新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1107、2011/5/19 16:18

【民事・負担付贈与と負担の不履行による解除権】

質問:私は,夫に先立たれ,今は一人暮らしをしていますが,娘と息子がいます。娘も息子もともに今は結婚してそれぞれの家庭をもって暮らしています。今まで息子には特に愛情を注いで育ててきていましたが,今は私も高齢になりましたので,いつかは息子の世話になりたいと思っていました。そこで,私の持っている自宅土地建物を,同居して私の面倒を見てもらうという約束で,息子に贈与して登記も済ませました。そのことについては,娘も賛成してくれていました。ところが,息子の嫁が口を出し始めたのかどうかは分かりませんが,息子はなかなか同居をしてくれず,そのうち息子から疎まれるようになってきてしまったのです。最近では,息子は,家はもらえたけど家族とともに私と住むのは嫌だと言って,早く私にいなくなってもらいたいというようなことまで言ってくる始末です。結局,自宅土地建物を息子にあげたものの,私は息子から面倒を見てもらえないでいる状態です。息子の態度が急に変ったことが悲しくて仕方ありません。こんなことなら娘の方に面倒を見てもらうように自宅を贈与すればよかったと後悔しています。娘も私のことを心配してくれていますが,息子への贈与を取りやめにして,今から娘に贈与することはできませんでしょうか。

回答:
1.今まで愛情を注いで育ててきた息子さんにひどい仕打ちを受けたというお気持ちでいらっしゃるかと思いますが,お気持ちお察しします。あなたが息子さんに面倒を見てもらうという約束で自宅土地建物を贈与したというのは,単なる贈与契約ではなくて,負担付贈与契約というものです。単なる贈与契約の場合は,書面を作成した場合や書面を作成しなくとも履行がなされた場合には,取消(撤回)はできないものとされています(民法550条)。ご相談では,すでに自宅土地建物を贈与し登記を完了したということですから贈与の履行がなされたことになり単なる贈与とすると取消はできないことになります。
2.しかし,負担付贈与契約の場合は,一定の場合に解除ができるものとされており,息子さんがあなたと同居して面倒をみるという負担を履行しない場合は,債務不履行に基づく解除ができることになります(判例)。その上で,今度は娘さんに対してあなたと同居して面倒をみるという約束で自宅土地建物を贈与することができることになります。ただ,息子さんが解除に応じない場合や,自宅土地建物を処分してしまおうとする場合など,訴訟等の裁判手続きが必要になります。そして裁判では単なる贈与ではなく負担付贈与契約であることを主張立証する責任は原告となる相談者(贈与した人)にあります。通常負担付贈与であることは書面上明らかではなく間接事実(いわゆる状況証拠)を集める必要があり難しい裁判になると言えます。あなたご自身での対応が難しいような場合は,法律の専門家である弁護士に早めに相談することをお勧めします。
3.法律相談事例集キーワード検索:679番866番を参照してください。

解説:
1.負担付贈与契約について
  負担付贈与とは,受贈者に一定の給付をなすべき債務を負担させる約款の付いた贈与契約をいいます。
  この点,単なる贈与契約は,一方当事者が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示して相手方が受諾をなすことによって効力が生じるもので(民法549条),一方当事者のみが債務を負担する,あるいは,当事者双方の債務が対価的意義を有しない点で片務契約であるとされています。
  負担付贈与契約では,相手方が一定の給付をする負担を負うことにはなりますが,これは目的物の贈与と対価的意義を有する債務ではありませんので,負担付贈与契約もあくまで片務契約ではあります。ただ,負担の限度では相互に債務を負う関係にはありますので,公平の観点から双務契約に関する規定が準用されているのです(民法553条)。
具体的には,相手方が債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことができるという同時履行の抗弁権(民法533条)や,債務の一方が債務者の帰責性なくして履行不能により消滅した場合の他方の債務の処理に関する規律である危険負担(民法534条〜536条)の規定等が準用されることとなります。

2.負担付贈与契約の解除
 (1)債務不履行に基づく解除権(民法541条以下)の規定は,条文上は,同時履行の抗弁権や危険負担の規定と異なり,双務契約にのみ適用されるものとされているわけではありません。しかし,債務不履行解除の規定の趣旨は,一方当事者に債務不履行があった場合に,他方当事者を契約の拘束力から解放する点にありますので,債務不履行解除の規定は,実質的には,反対債務の履行を免れさせる必要のある双務契約において,特に意味をもつ規定であるといえます。
  そのため,債務不履行解除の規定も,民法553条に照らして負担付贈与契約にも準用ないし類推適用されるものと考えられています。
したがって,受贈者がその負担する義務の履行を怠ったときは,贈与者は,債務不履行に基づく解除をすることができます。
  ただ,実際には,そもそも負担付贈与契約であったかどうかの点で争いになったり,受贈者が解除に応じずに贈与目的物を第三者に処分してしまおうとしたりという事態が生じる恐れもあります。そのような場合は裁判手続きが必要になり,また仮処分の必要も検討する必要があります。そのため,ご自身での対応が難しいとお考えの場合は,法律の専門家である弁護士に早めに相談してみるのがよいでしょう。

(最高裁判所昭和53年2月17日判決抜粋)後記詳細な判例参照。
  「負担付贈与において,受贈者が,その負担である義務の履行を怠るときは,民法五四一条,五四二条の規定を準用し,贈与者は贈与契約の解除をなしうるものと解すべきである。そして贈与者が受贈者に対し負担の履行を催告したとしても,受贈者がこれに応じないことが明らかな事情がある場合には,贈与者は,事前の催告をすることなく,直ちに贈与契約を解除することができるものと解すべきである。」「Yは,X側に格別の責もないのに,本訴が提起された当時において,養子として養親に対しなすべき最低限のXの扶養を放擲し,また子供の時より恩顧を受けたXに対し,情宜を尽すどころか,これを敵対視し,困窮に陥れるに至つたものであり,従つて,XのYに対する前記贈与に付されていた負担すなわちXを扶養して,平穏な老後を保障し,円満な養親子関係を維持して,同人から受けた恩愛に背かない義務の履行を怠つている状態にあり,その原因がYの側の責に帰すべきものであることが認められ,YとXとの間の養親子としての関係も本訴提起当時回復できないほど破綻し,その後の経過からみても,XがYに対し右義務の履行を催告したとしても,Yにおいてこれを履行する意思のないことは容易に推認される。結局,本件負担付贈与は,Yの責に帰すべき義務不履行のため,Xの本件訴状をもつてなした解除の意思表示により,失効したものといわなければならない。」

 (2)忘恩行為として信義則上贈与契約を解除することも可能です。
  フランス民法109条には,贈与の忘恩行為により受益者に信頼関係を裏切る行為があれば贈与自体が撤回,取り消される規定があります。その制度趣旨は近代私法の基本は,私的自治により規律されていますが,契約自由の原則の目的は適正,公平な社会秩序の維持であり形式的な法規の解釈適用を行うことはできません。民法1条はこれを明言しています。信義則違反を理由に贈与契約解除を認めた判例もあります。

大阪地方裁判所昭和六一年(ワ)第三八九六号 平成元年4月20日判決 貸金等請求事件
  負担付贈与でありませんが,贈与者側救済のために信義則違反の一般原則を採用しています。妥当な判決でしょう。

  判旨抜粋「贈与が親族間の情誼関係に基づきなされたにもかかわらず,右情誼関係が贈与者の責に帰すべき事由によらずして破綻消滅し,右贈与の効果をそのまま維持存続させることが諸般の事情からみて信義則上不当と認められる場合には,贈与の撤回ができると解するのが相当である。これを本件についてみるに,前記贈与の基礎となっていた情誼関係が,次郎の一方的な背信行為によって完全に破綻消滅し,しかも,大学在学中の六年間にわたり贈与を受けていた次郎は,歯科医師試験に合格し,原告の経済的援助が不要になるや否や,不貞の事実を明らかにし花子に対し離婚を申し出て娘の幸福のため次郎の合格を待ち望んでいた原告との間の右情誼関係を破壊したものであることなど諸般の事情を考慮すれば,本件贈与の効力をそのまま存続せしめることは信義則上認めることができず,原告に贈与の撤回権を与えるべきである。それゆえ,次郎は現存利益を不当に利得するものであって,本件で贈与された金員はいずれも生活費ないし学費に費消されたものであるから,その全額が現存利益であると考えられるので,次郎は,本件贈与を受けた七五八万一〇〇〇円並びに撤回権行使の日の翌日である昭和六三年一〇月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。」

 (3)千葉地裁平成四年(ワ)第三八号平成七年六月二七日判決は,負担付贈与における義務不履行による解除を義務が履行されたものと認定して否定しています。親子間で行われた農地の贈与に関して,長男に代わり扶養していた次男の負担の履行がなされたか,忘恩行為と認定されるかが問題となった。次男とすれば長男に代わる借金の返済を行っており義務違反とまでは認定できないと思います。

  判旨抜粋「以上の事実によれば,被告Sは支払期限に遅れたとはいえ借財までしてYへの債務の返済を完了し,十分とは言えないまでも原告夫婦に対し応分の扶養もしくはその提供をなしていたものと認められる。

  確かに原告夫婦が被告Sの元を去ってO方へ行くについては被告Sとの間で何らかの軋轢が生じたためとも推測しうるが,本件贈与に至る経緯,殊にY家の財産を守るということから次男の被告Sが長男Oの借金を肩代わりして支払うこと,現に前記のとおり右借金を完済したこと,従前原告夫婦は被告Sと同居してその扶養を受けていたこと,原告夫婦がO方へ行くについてはOの会社を手伝うという積極的意図も存したこと,原告夫婦はO方においてはそれなりに生活し被告Sにも特段の援助を求めていないこと,原告が被告Sに対して扶養料の支払い等を求める調停を申し立てたのはOの会社が倒産し行き場がなくなったためと思われること,これに対して被告Sは帰ってくれば面倒を見ると提案していること等の事情を考慮すれば,被告Sは本件贈与に伴う負担義務を履行しもしくはその履行の提供をなしたものと言うべきであり,少なくとも原告と被告S間の軋轢もしくは被告Sの行為が本件贈与の解除理由に該当するとは解されない。」

≪参考判例≫

最高裁判所昭和53年2月17日判決(抜粋)(※養親X(訴訟途中で死亡したため包括受遺者Aが訴訟を承継)が,実親にも優る世話や援助をして育てた養子Yに対して負担付贈与をしたが,後に養子Yによる忘恩的な仕打ちを受けて,贈与契約を解除した事案)
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,ひつきよう,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するものにすぎず,採用することができない。
〈参考・原判決理由抄〉(東京高裁昭和52年7月13日判決)
〈証拠〉によれば,次の事実が認められる。
  1 Xは,大正八年一郎の許に嫁して以来,乙野家の長男の嫁として,病弱で目の不自由な姑春子に代わつて,同家の家事及びYを含む一郎の弟妹の養育等に尽し,Yら兄弟及び近隣の人々に敬愛されていたところ,夫一郎との間に子が生れなかつたことから,性格が素直で優しく思われたYを慈しみ,ゆくゆくは養子として乙野家の跡を継がせようと考えていた。 
 そのため,一郎とXは,Yを跡継ぎに相応するように教育すべく,家業に精励し,他の弟妹には小学校教育しか受けさせなかつたのに独りYのみを大学に進学させ,医師として生業できるに至るまで教育し,その間実親にも優る世話をし,Yが昭和一二年に夏子と結婚し,戦時中東京都品川区○○に医院を開業するまでY夫婦に月額二〇円程度の援助を続け,その後も食糧等の援助を続けた。 
  2 当時Y夫婦においてもXに対する感謝の念を忘れず,一郎死亡(昭和二四年)後は同人に対し生活費の一助として月に二,〇〇〇円ないし三,〇〇〇円を仕送りするなどしてその世話をしていた。そして,Yは,昭和三九年にはXに相談することなく,東京都練馬区役所へY夫婦がXの養子となる縁組届をした(養子縁組の事実については当事者間に争いがない。)。Xは,Yを一〇才の時から前記のように養育し,医師となつた同人を誇りとし,その人格に全幅の信頼を寄せ,同人夫婦からも親愛の情を示されていたので,右養子縁組にもとより異存はなかつた。 
  3 そして,Xは,昭和四二年頃,Yとの関係が右のように円満でありYより生活費として一万七,〇〇〇円位の仕送りを続けてもらつていること,Yが正式に養子となつて乙野家の跡継ぎになつていたことから,自分の老後をYに託し,その家族の一員としてY夫婦や孫に囲まれて安らかに暮すことを予定して,乙野家の家産,先祖の祭祀等を引き継がせるために,本件土地を主体とする亡夫一郎の遺産をYに取得させたいと考えるようになり,Yらにその意とするところを語つていた。 
  4 昭和四三年頃XはY以外の者で一郎の父太郎(一郎の死後昭和二五年に死亡)及び同母春子(昭和三一年死亡)の相続人であるYの兄弟及びその代襲相続人らにその心情を訴えて説明したところ,これらの者はXの考えに同調し,各人の相続分につきXの要望するところに従いYに贈与することに同意した。 
  5 そこで,当時いまだ一郎の遺産につき分割の手続が未了であつたところから,Xは,Y以外の太郎及び春子の全相続人(太郎に関しては,昭和二六年に相続放棄をしなかつた者)から「被相続人からすでに相当の財産の贈与を受けており被相続人の死亡による相続分については相続する相続分の存しないことを証明します」との文言を記載した証明書をとりまとめ,亡夫一郎の遺産につき自分名義の同旨証明書を添えてYに交付した。これによつてYが冒頭掲記の各所有権移転登記手続を了した。 
〈中略〉 
 以上認定の事実によれば,本件土地については,Y固有の相続分以外の所有持分権のYに対する移転(そのうちXからの分は,原判決別紙物件目録(一)の土地については持分四分の一,同(二)ないし(一〇)の土地については持分二分の一)は,一郎の遺産の分割に当り,Y以外の相続分を有する者からYに対し,右各相続分を贈与することによつてなされたものというべきである。就中Xからの贈与分は,Xの財産のほとんど全部を占めるもので,Xの生活の場所及び経済的基盤を成すものであつたから,その贈与は,XとYとの特別の情宜関係及び養親子の身分関係に基き,Xの爾後の生活に困難を生ぜしめないことを条件とするものであつて,Yも右の趣旨は十分承知していたところであり,Yにおいて老令に達したXを扶養し,円満な養親子関係を維持し,同人から受けた恩愛に背かないことを右贈与に伴うYの義務とする,いわゆる負担付贈与契約であると認めるのが相当である。 
  Yは,本件土地はXらの相続放棄により単独相続したものであつて贈与によつて取得したものでないと主張するが,少くともXの相続分に相応する持分については,前記認定のとおり登記手続の便宜上Xにおいて具体的相続分の存在しないことを承認する形式がとられたにすぎないものと認められるから,右主張並びにそれらを前提とする禁反言の主張は容認することができない。 
三 ところで,負担付贈与において,受贈者が,その負担である義務の履行を怠るときは,民法五四一条,五四二条の規定を準用し,贈与者は贈与契約の解除をなしうるものと解すべきである。そして贈与者が受贈者に対し負担の履行を催告したとしても,受贈者がこれに応じないことが明らかな事情がある場合には,贈与者は,事前の催告をすることなく,直ちに贈与契約を解除することができるものと解すべきである。 
  本件において,Xが,本件負担付贈与契約上の扶養義務及び孝養を尽す義務の負担不履行を理由に,Yに対し,昭和四八年一二月二八日送達された本件訴状によつて,右贈与契約を解除する旨の意思表示をしたことは,記録上明らかである。 
 そこで,右負担付贈与契約の解除の適否について判断する。 
〈証拠〉を総合すると,XとYとは昭和四二,三年頃までは養親子として通常の関係にあつたが,昭和四三年一〇月一五日に本件土地について前記のとおりYの単独相続による所有権移転登記手続が経由されて以後,次のような経緯で,YはXに対し親愛の情を欠くようになり,その態度,行動は苛酷なものとなり,両者の養親子としての関係を破綻させるに至つたことが認められる。 
  1 Yは,Xから同人の一郎の遺産に対する相続分を前記のように贈与を受けるに先だち,昭和四三年九月一六日Xの頼みでAに対し右遺産中の原野四畝二五歩,山林四畝二三歩を贈与することにしたが,内心右贈与を快く思つていなかつたこともあつてその履行を直ちにしなかつたところ,XからAへの所有権移転登記手続を早くするよう度々催促されるので,Xを疎ましく思うようになつた。 
  2 一郎は昭和二二年頃乙野家の手伝いとして長年尽した訴外丁野秋子に年季奉公の謝礼として農地を贈与したことがあつたところ,丁野から右土地を買受けていた訴外山田次郎が,昭和四五年頃になつて同土地の所有名義人となつたYに対し所有権移転登記手続を請求したのに対し,Yが右贈与を否定して紛争になつたが,Xが,農地委員会から事情聴取された際,丁野への贈与があつたことをありのままに認める陳述をした。そのため,Yは自己に不利な供述をされたことを根に持ち,Xに対しさらに不快な感情を抱くに至つた。 
  3 Xは,昭和四五年頃,太郎の代から乙野家に仕えていた訴外乙野司郎が貧しく,住家の屋根の修繕材料に窮していることを聞いて不憫となり,Yにおいても当然異存はないものと考えてY所有の山林の立木四本ばかりの伐採を許したところ,Yから苦情を呈されて謝つたことがあつた。Xは,右事件について右の謝罪により落着したものと思つていたところ,その後約一年位過ぎて,YからXと司郎が共謀のうえY所有の立木を窃取したとして,富士吉田警察署に告訴され,同警察及び検察庁から呼び出され取調べを受けるに至つた。 
  4 Yは前記1のようにAに贈与した土地について,昭和四六年一一月一日Aから所有権移転登記等を請求する訴訟(後に右土地をYが第三者に売却したため損害賠償請求に変更された。)を提起されたところ,右訴訟において,Yは,Aに右土地を贈与するに至つたことに関して,Xが「同意しなければYの経営する医院や田舎の家に放火して,首つり自殺をしてやる」などと申し向けてYを脅迫したとか,Xが,異常性格であるとか,Yの立木を勝手に売却したり,Yの土地を担保に供すると称して多額な借金をなし浪費生活を続けているとか,虚偽の事実を法廷で供述し,Xの名誉を著しく傷つけた。 
  5 Y夫婦は,昭和四七年一二月一一日甲府家庭裁判所都留支部に,Xについて右4の虚偽の供述と同旨の事由があるとして,離縁及びXの居宅(同人が嫁に来て以来住んでいる乙野家の家屋)等の明渡を求める調停の申立をするに至つたが,右調停は,昭和四八年七月一〇日不調に終つた。 
  6 Yは,Xが前記贈与によつて身の廻り品や,前記の僅かばかりの株券のほかほとんど無一物となり,一郎の恩給(月額九,〇〇〇円)とYからの仕送り(当時は月額一万七,〇〇〇円位)で生活していることを了知しておりながら,昭和四七年末頃から右仕送りを中止し,Xをして困窮の身に陥れ,同人を昭和四八年二月八日以降月額一万円にも満たない生活保護と隣人の同情に老の身を託さざるを得なくし,さらには,隣人に対し手紙でXに金員を貸与しないよう申し入れた。同地方の有数の資産家の未亡人で,近隣から敬愛されていたXのこの窮状は,周囲の人々の同情とYに対する非難を呼ぶことになつた。  7 Yは,昭和四七年一二月頃,Xの居住する家屋に昔から付設されていた電話を,使用者であるXが留守中に無断で取り外してしまつた。 
  8 なお,Yは,昭和五〇年二月頃,Xが病気で入院している間にXの右居宅に侵入し,以後のXの出入りを断つべく,道路と家との間に有刺鉄線を張りめぐらし,更に出入口の鍵まで付け替えてしまつた。 
  9 Xは,Yの仕打ちが昂ずるに及んで遂に昭和四八年一〇月一九日甲府地方裁判所にY夫婦を相手とし離縁の訴を提起し,昭和五〇年一月二二日協議離縁することで和諧するに至り,同年三月一七日離縁の届出をして,Y夫婦との養親子関係を解消した。 
〈中略〉 
 以上認定事実によれば,Yは,X側に格別の責もないのに,本訴が提起された当時において,養子として養親に対しなすべき最低限のXの扶養を放擲し,また子供の時より恩顧を受けたXに対し,情宜を尽すどころか,これを敵対視し,困窮に陥れるに至つたものであり,従つて,XのYに対する前記贈与に付されていた負担すなわちXを扶養して,平穏な老後を保障し,円満な養親子関係を維持して,同人から受けた恩愛に背かない義務の履行を怠つている状態にあり,その原因がYの側の責に帰すべきものであることが認められ,YとXとの間の養親子としての関係も本訴提起当時回復できないほど破綻し,その後の経過からみても,XがYに対し右義務の履行を催告したとしても,Yにおいてこれを履行する意思のないことは容易に推認される。結局,本件負担付贈与は,Yの責に帰すべき義務不履行のため,Xの本件訴状をもつてなした解除の意思表示により,失効したものといわなければならない。〈後略〉 

≪参照条文≫

民法
(同時履行の抗弁)
第五百三十三条  双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において,その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,その滅失又は損傷は,債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については,第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から,前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条  前条の規定は,停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には,適用しない。
2  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは,その損傷は,債権者の負担に帰する。
3  停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において,条件が成就したときは,債権者は,その選択に従い,契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては,損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  前二条に規定する場合を除き,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。この場合において,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
(解除権の行使)
第五百四十条  契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
2  前項の意思表示は,撤回することができない。
(履行遅滞等による解除権)
第五百四十一条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。
(定期行為の履行遅滞による解除権)
第五百四十二条  契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは,相手方は,前条の催告をすることなく,直ちにその契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第五百四十三条  履行の全部又は一部が不能となったときは,債権者は,契約の解除をすることができる。ただし,その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
(贈与)
第五百四十九条  贈与は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずる。
(書面によらない贈与の撤回)
第五百五十条  書面によらない贈与は,各当事者が撤回することができる。ただし,履行の終わった部分については,この限りでない。
(負担付贈与)
第五百五十三条  負担付贈与については,この節に定めるもののほか,その性質に反しない限り,双務契約に関する規定を準用する。

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