新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1364、2012/11/1 13:21 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【民事執行・強制執行と財産開示手続・東京高等裁判所平成21年3月31日第20民事部決定】

質問:私は知人に対して300万円の貸金を支払うことを求める訴訟を提起し,認める判決が言い渡されて,判決が確定しました。しかし,その知人は,判決に従って,お金を返そうとしません。強制的に取立てを行いたいのですが,知人がどのような財産を持っているのかわからないので,これを調べる方法はないのでしょうか。

回答:
1.あなたは,確定した判決に執行文というものをもらうことで,強制執行という手続により,相手の財産を強制的に取得する手続に進むことが可能です。しかし,強制執行をするには,債権者が債務者の財産を特定して強制執行の申し立てを,判決手続きとは別に裁判所に申し立てなくてはなりません。
2.相手の財産を特定するのは,通常困難です。相手の住所が持ち家であれば,家の登記事項証明書を取り寄せるなどの方法により,ご自身で相手の財産を調査することも可能です。他方,財産開示手続という制度を使って,相手の財産を把握することも考えられます。
3.関連事例集論文1136番756番参照。

解説:
1 (判決確定から執行までの流れ)
(1)債務名義の取得の必要性
 あなたのように,ある者に対して金銭を支払ってもらう権利等(債権)を有している場合,当然,相手方に対し,当該債権に基づいて金銭の支払等を請求することができます。ただ,相手方がこの請求に応じない場合,ご自身で強制的に金銭の取立てを行うことができるわけではありません。法の支配の理念,自力救済禁止の大原則から正当に権利を行使して財産を取得するためには,裁判所等を通じて債権の存在が公に認められる必要があります。
 そして,債権が公に認められても相手方がこれを支払ってこない場合には,裁判所を通じた執行手続により,この債権を実現することになります。これを強制執行といいます。 強制執行は,相手方の財産を強制的に徴収等できる強力な手続ですので,強制執行をするためには,権利の有無を判定する裁判所等が作成し,請求権の存在と範囲を確定して記載した文書に基づいて行われる必要があります。この権利判定手続によって作成された,債権者の給付請求権を公証する文書を「債務名義」といいます(民事執行法(以下「法」といいます。)22条)。
 債務名義の代表例としては,確定判決が挙げられます。そのほか,仮執行宣言付の支払督促,債務者が直ちに強制執行に服する旨が記載された公正証書,確定判決と同一の効力を有する和解調書等が挙げられます。
 あなたは,すでに確定判決を得ていますから,この債務名義を取得していることになります。

(2)執行文付与の必要性
 もっとも,強制執行は,ただ債務名義を取得しただけではできません。強制執行は,原則として,執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施するとされています(法25条本文)。執行文とは,債務名義の執行力の存在と範囲を公証するため,執行文付与機関(判決の場合は裁判所書記官)が債務名義の正本の末尾に付記した公証文言をいいます。簡単にいえば,債務名義の末尾に(確定判決の場合は裁判所から送達された判決書の末尾),執行文というこの債務名義で強制執行できる旨が記載された文書を付けてもらう手続が必要ということです。現物を見ればこんなものかと思うほどの簡単なA4サイズ1枚の紙切れです。
 債務名義に執行文の付与を必要とする理由は,執行官等の執行機関に対して,執行開始要件以外に調査や判断をする責任を負担させず,適正,迅速に執行を行わせるためとされています。すなわち裁判記録を保管している受訴裁判所の書記官に判断させる方が的確,迅速に権利実現が可能です。
 あなたは,債務名義を取得していますが,まだ執行文の付与を受けていない可能性があるので,強制執行を行うには,執行分付与の申立をして,裁判を担当した部の裁判所書記官から,執行文をもらう必要があります。

2 財産開示手続の必要性(強制執行できる財産がない場合)
(1)強制執行の対象
 強制執行の対象は,不動産,動産,債権が考えられます。
 不動産は,相手方の住む家が同人の所有であれば,これを強制競売にかけるなどすることができます。相手方が居住する不動産が,相手方の所有物であるか否かは,同不動産の登記事項証明書を取り寄せることなどで一定の調査は可能です(不動産の所在地を管轄する法務局で誰でも申請できます)。
 動産は,相手方居住の不動産内にあるものなどが対象として考えられます(この場合は所在場所さえ特定すれば,動産の種類等特定する必要はありません)。
 債権は,相手方の給料債権や預金債権等が考えられます(給料債権については,雇用者の氏名,住所を調べて申立書に記載する必要がありますし,預金債権については金融機関の支店まで特定する必要があります)。

(2)強制執行の不奏功
 しかし,強制執行を行おうとしても,対象となるような財産が見つからない,あるいは,財産が見つかったとしても債権を充たすのに十分でない場合も考えられます。このようなときには,相手方がさらなる財産を有していないか調査する必要が生じます。
 この調査すなわち他人の財産を調べることは実際困難といえます。そこで,裁判所を通じて相手方の財産を開示させる手続も存在します。これを「財産開示手続」といいます。
 この制度は,債務名義,担保権を有している債権者が強制執行等を行っても債務者の一般財産から十分な弁済を受けることが出来ない時に債権者を救済する手続です。貸金債権など金銭の支払いを請求する金銭債権の強制執行は,執行の対象を特定して(例えば特定の場所にある動産や銀行預金債権など)申し立てなければならないのですが,債権者であるあなたが,他人である債務者の財産の種類や所在を把握することは実際上困難です。
 そこで,平成15年の民事執行法改正において,判決など債務名義を得た金銭債権の債権者に,債務者財産に関する情報を取得させるための「財産開示制度」が制定されました。法の大原則である「法の支配」は,自力救済禁止を内容としますので,個人は,民事事件の場合必ず,公的判断である判決を取得して,別個の国家機関である執行裁判所の判断により民事執行法に基づきその権利を強制的に実現することになります。

 しかし,執行裁判所は,確定された権利を忠実に実現する機関ですが,強制執行の対象である債務者の財産を探す権限は原則としてありません。執行裁判所の任務は,判決記載の内容に従い,公的に確定された権利の強制的実現だけであり,債務者がいかなる財産を有するかどうかの調査権限を有していませんし,その義務もないからです(勿論,判決には財産調査の内容など記載されていません)。又,債務者としても公的な判断(例えば破産による管財人の調査)がない以上,自らの財産を公表する義務を有しません。これは私有財産制,私的自治の原則から当然の帰結です。しかし,受訴裁判所,執行裁判所設置の目的は,法の支配の理念から自力救済を禁じて私的紛争を適正,公平,迅速,低廉に解決し公正な法社会秩序の維持発展にありますから,私的自治の原則には内在する信義則の原則,公平の原則,権利濫用禁止の法理が存在します。

 さらに,権利が公的に確定された以上,執行裁判所の効用を保障し,権利実現を実際的に認めるためには,執行裁判所が債務者の財産調査に一定の権限をもつことも必要とされます。公的に債務が確定された債務者も私的自治の原則を盾に,財産の隠ぺいは信義則から許されません。そこで,債務者の一般財産を当てにする債権者の権利実現を迅速に図るために設けられたのが財産開示手続です。したがって,一般先取特権(この担保権は存在を証明すれば任意競売でき勿論債務名義は必要ありません。)と異なり,債務者の一般財産を債権実行の引き当てとしない担保権(抵当権,質権,動産先取特権は担保物が特定され弁済が予想されます)はこの手続を利用できません。以上の様に例外的に一定の要件に従い認められる例外的制度ですから,以下の手続き要件を満たす必要があります。

3 財産開示手続
(1)手続の概要
 財産開示手続は,債務名義を有する債権者(ただし,一部の債務名義は対象外。)又は一般先取特権者の申立てにより,裁判所が債務者を呼出し,非公開の期日において,債務者に宣誓をさせ,自己の財産について陳述させることで債務者の財産を特定可能なものとする制度です。

(2)申立てができる者
 債務名義を有する債権者とされています(法197条1項)。ただし,いったん財産開示を行うと,一度見せてしまったものを見せなかったことにすることはできず,原状回復が困難であることから,仮執行宣言付き判決のほか,執行証書,支払督促の場合は除かれています(法197条1項)。
 そのほか,一般財産を担保とする一般先取特権を有する者も財産開示の申立てができるとされています(法197条2項)が,以下では,債務名義を有する場合を中心に述べることとします。

(3)申立てを行う裁判所
 債務者の普通裁判籍を管轄する地方裁判所となっています(法196条)。通常は,債務者の住所地を管轄する裁判所となります。債務者が出頭して開示することを予定していますので,債務者の住所等が不明の場合には利用できず,公示送達(裁判所前に文書を貼りだすことで送達したと扱うもの)の規定の適用がないとされています。

(4)決定の要件
 申立てがされた裁判所は,次の要件が充たされていた場合には,財産開示手続を行うことを決定します。
決定の要件としては,まず,
@執行開始要件を備えていること
 (債務名義の正本が相手方に送達していること,確定期限が到来していること等)
A強制執行を開始することができない場合でないこと
 (債務者に破産手続開始決定がされていないこと等)
が挙げられます。

これに加えて,財産開示手続を行う必要性として,
B強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立日の6か月以上前に終了したものを除く)で完全な弁済を受けることができなかったとき(法197条1項1号,同条2項1号)後記判例参照。東京高等裁判所平成21年3月31日第20民事部決定(財産開示手続申立却下決定に対する執行抗告事件)。この要件は,強制執行により完全な弁済を受けることができないことという要件が必要です。従って,強制執行しても実際上一部弁済を受けたという事実(証拠)主張をしなければ要件を欠くことになります。例外的制度ですから妥当な解釈でしょう。
又は,
C知れている財産に強制執行(担保権実行)をしても完全な弁済を受けられないことの疎明があったとき(法197条1項2号,同条2項2号)
のいずれかの要件を満たしていることも求められます。
また,何度も財産開示をさせることも適当でないので,
D債務者が,申立日前3年間以内に財産開示をした者でないとき(法197条3項)
という要件も必要ですが,この要件は,申立段階で立証することまでは要しません。また,3年以内に財産開示した場合であっても,債務者が財産の一部を開示しなかったこと,債務者が開示後に新たな財産を取得したことなどの事情があれば,開示が許されることになります。

 結局,実施決定は,@,A,Dに加え,B又はCの要件が充たされた場合にされることになります。B又はCの要件が必要ということになりますので,まず,何かしらの財産が知れているのであれば,これに対して強制執行を行い,これが奏功しないときにはじめて財産開示が認められるということも多いと思われます。

(5)財産開示期日
 執行裁判所は,期日を指定し(法198条1項),申立人,債務者(又はその法定代理人法人代表者)を呼び出すことになります(同条2項)。開示義務者となる債務者は,陳述すべき内容を事前に財産目録に記載して提出しなければなりません(民事執行規則183条)。
 加えて,開示義務者は,債務者の財産について,強制執行又は担保権実行の申立てをするのに必要な事項を陳述しなければならないとされています(法199条1項2項)。このように,財産開示手続では,開示義務者となった者の財産を陳述させるなどすることで,財産を把握することが可能となります。

(6)開示義務者への制裁
 勾引することはできないとされていますので,開示義務者を強制的に出頭させることまではできません。ただ,不出頭の場合は,30万円以下の過料の制裁がありますので(法206条1項1号),出頭を間接的に強制できるものといえます。
 裁判所の実務では,期日を決めて債務者を呼び出し,初めの呼びだしても出頭しない場合,債権者の意見を聞いて再度期日を決めて呼出し,それでも出頭しない場合,債権者の意見(再度呼び出せば出頭する可能性があるか,可能性がない場合は申立を取り下げるかあるいは過料に処すことを求めるか)を聞いて過料に処すことの決定をしているようです。決定の後は,検察庁で過料を支払うように手続きをします。

(7)財産開示手続の弱点
 以上のように,財産開示手続では,開示義務者となる債務者が誠実に対応した場合には,その財産を把握することが可能です。ただ,強制力に乏しい手続ではありますので,制裁を覚悟の上で出頭しなかったり,財産について何も陳述しないということになると,財産の把握は困難なままとなってしまいます。

4 本件での対応
 あなたは,まず,確定判決に執行文を付与してもらうことで,強制執行を行う準備をすることが大切です。そのうえで,強制執行が奏功しない場合には,財産開示手続を申し立てて,相手の財産を把握しようとすることも,今後の方法の一つとして考えてもよいと思われます。

5 補足として,債権者破産申し立て手続き
 通常は,住居関係や,勤務関係を調査することにより,不動産所有権や,賃借権に基づく敷金返還請求権を差し押さえたり,給与債権を差し押さえたり,住所地近くの都市銀行支店の口座を差し押さえたりすることにより,なんらかの成果が上がることが多いと言えます。債務者が賃貸住宅に入居している場合に,敷金返還請求権を差し押さえた場合,大家との関係で,大家から,「即時に差押債権者に弁済し,差押さえを解除しなければ出て行ってもらう」という要求をされることがあり,敷金差押さえは意外に効力があると考えることもできます。しかし,差押さえがうまく行かず,財産開示手続きをしてもめぼしい財産が見つからない場合,最後の手段として,破産法18条1項に基づき,債権者破産の申し立て手続きをすることも検討してください。

破産法15条(破産手続開始の原因) 債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第三十条第一項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。
2項  債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。
破産法18条(破産手続開始の申立て)債権者又は債務者は,破産手続開始の申立てをすることができる。
2項  債権者が破産手続開始の申立てをするときは,その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。

 個人破産の場合は,申し立てをする債権者は,破産法15条に規定された破産原因である「支払不能」の状態にあることを疎明しなければなりません(破産法18条2項)。これは,単なる債務超過(純資産合計が,負債合計を上回る状態)というだけでなく,毎月の収入を勘案しても,将来の返済の見込みが立たない,ということを裁判所に説明することを要します。具体的には,超過した債務の大きさや,その利息額と,収入の額との比較などを書面で主張することになります。債権者の立場ですから,必ずしも詳細に資料を提出できるわけではありませんが,可能な限りの資料を用意して,裁判所に申し立てすることを検討してください。また,任意の弁済も無く,強制執行も不奏功なので,このままだと,債権者破産の申し立てをせざるを得ないということを,事前に債務者に通知して,任意の弁済を促すということも考えられると思います。破産開始決定が出れば,強力な権限を有する破産管財人が就任することにもなりますし,財産隠しや,一部の債権者のみに対する弁済などを罰則規定により防止することができますので,債権回収の実を上げる効果が期待できます。

<判例参照>

東京高等裁判所平成21年3月31日第20民事部決定
理   由

1 本件抗告の趣旨及び理由
 本件抗告の趣旨は,「原決定を取り消す。相手方について財産開示手続を実施する。」というものであり,その理由は,「抗告理由書」に記載のとおりであるが,要するに,本件財産開示手続申立ては,民事執行法(以下「法」という。)197条1項1号を理由とするものであるところ,原決定は,本件申立てに先立つ執行手続(東京地方裁判所平成20年(ル)第8275号債権差押命令申立事件。以下「本件執行」という。)において配当又は弁済金の交付を受けたことがないことを抗告人が自認しているから,同号の要件を満たさないとして,申立てを却下したが,同号は,講学上,執行不奏功の場合をいうと理解されており,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」と限定する必要はなく,不動産執行が無剰余等の理由で取り消しになった場合,動産執行が執行不能で終了した場合等が含まれるのであるから,債権執行で当該金銭債権の完全な弁済を得られなかった場合も「配当等」に含まれると解すべきであって,この点の解釈を誤った原決定は不当であり,取り消されるべきというものである。
2 当裁判所の判断
(1)当裁判所も,本件申立ては理由がないから,これを却下するのが相当と判断する。その理由は次のとおりである。
(2)財産開示手続は,過料の制裁を背景として,債務者のプライバシーに属する情報である財産に関する情報の開示を強制するものであることから,この手続を実施するのは,債権者が強制執行等の申立てを行うためにこの手続を利用する必要性がある場合に限ることとし,その必要性がある場合として,法197条1項1号で「強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき。」,同項2号で「知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。」と規定している。このような財産開示の必要性について,同項1号は,これに該当する事実があれば,それだけで当該必要性があるとみなされる形式的な要件であり,同項2号は,具体的事案に応じて必要性の疎明が要求されることを示す実質的な要件である。
 同項1号がそれだけで必要性があるとみなされる要件である以上,その要件は明確な一義的基準であることが必要であって,その解釈は形式的・制限的に行うべきものと解されるところ,法84条3項において「配当又は弁済金の交付」をもって「(以下「配当等」という。)」と明示していることからすれば,同項1号にいう「配当等」とは,「配当又は弁済金の交付」をいうものと解される。また,そう解することが,濫用防止のための財産開示の必要性の要件として,迅速性・公平性を図り,かつ,定形性・画一性を旨とする民事執行法の法構造と調和するというべきである。
(3)これに対し,抗告人は,同項1号の規定は「配当等」と定められているものの,講学上,執行不奏功の場合をいうものと理解されているから,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」と限定する必要はなく,不動産執行が無剰余等の理由で取消しになった場合,あるいは動産執行が執行不能で終了した場合等が「配当等」に含まれると解される以上,債権執行により回収ができなかった場合を別に扱う必要はないと主張する。
 しかしながら,この財産開示制度は,平成15年法律第134号による民事執行法の一部改正により新設されたものであり,法197条1項1号の規定は,改正法案の審議過程においては,開示制度の運用により一定の不利益を受けることになる債務者を保護し,申立ての濫用を防止する観点から,「強制執行を試みたが不奏効に終わったこと等をこの手続の申立要件とする」(法制審議会担保・執行法制部会「担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案との担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案」)ことが検討されたが,これについては,動産執行がほとんど執行不能で終了している現状に鑑み,無意味な動産執行の手続を踏ませるだけであるとの意見が出される(上記中間試案に対する各高等裁判所及び各地方裁判所の意見・平成14年5月最高裁判所事務総局民事局・判例タイムズ1094号74頁等)などして更に検討が重ねられた結果,最終的には,民事執行実務に照らして有効に機能する一義的で明確な要件として,法84条3項を受けた「配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき」が定められたものと理解される。また,そう解してこそ,「配当等」の要件としての「申立ての日より6月以上前に終了したものを除く」ことも時的限界を画す明確な基準として機能すると解される。さらに,上記のように解することが,法197条1項1号の要件を明確かつ一義的な形式的要件として捉えて迅速に処理し,それ以外の必要性の要件については,同2号により疎明を求めて審査することにより,公平で柔軟な処理を目指す現在の民事執行実務に調和する(現在,東京,大阪をはじめ多くの庁ではこの解釈によっている(東京地方裁判所執行部における財産開示の運用状況,金融法務事情1804号28頁以下,大阪地方裁判所(本庁)における財産開示制度の運用状況,同1805号28頁以下))というべきである。
 確かに,「配当等」につき,これを「配当又は弁済金の交付」に限定せず,抗告人の主張するような場合を含むとする見解もあるが,以上述べたところから,同見解を採用することはできない。 
 また,前記のように,「配当等」を限定的に解したとしても,執行が不奏功に終わったことは,同条同項2号の有力な疎明資料になることは明らかであり,開示の道を閉ざすことになるわけではない。
 これに対し,抗告人は,債権執行においては,取立権を取得し,あるいは転付命令により被差押債権自体を取得して強制換価を実現することを予定し,配当に至る場合は稀であるから,同項1号の「配当等」を「配当又は弁済金の交付」に限定すると,同号の要件から債権執行を事実上締め出すことになって不当であるとも主張するが,その前提事実の認識には疑問があり,採用できない。
 さらに,抗告人は,「配当等」を要件としたのは,例えば預金口座が存在しないことを承知のうえで債権差押の申立てをした場合のような無意味な執行申立てを避けるためであり,本件執行のように預金口座が存在した場合は,無意味な執行申立てとはいえないから,同項1号の趣旨に反するものではないと主張するが,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」の趣旨で理解すべきことは前記のとおりであるし,上記のような場合を含めるとすると,どの程度までの事情があれば,この要件を充足しているといえるのか,6か月の始期をどの時点とすべきかなどの実質的な判断を要し,形式的要件による執行手続の迅速性を害し,かえって債権者の利益を害しかねないものであり,相当ではない。
 以上のとおり,抗告人の主張はいずれも理由がない。
(4)なお,本件において,抗告人は,当初法197条1項2号での申立てをしたところ,疎明資料の追完で暗礁に乗り上げたと主張するが,一件記録によれば,原審において,抗告人が提出した登記記録上の土地建物の地番・家屋番号と債務者である相手方本店及び支店所在地の住居表示とが同一場所であることの資料を求めたところ,抗告人において,法197条1項2号による申立てを,「配当等」の解釈について判断を求めるため,あえて同項1号の申立てに訂正したというのであるから,同項2号による申立てにおいて,抗告人に過重な負担を求めたとも,現実的な不都合が生じたともいえないというべきである。
(5)そうすると,抗告人は,本件執行に関し債権差押命令正本及び第三債務者の陳述書を提出するのみで,配当又は弁済金の交付の手続に至ったことを認めるに足りる資料を提出しないから,法197条1項1号による本件申立ては,その要件を欠くといわざるを得ない。
3 以上のとおりであって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。

<参考条文>

民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては,確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては,確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
(管轄)
第百九十六条  この章の規定による債務者の財産の開示に関する手続(以下「財産開示手続」という。)については,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が,執行裁判所として管轄する。
(実施決定)
第百九十七条  執行裁判所は,次のいずれかに該当するときは,執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号,第三号の二,第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する金銭債権の債権者の申立てにより,債務者について,財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし,当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは,この限りでない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
2  執行裁判所は,次のいずれかに該当するときは,債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより,当該債務者について,財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する担保権の実行を実施しても,申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
3  前二項の規定にかかわらず,債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人,債務者が法人である場合にあつてはその代表者。第一号において同じ。)が前二項の申立ての日前三年以内に財産開示期日(財産を開示すべき期日をいう。以下同じ。)においてその財産について陳述をしたものであるときは,財産開示手続を実施する旨の決定をすることができない。ただし,次に掲げる事由のいずれかがある場合は,この限りでない。
一  債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかつたとき。
二  債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき。
三  当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき。
4  第一項又は第二項の決定がされたときは,当該決定(第二項の決定にあつては,当該決定及び同項の文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
5  第一項又は第二項の申立てについての裁判に対しては,執行抗告をすることができる。
6  第一項又は第二項の決定は,確定しなければその効力を生じない。
(期日指定及び期日の呼出し)
第百九十八条  執行裁判所は,前条第一項又は第二項の決定が確定したときは,財産開示期日を指定しなければならない。
2  財産開示期日には,次に掲げる者を呼び出さなければならない。
一  申立人
二  債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人,債務者が法人である場合にあつてはその代表者)
(財産開示期日)
第百九十九条  開示義務者(前条第二項第二号に掲げる者をいう。以下同じ。)は,財産開示期日に出頭し,債務者の財産(第百三十一条第一号又は第二号に掲げる動産を除く。)について陳述しなければならない。
2  前項の陳述においては,陳述の対象となる財産について,第二章第二節の規定による強制執行又は前章の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要があるものとして最高裁判所規則で定める事項を明示しなければならない。
3  執行裁判所は,財産開示期日において,開示義務者に対し質問を発することができる。
4  申立人は,財産開示期日に出頭し,債務者の財産の状況を明らかにするため,執行裁判所の許可を得て開示義務者に対し質問を発することができる。
5  執行裁判所は,申立人が出頭しないときであつても,財産開示期日における手続を実施することができる。
6  財産開示期日における手続は,公開しない。
7  民事訴訟法第百九十五条 及び第二百六条 の規定は前各項の規定による手続について,同法第二百一条第一項 及び第二項 の規定は開示義務者について準用する。
(陳述義務の一部の免除)
第二百条  財産開示期日において債務者の財産の一部を開示した開示義務者は,申立人の同意がある場合又は当該開示によつて第百九十七条第一項の金銭債権若しくは同条第二項各号の被担保債権の完全な弁済に支障がなくなつたことが明らかである場合において,執行裁判所の許可を受けたときは,前条第一項の規定にかかわらず,その余の財産について陳述することを要しない。
2  前項の許可の申立てについての裁判に対しては,執行抗告をすることができる。
(財産開示事件の記録の閲覧等の制限)
第二百一条  財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分についての第十七条の規定による請求は,次に掲げる者に限り,することができる。
一  申立人
二  債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号,第三号の二,第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する債権者
三  債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者 四  債務者又は開示義務者
(財産開示事件に関する情報の目的外利用の制限)
第二百二条  申立人は,財産開示手続において得られた債務者の財産又は債務に関する情報を,当該債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し,又は提供してはならない。
2  前条第二号又は第三号に掲げる者であつて,財産開示事件の記録中の財産開示期日に関する部分の情報を得たものは,当該情報を当該財産開示事件の債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し,又は提供してはならない。
(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第二百三条  第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について,第四十二条(第二項を除く。)の規定は財産開示手続について,第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく財産開示手続について準用する。

破産法
(破産手続開始の原因)
第十五条  債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第三十条第一項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。
2  債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。
(破産手続開始の申立て)
第十八条  債権者又は債務者は,破産手続開始の申立てをすることができる。
2  債権者が破産手続開始の申立てをするときは,その有する債権の存在及び破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければならない。
(破産手続開始の決定)
第三十条  裁判所は,破産手続開始の申立てがあった場合において,破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは,次の各号のいずれかに該当する場合を除き,破産手続開始の決定をする。
一  破産手続の費用の予納がないとき(第二十三条第一項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
二  不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき。
2  前項の決定は,その決定の時から,効力を生ずる。

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