無料インターネット求人広告に関するトラブル

商事|権限のない社員が締結した契約の効力|会社法14条1項2項|消費者契約法の適用可能性|那覇簡裁令和3年10月21日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

私は、建設業を営む中小企業の代表取締役です。当社の従業員が独断で申し込んだ無料求人広告に関する相談です。先日、会社に人材採用の広告を出さないかという営業の電話がかかってきました。対応した従業員は、申し込みは無料と聞かされたので、会社の承認も要らないと考え、ファックスで送付されてきた申込書に署名・捺印して返送しました。その後、特に解約の連絡もしないで放置をしていたところ、先の営業から電話があり、有料契約に移行したので、広告料として50万円を請求されました。

このような請求には応じなければならないのでしょうか。

回答:

1 広告料が無料であることの説明のみで、有料期間に自動的に変更となることが全く説明がなかった場合、あるいはその説明が極めて分かりにくかったという場合は、詐欺取り消しを理由に広告契約の無効、支払い義務がないことになります。弁護士から内容証明郵便を送付して、具体的な勧誘や契約方法が詐欺もしくは錯誤であることを指摘して契約を取り消す旨の意思表示をすることで、業者からの請求が止むことがあります。

2 お困りの場合はお近くの法律事務所にご相談ください。

3 詐欺に関する関連事例集参照。

解説:

昨今、このような無料求人広告をうたいながら自動的に有料契約に移行したとして広告料を請求する被害が後を絶ちません。人手不足で悩む中小零細事業者をカモにする悪質な商法で、各地方弁護士会でも注意喚起がなされています。その多くは、広告業者からの飛び込みの電話営業において「無料で、インターネット上に求人広告を掲載します」との勧誘を受け、料金が発生することはないと思い、これに申し込んだところ、しばらく経って、「無料掲載期間が過ぎ、規約により、有料の広告掲載に自動更新されました」などと主張され、求人広告の掲載料金を請求されるというものです。

1 権限のない社員が締結した契約の効力

まず、本件では対応した従業員が会社の承認を得ずに勝手に申込みをしているため、権限がない社員が締結した契約の効力が問題となります。しかしこのような場合も会社法14条1項2項により契約は有効となる可能性が高いです。

会社法14条1項は「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、特定事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する」と規定しているところ、従業員の同項該当性について、判例(最判平成2年2月22日)は、「当該使用人が営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること及び当該行為が客観的にみて右事項の範囲内に属することを主張・立証」すれば足り、「代理権を授与されたことまでを主張・立証することを要しない」としました。迅速性が求められる商取引において取引の安全を重視した判断といえます。

本件では、会社の担当者が主体的に広告会社の営業に応対しているため、客観的にみて広告契約の権限を有していたと判断される可能性が高いです。仮に相談者様が担当者に申込みの権限付与していなかったとしても、同2項により「使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」こととなり、広告会社の過失を立証しない限り、契約の無効を主張することはできません。

よってたとえ本件の契約が権限のない社員によって締結されたとしても、契約自体は有効と判断される可能性が高いです。

2 消費者契約法の適用はない

また本件で消費者契約法の適用はありません。

確かに、広告会社は電話で広告掲載の勧誘をおこない、ファックスで申込書を送付させたことから、本件は「電話勧誘販売」(特定商取引法2条3号)にあたります。この場合、特定商取引法により義務付けられている書面交付(特定商取引法18条,19条)から8日以内であればクーリング・オフができます(特定商取引法24条)。広告会社が特定商取引法の法定書面の交付をしていなければ、クーリング・オフにより救済される可能性はあります。

もっとも相談者は、業者たる法人にあたるため,特定商取引法のクーリング・オフによる救済規定は適用されず(特定商取引法26条1項1号)、その他、消費者契約法などの消費者保護のための法律も適用もありません(消費者契約法2条1項)。

3 錯誤取消し(民法95条)、詐欺取取消し(民法96条)が可能

そこで、当該業者の具体的な勧誘や契約方法の問題点を指摘して、有料契約の錯誤取消し、詐欺取消しをもって対抗することになります。

実際、本件と同様の事例で、那覇簡裁令和3年10月21日判決は詐欺取消しを認めました。

・那覇簡裁令和3年10月21日判決

(1) 被告は、インターネット広告業等を営む原告から電話で勧誘を受け、原告からFAX送信されてきた書面を用いて、求人情報の広告掲載申し込みを行った。同FAXには、次のような約定が小文字のフォントで記載されていた。①求人情報を掲載する期間は14日間とし、原告または被告から契約終了日の4日以上前に書面での申し出がない限り自動更新され、掲載期間は14日間、以降の更新も同様とする。②被告は、原告に対し、本件委託業務の対価として1単位期間(14日間)毎に求人情報掲載料金を支払う。③無料キャンペーンが適用される場合、初回掲載期間の掲載料金は発生しないが、被告において自動更新を拒絶する手続きを経ない限り更新後の掲載料金が当然に発生する。原告は、期限内に被告から更新拒絶の申し出が無く、上記広告掲載契約が同一条件で更新されたとして、被告に対し求人情報掲載料金の請求を行った。被告は、有料での広告掲載契約の不成立、詐欺取消、錯誤無効を主張した。

(2) 裁判所は、有料の広告掲載契約は成立しているとしつつ、下記の通り原告の詐欺を認定して、取り消しを認めた。

「原告の勧誘担当者は、被告代表者に対し、電話口で本件求人広告掲載の利用料は無料であることのみを強調し、無料掲載期間終了後は解約手続きを事前に取らない限り、自動的に有料契約に移行するとの契約ルールについては何ら説明をしなかった。」、「平成31年4月から令和元年11月25日にかけて厚生労働省や全国求人情報協会、毎日新聞等のマスコミ及び沖縄県弁護士会を含む各県の弁護士会が原告らの勧誘手法が事業者の錯誤に付け込んだ商法である旨の注意喚起を大々的に行っていた事実が認められる(原告勧誘担当者が被告代表者に無料求人広告掲載の勧誘電話をかけてきたのは令和元年11月20日)。…原告においても当然自身の行っている勧誘手法に指摘されている問題があることは十分に認識していたと認められ、…勧誘によって被告代表者を錯誤に陥らせようとする故意があったこと、…被告代表者の錯誤によって契約申込みをさせようとする故意があったと認められる。」「被告代表者は本件広告掲載契約日までに原告勧誘担当者から3度も勧誘電話を受け、その都度広告掲載料金は「無料」と強調されていたこと、そして、勧誘担当者に無料であることを確認して本件広告掲載契約の申し込みをしたと述べる。…自動更新や有料契約に自動移行することについて意識が向かないように誘導された結果、電話勧誘を受けた被告代表者は、…無料期間が終了する4日以上前までに書面で更新拒否を通知しなければ自動更新となり、有料契約に自動移行されてしまうという契約であることを全く理解していなかった。原告は、被告代表者の錯誤をその不作為によって深めて本件契約の申込みをさせたといえる。」

本件でも、広告会社担当者から有料サービスへの自動更新について十分な説明がなかったこと、広告会社に関する同様の被害がインターネット上で報告されていること、無料求人掲載広告について弁護士会等において注意喚起がなされている状況からすれば、上記判例と同様に詐欺取消しが認められる可能性があります。

4 総括

実際上、被害者が争わずに支払うことを期待してこのような商売をしている業者も多く、被害者側に弁護士が付いて支払拒絶の意思表示を行うことにより、事実上解決することも多いです 。したがって弁護士から文書を送付して、これ以上の請求には応じない旨を意思表示することで、業者からの請求が止むこともございます。詐欺の主張が認められるためには、勧誘行為が、広告料が無料であると誤信させるものであったことが必要ですから、困りの場合は、お近くの法律事務所にご相談ください。

以上です。

関連事例集

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参照条文

民法95条(錯誤)

1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。

一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法96条(詐欺又は強迫)

1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

民法97条(意思表示の効力発生時期等)

1 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。