再開発の権利変換における清算金の額

民事|行政|再開発|権利変換|清算金

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

駅前に戸建て店舗を所有し和菓子店を経営しております。その区域に再開発の計画が進行し、再開発組合が設立され、組合担当者より権利変換計画案の提示がありました。うちは権利変換を希望する旨を組合担当者に話していたのですが、再開発ビルの商業床と住居床を各1区画ずつ割り当てられ、更に清算金として800万円が交付されるという内容になっていました。権利変換を希望しない旨の申し出はしていないのに、このように800万円分の従前資産が権利変換されないことは適法なのでしょうか。噂では、準備組合の理事の方など清算金が交付されない地権者も居ると聞きます。不公平じゃないでしょうか。組合担当者に抗議しましたが、ちょうどぴったりあう区画が無かったので仕方なく清算金の交付になった、と弁解するだけで権利変換計画を修正してくれません。従前資産全額の権利変換を受けるにはどうしたら良いですか?

回答

1、都市再開発法においては、原則として、従前資産の価値を価格で評価し、それと同額の再開発後の建物を割り当てることになっています。清算金の交付という方法もありますが、例外ですし、権利者の意思に反してそのような方法で権利変換を行うことは、清算金で解決するしか方法がないという場合で、かつ他の権利者と比べて不公平でない場合でなければ違法となると考えられます。再開発組合が設立されたということですが、権利変換計画案が組合の担当者から示された段階ということですから、強く異議を伝え全額の権利変換を要求すれば、計画が変わる場合もあると考えられますから諦めずに交渉するべきです。それでも、清算金の支払いによる権利変換計画案が2週間の縦覧に付されたときは、手続きの不当性を主張する「権利変換意見書」を提出して、清算金の定めを削除し、全面的に権利変換を受けられるように主張することが必要です。意見が採用されない場合、専門家と相談し最終的には訴訟手続きにて対応するのが望ましいと思われます。

2、都市再開発法は、都市部の木造家屋密集地区など、防災上また国民経済上の建て替えの必要性が高い区域において、区域内地権者(第一種市街地再開発事業)または都道府県)(第二種市街地再開発事業)などが主体となって、区域内の一括建て替えを促進する手続きを定めた法律です。戸建ての建て替えであれば個別の同意が必要ですし、マンションなど区分所有建物でも5分の4の建て替え同意が必要であるところ、多数決要件を3分の2に緩和して建て替えを促進しています。

3、都市再開発法の建て替えは権利変換という手続により、従前権利から、建て替え後のビルの権利に移行する構造になっています。従前権利を価額で評価し、それに相当する、施設建築物の区画の割り当てを受けるのです。多くの再開発では、従前権利と再開発後の建物は過不足なく対応して権利変換されますが、一部の再開発事業では、御相談の事例のように、従前権利の価額が、割り当てを受ける権利価額よりも上回っている場合に、建て替え後に清算金の交付を受ける権利変換計画が策定されることもあります。

4、第一種市街地再開発事業は、区域内地権者が主体となって、いわば自分達の建物を自分達で建て替えるという手続ですから、建て替え後に、余った金銭を皆で分配したり、不足した金額を皆で負担したりすることは当然のことですし、都市再開発法でも、清算金の分配や、地権者の分配金の負担を想定している条文が定められています。

5、他方、再開発に際して建て替えに参加するか、地区外退去して清算金を受領するかは、地権者各自の判断に委ねられており、格別の意思表示をしなければ、建て替えに参加するのが原則となり、強制的に地区外退去の清算金を受領させられるのは、再開発制度の趣旨に違反する違法な処分となってしまう可能性もあります。

6、市街地再開発手続きの清算金の多寡による手続きの違法性を判断した最高裁判例はありませんが、財産権保障に関する各種判例を参考にするならば、清算金交付の取り扱いについて回避する手段があったのにこれを回避せず、また、区域内地権者間に不平等な取り扱いがある場合には、手続きの違法性が認定される可能性もあることになります。清算金額が大きすぎてどうしても納得できない場合は、再開発手続きに詳しい弁護士に相談し、法的主張を行うことを検討して下さい。

7、関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1、第一種市街地再開発事業

都市再開発法による市街地再開発手続きは、火災が延焼しやすい木造密集区域の建物をまとめて不燃建物に更新したり、不燃建物であっても建築基準法の耐震基準の改訂に伴って現行耐震基準を満たさなくなってしまったいわゆる既存不適格の旧耐震建物を建て替えることにより、都市の防災機能を高め、商業機能を高めることにより国民経済の振興を図るという公共目的のために、区域内建物の一体建て替え手続きを定めたものです。

都市再開発法第1条(目的) この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

都市再開発法では、民間主導の第一種市街地再開発手続きと、公共団体主導の第二種市街地再開発手続きが定められています。前記のような都市機能の更新が必要であるという事情は変わりませんが、第二種市街地再開発事業では、国際空港整備やオリンピックや国際万国博覧会のために一帯整備が必要であるなど特に公共性・緊急性の高い事業について、事業者となる地方自治体などが一旦すべての権利を取得して、施設建築物整備後に従前地権者に再度権利を割り当てる「管理処分方式」で建て替えが行われます。

都市再開発法第3条の2

都市計画法第十二条第二項の規定により第二種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、次の各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。

第2号のロ 当該区域内に駅前広場、大規模な火災等が発生した場合における公衆の避難の用に供する公園又は広場その他の重要な公共施設で政令で定めるものを早急に整備する必要があり、かつ、当該公共施設の整備と併せて当該区域内の建築物及び建築敷地の整備を一体的に行うことが合理的であること。

これに対して、第一種市街地再開発手続きにおいては、区域内地権者の発意と申請により再開発手続きを進めることができます。

民間の地権者が集まって再開発事業を進める第一種市街地再開発事業では、施行区域内の土地所有者や借地権者が5名以上集まって、事業計画を定め、施行区域内の宅地所有権者及び借地権者の面積と人数で、それぞれ3分の2以上の同意を得て、組合設立認可申請をすることができます。

都市再開発法第11条(認可)

第1項 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、五人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合を設立することができる。

第14条(宅地の所有者及び借地権者の同意)

第1項 第十一条第一項又は第二項の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない。

再開発組合の設立が認可されると、権利変換計画案を作成し、組合決議を経て都道府県知事に対して権利変換計画認可申請をすることにより、権利変換期日に、借家権や借地権など施行区域内の従来の権利が一旦全て消滅し、敷地所有権は一旦施行者である再開発組合に帰属することになり、複雑な権利関係を整理して、建て替えを円滑にすすめることができるようになります。区分所有法62条1項では、建て替え決議に5分の4の多数決が要求されていますので、手続き要件が緩和されていることになります。

区分所有法62条(建替え決議)抜粋 1項 集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

再開発ビルの竣工後には、土地建物の従来の権利者に対して、それぞれの従前権利の価額に対応する、新しい建物の権利が割り当てられることになります。地権者から見ると、権利変換期日に「組合に権利を取られる」ことになりますが、地権者は再開発組合の構成員である組合員でもありますから、権利の直接単独保有から、組合を通した間接的な共有に姿を変えると考えることができます。

2、権利変換手続き

都市再開発法における権利変換とは、都市再開発法の第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の要件に従って都道府県に申請することにより、権利変換期日に当該区域内の土地建物の権利が一括して移転し、建物所有権を目的とする権利は全て消滅し、建て替え後の新しい建物について、従前の権利者に対して権利が割り当てられる手続です。

権利変換は、組合が定めた権利変換計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)~(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却(取り壊し)及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。

(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。

(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。

(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。

権利変換計画書の書式を御案内致します。

https://www.shinginza.com/db/kenrihenkan.pdf

権利変換計画が規定されている都市再開発法73条1項を引用します。

都市再開発法第73条(権利変換計画の内容)

権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 配置設計

二 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

四 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額

五 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利

七 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所

八 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額

九 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額

十 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

十一 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利

十二 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について賃借権を有する者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けた者)又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けた者で、当該賃借権に対応して、施設建築物の一部について賃借権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

十三 前号に掲げる者に賃借権が与えられることとなる施設建築物の一部

十四 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施設建築物の一部について配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十五 前号に掲げる者に配偶者居住権が与えられることとなる施設建築物の一部

十六 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要

十七 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十八 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

十九 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

二十 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

二十一 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所

二十二 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法

二十三 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

二十四 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期

二十五 その他国土交通省令で定める事項

通常、従来あった建物を解体して新しい建物を建築する場合、建物の除却や借家権の解除などの立退きの問題は、ひとつひとつの権利者について個別に同意を得て権利消滅の法律効果を発生させていく必要がありますが、権利変換手続を用いることにより、再開発施行区域内の権利関係を一度に移動させることができ、建物の建て替えがスムーズに進むというメリットがあります。

憲法29条1項

財産権は、これを侵してはならない。

民法206条

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

近代私法の「所有権絶対の原則」からすれば、土地や建物を所有する所有権者は、自分の土地建物をどのように利用しようとも(建て替えるか建て替えないかは)自由(憲法29条1項、民法206条)であるのが原則ですが、特に都市部・市街地の密集地域においては、大規模都市災害に備えて防災機能を高める必要から不燃建物の比率を上げる必要がありますし、道路区画も避難等に備えて整備する必要があります。

また、国民経済の発展のため商業機能を高めるには建物の高層化が必須であり、所有権者だからといって、駅前に木造2階建ての店舗を永久に存続させることは、公共の福祉の観点から許容されないことになります。都市再開発法の権利変換手続きにより、都市部の再開発促進区域においては、個別の同意を経なくても、建物の建て替えが進行してゆくことになります。

3、再開発手続きにおける清算金と分担金

再開発区域内の地権者は本組合設立認可及び事業計画認可公告から1か月目の日までに、「権利変換を希望しない旨の申し出」をすることができます(都再法71条1項)。

都市再開発法71条(権利変換を希望しない旨の申出等) 1項 個人施行者若しくは再開発会社の施行の認可の公告、第十九条第一項の規定による公告若しくは事業計画の決定若しくは認可の公告(第六項において「施行認可の公告等」という。)又は前条第六項の規定による公告があつたときは、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について所有権若しくは借地権を有する者又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、第八十七条又は第八十八条第一項及び第二項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨を申し出ることができる。

都市再開発法71条1項の申し出を行い、権利変換を希望せず、地区外退去を選択した場合には、権利変換期日に、区域内の土地建物の権利を喪失し、代わりに、当該土地建物に対応する評価額の都市再開発法91条1項の補償金を受領することができます。

逆に言えば、申し出期限までに、権利変換を希望しない旨の申し出を行わなかった場合には、権利変換計画に従い、従前権利に対応する建て替え後のビルの権利を取得できることになります(都市再開発法77条1項)。

権利変換計画書の書式を御案内致します。

https://www.shinginza.com/db/kenrihenkan.pdf

上記のように権利変換計画書は、従前資産の特定と評価額が記載されており、再建築後の新建物の特定と価額も記載されています。従前資産と従後資産には等価原則が法定されており(都再法77条2項)、従前資産が等価で従後資産に移行すべきことが定められています。

都市再開発法77条(施設建築物の一部等)抜粋

1項 権利変換計画においては、第七十一条第一項の申出をした者を除き、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について借地権を有する者及び施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。

2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

これらの規定に従い、従前資産と従後資産の価額がぴったり一致している権利変換計画を定める再開発事業も多くあります。同じ床面積であっても、方位や階高によって権利の価額が異なることがあり、それらの相違を調整することにより、このような権利変換計画を実現させているのです。

他方、これらの微調整では対応しきれない部分について、一部の再開発事業では、清算金として、従前資産評価額が、従後資産価格を上回る部分(権利変換しきれず余る部分)について、権利変換期日後に交付することを定めている再開発事業もありますし、再開発後の従後資産価額が従前資産価額を上回る場合は逆に地権者の分担金・賦課金を徴収することで、過不足を補っている事例もあります。地権者が分担金を支払うということは、いわゆる「増し床分担金」を負担していることになります。従前資産価額を上回る権利の割り当てを受けることになります(過小床の増し床について都再法79条1項)。

都市再開発法104条では、建て替え完了後の清算について規定しており、事業計画及び権利変換計画に定められた価額と、実際の事業に要した価額との間に過不足がある時は、組合員に徴収したり、残余金を交付したりすることが定められています。通常は、残余金がでる形となっており、建物完成後のビルの管理組合の修繕積立金会計などに組み入れられることが多くなっています。

都市再開発法79条(床面積が過小となる施設建築物の一部の処理)

1項 権利変換計画を第七十四条第一項の基準に適合させるため特別な必要があるときは、第七十七条第二項又は第三項の規定によれば床面積が過小となる施設建築物の一部の床面積を増して適正なものとすることができる。この場合においては、必要な限度において、これらの規定によれば床面積が大で余裕がある施設建築物の一部の床面積を減ずることができる。

39条(経費の賦課徴収)

1項 組合は、その事業に要する経費に充てるため、賦課金として参加組合員以外の組合員に対して金銭を賦課徴収することができる。

2項 賦課金の額は、組合員が施行地区内に有する宅地又は借地の位置、地積等を考慮して公平に定めなければならない。

3項 組合員は、賦課金の納付について、相殺をもつて組合に対抗することができない。

4項 組合は、組合員が賦課金の納付を怠つたときは、定款で定めるところにより、その組合員に対して過怠金を課することができる。

104条(清算)

1項 前条第一項の規定により確定した施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権の価額とこれを与えられた者がこれに対応する権利として有していた施行地区内の宅地、使用収益権又は建築物の価額とに差額があるときは、施行者は、その差額に相当する金額を徴収し、又は交付しなければならない。同項の規定により確定した施設建築敷地の地代の額と第八十八条第一項ただし書の規定により支払つた地代の概算額とに差額があるときも、同様とする。

2項 第九十九条の二第三項の規定により特定建築者が特定施設建築物の一部を取得する場合においては、施行者は、特定建築者が取得する部分以外の部分に係る特定施設建築物の整備に要した費用の額を政令で定めるところにより確定し、当該費用の額と第九十九条の六第二項の規定による譲渡の対価の額とに差額があるときは、その差額に相当する金額を徴収し、又は交付しなければならない。

4、清算金の交付が違法となる場合

従って、都市再開発法では、第一種市街地再開発事業の権利変換計画において一定の過不足を生じることは法があらかじめ予定していることであると言えますが、清算金として交付される価額がどの程度になった場合に違法性を帯びることになるのでしょうか。この点については、法令の定めも存在せず、判例もありませんので、法令解釈と、財産権保障に関する他分野の裁判例などを参考に考えていくことが必要になります。

(1)明確に違法性を帯びるケース

これは例えば、従前資産評価額の半分を超える金額が建物に権利変換されずに、清算金として交付されるようなケースが考えられます。前述の通り、地権者には、地区外退去をするかどうかについて選択権が与えられており(都再法71条1項)、事業計画認可公告から30日目までに権利変換希望しない旨の申し出を行わなかった場合は、権利変換(再開発ビルの権利取得)を希望していることになり、この地権者の意思に反して強制的に地区外退去させることは都市再開発法77条1項違反で権利変換計画が違法であるとの主張が可能となります。地区外退去の意思表示をしていないのに、従前権利の半分を超える価額が清算金として現金交付される場合は、事実上地区外退去を強制されているのと同じことになり、手続きに違法があり、権利変換は無効であるとの主張も可能と考えられます。

(2)財産権侵害に関する違憲審査基準

憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し私有財産制による財産権保障を宣言しておりますが、同時に同条2項で「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定しており、私有財産制が保障され、原則として私的財産権は保障されるが、どのような場合に財産権の制約が適法とされるのか、法解釈が必要になります。これは再開発の場面で言えば、従前権利者が建て替えを強制されず、自分の権利を100パーセントそのまま保持できるのが原則ということになり、例外的に公共の福祉の制約により権利が制限されることがあるということになります。

再開発の清算金について正面から判断した裁判例は見当たりませんが、他の分野で財産権保障の例外について判断しているものがありますので御紹介致します。森林法は、「森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的と」して、種々の規制を定めているものですが、その中に共有物分割請求の制限規定があり、これが憲法29条1項に違反するのではないか問題となった事件でした。以下、当該判決を「森林法違憲判決」として解説を加えていくことに致します。

森林法(昭和62年法律第48号による改正前)

第186条(共有林の分割請求の制限)森林の共有者は、民法第256条第1項(共有物の分割請求)の規定にかかわらず、その共有に係る森林の分割を請求することができない。但し、各共有者の持分の価額に従いその過半数をもつて分割の請求をすることを妨げない。

第1条(この法律の目的)この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする。
※最高裁判所昭和62年4月22日森林法違憲判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/055203_hanrei.pdf

『(一) 森林が共有となることによつて、当然に、その共有者間に森林経営のための目的的団体が形成されることになるわけではなく、また、共有者が当該森林の経営につき相互に協力すべき権利義務を負うに至るものではないから、森林が共有であることと森林の共同経営とは直接関連するものとはいえない。したがつて、共有森林の共有者間の権利義務についての規制は、森林経営の安定を直接的目的とする前示の森林法一八六条の立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、合理的関連性があるとはいえない。

森林法は、共有森林の保存、管理又は変更について、持分価額二分の一以下の共有者からの分割請求を許さないとの限度で民法第三章第三節共有の規定の適用を排除しているが、そのほかは右共有の規定に従うものとしていることが明らかであるところ、共有者間、ことに持分の価額が相等しい二名の共有者間において、共有物の管理又は変更等をめぐつて意見の対立、紛争が生ずるに至つたときは、各共有者は、共有森林につき、同法二五二条但し書に基づき保存行為をなしうるにとどまり、管理又は変更の行為を適法にすることができないこととなり、ひいては当該森林の荒廃という事態を招来することとなる。同法二五六条一項は、かかる事態を解決するために設けられた規定であることは前示のとおりであるが、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に民法の右規定の適用を排除した結果は、右のような事態の永続化を招くだけであつて、当該森林の経営の安定化に資することにはならず、森林法一八六条の立法目的と同条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を否定したこととの間に合理的関連性のないことは、これを見ても明らかであるというべきである。

(二) (1) 森林法は森林の分割を絶対的に禁止しているわけではなく、わが国の森林面積の大半を占める単独所有に係る森林の所有者が、これを細分化し、分割後の各森林を第三者に譲渡することは許容されていると解されるし、共有森林についても、共有者の協議による現物分割及び持分価額が過半数の共有者(持分価額の合計が二分の一を超える複数の共有者を含む。)の分割請求権に基づく分割並びに民法九〇七条に基づく遺産分割は許容されているのであり、許されていないのは、持分価額二分の一以下の共有者の同法二五六条一項に基づく分割請求のみである。

共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に分割請求権を認めた場合に、これに基づいてされる分割の結果は、右に述べた譲渡、分割が許容されている場合においてされる分割等の結果に比し、当該共有森林が常により細分化されることになるとはいえないから、森林法が分割を許さないとする場合と分割等を許容する場合との区別の基準を遺産に属しない共有森林の持分価額の二分の一を超えるか否かに求めていることの合理性には疑問があるが、この点はさておいても、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者からの民法二五六条一項に基づく分割請求の場合に限つて、他の場合に比し、当該森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図らなければならない社会的必要性が強く存すると認めるべき根拠は、これを見出だすことができないにもかかわらず、森林法一八六条が分割を許さないとする森林の範囲及び期間のいずれについても限定を設けていないため、同条所定の分割の禁止は、必要な限度を超える極めて厳格なものとなつているといわざるをえない。

まず、森林の安定的経営のために必要な最小限度の森林面積は、当該森林の地域的位置、気候、植栽竹木の種類等によつて差異はあつても、これを定めることが可能というべきであるから、当該共有森林を分割した場合に、分割後の各森林面積が必要最小限度の面積を下回るか否かを問うことなく、一律に現物分割を認めないとすることは、同条の立法目的を達成する規制手段として合理性に欠け、必要な限度を超えるものというべきである。

また、当該森林の伐採期あるいは計画植林の完了時期等を何ら考慮することなく無期限に分割請求を禁止することも、同条の立法目的の点からは必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。

(2) 更に、民法二五八条による共有物分割の方法について考えるのに、現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであり、また、分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、これらの不動産が外形上一団とみられるときはもとより、数か所に分かれて存在するときでも、右不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許されるものというべきところ、かかる場合においても、前示のような事態の生じるときは、右の過不足の調整をすることが許されるものと解すべきである(最高裁昭和二八年(オ)第一六三号同三〇年五月三一日第三小法廷判決・民集九巻六号七九三頁、昭和四一年(オ)第六四八号同四五年一一月六日第二小法廷判決・民集二四巻一二号一八〇三頁は、右と抵触する限度において、これを改める。)。また、共有者が多数である場合、その中のただ一人でも分割請求をするときは、直ちにその全部の共有関係が解消されるものと解すべきではなく、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許されるものと解すべきである。

以上のように、現物分割においても、当該共有物の性質等又は共有状態に応じた合理的な分割をすることが可能であるから、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、同条二項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがつて、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に一律に分割請求権を否定しているのは、同条の立法目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。

五 以上のとおり、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に民法二五六条一項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法一八六条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであつて、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。したがつて、同条は、憲法二九条二項に違反し、無効というべきであるから、共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者についても民法二五六条一項本文の適用があるものというべきである。』

この最高裁判決は、個別事件を解決するための法解釈と判断を示したものですが、憲法における経済的自由権、財産権保障のあり方についての次のような基本的な考え方、法規範を示しているものと解釈することもできます。

(あ)規制目的の適法性

森林法違憲判決では、明示的に判断しているものではありませんが、森林法の規制目的がそもそも相当なものであり適法なものである必要があります。規制目的が違法であれば、規制内容を論じるまでも無く、規制を定めた手続きが違法ということになってしまうからです。森林法では、第1条で「この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする。」という制度趣旨が規定されており、この目的の適法性に問題は無いと考えられます。

(い)規制目的と規制手段の合理的関連性

森林法違憲判決によれば、「森林が共有となることによつて、当然に、その共有者間に森林経営のための目的的団体が形成されることになるわけではなく、また、共有者が当該森林の経営につき相互に協力すべき権利義務を負うに至るものではないから、森林が共有であることと森林の共同経営とは直接関連するものとはいえない。したがつて、共有森林の共有者間の権利義務についての規制は、森林経営の安定を直接的目的とする前示の森林法一八六条の立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、合理的関連性があるとはいえない。」と判示されており、規制目的と規制手段との間には、合理的関連性の関係があることが必要であると解されています。共有物分割請求があっても、現物分割にしたり、一括競売して償金分割にしたりすれば、森林の細分化を防ぐことはできるのだから、一律に共有物分割請求を禁止してしまうことには合理性が無いという判旨でした。

私有財産制で保障されている私的財産権が制約を受けるのですから、合理的な目的が必要であり、しかも、その規制を行うことにより、目的が達成されるという合理的関連性の関係があることが要求されているのです。その関係は、単なる「関連性」では足りず、目的を達成できるような合理的関連性が必要であるとされたのです。

(う)規制手段の必要限度論

森林法違憲判決では、「現物分割においても、当該共有物の性質等又は共有状態に応じた合理的な分割をすることが可能であるから、共有森林につき現物分割をしても直ちにその細分化を来すものとはいえないし、また、同条二項は、競売による代金分割の方法をも規定しているのであり、この方法により一括競売がされるときは、当該共有森林の細分化という結果は生じないのである。したがつて、森林法一八六条が共有森林につき持分価額二分の一以下の共有者に一律に分割請求権を否定しているのは、同条の立法目的を達成するについて必要な限度を超えた不必要な規制というべきである。」と判示されており、適法な規制目的があり、合理的関連性のある規制手段があるとしても、その規制手段は、必要最小限度に留められるべきであるとの考え方が示されています。

この考え方は、「LRAの基準」と呼ばれたり、「比例原則」と呼ばれたりしますが、要するに、原則として保護されるべき権利を例外的に制約するのであるから、むやみやたらに制約するのではなく、規制目的と手段に照らして、権利者の不利益を最小限度にするようなものが選択されなければならないという法規範を示しています。

LRAの基準は、Less Restrictve Alternatives つまり、規制目的を達するための、より制限的でない選択肢が存在しない場合に合憲とする審査基準になります。

比例原則は、「雀を撃つのに大砲を使ってはならない」「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん」という格言を、行政処分や権利制限の場面で適法性の基準として用いている考え方です。達成されるべき目的とそのために取られる手段としての権利の制約との間に均衡を要求する原則です。規制目的に対して制約の程度が比例的に大きすぎないことが要求されます。森林法違憲判決では、森林の細分化を防止する目的であれば、共有物分割の方法について細かい規制を定めれば済むことであり、共有物分割請求そのものを一律で禁止するのは最小限度を超えて違法であると判断していることになります。

(3)再開発における清算金交付事案への適用

上述のように、区域内地権者には、「権利変換を希望しない旨の申し出」をする権限が与えられており、地区外退去をするかどうかを選択することができますので、事実上強制的に地区外退去になってしまうような、多額の清算金を交付するような権利変換計画が違法であることは明白ですが、権利の半分以下の清算金、例えば、権利の1割とか、数パーセント程度の清算金の交付が予定されている場合にはどうなるでしょうか。前記の違憲審査基準を、再開発の清算金交付の場面に当てはめて考えてみましょう。

(あ)規制目的の適法性

都市再開発法では、第一条で「この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」と規定されており、これは、木造密集区域の地震や火災の際の危険性を低減させるため、また、商業機能の向上による国民経済の増進という目的であると解釈されており、これらの目的に違法性は無いと考えられています。

(い)規制目的と規制手段の合理的関連性

これは、区域内地権者が所有する従前資産の全てが権利変換されず、従前資産の全部を再開発ビルの権利として取得できず、一部を現金として交付されることが、前記の目的達成のための合理的関連性のある手段といえるかどうか、という問題となります。

再開発手続きを進行させるために合理的な手段として考えられることは、区域内の地権者が強制的に立ち退きさせられ、建て替え手続きに参加させられることが挙げられます。建て替えを強制されることについては、再開発手続きを進行させる以上、どうしても外すことのできない制約ということになります。区域内の一括建て替えを進行させるには、区域内の建物は全て除却しなければなりませんので、地権者の立ち退きは避けることが出来ません。

他方、区域内の地権者が従前資産の評価を受けて、その権利を、区域内の再開発ビルの権利として受領するか、補償金として受領するかは、ビルの建設のためには、どちらでも差し支えないことになり、この点について、地権者を強制することは合理的関連性が無いことになります。だからこそ、都市再開発法71条1項では、地区外退去の申し出をするかどうかの選択権を全地権者に与えていることになります。この地権者の選択は尊重されなければなりません。

つまり、再開発手続きにおいて、区域内地権者は、「建て替え以外のことは強制されない」と考えることができます。都市再開発法の制度趣旨と目的が、都市機能の更新による公共の福祉増進にあるのですから、建て替えをすることは必須になりますが、それ以外のことを地権者に強制する必要は無いことになります。

従って、権利変換計画において、ビルの建て替えに支障が無いのであれば、権利変換(再入居)を希望する地権者に清算金を交付して、建て替えビルの権利を与えない処分は、合理的関連性を欠いているおそれがあることになります。

(う)規制手段の必要限度論

再開発の権利変換計画の内容で、一部の地権者に数百万円の清算金を交付し、再開発ビルの床面積を与えないこととする処分は、規制目的を達成するための必要最小限度の規制に収まっているでしょうか。

例えば、清算金の額が、100万以下の端数調整の範囲内であれば、数千万円の従前権利のほとんどは権利変換されるのであり、ビルの設計上または、権利変換計画策定上の、技術的な問題により、1円の端数まで従前権利と従後資産を対応させることが難しい場合に、従前資産のごく一部を建物として権利変換せず、清算金として交付することもやむを得ないものと考えることができます。

通常の不動産売買とは異なり、再開発ビルの場合は、ビルをゼロから設計するのであり、区域内地権者の従前資産は多種多様なものがあり、それぞれの従前資産評価額も高低様々ですが、それぞれの地権者の権利変換の意向調査を事前に詳細に行うなどすれば、ビルの設計を調整することにより、従前資産のほとんど全てを権利変換させるような計画を策定することは不可能ではありませんし、難しいことでもありません。

従って、権利変換を希望する地権者には原則として従前資産の全てを再開発ビルの床面積に権利変換させるべきですが、端数処理などのために、一部の地権者に対して清算金を交付する必要を生じたとしても、その清算金は従前資産との対比において「必要最小限度」に留められるべきであると解釈することができます。

(4)御相談の事例における価値判断

御相談の事例では、「清算金として800万円が交付される」という権利変換計画案が策定されているということですが、これが必要最小限度のやむを得ない程度に収まっていると言えるかどうか、従前資産評価額についても伺って判断する必要があります。

800万円という金額であれば、権利床として権利変換することも可能な金額と考えることが出来ますから、なぜ、組合は、800万円を地権者に清算金として交付し、他方で、保留床として参加組合員に譲渡するのか、ということが合理的に説明できる必要があります。

一般論となりますが、この800万円という金額は数万円程度の端数処理を大きく超えた金額ですので、地区外退去の申し出をしていないにも関わらず、このように強制的に清算金を交付して、再開発ビルの床面積に権利変換を認めないこととしている処分は違法である可能性があります。

5、清算金を回避するための対策

このように、清算金の交付に関する裁判例の集積はありませんし、法律の条文には明示されていないことですから、一部の再開発組合では、合理的な理由もなく、一部の地権者に清算金を交付する取り扱いが行われていることも多くあるようです。組合事務局に問い合わせても、「清算金処理は都市再開発法で認められた合法的処理である」などと回答されてしまうこともあるようです。この問題を考える時には、都市再開発法の表面的な条文を読むだけでは足りません。憲法が保障する私有財産制と経済的自由権保障とその例外について、違憲審査基準も含めて良く理解してないと判断を誤ることになってしまいます。

権利床の坪単価は、敷地を提供する地権者として取得する坪単価ですので、一般的に市場価格よりも大幅に安く見積もりされており、権利床を取得できないということは、それを市場価格で売却できたと仮定した場合の市場価額との差額分の具体的損失を被っていることになります。

他方、地権者が取得できなかった権利床は保留床に充当され、参加組合員が分担金の対価として原価で取得し、ビル完成後に分譲して市場価格で売却して差額の収益を得ることができますので、地権者と参加組合員との間の不公平を生じている恐れもあります。

ご相談者様のように、区域内地権者の立場では、権利変換計画の原案を作成する段階で、地権者の意向調査がなされるときに、「全ての従前資産について権利変換を希望する」、「清算金の交付は不利益処分であるので拒否する」ことを明確に意思表示として組合に通知しておく必要があります。証拠を残す必要がありますので、権利変換の意向調査は「内容証明郵便」の形式で送付することも御検討なさって下さい。そのうえで、清算金交付の噂があり御心配であるということなら、予め代理人弁護士から法的主張として、従前資産評価額や権利変換の内容について、法的主張を送付しておく手段も考えられます。

そして、実際に本組合が設立され、権利変換計画案が2週間の縦覧に付されたときは、手続きの不当性を主張する「権利変換意見書」を提出して、清算金の定めを削除し、全面的に権利変換を受けられるように主張することが必要です。清算金の交付が違法である旨の法的主張を意見書として提出した場合は、組合も簡単には、計画を押し通すことが難しくなります。最終的には建物除却に先立って明け渡し請求の場面で何等かの合意が必要となりますので、あきらめずに手続きの不当性を主張し続けることが必要です。お困りの場合は一度再開発手続きに経験のある弁護士事務所に御相談なさってください。

以上

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参照条文
都市再開発法73条(権利変換計画の内容)

1項 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 配置設計

二 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

三 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

四 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額

五 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

六 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利

七 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所

八 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額

九 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額

十 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利

十一 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利

十二 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について賃借権を有する者(その者が更に賃借権を設定しているときは、その賃借権の設定を受けた者)又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者から賃借権の設定を受けた者で、当該賃借権に対応して、施設建築物の一部について賃借権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所

十三 前号に掲げる者に賃借権が与えられることとなる施設建築物の一部

十四 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について配偶者居住権を有する者(その者が賃借権を設定している場合を除く。)で、当該配偶者居住権に対応して、施設建築物の一部について配偶者居住権を与えられることとなるものの氏名及び住所並びにその配偶者居住権の存続期間

十五 前号に掲げる者に配偶者居住権が与えられることとなる施設建築物の一部

十六 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要

十七 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要

十八 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額

十九 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額

二十 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所

二十一 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所

二十二 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法

二十三 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項

二十四 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期

二十五 その他国土交通省令で定める事項

2項 宅地(指定宅地を除く。)について所有権又は借地権を有する者が当該宅地の上に建築物を有する場合において、当該宅地、借地権又は建築物について担保権等の登記に係る権利があるときは、これらの宅地、借地権又は建築物は、それぞれ別個の権利者に属するものとみなして権利変換計画を定めなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 担保権等の登記に係る権利の消滅について関係権利者の全ての同意があつたとき。

二 宅地と建築物又は借地権と建築物とが同一の担保権等の登記に係る権利の目的となつており、かつ、それらの全ての権利の順位が、宅地と建築物又は借地権と建築物とにおいてそれぞれ同一であるとき。

3項 借地権の設定に係る仮登記上の権利(指定宅地に係るものを除く。)があるときは、仮登記権利者が当該借地権を有する場合を除き、宅地の所有者が当該借地権を別個の権利者として有するものとみなして、権利変換計画を定めなければならない。

4項 宅地又は建築物(指定宅地に存するものを除く。)に関する権利に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。ただし、借地権以外の宅地(指定宅地を除く。)を使用し、又は収益する権利の存否が確定しない場合にあつては、その宅地の所有者に対しては、当該権利が存しないものとして、その者に与える施設建築物の一部等を定めなければならない。