新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.913、2009/9/7 18:14

【民事・不法行為における違法性の内容・相隣関係と受忍限度論】

質問:一昨年、一戸建てを購入しました。住んでみると、隣の家の小窓から、こちらを覗いているように感じます。料理の匂いが漂ってきたり、水を流す音や声が聞こえてきたりします。雨が降ると隣の屋根からこちら側に雨水が垂れてきたりもします。隣家の住人に対して何らかの対策をとってくれるように伝えましたが、「法律違反ではない。」とのことで、聞き入れてもらえません。精神的苦痛で不眠症になってしまいました。どのような法的主張が可能ですか?

回答:
1.隣家の小窓から覗かれているように感じるという問題ですが、民法上、隣人が境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設けている場合は、隣人に対して目隠し設置を請求することができます(民法235条1項)。
2.屋根から落ちる雨水については隣家の屋根に樋の設置を請求することができます(民法218条)。
3.以上の原因の他に料理の匂いや、生活の音により不眠症となり平穏に生活する権利侵害による精神的苦痛を理由に損害賠償請求(民法709条、701条)請求ができるかという点ですが、何らかの侵害行為が違法性を帯びるか問題であり、その基準は、日常生活における受忍限度(加害者側から言うと権利の濫用と評価されます。)を超えるかどうかで判断されます。具体的に言えば@被害の内容・程度A加害行為の態様B当事者間の交渉経過C規制基準との関係D地域性E先住性(土地利用の先後関係)F被害回避の可能性などを総合考慮して決せられます。客観的な数値を求めるために環境計量士に依頼することもできます。その他、証拠として日常生活を記載した日記、写真等も必要でしょう。

解説:
1.(論点) ご相談の件は、民法上の「相隣関係」と「受忍限度論」の問題です。以下、順番にご説明していきたいと思います。

2.(問題点 相隣関係) 一般に居住のために建物を所有する人は、その所有権(憲法29条、民法206条)、人格権(憲法13条、人格権について事例集732番参照。)の一内容として、健康で快適な生活環境を確保し、平穏に居住する権利を有しているといえます。一戸建てを購入したのですから、あなたはその権利を行使できますが、当然、あなたの隣人もその権利を行使できます。すなわち、互いに認められる平穏、快適に生活する適法な権利の衝突、調整が社会生活に必然的に生じることになり個人の社会生活に内在する法的問題です。特に、個人の権利、利益が社会生活の発達により複雑化、多様化しており、財産権、その他の利益権、人格権の調整が必要となりその対応も詳細な検討が必要です。一般に生活妨害の問題ともいわれています。まず、このような隣人同士の権利関係を調製する規定が、民法の、「相隣関係」の規定です。条文でいうと、民法第209条から238条です(本稿の最後に引用しますので御参照下さい)。現行民法は明治時代に制定されたものですが、当時から「ご近所トラブル」はあったのでしょうから、様々な規定が設けられています。

3.(民法236条) まず、隣家の小窓から覗かれているように感じる、とのことですが、民法上、境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設ける場合は、目隠しを付けなければならないとされています(民法235条1項)。したがって、隣家との距離が1メートル未満であれば、隣家に対して、浴室が見えないよう目隠しの設置を請求することができます。また、この民法上の規定のみならず、プライバシーの侵害(憲法13条後段参照)を法的根拠として目隠しの設置を求めるとの請求方法も考えられます。ただし、プライバシーが侵害されない程度に目隠しを要求できるのであって、境界線から1メートル未満にあるすべての窓について目隠し設置を要求することまではできません。なお、目隠しにかかる工事費用は隣家が負担することになります。ただし、民法236条では、上記で説明した同法235条と異なる慣習がある場合には、慣習が優先する旨認めています。例えば、市街地のビルが密集している地域においては、商業その他営業活動が優先され、必ずしも居住のプライバシーの点からの目隠しは重要視されないという慣習があるでしょう。当該地域においては、このような慣習が民法の規定に優先するため、目隠し設置を必ずしも要求できるわけではないということになってしまいます。

4.(民法218条) 屋根から落ちる雨水についてはどうでしょうか。民法218条には、土地の所有者は、雨水が直接隣の土地へ注ぎ込むような屋根やその他の設備を設けることができない、と規定されています。したがって、隣家の屋根に樋などが付けられていない場合には、設置を求めることができます。費用は隣家が負担します。しかし、樋などが設置されていて、なお大雨の時に雨水が隣家の屋根から落ちてくる場合は、後述の受任限度の問題となります。判例では、「仮に雨水が越境するとしても、相当量の降水が集中的にあった場合に限られるものと推認され、これに反する客観的な証拠はない。以上のような、現在における雨水の流入状況に関して証拠上認定できる事実に加え、被告側において雨水の越境を防止するために措置を講じたことも考慮すれば、本件屋根部分から社会生活上受任すべき限度を超えて雨水が越境し、原告土地の所有権が侵害されたとの事実を認めることはできない。」(東京地裁平成4年1月28日判決)とし、隣家の措置や、越境する頻度、客観的証拠などを併せて判断することになります。

5.(不法行為成立要件としての違法性) さらに、あなたが隣家のために精神的苦痛を受けたことによる損害賠償請求をするには、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求もしくは所有権、人格権侵害等に基づく加害行為差し止め請求の形で提訴することになりますが、これらが訴訟で容認されるには、不法行為の成立要件である「加害行為が違法」であることの主張・立証が必要です。単に加害行為があっただけでは足りず、その加害行為が違法であることまで立証することが必要になるのです。そこで、加害行為のうちどのような行為が違法行為に当たるのか、その要件を検討する必要があります。

6.(違法性の問題点) 他人の権利、利益を侵害しているのにどうしてことさら「違法性」が問題になるかというと、前述のように被害者である貴方の方から見れば、日常の快適な生活を事実上侵害されている状況はあるのですが、他方侵害者からみると、自らの土地に家を自由に建てる権利、自由に生活をする権利がある以上、音を出し、何らかの臭気を発するのは社会生活に伴う権利行使、適法行為という側面があり簡単に違法性の認定ができないからです。すなわちこの生活妨害行為(英米法ではプライベートニューサンスといわれます。これが煤煙、汚水等公共の問題になるとパブリックニューサンスといわれます。)という問題は互いに適正な権利行使はどこまで認められるかという特殊な問題です。従って、社会生活上の適正な権利行使同士の問題ですから、不法行為の要件である相手方の「過失」は不要と解釈されており、一般的法、社会規範秩序に違反するかという違法性の問題として議論されています。

7.(違法性の基本的内容 権利侵害と利益侵害 浪曲師雲右衛門事件) 次に、違法性は当初他人の権利を侵害したという客観的事実(不法行為の客観的要件。これに対応して故意過失は主観的要件といいます。これに対して現在、違法性と過失を一体として考える新過失論が唱えられています。)を理由にしていました。典型的判例が、雲右衛門事件です(大審院大正3年7月4日判決、著作権法違反刑事事件に付帯する損害賠償請求事件)。浪曲師桃中軒雲右衛門入道のレコードを勝手に複製して発売しても、浪曲は音楽著作権と違い、楽譜に記載されたように常に一定の旋律がなくその場その場で観客等に合わせ瞬間創作するもので音楽としては質が低いもので著作権の対象にならないので、権利侵害、違法性はなく不法行為は成立しないという判決です(後記参照)。しかし、個人の尊厳の実質的保障、公正な社会秩序の維持という法の理想を実現するには、権利だけでなく、あらゆる利益を保護の対象としなければならず、批判を受けてこの判例は大審院大正14年11月28日、大学湯事件判決で変更されました。京都大学の近くで建物を借りて大学湯を経営していたものが、賃貸借終了後大家さんが、第三者に建物を賃貸し、勝手に「大学湯」という名前で営業を許可(老舗、暖簾の売却)したことが権利侵害、不法行為に当たるということで損害賠償請求を提起した事件です(後記参照)。第一審は、「大学湯」という老舗、暖簾は、権利とは言えないとして、違法性を否定しましたが、大審院は老舗、暖簾は明確な権利でないが、利益の一つであり保護の対象として違法性を認めました。その後、平成16年の民法改正で、709条を、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は」と改正し「利益」という文言を追加変更しています。

8.(違法性の具体的内容 受忍限度論) 以上から、違法性の有無の判断は、被侵害利益と侵害利益(他人の権利を侵害して得られる利益)の相関関係から総合的に判断されることになりますが、裁判において一般的に用いられる基準が受忍限度論です。つまり、既に発生しまたは将来発生する蓋然性のある被害が受忍限度を超えていると認められる場合に、初めて加害行為に違法性があるとして、加害者は損害賠償の支払や差し止めを命じられるのです。受忍限度の判断は加害者、被害者のきめ細かな利益考量が必要であり、おもに、@被害の内容・程度A加害行為の態様B当事者間の交渉経過C規制基準との関係D地域性E先住性(土地利用の先後関係)F被害回避の可能性などを総合考慮して決せられます。判例を引用します。昭和56年12月16日最高裁判決「行為が損害賠償責任の要件としての違法性を帯びるかどうかは、これによって被るとされる被害が社会生活を営む上において受忍すべきものと考えられる程度、すなわちいわゆる受忍限度を超えるものかどうかによって決せられるべく、これを決するについては、侵害行為の態様と程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の公共性の内容と程度、被害の防止又は軽減のため加害者が講じた措置の内容と程度についての全体的な総合考察を必要とするものである」

9.(匂い、生活音等生活妨害と受忍限度論) 料理の匂いや、生活の音についても、受忍限度を超える程度であることを客観的に証明する必要があります。「入浴、洗面、便所の使用、会話、炊事、洗濯など、常識的な日常生活に伴って必然的に発生する種類の音」などの生活騒音は、「基本的には社会生活上のエチケットの問題であり、音量や頻度が常識を欠いて甚だしい程度に達するなど、特別の事情のない限り、社会生活上近隣居住者が相互に受忍し合うべき」です。隣家から漂う臭気は、確かに気持ちのいいものではありませんが、それが、なんとなく臭う程度の臭気であったり、高温多湿の時期に限って臭うものである場合には、受忍限度を超えた臭気であるとは認められないでしょう(東京地裁平成4年1月28日判決)。

10.(環境計測士) 隣家を訴えるには、まずあなたが迷惑であると感じている原因について客観的に受忍限度を超えていると証明できるものが必要です。国家資格である環境計量士に測定を依頼すると証拠の一つになります。参考URL(社団法人日本環境測定分析協会)http://www.jemca.or.jp/info/

11.(最後に)  隣家に損害賠償の支払や差し止め請求が認められるためには、初めにご説明したとおり測定数値だけでなく、その他様々な要件を総合的に判断されますので、自分で交渉、判断ができない場合は、測定数値その他の証拠をもとに一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

≪条文参照≫

憲法13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法29条 財産権は、これを侵してはならない。
2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

民法206条(所有権の内容)所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
第209条(隣地の使用請求)土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
第210条(公道に至るための他の土地の通行権)他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2  前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
第212条 第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
第213条  分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2  前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
第214条(自然水流に対する妨害の禁止)土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
第215条(水流の障害の除去)水流が天災その他避けることのできない事変により低地において閉塞したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。
第216条(水流に関する工作物の修繕等)他の土地に貯水、排水又は引水のために設けられた工作物の破壊又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
第217条(費用の負担についての慣習)前二条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。
第218条(雨水を隣地に注ぐ工作物の設置の禁止)土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けてはならない。
第219条(水流の変更)溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。
2  両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路及び幅員を変更することができる。ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
3  前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
第220条(排水のための低地の通水)高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。
第221条(通水用工作物の使用)土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
2  前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。
第222条(堰の設置及び使用)水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
2  対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。
3  前条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
第223条(境界標の設置)土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
第224条(境界標の設置及び保存の費用)境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
第225条(囲障の設置)二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
2  当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。
第226条(囲障の設置及び保存の費用)前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
第227条(相隣者の一人による囲障の設置)相隣者の一人は、第二百二十五条第二項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
第228条(囲障の設置等に関する慣習)前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
第229条(境界標等の共有の推定)境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
第230条 一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。
2  高さの異なる二棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。ただし、防火障壁については、この限りでない。
第231条(共有の障壁の高さを増す工事)相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
2  前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。
第232条 前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2  隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
第234条(境界線付近の建築の制限)建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
2 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
第235条 境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
2 前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
第236条(境界線付近の建築に関する慣習)前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
第237条(境界線付近の掘削の制限)井戸、用水だめ、下水だめ又は肥料だめを掘るには境界線から2メートル以上、池、穴蔵又はし尿だめを掘るには境界線から1メートル以上の距離を保たなければならない。
2 導水管を埋め、又は溝若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない。ただし、1メートルを超えることを要しない。
第238条(境界線付近の掘削に関する注意義務)境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊又は水若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。
民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第710条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

≪判例参照≫

判例( 浪曲師桃中軒雲右衛門入道事件)
大審院大正3年7月4日判決(著作権法違反刑事事件に付帯する損害賠償請求事件)。
(内容)
 著作権法第一条第一項ニ「文書演述図画彫刻模型写真其他学術若クハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス」トアリテ音楽的著作物ニ関シテハ特ニ言明スル所ナシト雖モ其所謂美術ノ範囲ニ属スル著作物中ニハ美術ナル語ノ通常ノ意義ニ従ヒ其中ニ包含セラルルモノト認メラルヘキ創作物ハ勿論広ク芸術ニ関スル創作物ヲ包含シ音楽的著作物モ亦其一種トシテ著作権ノ目的タルヲ得ヘキモノト解セサルヘカラス蓋シ美術ナル語ハ其通常ノ意義ニ依レハ人目ニ触レテ美感ヲ生セシムヘキ絵画彫刻ノ類ヲ謂ヒ音楽ヲ包含セスト雖モ我立法者カ美術ナル語ヲ芸術ト同一意義ニ用ヰタルハ西暦千九百八年「ベルン」条約ノ正文ヲ翻訳スルニ当リ「アルチスチツク」ナル原語ニ対シテ総テ「美術」ナル邦語ヲ使用シタルニ依リ之ヲ知ルコトヲ得ヘク(明治四十三年九月八日公布条約第五号)
(省略)
 然レトモ他人ノ演奏シタル音楽ヲ蓄音機ニ写調スルコトカ著作権法第二十九条ノ意義ニ於テ偽作トナルニハ演奏セラレタル音楽カ音楽的著作物トシテ著作権法ノ保護ヲ受クヘキモノナルコトヲ要シ其音楽カ先入未発ノ新ナル旋律ヲ包含スルコトハ其音楽ニ著作物タルノ性質ヲ認ムルカ為メノ必要条件ナリ故ニ歌楽ノ演奏者ハ其声音ノ艶麗其声量ノ豊富ニ加フルニ其強弱緩急抑揚表情ノ妙ヲ以テシ聴聞者ヲシテ感嘆措ク能ハサラシムルモノアルモ既存ノ旋律ヲ実施シタルニ過キスシテ其旋律ニ付キ創意ノ認ムヘキモノナキニ於テハ其演奏ニ依リ音楽的著作権ヲ取得スルコトヲ得サルノミナラス演奏ニ係ル音楽カ新タナル旋律ヲ包含スル場合ト雖モ其音楽ハ常ニ必スシモ著作物トシテ著作権法ノ保護ヲ受クルコトヲ得ルモノニアラス蓋シ音楽家カ楽譜ヲ用ヰテ作曲ヲ為シタル場合ニ其楽譜カ先入未発ノ新旋律ヲ表彰スルモノナルトキハ其楽譜ハ音楽的著作物トシテ著作権法ノ保護ヲ受クルコトヲ得ヘシト雖トモ我国特有ノ音楽ニ見ル如ク楽譜ヲ用ヰスシテ新曲ノ創作ヲ為ス場合ニ於テ作曲者カ著作権ヲ取得スルニハ其創意ニ係ル新旋律カ一種ノ定型ヲ成シテ其頭脳ニ深キ印象ヲ存シ因テ以テ作曲者ヲシテ随時随所ニ之ヲ反覆セシムヘキ可能性ヲ有スルノ程度ニ於テ熟シタルコトヲ必要トシ演奏ト共ニ消滅ニ帰シ演奏者ノ脳裡ニ於テ其定型ヲ遺留セサルモノハ音楽的著作物トシテ法律ノ保護ヲ受クルコト能ハサルモノトス蓋シ音楽的著作権ハ単純ナル音楽的思想ノ発現ニ対スル法律ノ保護ニアラスシテ其思想カ創意者ノ脳裡ニ於テ一定ノ型体ヲ具ヘ 因テ以テ之ヲシテ自家固有ノ音楽的創作物トシテ之ヲ利用スルコトヲ可能ナラシムルニ因リテ発生スルモノナレハ著作権ノ目的タルヘキ創意ハ創意者ノ主観ニ於テ固定性ト持久可能性トヲ具備スルコトヲ要シ瞬間的創作ニシテ創作者ニ於テ之ヲ反覆スルノ意思ナク又其手段方法ヲ有セサルモノハ此性質ヲ欠如スルヲ以テ著作権ヲ発生スルコトヲ得サルモノトス  是レ音楽的著作物ニ於ケル楽譜ノ如ク著作権法ノ規定ニ依リ夫レ自体ニ於テ著作権ヲ発生スルモノト其撰ヲ異ニスル所ナリ換言スレハ即興的音楽ノ演奏ニシテ純然タル瞬間創作ニ属スルモノハ演奏者ノ主観ニ於テ其旋律カ確定スル場合又ハ演奏者カ特ニ楽譜ヲ作リテ之ヲ固定セシメタル場合ノ外ハ音楽的著作物トシテ著作権法ノ保護ヲ受ルコトヲ得ス  従テ此種ノ音楽ヲ蓄音機ニ写調スルモ偽作トシテ著作権法ノ制裁ヲ受クルコトナシ或ハ曰ハン即興的音楽ノ演奏ハ夫レ自体ニ固定性持久性ヲ欠クモ其旋律ハ蓄音機ニ之ヲ写調スルニ因リテ一定ノ形体ヲ具備シ最モ完全ニ之ヲ保存スルコトヲ得ヘキヲ以テ演奏者ハ之ニ依リテ著作権ヲ取得スルコトヲ得ヘシト然レトモ蓄音機ニ於ケル音楽ノ写調ハ作譜ト異ナリ著作物複製ノ方法タルニ過キスシテ其取得ノ原因ニアラス他人ノ演奏ニ係ル音楽ヲ蓄音機ニ写調スルコトカ偽作ノ所為ヲ構成スルニハ写調ノ目的タル音楽カ既ニ著作物トシテ法律ノ保護ヲ受クヘキ確定性ヲ有スルコトヲ要スルト同時ニ確乎タル旋律ニ依ラサル即興的音楽ノ演奏ハ蓄音機ニ写調シテ之ヲ形体化スルモ之カ為メ著作権ヲ生スルコトナシ 何トナレハ其音楽ハ仮令演奏者自ラ之ヲ蓄音機ニ写調シテ之ニ形体ヲ与フルモ楽譜ノ如ク音楽ノ定型ヲ表彰スルモノニアラサルヲ以テ之カ為メ其音楽ハ其固有ノ瞬間性ヲ失却シテ確定性ヲ取得スルニ由ナク蓄音機ニ表現スル所ノ音楽ハ要スルニ瞬間的音楽ノ写実タルニ止マルヲ以テナリ
而シテ原院ノ認メタル事実ニ依レハ本件被告等ノ模写シタル蓄音機ノ音譜ハ何レモ浪花節芸人桃中軒雲右衛門入道事岡本峰吉カ蓄音機ノ蝋盤ニ吹込マンカ為メ東京市京橋区銀座一丁目三光堂ニ於テ赤垣源蔵外古人数名ノ事蹟ヲ叙シタル文句ニ其創意ニ係ル音階曲節ヲ配シ独特ノ声調ニ依リ演述シタル音楽的声音ヲ写調シタルモノニ係リ雲右衛門ハ之ヲ以テ音楽的著作物トシテ之ニ関スル権利ヲ横浜市山下町独逸国臣民「リチヤードソン」ニ譲渡シ之カ登録ヲ了シタルモノナリトス右原院ノ認メタル事実ニ依レハ蓄音機ノ蝋盤ニ写調セラレタルモノハ我国ニ於テ従来行ハレタル低級音楽ノ一種タル浪花節ニシテ斯道ノ達人タル桃中軒雲右衛門カ其独特ノ創意ニ依リ蓄音機写調ノ瞬間ニ於テ作曲演唱シタルモノニ係リ普通一般ノ浪花節芸人ノ演唱中ニ存セサル新旋律ヲ包含スルモノナルコトハ充分ニ之ヲ認ムルコトヲ得ヘシト雖モ雲右衛門ハ其創意ニ係ル本件ノ音楽ニ付キ楽譜ヲ作リタルヤ否ヤ其創意ハ楽譜ヲ作成スルコトヲ得ルノ程度ニ於テ固定セルヤ否ヤ少クモ雲右衛門ノ創意ニ係ル新曲ハ雲右衛門ニ於テ其固有ノ浪花節トシテ随時随所ニ之ヲ反覆スルノ意思アリテ且其意ノ如ク之ヲ反覆スルコトヲ可能ナラシムルノ程度ニ於テ熟シタル確定的旋律ヲ包含スルヤ否ヤハ原判文中一モ説示スル所ナク判文所掲ノ事実証拠ニ依リ之ヲ肯定スル事ヲ得サル以上ハ原判決ノ趣旨ハ消極的ニ之ヲ否定シタルモノト解セサルヘカラス抑モ雲右衛門ノ浪花節ヲ語ルノ巧妙ナルハ他ノ浪花節芸人ノ企及スル所ニアラス其芸風ハ能ク一部人士ヲシテ渇仰セシムルモノアリト雖モ其語ル所ハ浪花節ノ外ニ出テス此場合ニ於テ雲右衛門ノ浪花節ヲ貫通スル一種独特ノ定型的旋律アリテ本件蓄音機ノ蝋盤ニ吹込マレタル楽曲ハ即チ其旋律ヲ表彰シタルモノニ外ナラストセハ雲右衛門ニ著作権アルハ論ヲ俟タス 若シ然ラストスルモ本件ノ楽曲タル雲右衛門カ之カ蓄音機ノ蝋盤ニ吹キ込ムニ際シ新タニ創作シタルモノニ係リ其旋律ハ雲右衛門カ自家固有ノモノトシテ将来ニ向ツテ之ヲ反覆スルノ意思ヲ有シ且之ヲ反覆シ得ヘキ程度ニ於テ確定シタルモノトセハ此場合ニ於テモ雲右衛門ノ為メニ著作権ヲ認メサルヘカラス之ニ反シテ其楽曲カ確乎タル旋律ヲ包含セスシテ純然タル即興的且瞬間的創作ニ過キサルトキハ其楽曲ハ偶々新旋律ヲ包含スルモ著作権ノ目的タルヲ得ス  蓋シ浪花節ノ如キ比較的音階曲節ニ乏シキ低級音楽ニ在リテハ演奏者ハ多クハ演奏ノ都度多少其音階曲節ニ変化ヲ与ヘ因テ以テ興味ノ減退ヲ防キ聴聞者ノ嗜好ヲ繋クノ必要アルヲ以テ機ニ臨ミ変ニ応シテ瞬間創作ヲ為スヲ常トシ其旋律ハ常ニ必スシモ一定スルモノニアラスシテ斯ル瞬間創作ニ対シ一一著作権ヲ認ムルカ如キハ断シテ著作権法ノ精神ナリトスルヲ得ス  而シテ本件雲右衛門ノ創意ニ係ル浪花節ノ楽曲ニシテ前示ノ如ク確乎タル旋律ニ依リタルモノト認ムヘキ事蹟ノ存セサル以上ハ瞬間創作ノ範囲ヲ脱スルコトヲ得サルモノニシテ之ヲ目シテ著作権法ニ所謂音楽的著作物ト謂フコトヲ得ス 果シテ然ラハ之ヲ写調シタル蓄音機ノ蝋盤ヨリ更ニ之ヲ他ノ蝋盤ニ写シ取リテ音譜ヲ製造シ之ヲ販売シタル被告等ノ所為ハ著作権法三十七条ノ罪ヲ構成セサルハ勿論他ノ犯罪ヲモ構成スルコトナシ 蓋シ本件ノ如ク他人カ出捐ヲ為シテ蓄音機ノ蝋盤ニ吹込マシメタル楽曲ヲ他ノ蝋盤ニ写シ取リテ音譜ヲ製造シ利ヲ営ムコトノ正義ノ観念ニ反スルハ論ヲ竢タサル所ナリト雖モ是レ独リ雲右衛門ノ演奏シタル楽曲ニ付キテ然ルニアラスシテ他ノ知名ノ音楽家ノ演奏シタル楽曲ニ付キテモ亦同一ノ弊害ヲ生スルヲ免カレス 然レトモ之ニ関スル取締法ノ設ケナキ今日ニ在テハ之ヲ不問ニ付スル外他ニ途ナシトス 依テ本件被告等ノ所為ハ罪ヲ構成セサルモノトシテ無罪ヲ云渡スヘキモノナルニ原院カ之ニ擬スルニ著作権法第三十七条ヲ以テシタルハ擬律ニ錯誤アル失当ノ裁判ニシテ上告論旨ハ理由アリ原判決ハ破毀ヲ免レサルモノトス 

(大学湯事件)
大審院大正14年11月28日第三民事部判決
事   実
上告人(控訴人,原告)ノ本訴請求原因トシテ主張スルトコロハ上告人先代ハ大正四年四月二日被上告人梅三郎ヨリ同人所有ノ大学湯建物ヲ賃借シ右ノ名称ヲ用ヒテ湯屋業ヲ営ミ居タルカ其ノ老舗ハ賃貸借終了ノ際ニ於テハ被上告人梅三郎自身之ヲ買取ルカ若ハ上告人先代カ任意之ヲ他ニ売却スルコトヲ許容スヘキ旨契約シタリ然ルニ大正十年十月十五日右賃貸借終了スルニ及被上告人梅三郎ハ右老舗ノ売却ヲ妨ケ擅ニ大学湯ノ建物ヲ上告人先代以来設備シタル造作諸道具附ノ儘ニテ被上告人千太郎及ふなニ賃貸シ依テ以テ上告人先代以来有セシ老舗ヲ喪失セシメタリ這ハ債務ノ不履行ナリ若又前記特約ナシトセハ★ハ上告人ノ有スル老舗ニ対スル不法行為ニ外ナラス而シテ被上告人千太郎及ふなハ上告人カ老舗ヲ有スルコトヲ知リナカラ被上告人梅三郎ト共謀シ老舗ノ売却ヲ不能ナラシメタルモノナルカ故ニ是亦不法行為ノ責ヲ兔ルルヲ得スト云フニ在リ
原裁判所ハ前記特約アルコトヲ否定シ又老舗ハ権利ニ非サルヲ以テ此ノ点ニ於テ之ニ対スル不法行為ハ之ヲ構成スルニ由ナシト判断シ上告人ノ損害賠償請求権ヲ否定シタリ
       上告理由(省略)
       判決理由
不法ナル行為トハ法規ノ命スルトコロ若ハ禁スルトコロニ違反スル行為ヲ云フ斯ル行為ニ因リテ生シタル悪結果ハ能フ限リ之ヲ除去セサルヘカラス私法ノ範囲ニ在リテハ其ノ或場合ハ債務ノ不履行トシテ救済カ与ヘラルルコトアリ又其ノ或場合ハ絶対権ニ基ク請求権ニ依リテ救済カ与ヘラルルコトアリ此等ノ場合ヲ外ニシテ別ニ損害賠償請求権ヲ認メ以テ救済カ与ヘラルルコトアリ民法ニ所謂不法行為トハ即此ノ場合ヲ指ス即不法行為トハ右二個ノ場合ニ属セス而モ法規違反ノ行為ヨリ生シタル悪結果ヲ除去スル為被害者ニ損害賠償請求権ヲ与フルコトカ吾人ノ法律観念ニ照シテ必要ナリト思惟セラルル場合ヲ云フモノニ外ナラス夫適法行為ハ千態万様数フルニ勝フヘカラスト雖不法行為ニ至リテハ寧ロ之ヨリ甚シキモノアリ蓋彼ハ共同生活ノ規矩ニ遵ヒテノ行為ナルニ反シ此ハ其ノ準繩ノ外ニ逸スルノ行為ナレハナリ従ヒテ何ヲ不法行為ト云フヤニ就キテ古ヨリ其ノ法制ノ体裁必シモ一ナラス或ハ其ノ一般的定義ハ之ヲ下サス唯仔細ニ個個ノ場合ヲ列挙スルニ止ムルモノアリ或ハ之ニ反シ広汎ナル抽象的規定ヲ掲ケ其ノ細節ニ渉ラサルモノアリ又或ハ其ノ衷ヲ執リ数大綱ヲ設ケテ其ノ余ヲ律セムトスルモノアリ吾民法ノ如キハ其ノ第二数ニ属スルモノナリ故ニ同法第七百九条ハ故意又ハ過失ニ因リテ法規違反ノ行為ニ出テ以テ他人ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任スト云フカ如キ広汎ナル意味ニ外ナラス其ノ侵害ノ対象ハ或ハ夫ノ所有権地上権債権無体財産権名誉権等所謂一ノ具体的権利ナルコトアルヘク或ハ此ト同一程度ノ厳密ナル意味ニ於テハ未タ目スルニ権利ヲ以テスヘカラサルモ而モ法律上保護セラルル一ノ利益ナルコトアルヘク否詳ク云ハハ吾人ノ法律観念上其ノ侵害ニ対シ不法行為ニ基ク救済ヲ与フルコトヲ必要トスト思惟スル一ノ利益ナルコトアルヘシ夫権利ト云フカ如キ名辞ハ其ノ用法ノ精疎広狭固ヨリ一ナラス各規定ノ本旨ニ鑑テ以テ之ヲ解スルニ非サルヨリハ争テカ其ノ真意ニ中ツルヲ得ムヤ当該法条ニ「他人ノ権利」トアルノ故ヲ以テ必スヤ之ヲ夫ノ具体的権利ノ場合ト同様ノ意味ニ於ケル権利ノ義ナリト解シ凡ノ不法行為アリト云フトキハ先ツ其ノ侵害セラレタルハ何権ナリヤトノ穿鑿ニ腐心シ吾人ノ法律観念ニ照シテ大局ノ上ヨリ考察スルノ用意ヲ忘レ求メテ自ラ不法行為ノ救済ヲ局限スルカ如キハ思ハサルモ亦甚シト云フヘキナリ本件ヲ案スルニ上告人先代カ大学湯ノ老舗ヲ有セシコトハ原判決ノ確定スルトコロナリ老舗カ売買贈与其ノ他ノ取引ノ対象ト為ルハ言ヲ俟タサルトコロナルカ故ニ若被上告人等ニシテ法規違反ノ行為ヲ敢シ以テ上告人先代カ之ヲ他ニ売却スルコトヲ不能ナラシメ其ノ得ヘカリシ利益ヲ喪失セシメタルノ事実アラムカ是猶或人カ其ノ所有物ヲ売却セムトスルニ当リ第三者ノ詐術ニ因リ売却ハ不能ニ帰シ為ニ所有者ハ其ノ得ヘカリシ利益ヲ喪失シタル場合ト何ノ択フトコロカアル此等ノ場合侵害ノ対象ハ売買ノ目的物タル所有物若ハ老舗ソノモノニ非ス得ヘカリシ利益即是ナリ斯ル利益ハ吾人ノ法律観念上不法行為ニ基ク損害賠償請求権ヲ認ムルコトニ依リテ之ヲ保護スル必要アルモノナリ原判決ハ老舗ナルモノハ権利ニ非サルヲ以テ其ノ性質上不法行為ニ因ル侵害ノ対象タルヲ得サルモノナリト為セシ点ニ於テ誤レリ更ニ上告人主張ニ係ル本件不法行為ニ因リ侵害セラレタルモノハ老舗ソノモノナリト為セシ点ニ於テ誤レリ本件上告ハ其ノ理由アリ

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