新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1001、2010/2/17 10:52 https://www.shinginza.com/syouhisya.htm

【民事・消費者契約法4条2項の「重要事項についての不利益事実の不告知」による契約取消・消費者に不利益な事実の説明欠如等があったが取引価格が結果的に製品の上代価格の場合に契約を取り消しできるか】

質問:私は、ある販売業者の訪問を受け、「太陽光発電システムを街に普及したいので、オール電化機器類が設置してある発電システム設備のモニターになってほしい。」旨勧誘を受けました。数日後、業者従業員は、電化機器類のパンフレットを持参し次のように説明してきました。@本日中に契約すれば特別にこれらのオール電化機器類(100万円以上)を全て無償サービスで提供できる。A太陽光発電システムによりガス代、電気代、水道代が節約でき、月1万5000円光熱費等が減少する。C太陽光発電システム設置により500キロワット相当、売電額にして1万円相当の発電が見込まれる。D契約すれば、国から約15万円の補助が受けられる、以上の説明でかなり得であると判断し販売業者と契約を締結しました。総額500万円です。
 本件設置工事の後に、私は本件契約が割高ではないかと疑いインターネットで調査したところ、光熱費等の節約、国の補助は事実なのですが、販売業者以外の事業所が取り扱う同程度の太陽光発電システム標準価格の平均は250万円程度であること、さらに本件オール電化機器類の設置及び工事のみを事業者に依頼すると150万円程度であり、合計400万円で工事も可能なようです。すなわち100万円も高額で不必要な取引をしたようです。しかし、500万円という契約金額は発電システムと電気機器のパンフレット標準価格、すなわち業界での上限相当金額の範囲内(発電システムが高額なものを使用した結果)であることも判明しました。私は、設置工事終了していますが契約を取り消したいと思います。可能でしょうか。

回答:
1.販売業者は、本契約の重要な事項である取引価格について、電気料金、水道料金の節約、売電料金の利益、オール電化機器類の無償提供、国の補助、保証期間の長期等貴方に利益となる説明をしていますが、他方、当該発電システム、電化機器の合計額500万円が取引の標準価格の範囲内であっても、結果的に本契約が、同様の効果を生む一般の標準取引価格より100万円も高額であるという不利益事実を説明せず、誤認が生じ契約していますので、消費者契約法4条2項により取消が可能です。
2.発電システム、電化機器の合計価格500万円について、実際はメイカーの標準価格(上代価格)内であっても、消費者は、通常価格の発電システムを使用し、電化機器がサービスされていると誤解しており(250万円のシステム代金だけで契約できた。)契約を取り消す必要があります。
3.法律相談事例集キーワード検索で943番907番参照。

解説:
1.(問題点)訪問販売員は、電化機器の無償提供、電気、水道代、売電料金、国の補助等を説明し全製品の販売標準(上代)価格内で契約していますので、通常の取引の範囲内であり、購入者である貴方が価格を納得している以上有効であると考えることも可能です。しかし、結果的には無償サービスの利益がなく、通常取引より100万円も高額で購入したと考えられ、このような購入者の不利益を救済する必要があります。

2.(詐欺の主張)まず、150万円の電気機器を無償サービスするといいながら計算上サービスになっておらず、ほかの一般的業者の通常取引よりも100万円も高価なものを購入させていますので、民法上の詐欺(民法96条)により取り消しができないか問題です。詐欺罪の適用は要件上難しいと考えられます。詐欺とは疑罔行為(欺く行為)により相手方を錯誤に陥れて意思表示すなわち法律行為をすることです。そこで、販売員が一般的取引からすれば無料サービスの実態がないのに無償サービスといって当該商品の標準価格内で契約した行為が疑罔行為に該当するかという点ですが、このような不告知は疑罔行為とは評価できない可能性が大きいと思います。なぜなら、契約において他の販売会社の一般取引価格を説明してその上で商品を販売することは一般取引上ありえませんし、疑罔行為は原則積極的な作為を予定しており、取引の駆け引きとしての不作為を疑罔行為と断定することは困難だからです。

3.(錯誤の主張)次に、貴方は、販売員の説明により無償サービス、電気水道、売電料金等により一般取引より有利であると思い通常取引より100万円も高額な契約をしていますので、錯誤(民法95条)により契約無効を主張できるかが問題です。錯誤とは表示された意思表示の内容と、意思表示をした者の真に意図している内容が不一致で、この食い違いを意思表示者が知らない場合です。通常、10ドルを10ポンドと間違って記載した場合や、10ドルと10ポンドは同価値と思い10ドルと書こうとしていたが10ポンドと記載した場合です。勿論、意思に反し法律行為をした者を保護するための規定です。 貴方は、説明を聞いた結果450万円の契約をしようとして、450万円で署名しているので基本的内容に錯誤はありません。通常の取引より得(電化機器分150万円が利益)であるという点において食い違いがありますが、契約の内容になっておらず、契約をする単なる動機の点についての食い違い、錯誤(いわゆる動機の錯誤といいます。)であり、契約内容に関する95条の錯誤として保護されません。動機まで錯誤として無効とすると、意思表示の相手方が不測の損害を被り、錯誤の意思表示をした者を過度に保護することになるからです。

4.以上、貴方は、民法の規定により保護するのは難しいかもしれませんが、販売員は、種々の有利な条件を持ち出して実態取引価格より100万円も高額で取引しており、消費者契約法の適用が問題となります。

5.(消費者契約法)消費者契約法の趣旨は、業者と取引する一般消費者の保護を目的とした民法の特別法です。私的自治の大原則に内在する公平、公正、信義誠実の原則の理念により制定されました。すなわち、法1条が明言するように、契約当事者の公平、平等を保障し契約自由の原則、私的自治の原則を確保し、業者と契約する一般消費者を保護し公正、公平な社会経済秩序の実現にあります。民法上、業者も消費者も取引主体として、いつ誰とどのような内容の契約をするかをお互いに自由に決めることができるわけで、「契約自由の原則」に支配されています。しかし、大規模な組織で大規模に契約行為をおこなう業者と、知識にも交渉力にも乏しい一消費者とでは、取引を自由に行う力に大きな差があります。その現実を無視して形式的な自由を貫くと、実際には業者ばかりが自由を享受し、消費者は事実上不利益な契約を強いられるという「強者による弱者支配」が起こりかねません。
 例えば、契約内容を了解しながら履行しなければどのような違約金でも請求されますし、契約の取り消し、無効、解除も解除等をしようとする人が解除理由を具体的に立証しなければなりません。そこで、業者側は以上の法理論を奇貨として通常民法の一般規定では保護が難しい方策により、更なる利益を確保するため社会生活上の契約行為について業者の経済力、情報力、組織力、営業活動の宣伝、広告等を利用し事実上消費者に実質的に不利益な種々の契約態様を考え出し、一般社会生活における契約に無防備な消費者の利益を侵害する事態が生じました。このような状態は、法の理想から私的自治の原則に内在する公平公正の理念に反し許されません。この考えは、昭和43年に制定され、平成16年に大改正された「消費者基本法1条」にうたわれています。
 具体的には、「消費者契約法」等において、民法の特別法として消費者の利益の保護が図られ、業者の規制と消費者保護のため、消費者側の契約取消権付与(消費者契約法4条)、損害賠償の予定の制限(消費者契約法9条)、業者側の免責の禁止(消費者契約法8条1項)等が定められています。その内容を一口で表すと、業者側の「契約の自由」の制限ということになります。以上より、当法律の解釈に当たっては適正、公平、権利濫用防止の原則(憲法12条、民法1条、2条、消費者契約法1条)から契約締結について優位性をもつ業者の利益よりも無防備な消費者保護の視点が特に重視されなければなりません。

6.(消費者契約法4条2項)販売員は、貴方に対して、光熱費等の節約、売電料金の利益、オール電化機器類の無償提供、国の補助、保証期間の長期等貴方に利益となる説明をしていますが100万円も低額な通常価格の内容を故意に説明していませんので同法4条2項の「重要事項又は当該重要事項に関連する事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、消費者が誤認をした場合」に該当するか問題です。同項に当たるものと思います。重要事項とは消費者保護のため、物品の内容、質、用途、対価等の条件を含むものであり、商品の価格も含まれます。消費者保護の見地から、価格に関し消費者の一般的利益になることは説明する義務があるからです。不利益な事実とは、消費者保護のため契約の動機になるもので不利益な事実を知っていれば契約しないと思われる事実を言います。

7.本件では、通常100万円低額で取引ができるという事実を説明していませんし、通常400万円程度で契約できると知っていれば取引に応じないのが通常です。又、販売員は、本日中などと契約を急がせており、説明義務違反は大きいと思います。たとえ販売の上限価格であっても通常価格より高額であるという不利益な事実を知っていれば取引しなかったわけで、そこに実質的損害を認めることができますので消費者保護の見地から取り消しを認めることが妥当です。

8.(本件の場合のまとめ)以上貴方は、太陽光発電システムの価格とオール電化機器類の設置工事費用500万円は通常一般の取引価格(400万円)と思い込み、オール電化機器類は無料サービスなのでその無料部分が経済的に得(150万円)になると認識して契約しています。しかし実際には、太陽光発電システムの価格は高額なものを使用しており業界内の上限価格で、オール電化機器類の設置工事費用も結果的に業界標準価格(上限価格)でしたが、オール電化機器類を無料サービスし利益となることを説明しながら、販売対象商品の価格等が通常よりも高額なものを使っているという事実、一般取引より総額100万円程度高額な契約であるという事実を説明しなかったのですから不利益事実の故意による不告知に該当するのではないかと考えられます。

9.(判例参照)(神戸地方裁判所姫路支部平成18年12月28日判決)本判決は、同様の事案について4条2項の取り消しを認めています(売電量の額が異なるということで4条1項1号の適用も認めています。他に特定商取引法に関する法律9条の2も適用。)。販売員は取引を急がせており、実質的に無料サービスの実態がないのですから、消費者契約法の趣旨から妥当な見解です。
 判決要旨。「Y(=消費者)らは、本件工事代金について月3万円以上のクレジットとしてこれを15年間にわたって支払うという高額な商品ないし役務提供であることを大前提として、どの程度経済的メリットがあるかに関心を持ち続けていたことが優に認められ、このような関心にかかる事実は消費者契約法所定の誤認対象事実と認めるべきものである。このような説明を受けたYらとしては、本件工事代金がA社の太陽光発電システムとして標準的な価格であることを前提に、本件オール電化機器類が無償でサービスされることそれ自体に経済的なメリットがあること、および本件システムとオール電化機器類の設置による光熱費・水道代等の節約がクレジット代金の支払いを考慮してもなお経済的なメリットがあることなどの事実を本件契約の重要な事実として考慮して本件契約に至ったというべきであり、これらの点について誤認があり、かつそれがB(=販売業者の従業員)の勧誘文言上重要事実を告げなかったものであることは明らかであるというべきである。
・・・加えて、本件システムにかかる発電能力についても、Bは不実の告知をしたと言わざるを得ず、当該不実は、本件システムを導入することによる経済的メリットに直接かかわる事実であることは明らかである。
・・・この点、仮に本件工事代金が本件システムを取り扱う他の事業者の標準的価格と本件オール電化機器類の標準的設置価格との合計額と大差なく標準的価格に収まっているものであり、太陽光発電システム単独でみても一般に行われている取引価格の枠内に収まっていたとしても、Yらは、本件システムと本件オール電化機器類の総合的価格を考慮して本件契約締結に至ったものではなく、Bの勧誘文言から、本件システムがA製の太陽光発電システムとして標準的な価格であることを当然の前提であることを認識したうえで、本件オール電化機器類が無償でサービスされることそれ自体に経済的メリットがあると判断して本件契約に至ったというべきであるから、前記のような点をもってしても、Yらが重要事項について誤認していなかったものと解することはできない。」と判断して契約の取消しを認め、事業者からの工事代金の支払い請求を棄却し、また、消費者からの原状回復(事業者負担による設置物の撤去)を認容しました。

10.(結論)貴方の場合も、消費者契約法4条2項による取消しが可能と考えられます。なお、同法による取消しには、期間制限があることにご注意ください(7条)。

≪参照条文≫

民法
(錯誤)
第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
(詐欺又は強迫)
第九十六条  詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2  相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3  前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

消費者契約法
第一章 総則
(目的) 
第一条  この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
第二章 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
 一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
 一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
 (媒介の委託を受けた第三者及び代理人)
第五条 前条の規定は、事業者が第三者に対し、当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし、当該委託を受けた第三者(その第三者から委託を受けた者(二以上の段階にわたる委託を受けた者を含む。)を含む。次項において「受託者等」という。)が消費者に対して同条第一項から第三項までに規定する行為をした場合について準用する。この場合において、同条第二項ただし書中「当該事業者」とあるのは、「当該事業者又は次条第一項に規定する受託者等」と読み替えるものとする。
2 消費者契約の締結に係る消費者の代理人、事業者の代理人及び受託者等の代理人は、前条第一項から第三項まで(前項において準用する場合を含む。次条及び第七条において同じ。)の規定の適用については、それぞれ消費者、事業者及び受託者等とみなす。
 (解釈規定)
第六条 第四条第一項から第三項までの規定は、これらの項に規定する消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十六条の規定の適用を妨げるものと解してはならない。
(取消権の行使期間等)
第七条 第四条第一項から第三項までの規定による取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行わないときは、時効によって消滅する。当該消費者契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。
2 商法(明治三十二年法律第四十八号)第百九十一条及び第二百八十条ノ十二の規定(これらの規定を他の法律において準用する場合を含む。)は、第四条第一項から第三項までの規定による消費者契約としての株式又は新株の引受けの取消しについて準用する。この場合において、同法第百九十一条中「錯誤若ハ株式申込証ノ要件ノ欠缺ヲ理由トシテ其ノ引受ノ無効ヲ主張シ又ハ詐欺若ハ強迫ヲ理由トシテ」とあり、及び同法第二百八十条ノ十二中「錯誤若ハ株式申込証若ハ新株引受権証書ノ要件ノ欠缺ヲ理由トシテ其ノ引受ノ無効ヲ主張シ又ハ詐欺若ハ強迫ヲ理由トシテ」とあるのは、「消費者契約法第四条第一項乃至第三項(同法第五条第一項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ因リ」と読み替えるものとする。

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