違約金と「平均的な損害の額」(消費者契約法9条1項1号)

【民事|消費者契約法|違約金|大阪地裁平成14年7月19日判決】

質問

 私は、以前から高級輸入車であるベンツに強い憧れを抱いており、先日、自動車販売店において、価格800万円の中古ベンツを購入する売買契約を締結しました。家族には反対されると思い、契約については誰にも相談せず、内緒で契約をしました。

 しかし、帰宅後に家族へ契約したことを打ち明けたところ、「子どももいるのだから、スポーツタイプのベンツではなく、家族全員が快適に乗れるファミリータイプの車にすべきだ」と強く反対されました。家族と話し合った結果、ベンツの購入を断念し、ファミリータイプの車を購入することにしました。

 そこで、私は、売買契約を締結した翌日、販売店に対し、契約をキャンセルしたい旨を申し入れました。

 ところが、販売店からは、売買契約書には違約金条項が定められており、購入者の都合で契約を解除する場合には、違約金として300万円を支払う義務があるとして、その支払いを請求されています。

 もっとも、私がキャンセルを申し出た時点では、契約締結からわずか1日しか経過しておらず、販売店は車両の登録手続、名義変更、納車準備などには一切着手しておらず、契約の履行のために特段の費用を支出した形跡もありません。

 このような場合であっても、契約書に違約金として300万円を支払う旨の条項がある以上、私はその全額を支払わなければならないのでしょうか。

回答

 本件のように、契約締結の翌日に契約を解除し、その時点で販売店が登録手続や納車準備等に着手していない場合には、契約書に違約金300万円を支払う旨の定めがあったとしても、その全額を支払わなければならないとは限りません。

 消費者契約法9条1項1号は、契約解除に伴う違約金や損害賠償額の予定が、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合には、その超える部分を無効としています。

 本件では、契約締結からわずか1日後の解除であり、販売店が契約履行のために特段の費用を支出した事情もうかがわれないことから、違約金300万円は販売店に生ずべき平均的な損害の額を大きく上回る可能性があります。

 したがって、販売店は当然に300万円全額を請求できるわけではなく、平均的な損害の額を超える部分については、無効となる可能性が高いと考えられます。

解説

1 違約金条項と損害賠償額の予定

 ⑴ 違約金の意義

   一般的に違約金は、契約に違反した場合の制裁金、違約罰であり損害の賠償とは別とされ別途損害賠償の請求が可能であり、損害賠償額の予定とは、違約による損害の賠償額をあらかじめ定め、現実の損害がなくても予定額の賠償責任が生じる、というものですが、実際の取り扱いとしては厳密に区別されることはありませんので、どちらの意味なのかは契約書の文言だけでなく諸般の事情を考慮してどちらなのか、判断されることになります。売買契約書には、「契約を解除した場合には、違約金●円を支払うものとする。」、「契約を履行しなかった場合には、契約代金の●%を違約金として支払う。」といった条項が設けられていることが少なくありません。

   このような違約金条項は、債務者が契約上の義務に違反した場合に、一定額の金銭の支払義務を負わせることにより、契約の履行を確保するとともに、紛争が生じた際に損害額を個別に立証する負担を軽減することを目的とするものです。

   もっとも、先に説明した通り「違約金」という名称が用いられているからといって、その法的性質が当然に定まるものではありません。契約書において「違約金」と記載されていても、その実質は損害賠償額の予定である場合もあれば、制裁金としての性質を有する違約罰である場合もあります。そのため、当該条項の法的性質を判断するに当たっては、その名称ではなく、契約全体の趣旨や条項の内容を踏まえ、その実質的な法的性質を検討する必要があります。厳密な意味での違約金であれば、制裁金ですから別途現実の損害が発生していれば損害賠償責任が生じます。しかし、契約の際両者を厳密に区別することはまれであることから民法420条に規定があります。

 ⑵ 損害賠償額の予定との関係

   民法420条は、当事者があらかじめ債務不履行があった場合の損害賠償額を定めることができ、違約金を損害賠償額の予定と推定する旨を規定しています。

   損害賠償額の予定がある場合には、債権者は実際に生じた損害額を立証する必要がなく、債務者もまた、「実際には、損害がほとんど生じていない。」と反論することが原則としてできません。裁判所も、その予定額を増減することはできないとされています。

   例えば、建築請負契約において、「工期に遅れた場合には1日当たり5万円を支払う。」と定められていれば、注文者は、実際の損害額を立証することなく、その予定額を請求することができます。

   このように、損害賠償額の予定は、損害額に関する立証の困難を回避し、契約関係を安定させるという重要な機能を有しています。

2 消費者契約法による修正

 ⑴ はじめに

   民法420条は、事業者同士による場合など、当事者間の交渉力に大きな差がない状況を念頭に置いた一般規定です。

   これに対し、消費者契約では、契約内容の多くが事業者によって一方的に作成され、消費者はその内容を十分に交渉できないまま契約を締結することが少なくありません。

   そのため、事業者が極めて高額な違約金をあらかじめ定めることにより、消費者が契約を解除することを事実上断念せざるを得なくなるおそれがあります。また、実際には、ほとんど損害が生じていないにもかかわらず、多額の違約金を請求されることになれば、消費者に著しく不利益な結果をもたらします。

   このような弊害を防止するため、消費者契約法は、民法420条の特則として、消費者契約における違約金条項について一定の制限を設けています。

   すなわち、消費者契約法9条1項1号は、契約解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金が、事業者に通常生ずべき平均的な損害の額を超える場合には、その超過部分を無効とすることにより、消費者を保護しているのです。

 ⑵ 消費者契約法9条1項1号の適用要件

  ア 消費者契約であること

    そもそも、消費者契約法の適用対象となるのは、「消費者契約」です。

    消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいいます(同法2条3項)。

    ここでいう「消費者」とは、事業として又は事業のために契約を締結する者を除く個人をいい(同条1項)、「事業者」とは、法人のほか、事業として契約を締結する個人も含まれます(同条2項)。

    したがって、本件のように、一般の個人が中古車販売業者から自己使用目的で中古車を購入する契約は、典型的な消費者契約に該当します。

    一方で、自動車販売業者同士の売買契約や、中古車販売業者が転売目的で締結する契約などは、消費者契約には該当せず、同法9条1項1号の適用はありません。

  イ 「消費者契約の解除に伴う」条項であること

    消費者契約法9条1項1号の適用対象となるのは、「消費者契約の解除に伴う」条項です。

    契約が解除された場合に限って一定額の違約金や解約手数料を支払う旨の条項は、同号の適用対象となります。

    これに対し、契約が解除されるか否かにかかわらず、代金の支払遅滞に対する遅延損害金を定める条項などは、「契約の解除に伴う」ものではないため、同号の適用対象とはなりません(なお、その内容によっては、同法10条その他の規定によって無効となる余地があります。)。

  ウ 「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める」条項であること

    消費者契約法9条1項1号の適用対象となるのは、「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める」条項です。

    「損害賠償の額の予定」とは、契約が解除された場合に生じる損害について、実際の損害額にかかわらず、あらかじめ一定額又は一定の算定方法によって支払額を定めておくものをいいます。

    また、「違約金」とは、契約違反や契約解除があった場合に支払うことを約した金員をいいます。その法的性質は名称によって決まるものではなく、契約全体の趣旨や条項の内容を踏まえて判断されることは、前記1⑴で述べたとおりです。

    このように、同号は、「損害賠償の額の予定」だけでなく、「違約金」を定める条項についても規制対象としていることから、契約解除に伴って消費者に一定額の金員の支払義務を課す条項は、その法的性質が損害賠償額の予定であるか、制裁金、違約罰であるかを問わず、同号の適用対象となります。

  エ 「平均的な損害の額を超えるもの」であること

    消費者契約法9条1項1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金を定める条項について、その額が当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるときは、その超える部分を無効としています。

    ここでいう「平均的な損害の額」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という趣旨であるとされています。

    もっとも、「平均的な損害の額」については、契約の解除時期や解除に至る経緯などによって異なり得るため、契約締結直後の解除であるのか、履行準備が相当程度進んだ段階での解除であるのかなど、契約が解除された時点の事情を踏まえて判断されます。

    したがって、中古自動車売買契約についても、契約締結から間もなく解除された場合には、その時点で事業者に通常生ずべき損害がいかなるものであるかを具体的に検討する必要があります。

    特に、本件では、契約締結からわずか1日後に解除の申入れがされており、自動車販売店において、車両の登録手続、名義変更、納車準備などがどの程度進んでいたのか、また、車両を他の顧客に販売する機会がどの程度失われたのかといった事情を踏まえて、平均的な損害の額を判断すべきことになります。

    このような事情に照らすと、契約締結の翌日の解除であるにもかかわらず、高額な違約金を一律に請求することは、事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える可能性が高く、その超過部分については、同号によって無効となる余地があります。

    具体的には、販売店に対して消費者契約法9条1項1号により、損害は生じていない以上は請求には応じられない、ということで対応されたら良いでしょう。あるいは、損害について具体的に明細を尋ねても良いいでしょう。ちなみに、平均的な損害とは具体的にいくらなのか、という疑問を持たれるかと思いますが、裁判になると、この点についての、主張立証責任は業者側にある、とされていますから、消費者としては、平均的には損害は生じていない、と主張し、業者が具体的な金額を主張立証しない以上、請求は認められないことになります。

3 まとめ

  以上のとおり、消費者契約における契約解除に伴う違約金条項は、契約書に定めがあるというだけで、その全額が当然に有効となるものではありません。事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分については、消費者契約法9条1項1号によって無効となります。

  したがって、本件では、販売店が違約金として300万円を請求しているとしても、その全額を支払わなければならないとは限らず、平均的な損害の額を超える部分については、無効となる可能性があります。

  もっとも、平均的な損害の額に相当する範囲では、違約金条項は有効であるため、具体的な有効額は、契約解除の時期や販売店に通常生ずべき損害の内容・程度など、個別の事情を踏まえて判断されることになります。

  そのため、販売店から高額な違約金を請求されている場合には、請求額が法的に認められるものかどうかを慎重に検討する必要があります。請求を受けたからといって直ちに支払うのではなく、契約書の内容や契約解除に至る経緯などの資料をご持参の上、お近くの法律事務所に相談されることをお勧めします。

参考条文

【民法】

第420条(賠償額の予定)

1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。

2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。

3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

【消費者契約法】

第2条(定義)

1 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。

2 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。

3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。

4 この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法(昭和四十三年法律第七十八号)第八条の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)

1 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

 ① 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 ② 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第十二条の四において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。

第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

判例

(大阪地裁平成14年7月19日判決)

『第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(本件売買契約の成否)について

  (1) 被告は、本件売買契約の成立を争い、その理由として、第1に本件注文書は車を探してもらうための書面に過ぎず、被告において売買契約締結のための書面との認識はなかった旨主張する。

 しかしながら、本件注文書は、その体裁からしても、記載内容からしても、車を確保してもらうことを目的とする単なる契約締結の準備行為を依頼するだけの(すなわち双方に何らの権利義務を生じさせない)事実上の書面に過ぎないものとは解されないものである。実際、その表面には対象となる車両の車名、グレード(型番)、色が明記され、付属品についても詳細にその明細が記載されており、かつ、車両本体価格、付属品価格、税金等、その他諸費用についても金額が明記されているのであって、一般に売買契約を証する書面として特に欠けるところがあるとも言えない。裏面の本件特約条項においても、注文書署名の日が契約成立時期であると明記され、これを顧客に認識させ、後日の証拠とするため裏面にも顧客の署名を求めるほどの周到さである。後日、正式な契約締結のために別途新たな書面の作成が予定されていたとも考えられないところである(なお、証人A[B協会及びC商工組合専務理事]は、中古車の取引慣行として現物がないと契約書は作成しないと供述しているが、このことは逆に本件注文書を作成している本件においては、当事者間に契約成立の意思が存在したと推認する根拠ともなりうる。)。

 そして、いやしくも立派な成人である被告がこれを確認し、署名しているのである(本件注文書の表面、裏面の被告の署名の成立には争いはない。)から、被告がその内容や意味について認識していなかったとは到底言えない道理である。被告が本件注文書に署名して原告に交付した以上、被告においてこれに記載された車両を買い受け、代金を支払う旨の意思表示、すなわち売買契約の申込みがあったと解すべきである。

  (2) 次に、被告は原告による承諾の意思表示がなかった旨主張する。

 しかしながら、原告自身がこの注文書を受領したことをもって売買契約が成立したと主張し、これを前提に本件訴えを起こしているのであるから、原告自身の認識として承諾をしたということは当然の前提となっているものである。被告が主張するように、原告担当者が代金(全額ないし半額)の支払を求めたとしても、それは契約上の義務の履行に関わることであって、これをもって本件契約を要物契約としたり、代金前払いを契約成立の停止条件とするというような約定は本件契約書には一切記載されていないし、他にそのような合意があったと認定しうるような事情もうかがわれない。

  (3) 更に、被告は、本件売買契約が中古車売買であり、特定物売買であって、対象車両が契約時に特定されていなかったから、本件売買契約は不成立ないし無効であると主張する。

 しかしながら、他人物売買も債権契約としては有効であることは当然であり、別紙1記載のとおり対象たる車両が車名、グレード等によって特定されている以上、契約時に原告が対象車両を確保していなかったとしても、それ故契約が不成立ないし無効ということもできない(契約に示された車名、グレードの車両が確保できなかった場合には、担保責任の問題として処理すれば足りる。契約当事者双方とも、指定された車両が確保できない場合があり得ることは当然の前提として契約しているものと考えられるからである。)。

 被告は、中古車取引の特殊性を強調するが、対象物が中古車であることが売買契約の一般原則を覆すほどの特殊性を有するか自体疑問である上、本件契約の対象物件は中古車の範疇に属するものとはいえ、登録済未使用車であって、一般の中古車に比較して新車に近いものであり、一層その特殊性は希薄であるといえる。

 もし被告の主張するように、販売業者が車両を確保するまでは契約が成立していないとするならば、顧客が車名、グレード等を指定して注文しても(契約成立がないのであるから)業者は顧客のために車両を探す義務もないことになり(そのまま放置しても何ら法的責任はないことになる)、顧客の通常の期待に反する結果となる。また、業者にとっても、いかにコストをかけて車両を探す努力をしても、現実に確保するまでは顧客は自由にキャンセルできる(厳密に言えば契約が成立していないのであるから、契約締結の義務もないことになろう)というのでは、業者としては合理的なコスト、リスク計算に基く健全な営業はできないことになろう。

 したがって、本件注文書への署名捺印(及び原告への提出)をもって売買契約締結の日と定める本件特約条項が直ちに消費者契約法10条に違反するものとも言えない。

  (4) なお、被告は、本件特約条項が財団法人中古自動車販売協会連合会作成の標準約款(乙3)に反していると主張するようである。確かに、業者の商道徳として、業界の自主的規制に従うことが期待されているとは言えるが、標準約款はそれ自体法的拘束力や規範的効力を有するものでない以上、これに反する契約が当然に無効となったり、その内容が標準約款に沿うように変更を受ける性質のものでないことはいうまでもない。

  (5) 以上のとおり、本件売買契約は有効に成立したものと認定することができる。

 2 争点(3)(本件売買契約と消費者契約法9条の適用)について

  (1) 本件売買契約が、消費者契約法(平成13年4月1日施行)2条3項に定める消費者と事業者との間で締結される契約であり、同法の適用があることは明らかである。

 そして、消費者契約法9条1号に定める「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」は、同法が消費者を保護することを目的とする法律であること、消費者側からは事業者にどのような損害が生じ得るのか容易には把握しがたいこと、損害が生じていないという消極的事実の立証は困難であることなどに照らし、損害賠償額の予定を定める条項の有効性を主張する側、すなわち事業者側にその立証責任があると解すべきである。

  (2) これを前提として本件について検討するに、本件では、被告による本件売買契約の撤回(解除)がなされたのは契約締結の翌々日であったこと、弁論の全趣旨及び証拠(被告本人)によれば、原告担当者は、本件売買契約締結に際し、被告に対し、代金半額(当初全額と言っていたが、被告が難色を示したため、半額に訂正した)の支払を受けてから車両を探すと言っていたことが認められることなどからすれば、被告による契約解除によって事業者である原告には現実に損害が生じているとは認められないし、これら事情のもとでは、販売業者である原告に通常何らかの損害が発生しうるものとも認められない。

 原告は、本件売買契約の対象車両は既に確保していたとするが、それを認定するに足りる証拠はない上、仮にそうであったとしても、被告に対してそのことを告げていたとは認められないし、また、被告の注文車両は他の顧客に販売できない特注品であったわけでもなく、被告は契約締結後わずか2日で解約したのであるから、その販売によって得られたであろう粗利益(得べかりし利益)が消費者契約法9条の予定する事業者に生ずべき平均的な損害に当たるとはいえない。

 もっとも、厳密に言えば、原告が取引業者との間で対象車両の確保のために使用した電話代などの通信費がかかっているといえないこともないが、これらは額もわずかである上、事業者がその業務を遂行する過程で日常的に支出すべき経費であるから、消費者契約法9条の趣旨からしてもこれを消費者に転嫁することはできないというべきである。

  (3) したがって、本件特約条項〈3〉に基く本件違約金請求は、消費者契約法9条1号により許されない。

 3 よって、原告の本件請求は理由がないから棄却すべきである。』