役員の選任(修正動議)
商事|会社法|株主が推薦する取締役と現役員が推薦する取締役についての選任方法|手続について|取締役会の利益と株主側の利益の対立|取締役選任権は誰にあるか|会社法の本質からの考察|株主の株主総会の議事提案権
目次
質問:
私は中小企業の取締役を務める者です。取締役会設置会社で、3名以上の取締役を置くことが定款で定められております。
当初は私が代表を務めていたのですが、当時の取締役2名が高齢を理由に辞任したことで、新たに知人夫婦を取締役として迎い入れ、ご主人の方が現在は代表取締役の地位にあります。
ところが、知人夫婦は経営能力に乏しく、私が代表の頃は黒字経営であったにもかかわらず、現在は大幅な赤字経営になってしまいました。
そのため、今回の任期満了をもって、新たに私の方で用意した人材2名を取締役として迎い入れたいのですが、知人夫婦は再選を望み、対立しております。
1ヶ月後に予定されている定時株主総会の招集通知に取締役選任の件を議題として掲載する予定ですが、取締役会では私が少数派であるため、知人夫婦と私の3名を取締役に選任(再選)する旨の議案を招集通知に記載することについて、取締役会で決議されてしまうことが見込まれます。
以上の状況のもとで、知人夫婦の代わりに私が用意した別の取締役候補者2名を選任するためにどのような対策を講じるべきでしょうか。
前提条件として、私は発行済株式総数の40パーセントを保有しており、私の意向に賛同する他の株主は概ね20パーセント程度の株式を保有しております。株主総会に向けた立ち回りについて教えてください。議長は代表取締役が務めることが定款で定められており、当方の言い分を無視して総会が進められてしまうのではないかと不安です。
回答:
1 株主総会で役員選任決議を行う場合は、役員選任の件という議題(会社法298条1項2号)を招集通知に記載することが必要です。そして、役員選任が議題となる場合は、会社法施行規則63条7号イにしたがい、議案の概要を具体的に記載することが求められます。その結果、取締役会で誰を役員選任の議案の対象とするかについて、決議する必要があることになります。
このような状況から、あなたが株主総会においては過半数を握ることができたとしても、取締役会において少数派であれば、招集通知に記載すべき役員選任の具体的な議案についてはコントロールを及ぼすことができないことになります。あなたが希望する役員人事について他の取締役らが反対する場合、会社提案の内容は他の取締役の意向に沿う内容にならざるを得ないでしょう。
考えられる対応策としては、株主提案権の行使による方法が挙げられます。
2 まず、株主の議題提案権の行使として、あなたが希望する役員の選任議案を株主総会の目的とするよう、会社に書面で請求する方法が考えられます(会社法303条)。しかし、株主の議題提案権は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならないとされており、定款による期間短縮の定めがない限り、本件では議題提案権の期限を徒過していることになります。
3 そこで、本件では、株主総会当日に、株主の議案提案権として、修正動議を提出することが考えられます(会社法304条)。株主の議案提案は、議題に関連する事項に限られることに留意した対応が求められます。知人夫婦2名に替えて新たな候補者2名を選任する入れ替え動議を提出する方法が直截的です。
当日の議事進行を現代表者が適法に実施するのかは疑問が残るところですから、事前に弁護士に相談し、株主総会のシミュレーションをしておく方が安心と思われます。
4 関連事例集1744番、878番、708番参照。その他、株主総会に関する関連事例集参照。
解説:
第1 役員の選任(解任)方法
会社法上、役員の選任は株主総会の普通決議事項とされております(会社法341条)。
あなたは発行済株式総数の40パーセントを保有しており、その他の20パーセントの保有株主の協力を得られる見込みということですから、役員人事について、事実上の支配を及ぼすことが出来るといえます。では、株主総会当日までにどのような対応を取れば良いのでしょうか。以下解説いたします。
第2 株主総会の招集
1 招集権者
株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集する定時株主総会(会社法296条1項)の他、必要がある場合にはいつでも招集することができます(同条2項)。
株主総会の招集権者は原則として取締役とされておりますが(同条3項)、総株主の議決権の百分の三以上の議決権を六箇月前から引き続き有する株主(定款で変更可)は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法297条1項)。その上で、遅滞なく招集の手続が行われない場合には、当該株主自らが、裁判所の許可を得て、株主総会を招集することができる仕組みとなっております(同条4項)。
2 招集の決定と通知
株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間前(非公開会社は一週間前までに、株主に対して招集通知を発する決まりとなっております(会社法299条1項)。取締役会設置会社は招集通知を書面(若しくは電磁的方法)で行うことを義務付けられ(同条2項、3項)、招集通知には、会社法298条1項各号で定める以下の各事項を記載(記録)する必要があります。
1号 株主総会の日時及び場所
2号 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
3号 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
4号 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
5号 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項(※具体的には会社法施行規則63条参照)
そして、上記各事項は、株主が裁判所の許可を得て招集する場合を除き、取締役会の決議事項とされております(会社法298条4項)。
株主総会で役員選任決議を行う場合は、役員選任の件という議題(会社法298条1項2号)を招集通知に記載することが必要です。そして、役員選任が議題となる場合は、会社法施行規則63条7号イにしたがい、議案の概要(議案が確定していない場合にあっては、その旨)を具体的に記載することが求められます。その結果、取締役会で誰を役員選任の議案の対象とするかについて、決議する必要があることになります。
このような状況から、あなたが株主総会においては過半数を握ることができたとしても、取締役会において少数派であれば、招集通知に記載すべき役員選任の具体的な議案についてはコントロールを及ぼすことができないことになります。
協議により、役員候補の会社提案をあなたの思惑通りに出来れば良いですが、他の取締役らが反対すれば、会社提案の内容は他の取締役の意向に沿う内容にならざるを得ないでしょう。
第3 対応策について
1 株主の議題提案権
このような事態を想定した事前の対応策として、株主の議題提案権の行使として、あなたが希望する役員の選任議案を株主総会の目的とするよう、会社に書面で請求する方法が考えられます(会社法303条)。
しかし、株主の議題提案権は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならないとされており、定款による期間短縮の定めがない限り、本件では議題提案権の期限を徒過していることになります。したがって、この方法は現実的ではないと考えられます。
2 議案提案権(修正動議)について
⑴ 概要
残された手段としては、株主総会当日に、株主の議案提案権として、修正動議を提出することが考えられます。
株主は、株主総会の目的事項について、議案を提出することができるとされています(会社法304条)。すなわち、株主は、株主総会の目的事である「議題」に関連した会社側の「議案」について、株主総会の場において別の「議案」を提出することができ、これを実務上は「修正動議」と呼んでいます。
⑵ 修正動議の適法性
注意点として、株主が提出できる修正動議の範囲には制約があります。
招集通知(参考書類含む)の記載から予見し得ないような議案が株主総会に提出された場合、当該修正動議が審理対象となることは他の株主 にとって不測の事態であり、議決権行使の手続保障が与えられていないことになります。このことから、基本的には、議題に関連する事項に限って議案提案権が認められていることには留意が必要です。仮に、議題と無関係の事項について議案が提出された場合、修正動議は不適法として却下することができます。
⑶ 適法な修正動議の出し方
それでは、株主総会当日に、あなたはどのように修正動議を提出すれば良いでしょうか。以下、会社の招集通知に「取締役3名選任の件」として選任予定員数を明示した議題と、それに対応した候補者ABCの会社提案が議案として記載されている場合を想定します。
①「候補者ABC」に加えて「候補者DE」の選任を求める修正動議
議題となっている選任予定者の員数を増加する修正は、株主が一般的に予見しうる範囲の議案の変更とは解されておらず、不適法であり、議長の判断で却下することができます。そのため、かかる修正動議は不適切と考えられます。
②「候補者AB」の代わりに「候補者DE」の選任を求める修正動議
いわゆる入れ替え動議と呼ばれるもので、議題となっている選任予定員数の範囲内において別の特定の候補者を選任するよう修正の提案をすることは、議題から逸脱した議案提案ではありませんから、適法な修正動議と考えられます。
③「候補者ABC」の誰かの代わりに「候補者DE」の選任を求める修正動議
選任予定員数(3名)自体は変更せずに、新たな候補者の選任を求めていることになりますので、これも議題を逸脱した議案提案ではなく、適法な修正動議となります。
ただ、この場合、候補者「ABCDE」の中から3名を選ぶこととなり、採決方法が問題となり得ます。
取締役選任議案については、候補者ごとに別々の議案があると考えるのが実務上の考え方です。そのため、仮に各議案を独立に採決すると、候補者全員が過半数の得票を得て選任可決されてしまう可能性があり、混乱を招くことが想定されます。
両立しない議案について、一方が可決されれば他方は当然に否決されたものとして取り扱うことができると解されていますので、採決を行って所定の員数に達した時点で、採決を打ち切るという対応も考えられます。しかし、そうすると、先に採決した候補者が有利になることから、不公平感が出てしまいます。
⑷ 小括
以上から、上記②の方法で修正動議を出すことが最も適切ということになります。
通常は、会社側が、株主総会当日までに議決権行使書や委任状を集め、原案可決のための得票数の確保をしておくことが多いため、株主総会当日は、原案(会社提案)先議について議場に諮って可決し、原案が可決され次第、修正動議を当然に否決されたものと取り扱うことになるでしょう。
しかし、本件では、あなたが過半数を支配していることになりますから、株主総会当日に上記②の方法で修正動議を提出し(事前に提案書面を準備しておくべきでしょう)、原案を否決してから修正動議を可決することになるでしょう。
ただ、議長を務める原代表取締役が、修正動議を適法に取り扱わず、原案可決として議事録を勝手に作成してしまうような暴挙に出ることも考えられないわけではありません。そのため、総会の様子は録音・録画すると共に、万が一修正動議が適法に審議されない場合は、議長不信任決議を求める等、毅然とした対応が求められます。これにより、後日、裁判所の手続きで株主総会決議の取消しを認定してもらうことが可能となります。
株主総会当日は不規則発言なども予想されますから、事前に弁護士に相談し、当日のシミュレーションなどの対策をしておくと安心です。
以上