権に基づく車両の引渡請求に異議なく同意する
  5.信販会社が甲から車両の引渡しを受けてこれを公正な機関に基づく評価額をもって売却したときは、売却額をもって立替金債務の弁済に充当する



回答:
1.  ご相談の場合、裁判手続きにより強制執行をして、自動車を撤去することも可能ですが、時間と費用がかかってしまいます。一番良い方法は、至急、信販会社に連絡して自動車の所在場所等を特定して自動車の撤去を求め、以降は自動車が撤去されるまで駐車場代金相当の損害金を請求する旨の内容証明郵便で通知することです。
信販会社に対しては、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。」(最三小判平成21年3月10日民集63巻3号385頁)とする判例があります。

2. 関連事例集1192番1061番参照。

解説:

1   あなたとしては、自動車を撤去してもらい、土地を明け渡してもらいたい訳ですが、勝手に他人の自動車を移動することはできません。家を貸している場合と異なり、レッカー車等を利用して自動車を撤去することも違法とは言えないでしょうが移動した自動車の保管場所等にも困りますし、再度駐車場に止められてしまう可能性もあります。また、移動中の事故や傷をつけたなどとクレームをつけられる心配もあります。そこで、強制的に自動車を撤去するには駐車場の利用者を相手にした裁判が必要になります。しかし、そのようなことをしていては時間も費用もかかってしまいます。

2   このような場合に取るべき手段としては、信販会社に対して自動車の撤去を求めるのが解決の第一の方法です。しかし、信販会社は直接相談者とは関係がなし、自動車はこれまで使用者が使っていたことから信販会社に自動車を撤去する法律上の義務があるか検討が必要になります(経済的な価値のある自動車の場合は、信販会社は立替金の回収のため自動車の所在が分かれば自動車を回収するはずですが、万一回収を拒否された場合の法律関係について理解して交渉する必要があります)。

3(1)まず、信販会社に対する請求としては、土地の所有権に基づく物権的請求権を行使するということになります。

    物権的請求権とは、物権の内容の円満な実現が妨害され、又はそのおそれがある場合に、妨害又はそのおそれを生じさせている者に対して、物権を有する者がその妨害の排除又は予防を求め、一定の行為を請求することができる権利をいいます。物上請求権ともいいます。
    このような物権的請求権を認める明文の規定は存在しませんが、判例・学説上、物権的請求権という権利が認められることに異論はありません。なぜなら、物権的請求権は、物権の本質(憲法29条、私有財産制、所有権絶対の原則から当然に物権の直接支配性、排他性は導かれます。)である物に対する直接支配の実現のためには、物権の作用としてその侵害の排除を請求することができるとすることが物権という権利を認めた趣旨に沿いますし、また、事実上の支配にすぎない占有権への侵害について、占有訴権(民法197条以下)が認められることが明文に規定されており、占有権より強力な支配権である所有権等の他の物権に基づく請求権は当然予定されていると考えられるからです。

 (2)物権的請求権には、物権的返還請求権、物権的妨害排除請求権、物権的妨害予防請求権の3種類があります。

    物権的返還請求権は、目的物の物権の実現が他人の占有によって妨げられている場合に、その目的物の返還を請求できる権利のことをいいます。

    物権的妨害排除請求権は、目的物の物権の実現が占有以外の方法で侵害されている場合に、侵害している者に対して、その侵害の除去を請求できる権利のことをいいます。

    物権的妨害予防請求権は、目的物の物権の実現が妨げられてはいないが、将来その侵害が生じるおそれがある場合に、その侵害発生の防止を請求できる権利のことをいいます。

    これらの物権的請求権を行使するために、登記や引渡しなどの対抗要件は不要とされており、また、侵害者に故意・過失がなくても請求が可能とされています。つまり、天災などの不可抗力によって侵害が生じた場合であっても、請求が可能だとされているということです。

 (3)ご相談のケースにおいては、あなたは問題の賃借人甲との間の賃貸借契約を解除していますから、甲はいわゆる不法占拠者となっていることになります。つまり、甲は何らの権利もないのに、あなたの土地上に自動車を置いている状態になっているということです。したがって、あなたとしては、甲に対して、駐車場である土地の所有権に基づく物権的妨害排除請求権の行使として自動車の撤去を、物権的返還請求権の行使として土地の明渡しを請求する権利があります。また同時に賃貸借契約終了に基づく土地の返還請求権も有しています。

 (4)しかし、資産がなく賃料を滞納し、開き直っているような状態の者に対して物権的請求権を行使しても、実効性の点で疑問がありますから、信販会社に対して請求できないかと考えるところです。

    信販会社に対して請求をするときには、物権的妨害排除請求権の行使の一場面として、自動車の撤去及び土地明渡請求を行うことになるものと考えられます。これは、返還請求と妨害排除請求の区別の基準が、占有による侵害であるか否かであるところ、元賃借人である者については土地を占有しているといえますが、信販会社については、この元賃借人を通じて占有をしているといえるとは直ちにいえないという点にあります。また、妨害排除請求については、占有が必須の要件とはされていないということも理由に挙げることができます。

2(1)物権的請求権の相手方は、現に妨害を生じさせている事実をその支配内に収めている者、妨害状態を除去しうべき地位にある者、などと説明されています。上記1で見たように、信販会社に対して物権的妨害排除請求権を行使したい訳なのですが、果たして、信販会社がこれらの地位にあるといえるのかが問題となります。

    更に、ご相談のケースにおいては、車両の所有権につき、所有権留保特約がついているという特殊性が存在しています。
    所有権留保とは、一般に、目的物は売主から買主に引き渡されるが、代金が支払われるまでは売主が目的物の所有権を留保することをいいます。このように、所有権留保は、形式的には所有権の留保であるけれども、実質的には売買代金の担保であることから、物権的請求権の相手方の問題と関連して、所有権留保の法的構成が問題となります。

 (2)所有権留保の法的構成には、大きく分けて所有権的構成と担保的構成という2つの見解が存在します。

    所有権的構成とは、所有権を留保するという形式を重視して、買主が売買代金を完済するまでは売主が所有者であり、売買代金の完済とともに所有権が買主に移転すると考える見解です。

    この見解からは、留保所有権者、すなわちご相談のケースにおいては信販会社が物権的請求権の相手方になるとの結論に結びつくことになります。信販会社が所有している自動車が相談者の土地を何らの権利なく占有していることになり、信販会社が相談者の権利を侵害していることになるからです。

    これに対し、担保的構成とは、所有権留保の目的を売買代金債権の担保ととらえて、所有権を留保している売主の権利は完全な所有権ではなく、担保目的に制限されたものに過ぎないと考える見解です。

    この見解からは、所有権を留保している売主が留保所有権を実行した後にのみ、留保所有権者は物権的請求権の相手方となるとの結論に結びつくことになります。信販会社は所有権を留保していますが、その内容は自動車の価値の把握だけで、自動車を使用する権利はないことから、自動車の使用に関して責任はないことになります。すなわち、ご相談のケースにおける信販会社が物権的請求権の相手方となるのは、信販会社が留保所有権を実行した後である必要があるということになります。

3(1)判例の状況を見てみますと、ご相談類似の事案において、最高裁判例が存在し、以下のように判示しています。

    「本件立替払契約によれば、Yが本件車両の代金を立替払することによって取得する本件車両の所有権は、本件立替金債務が完済されるまで同債務の担保としてYに留保されているところ、Yは、Aが本件立替金債務について期限の利益を喪失しない限り、本件車両を占有、使用する権原を有しないが、Aが期限の利益を喪失して残債務全額の弁済期が経過したときは、Aから本件車両の引渡しを受け、これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができることになる。
    動産の購入代金を立替払する者が立替金債務が完済されるまで同債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において、所有権を留保した者(以下、「留保所有権者」といい、留保所有権者の有する所有権を「留保所有権」という。)の有する権原が、期限の利益喪失による残債務全額の弁済期(以下「残債務弁済期」という。)の到来の前後で上記のように異なるときは、留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産が第三者の土地上に存在して第三者の土地所有権の行使を妨害しているとしても、特段の事情がない限り、当該動産の撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するからといって上記撤去義務や不法行為責任を免れることはないと解するのが相当である。なぜなら、上記のような留保所有権者が有する留保所有権は、原則として、残債務弁済期が到来するまでは、当該動産の交換価値を把握するにとどまるが、残債務弁済期の経過後は、当該動産を占有し、処分することができる権能を有するものと解されるからである。」(最三小判平成21年3月10日民集63巻3号385頁)。

    これは、立替金債務の弁済期が到来しているか否かに着目し、弁済期到来前については、動産の売主である留保所有権者は担保権者にすぎず、担保目的である動産を占有して、処分することのできる権能を有しないから、物権的請求権の相手方になるのは買主であるとし、弁済期到来後については、留保所有権者は、動産を占有して、処分することのできる権能を有するのだから、物権的請求権の相手方となる、としたものです。所有権留保の法的性質に関する考え方について、弁済期到来前は担保的構成をし、弁済期到来後は所有権的構成を採用したと言ってよいでしょう。

 (2)ご相談のケースについて見てみると、甲は、信販会社から最近何度も支払いの催促を受けているにもかかわらず支払いをしていないということですから、期限の利益を喪失し、立替金債務の残額全額を直ちに支払わなければならない状態にあると考えられます。すなわち、立替金債務の弁済期が到来しているということですから、留保所有権者たる信販会社の権利は所有権と同視し、信販会社が物権的請求権の相手方になるものと解されます。

    したがって、あなたは、信販会社に対して、土地所有権に基づき、自動車の撤去と土地の明渡しを請求することができるものと思われます。

    放置されている自動車に経済的な価値があれば、信販会社は債権回収のために直ちに自動車を引き取りに来るものと予測されますから、信販会社への連絡で問題は解決するでしょう。しかし、価値があまりないし撤去に費用がかかってしまうという場合、信販会社も自動車を移動させないかもしれません。そのような場合は、今後は撤去まで賃料相当の金員を損害金として請求することも伝える必要があります。そこで、損害金の請求についての法的な根拠についても検討しておきます。

4(1)上記判例は、先ほどご紹介したものに続けて、以下のように判示しています。

    「もっとも、残債務弁済期の経過後であっても、留保所有権者は、原則として、当該動産が第三者の土地所有権の行使を妨害している事実を知らなければ不法行為責任を問われることはなく、上記妨害の事実を告げられるなどしてこれを知ったときに不法行為責任を負うと解するのが相当である。」(前掲、最三小判平成21年3月10日民集63巻3号385頁)。

    信販会社は、賃貸借契約の当事者ではないので、賃料支払義務を負うということはありえません。しかし、土地上に車両があることで、あなたの土地所有権が侵害されている状態であり、弁済期到来後は信販会社が物権的請求権の相手方となるため、侵害状態を除去すべき義務を負うことになります。そして、あなたが他の人に貸せなくなっているという点で、賃料相当額の損害生じており、不法行為責任を負う場面があるということです。

    ただ、不法行為責任は、故意・過失がなければ負うことはありませんので(709条)、最高裁はその一場面として、妨害の事実を告げられるなどして、妨害の事実を知ったあとは不法行為責任として、賃料相当額の賠償金の支払義務を負うことになるとしたということです。

    また、留保所有権者には、目的動産が適正に維持管理されるよう努める一般的な義務があると考えて、目的動産によって土地所有権が妨害されたときは、この義務を前提として常に留保所有権者に過失ありとの結論を導くという構成も十分考えられるところですが、所有権留保というものの実態を考慮して、最高裁はこのような構成はとらないことを示したのだと思われます。

 (2)ご相談のケースにおいては、あなたは未だ信販会社に対して何も告げていないようですから、現状においては、信販会社に対して賃料相当額の損害金の請求をすることはできません。ただ、信販会社に対して、自動車の撤去、土地の明渡しを求めた後においては、これ以降、自動車撤去、土地明渡しがなされるまでの賃料相当額の賠償金の請求ができることになります。

  一度、資料をお持ちになって法律事務所へご相談なさることをお勧め致します。


<参照条文>
民法
(占有の訴え)
第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
(占有保持の訴え)
第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
(占有保全の訴え)
第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
(占有回収の訴え)
第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


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